説明

難燃性樹脂組成物、その製造方法およびその成形方法

生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂成分と、難燃性を付与する成分とを混練して、難燃性を有する樹脂組成物を得る。この樹脂組成物は、地球環境に優しい樹脂であるポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートのような生分解性樹脂または植物由来の樹脂を、家庭電化製品の外装体等に適用することを可能にする。特にポリ乳酸を使用する場合には、難燃性成分としてアセチルアセトナト鉄を使用することにより、優れた難燃特性を有する樹脂組成物を、非ハロゲン系材料として提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂および植物資源を原料とした樹脂に難燃性を付与した樹脂組成物、その製造方法、およびその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、土中に埋め立てると、バクテリア作用によって分解する樹脂(またはプラスチック)が注目されている。生分解性樹脂(または生分解性プラスチック)と呼ばれるこれら樹脂は、好気性バクテリア存在下で分解し、水(HO)と二酸化炭素(CO)に分解する特性を有する。生分解性樹脂は、農業分野において実用化され、また、使い捨て商品の包装材、およびコンポスト対応ゴミ袋等の材料として実用化されている。
【0003】
生分解性樹脂が土中バクテリアにより分解される性質を利用して、これを廃棄処理する場合には、従来の焼却処理と比較して、格段にCO排出量を小さくすることが可能である。したがって、生分解性樹脂は、地球温暖化防止対策の観点から、その使用が着目されている。生分解性樹脂を用いた商品は、例えば農業分野において使用する場合には、使用済みプラスチックを回収する必要がないため、ユーザーにとっても、好都合な場合がある。これらの理由により、生分解性樹脂の市場は拡大しつつある。
【0004】
さらに、近年、植物由来の樹脂もまた、電子機器および自動車の分野において着目されつつある。植物由来の樹脂は、植物原料から得られるモノマーを重合または共重合させることにより得られる。植物由来の樹脂は、石油資源に頼ることなく製造されること、原料となる植物が二酸化炭素を吸収して成長すること、および焼却処理により廃棄する場合でも、一般に燃焼カロリーが小さく、発生するCO量が少ないこと等の理由により、地球環境に優しい樹脂として注目されている。植物由来の樹脂は一般に生分解性を有するが、石油資源の枯渇防止という観点だけから見れば、必ずしも生分解性を有する必要はない。即ち、環境保護に寄与する樹脂には、生分解性樹脂に加えて、生分解性を有しない植物由来の樹脂も含まれることとなる。そこで、以下の説明を含む本明細書において、生分解性樹脂(石油由来および植物由来のものを含む)と植物由来ではあるが生分解性を有しない樹脂とを総称するために、便宜的に「環境樹脂」という用語を使用する。
【0005】
現在、環境樹脂として使用されているものは、ポリ乳酸系(以下、「PLA」と略す)、PBS系(ポリブチレンサクシネート(1,4ブタンジオールとコハク酸の共重合樹脂))、PET系(ポリエチレンテレフタレート)の3つに大別される。それぞれの特徴を、下記表1に示す。
【0006】
【表1】

【0007】
これらの樹脂のうち、PLAは、前述した植物由来の樹脂に該当する。PLAは、トウモロコシまたはサツマイモ等の植物が作り出す糖分を原料として、化学合成することにより製造可能であり、工業的生産の可能性を有する。そのような植物由来の樹脂を含むプラスチックはバイオプラスチックとも呼ばれる。PLAはトウモロコシを原料とした大量生産が開始されたことから特に着目されており、生分解性を要する用途のみならず、多種多様の用途にPLAを応用しうる技術を開発することが望まれている。
【0008】
しかしながら、これらの環境樹脂を既存の材料と置き換えて使用するには、その特性を改善する必要がある。下記表2に、一般的な樹脂である、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(以下、ABSと記す)の物性と、環境樹脂であるポリ乳酸(PLA)およびポリブチレンサクシネート(PBS)の物性を示す。「曲げ弾性率」および「曲げ強度」は剛性を表し、数値が大きいほど高剛性である。「アイゾット衝撃強さ」は、試験片が衝撃荷重を受けて破壊するときの破壊エネルギーを示し、数値が大きいほど衝撃が加えられたときに割れにくいものである。「熱変形温度」は、樹脂の変形が開始する温度であり、数値が高いほど高温条件での使用が可能となる。
【0009】
【表2】

【0010】
この表より、PLAは硬くてもろいことが、PBSはやわらかいことがわかる。また熱的特性を比較すると、PLAは耐熱性に乏しく、PBSはABS以上の耐熱性を有することがわかる。
【0011】
このような環境樹脂の特性を改善する方法として、他の成分を配合する方法が提案されている。例えば、PLAの耐熱性を向上させるために、PLAに合成マイカを0.5−20wt%程度配合することが、特開2002−173583号公報(特許文献1)で提案されている。特開2002−173583号公報は、生分解性樹脂の加水分解(生分解作用)を抑制する添加剤(例えば、カルボジイミド化合物)を配合することをも提案している。
【0012】
また、PLAにケナフ繊維を配合することで、パソコン外装体への応用の可能性を報告した例がある(芹沢他,“ケナフ繊維強化ポリ乳酸の開発“(第14回プラスチック成形加工学会年次大会講演予稿集,第161頁−162頁,2003年(非特許文献1))。具体的には、ケナフ繊維を配合したPLA樹脂を成形した後、アニール工程を追加すると、PLA樹脂の耐熱性を改善でき、PLAをパソコン外装体に応用する可能性が高くなるとの報告がなされている。
【特許文献1】特開2002−173583号公報
【非特許文献1】芹沢他,“ケナフ繊維強化ポリ乳酸の開発“(第14回プラスチック成形加工学会年次大会講演予稿集,第161頁−162頁,2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記文献に記載の樹脂組成は、耐熱性向上を目的として提案された組成であり、家庭電化製品の外装体に応用するのに必要不可欠な難燃性を付与することについて言及していない。実際のところ、上記文献に記載の樹脂組成は難燃性を有していない。したがって、従来提案されたPLA組成物は、内部に高電圧部分を有するテレビジョンセット等の電化製品の外装体に適用することができない。また近年の電化製品は安全性を重視し、内部に高電圧素子を有しない機器においても難燃性を有する樹脂を採用する傾向にある。したがって、環境樹脂は、たとえ剛性、衝撃強さ及び耐熱性等において満足する特性を有するとしても、難燃性を有しない限りにおいて、その有用性は極めて低い。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、環境樹脂に難燃性を付与して、例えば電化製品の外装体として有用な環境樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため検討した結果、本発明者らは、環境樹脂の難燃性が、通常の樹脂と同様、難燃剤を添加し混合することによって向上しうることを見出した。即ち、本発明は、生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂成分と、難燃性を付与する成分とを含む樹脂組成物を提供する。
【0016】
ここで、「生分解性樹脂」とは、使用後は自然界において微生物が関与して低分子化合物に分解し、最終的には水と酸素に分解する樹脂を意味し、「植物由来の樹脂」とは、植物原料から得られるモノマーを重合させて、または当該モノマーと他のモノマー(植物由来でなくてもよい)とを共重合させて得られる樹脂を意味する。植物由来の樹脂には、生分解性を有するものと有しないものとがあり、生分解性を有する植物由来の樹脂は、ここでいう「生分解性樹脂」に分類してもよい。ここでは、環境保護の観点から、生分解性を有する樹脂か、あるいは植物由来の樹脂を重合体成分として使用することを明確にするために、これら2種類の樹脂を並列的に記載していることに留意されたい。また、本明細書において、「樹脂」という用語は、樹脂組成物中の重合体を指すために用いられ、「樹脂組成物」は樹脂を少なくとも含む組成物を指す。プラスチックとは、必須成分として重合体を含む物質をいう。本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と難燃性を付与する成分とを含むから、プラスチックと呼べるものである。
【0017】
「難燃性」とは、点火源を取り除いた後は燃焼を継続しない又は残燼を生じない性質をいう。難燃性を付与する成分は、具体的には難燃剤である。本発明で使用される難燃剤は、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤、シリコーン系難燃剤、および金属錯体から選択される1または複数の難燃剤である。環境樹脂、特に植物由来の樹脂の難燃剤としては、金属錯体が好ましく用いられる。特に、アセチルアセトナト鉄、アセチルアセトナトコバルトおよびアセチルアセトナト銅は、植物由来の樹脂に対して極めて良好な難燃性を付与するので、好ましく用いられる。
【0018】
本発明は、ポリ乳酸(PLA)、乳酸共重合体もしくはポリブチレンサクシネート(PBS)、またはこれらの混合物を樹脂成分として含む場合に好ましく用いられ、ポリ乳酸を樹脂成分として含む場合に特に好ましく用いられる。前述したように、ポリ乳酸(PLA)は、大量生産可能な植物由来の樹脂として、家庭用電化製品の筐体等に使用することが提案されている。したがって、これに難燃性を付与することにより、その有用性をさらに向上させることができる。
【0019】
本発明はまた、難燃性樹脂組成物の製造方法として、生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂と、難燃性を付与する成分とを混練することを含む製造方法を提供する。混練工程は、プラスチックの製造時または成形時に必要不可欠な工程であり、樹脂成分を溶解させて実施する。したがって、混練工程において難燃性を付与する成分を混合すれば、難燃性を付与する成分を配合する別の工程が発生せず、製造コストをそれほど上昇させずに難燃性の環境樹脂を得ることができる。
【0020】
さらに、本発明は、難燃性樹脂組成物の成形方法として、生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂と、難燃性を付与する成分とを混練して得た組成物を、射出または圧縮成形法により成形することを含む成形方法を提供する。即ち、本発明の難燃性樹脂組成物は、常套的に用いられているプラスチック成形品用の生産設備を大きく変更することなく、常套の方法に従って成形することができる。したがって、本発明の難燃性樹脂組成物を使用すれば、一般的な熱可塑性プラスチックから生分解性プラスチックまたは植物由来のプラスチックに原料を切り替えることを容易に実施できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、地球環境にやさしい生分解性樹脂および植物由来の樹脂に、製造工程を増加させることなく難燃性を付加することが可能となる。その結果、これらの樹脂を含むプラスチックを、電化製品等の外装体として使用することが可能となるので、本発明の難燃性樹脂組成物は工業的価値が大きく有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の難燃性樹脂組成物を製造する方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
前述したように、本発明の難燃性樹脂組成物は、生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される1または複数の樹脂を樹脂成分として含み、さらに難燃性を付与する成分を含む。まず、樹脂成分について説明する。
【0024】
生分解性樹脂および植物由来の樹脂としては公知のものを任意に使用できる。生分解性樹脂としては、例えば、石油化学原料から製造される、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)およびポリエチレンテレフタレート(PET)、ならびに微生物が生成するポリヒドロキシ酪酸(PHB)等が挙げられる。PCL、PBSおよびPETは、植物原料から得たモノマーを重合したものであってよい。植物由来の樹脂として代表的なものは、ポリ乳酸(PLA)および乳酸共重合体である。PLAおよび乳酸共重合体は、トウモロコシまたはサツマイモ等から得られるデンプンまたは糖類を発酵させて得られる乳酸を原料とし、これを重合することにより得られる樹脂である。PLAは、加水分解型の生分解性樹脂であるが、生分解性が好まれない用途においては加水分解性を低下させる化合物が添加して使用されこともある。その場合には生分解性が低いかあるいは生分解性を有しない。しかし、前述したように、植物由来の樹脂は、生分解性の有無にかかわらず、石油資源を利用しない、燃焼熱量が小さい、および原料となる植物が二酸化炭素を吸収して成長する等の理由により、環境保護の観点から本発明において好ましく使用される。
【0025】
本発明においては、樹脂成分としてPBSまたはPLAが好ましく使用され、特にPLAまたはPLAと他の樹脂とを混合したものが好ましく使用される。PLAは、優れた透明性および剛性を有するので、これから成る成形品は種々の用途に使用することができる。一方、PLAは、耐熱性および耐衝撃性が低く、射出成形性がやや低いという短所を有する。そのため、PLAは、特に射出成形する場合には、他の樹脂および/または改質剤を混合して使用することが好ましい。例えば、PBSは耐熱性に優れ、かつそれ自体生分解性を有するので、PLAに混合するのに適している。具体的には、PLAとPBSとは、95:5〜55:45(重量比)の割合で混合することが好ましい。あるいは、ポリ乳酸改質剤として市販されているものを使用して、PLAを改質してよい。
【0026】
樹脂成分は、必要に応じて、生分解性樹脂および植物由来の樹脂以外の樹脂(例えば、生分解性を有しない、石油化学材料を原料とする樹脂)を含んでよい。そのような樹脂は、樹脂成分全体の45wt%までの割合で含まれることが望ましい。生分解性を有さず、植物由来でもない樹脂が多く含まれることは、環境保護の観点から望ましくなく、また、後述するアセチルアセトナト鉄等の金属錯体を使用して難燃性を付与する場合に、組成物の難燃性が低くなることがある。
【0027】
次に、難燃性を付与する成分について説明する。難燃性を付与する成分(「難燃成分」とも言う)としては、前述したように難燃剤として公知であるハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤、およびシリコーン系難燃剤に加えて、超強酸塩、脱水素触媒、および金属錯体が挙げられる。
【0028】
ハロゲン系難燃剤としては、具体的には、例えば、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、デカブロモジフェニルオキサイド(DBDPO)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、オクタブロモジフェニルオキサイド(OBDPO)、ビストリブロモフェノキシエタン(BTBPE)、トリブロモフェノール(TBP)、エチレンビステトラブロモフルタルイミド、TBAポリカーボネートオリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBAエポキシオリゴマー、TBAエポキシポリマー、TBAビスブロモプロピルエーテル、エチレンビスペンタブロモジフェニル、ポリブロモフェニルオキサイド、およびヘキサブロモベンゼン等の臭素系難燃剤、ならびに塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカンおよびクロレンド酸等の塩素系難燃剤を使用できる。
【0029】
リン系難燃剤としては、具体的には、例えば、TPP、トリアリルホスフェート、芳香族リン酸エステル、2エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、TCP、クレジルフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス−β−クロロプロピルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、含ハロゲン縮合リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩、および赤リン等を使用できる。
【0030】
無機系難燃剤としては、例えば、Mg(OH)、Al(OH)、Sb、グアニジン酸、Sb、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、およびスズ酸亜鉛等を使用できる。
【0031】
上記以外の難燃成分を以下に例示する。超強酸塩を難燃成分として使用する場合には、フルオロブタンスルホン酸カリウム塩、フルオロメタンスルホン酸カリウム塩、フルオロメタンスルホン酸ナトリウム塩、硫酸担持酸化鉄、およびタングステン酸担持酸化鉄等を使用できる。また、脱水素触媒系の難燃成分として、酸化クロム、銅クロム、酸化銅、酸化鉄、酸化ランタン、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、銅−クロム触媒、酸化パラジウム、ピロリン酸スズ、酸化タンタル、酸化チタン、ピロリン酸チタン、酸化タングステン、ピロリン酸亜鉛、ピロリン酸ジルコニウム、酸化バナジウムおよび酸化亜鉛等を使用できる。また、金属錯体を難燃成分として使用する場合には、アセチルアセトナト鉄、アセチルアセトナトコバルト、アセチルアセトナト銅、ジメチルチオカルバミン酸鉄、ベンゾイルアセトネート鉄、トリスジベンゾイルメタナト鉄、およびエチレンジアミン四酢酸銅等を使用できる。クレー系の難燃成分としては、例えば、スメクタイトおよびモンモリナイト等を使用できる。イントメッセント系の難燃成分としては、例えば、ポリリン酸のアンモニウム塩(APP)とペンエリスリトール(PER)の組合せを使用できる。樹脂を難燃成分として使用する場合には、ポリフェニレンエーテル(PPE)およびポリカーボネート(PC)等を使用できる。さらに、その他の難燃成分としては、例えば、ジメチルシリコーン、およびメチルフェニルシリコーン等のシリコーン系難燃剤、臭酸化芳香族トリアジンおよび複合型難燃剤が挙げられる。上記において具体的に例示した化合物以外の化合物であっても、樹脂組成物に所望の難燃性を付与できる限りにおいて、使用してよいことに留意されたい。また、本発明の樹脂組成物においては、2以上の難燃剤を組み合わせて使用してよく、その場合、各難燃剤の割合は所望の難燃性に応じて任意に設定してよい。
【0032】
上述した難燃成分のうち、生分解性樹脂および植物由来の樹脂、特に植物由来の樹脂に添加されると、少量で高い難燃効果を発揮するものとしては、酸化亜鉛、および酸化バナジウム、ならびにアセチルアセトナト鉄、エチレンジアミン四酢酸銅、アセチルアセトナト銅、およびベンゾイルアセトネート鉄等の金属錯体が挙げられる。したがって、これらの難燃成分を使用すれば、難燃成分の添加量を小さくできるから、難燃成分の添加に起因する樹脂組成物の物理的な物性の変化(例えば曲げ強度および弾性率の低下)を小さくできる。また、難燃成分の添加量を小さくすると、この樹脂組成物をリサイクルして使用することがより容易となる。アセチルアセトナト鉄(Fe(acac))は、公知のハロゲン系難燃剤およびリン系難燃剤と比較して、特に植物由来の樹脂(具体的にはポリ乳酸)に対してより高い難燃効果を付与するので、好ましく使用される。
【0033】
難燃成分の混合割合は、難燃成分の種類、樹脂成分の種類、樹脂組成物に必要とされる難燃性の度合い、および難燃成分の添加による樹脂組成物の物性の変化量に応じて決定される。具体的には、例えば、樹脂組成物中、難燃成分は5wt%〜40wt%程度を占めることが好ましい。難燃成分の割合が5wt%未満であると、顕著な難燃性向上効果を得られにくく、40wt%を越えると、難燃成分の混合に起因する望ましくない影響(例えば、流動性の低下による成形性不良等)が顕著となる。
【0034】
上述の難燃成分の混合割合は例示であり、樹脂成分の種類および難燃成分の種類に応じて、難燃成分の混合割合の最適範囲は異なる。例えば、ポリ乳酸、乳酸共重合体、またはこれらのうち少なくとも1つの樹脂と他の樹脂との混合物を樹脂成分とし、金属錯体(特にアセチルアセトナト鉄)を難燃成分とする場合には、金属錯体が樹脂組成物の1〜15wt%を占めるように、金属錯体を混合することが好ましく、ハロゲン系難燃剤を難燃成分とする場合には、難燃成分が樹脂組成物の10〜30wt%を占めるように、難燃成分を混合することが好ましく、リン系難燃剤を難燃成分とする場合には、難燃成分が樹脂組成物の20〜40wt%を占めるように、難燃成分を混合することが好ましい。
【0035】
難燃成分は、好ましくは、無機多孔質体に担持された状態で、樹脂中に分散される。具体的には、無機多孔質体に難燃成分を担持させ、これを樹脂成分と混練して、無機多孔質体を微粒子に粉砕するとともに樹脂中に分散させる方法により、難燃成分が樹脂中に分散されていることが好ましい。無機多孔質体を併用することにより、難燃成分がより均一に分散した樹脂組成物が得られるので、難燃成分の添加量をより少なくすることができる。即ち、無機多孔質体を使用する場合には、混練開始時には、凝集が生じないほどに大きい粒状体として添加されて、混練中に微細な粒子に粉砕されて均一に分散するので、難燃成分のみを添加する場合と比較して難燃成分の分散性が向上する。また、無機多孔質体は、それ自体樹脂に難燃性を付与する性質を有するので、担持した難燃成分と相乗的に樹脂組成物の難燃性を高める。
【0036】
無機多孔質体は、例えば、酸化ケイ素および/または酸化アルミニウムから成り、孔径が10〜50nmである細孔を45〜55vol%の割合で有する多孔質体である。そのような無機多孔質体は、難燃成分を担持させるときに、100〜1000nmの粒径を有する粒状体であることが好ましい。粒径が小さすぎると、凝集が生じて粒子が巨大化することがある。一方、粒径が大きすぎると、混練工程において粉砕した後の無機多孔質体の粒径が大きくなり、均一に分散しないことがある。無機多孔質体は、最終的に得られる樹脂組成物において(即ち、無機多孔質体を混練した後において)、25〜150nmの粒径を有することが好ましい。無機多孔質体を使用する場合には、例えば、難燃成分を無機多孔質体100重量部に対し、3〜50重量部の量で担持させてよい。そのように難燃成分を担持させた無機多孔質体は、例えば、樹脂組成物全体の1〜40wt%を占めるように添加して、混練してよい。ここに示した難燃成分の担持量および無機多孔質体の添加量は例示であり、難燃成分の種類によりこれらの範囲外であってよい。
【0037】
難燃成分は、例えば、担持させたい難燃成分が溶媒中に溶解または分散した液(例えば、金属錯体の場合には、金属錯体の水溶液)に無機多孔質体を浸漬した後、溶媒を加熱により蒸発させる方法によって、無機多孔質体に担持させることができる。無機多孔質体それ自体は、公知の方法に従って製造することができ、例えば、シリカゾルに孔形成剤(例えば、水溶性無機塩)を溶解し、乾燥させたものを焼成した後、得られた粒子から孔形成剤を熱水中に溶解させて取り除く方法により得られる。あるいは、無機多孔質体は、多孔質ガラスまたはゼオライト等であってよい。
【0038】
具体的な一例として、樹脂成分として、ポリ乳酸または乳酸共重合体を選択し、難燃成分としてアセチルアセトナト鉄および/またはアセチルアセトナト銅を選択する場合を説明する。この場合、無機多孔質体としては、酸化ケイ素(シリカ)から成る多孔質体であって、孔径が10〜50nmである細孔を45〜55vol%の割合で有し、粒径が100〜500nmのものが好ましく使用される。アセチルアセトナト鉄および/またはアセチルアセトナト銅は、シリカ多孔質体100重量部に対し5〜45重量部の割合でシリカ多孔質体に担持されることが好ましく、10〜35重量部の割合で担持されることがより好ましい。アセチルアセトナト鉄および/またはアセチルアセトナト銅を担持したシリカ多孔質体は、組成物全体の5〜40wt%を占めるように添加することが好ましく、5〜15wt%を占めるように添加することがより好ましい。この無機多孔質体を添加して混練して得られる樹脂組成物において、無機多孔質体は25〜150nmの粒径を有する微粒子として樹脂中に分散し、アセチルアセトナト鉄および/またはアセチルアセトナト銅は樹脂組成物中、0.5〜5.25wt%の割合で混合されることとなる。このように、無機多孔質体を使用することによって、難燃成分の添加割合を小さくすることができる。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、難燃成分に加えて、難燃助剤を含んでよい。難燃助剤は、それ単独では難燃成分とならないが、難燃成分とともに添加されると、難燃成分の難燃性向上効果をより高くする役割をする。したがって、難燃助剤を使用することにより、難燃成分の添加量をより小さくすることができる。難燃助剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、およびパーオキシジカーボネート等の有機過酸化物、ジメチル−ジフェニルブタン、ならびにそれらの誘導体から選択される1または複数の化合物を使用できる。有機過酸化物を難燃助剤として使用する場合には、樹脂組成物において有機過酸化物は酸素を放出し、それにより樹脂組成物の難燃性が向上すると推定される。また、ジメチル−ジフェニルブタンを難燃助剤として使用する場合には、ジメチル−ジフェニルブタンはラジカルトラップ効果を発揮して、それにより樹脂組成物の難燃性が向上すると推定される。但し、これらの推定は本発明の範囲に影響を及ぼすものではない。複数の化合物を使用する場合、その混合比は特に限定されず、所望の難燃特性が得られるように任意に選択される。難燃助剤は、難燃成分の種類および添加量に応じて、例えば、難燃成分100重量部に対し5〜45重量部となるように添加してよい。また、難燃助剤と難燃成分とを合わせた量は、樹脂組成物全体の5〜40wt%に相当する量であることが好ましい。その理由は先に難燃成分に関連して説明したとおりである。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、上記の成分(即ち、樹脂成分、難燃成分(無機多孔質体に担持させる場合は無機多孔質体を含む)、および必要に応じて混合される難燃助剤)に加えて、他の成分を含んでよい。例えば、樹脂組成物を所望の色とするために、着色剤等を含んでよい。また、必要に応じて、樹脂組成物の物性等を所望のものとするために、例えば、耐衝撃性を向上させるためにブタジエン系ゴム等を含んでよい。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と難燃成分とを混練することにより製造される。混練は、例えば、ペレット形状の樹脂組成物を製造する場合に、ペレットを得る前に実施してよい。あるいは、ペレット形状の樹脂(または樹脂組成物)を難燃成分と混練した後、再度ペレットの形状にしてもよい。あるいはまた、成形工程において、難燃成分を含まない溶解した樹脂に、難燃成分を混合することもできる。一般に電化製品の外装体をプラスチックの成形により製造する場合には、樹脂を溶解し、所定の形状を有する金型に射出成形する方法や、樹脂を溶解し、上型と下型とを用いて圧力を加える圧縮成形法が採用される。それらの成形方法においては、溶解した樹脂を、ニーダー等を用いて混練する工程が実施される。したがって、その混練の際に、難燃成分を樹脂成分に混合して、難燃性樹脂組成物から成る成形体を得るようにしてよい。そのように難燃成分を添加すれば、難燃成分を添加する別の工程を要しないため、効率的に本発明の樹脂組成物が得られる。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、環境に優しい樹脂に難燃性を付与したものであり、成形体として、各種電化製品の筐体または部品に好ましく使用される。本発明の樹脂組成物は、具体的には、コンピュータ、携帯電話、オーディオ製品(例えば、ラジオ、カセットデッキ、CDプレーヤー、MDプレーヤー)、マイクロフォン、キーボード、およびポータブルオーディオプレーヤーの筐体および部品の部材として使用される。あるいは、本発明の樹脂組成物は、自動車内装材、二輪車外装材、および家庭用各種雑貨類等に使用してもよい。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
トウモロコシを原料として合成されたポリ乳酸(PLA)70wt%と、ポリブチレンサクシネート(PBS)30wt%とを、2軸混練機を用いて混練して、ペレットを作製した。ここで、PBSは耐熱性の向上を目的として混合された。
【0044】
この実施例では、難燃成分であるアセチルアセトナト鉄(Fe(acac))を、SiO多孔体に担持させた。Fe(acac)は、多孔体100重量部に対し60重量部の割合で担持させた。ステップ1で得たペレット90wt%と、Fe(acac)を担持したSiO多孔体10wt%とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例で使用したSiO多孔体は、空隙率が約45〜50vol%であり、約100nm〜1000nm程度の粒径を有していた。このSiO多孔体は、樹脂と混練されるときに剪断力が作用して破砕され、最終的に約25nm〜150nm程度の粒径(平均粒径75nm程度)を有するより細かい粒子となって、樹脂中に分散していた。また、樹脂組成物中のFe(acac)の含有率は、3.75wt%と算出された。
【0045】
この試験片をUL(Underwriters Laboratories)−94に準拠して20mm垂直燃焼試験を実施した。結果を表3に示す。試験の結果から、このサンプルはUL規格V0であると評価された。
【0046】
(実施例2)
実施例1のステップ1で得られたペレットに、SiO多孔体に担持させることなくアセチルアセトナト鉄(Fe(acac))の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なFe(acac)の混合割合を求めた。
【0047】
本実施例における組成物の配合シーケンス(順序)もまた実施例1と同様に図1に示すフロー図で示される。本実施例では、ステップ1で得られたペレットと、難燃成分としてのアセチルアセトナト鉄(Fe(acac))とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例では、ペレットとFe(acac)の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。Fe(acac)は、SiO多孔体に担持させることなく、約2〜80μmの粒径を有する粉末の形態で使用した。この場合、混練によって粉末は破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。従って、実施例1と同様のUL規格V0の難燃性を得るためには、ペレットと(Fe(acac))の配合比は、88:12(重量比)とする必要があった。(Fe(acac))を12wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を本実施例の結果として表3に示す。
【0048】
(実施例3)
実施例1と同様の手順に従って、ポリ乳酸(PLA)とポリブチレンサクシネート(PBS)とを混練して、ペレットを作製した(ステップ1)。
【0049】
本実施例における組成物の配合シーケンス(順序)もまた実施例1と同様に図1に示すフロー図で示される。本実施例では、難燃成分であるホウ酸亜鉛を、SiO多孔体に担持させた。ホウ酸亜鉛は、多孔体100重量部に対して42重量部の割合で担持させた。ステップ1で得たペレット90wt%と、ホウ酸亜鉛を担持したSiO多孔体10wt%とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例で使用したSiO多孔体は、実施例1で使用したものと同じものであり、混練により、最終的にナノ・オーダーの微粒子となって樹脂中に分散していた。また、樹脂組成物中のホウ酸亜鉛の含有率は、3.0wt%と算出された。
【0050】
得られた試験片を、実施例1と同様にして、UL−94垂直燃焼試験に付した。結果を表3に示す。表3の結果から、このサンプルはUL規格V0であると評価された。
【0051】
(実施例4)
実施例1のステップ1で得られたペレットに、SiO多孔体に担持させることなくホウ酸亜鉛の粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なホウ酸亜鉛の混合割合を求めた。
【0052】
本実施例における組成物の配合シーケンス(順序)もまた実施例1と同様に図1に示すフロー図で示される。本実施例では、ステップ1で得られたペレットと、難燃成分としてのホウ酸亜鉛とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例では、ペレットとホウ酸亜鉛の混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。ホウ酸亜鉛は、SiO多孔体に担持させることなく、約5〜100μmの粒径を有する粉末の形態で使用した。この場合、混練によって粉末は破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。従って、実施例3と同様のUL規格V0の難燃性を得るためには、ペレットとホウ酸亜鉛の配合比は、86:14(重量比)とする必要があった。ホウ酸亜鉛を14wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を本実施例の結果として表3に示す。
【0053】
(実施例5)
実施例1と同様の手順に従って、ポリ乳酸(PLA)とポリブチレンサクシネート(PBS)とを混練して、ペレットを作製した(ステップ1)。本実施例における組成物の配合シーケンス(順序)もまた実施例1と同様に図1に示すフロー図で示される。本実施例では、難燃成分であるTBBA(テトラブロモビスフェノールA)を、SiO多孔体粒子に担持させた。TBBAは、多孔体粒子100重量部に対して20重量部の割合で担持させた。ステップ1で得たペレット90wt%と、TBBAを担持したSiO多孔体粒子10wt%とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例で使用した、SiO多孔体粒子は、実施例1で使用したものと同じものであり、混練により、最終的にナノ・オーダーの微粒子となって樹脂中に分散していた。また、樹脂組成物中のTBBAの含有率は、1.7%と算出された。
【0054】
得られた試験片を、実施例1と同様にして、UL−94垂直燃焼試験に付した。結果を表3に示す。表3の結果から、このサンプルはUL規格V0であると評価された。
【0055】
(実施例6)
実施例1のステップ1で得られたペレットに、SiO多孔体に担持させることなくTBBAの粉末を混練して、UL規格V0に適合する難燃性樹脂組成物を得るために必要なTBBAの混合割合を求めた。
【0056】
本実施例における組成物の配合シーケンス(順序)もまた実施例1と同様に図1に示すフロー図で示される。本実施例では、ステップ1で得られたペレットと、難燃成分としてのTBBAとを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例では、ペレットとTBBAの混合比率を変化させて複数の試験片を作製し、それぞれについて難燃性を評価した。TBBAは、SiO多孔体に担持させることなく、約20〜100μmの粒径を有する粉末の形態で使用した。この場合、混練によって粉末は破砕されず、初期の粉末の大きさのままで、樹脂中に分散していた。従って、実施例5と同様のUL規格V0の難燃性を得るためには、ペレットとTBBAの配合比は、85:15(重量比)とする必要があった。TBBAを15wt%の割合で含む試験片について実施した、UL−94垂直燃焼試験の結果を本実施例の結果として表3に示す。
【0057】
(実施例7)
実施例1のステップ1で得られたペレットに、SiO多孔体粒子のみを混合したサンプルを作製した。本実施例における組成物の配合シーケンス(順序)もまた実施例1と同様に図1に示すフロー図で示される。本実施例では、ステップ1で得られたペレット70wt%と、SiO多孔体粒子30wt%とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例で使用した、SiO多孔体粒子は、実施例1で使用したものと同じものであり、混練により、最終的にナノ・オーダーの微粒子となって樹脂中に分散していた。
【0058】
得られた試験片を、実施例1と同様にして、UL−94垂直燃焼試験に付した。結果を表3に示す。表3の結果から、このサンプルはUL規格V2であると評価された。
【0059】
(実施例8)
実施例1と同様の手順に従って、ポリ乳酸(PLA)とポリブチレンサクシネート(PBS)とを混練して、ペレットを作製した(ステップ1)。本実施例における組成物の配合シーケンス(順序)もまた実施例1と同様に図1に示すフロー図で示される。本実施例では、難燃成分であるエチレンジアミン四酢酸銅を、SiO多孔体粒子に担持させた。エチレンジアミン四酢酸銅は、多孔体粒子100重量部に対して17.6重量部の割合で担持させた。ステップ1で得たペレット90wt%と、エチレンジアミン四酢酸銅を担持したSiO多孔体粒子10wt%とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例で使用した、SiO多孔体粒子は、実施例1で使用したものと同じものであり、混練により、最終的にナノ・オーダーの微粒子となって樹脂中に分散していた。また、樹脂組成物中のエチレンジアミン四酢酸銅の含有率は、1.5wt%と算出された。
【0060】
得られた試験片を、実施例1と同様にして、UL−94垂直燃焼試験に付した。結果を表3に示す。表3の結果から、このサンプルはUL規格V0であると評価された。
【0061】
(実施例9)
実施例1と同様の手順に従って、ポリ乳酸(PLA)とポリブチレンサクシネート(PBS)とを混練して、ペレットを作製した(ステップ1)。本実施例における組成物の配合シーケンス(順序)もまた実施例1と同様に図1に示すフロー図で示される。本実施例では、難燃成分であるアセチルアセトナト鉄(Fe(acac))を、SiO多孔体粒子に担持させた。Fe(acac)は、多孔体粒子100重量部に対して60重量部の割合で担持させた。ステップ1で得たペレット90wt%と、Fe(acac)を担持したSiO多孔体粒子5wt%と、難燃助剤としてのt−ブチルトリメチルシルパーオキサイド(日本油脂製パーブチルSM)5wt%とを、2軸混練機にて185℃で混練し(ステップ2)、125mm×13mm×3.2mmの試験片にプレス成形した(成形温度180℃、圧力120kg/cm)(ステップ3)。本実施例で使用した、SiO多孔体粒子は、実施例1で使用したものと同じものであり、混練により、最終的にナノ・オーダーの微粒子となって樹脂中に分散していた。また、樹脂組成物中のFe(acac)の含有率は、1.9wt%と算出された。
【0062】
得られた試験片を、実施例1と同様にして、UL−94垂直燃焼試験に付した。結果を表3に示す。表3の結果から、このサンプルはUL規格V0であると評価された。
【0063】
【表3】

【0064】
まず、実施例7の結果から、SiO多孔体はそれ自体が難燃成分となっていることがわかる。したがって、実施例1、3および5で得たサンプルにおいては、SiO多孔体とそれに担持させた難燃成分が、相乗的に樹脂組成物の難燃性を向上させているといえる。また、実施例1〜4、8および9の結果は、PLAがノンハロゲンの材料を用いて難燃化されることを示している。さらに、実施例1および2で使用したアセチルアセトナト鉄は、他の実施例で使用した難燃成分よりも少ない混合割合でUL規格V0の難燃性を確保し、アセチルアセトナト鉄がPLAの難燃化に適していることを示している。また、実施例9は、難燃助剤を使用した場合には、難燃成分の混合割合をさらに減少させ得ることを示している。
【0065】
(実施例10)
ケナフの茎部分をハンマー等でつぶしたものに水を加え、ミキサーを用いて繊維長が100μm程度になるまで攪拌することによりカットした。次いで、ケナフと水との混合物をバットに広げて置き、乾燥炉(60℃)に入れ、48時間乾燥させた。乾燥後、バットからケナフを掻き取って、ポリ乳酸と混合するケナフ繊維を得た。ポリ乳酸(PLA)ペレットとケナフ繊維とを70:30(重量比)の割合で2軸混練機に入れて混練し、ペレットを作製した。次に、このペレットを70wt%と、Mg(OH)を30wt%とを、実施例1と同じ手順で配合して、難燃性樹脂組成物から成る試験片を作製した。これを、実施例1と同様の手順で、UL−94垂直試験に付したところ、V0規格に適合する難燃性を有していた。
【0066】
(実施例11)
ポリ乳酸(PLA)50wt%と、ポリブチレンサクシネート22.5wt%と、TBBA12.5wt%と、Mg(OH)15wt%とを、2軸混練機に投入し、500rpm、195℃で混錬を行ってペレットを作製した。得られたペレットを射出成形機に入れ、テレビジョン受像機バックカバー用の金型を用いて射出成形を実施した。このとき、成形温度は180℃とし、急冷による難燃成分の溶出を回避するために金型温度は80℃とした。成形後、金型を冷却し、室温状態で成形品を取り出して、テレビジョン受像機のバックカバーを得た。
【0067】
得られたバックカバーの物性を、PS(ポリスチレン)に難燃剤を混合して成る従来の樹脂組成物を用いて成形したテレビジョン受像機のバックカバーの物性と比較したところ、大きな差異は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の樹脂組成物は、原料入手または使用後の廃棄の点で環境への負荷が小さい生分解性樹脂および/または植物由来の樹脂に、難燃性を付与したものであり、工業的な実用性が高いことを特徴とする。したがって、この樹脂組成物は、種々の物品を構成するのに適し、特に電化製品等の外装体を構成する材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂成分と、難燃性を付与する成分とを含む樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂成分として、ポリ乳酸、乳酸共重合体、およびポリブチレンサクシネートのうち少なくとも1つの樹脂を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
難燃性を付与する成分が、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤、およびシリコーン系難燃剤から選択される少なくとも1つの難燃剤である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
難燃性を付与する成分が、アセチルアセトナト鉄である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂成分と、難燃性を付与する成分とを含む樹脂組成物から成る成形体。
【請求項6】
生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂成分と、難燃性を付与する成分とを混練することを含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
生分解性樹脂および植物由来の樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂成分と、難燃性を付与する成分とを混練することを含む方法により製造された樹脂組成物を、射出成形法または圧縮成形法で成形する、樹脂組成物の成形方法。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/028558
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514062(P2005−514062)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013665
【国際出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】