説明

電力供給装置及び無効電力補償装置

【課題】各相間電源回路部から出力される有効出力を均一にする。
【解決手段】直流電源211及びその直流電圧を単相交流電圧に変換するスイッチング回路212からなる1又は複数の単相インバータ回路21を直列接続してなる相間電源回路部2a、2b、2cを、デルタ結線して構成された電源回路2を不平衡負荷300に直列接続し、その不平衡負荷300に電力を供給する電力供給装置100であって、デルタ結線内部を循環する循環電流iを生じさせ、その循環電流iを調整することにより各相間電源回路部2a、2b、2cの有効出力eab、ebc、ecaが等しくなるように制御する制御装置3を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不平衡負荷に電力を供給する電力供給装置、及び電力系統に無効電力を供給することにより、当該電力系統の電圧調整を行う無効電力補償装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の無効電力補償装置としては、例えば特許文献1に示すように、3つの自励式単相インバータをデルタ結線して、各自励式単相インバータの出力側を3相交流電力系統のそれぞれの相にリアクトルを介して接続されているものがある。
【0003】
しかしながら、この無効電力補償装置においては、電力系統のフリッカ等を補償するために3相不平衡な電流を出力すると、各自励式単相インバータに設けられた直流電源の出力エネルギが不均一になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−189474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、1又は複数の単相インバータ回路を直列接続してなる相間電源回路部をデルタ結線して構成された電源回路により不平衡負荷に電力を供給する場合、又は、その電源回路を用いて電力系統に無効電力を供給する場合において、各相間電源回路部から出力される出力エネルギを均一にすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る電力供給装置は、直流電源及びその直流電圧を単相交流電圧に変換するスイッチング回路からなる1又は複数の単相インバータ回路を直列接続してなる相間電源回路部を、デルタ結線して構成された電源回路を不平衡負荷に直列接続し、当該不平衡負荷に電力を供給する電力供給装置であって、前記デルタ結線内部を循環する循環電流iを生じさせ、当該循環電流iを調整することにより各相間電源回路部の出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御する制御装置を備え、前記制御装置が、各相間電源回路部の出力電流から前記循環電流iを除いたメイン出力電流iab、ibc、ica、各相間電源回路部の出力電圧において前記循環電流iを生じさせる誘導電圧v、及び、各相間電源回路部の出力電圧から前記誘導電圧vを除いたメイン出力電圧vab、vbc、vcaを用いて、前記循環電流iを以下に示すように制御することにより、各相間電源回路部の出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御することを特徴とする。
【0007】
【数1】

【0008】
但し、係数Kはゲインである。また、前記メイン出力電圧vab、vbc、vcaの和はゼロである。なお、太字で表記した変数はそれぞれの交流電圧又は交流電流をフェーザで表示したものであり、「・」で表す演算は、フェーザを複素平面上のベクトルとして取扱った場合のベクトルの内積である。また、瞬時値領域では、「・」で表す演算は次式で計算する。
【0009】
【数2】

【0010】
ここで、x及びyは、前記式(1)の中の任意のフェーザであり、x(t)とy(t)は、それらの瞬時値である。また、ωは電力系統の基本角周波数である。
【0011】
この電力供給装置によれば、デルタ結線内に積極的に循環電流を生じさせて、この循環電流をデルタ結線内部に循環させることにより、各相間電源回路部の出力エネルギを等しくすることができる。また、上記の循環電流は理論最適解であるため、装置を構成する機器の電流容量を的確に算出することができ、機器設計の最適化も可能となる。
【0012】
また、本発明に係る無効電力補償装置は、電力系統に接続され、その電力系統に無効電力を供給することにより、当該電力系統の電圧調整を行う無効電力補償装置であって、直流電源及びその直流電圧を単相交流電圧に変換するスイッチング回路からなる1又は複数の単相インバータ回路を直列接続してなる相間電源回路部を、デルタ結線して構成された電源回路と、前記デルタ結線内部を循環する循環電流iを生じさせ、当該循環電流iを調整して、各相間電源回路の出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御する制御装置と、を備え、前記制御装置が、各相間電源回路部の出力電流から前記循環電流iを除いたメイン出力電流iab、ibc、ica、各相間電源回路部の出力電圧において前記循環電流iを生じさせる誘導電圧v、及び、各相間電源回路部の出力電圧から前記誘導電圧vを除いたメイン出力電圧vab、vbc、vcaを用いて、前記循環電流iを以下に示すように制御することにより、各相間電源回路部の出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御することを特徴とする。
【0013】
【数3】

【0014】
但し、係数Kはゲインである。また、前記メイン出力電圧vab、vbc、vcaの和はゼロである。なお、太字で表記した変数はそれぞれの交流電圧又は交流電流をフェーザで表示したものであり、「・」で表す演算は、フェーザを複素平面上のベクトルとして取扱った場合のベクトルの内積である。また、瞬時値領域では、「・」で表す演算は次式で計算する。
【0015】
【数4】

【0016】
ここで、x及びyは、前記式(2)の中の任意のフェーザであり、x(t)とy(t)は、それらの瞬時値である。また、ωは電力系統の基本角周波数である。
【0017】
この無効電力補償装置によれば、デルタ結線内に積極的に循環電流を生じさせて、この循環電流をデルタ結線内部に循環させることにより、各相間電源回路部の出力エネルギを等しくすることができる。また、上記の循環電流は理論最適解であるため、装置を構成する機器の電流容量を的確に算出することができ、機器設計の最適化も可能となる。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、1又は複数の単相インバータ回路を直列接続してなる相間電源回路部をデルタ結線して構成された電源回路により不平衡負荷に電力を供給する場合、又は、その電源回路を用いて電力系統に無効電力を供給する場合において、各相間電源回路部から出力される出力エネルギを均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る無効電力補償装置の構成を示す模式図である。
【図2】同実施形態の相間電源回路部の構成を示す模式図である。
【図3】同実施形態のシミュレーションにおけるモデル回路を示す模式図である。
【図4】同シミュレーションにおける制御装置の制御ブロック図である。
【図5】シミュレーション結果における負荷電流を示す図である。
【図6】シミュレーション結果における無効電力補償装置の出力電流を示す図である。
【図7】シミュレーション結果における電力系統の電源電流を示す図である。
【図8】シミュレーション結果における各相間電源回路部からの出力エネルギを示す図である。
【図9】従来の循環電流を用いない場合の各相間電源回路部からの出力エネルギを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明に係る無効電力補償装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係る無効電力補償装置100は、a相、b相及びc相からなる3相交流電力系統(以下、電力系統という。)200と3相負荷300との間において、電力系統200に並列に接続され、その電力系統200に無効電力を供給することにより、当該電力系統200の電圧調整や負荷300の力率改善を行うものである。
【0022】
具体的にこのものは、図1に示すように、電力系統200に接続される電源回路2と、当該電源回路2を制御する制御装置3とを備えている。
【0023】
電源回路2は、図2に示すように、直流電源211及びその直流電源211の直流電圧を単相交流電圧に変換するスイッチング回路212からなる複数の単相インバータ回路21を直列接続してなる相間電源回路部2a、2b、2cを、デルタ結線して構成されたものである。そして、電力系統200が3相負荷300に対して正相電流を供給し、電源回路2が3相負荷300に対して逆相電流を供給する。
【0024】
本実施形態の相間電源回路部2a、2b、2cは、3つの単相インバータ回路21及びリアクトル22を直列接続して構成されている。直流電源211は、エネルギの充放電機能を有し、かつスイッチング回路212以外とは電気的に絶縁された、例えばコンデンサである。
【0025】
スイッチング回路212は、半導体スイッチ素子とそれに逆並列されたダイオードとから構成したフルブリッジインバータである。本実施形態では半導体スイッチ素子として、自己消弧能力を有するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いている。このスイッチング回路212は、後述する制御装置3を用いて、ゲートへの駆動信号によりオンオフ制御され、動作パターン(スイッチパターン)が制御されるようにしている。
【0026】
制御装置3は、電源回路2のデルタ結線内部を循環する循環電流iを生じさせ、当該循環電流iを調整して、各相間電源回路部2a、2b、2cの出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように各相間電源回路部2a、2b、2cを制御するものであり、その機器構成は、CPU、メモリ、入出力インターフェイス、AD変換器等を備えた汎用乃至専用のコンピュータであり、前記メモリの所定領域に記憶させた所定プログラムにしたがってCPU、周辺機器等を協働させることにより、下記の制御機能を発揮する。
【0027】
また、制御装置3は、系統電圧Vsab、Vsbc、Vsca、系統電流isa、isb、isc、各相間電源回路部2a、2b、2cの出力電流から循環電流iを除いたメイン出力電流iab、ibc、ica、各相間電源回路部2a、2b、2cの出力電圧から誘導電圧vを除いたメイン出力電圧vab、vbc、vca、電源回路2からの各相への出力電流i、i、i、循環電流i、各相間電源回路部2a、2b、2cの出力エネルギeab、ebc、eca等の検出信号を図示しない検出手段より受け取る。
【0028】
具体的に制御装置3は、各相間電源回路部2a、2b、2cのメイン出力電流iab、ibc、ica、各相間電源回路部2a、2b、2cのメイン出力電圧vab、vbc、vcaを用いて、各相間電源回路部より誘導電圧vを発生し、循環電流iを以下に示すように制御することにより、各相間電源回路部2a、2b、2cの出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御する。なお、各相間電源回路部2a、2b、2cは、メイン出力電圧vab、vbc、vca及び誘導電圧vを出力するものであり、誘導電圧vは、各相間電源回路部2a、2b、2cのメイン出力電圧vab、vbc、vcaに対して充分に小さい値である。
【0029】
【数5】

但し、係数Kはゲインである。また、メイン出力電圧vab、vbc、vcaの和はゼロである。
【0030】
なお、太字で表記した変数はそれぞれの交流電圧又は交流電流をフェーザで表示したものであり、「・」で表す演算は、フェーザを複素平面上のベクトルとして取扱った場合の、ベクトルの内積である。また、瞬時値領域では、「・」で表す演算は次式で計算する。
【0031】
【数6】

【0032】
ここで、x及びyは、式(1)の中の任意のフェーザであり、x(t)とy(t)は、それらの瞬時値である。また、ωは電力系統の基本角周波数である。
【0033】
このとき、各相間電源回路部2a、2b、2cの出力エネルギeab、ebc、ecaは以下の式のように計算され、時間の経過とともに等しい値に収束することがわかる。
【0034】
【数7】

【0035】
次に、このように構成した無効電力補償装置100の動作のシミュレーションについて説明する。
【0036】
まず、図3にシミュレーションのモデルを示す。このモデルにおいて、電力系統200から3相負荷300に供給される各相a〜cの系統電流をisa、isb、isc、電力系統200の各相a〜cの電源電圧をVsa、Vsb、Vscとする。また、各相間電源回路部2a、2b、2cのメイン出力電圧をvab、vbc、vca、各相間電源回路部2a、2b、2cのメイン出力電流をiab、ibc、ica、誘導電圧をvとし、電源回路2の各相a〜cの出力電流をi、i、iとする。さらに各相a〜cの負荷電流をiLa、iLb、iLcとする。
【0037】
このとき、3相負荷300が、電力供給開始時から2.00秒後に平衡負荷(4kW、各相負荷3/4kW)から不平衡負荷(前記平衡負荷に加え、bc相で3/4kWの単相負荷が起動)に変化したとする。このときの制御装置3の制御ブロック図を図4に示す。なお、図4においてアスタリスク(*)は目標値を示している。
【0038】
上記のシミュレーションの結果を図5〜図8に示す。図5は、負荷電流iLa、iLb、iLcの値を示すシミュレーション結果であり、図6は電源回路2からの出力電流i、i、iの値を示すシミュレーション結果であり、図7は電源電流isa、isb、iscの値を示すシミュレーション結果である。これらの図から、無効電力補償装置200が負荷変動に対して適切に電力補償していることが分かる。
【0039】
また、このとき図8に示すように、制御装置3により循環電流iを上記式により設定していることから、各相間電源回路部2a、2b、2cから出力される有効出力が均一に制御されていることが分かる。一方、循環電流iを用いずに電力補償した場合には、図9に示すように、各相間電源回路部2a、2b、2cから出力される有効出力が不均一となる。
【0040】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る無効電力補償装置100によれば、デルタ結線内に積極的に循環電流iを生じさせて、この循環電流iをデルタ結線内部に循環させることにより、各相間電源回路部2a、2b、2cの出力エネルギeab、ebc、ecaを等しくすることができる。また、上記の循環電流iは理論最適解であるため、装置200を構成する機器の電流容量を的確に算出することができ、機器設計の最適化も可能となる。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、無効電力補償装置について説明したが、その他、電源回路を不平衡負荷に直列接続し、当該不平衡負荷に電力を供給する電力供給装置に適用しても良い。
【0042】
また、前記実施形態の相間電源回路部は、複数の単相インバータ回路及びリアクトルを直列接続して構成されているが、1つの単相インバータ回路及びリアクトルを直列接続して構成しても良い。
【0043】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
100 ・・・無効電力補償装置
200 ・・・電力系統
300 ・・・3相負荷(不平衡負荷)
2 ・・・電源回路
211 ・・・直流電源
212 ・・・スイッチング回路
21 ・・・単相インバータ回路
2a、2b、2c・・・相間電源回路部
・・・循環電流
3 ・・・制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源及びその直流電圧を単相交流電圧に変換するスイッチング回路からなる1又は複数の単相インバータ回路を直列接続してなる相間電源回路部を、デルタ結線して構成された電源回路を不平衡負荷に直列接続し、当該不平衡負荷に電力を供給する電力供給装置であって、
前記デルタ結線内部を循環する循環電流iを生じさせ、当該循環電流iを調整することにより各相間電源回路部の出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御する制御装置を備え、
前記制御装置が、各相間電源回路部の出力電流から前記循環電流iを除いたメイン出力電流iab、ibc、ica、各相間電源回路部の出力電圧において前記循環電流iを生じさせる誘導電圧v、及び、各相間電源回路部の出力電圧から前記誘導電圧vを除いたメイン出力電圧vab、vbc、vcaを用いて、前記循環電流iを以下に示すように制御することにより、各相間電源回路部の出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御する電力供給装置。
【数1】

但し、係数Kはゲインである。また、前記メイン出力電圧vab、vbc、vcaの和はゼロである。なお、太字で表記した変数はそれぞれの交流電圧又は交流電流をフェーザで表示したものであり、「・」で表す演算は、フェーザを複素平面上のベクトルとして取扱った場合のベクトルの内積である。また、瞬時値領域では、「・」で表す演算は次式で計算する。
【数2】

ここで、x及びyは、前記式(1)の中の任意のフェーザであり、x(t)とy(t)は、それらの瞬時値である。また、ωは電力系統の基本角周波数である。
【請求項2】
電力系統に接続され、その電力系統に無効電力を供給することにより、当該電力系統の電圧調整を行う無効電力補償装置であって、
直流電源及びその直流電圧を単相交流電圧に変換するスイッチング回路からなる1又は複数の単相インバータ回路を直列接続してなる相間電源回路部を、デルタ結線して構成された電源回路と、
前記デルタ結線内部を循環する循環電流iを生じさせ、当該循環電流iを調整して、各相間電源回路の出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置が、各相間電源回路部の出力電流から前記循環電流iを除いたメイン出力電流iab、ibc、ica、各相間電源回路部の出力電圧において前記循環電流iを生じさせる誘導電圧v、及び、各相間電源回路部の出力電圧から前記誘導電圧vを除いたメイン出力電圧vab、vbc、vcaを用いて、前記循環電流iを以下に示すように制御することにより、各相間電源回路部の出力エネルギeab、ebc、ecaが等しくなるように制御する無効電力補償装置。
【数3】

但し、係数Kはゲインである。また、前記メイン出力電圧vab、vbc、vcaの和はゼロである。なお、太字で表記した変数はそれぞれの交流電圧又は交流電流をフェーザで表示したものであり、「・」で表す演算は、フェーザを複素平面上のベクトルとして取扱った場合のベクトルの内積である。また、瞬時値領域では、「・」で表す演算は次式で計算する。
【数4】

ここで、x及びyは、前記式(2)の中の任意のフェーザであり、x(t)とy(t)は、それらの瞬時値である。また、ωは電力系統の基本角周波数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−45210(P2011−45210A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192806(P2009−192806)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】