説明

難燃性ポリプロピレン樹脂組成物

【課題】燃焼時のドリップ防止性、外観等に優れ、かつ少ない難燃剤の配合量で優れた難燃性を有する難燃性ポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】MFRが0.1〜80g/10分、アイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上の結晶性ポリプロピレン樹脂(A)60〜99重量%及び(i)〜(vi)に規定する要件を満たすプロピレン系重合体(B)1〜40重量%からなるポリプロピレン樹脂成分100重量部に対して、ノンハロゲン系難燃剤(C)10〜50重量部含有することを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物など。
(i)MFRが0.1〜100g/10分
(ii)Q値が3.5〜10.5
(iii)分子量(M)が200万以上の成分の比率が0.4〜10重量%未満
(iv)TREFにおいて、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下
(v)mmが0.95以上
(vi)歪硬化度が6.0以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリプロピレン樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、特定の長鎖分岐型プロピレン系重合体を、リン酸塩系難燃剤などのノンハロゲン系難燃剤と共にポリプロピレン樹脂に、特定量配合してなる難燃性ポリプロピレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
難燃性ポリプロピレンは、比較的少量で難燃性を発現でき、ポリプロピレン樹脂の有利な性能を損ない難いという利点から、ハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物からなる難燃剤組成物を配合することが広く行われている。
しかしながら、燃焼時にはハロゲンガスが発生する問題があるため、ハロゲンを含まないいわゆるノンハロゲン系難燃剤の使用も、検討されている。
難燃性の評価基準には、樹脂自身が燃え難いという特性の他、燃焼あるいは溶融状態の樹脂がドリップしないこと、又はドリップして他の物に燃え広げ難いという特性(所謂、ドリップ防止性)が要求されている。
【0003】
テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)は、熱可塑性樹脂に少量添加することにより、熱可塑性樹脂の難燃化における滴下防止効果が大きいことが知られている。一般に、熱可塑性樹脂に、PTFEを添加する場合は、PTFEの融点が熱可塑性樹脂の加工温度より高いためにPTFEの融点以下で混練される。PTFEは、せん断力を受けることにより容易に繊維化したり凝集しやすく、熱可塑性樹脂に混練り添加されたPTFEは、ネットワーク状に繊維化して滴下防止などの効果を発揮すると言われている。
しかしながら、PTFEのこのような繊維化や凝集のし易さは、取り扱いの上では非常に厄介であり、取り扱い性の向上技術が種々提案されている。例えば、PTFEを予め、高級脂肪酸類の分散剤で処理する方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
一方、従来から取り扱い性を向上させるために、PTFEを高濃度に含有する各種の粒状組成物が検討されている(例えば、特許文献2〜5参照。)。
しかしながら、ポリオレフィン樹脂においては、これらの技術においても、PTFEの分散性が充分でなく、難燃性、燃焼時のドリップ防止性、剛性が充分に発揮されないなどの問題があった。
【0005】
また、ポリオレフィンの難燃性を向上させるために、特定のリン酸塩系難燃剤とドリップ防止剤を、組み合わせて使用する方法が提案されている(特許文献6参照。)。
しかしながら、これらの方法でも、十分な難燃性と剛性の両者を保持した組成物は達成されていない。
さらに、上記の提案では、実用性を鑑みると、PTFEの添加は不可欠であり、ノンハロゲンの要求を満足させるものではなかった。
【0006】
一方、PTFEを添加せずに、ポリプロピレン樹脂自身の溶融張力を高めて、ドリップを防止する技術が提案されている(特許文献7参照。)。この技術は、ノンハロゲンの要求を満たすものであり、期待される。
しかしながら、かかる提案によれば、ポリプロピレン樹脂は、(a)エチレン単独重合体又はエチレン重合単位を50重量%以上含有するエチレンオレフィン共重合体からなり、固有粘度が15〜100dl/gであるポリエチレン0.01〜5重量部と、(b)プロピレン単独重合体又はプロピレン重合単位を50重量%以上含有するプロピレンエチレン共重合体100重量部とからなり、230℃における溶融張力が1〜20cN、特定のMFR、融点、密度を有するものとされているものの、本発明者らが検討したところ、加工安定性が劣り、成形時の加工温度を高くすると、樹脂自身のドリップ防止効果が減少するといった問題があった。
【特許文献1】特開平10−30046号公報
【特許文献2】特開平09−324124号公報
【特許文献3】特開平09−324071号公報
【特許文献4】特開平09−324092号公報
【特許文献5】特開2001−2947号公報
【特許文献6】特開平2003−26935号公報
【特許文献7】特開平10−231397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術の現状に鑑み、ポリプロピレン樹脂の難燃特性や基本物性である剛性低下の問題点を解決することであり、PTFEを添加しなくても、燃焼時のドリップ防止性、外観等に優れ、かつ少ない難燃剤の配合量で優れた難燃性を有する難燃性ポリプロピレン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の長鎖分岐型プロピレン系重合体を、リン酸塩系難燃剤などのノンハロゲン系難燃剤と共にポリプロピレン樹脂に、特定量配合すると、燃焼時のドリップ防止性、外観等に優れ、かつ少ない難燃剤の配合量で優れた難燃性を有する難燃性ポリプロピレン樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、MFR(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜80g/10分、アイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上の結晶性ポリプロピレン樹脂(A)60〜99重量%及び下記(i)〜(vi)に規定する要件を満たすプロピレン系重合体(B)1〜40重量%からなるポリプロピレン樹脂成分100重量部に対して、ノンハロゲン系難燃剤(C)10〜50重量部含有することを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
(i)メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.1g/10分以上、100g/10分以下である。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Q値)が3.5以上、10.5以下である。
(iii)GPCによって得られる分子量分布曲線において、全量に対して、分子量(M)が200万以上の成分の比率が0.4重量%以上、10重量%未満である。
(iv)オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下である。
(v)13C−NMRで測定するアイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上である。
(vi)伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が6.0以上である。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、プロピレン系重合体(B)は、さらに、下記(vii)に規定する要件を満たすことを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
(vii) (ME) ≧ −0.26×log(MFR)+1.9
[式中、ME(メモリーエフェクト)は、オリフィスが長さ8.00mm、径1.00mmφのメルトインデクサーを用いて、シリンダー内温度を190℃に設定して、荷重をかけ、押し出し速度が0.1g/分の時に、オリフィスから押し出されたポリマーをエタノール中で急冷し、その際の押出物のストランド径をオリフィス径で除した値とする。]
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、プロピレン系重合体(B)は、さらに、下記(viii)に規定する要件を満たすことを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
(viii)GPCによって得られる分子量分布曲線において、ピーク位置に相当する分子量の常用対数をTp、ピーク高さの50%高さとなる位置の分子量の常用対数をL50及びH50(L50はTpより低分子量側、H50はTpより高分子量側)とし、α及びβをそれぞれα=H50−Tp、β=Tp−L50と定義したとき、α/βが0.9より大きく、2.0未満である。
【0012】
本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、ノンハロゲン系難燃剤(C)は、リン酸塩系難燃剤であることを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
【0013】
本発明は、上記した如く、難燃性ポリプロピレン樹脂組成物などに係るものであるが、その好ましい態様としては、次のものが包含される。
(1)上記のいずれかの発明において、プロピレン系重合体(B)は、さらに、13C−NMRによる31.6〜31.7ppmに観測される分岐炭素(Cbr)の全骨格形成炭素1000個あたり個数である分岐数が0.01以上、0.4個以下であることを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物。
(2)上記のいずれかの発明において、プロピレン系重合体(B)は、さらに、分岐鎖長が骨格炭素数500(分子量換算:1.1万)以上であることを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物。
(3)上記のいずれかの発明において、プロピレン系重合体(B)は、さらに、分岐鎖の立体規則性がmmで0.95以上であることを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物。
(4)上記のいずれかの発明において、プロピレン系重合体(B)は、さらに、下記(ix)及び/又は(x)に規定する要件を満たすことを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物。
(ix) (MT230℃) ≧ 5g
[式中、MT230℃は、メルトテンションテスターを用いて、キャピラリー:直径2.1mm、シリンダー径:9.6mm、シリンダー押出速度:10mm/分、巻き取り速度:4.0m/分、温度:230℃の条件で測定したときの溶融張力を表す。]
(x) (MaxDraw) ≧ 10m/分
[式中、MaxDraw(最高巻き取り速度)は、上記溶融張力の測定において、巻き取り速度を上げていったときの樹脂が破断する直前の巻き取り速度を表す。]
【発明の効果】
【0014】
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物は、特定の長鎖分岐型プロピレン系重合体を、リン酸塩系難燃剤などのノンハロゲン系難燃剤と共にポリプロピレン樹脂に、特定量配合することにより、優れた機械的強度、成形性に加えて、優れた難燃性を有し、特に燃焼時のドリップ防止性に優れる。さらに、難燃剤として、リン酸塩系難燃剤などのノンハロゲン系難燃剤を使用し、塩素、フッ素及び臭素含有化合物を使用していないので環境負荷が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物は、MFR(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜80g/10分、アイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上の結晶性ポリプロピレン樹脂(A)60〜99重量%及び下記(i)〜(vi)に規定する要件を満たすプロピレン系重合体(B)1〜40重量%からなるポリプロピレン樹脂成分100重量部に対して、ノンハロゲン系難燃剤(C)10〜50重量部含有することを特徴とするものである。
(i)メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.1g/10分以上、100g/10分以下である。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Q値)が3.5以上、10.5以下である。
(iii)GPCによって得られる分子量分布曲線において、全量に対して、分子量(M)が200万以上の成分の比率が0.4重量%以上、10重量%未満である。
(iv)オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下である。
(v)13C−NMRで測定するアイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上である。
(vi)伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が6.0以上である。
【0016】
以下、難燃性ポリプロピレン樹脂組成物の構成成分、難燃性ポリプロピレン樹脂組成物の調製等について詳細に説明する。
I.難燃性ポリプロピレン樹脂組成物の構成成分
1.結晶性ポリプロピレン樹脂(A)
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物に用いられる結晶性ポリプロピレン樹脂(A)としては、(i)結晶性プロピレン単独重合体、(ii)プロピレンを主成分とし、該プロピレンとエチレンもしくは炭素数4以上のα―オレフィンとのランダム共重合体、(iii)結晶性ポリプロピレンとプロピレン−エチレンのゴム状共重合体からなるいわゆるブロック共重合体、もしくは(iv)これらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0017】
本発明に係る結晶性ポリプロピレン樹脂(A)のメルトフローレート(MFR、測定条件:230℃、2.16kg荷重)は、0.1〜80g/10分、好ましくは5〜60g/10分であり、アイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上、好ましくは0.955以上、さらに好ましくは0.96以上の、高度の立体規則性を有するポリプロピレン結晶性ポリプロピレン部分を有するものである。
【0018】
本発明でのアイソタクチックトライアッド分率(mm)とは、13C−NMRによって得られるプロピレン単位3連鎖のmm分率である。
mm分率は、ポリマー鎖中、頭−尾結合からなる任意のプロピレン単位3連鎖中、各プロピレン単位中のメチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位3連鎖の割合である。このmm分率は、ポリプロピレン分子鎖中のメチル基の立体構造がアイソタクチックに制御されていることを示す値であり、高いほど、高度に制御されていることを意味する。
結晶性ポリプロピレン樹脂(A)のmm分率が、0.95未満では、各種難燃剤を配合した際、剛性低下を引き起こし、十分な力学物性を保つことができない。
【0019】
13C−NMRによるプロピレン単位3連鎖のmm分率の測定法の詳細は、以下の通りである。
試料375mgをNMRサンプル管(10φ)中で重水素化1,1,2,2−テトラクロロエタン2.5mlに完全に溶解させた後、125℃でプロトン完全デカップリング法で測定した。ケミカルシフトは、重水素化1,1,2,2−テトラクロロエタンの3本のピークの中央のピークを74.2ppmに設定した。他の炭素ピークのケミカルシフトはこれを基準とする。
フリップ角:90度
パルス間隔:10秒
共鳴周波数:100MHz以上
積算回数:10,000回以上
観測域:−20ppmから179ppm
【0020】
mm分率の測定は、前記の条件により測定された13C−NMRスペクトルを用いて行う。
スペクトルの帰属は、Macromolecules,(1975年)8卷,687頁やPolymer,30巻,1350頁(1989年)を参考に、具体的には特願2006−311249号に詳細に記載される方法に従って行う。
【0021】
また、本発明で用いられる結晶性ポリプロピレン樹脂(A)は、伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が、好ましくは2.0未満であり、より好ましくは1.5未満、さらに好ましくは1.05未満である。こうすることで、成形品の外観が優れ、経済性も向上する。
伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)の測定方法の詳細については、後述する。
【0022】
本発明に係るポリプロピレン樹脂(A)は、上記のMFRとmm分率が充足される限り、特にその製造法が限定されるものではないが、通常、チーグラー型高活性触媒、あるいはメタロセン触媒を用いて製造される。
【0023】
チーグラー(ZN)触媒としては、マグネシウム、チタン、ハロゲン、電子供与体を必須成分とする固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを、組合わせた高活性触媒が好ましい。
また、メタロセン触媒としては、ジルコニウム、ハフニウム、チタンなどの遷移金属にシクロペンタジエニル骨格を有する有機化合物およびハロゲン原子などが配位したメタロセン錯体と、アルモキサン化合物、イオン交換性珪酸塩、有機アルミニウム化合物などを組み合わせた触媒が有効である。
【0024】
また、プロピレンと共重合させるコモノマーとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1等が挙げられる。これらコモノマー成分は、0〜15重量%、好ましくは0〜10重量%である。これらのうち、特に好ましいものは、プロピレンとエチレン及び/又はブテン−1とのランダム共重合体である。
【0025】
反応系中の各モノマーの量比は経時的に一定である必要はなく、各モノマーを一定の混合比で供給することも便利であるし、供給するモノマーの混合比を経時的に変化させることも可能である。また、共重合反応比を考慮してモノマーのいずれかを分割添加することもできる。
【0026】
重合様式は、触媒成分と各モノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式の方法を採用することができる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク法、溶液法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーを実質的にガス状に保つ気相法を採用することができる。
【0027】
また、連続重合、回分式重合のいずれを用いてもよい。スラリー重合の場合には、重合溶媒としてヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素の単独あるいは混合物を用いることができる。
【0028】
重合条件としては、重合温度が−78〜160℃、好ましくは0〜150℃であり、そのときの分子量調節剤として、補助的に水素を用いることができる。また、重合圧力は0〜90kg/cm・G、好ましくは0〜60kg/cm・G、特に好ましくは1〜50kg/cm・Gである。
【0029】
2.プロピレン系重合体(B)
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物に用いられるプロピレン系重合体(B)は、以下に示す(i)〜(vi)、またはそれらに加えてさらに、(vii)及び/又は(viii)、或いはそれらに加えてさらに、(ix)及び/又は(x)の特性・性状を有することを特徴とするものである。
(i)メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.1g/10分以上、100g/10分以下である。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Q値)が3.5以上、10.5以下である。
(iii)GPCによって得られる分子量分布曲線において、全量に対して、分子量(M)が200万以上の成分の比率が0.4重量%以上、10重量%未満である。
(iv)オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下である。
(v)13C−NMRで測定するアイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上である。
(vi)伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が6.0以上である。
【0030】
(vii) (ME) ≧ −0.26×log(MFR)+1.9
[式中、ME(メモリーエフェクト)は、オリフィスが長さ8.00mm、径1.00mmφのメルトインデクサーを用いて、シリンダー内温度を190℃に設定して、荷重をかけ、押し出し速度が0.1g/分の時に、オリフィスから押し出されたポリマーをエタノール中で急冷し、その際の押出物のストランド径をオリフィス径で除した値とする。]
(viii)GPCによって得られる分子量分布曲線において、ピーク位置に相当する分子量の常用対数をTp、ピーク高さの50%高さとなる位置の分子量の常用対数をL50及びH50(L50はTpより低分子量側、H50はTpより高分子量側)とし、α及びβをそれぞれα=H50−Tp、β=Tp−L50と定義したとき、α/βが0.9より大きく、2.0未満である。
【0031】
(ix) (MT230℃) ≧ 5g
[式中、MT230℃は、メルトテンションテスターを用いて、キャピラリー:直径2.1mm、シリンダー径:9.6mm、シリンダー押出速度:10mm/分、巻き取り速度:4.0m/分、温度:230℃の条件で測定したときの溶融張力を表す。]
(x) (MaxDraw) ≧ 10m/分
[式中、MaxDraw(最高巻き取り速度)は、上記溶融張力の測定において、巻き取り速度を上げていったときの樹脂が破断する直前の巻き取り速度を表す。]
【0032】
以下、項目毎に、順次説明する。
(1)プロピレン系重合体(B)の構造、長鎖分岐構造の規定と同定方法
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、溶融流動性(溶融延展性)や溶融張力を制御した、物性と溶融加工性のバランスに優れた長鎖分岐型のプロピレン系重合体である。
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、上記長鎖分岐が導入されることにより、溶融物性が格段に向上していると、考察されている。
一般的には、分岐構造や分岐数を直接的に検出、定量には、13C−NMRが用いられる。また、分岐数や分岐分布の検出、定量には、13C−NMRやGPC−vis、GPC−mallsが用いられる。しかしながら、上記手法では定量限界が存在する。現時点においては、分岐を評価する方法としてはレオロジー的な方法が最も感度が高いと考えられている。例えば、線形粘弾性測定における流動の活性化エネルギーや、伸長粘度測定における歪硬化度を測定することが、微量の分岐を検出する方法としては現段階では一般的に用いられる。
分岐構造に関しては、分岐構造ができる機構、メカニズムを考慮して、本発明者らは、下記のように推察している。
【0033】
すなわち、後述するプロピレン系重合体(B)の製造方法で用いられる触媒成分[A−1]由来の活性種から、β−メチル脱離と一般に呼ばれる特殊な連鎖移動反応により、ポリマー片末端が主としてプロペニル構造(ビニル構造)を示し、所謂マクロマーが生成する。
βメチル脱離反応で停止した末端のプロペニル構造(ビニル構造)を下記に示す(参照文献:Macromol. Rapid Commun. 2000,21,1103―1107)。
【0034】
【化1】

【0035】
このマクロマーは、後述する、より高分子量を生成することができ、より共重合性がよい触媒成分[A−2]由来の活性種に取り込まれ、マクロマー共重合が進行していると、推察している。
したがって、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、下記構造式(2)に示すような特定の分岐構造を有する。
構造式(2)において、Ca、Cb、Ccは、分岐炭素に隣接するメチレン炭素を示し、Cbrは、分岐鎖の根元のメチン炭素を示し、P、P、Pは、プロピレン系重合体残基を示す。
、P、Pは、それ自体の中に、構造式(2)に記載されたCbrとは、別の分岐炭素(Cbr)を含有することもあり得る。
【0036】
【化2】

【0037】
このような分岐構造は、13C−NMR分析により同定される。各ピークの帰属は、Macromolecules,Vol.35、No.10.2002年、3839−3842頁の記載を参考にすることができる。すなわち、43.9〜44.1ppm,44.5〜44.7ppm及び44.7〜44.9ppmに、それぞれ1つ、合計3つのメチレン炭素(Ca、Cb、Cc)が観測され、31.5〜31.7ppmにメチン炭素(Cbr)が観測される。上記の31.5〜31.7ppmに観測されるメチン炭素を、以下、分岐炭素(Cbr)と略称することがある。
分岐メチン炭素Cbrに近接する3つのメチレン炭素が、ジアステレオトピックに非等価に3本に分かれて観測されることが特徴である。
【0038】
本発明にいう13C−NMRで帰属される分岐鎖は、プロピレン系重合体の主鎖から分岐した炭素数5以上のプロピレン系重合体残基を示す。それと炭素数4以下の分岐とは、分岐炭素のピーク位置が異なることにより、区別できる(Macromol.chem.phys.2003年、Vol.204、1738頁参照。)。
【0039】
一般的に、ポリマーの分岐の数と長さの規定について考察すると、分岐数が多いほど、溶融物性は、向上する。一方、分岐数が分子間で偏在すると、ゲルが発生してしまい、溶融物性向上の効果も小さくなると、考えられている。
分岐数は、上記の13C−NMRによる帰属を利用して、31.5〜31.7ppmに観測される分岐炭素(Cbr)の全骨格形成炭素1000個あたり個数を分岐数(密度)とする。但し、全骨格形成炭素とは、メチル炭素以外の全ての炭素原子を意味する。
【0040】
本発明の改良された溶融物性を示すプロピレン系重合体(B)には、13C−NMRの測定の結果、微量の分岐成分が存在することが分かる。その量は、定量限界の0.1個より小さいが、検出限界の0.01個以上存在する。
一方、分岐の量が多すぎると、ゲルが生成して成形品の外観を損ねるという懸念がある。
したがって、分岐数は、下限として0.01個以上であり、上限としては0.4個以下である。
現在の高磁場NMRの13C−NMRを用いた場合でも、定量限界が0.1個以上であり、現在までのところ定量まで至っていない。分岐が13C−NMRで定量限界以下の場合には、これに替えて、より感度の高いレオロジー的手法で分岐の評価をおこなった。その結果、得られる歪硬化度(λmax)が6.0以上と規定する。
【0041】
また、本発明に係るプロピレン系重合体(B)のように高い歪硬化を示すには、分岐長に関して、ポリプロピレンの絡み合い分子量である7000以上が必要と考えられる(参考文献:Macromolecules. 1998,31,1335、Macromolecules. 2002,35,10062)。
これは、骨格炭素数に換算すると、約400以上に相当する。ここでいう骨格炭素とは、メチル炭素以外の全ての炭素原子を意味する。分岐長がより長くなると、溶融物性は、より向上すると考えられる。
したがって、本発明に係るプロピレン系重合体(B)の分岐鎖長は、骨格炭素数500(ポリプロピレン分子量換算:1.1万)以上であり、好ましくは骨格炭素数1000(ポリプロピレン分子量換算:2.1万)以上であり、更に好ましくは骨格炭素数2000(ポリプロピレン分子量換算:4.2万)以上である。
【0042】
ここでいうポリプロピレン分子量換算値は、厳密にはGPCで測定される分子量値とは異なるものであるが、GPCで測定される数平均分子量(Mn)に近似している。
したがって、本発明のプロピレン系重合体の分岐長は、GPCで測定される数平均分子量(Mn)で1.1万以上、好ましくは2.1万以上、さらに好ましくは4.2万以上と、置き換えられる。
【0043】
また、重合機構を考えた場合、触媒成分[A−1]由来の活性種から生成するマクロマーが主鎖に組み込まれて分岐構造を形成するので、マクロマーの平均分子量が、組み込まれた分岐鎖の平均分子量として、特徴付けられる。
例えば、本発明に係るプロピレン系重合体(B)では、[A−1]由来の活性種から生成するマクロマーの分子量は、数平均分子量で5万の場合、組み込まれた分岐鎖の平均分子量が5万あり、骨格炭素に換算すると2400個と、解釈される。
上記[A−1]由来の活性種から生成するマクロマーの数平均分子量は、GPCにおいて[A−1]由来の部分のピークトップ、または[A−1]単独で重合を行った場合の分子量から推定できる。
【0044】
一方、ポリマーの分岐分布に関しては、GPC−visやGPC−mallsで測定が可能であるが、重合機構から考察すると、[A−1]由来のマクロマーが、より高分子量でより共重合性が高い成分[A−2]由来の活性種に取り込まれて、分岐が生成していると、考えられるため、[A−2]由来の分子量成分に、長鎖分岐が導入されていると、考察している。
触媒成分[A−2]由来の分子量成分は、[A−1]由来の分子量成分と比べて、より高分子量であるので、分岐分布としては、高分子量側([A−2]由来側)にも、分岐が導入された分布形態になっていると、考察している。
また、[A−1]由来の分子量成分には、[A−1]自身でマクロマーを取り込んで、できた分岐構造も存在する。
上記[A−1]由来、[A−2]由来の分子量分布の一例を、図3に示す。
【0045】
分岐数と分岐分布の関係について説明すると、溶融物性を改良するためには、分岐数が多いことが一般に必要と考えられており、特開2007−154121号公報には、分岐数0.1/1000骨格炭素以上のプロピレン単独重合体が開示されている。
しかしながら、この開示されたプロピレン単独重合体の伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)は6未満であり、本発明に係るプロピレン系重合体(B)の伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が6.0以上と比べても、改良効果は十分ではない。これは単一の錯体で製造するため、望ましい分岐成分が十分に導入されていないためであり、分岐が単純に平均的に多くても、溶融物性改良の効果が小さいことを意味している。
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、分岐数(平均値)が従来の分岐型重合体に比べて必ずしも多くはないが、複数の錯体を組み合わせることで、分岐を高分子量側にも導入することにより、溶融物性が顕著に改良されたものである。
【0046】
また、側鎖の立体規則性について説明すると、主鎖および側鎖の立体規則性は、それぞれ用いる[A−1]および[A−2]のもつ立体規則能力によって決まる。側鎖の立体規則性が低いと、例え主鎖の結晶性が高くても、全体の結晶性を落としてしまう。そこでより高剛性の重合体を得るためには、側鎖、主鎖とも立体規則性が高いことが好ましい。その値としては、主鎖、側鎖とも、mm分率で0.95以上である。特に好ましくは0.96以上であり、更に好ましくは0.97以上である。
側鎖の立体規則性は、[A−1]単独による重合体の立体規則性と等しいと考えられる。
尚、主鎖および側鎖の立体規則性の詳細については、後述する。
【0047】
(2)プロピレン系重合体(B)の物性
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、溶融流動性(溶融延展性)や溶融張力を制御した、物性と溶融加工性のバランスに優れている。本発明に係るプロピレン系重合体(B)の物性について、説明する。
【0048】
(2−1)メルトフローレート(MFR)
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、温度230℃、2.16Kg荷重で測定するメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分以上、100g/10分以下であることを必要とする。
MFRは、流動性を示す指標であり、重合体の分子量が大きくなると、この値が小さくなり、一方、分子量が小さくなると、この値は大きくなる。一般的に、この値が小さいと、流動性が悪くなって、成形品の外観を悪化させる。したがって、MFRは、0.1g/10分以上が必要であり、好ましくは0.2g/10分以上、さらに好ましくは、0.3g/10分以上である。
また、一般的に、この値が大きいと、流動性がよくなるものの、分子量が小さくなりすぎることにより、ドリップ防止特性の悪化を引き起こす。したがって、MFRは、100g/10分以下が必要であり、好ましくは60g/10分以下である。
【0049】
尚、メルトフローレート(MFR)は、JIS K6921−2の「プラスチック−ポリプロピレン(PP)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準拠して、試験条件:230℃、荷重2.16kgfで測定した値である。
プロピレン系重合体(B)のメルトフローレート(MFR)は、プロピレン重合の温度や圧力条件を変えるか、または、最も一般的な手法としては水素等の連鎖移動剤を重合時に添加する方法により、容易に調整を行なうことができる。
【0050】
(2−2)GPCで測定する平均分子量及び分子量分布(Mw、Mn、Q値)
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、Mw/Mn(Q値)が、3.5以上、10.5以下の範囲であることが必要である。
Q値は、分子量分布の広がりを表す指標であり、この値が大きいほど、分子量分布が広いことを意味する。Q値が小さすぎると、分布が狭い為に、溶融流動性とドリップ抑制効果とのバランスが悪くなる。したがって、Q値は3.5以上が必要であり、好ましくは3.7より大きい値である。更に好ましくは4.5より大きい値である。一方、Q値が大きすぎると、高分子量成分の量が増えて、満足する成形品外観のものが得られない。したがって、Q値は、10.5以下が必要であり、好ましくは8.0未満であり、更に好ましくは7.5未満である。
プロピレン系重合体(B)のGPCで測定する平均分子量及び分子量分布(Mw、Mn、Q値)は、プロピレン重合の温度や圧力条件を変えるか、または、最も一般的な手法としては、水素等の連鎖移動剤をプロピレン重合時に添加する方法により、容易に調整を行なうことができる。さらに、使用するメタロセン錯体の種類、錯体を2種以上使用する場合はその量比を変えることで制御することができる。
【0051】
(2−3)GPCによる分子量分布曲線から得られる分子量分布の広がりの高分子量側への偏り
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、GPCによって得られる分子量分布曲線において、ピーク位置に相当する分子量の常用対数をTp、ピーク高さの50%高さとなる位置の分子量の常用対数をL50及びH50(L50はTpより低分子量側、H50はTpより高分子量側)とし、α及びβをそれぞれα=H50−Tp、β=Tp−L50と定義したとき、α/βが0.9より大きく、2.0未満であることが望ましい。ここで、α/βは、分子量分布の広がりの高分子量側への偏りを表す指標である。
分子量分布の広がり方に関しては、GPCによって得られる分子量分布曲線で示される。すなわち、分子量(MW)の常用対数を横軸として、縦軸に、当該MWに相当する分子の相対微分質量をプロットしたグラフが作成される。
なお、ここにいう分子量(MW)とは、プロピレン単独重合体を構成する個々の分子の分子量であって、プロピレン単独重合体の重量平均分子量(Mw)とは、異なるものである。図1は、分子量分布曲線の一例を示す図である。作成したグラフからαおよびβが求められる。本発明においては、上記のように、α/βが0.9より大きく、2.0未満であることが望ましい。
【0052】
通常、単一活性点を持つ触媒で均一な重合を行った場合、分子量分布は最も確からしい分布の形状となる。この最も確からしい分布のα/βは、0.9と算出される。
したがって、本発明のプロピレン単独重合体の分子量分布は、単一活性点で均一な重合をした重合体の分子量分布と比べて、より高分子量側に一層広がっていることを意味している。
α/βが0.9以下であると、相対的に高分子量成分の量が足りないため、溶融張力やスウェル比が小さくなり、ドリップ抑制効果が低下する。
したがって、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、α/βが0.9より大きいことが望ましく、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.05以上、更に好ましくは1.1以上である。
【0053】
一方、α/βが2.0以上であると、高分子量成分の量が多すぎて、流動性を悪化させてしまう。また、高分子量成分が多すぎて、分散不良に起因して成形品外観が悪化する。
したがって、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、α/βが2.0未満であることが望ましく、好ましくは1.7未満であり、更に好ましくは1.6未満である。
なお、分子量分布曲線において、ピークが2つ以上現れることがある。その場合は、最大ピークを本発明のピークと置き換えることができる。また、H50が2つ以上現れる場合は、一番高分子量側の分子量で置き換えることができる。同様に、L50が2つ以上現れる場合は、一番低分子量側の分子量で置き換えることができる。
プロピレン系重合体(B)のGPCによる分子量分布曲線から得られる分子量分布の広がりの高分子量側への偏りは、2種使用するメタロセン錯体の一方として、高分子量のポリマーが製造可能なものを選択したうえで、重合時に添加する水素添加量の制御により、容易に調整を行なうことができる。また、使用する2種のメタロセン錯体の量比を変えることでも調整することができる。
【0054】
(2−4)GPCによる分子量分布曲線における分子量(M)が200万以上の成分の比率
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、GPCによって得られる分子量分布曲線において、重合体全量に対して、分子量(M)が200万以上の成分の比率(W(200万以上))が0.4重量%以上、10重量%未満である。
上記200万以上の比率(W(200万以上))は、重合体中に含まれる非常に高い分子量成分の比率を示す指標である。
上記非常に高い分子量成分の比率であるW(200万以上)は、GPCによって得られる積分分子量分布曲線(全量を1に規格化)において、分子量(M)が200万(Log(M)=6.3)以下までの積分値を、1から減じた値として定義する。積分分子量分布曲線の一例を同じく図1に示す。
【0055】
前述のように、高分子量成分の量が足りないと、溶融張力やスウェル比が小さくなり、成形性が悪化してしまう。例えば、押出発泡成形を行う場合、破泡が起きて独立気泡率が高くならない。そこで、分子量の高い成分が必要であり、中でも非常に分子量の高い成分を少量含有することにより、効率的に成形性が改善される。この非常に分子量の高い成分には、前述したような分岐成分を含んでいると考えられる。
したがって、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、望ましくは、W(200万以上)が0.4重量%以上である必要があり、好ましくは1.0重量%以上であり、更に好ましくは2.0重量%以上である。
しかしながら、この成分の比率が高すぎると、非常に分子量の高い成分であるために、ゲルが生成してしまい、成形品の外観を損ねるという問題が生じる。
そこで、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、望ましくは、W(200万以上)が10重量%未満である必要があり、好ましくは6.0重量%未満、更に好ましくは5重量%未満である。
プロピレン系重合体(B)のGPCによる分子量分布曲線における分子量(M)が200万以上の成分の比率は、使用するメタロセン錯体として高分子量のポリマーが製造可能なものを選択したうえで、低分子量側を製造するメタロセン錯体に対する量比、プロピレン重合時に添加する水素量や重合温度の制御により、容易に調整を行なうことができる。
これまでにMFR、Q値、α/βおよび分子量(M)が200万以上の成分の比率等のプロピレン系重合体の分子量に関する調整方法について説明してきた。例えば、共通する制御法として、水素量の制御を挙げることができる。水素量を増やすと、プロピレン系重合体のMFRは上がり、Q値、α/β、分子量(M)が200万以上の成分の比率は低下する傾向を示す。一方、重合温度を上げる、モノマー分圧を下げる方法でも、MFRを上げることが可能であり、その場合には、分子量(M)が200万以上の成分の比率は低下するが、Q値とα/βは、あまり影響を受けない。また、MFRに対する分子量(M)が200万以上の成分の比率は、高分子量側を生成するメタロセン錯体の量や種類を変えることで制御することがすることができる。この様に、使用する触媒や重合条件を変化させることで、これら規定の制御が可能である。
【0056】
上記で定義される重量平均分子量(Mw)、Q値、α/β、及びW(200万以上)の値は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られるものであるが、その測定法、測定機器の詳細は、以下の通りである。
【0057】
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC、150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
【0058】
試料の調製は、試料をODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して、溶解させて行う。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、図2のように行う。
また、GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー社製の以下の銘柄である。
銘柄:F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるように、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して、較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算に使用する粘度式:[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4、α=0.7
PP:K=1.03×10−4、α=0.78
【0059】
(2−5)オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、例えば、プロピレン単独重合体は、昇温溶出分別(TREF)測定によって得られる溶出曲線において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下である。
40℃以下の温度で溶出する成分は、低結晶性成分であり、この成分の量が多いと、製品全体の結晶性が低下し、製品の剛性といった機械的強度が低下してしまう。
したがって、この量が3.0重量%以下である必要があり、好ましくは2.0重量%以下であり、更に好ましくは1.0重量%以下あり、特に好ましくは0.5重量%以下である。
プロピレン系重合体(B)のオルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)は、メタロセン錯体を用いることにより、一般的に低く抑えることが可能であるが、触媒の純度を一定以上に保つことに加え、触媒の製造方法や、重合時の反応条件を極端に高温にしないことや、メタロセン錯体に対する有機アルミの量比を上げすぎないことが必要である。
【0060】
昇温溶出分別(TREF)による溶出成分の測定法の詳細は、以下の通りである。
試料を140℃でオルトジクロロベンゼンに溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後、8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で40℃まで冷却後、10分間保持する。その後、溶媒であるオルトジクロロベンゼンを1mL/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で40℃のオルトジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
【0061】
カラムサイズ:4.3mmφ×150mm
カラム充填材:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
溶媒:オルトジクロロベンゼン
試料濃度:5mg/mL
試料注入量:0.1mL
溶媒流速:1mL/分
検出器:波長固定型赤外検出器、FOXBORO社製、MIRAN、1A
測定波長:3.42μm
【0062】
(2−6)13C−NMRで測定するアイソタクチックトライアッド分率(mm)
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、13C−NMRによって得られるプロピレン単位3連鎖のmm分率が0.95以上の立体規則性を有するものである。
mm分率は、ポリマー鎖中、頭−尾結合からなる任意のプロピレン単位3連鎖中、各プロピレン単位中のメチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位3連鎖の割合である。このmm分率は、ポリプロピレン分子鎖中のメチル基の立体構造がアイソタクチックに制御されていることを示す値であり、高いほど、高度に制御されていることを意味する。
mm分率がこの値より小さいと、製品の弾性率が低下するなど機械的物性が低下してしまう。従って、mm分率は、好ましくは0.96以上であり、さらに好ましくは0.97以上である。
また、主鎖および側鎖の立体規則性は、後述するプロピレン系重合体(B)の製造方法で用いられる触媒成分[A−1]および[A−2]のもつ立体規則能力によって決まる。側鎖の立体規則性が低いと、例え主鎖の結晶性が高くても全体の結晶性を落としてしまう。そこでより高剛性の重合体を得るためには側鎖、主鎖とも立体規則性が高いことが好ましい。その値としては、主鎖、側鎖ともmm分率で0.95以上である。特に好ましくは0.96以上であり、更に好ましくは0.97以上である。
プロピレン系重合体(B)の13C−NMRで測定するアイソタクチックトライアッド分率(mm)は、使用するメタロセン錯体の選択や重合温度により、容易に調整を行なうことができる。
【0063】
13C−NMRによるプロピレン単位3連鎖のmm分率の測定法の詳細は、以下の通りである。
試料375mgをNMRサンプル管(10φ)中で重水素化1,1,2,2−テトラクロロエタン2.5mlに完全に溶解させた後、125℃においてプロトン完全デカップリング法で測定した。ケミカルシフトは、重水素化1,1,2,2−テトラクロロエタンの3本のピークの中央のピークを74.2ppmに設定した。他の炭素ピークのケミカルシフトはこれを基準とする。
フリップ角:90度
パルス間隔:10秒
共鳴周波数:100MHz以上
積算回数:10,000回以上
観測域:−20ppmから179ppm
データポイント数:32768
【0064】
mm分率の測定は、前記の条件により測定された13C−NMRスペクトルを用いて行う。
スペクトルの帰属は、Macromolecules,(1975年)8卷,687頁やPolymer, 30巻 1350頁(1989年)を参考に行った。
【0065】
以下に、mm分率決定のより具体的な方法を述べる。
プロピレン単位を中心として頭尾結合した3連鎖の中心プロピレンのメチル基に由来するピークは、その立体配置に応じて、3つの領域に生じる。
mm:約24.3〜約21.1ppm
mr:約21.2〜約20.5ppm
rr:約20.5〜約19.8ppm
各領域の化学シフト範囲は、分子量や、共重合体組成により若干シフトするが、上記3領域の識別は、容易である。
ここで、mm、mrおよびrrは、それぞれ下記の構造で表される。
【0066】
【化3】

【0067】
mm分率は、次の数式(I)から、算出される。
mm分率=mm領域のピーク面積/(mm領域のピーク面積+mr領域のピーク面積+rr領域のピーク面積) (I)
【0068】
また、本発明に係るプロピレン系重合体(B)には、エチレン単位を含む以下の部分構造を持ち得る。
【0069】
【化4】

【0070】
部分構造PPEの中心プロピレン単位のメチル基(PPE−メチル基)は、20.9ppm付近のmr領域で共鳴し、部分構造EPEの中心プロピレン単位のメチル基(EPE−メチル基)は、20.2ppm付近のrr領域で共鳴するため、このような部分構造を有する場合には、mr、rr両領域のピーク面積から、PPE−メチル基及びEPE−メチル基に基づくピーク面積を減ずる必要がある。PPE−メチル基に基づくピーク面積は、対応するメチン基(31.0ppm付近で共鳴)のピーク面積により評価でき、EPE−メチル基に基づくピーク面積は、対応するメチン基(33.3ppm付近で共鳴)のピーク面積により評価できる。
【0071】
また、位置不規則ユニットを含む部分構造として、下記構造(5−a)、構造(5−b)、構造(5−c)および構造(5−d)を有することがある。
【0072】
【化5】

【0073】
このうち、炭素A、A’、A”ピークは、mr領域に、炭素B、B’ピークは、rr領域に現れる。さらに、炭素C、C’ピークは、16.8〜17.8ppmに現れる。
従って、式(I)においてmm分率を算出する場合には、それぞれmr領域のピーク面積、rr領域のピーク面積から、頭−尾結合した3連鎖に基づかないピークでmr及びrr領域に現れる炭素A、A’、A”、B、B’に基づくピーク面積を減ずる必要がある。
【0074】
炭素Aに基づくピーク面積は、位置不規則部分構造[構造(5−a)]の炭素D(42.4ppm付近で共鳴)、炭素E及びG(36.0ppm付近で共鳴)及び炭素F(38.7ppm付近で共鳴)のピーク面積の和の1/4より評価できる。
炭素A’に基づくピーク面積は、位置不規則部分構造[構造(5−b)及び構造(5−c)]の炭素H及びI(34.7ppm付近及び35.0ppm付近で共鳴)と炭素J(34.1ppm付近で共鳴)のピーク面積の和の2/5と炭素K(33.7ppm付近で共鳴)のピーク面積の和により評価できる。
炭素A”に基づくピーク面積は、位置不規則部分構造[構造(5−d)]の炭素L(27.7ppm付近で共鳴)のピーク面積の和により評価できる。
炭素Bに基づくピーク面積は、炭素Jにより評価できる。また、炭素B’に基づくピーク面積は、炭素Kにより評価できる。
なお、炭素Cピーク及び炭素C’ピークの位置は、注目するmm、mr、rr領域と全く関与しないので考慮する必要はない。
以上により、mm、mrおよびrrのピーク面積を評価することができるので、上記数式(I)に従って、プロピレン単位を中心として頭−尾結合からなる3連鎖部のmm分率を求めることができる。
【0075】
(2−7)伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が6.0以上であることが必要である。
歪硬化度(λmax)は、溶融時強度を表す指標であり、この値が大きいと、溶融張力が向上する効果がある。その結果、燃焼時のドリップ抑制効果が大きい。
したがって、この歪硬化度は、6.0以上が必要であり、好ましくは10.0以上、より好ましくは15.0以上である。
また、この歪硬化度は、伸長粘度の非線形性を表す指標であり、通常、分子の絡み合いが多いほど、この値が大きくなると言われている。分子の絡み合いは、分岐の量、分岐鎖の長さに影響を受ける。
したがって、分岐の量、分岐の長さが長いほど、歪硬化度は、大きくなる。
また、現時点において分岐を評価する上で最も感度が高い手法と考えられており、13C−NMRで直接分岐構造を評価できない為に、その手法に替えて、歪硬化度を分岐の指標として用いた。
【0076】
一般的に、高い歪硬化度を示すには、分岐の長さとして、ポリプロピレンの絡みあい分子量である7,000以上が必要とされる。骨格炭素数に換算すると、約400以上に相当する。ここでいう骨格炭素とは、メチル炭素以外の全ての炭素原子を意味する。分岐長がより長くなると、溶融物性は、より向上すると考えられる。特により長い分岐鎖が導入されると、伸長粘度の測定において、より遅い歪速度領域においても、歪硬化が検出されようになると考えられている。
したがって、本発明に係るプロピレン系重合体(B)の分岐鎖長は、前記したとおり、骨格炭素数500(ポリプロピレン分子量換算:1.1万)以上であり、好ましくは骨格炭素数1000(ポリプロピレン分子量換算:2.1万)以上であり、更に好ましくは骨格炭素数2000(ポリプロピレン分子量換算:4.2万)以上である。
ここでいうポリプロピレン分子量換算値は、前記したとおり、厳密にはGPCで測定される分子量値とは異なるものであるが、GPCで測定される数平均分子量(Mn)に近似している。
したがって、本発明に係るプロピレン系重合体(B)の分岐長は、GPCで測定される数平均分子量(Mn)で1.1万以上、好ましくは2.1万以上、さらに好ましくは4.2万以上と、置き換えて考えられる。
プロピレン系重合体(B)の伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)は、プロピレン重合に使用する触媒を構成する二種類のメタロセン錯体の選択やその量比、予備重合条件を制御することにより、6以上と大きくすることができる。すなわち、2種類のメタロセン錯体の一方は、マクロマーを生成し易いものとし、もう一方は、マクロマーを重合体に取り込み易く且つ高分子量の重合体を生成可能なものを選択する。更に、予備重合を行うことにより、重合体粒子間で長鎖分岐が均一に分布させる。
【0077】
ここで、歪硬化度の測定方法に関しては、一軸伸長粘度を測定できれば、どのような方法でも原理的に同一の値が得られるが、例えば、測定方法及び測定機器の詳細は、公知文献Polymer 42(2001)8663に記載の方法があるが、好ましい測定方法及び測定機器として、以下を挙げることができる。
【0078】
測定方法1:
装置:Rheometorics社製 Ares
冶具:ティーエーインスツルメント社製 Extentional Viscosity Fixture
測定温度:180℃
歪み速度:0.1/sec
試験片の作成:プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作成する。
【0079】
測定方法2:
装置:東洋精機社製、Melten Rheometer
測定温度:180℃
歪み速度:0.1/sec
試験片の作成:東洋精機社製キャピログラフを用い、180℃で内径3mmのオリフィスを用いて、速度10〜50mm/minで押し出しストランドを作成する。
【0080】
算出方法:
歪み速度:0.1/secの場合の伸長粘度を、横軸に時間t(秒)、縦軸に伸長粘度η(Pa・秒)を両対数グラフでプロットする。その両対数グラフ上で歪み硬化を起こす直前の粘度を直線で近似し、歪量が4.0となるまでの伸長粘度ηの最大値(ηmax)を求め、また、その時間までの近似直線上の粘度をηlinとする。
図4は、伸長粘度のプロット図の一例である。ηmax/ηlinを、λmaxと定義し、歪硬化度の指標とする。
なお、歪速度は、0.001/sec〜10.0/secの範囲で測定可能であり、歪硬化度は歪速度の違いで変化する。この歪硬化度の歪速度依存性は、導入された分岐の形態や長さで変化すると考えられる。
【0081】
(2−8)メモリーエフェクト(ME)
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、メモリーエフェクト(ME)が下記式(I−1)を満たすことが望ましい。
(ME) ≧ −0.26×log(MFR)+1.9 (I−1)
[式中、ME(メモリーエフェクト)は、オリフィスが長さ8.00mm、径1.00mmφのメルトインデクサーを用いて、シリンダー内温度を190℃に設定して、荷重をかけ、押し出し速度が0.1g/分の時に、オリフィスから押し出されたポリマーをエタノール中で急冷し、その際の押出物のストランド径をオリフィス径で除した値とする。]
【0082】
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、好ましくは、ポリマー中の高分子量成分の存在比率を表す指標となるメモリーエフェクト(ME)とポリマーの平均分子量を表す指標であるMFRとの相関が特定の関係(上記式(I−1))にあることを特徴とする。
MEは、ポリマーの非ニュートン性を表す指標であり、MEが大きいことは、その重合体に緩和時間の長い成分が存在することを示している。すなわち、同一のMFRでMEが大きい場合には、より長期緩和成分が重合体に分布していることを意味する。
また、MEは、Log(MFR)と、1次の相関を有することが経験的に知られており、一般には、分子量が大きくなるほど(すなわちMFRの値が小さくなるほど)、MEの値は大きくなる。
【0083】
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、ポリマー鎖に分岐成分が存在することにより、MFR見合いでのMEが従来公知のポリマーと比較して、大きいことが特徴である。長期緩和成分の量が多いと、スウェルが大きくなり、射出成型時フローマークの発生が抑制されるなど成形特性に優れることが知られており、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、成形特性に優れる。より好ましくは下記式(I−2)を満足することである。
(ME) ≧ −0.26×log(MFR)+2.20 (I−2)
更に好ましくは下記式(I−3)を満足することである。
(ME) ≧ −0.26×log(MFR)+2.40 (I−3)
【0084】
メモリーエフェクト(ME)の測定方法としては、タカラ社製のメルトインデクサーを用い、190℃でオリフィス径1.0mm、長さ8.0mm中を、荷重をかけて押し出し、押し出し速度が0.1g/分の時に、オリフィスから押し出されたポリマーを、エタノール中で急冷し、その際のストランド径の値をオリフィス径で除した値とする。
【0085】
(2−9)溶融張力と最高巻取速度
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、制御された分岐構造(分岐量、分岐長、分岐分布)を持つために、溶融物性が顕著に改良される。すなわち、高い溶融張力を持ちながら、優れた溶融延展性をもつ。溶融張力と溶融延展性の指標として、以下の測定方法で測定する溶融張力(MT)と最高巻取速度(MaxDraw)のバランスで表すことができる。
【0086】
溶融張力(MT)および最高巻取速度(MaxDraw)の測定方法について説明する。
東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、下記の条件で樹脂を紐状に押し出して、ローラーに巻き取っていった時にプーリーに検出される張力を溶融張力(MT)とする。
キャピラリー:直径2.1mm
シリンダー径:9.6mm
シリンダー押出速度:10mm/分
巻き取り速度:4.0m/分
温度:230℃
【0087】
また、巻き取り速度を4.0m/分から徐々に上げていったとき(加速度:5.4cm/s)、紐状物が切断する直前の巻き取り速度を、最高巻取速度(MaxDraw)とする。
ここで、MTの値が大きい方が、溶融張力が高いことを意味し、MaxDrawが大きい方が、流動性や分散性が良いことを意味する。
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、分子量分布を広げ分岐を導入することにより、溶融張力が改善されており、したがって、MTは、5g以上であり、好ましくは10g以上、更に好ましくは15g以上である。
【0088】
また、上述したように、高分子量成分を増やしたり、分岐数が多くすると、MTの値を大きくすることができるが、逆に、重合体の高分子量成分が多すぎたり、分岐が偏在したりすると、巻き取り中に粘度が高くなりすぎて、紐状物の破断を引き起こし、MaxDrawは大きくならない。すなわち分散性が悪化してしまう。
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、分岐成分を制御することにより、高いMTを保ったまま、大きなMaxDrawを持つことができ、溶融張力と分散性のバランスが改善されている。
したがって、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、MaxDrawが10m/分以上であり、好ましくは20m/分以上であり、更に好ましくは30m/分以上である。
【0089】
上記で説明したように、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、分散性や溶融張力を制御した、物性と加工性のバランスに優れる長鎖分岐型である。従来のプロピレン系重合体と対比すると、例えば、前記したように、特開2007−154121号公報には、分岐数0.1/1000骨格炭素以上のプロピレン単独重合体が開示されているものの、伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)は6未満であり、本発明に係るプロピレン系重合体(B)の伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が6.0以上と比べても、溶融物性改良の効果が十分ではない。また、電子線照射により架橋し、長鎖分枝度が高いポリプロピレンの市販品(バゼル社製の高溶融張力ポリプロピレン、「PF814」)は、前述した構造式(2)の分岐炭素が検出されなくて、13C−NMRによるアイソタクチックトライアッド分率(mm)が低く(0.925)、さらに、電子線の照射時に架橋と同時に分子切断も起こってしまい、低分子量成分が増加している。また、成形加工特性を制御する他の一般的な方法として、分子量分布の拡大による制御が行われるが、分子量分布を拡大した場合には、結果的に低分子量成分が増大し、その結果、成形体の表面特性の悪化や、機械物性の低下、ヒートシール性の低下などといったデメリットが発生する。
しかし、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、分子量分布を広げ分岐を導入することにより、分子量分布の拡大による制御が行われているが、低分子量成分が増大せずに、高分子量成分が増大するために、上記のようなデメリットが発生しない。
このように、本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、長鎖分岐型であるために、従来のプロピレン系重合体にみられない溶融延展性や溶融張力を制御した、物性と加工性のバランスに優れたものとなっている。
【0090】
(3)プロピレン系重合体(B)の製造方法
本発明に係るプロピレン系重合体(B)を製造する方法については、上記の溶融流動性や溶融張力を制御した、物性と加工性のバランスに優れる長鎖分岐型のプロピレン系重合体が得られる方法であればよく、特に制限はないが、例えば、制御した分岐成分を導入する方法としては、下記のような複数の錯体を用いる方法を挙げることができる。
【0091】
すなわち、上記の長鎖分岐型のプロピレン系重合体を製造する方法であって、
プロピレン重合触媒として、下記の触媒成分(A)、(B)及び(C)を用いることを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法が挙げられる。
(A):下記一般式(a1)で表される化合物である成分[A−1]から少なくとも1種類、および一般式(a2)で表される化合物である成分[A−2]から少なくとも1種類、選んだ2種以上の周期律表4族の遷移金属化合物
成分[A−1]:一般式(a1)で表される化合物
成分[A−2]:一般式(a2)で表される化合物
(B):イオン交換性層状珪酸塩
(C):有機アルミニウム化合物
【0092】
以下、触媒成分(A)、(B)及び(C)について、詳細に説明する。
(イ)触媒成分(A)
(i)成分[A−1]:一般式(a1)で表される化合物
【0093】
【化6】

【0094】
[一般式(a1)中、各々R11およびR12は、独立して、炭素数4〜16の窒素または酸素、硫黄を含有する複素環基を示す。また、各々R13およびR14は、独立して、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リン又はこれらから選択される複数のヘテロ元素を含有してもよい炭素数6〜16のアリール基、炭素数6〜16の窒素または酸素、硫黄を含有する複素環基を表す。さらに、X11及びY11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を表し、Q11は、炭素数1〜20の二価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基またはゲルミレン基を表す。]
【0095】
上記R11およびR12の炭素数4〜16の窒素または酸素、硫黄を含有する複素環基は、好ましくは2−フリル基、置換された2−フリル基、置換された2−チエニル基、置換された2−フルフリル基であり、さらに好ましくは、置換された2−フリル基である。
また、置換された2−フリル基、置換された2−チエニル基、置換された2−フルフリル基の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基、トリアルキルシリル基、が挙げられる。これらのうち、メチル基、トリメチルシリル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
さらに、R11およびR12として、特に好ましくは、2−(5−メチル)−フリル基である。また、R11およびR12は、互いに同一である場合が好ましい。
【0096】
上記R13およびR14の炭素数6〜16の、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リン、あるいは、これらから選択される複数のヘテロ元素を含有してもよいアリール基としては、炭素数6〜16になる範囲で、アリール環状骨格上に、1つ以上の、炭素数1〜6の炭化水素基、炭素数1〜6の珪素含有炭化水素基、炭素数1〜6のハロゲン含有炭化水素基を置換基として有していてもよい。
13およびR14としては、好ましくは少なくとも1つが、フェニル基、4−t−ブチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、3,5−ジ−t−ブチルフェニル基、4−フェニル−フェニル基、クロロフェニル基、ナフチル基、又はフェナンスリル基であり、更に好ましくはフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−クロロフェニル基である。また、2つのRが互いに同一である場合が好ましい。
【0097】
一般式(a1)中、X11およびY11は、補助配位子であり、成分(B)の助触媒と反応して、オレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させる。したがって、この目的が達成される限り、XとYは、配位子の種類が制限されるものではなく、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルアミド基、トリフルオロメタンスルホン酸基、炭素数1〜20のリン含有炭化水素基または炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基を示す。
【0098】
一般式(a1)中、Q11は、二つの五員環を結合する、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基またはゲルミレン基の何れかを示す。上述のシリレン基またはゲルミレン基上に2個の炭化水素基が存在する場合は、それらが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
上記のQ11の具体例としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、1,2−エチレン、等のアルキレン基;ジフェニルメチレン等のアリールアルキレン基;シリレン基;メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジ(n−プロピル)シリレン、ジ(i−プロピル)シリレン、ジ(シクロヘキシル)シリレン等のアルキルシリレン基、メチル(フェニル)シリレン等の(アルキル)(アリール)シリレン基;ジフェニルシリレン等のアリールシリレン基;テトラメチルジシリレン等のアルキルオリゴシリレン基;ゲルミレン基;上記の2価の炭素数1〜20の炭化水素基を有するシリレン基のケイ素をゲルマニウムに置換したアルキルゲルミレン基;(アルキル)(アリール)ゲルミレン基;アリールゲルミレン基などを挙げることが出来る。これらの中では、炭素数1〜20の炭化水素基を有するシリレン基、または、炭素数1〜20の炭化水素基を有するゲルミレン基が好ましく、アルキルシリレン基、アルキルゲルミレン基が特に好ましい。
【0099】
上記一般式(a1)で表される化合物のうち、好ましい化合物として、以下に具体的に例示する。
ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−チエニル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジフェニルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−(5−メチル−2−チエニル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−トリメチルシリル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−フェニル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(4,5−ジメチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウムジクロライド、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−ベンゾフリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジフェニルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−メチル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−イソプロピル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フルフリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−クロロフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−フルオロフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−トリフルオロメチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−(1−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−(2−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−(2−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−(9−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(1−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(2−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(2−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(9−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル−2−フリル)−4−(1−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル−2−フリル)−4−(2−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル2−−フリル)−4−(2−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル2−−フリル)−4−(9−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレン(2−メチル−4−フェニル−インデニル){2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレン(2−メチル−4−フェニル−インデニル){2−(5−メチル−2−チエニル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、などを挙げることができる。
【0100】
これらのうち、更に好ましいのは、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−(5−メチル−2−チエニル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−クロロフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−ナフチル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、である。
【0101】
また、特に好ましいのは、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−ナフチル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、である。
【0102】
(ii)成分[A−2]:一般式(a2)で表される化合物
【0103】
【化7】

【0104】
[一般式(a2)中、各々R21およびR22は、独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、R23およびR24は、それぞれ独立して、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リン又はこれらから選択される複数のヘテロ元素を含有してもよい炭素数6〜16のアリール基である。X21及びY21は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基を表し、Q21は、炭素数1〜20の二価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基またはゲルミレン基を表す。M21は、ジルコニウムまたはハフニウムである。]
【0105】
上記R21およびR22は、それぞれ独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、好ましくはアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。具体的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、n−ヘキシル等が挙げられ、好ましくはメチル、エチル、n−プロピルである。
【0106】
また、上記R23およびR24は、それぞれ独立して、炭素数6〜30の、好ましくは炭素数6〜24の、ハロゲン、ケイ素、あるいは、これらから選択される複数のヘテロ元素を含有してもよいアリール基である。好ましい例としてはフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、3−フルオロフェニル、4−フルオロフェニル、4−メチルフェニル、4−i−プロピルフェニル、4−t−ブチルフェニル、4−トリメチルシリルフェニル、4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)、4−(2−クロロ−4−ビフェニリル)、1−ナフチル、2−ナフチル、4−クロロ−2−ナフチル、3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル、3,5−ジメチル−4−t−ブチルフェニル、3,5−ジメチル−4−トリメチルシリルフェニル、3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル等が挙げられる。
【0107】
また、上記X21及びY21は、補助配位子であり、成分(B)の助触媒と反応してオレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させる。したがって、この目的が達成される限りX21及びY21は、配位子の種類が制限されるものではなく、それぞれ独立して、水素、ハロゲン基、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルアミド基、トリフルオロメタンスルホン酸基、炭素数1〜20のリン含有炭化水素基または炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基を示す。
【0108】
また、上記Q21は、二つの共役五員環配位子を架橋する結合性基であり、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基を有するシリレン基または炭素数1〜20の炭化水素基を有するゲルミレン基であり、好ましくは置換シリレン基あるいは置換ゲルミレン基である。ケイ素、ゲルマニウムに結合する置換基は、炭素数1〜12の炭化水素基が好ましく、二つの置換基が連結していてもよい。具体的な例としては、メチレン、ジメチルメチレン、エチレン−1,2−ジイル、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジフェニルシリレン、メチルフェニルシリレン、9−シラフルオレン−9,9−ジイル、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジフェニルシリレン、メチルフェニルシリレン、9−シラフルオレン−9,9−ジイル、ジメチルゲルミレン、ジエチルゲルミレン、ジフェニルゲルミレン、メチルフェニルゲルミレン等が挙げられる。
【0109】
さらに、上記M21は、ジルコニウムまたはハフニウムであり、好ましくはハフニウムである。
【0110】
上記一般式(a2)で表されるメタロセン化合物の非限定的な例として、下記のものを挙げることができる。
ただし、煩雑な多数の例示を避けて代表的例示化合物のみ記載した。また中心金属がハフニウムの化合物を記載したが、同様のジルコニウム化合物も使用可能であり、種々の配位子や架橋結合基あるいは補助配位子を任意に使用しうることは自明である。
ジクロロ{1,1’−ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−クロロ−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−メチル−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(1−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロ−2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−クロロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(9−フェナントリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−n−プロピル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−メチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−クロロ−2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、などが挙げられる。
【0111】
これらの中で好ましくは、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−クロロ−2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、である。
【0112】
また、特に好ましくは、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、である。
【0113】
(ロ)触媒成分(B)
次に、本発明に用いられる触媒成分(B)は、イオン交換性層状珪酸塩である。
(i)イオン交換性層状珪酸塩の種類
本発明において、原料として使用するイオン交換性層状珪酸塩(以下、単に珪酸塩と略記する)とは、イオン結合などによって構成される面が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、かつ、含有されるイオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英、クリストバライト等)が含まれることが多いが、それらを含んでもよい。それら夾雑物の種類、量、粒子径、結晶性、分散状態によっては純粋な珪酸塩以上に好ましいことがあり、そのような複合体も、成分(B)に含まれる。
尚、本発明の原料とは、後述する本発明の化学処理を行う前段階の珪酸塩をさす。また、本発明で使用する珪酸塩は、天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。それらを含んでもよい。
【0114】
珪酸塩の具体例としては、例えば、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている次のような層状珪酸塩が挙げられる。
すなわち、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群等である。
【0115】
本発明で原料として使用する珪酸塩は、主成分の珪酸塩が2:1型構造を有する珪酸塩であることが好ましく、スメクタイト族であることが更に好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。層間カチオンの種類は、特に限定されないが、工業原料として比較的容易に且つ安価に入手し得る観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を層間カチオンの主成分とする珪酸塩が好ましい。
【0116】
(ii)イオン交換性層状珪酸塩の化学処理
本発明に係る触媒成分(B)のイオン交換性層状珪酸塩は、特に処理を行うことなくそのまま用いることができるが、化学処理を施すことが好ましい。ここでイオン交換性層状珪酸塩の化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と粘土の構造に影響を与える処理のいずれをも用いることができ、具体的には、酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理等が挙げられる。
【0117】
<酸処理>:
酸処理は、表面の不純物を取り除くほか、結晶構造のAl、Fe、Mg、等の陽イオンの一部または全部を溶出させることができる。
酸処理で用いられる酸は、好ましくは塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、シュウ酸から選択される。
処理に用いる塩類(次項で説明する)および酸は、2種以上であってもよい。塩類および酸による処理条件は、特には制限されないが、通常、塩類および酸濃度は、0.1〜50重量%、処理温度は、室温〜沸点、処理時間は、5分〜24時間の条件を選択して、イオン交換性層状珪酸塩から成る群より選ばれた少なくとも一種の化合物を構成している物質の少なくとも一部を溶出する条件で行うことが好ましい。また、塩類および酸は、一般的には水溶液で用いられる。
なお、本発明では、以下の酸類、塩類を組み合わせたものを処理剤として用いてもよい。また、これら酸類、塩類の組み合わせであってもよい。
【0118】
<塩類処理>:
本発明においては、塩類で処理される前の、イオン交換性層状珪酸塩の含有する交換可能な1族金属の陽イオンの40%以上、好ましくは60%以上を、下記に示す塩類より解離した陽イオンと、イオン交換することが好ましい。
このようなイオン交換を目的とした塩類処理で用いられる塩類は、1〜14族原子から成る群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、ハロゲン原子、無機酸および有機酸から成る群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンとから成る化合物であり、更に好ましくは、2〜14族原子から成る群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンとCl、Br、I、F、PO、SO、NO、CO、C、ClO、OOCCH、CHCOCHCOCH、OCl、O(NO、O(ClO、O(SO)、OH、OCl、OCl、OOCH、OOCCHCH、CおよびCから成る群から選ばれる少なくとも一種の陰イオンとから成る化合物である。
【0119】
このような塩類の具体例としては、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiSO、Li(CHCOO)、LiCO、Li(C)、LiCHO、LiC、LiClO、LiPO、CaCl、CaSO、CaC、Ca(NO、Ca(C、MgCl、MgBr、MgSO、Mg(PO、Mg(ClO、MgC、Mg(NO、Mg(OOCCH、MgC等が挙げられる。
また、Ti(OOCCH、Ti(CO、Ti(NO、Ti(SO、TiF、TiCl、Zr(OOCCH、Zr(CO、Zr(NO、Zr(SO、ZrF、ZrCl、ZrOCl、ZrO(NO、ZrO(ClO、ZrO(SO)、HF(OOCCH、HF(CO、HF(NO、HF(SO、HFOCl、HFF、HFCl、V(CHCOCHCOCH、VOSO、VOCl、VCl、VCl、VBr等が挙げられる。
【0120】
また、Cr(CHCOCHCOCH、Cr(OOCCHOH、Cr(NO、Cr(ClO、CrPO、Cr(SO、CrOCl、CrF、CrCl、CrBr、CrI、Mn(OOCCH、Mn(CHCOCHCOCH、MnCO、Mn(NO、MnO、Mn(ClO、MnF、MnCl、Fe(OOCCH、Fe(CHCOCHCOCH、FeCO、Fe(NO、Fe(ClO、FePO、FeSO、Fe(SO、FeF3、FeCl、FeC等が挙げられる。
【0121】
また、Co(OOCCH、Co(CHCOCHCOCH、CoCO、Co(NO、CoC、Co(ClO、Co(PO、CoSO、CoF、CoCl、NiCO、Ni(NO、NiC、Ni(ClO、NiSO、NiCl、NiBr等が挙げられる。
【0122】
さらに、Zn(OOCCH、Zn(CHCOCHCOCH、ZnCO、Zn(NO、Zn(ClO、Zn(PO、ZnSO、ZnF、ZnCl、AlF、AlCl、AlBr、AlI、Al(SO、Al(C、Al(CHCOCHCOCH、Al(NO、AlPO、GeCl、GeBr、GeI等が挙げられる。
【0123】
<アルカリ処理>:
酸、塩処理の他に、必要に応じて下記のアルカリ処理や有機物処理を行ってもよい。アルカリ処理で用いられる処理剤としては、LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、Ba(OH)などが例示される。
【0124】
<有機物処理>:
また、有機物処理に用いられる有機処理剤の例としては、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、N,N−ジメチルアニリニウム、トリフェニルホスホニウム、等が挙げられる。
また、有機物処理剤を構成する陰イオンとしては、塩類処理剤を構成する陰イオンとして例示した陰イオン以外にも、例えばヘキサフルオロフォスフェート、テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレートなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0125】
また、これらの処理剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの組み合わせは、処理開始時に添加する処理剤について組み合わせて用いてもよいし、処理の途中で添加する処理剤について、組み合わせて用いてもよい。また化学処理は、同一または異なる処理剤を用いて複数回行うことも可能である。
【0126】
これらイオン交換性層状珪酸塩には、通常、吸着水および層間水が含まれる。本発明においては、これらの吸着水および層間水を除去して成分(B)として使用するのが好ましい。
イオン交換性層状珪酸塩の吸着水および層間水の加熱処理方法は、特に制限されないが、層間水が残存しないように、また、構造破壊を生じないよう条件を選ぶことが必要である。加熱時間は0.5時間以上、好ましくは1時間以上である。その際、除去した後の成分(B)の水分含有率が、温度200℃、圧力1mmHgの条件下で2時間脱水した場合の水分含有率を0重量%とした時、3重量%以下、好ましくは1重量%以下、であることが好ましい。
【0127】
以上のように、本発明において、触媒成分(B)として、特に好ましいものは、塩類処理および/または酸処理を行って得られた、水分含有率が3重量%以下の、イオン交換性層状珪酸塩である。
【0128】
イオン交換性層状珪酸塩は、触媒形成または触媒として使用する前に、後述する成分(C)で処理を行うことが可能で、好ましい。イオン交換性層状珪酸塩1gに対する成分(C)の使用量に制限は無いが、通常20mmol以下、好ましくは0.5mmol以上、10mmol以下で行う。処理温度や時間の制限は無く、処理温度は、通常0℃以上、70℃以下、処理時間は10分以上、3時間以下で行う。処理後に洗浄することも可能で、好ましい。溶媒は後述する予備重合やスラリー重合で使用する溶媒と同様の炭化水素溶媒を使用する。
【0129】
また、成分(B)は、平均粒径が5μm以上の球状粒子を用いるのが好ましい。粒子の形状が球状であれば、天然物あるいは市販品をそのまま使用してもよいし、造粒、分粒、分別等により粒子の形状および粒径を制御したものを用いてもよい。
【0130】
ここで用いられる造粒法は、例えば攪拌造粒法、噴霧造粒法が挙げられるが、市販品を利用することもできる。
また、造粒の際に、有機物、無機溶媒、無機塩、各種バインダ−を用いてもよい。
上記のようにして得られた球状粒子は、重合工程での破砕や微粉の生成を抑制するためには0.2MPa以上、特に好ましくは0.5MPa以上の圧縮破壊強度を有することが望ましい。このような粒子強度の場合には、特に予備重合を行う場合に、粒子性状改良効果が有効に発揮される。
【0131】
(ハ)触媒成分(C)
本発明に用いられる触媒成分(C)は、有機アルミニウム化合物である。成分(C)として用いられる有機アルミニウム化合物は、一般式:(AlR113−qで示される化合物が適当である。
本発明では、この式で表される化合物を単独で、複数種混合してあるいは併用して使用することができることは言うまでもない。この式中、R11は、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Zは、ハロゲン、水素、アルコキシ基、アミノ基を示す。qは1〜3の、pは1〜2の整数を各々表す。R11としては、アルキル基が好ましく、またZは、それがハロゲンの場合には塩素が、アルコキシ基の場合には炭素数1〜8のアルコキシ基が、アミノ基の場合には炭素数1〜8のアミノ基が、好ましい。
【0132】
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルプロピルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム、トリノルマルデシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムジメチルアミド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、p=1、q=3のトリアルキルアルミニウム及びアルキルアルミニウムヒドリドである。さらに好ましくは、R11が炭素数1〜8であるトリアルキルアルミニウムである。
【0133】
(ニ)触媒の形成・予備重合について
本発明による触媒は、上記の各成分を(予備)重合槽内で、同時にもしくは連続的に、あるいは一度にもしくは複数回にわたって、接触させることによって形成させることができる。
各成分の接触は、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素溶媒中で行うのが普通である。接触温度は、特に限定されないが、−20℃から150℃の間で行うのが好ましい。接触順序としては、合目的的な任意の組み合わせが可能であるが、特に好ましいものを各成分について示せば次の通りである。
触媒成分(C)を使用する場合、成分(A)と成分(B)を接触させる前に、成分(A)と、あるいは成分(B)と、または成分(A)及び成分(B)の両方に成分(C)を接触させること、または、成分(A)と成分(B)を接触させるのと同時に成分(C)を接触させること、または、成分(A)と成分(B)を接触させた後に成分(C)を接触させることが可能であるが、好ましくは、成分(A)と成分(B)を接触させる前に、成分(C)といずれかに接触させる方法である。
また、各成分を接触させた後、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素溶媒にて洗浄することが可能である。
【0134】
本発明で使用する触媒成分(A)、(B)および(C)の使用量は任意である。例えば、成分(B)に対する成分(A)の使用量は、成分(B)1gに対し、好ましくは0.1μmol〜1000μmol、特に好ましくは0.5μmol〜500μmolの範囲である。成分(B)に対する成分(C)の使用量は、成分(B)1gに対し、好ましくはAlの量が0.01〜1000mmol、特に好ましくは0.05〜500mmolの範囲である。したがって、成分(A)に対する成分(C)の量は、遷移金属のモル比で、好ましくは0.01〜5×10、特に好ましくは0.1〜100、の範囲内が好ましい。
【0135】
本発明で使用する成分[A−1]と成分[A−2]の割合は、プロピレン系重合体の特性を満たす範囲において任意であるが、各成分[A−1]と[A−2]の合計量に対する[A−1]の遷移金属のモル比で、好ましくは0.30以上、0.99以下である。
成分[A−1]からは、低分子量の末端ビニルマクロマーを生成し、成分[A−2]からは、一部マクロマーを共重合した高分子量体を生成する。したがって、成分[A−1]の割合を変化させることで、生成する重合体の平均分子量、分子量分布、分子量分布の高分子量側への偏り、非常に高い分子量成分、分岐(量、長さ、分布)を制御することができ、そのことにより、歪硬化度、溶融張力、溶融延展性といった溶融物性を制御することができる。より高い溶融物性と高い触媒活性が必要な用途のプロピレン系重合体製造のために、特に好ましくは0.40以上であり、さらに好ましくは0.5以上である。また、上限値は、特に好ましくは0.90以下であり、更に好ましくは0.8以下の範囲である。
また、使用する水素量に対する、平均分子量と触媒活性のバランスを調整することが可能である。
【0136】
本発明に係る触媒は、これにオレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合処理に付される。予備重合処理を行うことにより、本重合を行った際に、ゲルの生成を防止できる。その理由としては、本重合を行った際の重合体粒子間で長鎖分岐が均一に分布させることができるためと、考えられ、また、そのことにより溶融物性を向上することができる。
【0137】
予備重合時に使用するオレフィンは、特に限定はないが、プロピレン、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等を例示することができる。オレフィンのフィード方法は、オレフィンを反応槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持するフィード方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせる等、任意の方法が可能である。予備重合温度、時間は、特に限定されないが、各々−20℃〜100℃、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が成分(B)に対し、好ましくは0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜50である。また、予備重合時に成分(C)を添加、又は追加することもできる。また、予備重合終了後に洗浄することも可能である。
【0138】
また、上記の各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、チタニア等の無機酸化物の固体を共存させる等の方法も可能である。
【0139】
(ホ)触媒の使用/プロピレン重合について
重合様式は、前記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒とモノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式を採用しうる。
具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いる、所謂バルク法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーをガス状に保つ気相法などが採用できる。また、連続重合、回分式重合を行う方法も適用される。また、単段重合以外に、2段以上の多段重合することも可能である。
【0140】
スラリー重合の場合は、重合溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族又は芳香族炭化水素の単独又は混合物が用いられる。
また、重合温度は、0℃以上150℃以下である。特に、バルク重合を用いる場合には、40℃以上が好ましく、更に好ましくは50℃以上である。また上限は80℃以下が好ましく、更に好ましくは75度以下である。
さらに、気相重合を用いる場合には、40℃以上が好ましく、更に好ましくは50℃以上である。また上限は100℃以下が好ましく、更に好ましくは90℃以下である。
【0141】
重合圧力は、1.0MPa以上5.0MPa以下である。特に、バルク重合を用いる場合には、1.5MPa以上が好ましく、更に好ましくは2.0MPa以上である。また上限は4.0MPa以下が好ましく、更に好ましくは3.5MPa以下である。
さらに、気相重合を用いる場合には、1.2MPa以上が好ましく、更に好ましくは1.5MPa以上である。また上限は3.0MPa以下が好ましく、更に好ましくは2.5MPa以下である。
【0142】
さらに、分子量調節剤として、また活性向上効果のために、補助的に水素を用いることができる。
水素は、プロピレンに対してフィード比で、0〜1mol%の範囲で用いるのがよく、好ましくは0.0001mol%以上であり、さらに好ましくは0.001mol%以上用いるのがよい。
使用する水素の量を変化させることで、生成する重合体の平均分子量の他に、分子量分布、分子量分布の高分子量側への偏り、非常に高い分子量成分、分岐(量、長さ、分布)を制御することができ、そのことにより、歪硬化度、溶融張力、溶融延展性といった溶融物性を制御することができる。
【0143】
また、プロピレンモノマー以外に、炭素数2〜20(モノマーとして使用するものを除く)程度のα−オレフィンをコモノマーとして使用する共重合を行ってもよい。プロピレン系重合体中の(総)コモノマー含量は、0モル%以上、20モル%以下の範囲であり、上記コモノマーを複数種使用することも可能である。具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンである。
この中では、本発明に係るプロピレン系重合体(B)を溶融物性と触媒活性をバランスよく得るためには、エチレンを5モル%以下で用いるのが好ましい。特に剛性の高い重合体をえるためには重合体中に含まれるエチレンを1モル%以下になるようにエチレンを用いるのがよく、更に好ましくはプロピレン単独重合である。
【0144】
(ヘ)重合メカニズムの考察
マクロマーの生成は、β−メチル脱離と一般に呼ばれる特殊な連鎖移動反応により生成すると、考えており、本発明では、特定の構造をもつ成分[A−1]は、比較的低温の温度領域(40℃〜80℃)で、成長停止反応中β−メチル脱離反応の選択性が高く、また、ポリマー成長反応に対するβ−メチル脱離反応の比が従来の構造の錯体と比べて、大きいことを、本発明者らは見出した。
従来は、β−メチル脱離反応を優先的に起こすために、プロピレン濃度の薄いスラリー重合での特殊な条件下(低圧、高温重合、水素無添加)でしか製造できなかったのに対して、本発明の特定の構造をもつ成分[A−1]を用いることにより、工業的に有効なバルク重合や気相重合によって、しかも実用的な圧力条件(1.0〜3.0MPa)および温度条件(40℃〜80℃)下で、製造が可能であることが分かった。
【0145】
さらに、驚くべきことに、水素を添加することで、従来の方法では、β−メチル脱離反応よりも水素による連鎖移動反応が優勢となるのに対し、原因は不明であるが、本発明に係るプロピレン系重合体(B)の製造法では、水素を添加してもマクロマー生成と生長反応のバランスの変化が小さい特徴があり、水素存在下でもマクロマーの選択性は、殆ど変わらないことが分かった。しかも、水素は活性向上効果を有する。
このことは、従来では特殊な条件(低圧、高温、水素無添加)であるマクロマー生成工程を経た後に、マクロマー共重合を行う多段重合を行わなければならなかったのに対し、成分[A−2]と組み合わせることにより、マクロマー生成工程とマクロマー共重合工程を同条件で行うことができる、つまり、同時重合、単段重合できることが分かった。
【0146】
一方、成分[A−2]は、特定の構造をもつことにより、ビニル構造の末端を生成する能力はなくても、マクロマーの共重合する能力が高く、更に、成分[A−1]と比べて、より高分子量の重合体を生成する能力を有する。また、水素を添加すると、活性向上し、水素による連鎖移動により分子量が低下する。
従来は、マクロマー生成とマクロマー共重合を単一の錯体で製造しているため、すなわち、成分[A−1]と成分[A−2]を同一の錯体で重合体を製造するため、マクロマー生成能力またはマクロマー共重合能力のどちらかが不十分であったり、高分子量側に分岐成分の導入量が不十分であったり、また、分子量の調整に水素を用いると、マクロマー自体の生成量が減少してしまうという問題点があった。
【0147】
しかしながら、本発明では、マクロマー生成能力を有する特定の構造の成分[A−1]と、高分子量でマクロマー共重合能力を有する特定の構造の成分[A−2]を、特定の方法で組み合わせた触媒として、使用することにより、バルク重合や気相重合といった工業的に有効な方法で、特に実用的な圧力温度条件下の単段重合で、しかも、分子量調整剤である水素を用いて、目的とする物性を有する長鎖分岐含有プロピレン系重合体(B)の製造が可能であることが分かった。
また、従来は、立体規則性の低い成分を使用して結晶性を落とすことによって、分岐生成効率を高めなければならなかったが、本発明の方法では、充分に立体規則性の高い成分を、側鎖に簡便な方法で導入することが可能となった。
【0148】
3.ノンハロゲン系難燃剤(C)
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物に用いられるノンハロゲン系難燃剤(C)としては、ノンハロゲン系であれば、一般的にポリオレフィン用の難燃剤として用いられるものであれば、いずれも用いることができる。
具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム等の水和金属化合物、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ビスフェノール−A−ビスジフェニルホスフェート、レゾルシノール−ビスジフェニルホスフェート等の有機リン酸エステル化合物、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸ピペラジン塩、オルトリン酸ピペラジン塩、ピロリン酸メラミン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、ポリリン酸メラミン塩、オルトリン酸メラミン塩、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等のリン酸塩化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。リン酸塩化合物が好ましい。
【0149】
上記リン酸塩化合物の例示において、メラミン、ピペラジンの代わりに、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、エチレンジジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−ジエチルエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノへプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9ージアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ノニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−エトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−プロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレート、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3−ヘキシレンジメランミン等を置き換えた化合物も同様に使用できる。市販品としては、旭電化社製・アデカスタブFP2000、FP2100、FP2200やポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0150】
4.難燃性ポリプロピレン樹脂組成物の構成成分の配合比
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物において、結晶性ポリプロピレン樹脂(A)60〜99重量%及びプロピレン系重合体(B)1〜40重量%からなるポリプロピレン樹脂成分100重量部に対して、ノンハロゲン系難燃剤(C)10〜50重量部含有することが重要であり、ノンハロゲン系難燃剤(C)は、好ましくは15〜45重量部、より好ましくは25〜35重量部である。難燃剤(C)の比率が10重量部未満では、充分な難燃性が得られなく、一方、50重量部を超えると、強度物性の低下及び経済的に不利となるので好ましくない。
【0151】
また、結晶性ポリプロピレン樹脂(A)とプロピレン系重合体(B)との組成は、(A)が60〜99重量%、好ましくは65〜95重量%、より好ましくは70〜90重量%、(B)が1〜40重量%、好ましくは5〜35重量%、より好ましくは10〜30重量%である。プロピレン系重合体(B)が1重量%未満では、ドリップ防止性が劣り、一方、40重量%を超えると、製品外観が低下するので好ましくない。
【0152】
5.金属酸化物(D)
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物には、上記の構成成分(A)、(B)、(C)以外に、金属酸化物(D)が含有されていてもよい。
金属酸化物(D)としては、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミ、酸化モリブデン等が挙げられる。より好ましい金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化鉄であり、平均粒径が30μm以下、好ましくは10μm以下、更に好ましくは1μm以下のものが好適である。金属酸化物の平均粒子径が30μmより大きい場合には、ポリオレフィン樹脂に対する分散性が悪くなり、高度な難燃性を得ることができなくなる。
【0153】
本発明において、金属酸化物(D)を使用する場合の配合量は、結晶性ポリプロピレン樹脂(A)及びプロピレン系重合体(B)からなるポリプロピレン樹脂成分100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましく、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。0.05重量部未満では、十分な添加による相乗難燃効果が得られず、一方、5重量部を超えて添加すると、経済性に不利となるので好ましくない。
【0154】
6.その他任意成分(E)
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の特性を付与するために、通常ポリオレフィンに使用する公知の任意の添加剤を配合することができる。例えば、酸化防止剤、加工安定剤、紫外吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、結晶化核剤、滑剤、ドリップ防止剤、金属不活性剤、着色顔料、各種無機充填剤、ガラス繊維等を添加することができる。
また、高密度ポリエチレン(HDPE)、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE),線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン・プロピレンゴム(EPR)、エチレン・ブテンゴム(EBR)、C2/C6共重合体、C2/C8共重合体、ポリスチレン、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン・ブタジエン共重合体水添物(SEBS)等の重合体を複合することも、可能である。さらに、ポリプロピレンの無水マレイン酸変性体、エチレン・プロピレン共重合体の無水マレイン酸変性体等の極性基含有の変性ポリオレフィンを複合することも、可能である。
【0155】
上記任意成分のうち、各種の安定剤等は、結晶性ポリプロピレン樹脂(A)及びプロピレン系重合体(B)からなるポリプロピレン樹脂成分100重量部に対して、通常0〜5重量部、無機充填剤や重合体系配合剤は、0〜30重量部の範囲で使用される。
【0156】
II.難燃性ポリプロピレン樹脂組成物の調製方法
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物の調製方法としては、特に限定されるものではない。例えば、結晶性ポリプロピレン樹脂(A)およびプロピレン系重合体(B)からなるポリプロピレン樹脂成分100重量部に対して、所定量のノンハロゲン系難燃剤(C)を混合し、必要に応じ、他の添加剤などの所定量を混合する。例えば、スーパーミキサー、タンブラーミキサー等の混合装置に各成分を入れ、1〜5分間混合したのち、得られた混合物を押し出し機、加熱ロール、ニーダーなどにより混練温度170〜230℃で溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。その中でも2軸による押し出し機混練が生産性、難燃特性面で好ましい。
また、ノンハロゲン系難燃剤(C)は、予め結晶性ポリプロピレン樹脂(A)に混合しておき、その後プロピレン系重合体(B)と混合してもよい。(A),(B),(C)を同時に混合してもよく、更に、各種添加剤を同時に混合してもよい。
【0157】
III.難燃性ポリプロピレン樹脂組成物の特徴、作用、用途
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物は、従来知られている難燃ポリオレフィン樹脂より優れた難燃性と耐ドリップ性を示し、かつ機械的強度に優れている。
その作用としては、明確ではないが、本発明者らは、次のように考察している。
すなわち、ポリプロピレン樹脂と共に各種の配合成分を溶融混練するに際し、結晶性ポリプロピレン樹脂(A)は溶融するが、プロピレン系重合体(B)も溶融し、プロピレン系重合体(B)が長鎖分岐型であるために、溶融樹脂の分散性や溶融張力を顕著に向上させることとなり、ドリップ防止の効果を発現する。
また、難燃剤として、リン酸塩系難燃剤などのノンハロゲン系難燃剤(C)を使用しているため、ハロゲン系難燃剤に比べて環境負荷が小さく、例えば、リン酸塩系難燃剤は、燃焼時に、ポリメタリン酸へと熱分解し、生成したリン酸層による保護層の形成と、ポリメタリン酸による脱水作用の結果、生成する炭素被膜の形成による酸素の遮断によって難燃効果を発揮する。
【0158】
さらに、本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物は、優れた機械的強度、成形性に加えて、優れた難燃性を有し、特に燃焼時のドリップ防止性に優れるため、自動車部品、電機部品、容器包装部材、建築用部材等に好適に利用できる。
【実施例】
【0159】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、難燃性ポリプロピレン樹脂組成物またはその構成成分についての諸物性は、下記の評価方法に従って測定、評価し、使用した樹脂として下記のものを用いた。また、特に断りのない限り実施例で示される部は重量部である。
【0160】
1.評価方法
(1)メルトフローレート(MFR):
JIS K6921−2の「プラスチック−ポリプロピレン(PP)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準拠して、メルトフローレート(試験条件:230℃、荷重2.16kgf)を測定した。単位はg/10分である。
(2)分子量及び分子量分布(Mw、Mn、Q値、α/β、W(200万以上)):
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、上記本明細書記載の方法で、測定した。
(3)ME(メモリーエフェクト):
タカラ社製のメルトインデクサーを用い、190℃でオリフィス径1.0mm、長さ8.0mm中を、荷重をかけて押し出し、押し出し速度が0.1g/分の時に、オリフィスから押し出されたポリマーを、エタノール中で急冷し、その際のストランド径の値をオリフィス径で除した値として算出した。この値は、Log(MFR)と相関する値であり、この値が大きいと、スウェルが大きく射出成形したときの製品外観がよくなることを示す。
【0161】
(4)mm分率:
日本電子社製、GSX−400、FT−NMRを用い、上記本明細書記載の方法で測定した。
(5)エチレン含量の測定:
13C−NMRを用いて検量線を作成し、IRを用いて測定した。
(6)伸長粘度:
上記本明細書記載の方法で測定した。
(7)組成分析:
JIS法による化学分析により検量線を作成し、蛍光X線により測定した。
(8)融点(Tm)および結晶化温度(Tc)
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を使用し、シート状にしたサンプル片を5mgアルミパンに詰め、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で20℃まで降温して、結晶化させた時の結晶最大ピーク温度(℃)として結晶化温度(Tc)を求め、その後、10℃/分で200℃まで昇温させた時の融解最大ピーク温度(℃)として融点(Tm)を求めた。
【0162】
(9)昇温溶出分別(TREF):
TREF測定方法は、下記の装置を用い、上記本明細書記載の方法である。
(i)TREF部
TREFカラム:4.3mmφ×150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー デジタルプログラム調節計KP1000(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃
温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ 4方バルブ
(ii)試料注入部
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
(iii)検出部
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル 光路長1.5mm 窓形状2φ×4mm長丸 合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(iv)ポンプ部
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
(v)測定条件
溶媒:o−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLのBHTを含む)
試料濃度:5mg/mL
試料注入量:0.1mL
溶媒流速 :1mL/分
【0163】
(10)難燃性:
樹脂温度220℃で成形した射出成形シートを用いて、UL94V試験(アンダーライター・ラボラトリーズコーポレイテッド)の「機器の部品用プレスチック材料の燃焼試験」に規定された垂直燃焼試験方法に準拠した。
(11)滴下性(ドリップ性):
樹脂温度200℃及び220℃で成形した射出成形シートを用いて、UL94V試験(アンダーライター・ラボラトリーズコーポレイテッド)の「機器の部品用プレスチック材料の燃焼試験」に規定された垂直燃焼試験方法に準拠し、下記の基準で評価した。
◎:滴下物なし
○:滴下物あり、但し、綿を着火させない
×:綿を着火する塊状滴下物あり
【0164】
(12)外観評価:
樹脂温度200℃で成形した射出成形シートを用いて、120mm×120mm×2mmの射出成形シートでの異物を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:ゲル状異物がなかったもの
△:0.2mm以上のゲル状異物が1個〜10個観察できたもの
×:0.2mm以上のゲル状異物が11個以上観察できたもの
【0165】
(13)曲げ弾性率
JIS K7203に準拠して23℃で測定した。成形品の寸法は90×10×4mmを用いた。単位:MPa。
【0166】
2.使用材料
(I)結晶性ポリプロピレン樹脂(A)
下記の製造例A1で製造した結晶性ポリプロピレン樹脂(A1)を用いた。
【0167】
<結晶性ポリプロピレン樹脂(A)の製造>
[製造例A1]:(A1)の製造
(チーグラー触媒の製造)
窒素置換した500ml内容積のガラス製三ツ口フラスコ(温度計、滴下ロート、攪拌棒付き)に、144mlの精製ヘプタンと58mlの四塩化チタンを加えた。また、滴下ロートには120mlのヘプタンと66mlのジエチルアルミニウムクロリドを仕込んだ。フラスコを−10℃に冷却し、120rpmの攪拌のもとで3時間でジエチルアルミニウムクロリドを滴下する。さらに、−10℃で1時間反応させたのち、系の温度を1時間でゆっくりと65℃に昇温した。65℃で1時間反応させたのち、デカンテーションにより上澄液を分離し、新しい精製ヘプタン200mlで5回洗浄した。つぎに、250mlのヘプタンと99mlのジイソアミルエーテルを添加し、35℃で1時間反応させた。反応終了後、先の四塩化チタンの還元時と同様に精製ヘプタン200mlで5回洗浄した。つぎに、150mlのヘプタンと116mlの四塩化チタンを加えて65℃で2時間反応させた。反応終了後、精製ヘプタン200mlで5回洗浄した。最後に、150mlのヘプタンとn‐ブタノール2.3mlを加え、室温で1時間反応させ、ヘプタン200mlで3回洗浄して、固体触媒成分とした。
【0168】
(プロピレンの重合)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブをプロピレンで充分置換した後、充分に脱水・脱酸素したn‐ヘプタン63リットルを導入し、ジエチルアルミニウムモノクロライドとエチルアルミニウムジクロライドとを混合し、室温で2時間撹拌し、均質化して調製したエチルアルミニウムクロリド50gおよび前記三塩化チタン組成物10gを65℃でプロピレン雰囲気下で導入した。第一段重合は、オートクレーブを70℃に昇温した後、水素濃度を5vol%に調節しながらプロピレンを9kg/hrの流量で導入することにより開始した。202分後、プロピレンの導入をやめ、さらに重合を70℃で90分継続させた。気相部プロピレンを0.2kg/cmGとなるまでパージした。第二段重合は、オートクレーブを65℃に降温した後、プロピレンを4.6kg/hr、エチレンを3kg/hrで導入して60分間実施した。
このようにして得られたスラリーをロ過・乾燥して粉末状のプロピレン・エチレンブロック共重合体を得た。同共重合体の[mm]は0.96、MFRは30g/10分であった。また、同共重合体は、一軸伸長粘度測定において、歪み硬化は起こさなかった(λmax=1.0)。
【0169】
(II)プロピレン系重合体(B)
下記の製造例B1〜B3で製造したプロピレン系樹脂(B1)〜プロピレン系樹脂(B3)を用いた。
【0170】
[触媒成分(A)の合成例1]:
(1)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウムの合成:(成分[A−1](錯体1)の合成):
(1−a)4−(4−t−ブチルフェニル)−インデンの合成:
1000mlのガラス製反応容器に、1−ブロモ−4−t−ブチル−ベンゼン(40g、0.19mol)、ジメトキシエタン(400ml)を加え、−70℃まで冷却した。ここに、t−ブチルリチウム−ペンタン溶液(260ml、0.38mol、1.46mol/L)を滴下した。滴下後、徐々に室温まで戻しながら5時間攪拌した。再び−70℃まで冷却し、そこにトリイソプロピルボレート(46ml、0.20mol)のジメトキシエタン溶液(100ml)を滴下した。滴下後、徐々に室温に戻しながら一夜攪拌した。
【0171】
反応液に蒸留水(100ml)を加え、30分間攪拌した後、炭酸ナトリウム50gの水溶液(150ml)、4−ブロモインデン(30g、0.15mol)、テトラキス(トリフェニルフォスフィノ)パラジウム(5g、4.3mmol)を順に加え、その後、低沸成分を除去し、80℃で5時間加熱した。
反応液を氷水(1L)中に注ぎ、そこから3回エーテル抽出を行い、エーテル層を飽和食塩水で中性になるまで洗浄した。ここに硫酸ナトリウムを加え一晩放置し反応液を乾燥させた。無水硫酸ナトリウムをろ過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、4−(4−t−ブチルフェニル)−インデン(37g、収率98%)を淡黄色液体として得た。
【0172】
(1−b)2−ブロモ−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデンの合成:
1000mlのガラス製反応容器に、4−(4−t−ブチルフェニル)−インデン(37g、0.15mol)、ジメチルスルホキシド(400ml)、蒸留水(11ml)を加え、そこにN−ブロモスクシンイミド(35g、0.20mol)を徐々に加え、そのまま室温で1時間攪拌した。
反応液を氷水(1L)中に注ぎ、そこから3回トルエンで抽出を行った。トルエン層を飽和食塩水で洗浄し、p−トルエンスルホン酸(4.3g、22mmol)を加え、水分を除去しながら2時間加熱還流させた。
反応液を分液ロートに移し食塩水で中性になるまで洗浄した。ここに硫酸ナトリウムを加え一晩放置し反応液を乾燥させた。無水硫酸ナトリウムをろ過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、2−ブロモ−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデン(46g、収率95%)を淡黄色固体として得た。
【0173】
(1−c)4−(4−t−ブチルフェニル)−2−(5−メチル−2−フリル)−インデンの合成:
1000mlのガラス製反応容器に、メチルフラン(13.8g、0.17mol)、ジメトキシエタン(400ml)を加え、−70℃まで冷却した。ここにn−ブチルリチウム−ヘキサン溶液(111ml、0.17mol、1.52mol/L)を滴下した。滴下後、徐々に室温まで戻しながら3時間攪拌した。再び70℃まで冷却し、そこにトリイソプロピルボレート(41ml、0.18mol)を含むジメトキシエタン溶液(100ml)を滴下した。滴下後、徐々に室温に戻しながら一夜攪拌した。
反応液に蒸留水(50ml)を加え、30分間攪拌した後、炭酸ナトリウム54gの水溶液(100ml)、2−ブロモ−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデン(46g、0.14mol)、テトラキス(トリフェニルフォスフィノ)パラジウム(5g、4.3mmol)を順に加え、その後、低沸成分を除去しながら加熱し80℃で3時間加熱した。
反応液を氷水(1L)中に注ぎ、そこから3回エーテル抽出を行い、エーテル層を飽和食塩水で中性になるまで洗浄した。ここに硫酸ナトリウムを加え一晩放置し反応液を乾燥させた。無水硫酸ナトリウムをろ過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、ヘキサンで再結晶を行い4−(4−t−ブチルフェニル)−2−(5−メチル−2−フリル)−インデン(30.7g、収率66%)を無色結晶として得た。
【0174】
(1−d)ジメチルビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}シランの合成:
1000mlのガラス製反応容器に、4−(4−t−ブチルフェニル)−2−(5−メチル−2−フリル)−インデン(22g、66mmol)、THF(200ml)を加え、−70℃まで冷却した。ここにn−ブチルリチウム−ヘキサン溶液(42ml、67mmol、1.60mol/L)を滴下した。滴下後、徐々に室温まで戻しながら3時間攪拌した。再び−70℃まで冷却し、1−メチルイミダゾール(0.3ml、3.8mmol)を加え、ジメチルジクロロシラン(4.3g、33mmol)を含むTHF溶液(100ml)を滴下した。滴下後、徐々に室温に戻しながら一夜攪拌した。
反応液に蒸留水を加え、分液ロートに移し食塩水で中性になるまで洗浄した。ここに硫酸ナトリウムを加え一晩放置し反応液を乾燥させた。無水硫酸ナトリウムをろ過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、ジメチルビス(2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル))−インデニル)シランの淡黄色固体(22g、収率92%)を得た。
【0175】
(1−e)rac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}]ハフニウムの合成:
500mlのガラス製反応容器に、ジメチルビス(2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル)シラン9.6g(13.0ミリモル)、ジエチルエーテル300mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。ここに1.59モル/リットルのn−ブチルリチウム−ヘキサン溶液16ml(26ミリモル)を滴下した。滴下後、室温に戻し3時間攪拌した。反応液の溶媒を減圧で留去し、トルエン250ml、ジエチルエーテル10mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。そこに、四塩化ハフニウム4.2g(13.0ミリモル)を加えた。その後、徐々に室温に戻しながら一夜攪拌した。
溶媒を減圧留去し、ジクロロメタン/ヘキサンで再結晶を行い、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}]ハフニウムのラセミ体(純度99%以上)を、黄橙色結晶として1.3g(収率22%)得た。
【0176】
得られたラセミ体についてのプロトン核磁気共鳴法(H−NMR)による同定値を以下に記す。
H−NMR(CDCl)同定結果]:
ラセミ体:δ0.95(s,6H),δ1.18(s,18H),δ2.09(s,6H),δ5.80(d,2H),δ6.37(d,2H),δ6.75(dd,2H),δ7.09(d,2H),δ7.34(s,2H),δ7.33(d,2H),δ7.35(d,4H),δ7.87(d,4H)。
【0177】
[触媒成分(A)の合成例2]:
(1)rac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウムの合成:(成分[A−1](錯体2)の合成):
(1−a)ジメチルビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}シランの合成:
特開2004−124044号公報の実施例1に記載の方法に従って、合成を行った。
【0178】
(1−b)rac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウムの合成:
100mlのガラス製反応容器に、ジメチルビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}シラン5.3g(8.8ミリモル)、ジエチルエーテル150mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。ここに1.50モル/リットルのn−ブチルリチウム−ヘキサン溶液12ml(18ミリモル)を滴下した。滴下後、室温に戻し16時間攪拌した。反応液の溶媒を20ml程度まで減圧濃縮し、トルエン200mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。そこに、四塩化ハフニウム2.8g(8.7ミリモル)を加えた。その後、徐々に室温に戻しながら3日間攪拌した。
溶媒を減圧留去し、ジクロロメタン/ヘキサンで再結晶を行い、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウムのラセミ体(純度99%以上)を黄橙色結晶として2.9g(収率39%)得た。
【0179】
得られたラセミ体についてのプロトン核磁気共鳴法(H−NMR)による同定値を以下に記す。
H−NMR(CDCl)同定結果]
ラセミ体:δ1.12(s,6H),δ2.42(s,6H),δ6.06(d,2H),δ6.24(d,2H),δ6.78(dd,2H),δ6.97(d,2H),δ6.96(s,2H),δ7.25〜δ7.64(m,12H)。
【0180】
[触媒成分(A)の合成例3]:
(1)rac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウムの合成:(成分[A−1](錯体3)の合成):
rac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウムの合成は、特開平11―240909号公報の実施例1に記載の方法と同様に、実施した。
【0181】
[触媒合成例1]:
(1−1)イオン交換性層状珪酸塩の化学処理:
セパラブルフラスコ中で蒸留水3456gに96%硫酸(1044g)を加えその後、層状珪酸塩としてモンモリロナイト(水沢化学社製ベンクレイSL:平均粒径19μm)600gを加えた。このスラリーを0.5℃/分で1時間かけて90℃まで昇温し、90℃で120分反応させた。この反応スラリーを1時間で室温まで冷却し、蒸留水2400g加えた後にろ過したところケーキ状固体1230gを得た。
次に、セパラブルフラスコ中に、硫酸リチウム648g、蒸留水1800gを加え硫酸リチウム水溶液としたところへ、上記ケーキ上固体を全量投入し、更に蒸留水522gを加えた。このスラリーを0.5℃/分で1時間かけて90℃まで昇温し、90℃で120分反応させた。この反応スラリーを1時間で室温まで冷却し、蒸留水1980g加えた後にろ過し、更に蒸留水でpH3まで洗浄し、ろ過を行ったところ、ケーキ状固体1150gを得た。
得られた固体を窒素気流下130℃で2日間予備乾燥後、53μm以上の粗大粒子を除去し、更に215℃、窒素気流下、滞留時間10分の条件でロータリーキルン乾燥することにより、化学処理スメクタイト340gを得た。
この化学処理スメクタイトの組成は、Al:7.81重量%、Si:36.63重量%、Mg:1.27重量%、Fe:1.82重量%、Li:0.20重量%であり、Al/Si=0.222[mol/mol]であった。
【0182】
(1−2)触媒調製及び予備重合:
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上で得られた化学処理スメクタイト10gを入れ、ヘプタン(65mL)を加えてスラリーとし、これにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を34.6mL)を加えて1時間攪拌後、ヘプタンで1/100まで洗浄し、全容量を100mLとなるようにヘプタンを加えた。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記触媒成分(A)の合成例1で作製したrac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)インデニル}]ハフニウム(105μmol)をトルエン(30mL)に溶解し(溶液1)、更に、別のフラスコ(容積200mL)中で、前記触媒成分(A)の合成例3で作製したrac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム(45μmol)をトルエン(12mL)に溶解した(溶液2)。
【0183】
先ほどの化学処理スメクタイトが入った1Lフラスコにトリイソブチルアルミニウム(0.6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.83mL)を加えた後、上記溶液1を加え、さらに5分後に上記溶液2加えて、1時間室温で攪拌した。
その後、ヘプタンを356mL追加し、このスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にしたのちプロピレンを10g/時の速度でフィードし、2時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、50℃に昇温し、オートクレーブ内の圧力が0.05MPaになるまで残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を8.3mL)を加えて5分攪拌した。
この固体を2時間減圧乾燥することにより、乾燥予備重合触媒27.5gを得た。予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は1.75であった(予備重合触媒1)。
【0184】
[触媒合成例2]:
上記触媒合成例1の(1−2)触媒調製及び予備重合において、前記触媒成分(A)の合成例2で作製したrac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム(135μmol)をトルエン(38mL)に溶解して、溶液1とし、前記触媒成分(A)の合成例3で作製したrac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム(15μmol)をトルエン(4mL)に溶解して溶液2として使用する以外は、触媒合成例1と同様の実験をおこなった。
そうしたところ、乾燥予備重合触媒28.4gを得た。予備重合倍率は1.84であった(予備重合触媒2)。
【0185】
[製造例B1]:
3Lオートクレーブを加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させた後、プロピレンで槽内を置換して室温まで冷却した。トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(143mg/mL)2.86mLを加えた後、水素を120Nml導入した。次いで液体プロピレン750gを導入した後、75℃まで昇温した。
その後、予備重合触媒1を、予備重合ポリマーを除いた重量で120mgを高圧アルゴンで重合槽に圧送し、重合を開始した。75℃で3時間保持した後、エタノール5mlを圧入して重合を停止した。そうしたところ456gの重合体(B1)が得られた。
【0186】
[製造例B2]:
3Lオートクレーブを加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させた後、プロピレンで槽内を置換して室温まで冷却した。トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(143mg/mL)2.86mLを加えた後、水素を300Nml導入した。次いで液体プロピレン750gを導入した後、75℃まで昇温した。
その後、予備重合触媒1を、予備重合ポリマーを除いた重量で100mgを高圧アルゴンで重合槽に圧送し、重合を開始した。75℃で1時間保持した後、エタノール5mlを圧入して重合を停止した。そうしたところ405gの重合体(B2)が得られた。
【0187】
[製造例B3]:
3Lオートクレーブを加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させた後、プロピレンで槽内を置換して室温まで冷却した。トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(143mg/mL)2.86mLを加えた後、水素を450Nml導入した。次いで液体プロピレン750gを導入した後、70℃まで昇温した。
その後、予備重合触媒2を、予備重合ポリマーを除いた重量で100mgを高圧アルゴンで重合槽に圧送し、重合を開始した。70℃で1時間保持した後、エタノール5mlを圧入して重合を停止した。そうしたところ315gの重合体(B3)が得られた。
【0188】
(市販品)
PF814(電子線照射品):
B4として、バゼル社製の高溶融張力ポリプロピレン(MFR=2.3g/10min)を用いた。
【0189】
上記の原料樹脂について、物性・商品名などを表1にまとめた。
【0190】
(III)ノンハロゲン系難燃剤(C)
ノンハロゲン系難燃剤(C)として、下記のリン系難燃剤(C1)を用いた。
(C1)リン酸塩系難燃剤として、旭電化社製「アデカスタブFP2000」を使用した。
なお、当該難燃剤の物性として、融点なし(250℃以上で分解)、窒素含量20〜23重量%、リン含量18〜21重量%である。
【0191】
[実施例1]
ポリプロピレン樹脂として上記で得た(A1)を90重量%、プロピレン系重合体(B)として上記で得た(B1)を10重量%、リン酸塩系難燃剤として上記(C1)を30重量部、及びその他の添加剤として、ペンタエリスリチルーテトラキス[3−(3,5―ジーt−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、酸化防止剤イルガノックス1010)を0.2重量部、トリス(2,4−ジーt―ブチルフェニル)フォスファイト(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、加工安定剤イルガフォス168)を0.2重量部、ステアリン酸カルシウムを0.05重量部、それぞれヘンシェルミキサーに入れ、3分間撹拌混合した。得られた混合物を口径30mmの2軸押し出し機を使用して200℃で溶融混練押し出し、ペレット化した。得られたペレットを80℃で4時間乾燥したのち、型締め圧100tの射出成形機を用い、成型温度(樹脂温度)200℃及び220℃、金型冷却温度40℃の設定条件下で1.5mm厚みのUL94V用試験片を作成した。また、同条件下(樹脂温度は200℃)で120mm×120mm×2mmの射出成形シートを成形し外観評価用に使用した。
【0192】
難燃性ポリプロピレン樹脂組成物の配合処方及び該組成物の難燃性評価結果などを表2に示した。
【0193】
[実施例2〜7]
表1に示した配合原料を使用し、表2に示した配合処方に従って、実施例1と同様にして他の添加剤も配合して、撹拌・混合及び溶融混練してペレット化した。得られたペレットから試験片を作成して実施した難燃性評価結果などを表2に示した。
【0194】
[比較例1〜4]
表1に示した配合原料を使用し、表2に示した配合処方に従って、実施例1と同様にして他の添加剤も配合して、撹拌・混合及び溶融混練してペレット化した。得られたペレットから試験片を作成して実施した難燃性評価結果などを表2に示した。
【0195】
【表1】

【0196】
【表2】

【0197】
表2の対比から次のことが明らかとなった。
(1)プロピレン系重合体(B)を配合しないと、優れた難燃性は達成されない(比較例1)。
(2)プロピレン系重合体(B)の配合量が多すぎると、優れた製品外観は得られない(比較例2)。
(3)プロピレン系重合体(B)の代わりに、市販のPF814(電子線照射品)を配合した場合は、難燃性が劣り、また、優れた製品外観は得られない(比較例3)。
(4)市販のPF814(電子線照射品)を主成分とした樹脂混合物に、難燃剤を配合した場合は、優れた製品外観は得られない(比較例4)。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物は、優れた機械的強度、成形性に加えて、優れた難燃性を有し、特に燃焼時のドリップ防止性に優れるため、自動車部品、電機部品、容器包装部材、建築用部材等に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】GPCにおける分子量分布曲線の一例を示す図である。
【図2】GPCにおけるクロマトグラムのベースラインと区間の説明の図である。
【図3】GPCにおける[A−1]由来、[A−2]由来の分子量分布の一例を示す図である。
【図4】一軸伸長粘度計で測定された伸長粘度の一例を示すプロット図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFR(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜80g/10分、アイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上の結晶性ポリプロピレン樹脂(A)60〜99重量%及び下記(i)〜(vi)に規定する要件を満たすプロピレン系重合体(B)1〜40重量%からなるポリプロピレン樹脂成分100重量部に対して、ノンハロゲン系難燃剤(C)10〜50重量部含有することを特徴とする難燃性ポリプロピレン樹脂組成物。
(i)メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.1g/10分以上、100g/10分以下である。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Q値)が3.5以上、10.5以下である。
(iii)GPCによって得られる分子量分布曲線において、全量に対して、分子量(M)が200万以上の成分の比率が0.4重量%以上、10重量%未満である。
(iv)オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下である。
(v)13C−NMRで測定するアイソタクチックトライアッド分率(mm)が0.95以上である。
(vi)伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が6.0以上である。
【請求項2】
プロピレン系重合体(B)は、さらに、下記(vii)に規定する要件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物。
(vii) (ME) ≧ −0.26×log(MFR)+1.9
[式中、ME(メモリーエフェクト)は、オリフィスが長さ8.00mm、径1.00mmφのメルトインデクサーを用いて、シリンダー内温度を190℃に設定して、荷重をかけ、押し出し速度が0.1g/分の時に、オリフィスから押し出されたポリマーをエタノール中で急冷し、その際の押出物のストランド径をオリフィス径で除した値とする。]
【請求項3】
プロピレン系重合体(B)は、さらに、下記(viii)に規定する要件を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物。
(viii)GPCによって得られる分子量分布曲線において、ピーク位置に相当する分子量の常用対数をTp、ピーク高さの50%高さとなる位置の分子量の常用対数をL50及びH50(L50はTpより低分子量側、H50はTpより高分子量側)とし、α及びβをそれぞれα=H50−Tp、β=Tp−L50と定義したとき、α/βが0.9より大きく、2.0未満である。
【請求項4】
ノンハロゲン系難燃剤(C)は、リン酸塩系難燃剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性ポリプロピレン樹脂組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−275073(P2009−275073A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125560(P2008−125560)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】