説明

難燃性ポリ乳酸組成物

【課題】製造時や廃棄処理をする場合においても環境負荷を低減することができるポリ乳酸を含有し、難燃性を有し、しかも優れた靭性を有する成形体を得ることができる難燃性ポリ乳酸組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸(A)、金属水和物(B)、柔軟成分(C)、可塑剤(D)、及び炭化剤(E)を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、炭化剤(E)が、軟化点が110℃以上220℃以下であるフェノールノボラック樹脂を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリ乳酸組成物に関し、より詳しくは、靭性に優れる難燃性ポリ乳酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油原料の代替として、バイオプラスチックであるポリ乳酸樹脂が注目され、その実用化が各種用途で盛んに行われ、一部では、既に製品化されている。その用途としては、容器包装や農業用フィルム等のように使用期間が短く、廃棄を前提とした用途や、家電製品やOA機器のハウジング及び自動車用部品等のように、初期の特性を長期間保持できるような高機能用途まで、実に多岐に亘っている。
【0003】
しかしながらポリ乳酸は燃えやすい樹脂のため、人々の安全を脅かす災害の原因ともなるので、家電製品やOA機器のハウジングや自動車部品等のように、高度な難燃性が要求される用途に使用する場合には、難燃化対策が必要である。また、その成形体は高い難燃性のみではなく、靭性(曲げ破断歪みが大きいこと)を備えていることが、実用化に当たり重要である。
【0004】
ポリ乳酸の難燃化については、難燃化効率の高い臭素化合物等のハロゲン系難燃剤を樹脂に配合する方法が考えられる。しかし、ポリエステル系樹脂の代表であるポリカーボネート樹脂にハロゲン系難燃剤を添加した場合には、再利用を目的として溶融混練を反復して行うと、樹脂が劣化して、難燃性や耐衝撃性等の物性が低下する問題がある。同様のエステル結合を有するポリ乳酸に、ハロゲン系難燃剤を使用すると、ポリカーボネート樹脂と同様に、溶融混練を反復したとき、物性が低下することが懸念される。
【0005】
ポリ乳酸の難燃化対策として、例えば、ポリ乳酸に、リン系化合物、水和物系化合物(水酸化アルミニウム等の金属水和物)及びシリカ系化合物から選ばれる少なくとも一種の難燃系添加剤を使用した生分解性樹脂組成物(特許文献1)が報告されている。一般的に、リン系化合物は樹脂を可塑化しやすく、樹脂の流動性の向上には極めて効果的である。しかし、その反面で、可塑化の影響によって樹脂組成物の荷重たわみ温度(HDT)等を指標とする耐熱性や機械特性が低下する場合がある。
【0006】
一方、ポリ乳酸の熱分解の要因となるアルカリ成分を低減した金属水和物と、炭化剤としてフェノール類樹脂を併用した難燃系添加剤(特許文献2)が報告されている。これによると、水酸化アルミニウム等の無機難燃剤を50質量%程度添加し、それに加えて、低分子量のフェノール樹脂等を炭化剤として併用すると、ポリ乳酸の難燃性を更に、高められることが示されている。また、ポリ乳酸に金属水和物を添加すると樹脂組成物の靭性が大きく低下してしまうため、その対策として、公知の柔軟成分や可塑剤を併用すればよいことが示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載される樹脂組成物では、家電製品やOA機器のハウジングや自動車部品等の大きな靭性が要求される用途に対応できないという問題がある。その理由は、柔軟成分や可塑剤は燃え易い素材であるため、組成物の靭性を向上させるためにその添加量を増大すると、組成物の難燃性が低下するからである。このため、上記の用途にポリ乳酸を適用するためには、柔軟成分や可塑剤を増量することなく、組成物の靭性を改善できる方法を開発することが課題であった。
【0008】
また、組成物の難燃性が更に高められれば、その適用可能な用途が広がるために望ましい。しかし、その対策として金属水和物を増量すること、及び、柔軟成分や可塑剤を減量することは、何れもポリ乳酸の成形体の靭性を低下させる原因となるので望ましくない。従って、金属水和物を増量することや、柔軟成分や可塑剤を減量することなく、組成物の難燃性を改善できる方法を開発することが課題としてある。
【0009】
即ち、金属水和物を増量することや、柔軟成分や可塑剤の添加量を変えることなく、難燃性と靭性と両方を改良したポリ乳酸組成物の開発が要請されている。
【特許文献1】特開2003−192925号公報
【特許文献2】WO2005/061626
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、製造時や廃棄をする場合において環境負荷を低減することができるポリ乳酸を含有し、難燃性を有し、しかも優れた靭性を有する成形体を得ることができる難燃性ポリ乳酸組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはポリ乳酸の難燃化について、フェノールノボラック樹脂を採用して鋭意研究を行った。フェノールノボラック樹脂によるポリ乳酸組成物の難燃性の改良の仕組みについては、特許文献2に記載されている通り、ポリ乳酸に低分子量のフェノールノボラック樹脂を金属水和物と共に添加することで、フェノールノボラック樹脂に由来する炭化物及び溶融した樹脂が、金属水和物及び生成した金属酸化物と複合化して、特有の複合層を形成することが分かっている。この複合層は、ポリ乳酸組成物中の樹脂成分の分解ガス(可燃性ガス含有)を捕捉して、分解ガスが外部へ拡散するのを抑制し樹脂の延焼を阻害する。また、金属水和物の熱分解で発生する水分や樹脂成分の分解ガスの捕捉によって膨張して着火の熱を効率的に遮断できる断熱層を形成するため、結果として組成物の難燃性を向上させることができると考えられている。
【0012】
本発明者らは、研究の結果、高分子量で且つ低分子量成分を低減したフェノールノボラック樹脂を用いると、従来の低分子量のフェノールノボラック樹脂を添加する場合に比べて炭化物の生成量を増大させることができることを見出した。この炭化物の増量でポリ乳酸組成物の樹脂成分から発生した易燃性の分解ガスの捕捉力が増大することで、分解ガスの外部への拡散をより高度に抑制し、樹脂の延焼を抑制する効果と、金属水和物の熱分解で発生する水分や樹脂成分の分解ガスの捕捉によって膨張して着火の熱を遮断できる断熱層を形成する効果が高くなり、結果として組成物の難燃性を従来より改善できるという知見を得た。
【0013】
また、高分子量でかつ低分子量成分を低減したフェノールノボラック樹脂をポリ乳酸に添加することにより、得られる成形体の靭性が高くなることを見出した。この理由として、高分子量のフェノールノボラック分子がポリ乳酸の分子間に溶け込み、ポリ乳酸が結晶化する際に、ポリ乳酸の複数の結晶に跨って配置されることで、結果として結晶の粒界を接続するような配置を取り、ポリ乳酸の粒界における破壊を抑制することができ、得られる成形体の曲げ破断歪みが大きくなることが考えられる。このような靭性の向上の効果は、従来の低分子量のフェノールノボラック樹脂では、分子鎖の長さが不足し、ポリ乳酸の結晶の粒界を接続するような配置を取ることができなかったところ、高分子量で且つ低分子量成分を低減したフェノールノボラック樹脂により初めて得られ、成形体の靭性を大きく改良できることの知見を得た。これらの知見に基づき、難燃性と靭性に優れるポリ乳酸組成物に関する本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸(A)、金属水和物(B)、柔軟成分(C)、可塑剤(D)、及び炭化剤(E)を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、炭化剤(E)が、軟化点が110℃以上220℃以下であるフェノールノボラック樹脂を含むポリ乳酸組成物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリ乳酸組成物は、製造時や廃棄をする場合においても環境負荷を低減することができるポリ乳酸を含有し、難燃性を有し、しかも優れた靭性を有する成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸(A)、金属水和物(B)、柔軟成分(C)、可塑剤(D)、及び炭化剤(E)を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、炭化剤(E)が、軟化点が110℃以上220℃以下であるフェノールノボラック樹脂を含むことを特徴とする。
【0017】
[ポリ乳酸(A)]
本発明の難燃性ポリ乳酸組成物に用いるポリ乳酸(A)としては、バイオマス原料から得られる抽出物やこれらの誘導体若しくは変性体、又は、バイオマス原料から得られるモノマー、オリゴマーや、これらの誘導体若しくは変性体を用いて合成される縮重合物の他、バイオマス原料以外を原料とする合成物であってもよい。ポリ乳酸(A)としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、これらの共重合体であってもよく、乳酸と他のモノマー、例えば、乳酸とエステル形成能を有するヒドロキシカルボン酸等との共重合体を含むものであってもよい。かかるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸等を挙げることができる。これらのポリ乳酸は側鎖を有するものであっても、また架橋構造を有するものであってもよい。これらのポリ乳酸の分子量はいずれであってもよく、流動性を高めるために低分子量とすることも、また、溶融張力を高めるために高分子量とすることもできる。
【0018】
本発明の難燃性ポリ乳酸組成物中には、上記ポリ乳酸以外の樹脂成分を含有していてもよい。かかる樹脂成分としては、石油由来の樹脂、バイオマス由来の高分子化合物等いずれであってもよく、本発明の難燃性ポリ乳酸組成物における難燃性と靭性を阻害しない範囲で含有することができる。石油由来の樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート系樹脂、イソシアネート系樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、熱硬化型ポリアミド、スチリルピリジン系樹脂、ニトリル末端型樹脂、付加硬化型キノキサリン、付加硬化型ポリキノキサリン樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱硬化性樹脂を使用する場合は、硬化反応に必要な硬化剤や硬化促進剤を使用することが好ましい。ポリ乳酸以外のバイオマス由来の高分子化合物としては、例えば、トウモロコシや芋等に含まれる糖質を出発原料として得られる、コハク酸から得られるポリブチレンサクシネート等のエステル類を挙げることができる。また、澱粉、アミロース、セルロース、セルロースエステル、キチン、キトサン、ゲランガム、カルボキシル基含有セルロース、カルボキシル基含有デンプン、ペクチン酸、アルギン酸等の多糖類、リグニン等の植物原料を使用した熱硬化性樹脂も使用することができる。ポリブチレンサクシネートは、後述する柔軟成分(C)として使用することもできる。
【0019】
また、バイオマス由来の高分子化合物として、微生物により合成されるヒドロキシブチレート及び/またはヒドロキシバリレートの重合体であるポリベータヒドロキシアルカノエート(ゼネカ社製、商品名:バイオポール等)等も挙げることができる。
【0020】
[金属水和物(B)]
上記金属水和物(B)は、加熱により分解する際の吸熱作用によってポリ乳酸組成物を冷却したり、その際生成する水蒸気によりポリ乳酸組成物から生成する可燃性ガスを希釈する機能を有するものであり、例えば、ポリ乳酸組成物の混練や成形時の上限温度である210℃以上の温度で分解するものが好ましい。金属水和物(B)としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム、水和石膏、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ砂、カオリンクレー、炭酸カルシウム等を挙げることができ、これらの表面をエポキシ樹脂やフェノール樹脂等で表面処理したもの、金属を固溶化させたもの等を用いることができる。これらのうち、水酸化アルミニウムは吸熱効果が高く、難燃性に優れるので特に好ましい。
【0021】
上記金属水和物(B)の50質量%粒径が0.5μm以上、20μm以下の範囲であることが好ましい。金属水和物(B)がこのような粒子径を有することにより、ポリ乳酸組成物中での分散性が良好で、難燃性の向上効果が得られる。金属水和物(B)の50質量%粒径が0.5μm以上であれば、ポリ乳酸組成物の粘度が上昇して成形性が低下するのを抑制することができ、混練時や成形時にポリ乳酸組成物に負荷されるせん断力の上昇を抑制し、結果として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))等のドリップ防止剤や、耐熱性や耐衝撃性の改良を目的として添加されるガラス繊維や樹脂繊維等の無機質や有機質の繊維状物質の損傷を抑制し、難燃性や機械特性の向上を図ることができる。金属水和物(B)の50質量%粒径が20μm以下であれば、得られる成形体の表面性状も優れ、表面に凹凸が発生して意匠性の低下を抑制することができる。
【0022】
かかる50質量%粒径は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定により測定した測定値を採用することができる。
【0023】
上記金属水和物(B)は、アルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下であると、ポリ乳酸組成物に添加する際、混練時及び成形時においてポリ乳酸の分子量が低下するのを抑制することができ、耐加水分解性が良好となり、結果としてポリ乳酸組成物の難燃性の低下を抑制することができるため、好ましい。
【0024】
上記金属水和物(B)のポリ乳酸組成物中の含有量は、39.5質量%以上、70質量%以下の範囲であると、難燃性と成形性が良好なので特に好ましい。金属水和物(B)の含有量が39.5質量%以上であれば、充分な難燃性が得られ、70質量%以下であれば、充分な流動性が得られ、高度な成形性が要求される薄肉成形体であっても良好な成形を行うことができる。
【0025】
[柔軟成分(C)]
柔軟成分(C)は、ポリ乳酸(A)よりも常温での弾性率が低い有機物であることが好ましい。かかる有機物として、ポリ乳酸と相溶化が可能な単位と柔軟性を示す単位を有する重合体であることが好ましい。柔軟成分(C)としては、例えば、乳酸とグリコール類と直鎖状飽和ジカルボン酸の3成分のモノマーからなる共重合体を挙げることができる。共重合体の単位のグリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等を例示することができる。また、共重合体の単位の直鎖状飽和ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等を例示することができる。柔軟成分(C)として、上記以外に、ポリブチレンサクシネート、ブチレンサクシネートと乳酸の共重合体、ポリカプロラクトン、カプロラクトンと乳酸の共重合体、天然ゴム、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリエステルセグメントとポリエーテルセグメントとポリヒドロキシカルボン酸セグメントとから選ばれる2以上のセグメントを有するブロック共重合体、ポリ乳酸セグメントと芳香族ポリエステルセグメントとポリアルキレンエーテルセグメントとを有するブロック共重合体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を主成分とする重合体、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレングリコール及びそのエステル等を用いることができる。
【0026】
柔軟成分(C)のポリ乳酸組成物中の含有量は、ポリ乳酸(A)との質量比が、95:5〜50:50の範囲、好ましくは、92:8〜70:30範囲であることが、靭性を有する成形体が得られることから好ましい。
【0027】
[可塑剤(D)]
可塑剤(D)は、広義には、離型効果を兼ね備えた「滑剤」も含み、ポリ乳酸(A)や必要に応じて添加されるポリマ−の分子間に浸透してポリマー間の分子間力を弱め、分子鎖の運動をしやすくする化合物であることが好ましい。可塑剤(D)としては、具体的には、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート、ジエチルサクシネート、ビスメチルジエチレングリコールアジペート、ベンジル−2−(2−メトキシエトキシ)エチルアジペート等の脂肪族二塩基酸エステル、ジトリデシルフタレート、ジノルマルオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等のフタル酸エステル、トリノルマルオクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート及びトリス(2−エチルヘキシル)トリメリテート等のトリメリット酸エステル、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル、メチルアセチルリシノレート等のリシノール酸エステル、ポリ(1,3−ブタンジオールアジペート)等の脂肪族ポリエステル、ポリグリセリン酢酸エステル、エポキシ化大豆油等のエポキシ化ポリエステル、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化亜麻仁油脂肪酸ブチル、グリセリルトリアセテート、2−エチルヘキシルアセテート等の酢酸エステル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミド、塩素化パラフィン、アルキルナフテン炭化水素等の流動パラフィン、n−パラフィン等のパラフィンワックス、低分子量ポリエチレン、部分酸化型ポリエチレン等のポリエチレンワックス、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の脂肪族アルコール、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸、ひまし油由来の12−ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ脂肪酸、ステアリン酸メチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル、モノステアリン酸エチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコール等の脂肪酸エステル、12−ヒドロキシステアリン酸メチル、12−ヒドロキシステアリン酸ステアリル、モノ−12−ヒドロキシステアリン酸エチレングリコール、モノ−12−ヒドロキシステアリン酸プロピレングリコール等のヒドロキシ脂肪酸エステル、ステアリルアミド、N−ヒドロキシエチル−リシノレイルアミド、N−ヒドロキシエチル−12−ヒドロキシステアリルアミド、N,N’−エチレン−ビス−オレイルアミド、N,N’−エチレン−ビス−リシノレイルアミド、N,N’−エチレン−ビス−オクタデカジエニルアミド、N,N’−エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、N,N’−エチレン−ビス−ステアリルアミド、N,N’−ヘキサメチレン−ビス−リシノレイルアミド、N,N’−ヘキサメチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、N,N’−キシリレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド等の脂肪酸アミド、脂肪族石鹸等を挙げることができる。
【0028】
可塑剤(D)のポリ乳酸組成物中の含有量は、5質量%以下であることが、充分な難燃性を得るために、好ましい。
【0029】
[炭化剤(E)]
炭化剤(E)は、軟化点が110℃以上220℃以下であるフェノールノボラック樹脂を含む。フェノールノボラック樹脂はフェノールとホルムアルデヒドとの共重合体であり、このような軟化点を有するフェノールノボラック樹脂は加熱により炭化物を多量に発生し、金属水和物(B)から生成される水蒸気と、ポリ乳酸から生じる易燃性の分解ガスとを捕捉して膨張し、外部への拡散を阻害し、着火の熱を遮断できる断熱層を形成する機能を有する。フェノールノボラック樹脂の軟化点が110℃以上であれば、フェノールノボラック樹脂の分子はポリ乳酸の結晶の粒界を接続可能な長さの分子鎖を有し、得られる成形体において靭性を向上させることができる。一方、フェノールノボラック樹脂の軟化点が、220℃以下であれば、ポリ乳酸中におけるフェノールノボラック樹脂の分散性が良好であり、組成物中に均一に分散され、難燃性の向上を図ることができる。フェノールノボラック樹脂の軟化点が、120℃以上、150℃以下であると上記の効果をより顕著に得られるため、好ましい。フェノールノボラック樹脂をその軟化点で特定する理由は、分子量の増加に伴い軟化点が上昇する傾向があるためである。上記軟化点を有するフェノールノボラック樹脂の分子量としては、高分子量で、且つ低分子量成分を低減したものが好ましく、ゲルろ過クロマトグラフ測定における、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が1500以上、数平均分子量が、800以上であるものを挙げることができる。
【0030】
ここで、軟化点は、JIS K 6910に準拠した方法により測定した測定値を採用することができ、融点測定装置の毛細管の内壁と試料の接触部分に僅かに浸潤又は崩壊を認めた時点の温度とすることができる。
【0031】
フェノールノボラック樹脂は酸化され、変色を生じやすいので、意匠性が要求される用途では、酸化防止剤を併用することが好ましい。また、フェノール樹脂の着色の原因は、フェノール性水酸基がキノンに変化することがその一つとして挙げられる。このため、成形体に意匠性が要求される場合、フェノールノボラック樹脂の水酸基を保護基で保護して使用することが好ましい。保護基としては、例えば、グリシジル化、エチレンオキサイド化等を挙げることができる。
【0032】
炭化剤(E)としては、フェノールノボラック樹脂の他、フェノールノボラック樹脂の機能を阻害しない炭化剤を用いることができる。炭化剤として、具体的には、クレゾールノボラック樹脂、フェノールキシレンアラルキル型樹脂、フェノールビフェニレンアラルキル型樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂、ビスフェノールS型フェノール樹脂、ビフェニル異性体のジヒドロキシエーテル型フェノール樹脂、ナフタレンジオール型フェノール樹脂、フェノールジフェニルエーテルアラルキル型樹脂、ナフタレン含有ノボラック型樹脂、アントラセン含有型ノボラック樹脂、フルオレン含有ノボラック型樹脂、ビスフェノールフルオレン含有ノボラック型樹脂、ビスフェノールF含有ノボラック型フェノール樹脂、ビスフェノールA含有ノボラック型フェノール樹脂、フェノールビフェニレントリアジン型樹脂、フェノールキシリレントリアジン型樹脂、フェノールトリアジン型樹脂、トリスフェニロールエタン型樹脂、テトラフェニロールエタン型樹脂、ポリフェノール型樹脂、芳香族エステル型フェノール樹脂、環状脂肪族エステル含有フェノール樹脂、エーテルエステル型フェノール樹脂及びフェノキシ樹脂などを挙げることができる。また、その他のフェノール類として、ビフェノール、キシレノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、カテコールやカテコール樹脂を挙げることができる。さらに、カテコールと芳香族類の誘導体を共重合させて得られる、カテコールビフェニレンアラルキル樹脂やカテコールキシレンアラルキル樹脂等も使用できる。加えて、リグニンやその類縁体、例えば、リグノフェノール類を使用してもよい。
【0033】
フェノールノボラック樹脂のポリ乳酸組成物中の含有量としては、0.1質量%以上、20質量%以下の範囲であることが、金属水和物(B)の使用量を低減して、ポリ乳酸組成物の流動性を付与し、得られる成形体に、難燃性及び靭性に加え、耐熱性を付与することができるため、好ましい。フェノールノボラック樹脂の含有量が0.1質量%以上であれば、難燃性と靭性の向上効果が得られ、20質量%以下であれば、耐熱性、特に荷重たわみ温度(HDT)の低下を抑制することができる。また、フェノールノボラック樹脂以外の炭化剤の含有量としては、フェノールノボラック樹脂と同様に、ポリ乳酸組成物中0.1質量%以上、20質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0034】
[添加剤]
上記ポリ乳酸組成物には、上記構成物質の機能を阻害しない範囲で、添加物を含有させることができる。かかる添加物としては、ドリップ防止剤を挙げることができる。ドリップ防止剤は、燃焼時にドリップ(滴下)を抑制する機能を有するものである。ドリップ防止剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びアクリル変成したPTFE等の有機繊維が好ましい。これらのドリップ防止剤を使用する場合は、ポリ乳酸樹脂組成物中、ドリップ防止剤の含有量が1質量%以下であることが好ましい。これらのドリップ防止剤の含有量が1質量%以下であれば、ペレットを作成する際に造粒性が良好である。
【0035】
また、添加物として、高強度繊維を使用することができる。高強度繊維を用いることにより衝撃強度を向上させることができる。高強度繊維としては、アラミド繊維やナイロン繊維等のポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等のポリエステル繊維、超高強度ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等を挙げることができる。また、無機系の繊維として、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維等を挙げることができる。アラミド繊維やポリアリレート繊維は芳香族化合物であり、他の繊維に比べ耐熱性が高く、且つ高強度であること、淡色であることから樹脂に添加しても意匠性を損なわず、比重も低いことから、特に好ましい。高強度繊維の形状は、繊維断面が円形ではなく、楕円、多角形、不定形、若しくは凹凸のある形状、両端部分を中心部より太くしたような一種のくさび形状や、一部にくびれがあるもの、非直線状の縮れた形状を有するもの、アスペクト比が高いもの、繊維径の小さいものが、樹脂との接合面積が大きくなり、繊維とマトリックス樹脂の脱結合効果が増大し、繊維の引き抜き時の摩擦が増大し衝撃緩和効果が増し、衝撃強度が向上するため、好ましい。
【0036】
また、高強度繊維には必要に応じて、マトリックス樹脂との親和性又は繊維間の絡み合いを高めるために、表面処理を施すことができる。表面処理方法としては、充填材の表面改質に使用できる処理方法を適用することができ、例えば、シラン系、チタネート系等のカップリング剤による処理、オゾンやプラズマ処理、さらには、アルキルリン酸エステル型の界面活性剤による処理等が有効である。
【0037】
また、上記高強度繊維の他、植物繊維も使用できる。かかる植物繊維とは、植物に由来する繊維をいい、具体的には、木材、ケナフ、竹、麻、亜麻等から得られる繊維を挙げることができ、これらを脱リグニンや脱ペクチンして得られるパルプ等も、熱による分解や変色が少ないため好ましく使用することができる。ケナフや竹は光合成速度が速く成長が速く、二酸化炭素を多量に吸収できることから、地球温暖化、森林破壊という環境問題の対応策の一つとしてもこれらを使用することは好ましい。また、これらの繊維は、樹脂の結晶核剤として作用して、ポリ乳酸組成物の荷重たわみ温度を上昇する等耐熱性を向上させ得る。これらの繊維は、平均繊維長が10mm以下のものが好ましい。
【0038】
また、上記添加物として、耐加水分解抑制剤を用いることができる。ポリ乳酸を始めとしてポリエステル樹脂に含まれるエステル結合は、一般的に、加水分解しやすいので、耐加水分解抑制剤を用いることによりこれらの加水分解を抑制することができる。加水分解抑制剤としては、ポリエステル樹脂に含まれる活性水素を含有する官能基と反応性を有する化合物を使用することができる。ポリエステル樹脂に含まれる官能基としては、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基等を挙げることができ、これらの官能基と反応性を有する化合物としては、特許文献2に記載の、カルボジイミド化合物、脂肪族炭素鎖を有するカルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン系化合物を挙げることができる。
【0039】
上記添加物として、難燃助剤を用いることができる。難燃助剤として、樹脂分の炭化を促進する、炭化促進触媒を挙げることができ、具体的には、モリブデン酸亜鉛やスズ酸亜鉛等の化合物、これらの化合物を、例えば、タルク表面に被覆させたもの等を例示することができる。
【0040】
更に必要に応じて、上記物質の機能を阻害しない範囲で、他の難燃剤を添加剤として適宜配合してもよい。難燃剤としては、窒素系難燃剤やリン系難燃剤等を挙げることができる。具体的には、メラミンやイソシアヌル酸化合物等の窒素系難燃剤、赤燐、燐酸化合物、有機リン化合物等のリン系難燃剤を挙げることができる。これらの難燃助剤や他の難燃剤は、繊維等に予め含有させて使用することもできる。
【0041】
その他、添加剤として、必要に応じて、無機フィラー、補強材、酸化チタン等の着色剤、ラジカル補足剤や酸化防止剤等の安定剤、抗菌剤や防かび材等を用いることができる。無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、砂、粘土、鉱滓等を挙げることができる。補強材としては針状無機物等、抗菌剤としては、銀イオン、銅イオン、これらを含有するゼオライト等を挙げることができる。
【0042】
本発明のポリ乳酸組成物の製造方法としては、上記各成分を、公知の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、単軸や二軸の混練機等による混合機や押出機、ロール等による溶融混合機を用いて混合する方法を挙げることができる。
【0043】
本発明のポリ乳酸組成物を用いて成形体を製造する方法としては、射出成形法、フィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法等を使用することができ、公知の射出成形機、射出・圧縮成形機、圧縮成形機等を用いることができる。これらの溶融混合や成形時における温度については、マトリックスとなるポリ乳酸の溶融温度以上で、植物繊維や樹脂等の添加物が熱劣化しない範囲で適宜選択することができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【0045】
[実施例1]
[ポリ乳酸組成物の調製]
表1に示す原材料を用いて組成物を調製した。ポリ乳酸(A)を44質量%、金属水和物(B)として水酸化アルミニウムを49.5質量%、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレンを0.5質量%、有機結晶核剤としてエチレンビス12ヒドロキシステアリルアミドを1質量%、炭化剤(E)として軟化点150℃のフェノールノボラック樹脂(表中、「高分子量品」と表記)を5質量%を、組成物の温度が約190℃になるように、設定した二軸タイプの混練機を用いて、溶融混合し、射出成形用ペレットを調製した。
【0046】
【表1】

【0047】
[評価用サンプルの作製]
得られた射出成形用ペレットを100℃で7時間以上乾燥して、金型温度を100℃、バレル温度を190℃に設定した射出成形機を用いて、厚さ1.6mm及び3.2mmの板状に成形し、金型内でポリ乳酸を結晶化させ、ポリ乳酸成形体の評価用サンプル1を調製した。
【0048】
[難燃性の評価]
作製した1.6mm厚の評価用サンプルについて、UL(Underwriter Laboratories)94規格の垂直燃焼試験を実施して、難燃性を表2に示す基準により評価を行った。表2に示す基準に該当しない場合は、NOTと表記した。ちなみに、難燃性が良好な順から悪い順に並べると、V−0、V−1、V−2、NOTとなる。結果を表3に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
[曲げ特性の評価]
3.2mm厚の評価用サンプルを用い、JISK 7171に準拠して、3点曲げ特性を測定した。測定条件は、支点間距離を50mmとして、曲げ強度(MPa)と曲げ弾性率(GPa)、及び曲げ破断歪み(%)を測定した。結果を表3に示す。
【0051】
[実施例2〜12、比較例1〜11]
表3〜6に示す原料を用いた他は、実施例1と同様にして、評価用サンプルを作製し、難燃性、曲げ特性の評価を行った。結果を表3〜6に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
結果から、本発明のポリ乳酸組成物は、従来のポリ乳酸組成物と比較して、難燃性に優れていることが分かる。炭化剤(E)として用いるフェノールノボラック樹脂(以下、フェノールノボラック樹脂(E)という。)を添加した実施例では、靭性が改良されているのに対し、従来のフェノールノボラック樹脂を添加した比較例では靭性の改善は認められないことが分かった。
【0057】
また、ポリ乳酸(A)として、高分子量タイプのポリ乳酸や架橋構造を一部取り入れた変性ポリ乳酸を用いた場合でも、フェノールノボラック樹脂(E)を用いた実施例4〜6では、従来のフェノールノボラック樹脂を用いた比較例5〜7と比較して、難燃性と靭性に優れたポリ乳酸組成物が得られることが分かる。
【0058】
実施例4、7〜9、比較例5、8〜10から、ポリ乳酸組成物において、フェノールノボラック樹脂(E)の使用による難燃性と靭性の向上の効果を得るためには、金属水酸化物(B)、柔軟成分(C)、可塑剤(D)を併用することが必要であることが分かる。更に、実施例4、10〜12と、比較例5、11とから、軟化点が110℃以上、220℃以下のフェノールノボラック樹脂(E)を使用することにより、難燃性と靭性に優れたポリ乳酸樹脂組成物が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリ乳酸組成物は、電化製品の筐体等の電気・電子機器、建材、自動車部品、日用品、医療、農業等の各種分野において、生分解性であって、難燃性及び靭性に優れ、実用可能な成形体の製造に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)、金属水和物(B)、柔軟成分(C)、可塑剤(D)、及び炭化剤(E)を含有する難燃性ポリ乳酸組成物であって、炭化剤(E)が、軟化点が110℃以上220℃以下であるフェノールノボラック樹脂を含むことを特徴とする難燃性ポリ乳酸組成物。
【請求項2】
金属水和物(B)が、アルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下である水酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1記載の難燃性ポリ乳酸組成物。
【請求項3】
柔軟成分(C)が、ポリ乳酸と相溶化が可能な単位及び柔軟性を示す単位を有する重合体を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性ポリ乳酸組成物。
【請求項4】
可塑剤(D)が、ポリ乳酸(A)の分子間に浸透してポリマー間の分子間力を弱め、分子鎖の運動をしやすくする化合物を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の難燃性ポリ乳酸組成物。

【公開番号】特開2009−161658(P2009−161658A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−673(P2008−673)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】