説明

電力変換装置及びその製造方法

【課題】部品点数を低減して、生産性を向上することができる電力変換装置及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】電力変換装置1は、半導体素子を内蔵した半導体モジュール21と、冷却管22とを交互に積層してなる半導体積層ユニット2と、半導体積層ユニット2を積層方向Xに加圧する加圧部材3と、半導体積層ユニット2及び加圧部材3を内側に配置するフレーム4とを備える。加圧部材3は、当接プレート31とばね部材32とを有する。当接プレート31は、半導体積層ユニット2側と反対側へ延びるリブ33を有し、リブ33には、ばね部材32を当接プレート31側へ圧縮変形させるための圧縮治具5を係合させる治具係合部34が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路を構成する半導体モジュールの冷却手段を備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DC−DCコンバータ回路やインバータ回路等の電力変換回路は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の動力源である交流モータに通電する駆動電流の生成に用いられる。
一般に、電気自動車やハイブリッド自動車等では、交流モータから大きな駆動トルクを確保するため大きな駆動電流が必要となってきている。それゆえ、その交流モータ向けの駆動電流を生成する上記電力変換回路においては、該電力変換回路を構成するIGBT等の電力用半導体素子を含む半導体モジュールからの発熱が大きくなる傾向にある。
【0003】
そこで、電力変換回路を構成する複数の半導体モジュールを冷却することができるように、冷媒を内部に流す複数の冷却管を半導体モジュールと交互に積層した電力変換装置が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
そして、上記電力変換装置9は、図8に示すごとく、半導体モジュール921と冷却管922との積層体である半導体積層ユニット92と、半導体積層ユニット92を積層方向に加圧するばね部材93とを有する。
【0004】
かかる電力変換装置9を組み立てるにあたっては、まず、図8に示すごとく、フレーム94の内側に複数の半導体モジュール921と複数の冷却管922とを積層してなる半導体積層ユニット92を配置する。また、同図に示すごとく、半導体積層ユニット92の一方側の端部920とフレーム94の一方側の壁部940との間に、ばね部材93を配置する。
【0005】
次いで、加圧部材93の両端部付近を、積層方向のフレーム94の他方側の壁部942へ向かい、押圧治具を押し込むことによって、加圧部材93を弾性変形させつつ、半導体積層ユニット92を積層方向に圧縮する。そして、ばね部材93を所定量変形させた時点で、ばね部材93の両端部とフレーム94の一方側の壁部940との間に、円柱状の支承ピン941を挿入する。
【0006】
その後、押圧治具を一方側の壁部940の方向へ移動させながら、ばね部材93から離すことにより、一対の支承ピン941がばね部材93と一方側の壁部940との間に挟持された状態となる。これにより、ばね部材93の付勢力によって、半導体積層ユニット92が積層方向加圧され、半導体モジュール921と冷却管922とが圧接した状態が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−245472号公報
【特許文献2】特開2007−166820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記電力変換装置9を組み立てるにあたっては、ばね部材93の両端部とフレーム94の一方側の壁部940との間に、フレーム94とは別体の支承ピン941を挿入することを要する。そのため、部品点数が多くなり電力変換装置の製造コストが高くなりやすい。また、支承ピン941の配置工程が必要となるため、生産性改善の余地がある。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、部品点数を低減して、生産性を向上することができる電力変換装置及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、半導体素子を内蔵した半導体モジュールと、該半導体モジュールを冷却する冷却管とを交互に積層してなる半導体積層ユニットと、
該半導体積層ユニットの積層方向の一方の端部に配置され、該半導体積層ユニットを積層方向に加圧する加圧部材と、
上記積層方向と直交する方向に開口すると共に、上記半導体積層ユニット及び上記加圧部材を内側に配置するフレームとを備え、
上記加圧部材は、上記積層方向の一端に配された上記冷却管に当接する当接面を有する当接プレートと、該当接プレートにおける上記当接面と反対側の面に配されたばね部材とを有し、
上記当接プレートは、上記半導体積層ユニット側と反対側へ延びるリブを有し、該リブには、上記ばね部材を上記当接プレート側へ圧縮変形させるための圧縮治具を係合させる治具係合部が形成されていることを特徴とする電力変換装置にある(請求項1)。
【0011】
第2の発明は、上記フレームの内側に上記半導体積層ユニットを配置するユニット配置工程と、
上記フレームの外において、上記圧縮治具を上記治具係合部に係合させて上記ばね部材を圧縮変形させるばね変形工程と、
上記ばね部材を圧縮変形させた状態にある上記加圧部材を、上記フレームの内側において上記半導体積層ユニットの上記積層方向の一端に配置する加圧部材配置工程と、
上記圧縮治具による上記ばね部材の圧縮を解除して、上記ばね部材の復元力を上記半導体積層ユニットへの上記積層方向の加圧力として作用させると共に、上記圧縮治具を上記加圧部材から取り外す治具取外工程とを備える電力変換装置の製造方法にある(請求項7)。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明の電力変換装置において、上記加圧部材の上記当接プレートには、上記半導体積層ユニット側と反対側へ延びるリブが形成されていると共に、上記リブには、上記ばね部材を上記当接プレート側へ圧縮変形させるための圧縮治具を係合させるための治具係合部が形成されている。それゆえ、上記加圧部材は、上記半導体積層ユニットやフレーム等と当接させなくても、それ単独で圧縮治具によって圧縮変形させることができる。
【0013】
これによって、電力変換装置を組み立てるにあたって、上記加圧部材を上記フレーム内に配置する前に、上記フレームの外で、上記加圧部材の上記ばね部材を、上記治具係合部に圧縮治具を係合させて圧縮変形させることができる。そして、その圧縮変形後に、上記半導体積層ユニットと共に、上記フレームに上記加圧部材を配置することができる。
【0014】
すなわち、電力変換装置の組立工程において、上記フレーム内へ上記加圧部材を配置した後に、上記加圧部材を圧縮する必要がない。このことは、上記フレームの壁部と上記半導体積層ユニットとの間に、上記フレームや上記半導体積層ユニットとは別体の支承ピンを配置する必要がないことを意味する。つまり、上記フレーム内への組み付け後における
上記加圧部材の付勢力を保持するための別部材からなる支承ピンが不要となり、その配置工程も不要となる。そのため、電力変換装置の部品点数を低減することができると共に、組立工程を簡素化することが可能となり、生産性を向上させることができる。
【0015】
第2の発明の電力変換装置の製造方法においては、上記ばね変形工程において、上記フレームの外で、上記加圧部材の上記ばね部材を、圧縮変形させる。そして、上記加圧部材配置工程において、上記ばね部材が圧縮変形された状態の上記加圧部材を上記フレーム内に配置する。それゆえ、上記フレーム内への配置後における、上記加圧部材の圧縮が不要であるため、上述した支承ピンが不要となる。そのため、支承ピンの配置工程も不要となる。すなわち、電力変換装置の部品点数を低減することができると共に、組立工程を簡素化することが可能となり、生産性を向上させることができる。
【0016】
以上のごとく、本発明によれば、部品点数を低減して、生産性を向上することができる電力変換装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における、電力変換装置の平面図。
【図2】実施例1における、加圧部材の当接プレート側から見た斜視図。
【図3】実施例1における、加圧部材のばね部材側からみた斜視図。
【図4】実施例1における、加圧部材に対する圧縮治具の係合状態を示す斜視図。
【図5】実施例1における、加圧部材のばね部材の圧縮変形前の状態を示す平面図。
【図6】実施例1における、加圧部材のばね部材の圧縮変形後の状態を示す平面図。
【図7】実施例2における、加圧部材の平面図。
【図8】背景技術における、電力変換装置の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
また、上記ばね部材としては、例えば、板ばね、コイルばね等を用いることができる。
上記電力変換装置としては、例えば、DC−DCコンバータやインバータ等がある。
また、上記電力変換装置は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の動力源である交流モータに通電する駆動電流の生成に用いることができる。
なお、上記半導体モジュールと上記冷却管とは、直接密着してもよいし、絶縁材等を介して密着してもよい。
【0019】
また、上記当接プレートは、上記フレームの開口方向の両端にそれぞれ第1リブと第2リブとを上記リブとして有してなり、上記第1リブ及び上記第2リブにそれぞれ設けられた上記治具係合部である第1治具係合部及び第2治具係合部は、上記開口方向に貫通した貫通孔によって構成されており、上記圧縮治具を上記第1治具係合部と上記第2治具係合部とに、この順で挿入して係合できるよう構成されていることが好ましい(請求項2)。この場合には、圧縮治具により上記ばね部材を圧縮した際の加圧部材の傾きを防ぐことができ、上記ばね部材を安定して圧縮変形させることができる。
【0020】
また、上記第1治具係合部と上記第2治具係合部とは互いに形状が異なり、上記圧縮治具の挿入方向から見たとき、上記第2治具係合部の輪郭の少なくとも一部が、上記第1治具係合部の内側に配置されていることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記圧縮治具を、上記第1治具係合部及び上記第2治具係合部に貫通させつつ、上記第2治具係合部に挿入側から当接させることが可能となる。これによって、上記圧縮治具の挿入時に、上記圧縮治具の上記第1治具係合部と上記第2治具係合部に対する上記圧縮治具の挿入方向についての位置決めを行うことができる。それゆえ、生産性の向上を効果的に図ることができる。
【0021】
上記第1治具係合部は、上記積層方向及び上記フレームの開口方向に直交する方向である幅方向の長さが、上記第2治具係合部よりも長いことが好ましい(請求項4)。この場合には、上記リブの積層方向の突出長を小さく抑えつつ、上述の上記加圧部材の圧縮治具の位置決め手段を実現することができる。それゆえ、電力変換装置の小型化を実現しつつ、生産性の向上を図ることができる。
【0022】
また、上記治具係合部は、上記当接プレートにおける上記積層方向及び上記フレームの開口方向に直交する方向である幅方向の中央部に形成されていることが好ましい(請求項5)。この場合には、上記ばね部材をバランスよく圧縮することができる。
【0023】
上記フレームは、上記ばね部材を上記半導体積層ユニットと反対側から支承するばね支承部を、上記半導体積層ユニットに向かって突出するように一体的に形成してなることが好ましい(請求項6)。この場合には、上記ばね部材が圧縮された状態の加圧部材をフレーム内に配置する作業をより容易に行うことができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる、電力変換装置について、図1〜図3を用いて説明する。
本例の電力変換装置1は、図1に示すごとく、半導体素子を内蔵した半導体モジュール21と、半導体モジュール21を冷却する冷却管22とを交互に積層してなる半導体積層ユニット2を有する。また、半導体積層ユニット2の積層方向Xの一方の端部20には、半導体積層ユニット2を積層方向Xに加圧する加圧部材3が配置されている。
そして、電力変換装置1は、図1に示すごとく、積層方向Xと直交する方向に開口するフレーム4を有している。この方向を以下「開口方向Z」という。そして、フレーム4の内側に、半導体積層ユニット2及び加圧部材3が配置されている。
【0025】
また、図1〜図3に示すごとく、加圧部材3は、積層方向Xの一端に配された冷却管22に当接する当接面310を有する当接プレート31と、当接プレート31における当接面310と反対側の面に配されたばね部材32とを有している。
当接プレート31は、半導体積層ユニット2側と反対側へ延びるリブ33を有している。そして、リブ33には、ばね部材32を当接プレート31側へ圧縮変形させるための圧縮治具5(図4参照)を係合させる治具係合部34が形成されている。
【0026】
また、当接プレート31は、リブ33として開口方向Zの両端にそれぞれ第1リブ331と第2リブ332とを形成している。また、第1リブ331及び第2リブ332には、上記治具係合部34として、第1治具係合部341及び第2治具係合部342がそれぞれ設けられている。これらは、リブ33を開口方向Zに貫通した貫通孔によって構成されている。そして、第1治具係合部341と第2治具係合部342との順で圧縮治具5を挿入して係合できるよう構成されている。
治具係合部34は、当接プレート31における積層方向X及び開口方向Zに直交する幅方向Yの中央部に形成されている。
【0027】
また、本例の加圧部材3のばね部材32としては、略円弧状に湾曲した中央湾曲部323と、中央湾曲部323の幅方向Yの両端部において、中央湾曲部323と同方向に湾曲した被支承部322とからなる板ばね320が使用されている。
また、図2に示すごとく、板ばね320の中央湾曲部323には、遊嵌用突起部321が形成されている。
【0028】
そして、当接プレート31には、当接面310を備えた当接板部312が形成されている。また、当接板部312の中央部分には、遊嵌用突起部321が遊嵌可能なように遊嵌孔311が形成されている。
加圧部材3において、ばね部材32は、遊嵌用突起部321を当接プレート31の遊嵌孔311に遊嵌した状態で、当接板部312における当接面310と反対側の面に重ね合わされている。
【0029】
また、図3に示すごとく、当接プレート31の一対のリブ33には、ばね部材32の中央湾曲部323を、当接板部312と反対側から支持する保持片333がそれぞれ形成されている。一対の保持片333は、当接プレート31の長手方向の中央位置において、一対のリブ33から互いに向かい合う方向へ、略直角に屈曲して形成されている。これにより、一対の保持片333と当接板部312との間に、ばね部材32を挟持するように、保持している。
【0030】
また、保持片333は、治具係合部34における当接板部312側の辺から屈曲形成されている。当接プレート31は、めっき鋼板等からなる金属板を曲げ加工することにより形成してなる。治具係合部34は、金属板の一部を打ち抜いて形成されているが、治具係合部34の一部は、保持片333を切り曲げることによって形成されている。それゆえ、保持片333の長さを充分に確保するために、治具係合部34の一部に、他よりも、リブ33の突出方向に突出した逃し部343が形成されている。
【0031】
また、図1、図3に示すごとく、第1治具係合部341と第2治具係合部342とは互いに形状が異なるように形成されている。具体的には、後述する圧縮治具5の挿入方向(図1の紙面表方向)から見たとき、第2治具係合部342の輪郭の少なくとも一部が、第1治具係合部341の内側に配置されている。かかる構成は、第1治具係合部341の幅方向Yの長さを第2治具係合部342よりも長くなるように形成することによって実現している。一方、第1治具係合部341と第2治具係合部342とは、開口方向Zから見たときの積層方向Xの両端の輪郭を一致させている。
【0032】
なお、図3に示すごとく、当接プレート31における第2リブ332には、第2治具係合部342を挟んで、一対の突出片334が形成されている。突出片334は、フレーム4に対する幅方向Yの位置決め手段として機能する。
【0033】
また、図1に示すごとく、フレーム4には、ばね部材32を半導体積層ユニット2と反対側から支承するばね支承部41が、半導体積層ユニット2に向かって突出するように一体的に形成されている。
【0034】
フレーム4は、積層方向Xの両側に互いに平行に配された前方壁部43及び後方壁部44と、これらを幅方向Yの両端において連結する一対の側方壁部45とからなる略長方形の枠体からなる。後方壁部44と半導体積層ユニット2における一端(後端)の冷却管22との間に加圧部材3が配されている。後方壁部44から積層方向Xに、半導体積層ユニット2側へ向かって一対のばね支承部41が突出している。ばね支承部41の突出側先端部は、開口方向Zに直交する断面において略半円形状となる形状を有する。この一対のばね支承部41に加圧部材3のばね部材32の被支承部322が支承されている。
また、一対のばね支承部41の外側であって、側方壁部45内側に、凹状空間部46が形成されている。
【0035】
図1に示すごとく、半導体積層ユニット2は、冷却管22と半導体モジュール21とを交互に積層してなる。そして、半導体モジュール21は積層方向Xの両側から冷却管22によって挟持されている。また、隣り合う冷却管22の間には、2個の半導体モジュール21が挟持されている。
【0036】
図1に示すごとく、複数の冷却管22は、積層方向Xに直交する方向に長く、幅方向Yの両端部において、隣り合う冷却管22同士が連結可能な連結管220によって連結されている。また、積層方向Xの一端に配された冷却管22における幅方向Yの両端部は、冷媒導入管221及び冷媒排出管222が接続してある。
【0037】
これにより、冷媒導入管221から導入された冷却媒体は、連結管220を適宜通り、各冷却管22に分配されると共にその長手方向(幅方向Y)に流通する。そして、各冷却管22を流れる間に、冷却媒体は半導体モジュール21との間で熱交換を行う。熱交換により温度上昇した冷却媒体は、下流側の連結管220を適宜通り、冷媒排出管222に導かれて排出される。
【0038】
冷却媒体としては、例えば、水やアンモニア等の自然冷媒、エチレングリコール系の不凍液を混入した水、フロリナート等のフッ化炭素系冷媒、HCFC123、HFC134a等のフロン系冷媒、メタノール、アルコール等のアルコール系冷媒、アセトン等のケトン系冷媒等を用いることができる。
【0039】
冷媒導入管221、冷媒排出管222は、前方壁部43からフレーム4の外側へ突出している。すなわち、冷媒導入管221、冷媒排出管222を設けた側と反対側に加圧部材3を配置している。
なお、冷媒導入管221、冷媒排出管222は、後方壁部44から突出させてもよい。この場合、冷媒導入管221、冷媒排出管222の間に加圧部材3を配置することとなる。また、冷媒導入管221、冷媒排出管222の一方を前方壁部43側に配置して、他方を後方壁部44側に配置することもできる。
【0040】
次に、本例の電力変換装置1の製造方法につき、図1、図3〜図6を用いて説明する。
本例の電力変換装置1の製造方法は、ユニット配置工程と、ばね変形工程と、加圧部材配置工程と、治具取外工程を有してなる。以下、具体的に説明する。
【0041】
まず、ユニット配置工程において、図1に示すごとく、フレーム4の内側に半導体積層ユニット2を配置する。
次いで、ばね変形工程においては、フレーム4の外において、図4に示すごとく、加圧部材3における治具係合部34(第1治具係合部341及び第2治具係合部342)に対して、開口方向Zより圧縮治具5を挿入して係合させて、ばね部材32を圧縮変形させる。
【0042】
圧縮治具5は、相対的に移動できるように構成された、中央係合部52と一対のばね端部係合部53とを有する。そして、中央係合部52を第1治具係合部341及び第2治具係合部342に係合させると共に、一対のばね端部係合部53をばね部材32の幅方向Yの両端の被支承部322付近にそれぞれ当接させる。
【0043】
ここで、中央係合部52は、幅方向Yの幅が第1治具係合部341より若干小さく、第2治具係合部342より大きい基体部520と、第2治具係合部342よりも若干小さい先端部521とからなる。また、先端部521の両側には、基体部520の先端面となる一対の段差面522が形成されている。
【0044】
これにより、中央係合部52を第1治具係合部341及び第2治具係合部342に係合させる際に、中央係合部52の先端部521及び基体部520が第1治具係合部341を貫通し、先端部521が第2治具係合部342の内側を貫通できる。そして、段差面522を第2治具係合部342の周囲の第2リブ332に当接させることで、加圧部材3に対する圧縮治具5の位置決めが可能となる。
【0045】
そして、図5に示すごとく、圧縮治具5は、ばね端部係合部53に対して、中央係合部52を相対的に後方(当接面310の面する方向と反対方向)に向かい移動させる(矢印A)。換言すれば、一対のばね端部係合部53を中央係合部52に対して、前方(当接面310の面する方向)に向かい移動させる(矢印B)。これにより、図6に示すごとく、ばね部材32を圧縮変形させる。
【0046】
次いで、加圧部材配置工程において、圧縮変形させた状態にある加圧部材3を、フレーム4の内側において半導体積層ユニット2の積層方向Xの一端に配置する。このとき、ばね端部係合部53はそれぞれ、凹状空間部46に配置される。
また、フレーム4内には加圧部材3の位置決め用に位置決め溝(図示略)が形成されている。そして、加圧部材3をフレーム4内に配置する際に、突出片334が上記位置決め溝に係合され、フレーム4における加圧部材3の幅方向Yの位置決めがなされる。
【0047】
次いで、治具取外工程において、圧縮治具5によるばね部材32の圧縮を解除して、ばね部材32の復元力を半導体積層ユニット2への積層方向Xの加圧力として作用させると共に、圧縮治具5を加圧部材3から取り外す。
【0048】
これにより、図1に示すごとく、フレーム4のばね支承部41が、加圧部材3における圧縮状態のばね部材32の被支承部322に係合し、ばね部材32の圧縮状態を保持することができる。この状態は、加圧部材3の付勢力によって、半導体積層ユニット2が積層方向Xに所定の圧力によって圧縮された状態でもある。
【0049】
次に、本例の作用効果について、説明する。
本例の電力変換装置1において、当接プレート31のリブ33には、圧縮治具5を係合させるための治具係合部34が形成されている。それゆえ、加圧部材3は、半導体積層ユニット2やフレーム4等と当接させなくても、それ単独で圧縮治具5によって圧縮変形させることができる。
【0050】
これによって、電力変換装置1を組み立てるにあたって、加圧部材3をフレーム4内に配置する前に、フレーム4の外で、加圧部材3のばね部材32を、治具係合部34に圧縮治具5を係合させて圧縮変形させることができる。そして、その圧縮変形後に、半導体積層ユニット2と共に、フレーム4に加圧部材3を配置することができる。
【0051】
すなわち、電力変換装置1の組立工程において、フレーム4内へ加圧部材3を配置した後に、加圧部材3を圧縮する必要がない。このことは、フレーム4の壁部と半導体積層ユニット2との間に、フレーム4や半導体積層ユニット2とは別体の支承ピンを配置する必要がないことを意味する。つまり、フレーム4内への組み付け後における加圧部材3の付勢力を保持するための別部材からなる支承ピンが不要となり、その配置工程も不要となる。そのため、電力変換装置1の部品点数を低減することができると共に、組立工程を簡素化することが可能となり、生産性を向上させることができる。
【0052】
また、当接プレート31は、フレーム4の開口方向Zの両端にそれぞれ第1リブ331と第2リブ332とを有してなる。そして、第1リブ331及び第2リブ332にそれぞれ設けられた第1治具係合部341及び第2治具係合部342は、開口方向Zに貫通した貫通孔によって構成されている。そして、圧縮治具5を第1治具係合部341と第2治具係合部342とに、この順で挿入して係合できるよう構成されている。これによって、この場合には、圧縮治具5によりばね部材32を圧縮した際の加圧部材3の傾きを防ぐことができ、ばね部材32を安定して圧縮変形させることができる。
【0053】
また、第1治具係合部341と第2治具係合部342とは互いに形状が異なり、圧縮治具5の挿入方向から見たとき、図1に示すごとく、第2治具係合部342の輪郭の少なくとも一部が、第1治具係合部341の内側に配置されている。これによって、図4に示すごとく、圧縮治具5を、第1治具係合部341及び第2治具係合部342に貫通させつつ、第2治具係合部342に挿入側から当接させることが可能となる。これによって、圧縮治具5の挿入時に、圧縮治具5の第1治具係合部341と第2治具係合部342に対する圧縮治具5の開口方向Zについての位置決めを行うことができる。それゆえ、生産性の向上を効果的に図ることができる。
【0054】
また、第1治具係合部341は、幅方向Yの長さが第2治具係合部342よりも長い。これによって、リブ33の積層方向Xの突出長を小さく抑えつつ、上述の加圧部材3の圧縮治具5の位置決め手段を実現することができる。それゆえ、電力変換装置1の小型化を実現しつつ、生産性の向上を図ることができる。
治具係合部34は、当接プレート31における幅方向Yの中央部に形成されている。これによって、ばね部材32をバランスよく圧縮することができる。
【0055】
フレーム4は、ばね支承部41を、半導体積層ユニット2に向かって突出するように一体的に形成してなる。これによって、ばね部材32が圧縮された状態の加圧部材3をフレーム4内に配置する作業をより容易に行うことができる。
【0056】
本例の電力変換装置1の製造方法においては、ばね変形工程において、フレーム4の外で、加圧部材3のばね部材32を圧縮変形させる。そして、加圧部材配置工程において、ばね部材32が圧縮変形された状態の加圧部材3をフレーム4内に配置する。それゆえ、フレーム4内への配置後における加圧部材3の圧縮が不要である。上述した支承ピンが不要となる。そのため、支承ピンの配置工程も不要となる、すなわち、そのため、電力変換装置1の部品点数を低減することができると共に、組立工程を簡素化することが可能となり、生産性を向上させることができる。
【0057】
以上のごとく、本例によれば、部品点数を低減して、生産性を向上することができる電力変換装置及びその製造方法を提供することができる。
【0058】
(実施例2)
本例は、図7に示すごとく、加圧部材3のばね部材32を、複数のコイルばね324と押圧プレート325とにより構成した例である。
コイルばね324は、当接プレート31の当接板部312における当接面310と反対側の面に3個、幅方向Yに並んで配置されている。そして、3個のコイルばね324を当接板部312との間に挟むように、当接板部312と平行に押圧プレート325が配置されている。なお、コイルばね324の配置個数や配置の仕方については、特に限定されるものではない。
【0059】
押圧プレート325は、当接板部312側に凸となる状態で略円弧状に湾曲して形成されたプレート端部326を有する。このプレート端部326に、フレーム4のばね支承部41が係合してばね部材32の圧縮状態が保持されるように構成されている。
その他は、実施例1と同様であり、同様の作用効果を有する。
【符号の説明】
【0060】
1 電力変換装置
2 半導体積層ユニット
21 半導体モジュール
22 冷却管
3 加圧部材
31 当接プレート
32 ばね部材
33 リブ
34 治具係止部
4 フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を内蔵した半導体モジュールと、該半導体モジュールを冷却する冷却管とを交互に積層してなる半導体積層ユニットと、
該半導体積層ユニットの積層方向の一方の端部に配置され、該半導体積層ユニットを積層方向に加圧する加圧部材と、
上記積層方向と直交する方向に開口すると共に、上記半導体積層ユニット及び上記加圧部材を内側に配置するフレームとを備え、
上記加圧部材は、上記積層方向の一端に配された上記冷却管に当接する当接面を有する当接プレートと、該当接プレートにおける上記当接面と反対側の面に配されたばね部材とを有し、
上記当接プレートは、上記半導体積層ユニット側と反対側へ延びるリブを有し、該リブには、上記ばね部材を上記当接プレート側へ圧縮変形させるための圧縮治具を係合させる治具係合部が形成されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、上記当接プレートは、上記フレームの開口方向の両端にそれぞれ第1リブと第2リブとを上記リブとして有してなり、上記第1リブ及び上記第2リブにそれぞれ設けられた上記治具係合部である第1治具係合部及び第2治具係合部は、上記開口方向に貫通した貫通孔によって構成されており、上記圧縮治具を上記第1治具係合部と上記第2治具係合部とに、この順で挿入して係合できるよう構成されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置において、上記第1治具係合部と上記第2治具係合部とは互いに形状が異なり、上記圧縮治具の挿入方向から見たとき、上記第2治具係合部の輪郭の少なくとも一部が、上記第1治具係合部の内側に配置されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力変換装置において、上記第1治具係合部は、上記積層方向及び上記フレームの開口方向に直交する方向である幅方向の長さが、上記第2治具係合部よりも長いことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電力変換装置において、上記治具係合部は、上記当接プレートにおける上記積層方向及び上記フレームの開口方向に直交する方向である幅方向の中央部に形成されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電力変換装置において、上記フレームは、上記ばね部材を上記半導体積層ユニットと反対側から支承するばね支承部を、上記半導体積層ユニットに向かって突出するように一体的に形成してなることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電力変換装置を製造する方法であって、
上記フレームの内側に上記半導体積層ユニットを配置するユニット配置工程と、
上記フレームの外において、上記圧縮治具を上記治具係合部に係合させて上記ばね部材を圧縮変形させるばね変形工程と、
上記ばね部材を圧縮変形させた状態にある上記加圧部材を、上記フレームの内側において上記半導体積層ユニットの上記積層方向の一端に配置する加圧部材配置工程と、
上記圧縮治具による上記ばね部材の圧縮を解除して、上記ばね部材の復元力を上記半導体積層ユニットへの上記積層方向の加圧力として作用させると共に、上記圧縮治具を上記加圧部材から取り外す治具取外工程とを備える電力変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−161133(P2012−161133A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17844(P2011−17844)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】