説明

電力変換装置および電力変換装置の故障検出方法

【課題】リアクトルを含んで構成された電力変換装置において、リアクトルのインダクタンスが所定領域から外れて変動したことを検知する。
【解決手段】制御回路30は、各電圧変換器31〜33中のリアクトルL1について、電圧センサ6,12,36のうちの少なくとも1つの出力および、電流センサ35の出力に基づき、リアクトル電圧VLおよびリアクトル電流ILを検知する。さらに、制御回路30は、検知したリアクトル電流の時間的変化およびリアクトル電圧に基づきリアクトルL1のインダクタンスを逐次算出するとともに、算出したインダクタンスが予め定められた所定領域外となったときにリアクトルL1の故障を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置および電力変換装置の故障検出方法に関し、より特定的には電力変換装置の構成要素であるリアクトルの異常検出に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置の1つとして、リアクトルを用いて直流電圧を変換するチョッパ回路を含んで構成されたDC/DCコンバータが用いられている。このようなチョッパ回路では、方形波状にスイッチングされた電圧がリアクトルに印加されて、リアクトルを流れる電流には、当該リアクトルのインダクタンスに応じた傾きの時間的変化が発生する。
【0003】
したがって、チョッパ回路に所望の動作をさせるためには、リアクトルのインダクタンスが設計値どおりに維持される必要がある。すなわち、インダクタンスの変動を含めてリアクトルに異常が発生した場合には速やかに検出する必要がある。
【0004】
電圧変換装置中のリアクトルの故障検出については、たとえば特開2004−201463号公報(特許文献1)に、リアクトルに温度センサを設けることによって、検出されたリアクトル温度と基準値との比較に基づいてリアクトルの故障を検出する手法が開示されている。
【0005】
また、特開2004−88866号公報(特許文献2)には、リアクトルに電流センサを設け、リアクトル電流が過大となったときにリアクトルに故障が発生したことを検知する電圧変換装置が開示されている。
【特許文献1】特開2004−201463号公報
【特許文献2】特開2004−88866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された電圧変換装置では、リアクトルの異常検出のために専用の温度センサを配置する必要が発生する。また、リアクトル温度による異常検出では、素子損傷につながるような過熱の発生を検知可能であるものの、リアクトルのインダクタンスが変動したことを正確かつ速やかに検出することは困難である。
【0007】
また、特許文献2に開示された電圧変換装置は、実測された直流電流(リアクトル電流)が所定以上となったときに、リアクトルに短絡故障が発生したことを検出する。このため、短絡故障が発生していなくても、インダクタンスの変動により電圧変換装置が所望動作を実行できないようなリアクトル故障の発生については、検出することができない。
【0008】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、リアクトルを含んで構成された電力変換装置において、リアクトルのインダクタンスが所定の設計領域から外れて変動した故障を検知することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電力変換装置は、電圧変換器、電圧検出器、電流検出器、および制御回路を備える。電圧変換器は、電力用半導体スイッチング素子と該電力用半導体スイッチング素子によってスイッチングされた電圧が印加されるリアクトルとを含んで構成される。電圧検出器は、リアクトルに印加された電圧を検出するために配置される。電流検出器は、リアクトルを通過するリアクトル電流を検出するために配置される。制御回路は、電圧検出器および電流検出器の出力に基づき、リアクトルに印加された電圧とリアクトル電流の時間的変化とからリアクトルのインダクタンスを算出するとともに、算出したインダクタンスが予め定められた所定領域外であるときにリアクトルの故障を検知するように構成される。
【0010】
本発明による電力変換装置の故障検出方法は、電力用半導体スイッチング素子と該電力用半導体スイッチング素子によってスイッチングされた電圧が印加されるリアクトルとを含んで構成された電圧変換器を備える電力変換装置の故障検出方法であって、電圧検出器の出力に基づきリアクトルに印加された電圧を検出するステップと、電流検出器の出力に基づきリアクトル素子を通過するリアクトル電流を検出するステップと、検出された電圧とリアクトル電流の時間的変化とからリアクトルのインダクタンスを算出するステップと、算出したインダクタンスが予め定められた所定領域外であるときにリアクトルの故障を検知するステップとを備える。
【0011】
上記電力変換装置および電力変換装置の故障検出方法によれば、電圧変換器の動作時に検出されるリアクトル電流およびリアクトル電圧に基づき、リアクトルのインダクタンスを逐次オンラインで算出して、算出したインダクタンスに基づきリアクトルの故障検出を行なうことができる。したがって、インダクタンスの変動により電圧変換器が所望動作を実行できないようなリアクトル故障の発生を確実に検知することができる。
【0012】
好ましくは、制御回路は、リアクトルに印加された電圧が同一レベル範囲内である期間内に複数回サンプリングした電流検出器の出力より求めたリアクトル電流の時間的変化の傾きに基づき、リアクトル素子のインダクタンスを算出する。
【0013】
このような構成とすることにより、リアクトル電流の時間的変化の傾きを正確に検出できるので、リアクトルの故障検出精度を向上することができる。
【0014】
また好ましくは、所定領域の下限値は、リアクトル電流が所定以上の領域では、リアクトル電流が所定未満の領域と比較して、低いインダクタンスに設定される。
【0015】
このような構成とすることにより、リアクトル電流が大きい領域では、コア内での磁気飽和によりインダクタンスが一時的に低下する現象を反映して、大電流時にインダクタンスの故障が誤検出されることを防止できる。
【0016】
あるいは好ましくは、リアクトルは、磁路上の空隙部を有するように構成された磁性体コアと、磁性体コアに巻回されたコイルとを有するように構成される。
【0017】
このような構成とすることにより、大きなリアクトル電流を流すために磁路上の空隙部(ギャップ)を有するコアを用いた、空隙距離の変動によりインダクタンス変動が発生しやすい構造のリアクトルについて、電圧変換器が所望動作を実行できないようなインダクタンスの変動が発生したことを確実に検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明による電力変換装置および電力変換装置の故障検出方法によれば、リアクトルを含んで構成された電力変換装置において、リアクトルのインダクタンスが所定の設計領域から外れて変動した故障を検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその詳細な説明は原則として繰返さないものとする。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態による電力変換装置が搭載された車両の構成を説明する回路図である。車両100は、モータの駆動制御のために電力変換装置を搭載する自動車の一例として示される燃料電池自動車である。
【0021】
図1を参照して、車両100は、ノードN1およびノードN3の間に接続されるバッテリ2と、ノードN1およびノードN3の間に接続される平滑用コンデンサ8と、ノードN1およびノードN2の間に接続されて、バッテリの電圧VBとインバータの電圧VINVとの間で相互に電圧変換を行なう多相電圧変換装置10とを含む。多相電圧変換装置10は、本発明の実施の形態による「電力変換装置」に相当する。
【0022】
車両100は、さらに、ノードN2とノードN3との間に直列に接続されるダイオード16および燃料電池18と、ノードN2およびノードN3との間に接続されるインバータ20と、インバータ20によって駆動制御されるモータ22とを含む。ダイオード16は、燃料電池18に電流が流入するのを防止するための保護素子であり、燃料電池からノードN2に向かう向きを順方向として接続される。
【0023】
多相電圧変換装置10は、制御回路30と、ノードN1およびノードN2の間に並列接続されるコンバータ回路(電圧変換器)31〜33を含む。制御回路30は、代表的には電子制御ユニット(ECU)で構成され、電圧変換器31〜33の動作を制御する。電圧変換器31〜33には、電圧VBおよびVINVの基準電位を与えるノードN3が共通に接続されている。
【0024】
ノードN1およびノードN2の間には平滑用コンデンサ8が接続される。さらに、バッテリの電圧VBを検出する電圧センサ6が配置される。また、ノードN2およびノードN3の間には平滑用コンデンサ14が接続され、さらに、インバータ電圧VINVを検出する電圧センサ12が配置される。電圧センサ6,12の出力は、制御回路30へ入力される。
【0025】
電圧変換器31は、ノードN1およびノードN3との間に接続される第1のアームA1と、ノードN2およびノードN3との間に接続される第2のアームA2と、アームA1,A2間に接続されるリアクトルL1とを含む。
【0026】
第1のアームA1は、ノードN1およびノードN3の間に直列に接続されるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子Q1,Q2と、IGBT素子Q1,Q2の逆並列ダイオードD1,D2とを含む。なお、本実施の形態において、IGBT素子は、「電力用半導体スイッチング素子」の代表例として記載される。
【0027】
IGBT素子Q1のコレクタはノードN1に接続され、エミッタはノードN4に接続される。ダイオードD1はノードN4からノードN1に向かう向きを順方向として接続される。また、IGBT素子Q2のコレクタはノードN4に接続され、エミッタはノードN3に接続される。ダイオードD2はノードN3からノードN4に向かう向きを順方向として接続される。
【0028】
第2のアームA2は、ノードN2とノードN3との間に直列に接続されるIGBT素子Q3,Q4と、IGBT素子Q3と並列に接続されるダイオードD3と、IGBT素子Q4と並列に接続されるダイオードD4とを含む。
【0029】
IGBT素子Q3のコレクタはノードN2に接続され、エミッタはノードN5に接続される。ダイオードD3はノードN4からノードN2に向かう向きを順方向として接続される。また、IGBT素子Q4のコレクタはノードN5に接続され、エミッタはノードN3に接続される。ダイオードD4はノードN3からノードN5に向かう向きを順方向として接続される。
【0030】
リアクトルL1は、ノードN4とノードN5との間に接続される。電流センサ35は、リアクトルL1の通過電流(以下、リアクトル電流IL)を検出するように配置される。電流センサ35の種類は特に限定されない。検出されたリアクトル電流ILは、制御回路30へ入力される。
【0031】
電圧変換器32,33の内部の構成については、電圧変換器31と同様であるので、説明は繰返さない。図示しないが、電圧変換器32,33の各々のリアクトルL1に対しても電流センサ35が配置されて、検出されたリアクトル電流ILは、制御回路30へ入力される。
【0032】
また、図1では、IGBT素子Q2のエミッタとIGBT素子Q4のエミッタとが電圧変換器31内部で接続されている構成、つまり複数の電圧変換器の各々の内部でノードN3と燃料電池の負極とを接続する構成を示した。しかし、図1の構成に代えて、各電圧変換器内部ではIGBT素子Q2のエミッタとIGBT素子Q4のエミッタとは接続せずに、電圧変換器外部にノードN3と燃料電池の負極とを接続する配線を電圧変換器31〜33共通に1本設けても良い。
【0033】
バッテリの電圧VBと燃料電池18の出力電圧とはとり得る範囲が一部重なっている。たとえば、バッテリはニッケル水素バッテリなどが使用され、その電源電圧はたとえば200Vから300Vの範囲で変動する。一方、燃料電池18の出力電圧は、たとえば240V〜400Vの範囲で変動する。
【0034】
したがって、バッテリ2の電圧が燃料電池18の出力電圧よりも高い場合と低い場合との両方の場合があるので、電圧変換器31〜33は先に説明したように第1、第2のアームを有するような構成となっている。この構成により、バッテリ2側からインバータ20側に昇圧および降圧が可能となり、かつインバータ20側からバッテリ2側に昇圧および降圧が可能となる。
【0035】
すなわち、各電圧変換器31〜33は、IGBT素子Q1〜Q4のオン・オフ(スイッチング)を制御するスイッチング制御信号SW1〜SW4に従って、電圧VBを昇圧してノードN2およびノードN3間に出力する昇圧チョッパおよび電圧VBを降圧してノードN2およびノードN3間に出力する降圧チョッパ、ならびに、電圧VINVを昇圧してノードN1およびノードN3間に出力する昇圧チョッパおよび電圧VINVを降圧してノードN1およびノードN3間に出力する降圧チョッパのいずれとしても動作することが可能であり、双方向の電圧変換が可能な昇降圧チョッパとして動作する。
【0036】
制御回路30は、電圧センサ6,12により検出された電圧VB,VINVに基づき、所望の電圧変換動作が行なわれるように、各電圧変換器31〜33についてスイッチング制御信号SW1〜SW4を生成する。
【0037】
なお、電圧変換器31〜33は、たとえば電気角で120°ずつ位相をずらして同様の電圧変換動作(周期的なIGBT素子Q1〜Q4のスイッチング動作)を実行させることにより、平滑用コンデンサ8,14のリップル電流を抑制することができる。この結果、平滑用コンデンサ8,14の容量を小さくして小型化を図ることができる。
【0038】
あるいは、各電圧変換器31〜33においてIGBT素の素子温度を検出して、素子温度に応じてコンバータ回路31〜33を選択的に動作させる構成としてもよい。たとえば、素子温度の高い電圧変換器は保護のために動作を停止させて、素子温度が低い電圧変換器を優先して動作させる制御構成が可能である。
【0039】
図2は、各電圧変換器31〜33中のリアクトルの電圧波形および電流波形を示す波形図である。
【0040】
リアクトルL1には、IGBT素子Q1〜Q4のオン・オフの組合わせに応じて、電圧センサ6によって検出される電圧VB、電圧センサ12によって検出されるVINV、あるいは両者の電圧差VINV−VBが印加される。このように、IGBT素子Q1〜Q4のオン・オフ(スイッチング)に伴いリアクトルL1の両端に印加される電圧差をリアクトル電圧VLと表記する。すなわち、リアクトル電圧VLは、リアクトルL1に印加される、IGBT素子Q1〜Q4によってのスイッチングされた電圧である。
【0041】
図2に示すように、リアクトル電圧VLが正の期間には、リアクトル電流ILは上昇し、一方リアクトル電圧VLが負の期間には、リアクトル電流ILは減少する。このリアクトル電流ILの時間的変化は、下記(1)式で示されることが知られている。なお、(1)式中において、LはリアクトルL1のインダクタンスである。
【0042】
VL=L・(dIL/dt)…(1)
リアクトル電流ILは、電流センサ35の出力により検出可能である。一方、リアクトル電圧VLは、リアクトルL1の両端の電圧差を測定するように配置された電圧センサ36(図1)の出力により検出可能である。あるいは、多相電圧変換器である電力変換装置10の制御に必要な電圧センサ6,12の検出値とIGBT素子Q1〜Q4のオン・オフパターンとの組合せによって、リアクトルL1の両端電圧を検出する電圧センサ36を新たに設けることなく、リアクトル電圧VLを検出することも可能である。
【0043】
すなわちリアクトル電圧VLは、電圧センサにより直接測定してもよいし、電圧変換器の入出力電圧およびスイッチングパターンから推定してもよい。
【0044】
本発明の実施の形態による電力変換装置では、リアクトルL1のインダクタンスの変動を検出する故障検出を行なう。ここで、図3を用いて、リアクトルにインダクタンス変動が発生する原因について説明する。
【0045】
図3を参照して、リアクトルL1は、磁性体で形成されたコア221と、コア221に巻回されたコイル222とを含む。コア221は、直線部2210,2212と、湾曲部2211,2213とからなる。
【0046】
湾曲部2211は、直線部2210との間にギャップ(空隙)223を有し、直線部2212との間にギャップ224を有する。湾曲部2213は、直線部2212との間にギャップ225を有し、直線部2210との間にギャップ226を有する。コイル222は、直線部2210,2212に巻回される。
【0047】
このように、コア221には磁路上にギャップ223〜226が設けられる。ギャップでは、磁性体の隙間に非磁性体を挿入して接着剤により固着する構造が一般的に採用される。このように、コア221にギャップを設けることにより、磁気抵抗を高めてコア221内で磁束が飽和することを抑制できる。したがって、車両100への搭載等、リアクトル電流が比較的大きくなるリアクトルでは、コア221にギャップ223〜226を設ける構造が必要となれる。なお、直線部2210および/または湾曲部2213の途中に、さらにギャップを設ける構成としてもよい。
【0048】
ここで、リアクトル電流ILがコイル222を流れると、磁束がコア221中で発生し、その発生した磁束は、ギャップ223を矢印227の方向に通過して湾曲部2211を伝搬する。そして、磁束は、ギャップ224を矢印228の方向に通過して直線部2212を伝搬し、ギャップ225を矢印228の方向に通過する。磁束は、さらに、湾曲部2213を伝搬し、ギャップ226を矢印227の方向に通過する。このように、リアクトル電流ILがコイル222に流れると、磁束は、コア221中を循環する。
【0049】
そして、図2に示したようなリアクトル電流ILの傾きの極性が変化することに伴い、ギャップ223〜226に発生する磁気吸引力の方向が周期的に逆転すること、あるいは、磁気吸引力の大きさが周期的に変動することによって、磁性体コア221には振動が発生する。
【0050】
この結果、電力変換装置の通電使用に伴う振動の発生等によって、ギャップ223〜226における固着層(接着剤)が破壊される経年劣化が発生してギャップ長が変動すると、これによりリアクトルL1のインダクタンスが大きく変動してしまう可能性がある。したがって、大電流に対応するためにギャップを有する構造のコアを用いたリアクトルでは、インダクタンスの変動を確実に故障検出することの必要性が高い。ただし、本発明はその原理上、コア構造を限定することなく、任意の構造のリアクトルの故障検出に適用できる点について確認的に記載する。
【0051】
図4は、本発明の実施の形態による電力変換装置におけるリアクトルの故障検出方法を説明するフローチャートである。図4に示されたフローチャートによる一連の制御処理は、制御回路30に予め記憶されたプログラムを所定周期で実行することにより実現される。
【0052】
図4を参照して、制御回路30は、ステップS100により、電流センサ35の出力よりリアクトル電流ILを求める。さらに、制御回路30は、ステップS110では、電圧センサからの出力によりリアクトル電圧VL(すなわちスイッチング電圧)を求める。
【0053】
上述のように、ステップS110では、リアクトルL1の両端電圧差を測定可能に配置された電圧センサ36による検出値、あるいは、電圧変換器31〜33の入出力電圧測定用に必然的に設けられる電圧センサ6,12により測定された電圧VBおよびVINVおよびIGBT素子Q1〜Q4のスイッチングパターンとに基づく推定値として、リアクトル電圧VLを求めることができる。
【0054】
さらに、制御回路30は、ステップS120では、ステップS110で求めたリアクトル電圧VLが前回のプログラム実行時と同一レベルであるかどうか、すなわち、前回のリアクトル電圧VLとの差が所定以内であるかどうかを判定する。この判定は、前回のプログラム実行時との間で、IGBT素子Q1〜Q4のスイッチングパターンが同一であるかどうかによっても判定することができる。
【0055】
そして、制御回路30は、リアクトル電圧VLが前回と同一レベルである場合(ステップS120のYES判定時)には、ステップS130により、リアクトル電流ILの時間的変化量dIL/dtを求める。
【0056】
ここで、dIL/dtは、図5に示すように横軸を時間、縦軸をリアクトル電流ILとした際の、リアクトル電流ILの傾きkIL1,kIL2(以下、kILと総称する)に相当する。すなわち、ステップS130では、前回のプログラム実行時におけるリアクトル電流ILとステップS100で求めたリアクトル電流ILとの差分に基づき、リアクトル電流ILの時間的変化の傾きkILを求めることができる。
【0057】
再び図4を参照して、制御回路30は、ステップS140により、ステップS110で求めたリアクトル電圧VLとステップS130で求めた傾きkILとから、インダクタンスの算出値Lcalを式(2)に従って求める。
【0058】
Lcal=VL/kIL…(2)
さらに、制御回路30は、ステップS150により、ステップS140で求めた算出インダクタンスLcalが所定領域(Lmin〜Lmax)内であるかどうかを判定する。そして、制御回路30は、算出インダクタンスLcalが所定領域内である場合(ステップS150のYES判定時)には、リアクトルL1のインダクタンスは「正常」と判定する(ステップS160)。
【0059】
一方、制御回路30は、算出インダクタンスLcalが所定領域外である場合(ステップS150のNO判定時)には、インダクタンスが変動しているとしてリアクトルL1の故障を検出する(ステップS170)。検知されたリアクトル故障は、電圧変換装置の点検等を促す報知(ダイアグモニタ等)を車両の運転者に対して発生させる。特に、異常診断により検出された異常内容を特定するための情報であるダイアグコードのうちの1つを、「インダクタンス変動大のリアクトル故障が発生した」ことを示すように規定しておくことにより、ステップS170の処理時に、このダイアグコードを併せて記憶させることができる。これにより、点検時に適切なメンテナンスを行なうことが容易となる。
【0060】
ここで、ステップS150での判定において、算出インダクタンスLcalの正常範囲を規定する下限値Lminおよび上限値Lmaxは、図6に示すように設定される。
【0061】
図6を参照して、算出インダクタンスLcalの下限値Lminは、リアクトル電流IL<I0の領域ではLmin=L1に設定され、IL≧I0の領域ではLmin=L0(L0<L1)に設定される。一方、上限値Lmaxは、全電流範囲でL2に設定される。
【0062】
ここで、インダクタンスL1,L2は、ギャップを含めたコア構造が設計通りに維持されており、電圧変換器31〜33が設計どおりの所望動作を実行するのに必要とされるインダクタンス範囲に合わせて設定される。
【0063】
また、電流I0は、コア221に磁気飽和が発生する電流に合せて設定される。これにより、コア構造等に異常が発生していなくても、リアクトル電流ILが大きい領域では磁気飽和の発生によりインダクタンス値Lが一時的に低下する現象を反映するものである。上記のように、インダクタンスの管理範囲の下限値Lminを設定することにより、コア構造等に異常が発生しておらず、大電流通過による磁気飽和によって一時的にインダクタンス値が低下している場合に、リアクトル素子の故障を誤って検出することを防止できる。なお、下限値Lminについては、図5に例示したように電流I0を境にL1からL0まで一度に変化させるのではなく、リアクトル電流ILの増大に伴って徐々に低下させるように設定してもよい。
【0064】
再び図4を参照して、制御回路30は、リアクトル電圧VLのレベルが前回のプログラム実行時と変わっている場合(ステップS120のNO判定時)には、ステップS180により、次回のプログラム実行時にリアクトル電流の時間的変化量を求めるために、今回検知したリアクトル電流ILを保存する。しかしながら、ステップS130〜S170のようなインダクタンス算出および故障検出は実行されない。
【0065】
なお、インダクタンスの算出は、図5に示すように、図4に示したフローチャートによるプログラムの実行毎、すなわちリアクトル電流ILの測定ごとに実行することも可能であるが、図7に示すような手法によって求めることも可能である。
【0066】
図7を参照して、ステップS120により、リアクトル電圧VLが同一レベル内である(あるいは、IGBT素子Q1〜Q4のスイッチングパターンが同一)と判定される期間内において、複数回(3回以上)リアクトル電流ILを測定し、それら複数回の測定間でのリアクトル電流の平均的な時間的変化(平均的な傾きkIL♯)を、最小二乗法等によって求めることが可能である。このような構成とすれば、瞬間的なリアクトル電流の変動に起因したリアクトル故障の誤検出を防止することができる。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態による電力変換装置によれば、作動時のリアクトル電流およびリアクトル電圧に基づき逐次オンラインでリアクトルのインダクタンスを算出することによって、リアクトルのインダクタンスが所定の設計領域から外れて変動した故障を正確かつ速やかに検出することができる。
【0068】
(変形例の説明)
本発明は、リアクトルを含む回路構成の電力変換装置であれば、図1に例示した電圧変換器31〜33以外に対しても適用可能である。たとえば、図8に示すように、低圧系回路および高圧回路系の間に接続されて、直流電圧変換を行なう電圧変換装置に対しても、本発明を適用することができる。
【0069】
図8を参照して、低電圧で作動する低圧系回路300は、低圧の正側母線301および負側母線302の間に接続された図示しないバッテリ(二次電池)等の蓄電装置を含む。この蓄電装置は、直流電圧を正側母線301および負側母線302の間に出力するとともに、正側母線301および負側母線302の間に発生された充電電圧により充電可能に構成されている。
【0070】
正側母線301および負側母線302の間には平滑用コンデンサ305が接続される。また、正側母線301および負側母線302の間の電圧VBは、電圧センサ37♯により検出される。
【0071】
電圧変換装置10♯は、低圧系回路300および高圧回路系310の間に接続される電圧変換器130と、電圧変換器130を制御するための制御回路30♯とを含む。
【0072】
電圧変換装置10♯は、高圧の正側母線303および負側母線302の間に直列に接続されたIGBT素子Q5およびQ6と、リアクトルL2とを含む。IGBT素子Q5およびQ6には、逆並列ダイオードD5およびD6がそれぞれ接続されている。
【0073】
リアクトルL2は、IGBT素子Q5およびQ6の接続ノードと、正側母線301との間に接続される。リアクトルL2を通過する電流(リアクトル電流)を検出するための電流センサ35♯がさらに設けられる。また、リアクトル故障検出のために、図1で説明した電圧センサ36と同様に、リアクトルL2の印加電圧を検出する電圧センサ36♯を設けてもよい。
【0074】
正側母線303および負側母線302の間には平滑用コンデンサ315が接続される。また、正側母線303および負側母線302の間の電圧VINVは、電圧センサ38♯により検出される。
【0075】
高圧系回路310は、正側母線303および負側母線302の間の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ(図示せず)と、このインバータによって供給される交流電圧により駆動制御されるモータジェネレータ(図示せず)とを含むように構成される。図8に示した構成は、たとえばハイブリッド車両の駆動系に用いられる。
【0076】
低圧系の電源(バッテリ等の蓄電装置)により、高圧系回路(モータジェネレータ)を駆動する場合には、電圧変換器130は、IGBT素子Q6がオンされてIGBT素子Q5がオフされる期間と、IGBT素子Q6がオフされてIGBT素子Q5がオンされる期間とを交互に設けることにより、低圧系回路300からの出力電圧を昇圧して高圧系回路310へ供給する昇圧チョッパとして動作する。
【0077】
一方、高圧系回路310は、低圧系回路300中の蓄電装置の充電電力を発生する発電要素を有するように構成される。たとえば、モータジェネレータ(図示せず)が回生制動時に発電動作を行なうことにより、この発電電力(交流)をインバータ(図示せず)により交流電圧に変換して、正側母線303および負側母線302の間に直流電圧(高圧)が出力される。
【0078】
この際には、電圧変換器130は、高圧系回路310が発生した直流電圧を降圧して、充電電圧として低圧系回路300へ供給するように動作する。すなわち、電圧変換器130は、IGBT素子Q6をオフ状態に維持した上で、IGBT素子Q5を周期的にオン・オフさせることにより、降圧チョッパとして動作する。
【0079】
制御回路30♯は、代表的には電子制御ユニット(ECU)で構成され、電圧センサ37♯,38♯により検出された電圧VB,VINVに基づき、所望の電圧変換動作が行なわれるように、IGBT素子Q5,Q6のオンオフを制御するスイッチング制御信号SW5,SW6を生成して、電圧変換器35へ送出する。制御回路30♯へは、各センサの出力が与えられる。
【0080】
電圧変換器130においても、リアクトルL2には、電圧変換器31〜33中のリアクトルL2と同様に、IGBT素子Q5,Q6のオン・オフに伴いスイッチングされた電圧が印加される。したがって、リアクトルL2に生じるリアクトル電流ILも、図5とほぼ同様の時間的変化を示す。
【0081】
したがって、電圧変換器130についても、制御回路30♯により、電圧センサ36♯,37♯,38♯のうちの少なくとも1つの出力に基づき求められたリアクトル電圧VLならびに、電流センサ35♯の出力に基づき求められたリアクトル電流ILを用いて、図4に示したのと同様のフローチャートに従うプログラムの実行によって、リアクトルL2に対して本実施の形態によるリアクトル故障の検出を行なうことができる。
【0082】
ここで本実施の形態と本発明の構成との対応関係を説明すると、電圧変換器31〜33(130)は、本発明での「電圧変換器」に対応し、電流センサ35(35♯)は本発明での「電流検出器」に対応し、電圧センサ6,12(37♯,38♯)または電圧センサ36(36♯)は、本発明での「電圧検出器」に対応する。また、制御回路30(30♯)は、本発明での「制御回路」に対応する。
【0083】
なお、本実施の形態では電力変換装置を車両に搭載した構成例について説明したが、本発明の適用はこのような場合に限定されるものではない。すなわち、適用される機器やシステム等の種類を問わず、また、リアクトルを含んだ構成であれば、電力変換装置の構成を特に限定することなく本発明の適用が可能である点について確認的に記載する。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施の形態による電力変換装置が搭載された車両の構成を説明する回路図である。
【図2】各電圧変換器中のリアクトルの電圧および電流波形を示す波形図である。
【図3】図1に示したリアクトルの構成例を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態による電力変換装置におけるリアクトルの故障検出方法を説明するフローチャートである。
【図5】リアクトル電流の時間的変化を求める第1の手法を示す概念図である。
【図6】リアクトル故障判定に用いるインダクタンスの上限値および下限値の設定を説明する概念図である。
【図7】リアクトル電流の時間的変化を求める第2の手法を示す概念図である。
【図8】本発明の実施の形態の変形例による電力変換装置の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0086】
2 バッテリ、6,12,36 電圧センサ、8,14 平滑用コンデンサ、10,10♯ 電力変換装置、16 ダイオード、18 燃料電池、20 インバータ、22 モータ、30,30♯ 制御回路、31〜33 電圧変換器(コンバータ回路)、35,35♯ 電流センサ、36♯〜38♯ 電圧センサ、100 車両、130 電圧変換器(双方向昇降圧チョッパ)、221 磁性体コア、222 コイル、223〜226 ギャップ、300 低圧系回路、301 正側母線(低圧)、302 負側母線、303 正側母線(高圧)、305,315 平滑用コンデンサ、310 高圧系回路、2210,2212 直線部、2211,2213 湾曲部、A1,A2 アーム、D1〜D6 逆並列ダイオード、IL リアクトル電流、L1,L2 リアクトル(故障検出対象)、Lcal 算出インダクタンス、Lmax 上限値、Lmin 下限値、Q1〜Q6 IGBT(電力用半導体スイッチング素子)、SW1〜SW4 スイッチング制御信号、VB,VINV 電圧、VL リアクトル電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体スイッチング素子と該電力用半導体スイッチング素子によってスイッチングされた電圧が印加されるリアクトルとを含んで構成された電圧変換器、
前記リアクトルに印加された電圧を検出するための電圧検出器、
前記リアクトルを通過するリアクトル電流を検出するための電流検出器、および
前記電圧検出器および前記電流検出器の出力に基づき、前記リアクトルに印加された電圧と前記リアクトル電流の時間的変化とから前記リアクトルのインダクタンスを算出するとともに、算出したインダクタンスが予め定められた所定領域外であるときに前記リアクトルの故障を検知するように構成された制御回路を備える、電力変換装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記リアクトルに印加された電圧が同一レベル範囲内である期間内に複数回サンプリングした前記電流検出器の出力より求めた前記リアクトル電流の時間的変化の傾きに基づき、前記リアクトル素子のインダクタンスを算出する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記所定領域の下限値は、前記リアクトル電流が所定以上の領域では、前記リアクトル電流が所定未満の領域と比較して、低いインダクタンスに設定される、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記リアクトルは、磁路上の空隙部を有するように構成された磁性体コアと、前記磁性体コアに巻回されたコイルとを有するように構成される、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項5】
電力用半導体スイッチング素子と該電力用半導体スイッチング素子によってスイッチングされた電圧が印加されるリアクトルとを含んで構成された電圧変換器を備える電力変換装置の故障検出方法であって、
電圧検出器の出力に基づき前記リアクトルに印加された電圧を検出するステップと、
電流検出器の出力に基づき前記リアクトル素子を通過するリアクトル電流を検出するステップと、
検出された電圧と前記リアクトル電流の時間的変化とから前記リアクトルのインダクタンスを算出するステップと、
算出したインダクタンスが予め定められた所定領域外であるときに前記リアクトルの故障を検知するステップとを備える、電力変換装置の故障検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−99518(P2008−99518A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281287(P2006−281287)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】