説明

難燃性樹脂組成物及びそれを用いた電線、ケーブル

【課題】金属水和物を配合したポリオレフィン系樹脂組成物や熱可塑性エラストマー等の熱可塑性樹脂の欠点を克服し、引張強度等の物性はもちろんのこと易カット性能、目ヤニ防止性能、難燃性、平滑性に優れた難燃性樹脂組成物及びそれを用いた電線、ケーブルの提供。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂100質量部と、(イ)レーザー光回折・散乱粒子径分布測定器により測定された平均粒径が1〜10μmの範囲であり、(ロ)走査型電子顕微鏡による形態写真から、一次粒子で形成された凝集体からなる二次粒子が含まれることが観察され、形態写真から測定された一次粒子の長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあり、且つ5μm以上の粒子が0.1%以下であり、(ハ)比表面積が8.0m/g以上、の条件を満足する(B)金属水和物30〜250質量部および(C)目ヤニ防止剤0.1〜5質量部を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物及びそれを用いた電線、ケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃焼時にハロゲンガス等の有毒ガスの発生がなく難燃性や機械的特性に優れるとともに目ヤニを防止し、電線やケーブルの成形時の連続運転が可能で、かつ易カット特性を克服した難燃性樹脂組成物であり、特に電線・ケーブルの絶縁層やシース層に好適に使用される樹脂組成物、および該組成物を用いてなる電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線被覆材等の難燃材料としてポリ塩化ビニル樹脂組成物が使用されてきた。しかしながら、ポリ塩化ビニル樹脂組成物は燃焼する際に有毒なハロゲン含有ガスを生じるため改善が求められていた。ポリ塩化ビニルの上記欠点を克服するため、ポリオレフィン系樹脂に水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を配合した樹脂組成物(ノンハロゲン難燃材料)が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
このような樹脂組成物において、ポリオレフィン系樹脂に難燃性を付与する為には、難燃性の要求レベルにもよるが、一般的に金属水和物を組成物中の樹脂成分と同量の高濃度に添加する必要がある。このため、高難燃レベルを到達するためにはマトリックス樹脂の量を減らさざるを得ず、この結果、樹脂の物性に依存する機械的特性が低下するという問題がある。
このような問題を克服すべく、難燃性、及び機械的特性の両方の物性を維持することが近年検討がなされている。特許文献2では、オレフィン系ポリマー100重量部に対して、シランカップリング剤で処理した平均粒径の細かい金属水和物を40〜300重量部配合した、難燃性が高く、機械的特性が良好な樹脂組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、この方法では引張衝撃強度を含めた機械的物性が良好であるが、当該樹脂組成物を被覆した電線・ケーブルにおいては、配線施工時に行う芯線を各種コネクターに圧着あるいは、はんだ付けをする等の末端処理で、被覆層や絶縁層を冶具等により芯線から剥ぎ取り切断しづらいという問題が残っている。又、特許文献3では、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、高重合度ポリオルガノシロキサン1〜25%が添加された比表面積の大きな金属水和物を60〜200重量部配合した樹脂組成物が提案されている。比表面積が大きい金属水和物を用いることにより難燃性が向上するため、樹脂への添加量を少なくすることにより難燃性と押出加工性、成形品外観、引張特性、柔軟性等の物性を両立する方法が提案されている。しかしながら、この方法ではマトリックス樹脂の量を相対的に増やすことにより機械的物性を向上させているために引張衝撃強度も高いと推定され、配線施工時に行う末端切断処理がしづらい問題が残っている。
【0005】
上記末端切断処理を解決する方法として、特許文献4では、エチレン系重合体と官能基含有オレフィン系重合体と無機難燃剤に加え軟質材料および/又は液状乳化剤を配合することにより、柔軟で引張衝撃強度が低く、末端処理効率の良い樹脂組成物を得る方法、更に、特許文献5では、エチレン系重合体と官能基含有オレフィン系重合体と無機難燃剤に加え特定の密度のポリエチレン樹脂を配合することにより引張衝撃強度が低く、末端処理効率の良い樹脂組成物を得る方法等が提案されている。
【0006】
また、これらの樹脂組成物は、高難燃性を達成するためには無機難燃剤である金属水和物を多量に配合されているため、電線やケーブルを成形する際に、ダイリップなどに目ヤニと呼ばれる多量の析出物が発生し、長時間の連続運転ができないという問題点も有している。
特に、易カット性を満足するためには、金属水和物を多量に配合し、耐引張強度等の機械的強度を犠牲にすることにより目的が達成され易い。このように、高難燃性と易カット性を達成するために大量の金属水和物を配合することは、ダイリップなどに目ヤニを多量に発生させることになる。
【0007】
また、金属水和物を多量に配合したこれら難燃性樹脂組成物は、空気中の水分を吸収して白化しやすいという欠点を有している。この白化現象を解消する方法としては特許文献6に示されるように鉱油、ワックス、高級脂肪酸等を配合した組成物が提案されているが、これら提案されている組成物では易カット性を満足するものとはならない。
【0008】
従来、ノンハロゲン系の高難燃性を達成するために、無機系難燃剤を大量に配合した難燃性樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂に比べて易カット性が劣っている。また易カット性は金属水酸化物の配合量を多くすることで易カット性をよくすることはできるが同時に引張強度、耐外傷性の低下などの物性低下を起こし、全体的にバランスのとれたものは得られていない。更に易カット性の悪さは電線の現場施工の際に被覆材を剥ぐときの作業性、施工後の外観に影響を与えるものとなる。さらにこれら難燃性樹脂組成物は無機系難燃剤が大量に配合され、かつ、電線・ケーブルの場合には黒色、赤色、緑色等の着色して使用されるために、傷付き白化が起こり易く、白化現象は著しく目立つものとなり、可撓性、加工性も低下するものとなる。
【0009】
【特許文献1】特開平7−149965号公報
【特許文献2】特開2005−139388号公報
【特許文献3】特開2005−179409号公報
【特許文献4】特開2005−029604号公報、
【特許文献5】特開2005−029605号公報
【特許文献6】特公平7−119324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、燃焼時にハロゲンガス等の有毒ガスの発生がなく難燃性や機械的特性に優れるとともに目ヤニを防止し、電線やケーブルの成形時の連続運転が可能で、かつ易カット特性を克服した難燃性樹脂組成物であり、特に電線・ケーブルの絶縁層やシース層に好適に使用される樹脂組成物、および該組成物を用いてなる電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂、好ましくはポリオレフィン系樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーに、特定範囲の平均粒径を有する一次粒子と、更に一次粒子の凝集構造で形成される凝集体からなる二次粒子を含み、比表面積が大きいという特徴を有する金属水和物の特定量と目ヤニ防止剤とを配合した樹脂組成物が、上記の金属水和物を大量に配合したポリオレフィン系樹脂組成物や熱可塑性エラストマー等の熱可塑性樹脂組成物の欠点を克服し、高難燃性、引張強度、平滑性、可撓性、加工性等の性能を保持しつつ、易カット性能(末端切断処理)と、目ヤニ防止性能の両者の性能を同時に解決した優れた難燃性樹脂組成物になり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の第1発明は、下記(A)、(B)及び(C)を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
(A)熱可塑性樹脂100質量部と、
(B)下記(イ)〜(ハ)の条件を満足する金属水和物30〜250質量部、
[金属水和物]
(イ)レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された体積基準粒径分布に基づいて算出された平均粒径(算術平均径)が1〜10μmの範囲であること
(ロ)走査型電子顕微鏡による形態写真から、一次粒子で形成された凝集体からなる二次粒子が含まれることが観察され、形態写真から測定された一次粒子の長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあり、且つ5μm以上の粒子が0.1%以下であること
(ハ)BET法による比表面積が8.0m/g以上であること
及び樹脂成分100質量部に対して、下記(1)〜(3)から選択される少なくとも1種の(C)目ヤニ防止剤0.1〜5質量部
[目ヤニ防止剤]
(1)12−ヒドロキシステアリン酸金属塩および/または塩基性12−ヒドロキ
システアリン酸金属塩
(2)フッ素エラストマー
(3)カルボン酸アマイド系ワックス
を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【0013】
又、本発明の第2発明は、第1の発明において、(B)金属水和物が、さらに下記(ニ)の条件を満足することを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
(ニ)レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された平均粒径と走査型電子顕微鏡による形態写真から測定された一次粒子の平均粒径との比が5以上であること
【0014】
又、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、(B)金属水和物が、(B1)水酸化マグネシウム及び/又は(B2)水酸化アルミニウムであることを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
【0015】
又、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、(B1)水酸化マグネシウムが合成法で製造されたものであることを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
【0016】
又、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、(B1)合成法による水酸化マグネシウムが、マグネシウム塩を含む水溶液にアルカリ物質を加えて得られたもの、又は酸化マグネシウムを水和して得られたものであることを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
【0017】
又、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、(A)熱可塑性樹脂が、(A1)ポリオレフィン系樹脂及び/又は(A2)熱可塑性エラストマーを含む樹脂であることを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
【0018】
又、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、(A)熱可塑性樹脂が、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、及び、密度0.86〜0.94g/cmのエチレン・α−オレフィン共重合体から選択された少なくとも1種のエチレン共重合体である(A1)ポリオレフィン系樹脂100〜20質量%と(A2)熱可塑性エラストマー0〜80質量%を含む樹脂であることを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
【0019】
又、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、(A)熱可塑性樹脂に対し、更に(D)官能基含有ポリオレフィン樹脂1〜30質量%(ただし(A)成分と(D)成分の合計が100質量%である)を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
【0020】
又、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明の難燃性樹脂組成物を用いたことを特徴とする電線、ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の難燃性樹脂組成物は、特定の範囲の平均粒径を有する一次粒子と、更に一次粒子からなる凝集構造で形成された二次粒子を含み、比表面積が大きいという特徴を有する金属水和物を特定量配合することにより、従来のノンハロゲン系難燃性樹脂組成物の諸性能を保持し、成形加工時の目ヤニを防止する効果が高く、高難燃性と易カット性(末端切断処理)及び機械的強度、製品外観等の諸性能に優れる電線・ケーブルを供し得る樹脂組成物であり、該難燃性樹脂組成物を絶縁層及び/又はシース層等に用いた電線、ケーブルは、上記の諸性能に優れ、目やにの発生が少なく、現場施工時の易カット性(末端切断処理)が良く、作業性等に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、(A)熱可塑性樹脂、好ましくは(A1)ポリオレフィン系樹脂及び/又は(A2)熱可塑性エラストマーを含む樹脂成分100質量部と、(B)金属水和物、好ましくは(B1)水酸化マグネシウム及び/又は(B2)水酸化アルミニウム30〜250質量部、及び(C)目ヤニ防止剤0.1〜5質量部、更に必要に応じて、(D)官能基含有ポリオレフィン樹脂1〜30質量%(ただし(A)成分+(D)成分の合計量が100質量%である)を含む難燃性樹脂組成物、及び該難燃性樹脂組成物を用いた電線、ケーブルである。以下に本発明を各項目毎に詳細に説明する。
【0023】
1.難燃性樹脂組成物の構成成分
(A)熱可塑性樹脂
本発明の難燃性樹脂組成物で用いる(A)熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、好ましくは(A1)ポリオレフィン系樹脂及び/又は(A2)熱可塑性エラストマーが挙げられる。以下に各成分を説明する。
【0024】
(A1)ポリオレフィン系樹脂
本発明で用いる(A1)ポリオレフィン系樹脂としては、イオン重合による密度0.94〜0.97g/cmの高密度ポリエチレン、密度0.91〜0.94g/cm未満のエチレン・α−オレフィン共重合体(直鎖状低密度ポリエチレン)、及び密度0.86〜0.91g/cm未満のエチレン・α−オレフィン共重合体(超低密度ポリエチレン)、高圧ラジカル重合による低密度ポリエチレン、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸エステル、ビニルエステル等から選択される少なくとも1種のモノマーとのエチレン系共重合体、ポリプロピレン系樹脂等から選択される少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
これらのポリオレフィン系樹脂の中でも、以下に詳細を説明する(a1)エチレン・α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体、(a2)エチレン・ビニルエステル共重合体、(a3)密度0.86〜0.94g/cm未満のエチレン・α−オレフィン共重合体が(B)成分の金属水和物の受容性に富むことから好ましい。
ここで、密度は、JIS K6922−1(1997)に準拠して測定する値である。
【0025】
(a1)エチレン・α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体
エチレンとα,β−不飽和カルボン酸エステルとの共重合体としては、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体等のエチレン・(メタ)アクリル酸又はそのアルキルエステル共重合体;エチレン・無水マレイン酸・酢酸ビニル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エチル共重合体等の二元共重合体又は多元共重合体、あるいはそれらの金属塩等が挙げられる。
上記共重合体において、エチレンと共重合されるコモノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル等を挙げることができる。この中でも特に好ましいものとして(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等のアルキルエステルを挙げることができる。特に(メタ)アクリル酸エステル含有量は3〜30質量%、好ましくは5〜20質量%の範囲である。
又、上記金属塩の金属としては、K、Na、Li、Ca、Zn、Mg、Al等が挙げられる。
【0026】
(a2)エチレン・ビニルエステル共重合体
エチレン・ビニルエステル共重合体としては、高圧ラジカル重合法で製造されるエチレンと、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体との共重合体が挙げられる。これらのビニルエステルの特に好ましいものとしては、酢酸ビニルを挙げることができる。
共重合体中のエチレンとビニルエステルの割合は、エチレン50〜99.5質量%、ビニルエステル0.5〜50質量%、他の共重合可能な不飽和単量体0〜49.5質量%からなる共重合体が好ましい。更にビニルエステル含有量は、好ましくは3〜20質量%、特に好ましくは5〜15質量%の範囲で選択される。
【0027】
(a3)エチレン・α−オレフィン共重合体
エチレン・α−オレフィン共重合体としては、密度が0.86〜0.91g/cm未満(直鎖状超低密度ポリエチレン)、密度が0.91〜0.94g/cm未満(直鎖状低密度ポリエチレン)、好ましくは0.88〜0.91g/cmの範囲のエチレン・α−オレフィン共重合体(直鎖状超低密度ポリエチレン)及びそれらの混合物が挙げられる。α−オレフィンとしては、炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜12の範囲のものであり、具体的にはプロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等を挙げることができる。
本発明に係るポリエチレン樹脂(a3)は、上記条件を満たしていれば、2種類以上のポリエチレン樹脂を混合したものであってもよい。
【0028】
エチレン・α−オレフィン共重合体(a3)は、高・中・低圧下においてチーグラー系触媒、フィリップス系触媒、バナジウム系触媒、メタロセン系触媒等のイオン重合により、スラリー法、溶液法、気相法、バルク法等の重合法で製造することができる。
上記のイオン重合で製造されるポリエチレン樹脂(a3)は、特に製造触媒やプロセスなどに限定されるものではなく、成書『ポリエチレン技術読本』(松浦一雄・三上尚孝編著 工業調査会刊行 2001年)のp.123〜160、p.163〜196などに記載されている方法により製造することが可能である。
【0029】
又、(A1)ポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)は、0.01〜100g/10分が好ましく、より好ましくは0.1〜50g/10分、更に好ましくは0.1〜10g/10分の範囲で選択される。
ここで、MFRは、JIS K6922−1(1997)に準拠して条件D(温度190℃、荷重21.18N)で測定する値である。
【0030】
(A2)熱可塑性エラストマー
本発明で用いることのできる(A2)熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなどの各種熱可塑性エラストマー、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルブチルゴムなどの天然又は合成ゴムが包含される。これらの中でも、以下に詳細を説明する(a4)オレフィン系エラストマー、(a5)スチレン系エラストマーが好ましい。
【0031】
(a4)オレフィン系エラストマー
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体等の密度0.86〜0.91g/cmの非晶性もしくは微結晶性エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレンとEPDM及び所望にポリエチレンを架橋剤の存在下に架橋した部分架橋物又は完全架橋物等が挙げられる。
【0032】
(a5)スチレン系エラストマー
スチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SIBS)等のブロック共重合体、あるいはスチレン−エチレン−ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン共重合体(部分水素添加スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)等のブロック共重合体の部分又は完全水添物等が挙げられる。
【0033】
本発明の(A)熱可塑性樹脂は、好ましくはポリオレフィン(A1)及び/又は熱可塑性エラストマーを用いることが可能であるが、大量の金属水和物が配合されるので、その受容量を確保し、かつ柔軟性や機械的強度のバランスを保持するために、(A1)ポリオレフィン系樹脂と(A2)熱可塑性エラストマーが併用されることも望ましい態様の1つである。特に上記(A1)成分の(a1)〜(a3)の樹脂を選択することが好ましい。
これらの組成割合は、(A1)ポリオレフィン系樹脂が、好ましくは100〜20質量%、より好ましくは、100〜60質量%、特に好ましくは100〜70質量%であり、(A2)熱可塑性エラストマーが、好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0〜40質量%、特に好ましくは0〜30質量%である。
なお、上記(A1)と(A2)の配合物においては、目的により配合比が異なるが、(A1)が20質量%未満、(A2)が80質量%を超える場合には、柔軟性に優れた組成物が得られるが、機械的強度、柔軟性等のバランスの良い組成物を得るためには上記の範囲とすることが好ましい。
【0034】
(B)金属水和物
本発明の難燃性樹脂組成物で用いる(B)金属水和物は、(イ)レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された体積基準粒径分布に基づいて算出された平均粒径が1〜10μmの範囲であること、(ロ)走査型電子顕微鏡による形態写真から、一次粒子で形成された凝集体からなる二次粒子が含まれることが観察され、形態写真から測定された一次粒子の長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあり、且つ5μm以上の粒子が0.1%以下であること、及び(ハ)BET法による比表面積が8.0m/g以上であること、の条件を満足し、好ましくは更に(ニ)レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された平均粒径と走査型電子顕微鏡による形態写真から測定された一次粒子の平均粒径との比が5以上であること、を満足するものである。以下に各条件を詳細に説明する。
【0035】
本発明で用いる金属水和物の第1の要件は、(イ)レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された体積基準粒径分布に基づいて算出された平均粒径が1〜10μmの範囲であることを要件とする。
すなわち、本発明で用いる金属水和物は、レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された体積基準粒径分布に基づく平均粒径(算術平均径)が1〜10μmの範囲を有するものであることが肝要であり、好ましくは1〜5μm、より好ましくは1〜3μmの範囲であり、更に好ましくは粒子の積算分99%以上が0.1〜20μmの範囲にあることが望ましい。
本発明において、レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された体積基準粒径分布に基づいて測定された平均粒径が1〜10μmの範囲の粒子は、一次粒子の凝集構造を形成する二次粒子と一次粒子の混合物の算術平均径で表されるが、実質的には凝集構造からなる二次粒子が主体となるものである。
該平均粒径が1μm未満であると、機械物性は良好であるものの、衝撃強度が向上するため本発明の課題である易カット性が低下する惧れがある。又、10μmを超えると、機械物性が低下する惧れが生じる。
レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器とは、粒子にレーザー光を照射し、そこから発せられる回折・散乱光の光強度分布から粒径分布を解析する方法であって、後述されるようにこれらの原理を用いた粒径分布測定装置が一般に市販されており、これらの装置を用いることにより測定することができる。
【0036】
本発明で用いる金属水和物の第2の要件は、(ロ)走査型電子顕微鏡による形態写真から、一次粒子で形成された凝集体からなる二次粒子が含まれることが観察され、形態写真から測定された一次粒子の長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあり、且つ5μm以上の粒子が0.1%以下であることを要件とする。
すなわち、本発明で用いる金属水和物は、前記(イ)の平均粒径を満足する粒子が、走査型電子顕微鏡による形態写真から測定された長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあり、且つ5μm以上の粒子が0.1%以下である一次粒子の凝集構造から形成される凝集体を含むことが肝要であり、好ましくは平均粒径が0.04〜0.3μm、より好ましくは0.05〜0.2μmの範囲にあり、好ましくは3μm以上の一次粒子が0.1%以下であることが好ましい。一次粒子の平均粒径が0.01μm未満であると、粉体の取り扱いが難しくなり、過度の凝集により引張強さ、伸びなどの機械物性が低下する惧れが生じる。0.5μmを超えると、凝集構造を形成しにくくなる惧れが生じる。粒径の粗い一次粒子が多く含まれると、機械的物性、平滑性が低下する惧れが生じるため、粒径が5μm以上の一次粒子が個数基準粒径分布で0.1%以下であることが必要であるが、長さ基準粒径分布で表す場合、5μm以上の一次粒子が5%以下、好ましくは3μm以上の一次粒子が5%以下であることが望ましい。
【0037】
一次粒子の走査型電子顕微鏡による形態写真から測定された長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径の測定方法は、例えば、久保輝一郎ら編「粉体−理論と応用−」(改訂二版)443〜541頁(丸善株式会社:昭和60年5月15日発行)、荒川正文ら編「最新粉体の材料設計」103〜116頁(株式会社テクノシステム:1988年6月15日発行)などに概略される公知の顕微鏡法を用いることができる。具体的には、走査型電子顕微鏡、好ましくはより高分解能を有する電界放射型の走査型電子顕微鏡による2000〜50000倍、好ましくは5000〜30000倍程度の倍率の形態写真などから得られる適当な一次粒子200〜1000個程度について長径を測定し、長さ平均粒径を求める。又、この方法で求められた個数基準粒径分布の積算値より、5μm以上の粒径が含まれる量が求まる。
ところで、顕微鏡による不均一な粒子の粒径測定では、一般的にはフェレ径や二軸平均径などが用いられるが、本発明では、結晶形態が扁平晶、あるいは扁平六方晶(六角板状又は角の取れた楕円板状など)を有する金属水和物の場合があるため、扁平な短径方向では無く平面の長径方向の値を用いることでより表面平滑性などの物性との相関を得ると考えた。又、測定粒子数は、均一な結晶形態を有する試料の場合には数百個、不均一な破砕形態を有する試料の場合には数千個程度の個数を測定することが好ましい。
【0038】
本発明で用いる金属水和物の第3の要件は、(ハ)金属水和物のBET法による比表面積が、8.0m/g以上、好ましくは8.0〜50m/g、より好ましくは10〜30m/gである。比表面積が8.0m/g以上であることにより、良好な難燃性の難燃性組成物を得ることができる。又、比表面積が大きすぎると、金属水和物を多量に混合した場合には難燃性樹脂組成物の溶融時の流動性が低下する惧れがある。従って、金属水和物の比表面積が50m/g以下であることが望ましい。ところで、粒径と比表面積には相対的な関係があると推測され、一般的に粒子が細かいほど比表面積が増す傾向があるため、前記(イ)平均粒径1〜10μmの粒子が、(ロ)平均粒径0.01〜0.5μm、且つ5μm以上の粒子が0.1%以下である微小な一次粒子の凝集構造により形成されることと無関係ではなく、その結果良好な機械物性、易カット性と共に高い難燃性をも発現するものである。
ここで、BET法による比表面積の測定方法とは、ガス吸着法により粒子の比表面積を算出する方法であり、あらかじめ窒素ガスのような吸着占有面積がわかっているガス分子を粒子に吸着させ、その吸着量から粒子の比表面積を算出する方法である。
具体的な測定方法としては、一般に市販されている後述の全自動ガス吸着量測定装置などを用いて、例えば、サンプル(粒子)を所定温度、所定時間で脱気などの前処理をした後、窒素ガスなどの吸着ガスを使用して測定される。
【0039】
本発明で用いる金属水和物は、第4の要件として、更に(ニ)レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された平均粒径と走査型電子顕微鏡による形態写真から測定された一次粒子の平均粒径との比が5以上の要件を満足することが望ましい。
すなわち、(イ)で測定される平均粒径1〜10μmの粒子は、上記したように一次粒子の凝集構造を形成する二次粒子と一次粒子の混合物の算術平均径で表されるが、実質的には凝集構造からなる二次粒子が主体となるものであることが、前記の形態観察を行うことにより容易に観察することができる。
したがって、この凝集体をより定量的に一次粒子の凝集構造を表すとすると、平均粒径0.01〜0.5μmの一次粒子の凝集構造を形成し、実質的に平均粒径1〜10μmの二次粒子として測定されることになると仮定すれば、一次粒子との平均粒径の比が大きいほど凝集していると解釈できる。
本発明においては、その粒径比が5以上、好ましくは10以上50以下、より好ましくは15以上40以下であることが望ましいものである。
上記粒径比が、5未満では本発明の易カット性の効果が小さいものとなる惧れが生じ、50以上では金属水和物を多量に混合した場合に難燃性樹脂組成物の溶融時の流動性が低下する惧れがある。
本発明の金属水和物は、このような凝集構造体が存在することにより、機械的強度と易カット性の相反する要求物性を達成することができると思われる。すなわち、微小な一次粒子とその凝集体が共存することによって、一次粒子に起因すると思われる機械的強度や表面平滑性が維持されたまま、微小な凝集体が衝撃破壊時に破壊することに起因すると思われる易カット性を高次元でバランスしているものと推察している。
【0040】
本発明で用いる(B)金属水和物としては、上記の(イ)〜(ハ)、好ましくは更に(ニ)を満足するものであれば、特に制限はないが、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物を単独もしくは2種以上組み合わせたものを挙げることができる。これらの金属水和物の中でも、(B1)水酸化マグネシウム、(B2)水酸化アルミニウムが好ましく、成形加工時の熱安定性の観点では水酸化マグネシウムが最も好ましい。又、これらは、特に、表面処理を施したものが好ましい。
【0041】
上記(B1)水酸化マグネシウムは、上記の(イ)〜(ハ)、更に望ましくは(二)の要件である平均粒径、比表面積及び凝集構造をとっていれば本発明の優位性が保たれるため、その製造方法は特に限定されない。従って、難燃性樹脂組成物に一般的に使用されている水酸化マグネシウムと同様に公知の方法で製造できる。
本発明では、特に平均粒径の微小な一次粒子と該一次粒子から形成される凝集構造をもつ二次粒子を含有する混合粒子から形成されるものが、機械的強度や表面平滑性と易カット性を高次元でバランスし、かつ比表面積の大きい粉体が得られることから好ましい。
これらの粉体を製造する方法としては、合成法が最も好ましい。
【0042】
この合成法としては、(i)マグネシウム塩を含む水溶液にアルカリ物質を加えて得られたもの、より具体的には、例えば、マグネシウム塩として塩化マグネシウムもしくは硝酸マグネシウムを用い、アルカリ物質として水酸化ナトリウム、アンモニア水、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどを作用させて水酸化マグネシウムを製造する方法(特開昭61−168522号公報、特開平2−229712号公報及び特開平7−97210号公報参照)、水酸化マグネシウムに少量の水酸化ナトリウムを添加し、オートクレーブ中等で加圧加熱処理する方法(特公昭50−23680号公報参照)、塩基性マグネシウム塩水性媒体中で加圧加熱処理する方法(特開昭52−115799号公報参照)マグネシウムを含む天然鉱物(例えば、ブルーサイト、蛇紋石、ドロマイト、緑泥石等)を塩酸処理することによって得られる塩化マグネシウム、あるいは天然鉱物(例えば、マグネサイト等)に含有される酸化マグネシウムを塩化アンモニウムで浸出させて得られる塩化マグネシウムをマグネシウム塩として用い、例えば、水酸化カルシウムと反応し沈降、洗浄、濃縮、乾燥等の工程により得られる水酸化マグネシウム等が挙げられる(特表2001−508015号公報参照)、(ii)酸化マグネシウムを水和して得られたもの、より具体的には、例えば、マグネシウムを含む天然鉱物を溶解、精製、熱分解して得られる酸化マグネシウム、あるいは、天然鉱物(例えば、マグネサイト等)として産出される炭酸マグネシウムを焼成して得られる酸化マグネシウムを用い、これを水和、乾燥して得られる水酸化マグネシウム等が挙げられる(特公平3−60774号公報、特開平5−208810号公報及び特開平8−67515号公報参照)。このような製造方法で合成される水酸化マグネシウムは、製造工程において反応圧力、反応温度、水溶液のpH、あるいは天然鉱物を利用する場合には微粉砕工程時の粉砕時間、ミル速度等を適宜制御することによって上記の(イ)〜(ハ)、更に(ニ)の要件である平均粒径、比表面積あるいは、凝集構造をとり易いという点から望ましい。
また、他の製造方法としては、(iii)天然産ブルーサイトを水性スラリーとしてから湿式粉砕し、固液分離した後乾燥して得る方法(特公平7−42461号公報参照)、(iv)粗粉砕されたブルーサイト原石を微粉砕機において微粉砕して得る方法(特開2000−202318号公報参照)等が挙げられる。
【0043】
また、上記水酸化マグネシウムは、一次粒子の粒子形状が不定形では無く、扁平晶、あるいは扁平六方晶の揃った結晶構造を有していることが、均質な一次粒子粒径を有し、難燃性組成物中の分散性が向上し、その結果良好な機械物性、難燃性、表面平滑性等の諸物性を向上させる上で更に好ましい。このような結晶構造は、前記の走査型電子顕微鏡等による形態観察で確認できる。
【0044】
又、(B)金属水和物は、熱可塑性樹脂中での分散効果、耐酸性、耐吸湿性、金属活性点の失活等の改良のため(E)表面処理剤による処理を行うことが好ましい。
(E)表面処理剤としては、脂肪酸及び脂肪酸金属塩又はこれらの混合物、ならびに脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、ワックス又はその変性物、硬化性樹脂、有機シラン、有機チタネート、有機ボラン等が挙げられる。又、昨今においては、特開2002−167219号公報、特開2002−173682号公報、特開2003−003167号公報及び特開2004−337698号公報等に開示されるように、ポリカルボン酸系分散剤、ポリグリセリン誘導体、N−アシル塩基性アミノ酸、あるいは二塩基酸エリスリトール類エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、アルコールリン酸エステル、リン化合物等で表面処理された水酸化マグネシウムも使用されている。
本発明では、特にこれらに限定されるものではないが、安価で、効果的な点から、脂肪酸、及び脂肪酸金属塩あるいはこれらの混合物、ならびに脂肪酸エステルとの組み合わせが特に好ましい。これらはあらかじめ表面処理しても良いし、樹脂成分、水酸化マグネシウム等とを同時に混合使用しても良い。
【0045】
上記脂肪酸としては、炭素数8以上の飽和酸又は不飽和酸が望ましく、オクタン酸、デカン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、やし油、牛脂、大豆油、パーム油、硬化油等が挙げられる。
【0046】
上記脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、カプリル酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の金属塩が挙げられ、金属としては、Na、K、Al、Ca、Mg、Zn、Ba、Co、Sn、Ti、Fe等が挙げられる。
【0047】
上記脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸メチル、ミスチリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミスチリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、特殊牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、長鎖脂肪酸高級アルコールエステル、ベヘニン酸ベヘニル、ミスチリン酸セチル等のモノエステルが挙げられ、又ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステルの部分エステル化物、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール中鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオールC9鎖脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール長鎖脂肪酸エステル、コンプレックス中鎖脂肪酸エステル等の特殊脂肪酸エステルが挙げられる。
【0048】
これらの(E)表面処理剤は、湿式法、乾式法等任意の処理方法で用いることができるが、水性の溶媒中で水酸化マグネシウムを生成時に表面処理剤を加える等の湿式法の場合には、水酸化マグネシウムに効率よく表面処理が施される結果、凝集体ができ難くなる惧れが生じる。一方乾式法は、水酸化マグネシウム製造後に表面処理剤を乾式処理する方法、樹脂との混合時に分散剤として用いる等の方法で表面処理剤を用いる方法であって、表面処理方法としては乾式法が好ましい。
(E)表面処理剤の使用量は、(B)金属水和物に対して、0.5〜10質量%、好ましくは1〜8質量%の範囲で用いるのが好ましい。
【0049】
[(C)目ヤニ防止剤]
本発明の(C)目ヤニ防止剤は(1)12−ヒドロキシステアリン酸金属塩および/または塩基性12−ヒドロキシステアリン酸金属塩(2)フッ素系エラストマー(3)カルボン酸アマイド系ワックスの群から選択された少なくとも1種であり、単独および混合して使用してもよい。
【0050】
(1)12−ヒドロキシステアリン酸金属塩および/または塩基性12−ヒドロキシステアリン酸金属塩は、複分解沈殿法、乾式直接法等で製造されたものである。また、表面処理型ヒドロキシ高級脂肪酸金属塩などを使用することもできる。なお、塩基性ヒドロキシ脂肪酸金属塩も包含するものである。塩基性とは、カルボン酸であるヒドロキシ高級脂肪酸と金属であるとの塩において、金属の当量がカルボン酸の当量より過剰であることを意味する。
上記ヒドロキシ高級脂肪酸金属塩としてはリチウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等の1価および2価金属とラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸等の脂肪酸との金属塩が挙げられるが、特に12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムが最も好ましい。
【0051】
(2)フッ素系エラストマーは、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン等との共重合エラストマーが挙げられる。特にフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合エラストマーが好ましく使用される。添加されたエラストマーは押出成形時の熱によって押出機内部の金属にコーティングされ、金属と樹脂との摩擦係数を低減させ、目脂の発生を防ぐ効果を有する。
【0052】
(3)カルボン酸アマイド系ワックスとしては、高級脂肪酸モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミンとの脱水反応によって得られる重縮合物であり、通常、下記の一般式(I)で表すことのできるものである。
【0053】
一般式(I)
R1CO(NHRNH)y(CORCO)x(NHRNH)yCOR
(式中R1は炭素数15以上の飽和アルキル基を表し、R2は炭素数2以上の脂肪族または芳香族炭化水素基を現し、R3は炭素数1以上の脂肪族、芳香族または脂環族炭化水素基を表し、xは0.18〜1.0、y1+y2は1.5〜2.0の範囲の数値を表す。)
【0054】
これら一般式(I)で表される重縮合物のカルボン酸アマイド系ワックスは、一般に、共栄社化学(株)にて「ライトアマイドWHシリーズ」、例えば、WH−255、WH−215の商品名として市販されている。
【0055】
上記(C)目ヤニ防止剤は、樹脂成分100質量部に対して0.1〜5質量部、好ましくは0.1〜4重量部、より好ましくは0.1〜3質量部である。目ヤニ防止効果は充填される金属水和物の割合にもよるが、0.1重量部以下では目ヤニの発生防止等の効果が発揮できず、10質量部を超える量を配合しても特にそれ以上の効果の向上はみられない。
【0056】
(D)官能基含有ポリオレフィン樹脂
本発明の難燃性樹脂組成物においては、必要に応じて、(D)官能基含有ポリオレフィン樹脂を配合することができる。官能基含有ポリオレフィン樹脂は、(A)熱可塑性樹脂との良好な相溶性を有し、(B)水酸化マグネシウムとのカップリング効果が著しく、難燃性樹脂組成物の機械的強度、燃焼時の炭化層(チャー)の形成を促し、難燃性を向上させる役割として用いられる。
(D)官能基含有ポリオレフィン樹脂としては、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸ランダム共重合体又はその金属塩及び変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
上記オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸ランダム共重合体としては、エチレン、プロピレン等のオレフィンと(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等の酸無水物基含有モノマーとの共重合体であり、中でも無水物基含有オレフィン系ランダム共重合体が好ましい。
【0057】
上記(D1)酸無水物基含有オレフィン系ランダム共重合体又はその金属塩は、エチレン、プロピレン等のオレフィンと無水マレイン酸等の酸無水物基含有モノマーとの共重合体であり、前述のように本発明の難燃性樹脂材料のエチレン・α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体として使用することも可能であるが、変性ポリオレフィン系樹脂と同様に難燃性や機械的強度等を向上させる改質用樹脂として用いることができる。
酸無水物基含有モノマーとしては、前記エチレンとα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体で挙げられたコモノマーが挙げられる。その好ましい共重合体としては、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸・酢酸ビニル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エチル共重合体等の二元又は三元共重合体が挙げられる。上記金属塩の金属としては、K、Na、Li、Ca、Zn、Mg、Al等が挙げられる。
又、(D1)酸無水物基含有オレフィン系ランダム共重合体又はその金属塩の配合量は、(A)ポリオレフィン系樹脂に対して、1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%、更には1〜10質量%(ただし、(A)成分+(D)成分の合計量は100質量%である)を配合することが好ましい。
【0058】
上記(D2)変性ポリオレフィン系樹脂は、(i)不飽和カルボン酸又はその誘導体、(ii)エポキシ基含有化合物、(iii)ヒドロキシル基含有化合物、(iv)アミノ基含有化合物、(v)有機シラン化合物、(vi)有機チタネート化合物等の官能基含有化合物で変性されたポリオレフィン系樹脂を挙げることができる。
【0059】
上記(i)不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸又は無水物、あるいはそれらの金属塩等が挙げられる。
【0060】
上記(ii)エポキシ基含有化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル及びα−クロロアリル、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸等のグリシジルエステル類又はビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられるが、特に好ましいものとしてはメタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエ−テルを挙げることができる。
【0061】
上記(iii)ヒドロキシル基含有化合物としては、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
上記(iV)アミノ基を含有化合物としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の3級アミノ基が挙げられる。
【0063】
上記(V)有機シラン化合物としては、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシラン等が挙げられる。
【0064】
上記(Vi)有機チタネート化合物としては、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタネート、チタンラクテートアンモニウム等が挙げられる。
【0065】
(D2)変性ポリオレフィン系樹脂中の官能基含有化合物の含有量は、0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜8.0質量%の範囲で選択される。上記含有量が0.05質量%未満では、本発明の効果が充分でなく、樹脂と難燃剤とのカップリング効果が発揮されない虞が生じる。又、10質量%を超える場合は、変性させる際に分解、架橋反応が併発する虞を生じる。
【0066】
(D2)変性ポリオレフィン系樹脂は、官能基含有化合物を有機過酸化物の存在下で加熱することにより変性して得られる。官能基含有化合物の含有量を0.05〜10質量%としたもの、又は該変性物を未変性ポリオレフィン系樹脂に混合してその含有量を上記範囲に調整したものが用いられる。
上記変性に用いるポリオレフィン系樹脂としては、前記ポリオレフィン系樹脂及びこれらの混合物を用いることができる。具体的には(A1)ポリオレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高圧ラジカル法低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレンー(メタ)アクリル酸エステル共重合体の少なくとも1種、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム等の(A2)熱可塑性エラストマーおよびそれらの混合物が挙げられる。
これらの中でも密度が0.87〜0.97g/cmのエチレン単独重合体又はエチレン・α−オレフィン共重合体、中でも直鎖状低密度ポリエチレンを変性したものが該ポリオレフィン系樹脂と水酸化マグネシウムとの相溶性、機械的強度等に優れ、軟質樹脂の可撓性を損なわずに耐熱性を維持し、燃焼時の炭化層の形成を促し難燃性を向上し、機械的強度の向上が望めることから最も好ましい。
【0067】
(F)その他の成分
本発明の難燃性樹脂組成物においては、更に性能を向上させるために本発明に含まれない水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の金属水和物の併用、難燃助剤等の添加剤を配合してもよい。
上記難燃助剤として、赤リン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、リン酸カルシウム、酸化ジルコン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、二硫化モリブデン、粘土、ケイソウ土、カオリナイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、タルク、シリカ、ホワイトカーボン、ゼオライト、ハイドロマグネサイト、有機ベントナイト等を併用しても良い。これら難燃助剤は上記(B)金属水和物に対して50質量%まで配合することが望ましい。
【0068】
更に、本発明の難燃樹脂組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、その使用目的に応じて、各種添加剤や補助資材を配合することができる。それら各種添加剤や補助資材としては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、加工性改良剤、充填剤、銅害防止剤、中和剤、発泡剤、気泡防止剤、着色剤、プロセスオイル、カーボンブラック等を挙げることができる。又、架橋剤、例えば有機過酸化物、硫黄又はシラン系架橋剤や架橋助剤を添加することにより架橋させたり、電離性放射線を照射する等として架橋させることもできる。
【0069】
2.成分の組成割合
本発明の難燃性樹脂組成物における各成分の組成割合は、成分(A)、成分(B)と成分(C)で構成される場合は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(B)金属水和物が30〜250質量部、(C)目ヤニ防止剤0.1〜5質量部で構成される。
【0070】
又、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分で構成される場合は、(A)熱可塑性樹脂と(D)官能基含有ポリオレフィン重合体からなる樹脂成分100質量部に対し、(B)金属水和物30〜250質量部、(C)目ヤニ防止剤0.1〜5質量部であって、該(D)官能基含有ポリオレフィン重合体が1〜30質量%からなる難燃性樹脂組成物で構成される。(B)成分が30質量部未満では難燃性が十分でなく、250質量部を超える場合には材料が硬くなり、製品の可撓性、機械的強度が失われる虞があるばかりでなく、傷つき白化等の弊害が起きる惧れが生じるものとなる。
なお、(D)成分は、樹脂成分が十分に軟質である場合には必ずしも必要としないが、一般的には(A)成分の熱可塑性樹脂に対して1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%(ただし(A)成分と(C)成分との合計が100質量%である)を配合することが好ましい。この(D)成分が存在することにより、樹脂成分と(B)水酸化マグネシウムとのカップリング効果が生じ、かつ燃焼時に炭化層が形成され、難燃化が向上するものとなる。又、30質量%を超える量を配合してもそれ以上の機械的強度の向上は望めないばかりでなく、かえって材料が堅くなる虞が生じる。
【0071】
3.難燃性樹脂組成物の製造
本発明の難燃性樹脂組成物は、前記の(A)成分、(B)成分、(C)成分に、必要に応じて、(D)成分を後述の配合割合で任意の順番に配合して、一軸押出機、二軸押出機、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等通常の混練機を用いて混練、造粒することによって得られる。この場合、各成分の分散を良好にすることができる混練、造粒方法を選択することが好ましく、二軸押出機を用いて、混練、造粒することが好ましい。
【0072】
4.難燃性樹脂組成物の用途
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性と易カット性、目ヤニ防止及び機械的強度、表面平滑性等の諸性能に優れる樹脂組成物であるので、電線、コード、ケーブル、光ファイバーケーブル等の絶縁層及び/又はシース層、半導電層、難燃性シート等に用いることができる。本発明の難燃性樹脂組成物を絶縁層及び/又はシース層に用いた電線、コード、ケーブル、光ファイバーケーブルは、製品外観性、末端切断処理効率がよく、施工性、作業性等に優れる等の特性を有する。
【0073】
5.電線・ケーブル
本発明の電線ケーブルは、上記組成物を用いた電線・ケーブルであって、絶縁層、シース層あるいは、内部半導電層及び/又は外部半導電層、あるいは所望により銅、アルミニウム、鉛等の外部金属遮蔽層やアルミニウムテープ等を巻回した遮水層等の通例電線・ケーブル等において設けられる被覆層を設けても良い。又、該電線・ケーブルの製造方法は一般的な方法でよく、架橋、非架橋で使用してもよく、特に限定されるものではない。 又、通信ケーブル等のように、発泡して使用してもよいし、熱可塑性樹脂や金属箔等の他の基材と積層して用いてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例に用いられる測定・試験方法、使用した材料は次の通りである。
【0075】
1.測定・試験方法
(1)密度
JIS K6922−1(1997)の試験方法に基づいて測定した。
(2)メルトマスフローレイト(MFR)
JIS K6922−1(1997)の試験法に基づいて条件D(温度190℃、荷重21.18N)で測定した。
(3)平均粒径の測定
金属水和物(水酸化マグネシウム)の平均粒径は、堀場製作所社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA−920を用い、特級エタノール溶媒に金属水和物を下記の透過率となるように調整して添加し、1分間超音波処理後、下記の条件により測定された体積基準分布に基づいて算出し、平均粒径(算術平均径)を求めた。
透過率(L):80〜90%
透過率(H):70〜80%
相対屈折率:1.14
形状係数:1.0
データ取り込み回数:10回
反復回数:15回
(4)一次粒子の平均粒径の測定と凝集構造の確認
日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800を用い、水酸化マグネシウム試料に白金パラジウムを蒸着した後、下記条件で形態観察を行い、凝集構造の有無を確認した。
加速電圧:15kV
ワーキングディスタンス:15mm
観察倍率:2000〜30000倍で写真撮影
続いて、得られた写真より、下記条件で適当な水酸化マグネシウムについて個々の長径を測定し、長さ平均粒径と、0.01〜10μmの対数粒子径区分からなる個数基準分布を求めた。
測定粒子数:扁平晶、扁平六方晶を有する均一な結晶構造では、200〜300個、不均一な破砕構造では、約1300個
観察倍率:5000〜30000倍
(5)BET法による比表面積の測定
大倉理研製全自動粉体比表面積測定装置AMS−8000を用い、水酸化マグネシウム約0.3gを250℃、15分間窒素フローによる前処理をした後、液体窒素で下記の吸着ガスにより比表面積を測定した。
吸着ガス量:窒素30%/ヘリウム70%
(6)酸素指数
JIS K7201−1(1999)の試験方法に基づいて、厚み3mmのプレスシートから打抜いたIV型試験片を用い測定した。数値が大きいものが難燃性の優れていることを示す。
(7)易カット性
引張衝撃強度の試験方法(JIS K7160(1996))に基づいて、厚み1mmのプレスシートから打抜いた4形試験片を用い測定し、この引張衝撃強度を易カット性の指標とした(数値が低いほど切れ性が良く易カット性に優れるものである)。
(8)引張強さ及び伸び
JIS C3005(2000)の4.16絶縁体及びシースの引張り試験方法に基づいて、厚み1mmのプレスシートから打抜いたダンベル状3号試験片を用い引張速さ200mm/minで測定した。
(9)表面平滑性
難燃性樹脂組成物を、キャピログラフを用いて下記の条件で押出ストランドを作成し、表面平滑性を下記の通り目視評価した。
機器仕様:(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1B
成形温度:210℃
押出速度:10mm/min
引取速度:4m/min
キャピラリー:長さ8mm、直径2.1mm
[評価基準]
○:光沢があり表面平滑性が良い。
△:光沢があるが水酸化マグネシウムの分散が良くない。
×:梨地模様で表面平滑性が悪い。
(10)目ヤニの評価方法
ペレタイズしたサンプルを40mmφ押出機により穴径2mm、ランド長10mm、穴数6個のダイスを用い設定温度220℃、押出量16kg/hrで1時間押出、そのとき発生した目ヤニを採取し重量測定を行った。
それぞれの試験結果を表1に示す。
【0076】
2.使用材料
(A1)ポリオレフィン系樹脂
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体
MFR:0.8g/10分、アクリル酸エチル含量:15質量%
銘柄名:レクスパールEEA、A1150 日本ポリエチレン(株)製
(a2)エチレン・酢酸ビニル共重合体
MFR:1g/10分、酢酸ビニル含量:15質量%
銘柄名:ノバテックEVA、LV430 日本ポリエチレン(株)製
(a3)直鎖状低密度ポリエチレン(エチレン・α−オレフィン共重合体)
MFR:0.6g/10分、密度:0.922g/cm
銘柄名:ノバテックLL、UE320 日本ポリエチレン(株)製
(A2)オレフィンエラストマー
(a4)エチレン・1−オクテン共重合体
MFR:0.5g/10分、密度:0.863g/cm
銘柄名:エンゲージ8180 ダウ・ケミカル日本(株)製
【0077】
(B)金属水和物
(b1)マグネサイト鉱石(炭酸マグネシウム)を約850℃で焼成した後粉砕し、レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器による平均粒径3μmの微粉末の軽焼マグネシアを得た。得られた軽焼マグネシアを、濃度30重量%、温度約50℃で水中に攪拌し、軽焼マグネシアに対して0.2重量%の水酸化ナトリウムを添加したアルカリ溶液中で約2時間水和反応した後、減圧濾過後水洗し、120℃で約2時間乾燥した。得られた水酸化マグネシウムは、走査型電子顕微鏡により均一な扁平六方晶の一次粒子が凝集構造を形成されていることが確認された(図1−a、図1−b参照)。レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定装置による平均粒径が2.7μm(図6参照)、走査型電子顕微鏡による形態写真から測定された一次粒子の長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径0.11μm、且つ5μm以上の一次粒子0%(図11参照)、BET法比表面積が16m/gの水酸化マグネシウムであった。その物性を表1に示す。
【0078】
(b2)苦汁より得られる塩化マグネシウム15mol/l水溶液に、当量の水酸化カルシウム水溶液を40℃で約2l/hの速度で攪拌しながら加え反応させた。得られた水酸化マグネシウムを減圧濾過後水洗した。その後、水酸化マグネシウム15mol当たり6lの水を加えてオートクレーブ中で250℃で約8時間と熱水処理を行った後、減圧濾過後水洗し、120℃で約2時間乾燥した。得られた水酸化マグネシウムは、走査型電子顕微鏡により扁平晶の一次粒子が凝集構造を形成されていることが確認され(図2−a、図2−b参照)、平均粒径が4.2μm(図7参照)、一次粒子の長さ平均粒径が0.12μm、且つ5μm以上の一次粒子が0%(図12参照)、BET法比表面積が23m/gの水酸化マグネシウムであった。その物性を表1に示す。
【0079】
(b3)苦汁より得られる塩化マグネシウム15mol/l水溶液に、当量の水酸化カルシウム水溶液を40℃で約2l/hの速度で攪拌しながら加え反応させた。得られた水酸化マグネシウムを減圧濾過後水洗し、120℃で約2時間乾燥した。得られた水酸化マグネシウムは、走査型電子顕微鏡により扁平晶の一次粒子が凝集構造を形成されていることが確認され(図3−a、図3−b参照)、平均粒径が6.2μm(図8参照)、一次粒子の長さ平均粒径が0.14μm、且つ5μm以上の一次粒子が0%(図13参照)、BET法比表面積が38m/gの水酸化マグネシウムをであった。その物性を表1に示す。
【0080】
(b4)ブルーサイト鉱石(天然マグネシウムを主成分)を粉砕して乾式法で表面処理剤を混合して製造された水酸化マグネシウム(銘柄名:マグシーズW−R4、神島化学工業(株)製)を上記と同様にして測定し、走査型電子顕微鏡により微小粒子から粗大粒子までの一次粒子とその凝集体との混合体であることが確認され(図4参照)、平均粒径が3.8μm(図9参照)、一次粒子の長さ平均粒径が0.40μm、且つ5μm以上の一次粒子が0.4%(図14参照)、比表面積が6.5m/gの水酸化マグネシウムであった。その物性を表1に示す。
【0081】
(b5)海水より得られる塩化マグネシウムから合成され、湿式法で表面処理剤を混合して製造された水酸化マグネシウム(銘柄名:キスマ5A、協和化学工業(株)製)を上記と同様にして測定し、走査型電子顕微鏡により比較的均一な一次粒子からなり凝集構造がほとんど確認されなかった(図5参照)。又、平均粒径が2.2μm(図10参照)、一次粒子の長さ平均粒径が0.68μm、且つ5μm以上の一次粒子が0%(図15参照)、比表面積が4.9m/gの水酸化マグネシウムであった。その物性を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
(C)目ヤニ防止剤
(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム 商品名MS−6:日東化成(株)
(c2)フッ素系エラストマー 商品名 ダイナマーFX−5911:住友3M(株)
(c3)カルボン酸アマイド系ワックス
エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物
商品名 ライトアマイドWH−255:共栄社化学(株)
【0084】
(D)官能基含有ポリオレフィン樹脂
(D1)エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体
MFR:7g/10分
密度:0.93g/cm
銘柄名:レクスパールET、ET230X 日本ポリエチレン(株)製
(D2)無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン:MFR2g/10分、密度0.923g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に無水マレイン酸0.25質量部、有機過酸化物としてパーヘキシン25Bの0.02質量部を配合し、押出機にて溶融混練して得られた無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(無水マレイン酸含量0.2質量%)。
【0085】
(実施例1)
[難燃性樹脂組成物の作成]
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量部に(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、下記条件にて混練、押出し、ペレタイズして難燃性樹脂組成物を得た。
【0086】
[混練条件]
押出機:ナカタニ製作所製二軸押出機NCM50
ニーダー部温度/回転数:180℃/500rpm
スクリュー部温度/回転数:170℃/65rpm
【0087】
[試験片の作成]
得られた難燃性樹脂組成物を、140℃で5分間ロール混練した後、プレス成形を行い、厚み1mm、及び厚み3mmのプレスシートを作製し、試験に供した。測定結果を表2に示した。
【0088】
(実施例2)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体95質量%に(D)官能基含有ポリオレフィンとして、(D2)無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン5質量%からなるポリエチレン樹脂組成物100質量部に、(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示した。
【0089】
(実施例3)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体85質量%に(D)官能基含有ポリオレフィンとして(D1)エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体15質量%からなるポリエチレン樹脂組成物100質量部に、(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示した。
【0090】
(実施例4)
(a2)エチレン・酢酸ビニル共重合体95質量%に(D)官能基含有ポリオレフィンとして、(D2)無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン5質量%からなるポリエチレン樹脂組成物100質量部に、(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示した。
【0091】
(実施例5)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体85質量%に(a3)直鎖状低密度ポリエチレン10質量%及び(D2)官能基含有ポリオレフィンとして、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン5質量%とからなるポリエチレン樹脂100質量部に、(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示した。
【0092】
(実施例6)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体85質量%に、ポリオレフィンエラストマーである(a4)エチレン・1−オクテン共重合体10質量%及び(D)官能基含有ポリオレフィンとして、(D2)無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン5質量%とからなるポリエチレン樹脂100質量部に、(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示した。
【0093】
(実施例7)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体95質量%に(D)官能基含有ポリオレフィンとして、(D2)無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン5質量%とからなるポリエチレン樹脂100質量部に、(b1)水酸化マグネシウム150質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表2に示した。
【0094】
(実施例8〜9)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量部に(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.3質量部と5質量部を配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表3に示した。
【0095】
(実施例10〜11)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量部に(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c2)フッ素系エラストマー0.2質量部、(c3)カルボン酸アマイド系ワックス0.8質量部を配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表3に示した。
【0096】
(実施例12〜13)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量部に(b2)及び(b3)の水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム0.8質量部を配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表3に示した。
【0097】
(比較例1)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量%に(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表4に示した。
【0098】
(比較例2)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量%に(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム0.05質量部を配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表4に示した。
【0099】
(比較例3)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量%に(b1)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを7質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表4に示した。
【0100】
(比較例4)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量%に(b4)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表4に示す。
【0101】
(比較例5)
(a1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量%に(b5)水酸化マグネシウム100質量部を加え、目ヤニ防止剤として(c1)12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを0.8質量部配合してなる組成物を、100Lタンブラーミキサーを用いて約50rpm、10分間回転混合を行った。得られた混合物を、実施例1と同様の方法で混合、混練、押出しを行い難燃性樹脂組成物を得た。
得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で試験を行った。試験結果を表4に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
[評価結果]
(実施例1〜13)
実施例1は、特定された水酸化マグネシウム(b1)を用いることにより、高難燃性と、易カット性が良好で、かつ(C)目ヤニ防止剤を適量添加することで目ヤニ発生量と同時に引張物性が大きく改善され、運転時間が大幅に向上し、押出成形用ノンハロゲンポリエチレン材料として優位性のあるものとして使用できるものであった。
実施例2、3は、さらに官能基含有ポリオレフィンを配合することで物性は更に良化した。
実施例4〜6においては、(A)成分の熱可塑性樹脂の種類を変化させた難燃性樹脂組成物であるが、いずれも実施例2と同等の性能を有していた。
実施例7は、(B)成分の難燃剤の配合量を150質量部と増量したものであり、難燃性が上昇するものの、目ヤニ発生量の増加や、機械的強度の低下の傾向を示すが、製品に供するのにはなんら問題はなかった。
実施例8、9は、目ヤニ防止剤の配合量を変化させたものであるが、本発明の範囲内であれば、目ヤニ発生量も少なく、かつ難燃性、易カット性等の性能も満足した製品を供するものであった。
実施例10、11は、目ヤニ防止剤として、(c2)フッ素系エラストマー、(c3)カルボン酸アマイド系ワックスを使用したものであり、これらの目ヤニ防止剤を用いた場合でも、目ヤニ発生量が少なく、かつ難燃性、易カット性等の性能も満足した製品を供するものであった。
実施例12,13においては、(B)成分の水酸化マグネシウムの種類を(b2)、(b3)に代えて行ったが、実施例1同様に一次粒子とその凝集体の混合体からなるために易カット性が良好であり(引張衝撃強度が低い)、比表面積も大きいために難燃性も高いものであり、かつ目ヤニの発生量も少ないものであった。
【0106】
[総合評価]
実施例1〜13は特定された水酸化マグネシウム(b1〜b3)を用いた難燃性組成物で一次粒子とその凝集体の混合体からなるために易カット性が良好であった(引張衝撃強度が低い)またこの(b1)水酸化マグネシウムは比表面積が大きいために難燃性も高いものであり、かつ目ヤニの発生量も少なく、バランスの良いものである。
【0107】
(比較例1〜5)
比較例1では特定された水酸化マグネシウム(b1)を用いることで易カット性(低引張衝撃強度)は達成されているが、引張伸びが確保されないことと目ヤニの発生が非常に多く、連続的な運転や良好な外観をもつ製品を望めるものではなかった。
【0108】
比較例2は(C)目ヤニ防止剤の配合量が少なく、本発明の範囲外であるため、やはり、目ヤニの発生量と、連続的な運転や良好な外観をもつ製品を望めるものではなかった。
比較例3は(C)目ヤニ防止剤の配合量が本発明の範囲外に増やしたものである。目ヤニの発生量は問題ない領域まで改善されるが、引張強度と難燃性が確保できず、良好な製品を望めるものではなかった。
比較例4、5は、従来市販されている(b4)天然鉱石粉砕水酸化マグネシウム、(b5)合成水酸化マグネシウムを使用したものであり、目ヤニの発生は問題ないものの、引張物性、難燃性には優れるが、引張衝撃強度が高く易カット性は達成されないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の難燃性樹脂組成物は、従来のノンハロゲン系難燃性樹脂組成物の性能を保持し、難燃性と易カット性及び機械的強度、表面平滑性等の諸性能に優れる樹脂組成物であるので、電線、ケーブル、光ファイバーケーブル等の絶縁層及び/又はシース層に用いることができる。又、本発明の難燃性樹脂組成物を用いた電線、ケーブル、光ファイバーケーブル等は、表面平滑性が良好で、製品外観に優れ、易カット性が良好であることから、末端切断処理性に優れ、作業性、施工性がよく、工業的に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1−a】水酸化マグネシウムb1の形態写真(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、2万倍)である。均一な一次粒子が観察される。
【図1−b】水酸化マグネシウムb1の形態写真(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、5千倍)である。一次粒子が凝集構造を形成しているのが観察される。
【図2−a】水酸化マグネシウムb2の形態写真(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、3万倍)である。均一な一次粒子が観察される。
【図2−b】水酸化マグネシウムb2の形態写真(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、5千倍)である。一次粒子が凝集構造を形成しているのが観察される。
【図3−a】水酸化マグネシウムb3の形態写真(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、3万倍)である。均一な一次粒子が観察される。
【図3−b】水酸化マグネシウムb3の形態写真(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、5千倍)である。一次粒子が凝集構造を形成しているのが観察される。
【図4】水酸化マグネシウムb4の形態写真(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、5千倍)である。不均一な粒子が観察でき、且つ微小な粒子が凝集しているのが観察される。
【図5】水酸化マグネシウムb5の形態写真(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、5千倍)である。凝集構造を形成していない均一な一次粒子が観察される。
【0111】
【図6】水酸化マグネシウムb1の体積基準粒径分布(堀場製作所社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA−920)である。
【図7】水酸化マグネシウムb2の体積基準粒径分布(堀場製作所社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA−920)である。
【図8】水酸化マグネシウムb3の体積基準粒径分布(堀場製作所社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA−920)である。
【図9】水酸化マグネシウムb43の体積基準粒径分布(堀場製作所社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA−920)である。
【図10】水酸化マグネシウムb54の体積基準粒径分布(堀場製作所社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA−920)である。
【図11】水酸化マグネシウムb1の長径方向の個数基準粒径分布(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、2万倍より測定)である。
【図12】水酸化マグネシウムb2の長径方向の個数基準粒径分布(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、3万倍より測定)である。
【図13】水酸化マグネシウムb3の長径方向の個数基準粒径分布(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、3万倍より測定)である。
【図14】水酸化マグネシウムb43の長径方向の個数基準粒径分布(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、1万倍より測定)である。
【図15】水酸化マグネシウムb54の長径方向の個数基準粒径分布(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡S−800、5千倍より測定)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂100質量部と、
(B)下記(イ)〜(ハ)の条件を満足する金属水和物30〜250質量部、
[金属水和物]
(イ)レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された体積基準粒径分布に基づいて算出された平均粒径(算術平均径)が1〜10μmの範囲であること
(ロ)走査型電子顕微鏡による形態写真から、一次粒子で形成された凝集体からなる二次粒子が含まれることが観察され、形態写真から測定された一次粒子の長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあり、且つ5μm以上の粒子が0.1%以下であること
(ハ)BET法による比表面積が8.0m/g以上であること
及び樹脂成分100質量部に対して、下記(1)〜(3)から選択される少なくとも1種の(C)目ヤニ防止剤0.1〜5質量部
[目ヤニ防止剤]
(1)12−ヒドロキシステアリン酸金属塩および/または塩基性12−ヒドロキ
システアリン酸金属塩
(2)フッ素エラストマー
(3)カルボン酸アマイド系ワックス
を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
(B)金属水和物が、さらに下記(ニ)の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
(ニ)レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された平均粒径と走査型電子顕微鏡による形態写真から測定された一次粒子の平均粒径との比が5以上であること
【請求項3】
(B)金属水和物が、(B1)水酸化マグネシウム及び/又は(B2)水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
(B1)水酸化マグネシウムが合成法で製造されたものであることを特徴とする請求項3に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
(B1)合成法による水酸化マグネシウムが、マグネシウム塩を含む水溶液にアルカリ物質を加えて得られたもの、又は酸化マグネシウムを水和して得られたものであることを特徴とする請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)熱可塑性樹脂が、(A1)ポリオレフィン系樹脂及び/又は(A2)熱可塑性エラストマーを含む樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
(A)熱可塑性樹脂が、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、及び、密度0.86〜0.94g/cmのエチレン・α−オレフィン共重合体から選択された少なくとも1種のエチレン共重合体である(A1)ポリオレフィン系樹脂100〜20質量%と(A2)熱可塑性エラストマー0〜80質量%を含む樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
(A)熱可塑性樹脂に対し、更に(D)官能基含有ポリオレフィン樹脂1〜30質量%(ただし(A)成分と(D)成分の合計が100質量%である)を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を用いたことを特徴とする電線、ケーブル。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図1−a】
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【図1−b】
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【図2−a】
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【図2−b】
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【図3−a】
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【図3−b】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−7730(P2008−7730A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182316(P2006−182316)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】