説明

難燃性ポリオレフィン組成物

少なくとも1種のポリオレフィンと、臭素化難燃剤と、フリーラジカル開始剤と、アンチモン化合物、スズ化合物、モリブデン化合物、ジルコニウム化合物、ホウ素化合物、亜鉛化合物およびこれらの混合物からなる群から選択される協力剤0.1phr超0.5phr以下とを含む組成物。この組成物は、わずかに非常に少量の協力剤を含み、非常に良好な難燃性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリオレフィン組成物、ポリオレフィンの難燃性を改善する方法、およびポリオレフィンの難燃性を増大させるために用いることができるマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼は、ほとんど専ら気相の現象である。したがって、固体が燃焼するためには、揮発されなければならない。ポリマー化合物の場合において、このことは、それらが分解されることにより気体または液体の低分子量の生成物を生成しなければならないことを意味する。次いで、これらの生成物は燃料として作用し、さらなる分解を引き起こすことができる。
【0003】
難燃剤は、一般に、このサイクルを遮るためにポリマーに添加される。例えば、臭素化難燃剤は、燃焼過程における連鎖成長ステップおよび連鎖分岐ステップと競合するフリーラジカル化学種に分離すると考えられる(2004年9月17日にオンライン発行された、Kirk Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、11巻、455〜456頁における、A.G.Marck、「Flame retardants,halogenated」)。
【0004】
ポリマーの引火性は、一般に、アンダーライターズラボラトリーのUL94 Standard for Safetyに従って試験される。このUL94の試験により、樹脂の着火性が小火炎を用いて測定される。この試験によれば、定義された大きさの試料が垂直に取り付けられ、ブンゼンバーナーを用いて着火される。火炎ドリップについての試験のための試料の下には、綿の層が置かれる。火炎を10秒間当てる。要するに、V−0の評価は、火炎を当てた後に10秒間より長く燃焼する試料がなく、綿が着火され得ない場合に得られ、V−1の評価は、30秒間より長く燃焼する試料がなく、綿が着火され得ない場合に得られ、V−2の評価は、30秒間より長く燃焼する試料がなく、綿が着火され得る場合に得られる。
【0005】
引火性をさらに低減し、したがってより良好なUL94の評価を得るために、臭素化有機化合物は、一般に、Sbまたはホウ酸亜鉛等の協力剤と混合される。
【0006】
しかし、このような協力剤は一般に白色なので、協力剤を多く充填することは最終製品の着色を困難にするため、このような協力剤を大量に使用することは望ましくない。
【0007】
協力剤の量を低減するために、有機過酸化物またはC−C開始剤等のフリーラジカル開始剤を添加することが知られている。
【0008】
例えば、GB2085898は、ポリオレフィンと、難燃剤として芳香族臭化炭化水素、より詳細にはデカブロモジフェニルオキシドと、協力剤として2.5phrのSbと、C−C開始剤とを含有する組成物を開示している。V−0の評価は、この文献において開示されている試料では得られない。
【0009】
EP0200217およびEP0154946において開示されている組成物は、ポリプロピレン、難燃剤としてのメラミンブロモハイドレート、および2,5−ジフェニル−2,3−ジメチルブタン(C−C開始剤)、ならびに/またはSb等の協力剤を含有する。非常に大量の酸化アンチモン(10重量%)を含む場合にのみ、V−0の評価が得られる。
【0010】
GB1270318は、難燃剤1,2,4,6,79,10−ヘキサブロモシクロドデカン、協力剤Sb、アルカンポリオール(例えば、ペンタエリトリトール)、およびC−C開始剤ジクミルを含むポリプロピレン組成物を開示している。この文献において、これらの組成物の難燃性の度合に関する情報は与えられない。
【0011】
US3850882は、C−C開始剤ビクミル、および協力剤としての酸化第二スズまたはSbと合わせた、難燃剤としてのペンタブロモトルエンまたはヘキサブロモビフェニルを含むポリプロピレン組成物を開示している。
【0012】
EP1239005は、ポリオレフィン、トリス(トリブロモネオぺンチルホスフェートおよびフリーラジカル源を含む組成物を開示している。しかし、この組成物が大量(少なくとも約4pbw)のSbをさらに含有していたときにのみ、V−0の評価が得られた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
先行技術において用いられている量よりも著しく少ない量の協力剤でV−0の評価を得ることが可能なことを、本発明において見出した。
【0014】
本発明による組成物は、少なくとも1種のポリオレフィンと、臭素化難燃剤と、フリーラジカル開始剤と、アンチモン化合物、スズ化合物、モリブデン化合物、ジルコニウム化合物、ホウ素化合物および亜鉛化合物からなる群から選択される0.1〜0.5phr(=パーハンドレッドレジン)の協力剤とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
適切なポリオレフィンの例には、プロピレン、エチレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、2−メチルプロペン、2−メチルブテン、4−メチルペンテン、4−メチルヘキセン、5−メチルヘキセン、ビシクロ(2,2,1)−2−ヘプテン、ブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、3,1−メチルペンタジエン、1,3,4−ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキセン、シクロペンタジエン、スチレンおよびメチルスチレンの、1種または複数のモノマーから得られるホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。好ましいポリオレフィンは、アタクチック、シンジオタクチックならびにアイソタクチックなポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンおよびプロピレンのブロックコポリマー、ならびにエチレンおよびプロピレンのランダムコポリマーを含む、ポリプロピレンおよびポリエチレンである。最も好ましいポリオレフィンは、ポリプロピレンである。
【0016】
組成物は、1種のみのホモポリマーまたはコポリマーを含有することができるが、ホモポリマー混合物、コポリマー混合物、およびホモポリマー−コポリマー混合物を含有することもできる。ポリオレフィンは、成形用、繊維用、膜用または押出用であることができる。
【0017】
適切な臭素化難燃剤の例は、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモシクロドデカン、トリス(トリブロモネオペニル)ホスフェート、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、デカブロモジフェニルオキシド、トリス(トリブロモフェニル)シアヌレート、トリス−ジブロモプロピルイソシアヌレートおよびこれらの混合物である。
【0018】
本発明による組成物中の臭素化難燃剤の量は、好ましくは少なくとも0.5phr(=パーハンドレッドレジン)、より好ましくは少なくとも1phr、最も好ましくは少なくとも2phrである。組成物中の臭素化難燃剤の量は、好ましくは20phr以下、より好ましくは10phr以下、最も好ましくは8phr以下である。
【0019】
適切なフリーラジカル開始剤の例は、有機過酸化物およびC−C開始剤である。好ましくは、フリーラジカル開始剤は、少なくとも130℃、より好ましくは少なくとも150℃、最も好ましくは155℃超の0.1時間半減期温度を有する。
【0020】
適切な有機過酸化物の例は、1,1−ジ(tert.ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(tert−アミルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタンおよびブチル4,4−ジ(tert−ブチルペルオキシ)バレレート等の過酸化ケタール、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネートまたはt−ブチルペルオキシ2−エチルヘキシルカーボネート等の過酸化モノ炭酸塩、ジ−t−アミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3またはジ−t−ブチルペルオキシド等の過酸化ジアルキル、tert−アミルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−アミルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシアセテートまたはt−ブチルペルオキシベンゾエート等の過酸化エステル、ヘキシレングリコールヒドロペルオキシド、イソプロピルクミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、1,3−ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシドまたはtert−アミルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド、ジ(3,5,7,7−テトラメチル−1,2,4トリオキセパン−3−イル)メタン等のWO2006/066984に開示されているトリオキセパン、ならびに3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリペルオキソナン等のWO96/03444に開示されている過酸化環状ケトンである。
【0021】
適切なN−O開始剤の例は、ヒドロキシルアミンエステル、およびWO2006/027327に開示されているN−O開始剤である。
【0022】
適切なN−N開始剤の例は、2,2−アゾジ(イソブチロニトリル)、1,1−アゾジ(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2−アゾジ(2−メチルブチロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2−アゾジ(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリルまたは2,2−アゾジ(2−メチル−プロパン)である。
【0023】
適切なC−C開始剤の例は、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニル−ブタン、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニル−ヘキサンおよびポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンである。
【0024】
本発明による組成物中において使用するために最も好ましいフリーラジカル開始剤は、C−C開始剤であり、そのうちで、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニル−ブタンが最も好ましい。
【0025】
フリーラジカル開始剤は、好ましくは少なくとも0.05phr、より好ましくは少なくとも0.1phr、なおより好ましくは少なくとも0.25phr、最も好ましくは0.5phr超の量で、本発明による組成物中に存在する。組成物中のフリーラジカル開始剤の量は、好ましくは2phr以下、より好ましくは1.5phr以下である。
【0026】
本発明による組成物は、いわゆる協力剤、すなわち、フリーラジカル開始剤とは別で、臭素化難燃剤の量を低減させて組成物中の臭素量をより少なくする化合物をさらに含み、これは、組成物をより経済的にする。しかし、ごく少量の協力剤が、本発明による組成物中において用いられる。
【0027】
協力剤は、本発明による組成物中において、0.1phrを上回り、0.5phr以下、好ましくは0.5phr未満、より好ましくは0.4phr以下、最も好ましくは0.3phr以下の量で存在する。
【0028】
協力剤は、アンチモン化合物(例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモンおよび/またはアンチモン酸ナトリウム)、スズ化合物(例えば、酸化スズ、水酸化スズおよび/またはジブチルスズマレエート)、モリブデン化合物(例えば、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム)、ジルコニウム化合物(例えば、酸化ジルコニウムおよび/または水酸化ジルコニウム)、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸亜鉛および/またはメタホウ酸バリウム)、スズ酸亜鉛等の亜鉛化合物、および2種以上のこれらの化合物の混合物からなる群から選択される無機金属化合物である。
【0029】
最も好ましい協力剤は、三酸化アンチモンである。
【0030】
本発明による組成物は、紫外線安定剤および光安定剤(例えば、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、またはアルコキシアミン官能化ヒンダードアミン(NOR−HALS)であるHALS)、UV遮断剤(例えばTiO)、UV吸収剤(例えば、ベンゾトリアゾールまたはベンゾフェノン)、離型剤、潤滑剤、着色剤、可塑剤、充填剤(例えば、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、カーボンブラック)、繊維強化材(例えば、ガラス繊維または炭素繊維)、発泡剤、熱安定剤、抗酸化剤、耐衝撃性改良剤、加工助剤、ならびに化合物の導電性を改善するための添加剤等の、当技術分野において公知のさらなる添加剤をさらに含むことができる。
【0031】
その非常に安定で良好な機械的特性により、本発明による組成物を多くの用途において用いることができる。このような用途の非限定的な例は、織物、カーペット、室内装飾材のための繊維、屋外競技場の座席等の注入品、電気部品(コネクタ、断路器およびソケット)および電気器具、異形材、パイプ、構造パネル、屋根ふき材用シート等の押出品、包装および工業のためのフィルムおよび板、ケーブルおよび電線のための絶縁である。
【実施例】
【0032】
実施例1〜7および比較例A〜L
本発明による組成物(試料1〜7)および比較の組成物(試料A〜L)を、3g/10分のメルトフローインデックスをもつポリプロピレンホモポリマー(ホモ−PP)またはエチレンプロピレンコポリマー(co−PP)と、トリス−ジブロモプロピルイソシアヌレート(FR−930)と、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニル−ブタン(Perkadox(登録商標)、Px30)と、三酸化アンチモンと、ホウ酸亜鉛とを、表1に(phrで)示す量で用いて調製した。これらの試料を、50cmの混合室を用いて180℃で調製した。他の成分を添加する前に、まず、PPを溶融させた。全混合時間を15分とした。調製された試料を、200℃で圧縮成形し、厚さ2mmのシートにした。これらのシートから、UL94の試験のための試料を調製した。
【0033】
これらの組成物の2.0mmの試料のUL94引火性試験結果(5回の試験の平均)も、表1に示す。
【0034】
このデータは、かなり少量の協力剤の添加で、難燃剤およびフリーラジカル開始剤を含有するポリオレフィン組成物の難燃性を改善することができることを示している。わずかに0.25phrの三酸化アンチモンの添加により、すでにV−0の評価が得られた。また、わずかに0.25のホウ酸亜鉛の添加により、組成物の引火性が非常に低減された。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例8〜9および比較例M〜O
ポリマーの着色に対する協力剤濃度の影響を例証するために、Hostatint Blueで着色したポリプロピレンと、異なる量のSbおよびPerkadox(登録商標)30とを含む組成物を調製した(表2を参照されたい)。
【0037】
Sb2phrを添加すると、色が暗青色から明青色に変化した。1重量%のPx30および0.25または0.5重量%のSbの添加によっても、色の変化を生じたが、Sb2phrの添加より、あまり著しくなかった。FR930の添加は、化合物の色に影響を与えなかった。
【0038】
顔料は、UL94の分類に影響を与えなかった(表2を参照されたい)。
【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリオレフィンと、臭素化難燃剤と、フリーラジカル開始剤と、アンチモン化合物、スズ化合物、モリブデン化合物、ジルコニウム化合物、ホウ素化合物、亜鉛化合物およびこれらの混合物からなる群から選択される0.1phr超0.5phr以下の協力剤とを含む組成物。
【請求項2】
協力剤がSbである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
臭素化難燃剤が2〜8phrの量で存在する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
フリーラジカル開始剤が0.05〜2phrの量で存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ポリオレフィンがポリプロピレンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
フリーラジカル開始剤が2,3−ジメチル−2,3−ジフェニル−ブタンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
臭素化難燃剤が、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモシクロドデカン、トリス(トリブロモネオペニル)ホスフェート、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、デカブロモジフェニルオキシド、トリス(トリブロモフェニル)シアヌレート、トリス−ジブロモプロピルイソシアヌレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
UL94の引火性試験においてV−0と評価される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
臭素化難燃剤と、フリーラジカル開始剤と、アンチモン化合物、スズ化合物、モリブデン化合物、ジルコニウム化合物、ホウ素化合物および亜鉛化合物からなる群から選択される協力剤0.1から0.5phr(=パーハンドレッドレジン)とを、ポリオレフィンに添加することによって、ポリオレフィン組成物の難燃性を改善する方法。

【公表番号】特表2012−500881(P2012−500881A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524376(P2011−524376)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061032
【国際公開番号】WO2010/023236
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】