説明

電力変換装置およびそれを用いた電気掃除機

【課題】低電圧の単相交流電源でも昇圧して大きな交流電圧を負荷へ供給する電力変換装置およびそれを用いた電気掃除機を提供する。
【解決手段】入力端子23、24、出力端子25〜27、双方向スイッチング素子30から35を有するマトリクス回路28、インダクタンス素子29、コンデンサ37、38、39を有し、2個の双方向スイッチング素子30、31が同時にオンとなる上下同時導通期間を有し、昇圧動作により大きな交流電圧を負荷22へ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務用や一般家庭用や業務用の各種電気機器などに使用され、電動機などを負荷とする電力変換装置および電気掃除機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電力変換装置は、6個の双方向スイッチング素子を単相の交流電源と3相の負荷との間に接続し、単相の交流から直接3相の交流への電力変換を行うものであった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図16は、特許文献1に記載された従来の電力変換装置の回路図を示すものである。
【0004】
図16に示すように、交流電源1と、交流電源1に接続されたマトリクスコンバータ回路2と、マトリクスコンバータ回路2に接続された負荷となる3相の電動機3と、マトリクスコンバータ回路2の動作を制御する制御部4とで構成される。
【0005】
マトリクスコンバータ回路2は、2個のトランジスタ5、6および2個のダイオード7、8を用いた双方向スイッチング素子10と、双方向スイッチング素子10と同様の構成で組まれた双方向スイッチング素子11、12、13、14、15を有するものとなっており、マトリクスコンバータ回路2内の合計12個のトランジスタのオンオフが制御部4によって制御される結果、3相の交流電圧が電動機3に供給されて駆動されるものであった。
【特許文献1】特開2005−45912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、交流電源1として日本国内の100V50Hzまたは60Hzなどの低電圧の単相の交流電源を用いる場合、交流電源から供給される交流電圧のピーク値は約140Vであり、マトリクスコンバータ回路でのスイッチングによって、電動機への出力電圧は線間電圧のピーク値が140Vを上限とする、かなり低い値となる。
【0007】
例えばマトリクスコンバータ回路を用いずに、単相交流電源を一旦倍電圧整流して直流電圧に変換する構成の電力変換装置と比較した場合、負荷への供給電圧が不足するものとなる。特に、交流電源1として正弦波の電圧波形を有する単相のものを接続する場合、電圧の瞬時値がゼロとなるタイミング(零電圧点)の前後の低電圧期間で、負荷の電動機3へ供給する電気パワーが低下した状態となるが、低電圧期間に電動機3の出力トルクが低下するという課題を有したものであった。
【0008】
もっとも、負荷が低電圧であっても十分なパワーを供給する設計方法もあるが、その場合には電流値が相当に増大することになり、双方向スイッチング素子の定格電流が大きなものを採用する必要があり、コスト面・形状面で不利なものであった。
【0009】
本発明は上記課題を解決するもので、入力される交流電源の電圧を昇圧して十分な電圧を負荷に供給し、また零電圧点前後の低電圧期間においても、極力電気パワーを負荷へ供給し、負荷への供給パワー変動を低減することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の電力変換装置は、2つの入力端子およびN(Nは2以上の整数)個の出力端子を有し前記2つの入力端子と前記出力端子の各組み合わせに設けた2N個の双方向スイッチング素子を含んだマトリクス回路と、単相交流電源から前記入力端子への経路に接続したインダクタンス素子と、前記出力端子間に接続したコンデンサとを備え、前記双方向スイッチング素子のうち1つの出力端子に接続された2個の双方向スイッチング素子が同時にオンとなる上下同時導通期間を有したものである。
【0011】
これによって、単相交流電源の電圧を昇圧して負荷に供給することによって、負荷への供給電圧を確保し、負荷への供給パワーの低下を改善することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、単相交流電源の電圧を昇圧して負荷に供給することによって、負荷への供給電圧を確保し、負荷への供給パワーの低下を改善した電力変換装置を実現することができるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
第1の発明は、2つの入力端子およびN(Nは2以上の整数)個の出力端子を有し前記2つの入力端子と前記出力端子の各組み合わせに設けた2N個の双方向スイッチング素子を含んだマトリクス回路と、単相交流電源から前記入力端子への経路に接続したインダクタンス素子と、前記出力端子間に接続したコンデンサとを備え、前記双方向スイッチング素子のうち1つの出力端子に接続された2個の双方向スイッチング素子が同時にオンとなる上下同時導通期間を有した電力変換装置とするものである。
【0014】
この構成により、上下同時導通期間にインダクタンス素子に磁気エネルギーとして蓄えてコンデンサに供給することから、単相交流電源の電圧を昇圧して負荷に供給することができ、負荷への供給電圧を確保し、負荷への供給パワーの低下を改善した電力変換装置を実現することができる。
【0015】
第2の発明は、特に第1の発明のNをN=3とし、出力端子に三相の負荷を接続し、3個のコンデンサを3個の出力端子間に有した構成とすることにより、双方向スイッチング素子の数など部品点数を抑え、比較的簡単な構成とした上で、負荷に供給する電圧を確保し、負荷への供給パワーの低下を改善した電力変換装置を実現することができるものとなる。
【0016】
第3の発明は、特に第1の発明または第2の発明の単相交流電源の零点付近の低電圧期間の上下同時導通の期間が占める時間比率を、前記単相交流電源のピーク位相付近の高電圧期間のそれに対して大とすることにより、特に低電圧期間における負荷に供給される電圧の低下を改善し、負荷へのパワーの低下の改善が図った電力変換装置を実現することができるものとなる。
【0017】
第4の発明は、特に第1から第3のいずれかの発明の上下同時導通する双方向スイッチング素子を、特定の出力端子に接続された2個の双方向スイッチング素子以外の出力端子に接続された2個の双方向スイッチング素子の同時オンによっても行うことで、特定の双方向スイッチング素子への損失の集中を防ぎ、小型で信頼性の高い電力変換装置を実現することができるものとなる。
【0018】
第5の発明は、特に第1から第4のいずれかの発明の双方向スイッチング素子を、電流が流れる両方向それぞれに対して、オンオフの制御が可能であり、同一の入力端子に接続されたN個の双方向スイッチング素子の内、2個が同時にオンとなるオーバーラップ期間
を有することで、インダクタンス素子の電流経路がとぎれて高電圧が双方向スイッチング素子に発生することを防ぐことができ、高い信頼性を有する電力変換装置を実現することができるものとなる。
【0019】
第6の発明は、特に第1から第5のいずれかの発明の双方向スイッチング素子として炭化珪素(以下、SiCという)半導体を用いたことにより、小さいチップ面積で双方向スイッチング素子を構成することができる。
【0020】
第7の発明は、特に第1から第6のいずれかの発明の負荷を、永久磁石を有する電動機を負荷として接続することで、負荷の力率が高く、双方向スイッチング素子の定格電流を低減でき、特に高速時に発生する高い誘導起電力に対しても、昇圧動作による負荷への十分な電圧確保が可能となり、高効率で小型の電力変換装置を実現することができる。
【0021】
第8の発明は、特に第1〜第7のいずれか1つの発明の電力変換装置と、前記電力変換装置から電力が供給される電動機と、前記電動機によって回転駆動されるファンとを有する電気掃除機としたことにより、単相交流電源からの電源供給であっても、昇圧動作によって高い電圧で電動機を駆動できるから、大きなトルクで強い吸引力が得られると共に、小型・軽量で使い勝手のよい電気掃除機を実現できるものとなる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における電力変換装置の回路図である。
【0024】
図1において、実効値電圧100V、50Hzの単相交流電源20、および単相交流電源20から入力を受ける電力変換回路21は、三相の負荷22として3相の電動機が接続されており、三相の交流を出力するものとなっている。
【0025】
電力変換回路21は、2つの入力端子23、24と、3個の出力端子25、26、27を有するマトリクス回路28と、単相交流電源20から入力端子23への経路に接続したインダクタンス素子29と、出力端子25、26間に接続したコンデンサ37、出力端子26、27間に接続したコンデンサ38、出力端子25、27間に接続したコンデンサ39を有している。
【0026】
本実施の形態においては、出力端子数Nは3個であり、コンデンサの数は3個となっており、よって三相の出力を得る構成となっている。しかし、N=3とした三相に限定されるものではなく、4以上の整数でもかまわず、コンデンサの数も最低N−1個のものがあれば、各出力端子間の電圧がすべてコンデンサを経由した低インピーダンスで与えられるものとなり、発明の効果が期待できるものとなる。
【0027】
また、インダクタンス素子の数についても、単相交流電源20の両側、すなわち入力端子24に接続されている経路にも設けて、合計2個を用いるなどの構成であってもよい。
【0028】
マトリクス回路28は、2つの入力端子23、24と、3つの出力端子25、26、27の合計6個の組み合わせのそれぞれに設けた6個の双方向スイッチング素子30、31、32、33、34、35を有し、双方向スイッチング素子30〜35の内、出力端子25に接続された2個の双方向スイッチング素子30、31が同時にオンとなる上下同時導通期間を有したものとなっている。
【0029】
図2は、本実施の形態における電力変換装置の双方向スイッチング素子30〜35の等価回路図を示している。
【0030】
図2において、SiC半導体50、51は、それぞれSiC(炭化ケイ素)を主成分とし、シリコンよりも大きなバンドギャップを有したNチャンネルのMOSFET構造であって、逆方向の耐圧を十分に確保できるとともに、等価的に2つのSiC半導体50、51が逆方向に接続された構造となっている。そして、ゲートG1とソースS1間に駆動信号(ゲート信号)が入力されると、端子aから端子bの方向への電流が流れる状態となり、ゲートG2とソースS2間に駆動信号(ゲート信号)が入力されると、端子bから端子aの方向への電流が流れる状態となる。したがって、電流が流れる両方向それぞれに対して、オンオフの制御が可能になる。
【0031】
ただし、半導体の材料としてSiCでなければ構成することができないというものではなく、他の半導体材料、例えばシリコンなどでもよく、双方向スイッチング素子として使用できるものであれば、材質には特にこだわるものでない。
【0032】
また、図2に示したような等価的にMOSFET形を2つ設けて、逆向きの並列接続された形にしたものに限定されるものでもなく、双方向のスイッチング、すなわち順方向の導通/非導通、逆方向の導通/非導通というような制御が可能となる形式のものであるならば、他の等価回路で表現されるものでも使用することができる。
【0033】
図3は、本実施の形態における負荷22となる3相の電動機の断面図である。
【0034】
3相の電動機として構成した負荷22は、鋼板を積層した表面に4つの永久磁石60、61、62、63を貼り付けて構成した鉄心64を、出力軸65を中心として回転自在に設けた回転子66と、回転子66の外側に設けた固定子67とを有する構成している。固定子67は、やはり珪素鋼板を積層して構成した鉄心68、及び巻線70〜75によって構成している。
【0035】
図4は、3相の電動機の巻線70〜75の結線図を示している。
【0036】
巻線70〜75については、機械的に180度の位置に設けたもの同士が直列に接続され、電流が流れ込んだ時に、同極が回転子66に対向する場所に発生する構成となっている。
【0037】
図5は、本実施の形態の負荷22を外部から駆動した場合の3相の端子U、V、Wの端子間(例えばU−V間)に発生する電圧、すなわち無負荷の誘導起電力を示したものであり、永久磁石60〜63が4極の構成であることから、機械位相(機械角)180度を周期として、正/負の極性で電圧が発生するという特性のものとなっている。
【0038】
双方向スイッチング素子30〜35の駆動方法としては、一般的にDCブラシレス電動機の駆動として従来から用いられているような、例えばホールICを用いて、回転子66の位置を検知しながら、120度の電気角での通電を行う矩形波(方形波)の駆動や、電圧・電流の波形が正弦波に近くなるようにPWMする方法がある。または、ホールICを用いずに位置検知を行う、例えば各相の電流値の検出値から行うようなセンサレスと呼ばれるような方法であっても良い。更にまた、電流のベクトルをd軸成分とq軸成分に分解して制御するベクトル制御と呼ばれるものなど、各種の制御構成が可能である。
【0039】
このように、負荷22となる3相電動機は、永久磁石を用いて構成されているから、高効率の3相電動機とすることが実現でき、双方向スイッチング素子30〜35の容量(耐
電圧と電流容量の積)を抑えた低コストのものとすることができる。
【0040】
図6は、本実施の形態における電力変換装置の単相交流電源20の瞬時電圧VACが正でUVに出力する時の動作説明図であり、図6(ア)は上下同時導通期間中の動作状態を示す説明図、図6(イ)はフライバック期間(上下同時導通期間後、出力に電流が供給される期間)における各双方向スイッチング素子のオンオフ状態を示す説明図である。
【0041】
図6(ア)に示されるように、上下同時導通期間においては、双方向スイッチング素子30、31が同時にオンの状態となり、その他の双方向スイッチング素子32、33、34、35は、すべてオフの状態となっている。そして、単相交流電源20の瞬時電圧VACが正であるため、インダクタンス素子29には、同時導通している双方向スイッチング素子30、31を通じてVACの電圧が印加される状態となり、破線の電流が時間と共に増加し、磁気エネルギーがインダクタンス素子29に蓄えられていく。
【0042】
この時、U端子については、双方向スイッチング素子30、31によって、単相交流電源20にまで接続されている状態となるが、4個の双方向スイッチング素子32、33、34、35がオフ状態であることから、コンデンサ37、38、39、およびこれに接続された負荷22については、マトリクス回路28を通じての電流の経路は断たれた状態となり、マトリクス回路28はインダクタンス素子29へのエネルギーの蓄積のみを行う状態となる。
【0043】
図6(イ)に示されるように、フライバック期間においては、双方向スイッチング素子30、33がオン状態となり、他の双方向スイッチング素子31、32、34、35がオフの状態となる。よって、上下同時導通期間中にインダクタンス素子29に蓄えられた磁気エネルギーにより、継続して流れる電流が破線で示されるように、U−V端子間のコンデンサ37などに供給される。他方、双方向スイッチング素子34、35は共にオフ状態であるため、W相についてはマトリクス回路28からの電流の供給は絶たれる。
【0044】
すなわち、昇圧チョッパの動作となるため、VACよりも高い電圧をU−V端子間に出力することが可能となる。もちろん、VACよりも高い電圧が必要でない場合には、上下同時導通期間を無くした運転を行わせることもできるので、低速時や低出力時などに、上下同時導通なしの運転を行わせてもよい。
【0045】
図7は、本実施の形態における電力変換装置において、VACが正でUVに出力する時の動作波形図を示すものである。図7(ア)及び(イ)は双方向スイッチング素子30のG1−S1間の駆動信号UP1及びG2−S2間の駆動信号UP2、図7(ウ)及び(エ)は双方向スイッチング素子31のG1−S1間の駆動信号UN1及びG2−S2間の駆動信号UN2、図7(オ)及び(カ)は双方向スイッチング素子32のG1−S1間の駆動信号VP1及びG2−S2間の駆動信号VP2、図7(キ)及び(ク)は双方向スイッチング素子33のG1−S1間の駆動信号VN1及びG2−S2間の駆動信号VN2、図7(ケ)及び(コ)は双方向スイッチング素子34のG1−S1間の駆動信号WP1及びG2−S2間の駆動信号WP2、図7(サ)及び(シ)は双方向スイッチング素子35のG1−S1間の駆動信号WN1及びG2−S2間の駆動信号WN2を示している。
【0046】
図7(ア)に示す駆動信号UP1がずっとオン状態で、図7(ウ)に示す駆動信号UN1が期間t1〜t4と、t5〜t8の間でオンになると、駆動信号UN1がオンとなる期間のそれぞれが上下同時導通期間となり、その上下同時導通期間中は双方向スイッチング素子30、31がオンしている。そして、それ以外の期間、すなわちt4〜t5の間、t8〜t9の間などがフライバック期間となる。
【0047】
そして、図7(キ)に示す駆動信号VN1が期間t3〜t6でオンとなると、双方向スイッチング素子33がオンして、上記フライバック期間内にインダクタンス素子29に蓄えられた磁気エネルギーを放出する。なお、期間t3〜t4と、t5〜t6(いずれも時間td=3マイクロ秒)は、入力端子23に接続された3個の双方向スイッチング素子30、32、34の内の2個の双方向スイッチング素子30、32が同時にオンとなるオーバーラップ期間となっている。
【0048】
双方向スイッチング素子30、32の切り替わり時に、3個の双方向スイッチング素子30、32、34が同時にオフ状態となる期間が発生すると、インダクタンス素子29からの電流の経路が断たれて、過電圧が各双方向スイッチング素子に印加され、ひどい場合には各双方向スイッチング素子が破壊される。上述した2個の双方向スイッチング素子が同時にオンとなるオーバーラップ期間を設けた理由は、そのような不具合を防ぎ、信頼性の高い電力変換装置を実現する効果をあげている。
【0049】
かつ、本実施の形態においては、特に各双方向スイッチング素子のすべてについて、図2に図示した端子aから端子b、端子bから端子aという電流が流れる両方の方向それぞれに対して、個別にオンオフの制御が可能なものとなっており、例えば図7(ク)に示したVN2はオフ状態を保たせている。
【0050】
よって、オーバーラップ期間においても、負荷22からの誘導起電力が二つの双方向スイッチング素子31、33を通して短絡した電流が流れるということを防ぐことができ、相間の電流の切換えがスムーズになされる。また、双方向スイッチング素子30は、オン状態を継続させるだけで、スイッチングを行わないので、スイッチング損失が発生せず、低損失とすることができる。
【0051】
図8は、本実施の形態における電力変換装置の単相交流電源20の瞬時電圧VACが負でUVに出力する時の動作説明図であり、図8(ア)は上下同時導通期間中の動作状態を示す説明図、図8(イ)はフライバック期間(上下同時導通期間後、出力に電流が供給される期間)における各双方向スイッチング素子のオンオフ状態を示す説明図である。
【0052】
図8(ア)に示すように、上下同時導通期間は、双方向スイッチング素子30、31が同時にオンの状態となり、その他の双方向スイッチング素子32、33、34、35は全てオフの状態となっている。
【0053】
VACが負であるため、インダクタンス素子29には、同時導通している双方向スイッチング素子30、31を通じてVACの電圧が印加される状態となり、図6の場合とは逆向きの破線の電流が時間と共に増加し、やはり磁気エネルギーがインダクタンス素子29に蓄えられていく。
【0054】
この時、U端子については、双方向スイッチング素子30、31によって、単相交流電源20にまで接続された状態となるが、4個の双方向スイッチング素子32、33、34、35がオフ状態であることから、コンデンサ37、38、39、およびこれに接続された負荷22については、マトリクス回路28を通じての電流の経路は断たれた状態となり、マトリクス回路28はインダクタンス素子29へのエネルギーの蓄積のみを行う状態となり、これについても、図6の場合と同様である。
【0055】
図8(イ)に示すように、フライバック期間は、双方向スイッチング素子31、32がオン状態となり、他の双方向スイッチング素子30、33、34、35がオフの状態となる。
【0056】
よって、上下同時導通期間中にインダクタンス素子29に蓄えられた磁気エネルギーにより、継続してながれる電流が破線で示されるように、図6と同じ向きでU−V端子間のコンデンサ37などに供給される。他方、双方向スイッチング素子34、35は共にオフ状態であるため、W相についてマトリクス回路28からの電流の供給は絶たれる。瞬時電圧VACが負の場合も、やはり正の場合と同様に昇圧チョッパの動作となるため、VACの絶対値よりも高い電圧をU−V端子間に出力することが可能となる。
【0057】
図9は、本実施の形態における電力変換装置において、VACが負でUVに出力する時の動作波形図を示すものである。図9(ア)及び(イ)は双方向スイッチング素子30のG1−S1間の駆動信号UP1及びG2−S2間の駆動信号UP2、図9(ウ)及び(エ)は双方向スイッチング素子31のG1−S1間の駆動信号UN1及びG2−S2間の駆動信号UN2、図9(オ)及び(カ)は双方向スイッチング素子32のG1−S1間の駆動信号VP1及びG2−S2間の駆動信号VP2、図9(キ)及び(ク)は双方向スイッチング素子33のG1−S1間の駆動信号VN1を示し、図9(ケ)及び(コ)は双方向スイッチング素子34のG1−S1間の駆動信号WP1及びG2−S2間の駆動信号WP2、図9(サ)及び(シ)は双方向スイッチング素子35のG1−S1間の駆動信号WN1及びG2−S2間の駆動信号WN2を示している。
【0058】
図9(エ)に示す駆動信号UN2がずっとオン状態で、図9(イ)に示す駆動信号UP2が期間t1〜t4と、t5〜t8の間でオンになると、駆動信号UP2がオンとなる機関のそれぞれが上下同時導通期間となり、その上下同時導通期間中は双方向スイッチング素子30、31がオンしている。そして、それ以外の期間、すなわちt4〜t5の間、t8〜t9の間などがフライバック期間となる。
【0059】
図9(カ)に示す駆動信号VP2が期間t3〜t6でオンとなると、双方向スイッチング素子32がオンして、インダクタンス素子29に蓄えられた磁気エネルギーを上記フライバック期間内に放出する。なお、期間t3〜t4と、t5〜t6(いずれも時間td=3マイクロ秒)は、入力端子24に接続された3個の双方向スイッチング素子31、33、35の内の2個の双方向スイッチング素子31、33が同時にオンとなるオーバーラップ期間となっている。
【0060】
双方向スイッチング素子31、33の切り替わり時に、3個の双方向スイッチング素子31、33、35が同時にオフ状態となる期間が発生すると、インダクタンス素子29からの電流の経路が断たれて、過電圧が各双方向スイッチング素子に印加され、やはりひどい場合には破壊される。上述した2個の双方向スイッチング素子が同時にオンオーバーラップ期間を設けた理由は、そのような不具合を防ぎ、信頼性の高い電力変換装置を実現する効果をあげている。
【0061】
かつ、本実施の形態においては、特に各双方向スイッチング素子のすべてについて、図2に図示した端子aから端子b、端子bから端子aという電流が流れる両方の方向それぞれに対して、個別にオンオフの制御が可能なものとなっており、例えば図9(オ)に示したVP1は、オフ状態を保たせている。
【0062】
よって、オーバーラップ期間においても、負荷22からの誘導起電力が二つの双方向スイッチング素子30、32を通して短絡電流が流れることを防止でき、相間の電流の切換えがスムーズになされる。また、双方向スイッチング素子31は、オン状態を継続させるだけで、スイッチングを行わないので、スイッチング損失が発生せず、低損失とすることができる。
【0063】
このように、瞬時電圧VACが正であっても、負であっても、U−V間に同等の出力電
流を供給し、同等の出力電圧を得ることができる。
【0064】
なお、以上の図6〜図9について説明は、U相の出力端子に接続されている2つの双方向スイッチング素子30、31で上下同時導通を行った後に、U−V間にUがプラスの電圧となる向きにフライバックの電流供給を行っている例で説明した。しかし、U−V間にマイナスの電圧を出力しようとする場合には、VACが正の場合に図8のようなオンオフ制御を行い、VACが負の場合に図6のようなオンオフ制御を行う(ただし、各双方向スイッチング素子のG1とG2の信号は入れ替える必要がある)ことによって実現することもできる。
【0065】
さらに、上下同時導通を行う双方向スイッチング素子30、31は、代わりに他の相に接続されたものでもよく、例えばV相に接続された双方向スイッチング素子32、33で行ってもよく、その後のフライバックをV−W間に出すなどしてもよい。即ち、上下同時導通を行う双方向スイッチング素子は、任意に選ぶことができるものである。
【0066】
図10〜図13は、出力端子25(U相)に接続した2個の双方向スイッチング素子30、31での上下同時導通を行った後、フライバックをV−W間に出力する場合の説明図を示している。
【0067】
図10は瞬時電圧VACが正でV−W相間に出力する時の動作説明図であり、図10(ア)は上下同時導通期間中の動作状態を示す説明図、図10(イ)はフライバック期間(上下同時導通期間後、出力に電流が供給される期間)における各双方向スイッチング素子のオンオフ状態を示す説明図である。そして、図11はその時の動作波形図である。
【0068】
図12は瞬時電圧VACが負でV−W相間に出力する時の動作説明図であり、図12(ア)は上下同時導通期間中の動作状態を示す説明図、図12(イ)はフライバック期間(上下同時導通期間後、出力に電流が供給される期間)における各双方向スイッチング素子のオンオフ状態を示す説明図である。そして、図13はその時の動作波形図である。
【0069】
また、図11及び図13は、どちらも(ア)及び(イ)は双方向スイッチング素子30のG1−S1間の駆動信号UP1及びG2−S2間の駆動信号UP2、(ウ)及び(エ)は双方向スイッチング素子31のG1−S1間の駆動信号UN1及びG2−S2間の駆動信号UN2、(オ)及び(カ)は双方向スイッチング素子32のG1−S1間の駆動信号VP1及びG2−S2間の駆動信号VP2、(キ)及び(ク)は双方向スイッチング素子33のG1−S1間の駆動信号VN1及びG2−S2間の駆動信号VN2、(ケ)及び(コ)は双方向スイッチング素子34のG1−S1間の駆動信号WP1及びG2−S2間の駆動信号WP2、(サ)及び(シ)は双方向スイッチング素子35のG1−S1間の駆動信号WN1及びG2−S2間の駆動信号WN2を示している。
【0070】
これらの動作においては、上下同時導通を行った双方向スイッチング素子30、31が接続されているU相(出力端子25)以外のV相とW相間(出力端子26、27)へのフライバック電流出力も可能であることを示すものであり、極めて制御の自由度が高いものとなっている。
【0071】
本実施の形態においては、上下同時導通する双方向スイッチング素子は、特定の出力端子25に接続された2個の双方向スイッチング素子30、31のみを常に使用するというものではなく、双方向スイッチング素子30、31で上下同時導通を行ったら、次は出力端子26に接続された2個の双方向スイッチング素子32、33の同時オンによって行うものであり、さらにその次は出力端子27に接続された2個の双方向スイッチング素子34、35の同時オンによって行うものとしている。
【0072】
これにより、上下同時導通を行う際に発生する各相の双方向スイッチング素子の損失は、平準化されるので、特に各相の双方向スイッチング素子のうち1つの双方向スイッチング素子に負担が集中することを防止できる。例えば、3相出力用として同等の定格を有する6つの双方向スイッチング素子を1つのパッケージに搭載してモジュール化した場合には、特定の双方向スイッチング素子に損失が集中しないので、集中的な発熱で特定の双方向スイッチング素子を劣化させる心配が少なく、良好に使用することができる。
【0073】
ただし、上下同時導通を行う場合の双方向スイッチング素子として、常に双方向スイッチング素子30、31と決めておいても良く、その場合には、他の双方向スイッチング素子と比較して双方向スイッチング素子30、31は損失が大きくなる傾向にあるが、これらを他の双方向スイッチング素子よりも定格の大きいものを用いるとか、冷却条件を強化するなどして対応することもできる。
【0074】
また1回の上下同時導通期間の次のフライバック期間について、U−V間への出力のみなどというような制限があるものでもなく、フライバック期間中に、双方向スイッチング素子のオンオフ状態をさらに切り替えていっても良い。
【0075】
例えば、所定の一定キャリア周期(64マイクロ秒)内に、上下同時導通期間と、フライバック期間を設け、かつ1回のフライバック期間中にU−V間、V−W間というように各切換えのタイミングを適切な時間制御で行えば、3相の線間電圧を目標値どおりに得ることが可能となり、各線間電圧が目標値と等しくなるように制御して、所望の3相の交流電圧出力を行うこともできる。
【0076】
本実施の形態で使用しているインダクタンス素子29、コンデンサ37、38、39は、昇圧チョッパとしての動作に必要なものであるが、上下同時導通期間とフライバック期間の和を1周期とした昇圧チョッパのスイッチング周波数が高い場合には、そのインダクタンス値、キャパシタンス値を小にして低コストで構成できる。特に負荷22を電流ベクトル制御した3相の電動機とする場合は、電流制御の応答性を高めることができるため、コンデンサ37、38、39のキャパシタンス値は、なるべく小さくした方が有利となる。
【0077】
本実施の形態では、キャリア周期を64マイクロ秒という十分高い周波数としていることにより、インダクタンス素子29のインダクタンス、コンデンサ37、38、39のキャパシタンスは、小さいもので済み、電力変換装置の小型化・低コスト化が可能であるとともに、電流ベクトル制御のような電流の応答性が要求される用途にも対応することができる。
【0078】
図14は、本実施の形態における電力変換装置の単相交流電源20と上下同時導通の期間が占める時間比率の波形図を示したものである。
【0079】
図14(ア)は単相交流電源20の電圧波形であり、100V50Hzの正弦波の電圧を使用していることから、時刻t1、t3、t5において電圧の零点が存在し、時刻t2、t4において瞬時電圧の絶対値がピーク(140V)となる。
【0080】
図14(イ)は上下同時導通の期間がキャリア周期(例えば64マイクロ秒)に対して占める時間比率であるが、単相交流電源20の零点t1、t3、t5付近の低電圧期間での上下同時導通の期間が占める時間比率は0.67であり、これは単相交流電源20のピーク位相t2、t4付近の高電圧期間の時間比率0.20に対して大としている。
【0081】
昇圧チョッパによる昇圧動作に関しては、上記時間比率が大となるほど、入力電圧(VAC)に対する昇圧比が大きくなるという特性がある。本実施の形態においては図14(イ)に示す時間比率とすることにより、単相交流電源20の電圧の零点付近の低電圧期間のかなりの部分の昇圧比率を大きくすることでカバーすることができる。そのため、負荷22への供給パワーが低下する期間が短くて済み、良好な動力性能が確保できるものとなる。
【0082】
特に本実施の形態では、永久磁石を用いた3相の電動機を負荷22としているので、発生する電圧(誘導起電力)の大きさは回転の速度に比例し、特に高速時においては、線間に高い誘導起電力を発生するものとなる。
【0083】
そのため、単相交流電源20の零点付近の低電圧期間においては、負荷22への電流の供給が困難となるので、昇圧比を大きくする制御は非常に有効に作用するものとなり、発生トルクの変動を小さく抑え、動力性能が高いと共に、トルク変動に起因する振動の発生を極力低減することができる。
【0084】
なお、永久磁石を用いた3相の電動機が高速で回転している状態において、電源からの供給電圧が低い期間については、電流の進角(β値)を増すというような制御も有効となる場合があり、特に永久磁石が回転子の鉄心内に埋め込まれた構成のものについては、効率の低下をほとんど起こさずに駆動できるものも存在するので、特に零点付近の低電圧期間については、電流の進角β値を増す、あるいは直軸電流Idを負に制御するなどの制御を併用することもできる。
【0085】
(実施の形態2)
図15は、本発明の第2の実施の形態における電力変換装置の概略構成図である。
【0086】
図15において、実施の形態1で述べた構成の電力変換装置130と、電力変換装置130から電力が供給される負荷131と、負荷131となる3相の電動機によって回転駆動されるファン132とを有し、それらは紙パック133とともに筐体134内に納められている。そして、ホース140及びノズル141は、筐体134の前部に外部接続され、紙パック133と連通するように構成されている。
【0087】
さらに、床面を移動自在とするための前輪142及び後輪143が筐体134に回転自在に取り付けられ、電力変換装置130に単相交流電源150を接続するための電源プラグ151、および電源コード152を接続しており、真空式の電気掃除機を構成している。
【0088】
以上の構成において、ファン132が毎分数万回転で回転駆動されると、吸引風を発生し、床面のゴミをノズル141からホース140を通じて吸引し、紙パック133内にゴミを捕集して、掃除をすることができる。
【0089】
ここで、電力変換装置130は、100Vの単相交流電源150を用いながらも、昇圧動作を行うことにより、高い電圧を負荷131に供給できることから、小型・軽量のもので構成することができる。
【0090】
よって、本実施の形態の電気掃除機は、単相交流電源からの電源供給であっても、昇圧動作による高い電圧で3相の電動機を駆動できるから、大きなトルクで強い吸引力が得られると共に、小型・軽量で使い勝手が非常に良いものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のように、本発明にかかる電力変換装置は、低電圧の単相交流電源であっても、負荷への電圧供給が改善され、供給パワーの変動を改善した電力変換装置が提供できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態1における電力変換装置の回路図
【図2】同電力変換装置の双方向スイッチング素子の等価回路図
【図3】同電力変換装置の負荷の断面図
【図4】同電力変換装置の負荷の結線図
【図5】同電力変換装置の負荷の誘導起電力波形図
【図6】同電力変換装置のVACが正でUVに出力する時の動作説明図
【図7】同電力変換装置のVACが正でUVに出力する時の動作波形図
【図8】同電力変換装置のVACが負でUVに出力する時の動作説明図
【図9】同電力変換装置のVACが負でUVに出力する時の動作波形図
【図10】同電力変換装置のVACが正でVWに出力する時の動作説明図
【図11】同電力変換装置のVACが正でVWに出力する時の動作波形図
【図12】同電力変換装置のVACが負でVWに出力する時の動作説明図
【図13】同電力変換装置のVACが負でVWに出力する時の動作波形図
【図14】同電力変換装置の単相交流電源20と上下同時導通の期間が占める時間比率の波形図
【図15】本発明の実施の形態2における電気掃除機の概略構成図
【図16】従来の技術における電力変換装置の回路図
【符号の説明】
【0093】
23、24 入力端子
25、26、27 出力端子
28 マトリクス回路
20、150 単相交流電源
29 インダクタンス素子
37、38、39 コンデンサ
30、31、32、33、34、35 双方向スイッチング素子
22、131 負荷(電動機)
50、51 SiC半導体
60、61、62、63 永久磁石
132 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの入力端子およびN(Nは2以上の整数)個の出力端子を有し前記2つの入力端子と前記出力端子の各組み合わせに設けた2N個の双方向スイッチング素子を含んだマトリクス回路と、単相交流電源から前記入力端子への経路に接続したインダクタンス素子と、前記出力端子間に接続したコンデンサとを備え、前記双方向スイッチング素子のうち1つの出力端子に接続された2個の双方向スイッチング素子が同時にオンとなる上下同時導通期間を有した電力変換装置。
【請求項2】
N=3とし、出力端子に三相の負荷を接続し、3個のコンデンサを3個の出力端子間に有する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
単相交流電源の零点付近の低電圧期間の上下同時導通の期間が占める時間比率は、前記単相交流電源のピーク位相付近の高電圧期間のそれに対して大とした請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
上下同時導通する双方向スイッチング素子は、特定の出力端子に接続された2個の双方向スイッチング素子以外の出力端子に接続された2個の双方向スイッチング素子の同時オンによっても行う請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
双方向スイッチング素子は、電流が流れる両方向それぞれに対して、オンオフの制御が可能であり、同一の入力端子に接続されたN個の双方向スイッチング素子の内、2個が同時にオンとなるオーバーラップ期間を有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
双方向スイッチング素子は、SiC半導体を用いた請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
永久磁石を有する電動機を負荷として接続する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電力変換装置と、前記電力変換装置から電力が供給される電動機と、前記電動機によって回転駆動されるファンとを有する電気掃除機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−161887(P2010−161887A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3204(P2009−3204)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】