説明

電力変換装置

【課題】平滑コンデンサの発熱を低減し、コンデンサを長寿命化して装置の信頼性を向上させて、コストダウンを図ることが可能な電力変換装置を提供することを課題とする。
【解決手段】後半スイッチング制御部600の後半スイッチングTd算出部601は、入力電流の大きさに応じて後半のスイッチング動作を開始する時間Tdを算出し、後半スイッチングTon算出部602は、スイッチングオン幅Tonを決定し、スイッチング回数設定部606は、スイッチング回数を設定する。後半スイッチング許可信号作成部603は、後半スイッチングTd算出部601と後半スイッチングTon算出部602とスイッチング回数設定部606とに基づいて、後半スイッチング許可信号を作成し、前半スイッチング許可信号を論理否定した信号と、後半スイッチング許可信号との論理積で駆動部7を駆動し、スイッチング素子をスイッチングさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用電源を家電機器などの直流電源に変換する電源回路の制御技術に関し、さらに詳しく言えば、電源回路に用いられる平滑コンデンサの発熱を昇圧回路のスイッチング制御により低減させる制御部を備えた電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、昇圧チョッパ型の力率改善および高調波電流抑制機能を有する電力変換装置が存在する。この種の電力変換装置の一例としては、下記特許文献1などが存在する。
【0003】
特許文献1に示された電力変換装置は、入力電源を直流電圧に変換して昇圧チョッパ回路で負荷の電圧を得る際に、昇圧チョッパ回路のスイッチング素子をスイッチングさせ、リアクタ(昇圧チョークコイル)を介して短絡電流を流すことで力率を改善している。電力変換装置を制御する制御部は、入力電流波形から所定の高調波成分を減少させたモデリング波形を電流指令値として生成し、そのモデリング波形に追従するように交流電源電圧の半周期の前半のゼロクロス点から所定の回数だけスイッチング素子をオンオフ制御することにより、大電流領域においても、リアクタインダクタンスを大きくすることなく、電源高調波規制をクリアすることを可能としている。
【0004】
特許文献1の電力変換装置を制御する制御部は、図10に示すように構成されている。母線電圧比率制御部200は、出力電圧指令値(母線電圧指令値)Vo*を作成する。演算部300は、その出力電圧指令値Vo*と、昇圧回路の出力電圧(母線電圧)Voとの電圧偏差を算出する。電流指令値作成部150は、この電圧偏差に基づいて、5次高調波成分を低減するためのモデリング波形の電流指令値を作成する(図11(a)参照)。この電流指令値と入力電流の電流検出値Iiとをコンパレータ400で比較し、その比較結果と、スイッチング回数制御部100で作成されるスイッチング許可信号とをAND回路500に入力してスイッチング信号を作成し、駆動部7を介して昇圧チョッパ回路のスイッチング素子をスイッチングして入力電流波形を得ている(図11(a)参照)。
【0005】
スイッチング許可信号を作成するスイッチング回数制御部100は、パルスカウンタ106によりスイッチング素子のスイッチング回数をカウントし(図11(e)参照)、カウンタ値がリセットされた時点でHレベルとなり、カウンタ値がスイッチング回数算出部103で設定された所定値(パルス設定値)に達するとLレベルとなる(図11(f)参照)。
【0006】
この場合、ゼロクロスの検出によりスイッチング許可信号が出力され、かつコンパレータ400の出力がHレベルになった時、スイッチング素子がオンされ(図11(b),(c)参照)、しかる後入力電流Iiが上昇して電流上限値に達し、スイッチング素子がオフされると(図11(a),(c)参照)、パルスカウンタ106がインクリメントされる(図11(d),(e)参照)。このように、スイッチング素子をオン、オフすることにより、入力電流Iiが電流指令値に追従した電流波形となる(図11(a)参照)。
【0007】
スイッチング回数制御部100のTon上限値/下限値算出部102は、スイッチング動作区間時間Tonの値(Ton上限値/下限値)を出力する。また、Ton*算出部105は、適切なスイッチング動作区間を算出する。一方、電源位相検出回路5による検出電源位相信号(ゼロクロス)のリセット/開始信号によりパルスカウンタ106及びタイマカウンタ101がリセットされた後にカウントが開始されると、タイマカウンタ101は、スイッチング動作区間時間Tonの計測を開始する。パルスカウンタ106はスイッチング素子のスイッチング回数をカウントし、そのカウンタ値が予め設定された値に達したときに、パルスカウンタ106の出力(図11(f)参照)はLレベルとなり、これにより、タイマカウンタ101によるスイッチング動作区間時間Tonの計測が停止する。タイマカウンタ101からは、スイッチング回数が所定回数に達するとスイッチング動作区間時間Tonが出力される。
【0008】
Ton上限値/下限値算出部102からは、上述したTon上限値/下限値の値がスイッチング回数算出部103に出力される。スイッチング回数算出部103では、スイッチング動作区間時間Tonと、Ton上限値/下限値とを比較し、スイッチング動作区間時間TonがTon下限値を下回っていると、パルスカウンタ106に設定されたパルス設定値を1だけ増加させる。これにより、次の周期(ゼロクロス)からは、パルスカウンタ値が増える分だけスイッチング動作区間時間Tonが長くなり、スイッチング動作区間時間Tonが下限値を上回る方向に制御される。このようにパルスを増減することでスイッチング動作区間時間Tonを調整し、Ton上限値/下限値の範囲内に収める。
【0009】
これと反対に、スイッチング回数算出部103は、スイッチング動作区間時間Tonと、Ton上限値/下限値とを比較し、スイッチング動作区間時間TonがTon上限値を上回っている場合は、パルスカウンタ106に設定されたパルス設定値を1だけ減少させる。これにより、次の周期(ゼロクロス)からは、パルスカウンタ値が減少する分だけスイッチング動作区間時間Tonが短くなり、スイッチング動作区間時間TonがTon上限値を下回る方向に制御される。
【0010】
このように、スイッチング回数算出部103は、スイッチング動作区間時間Tonと、Ton上限値/下限値とを比較し、その比較結果に基づいて、パルスカウンタ106に設定されたパルス設定値を増加又は減少させることにより、スイッチング動作区間時間TonがTon上限値とTon下限値の範囲内に収まるように制御することで、部品にバラツキがあっても、電源高調波規制値を満たすことができる。図12は、特許文献1における電力変換装置の入力電流とリップル電流との関係を示す線図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−129849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような特許文献1によれば、電力変換装置の昇圧回路におけるスイッチング素子を入力電流のモデリング波形に追従させるようにオンオフ制御することで、高調波規制をクリアしていたが、電力変換装置に用いられる平滑コンデンサ(電解コンデンサ)の損失低減を意図した制御は行われていなかった。このため、平滑コンデンサのESR値(等価直列抵抗)による発熱により平滑コンデンサが短寿命化し、電力変換装置の信頼性が低下するという問題があった。これに対し、平滑コンデンサを大容量化したり、低ESR品を採用したりすることでコンデンサの損失低減を図ることが考えられるが、平滑コンデンサが高価格品となり、コストアップになるという問題があった。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、スイッチング動作により繰り返して平滑コンデンサに流れ込むリップル電流の周波数が高いほど平滑コンデンサの内部抵抗が低くなる平滑コンデンサの特性(ESR値)を利用し、低次高調波のリップル電流のエネルギーを高次高調波に分散させることで平滑コンデンサの発熱を低減させて、コンデンサを長寿命化することで、装置の信頼性を向上させると共に、低価格品のコンデンサを使用することでコストダウンを図ることが可能な電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決して、本発明の目的を達成するために、本発明は、交流電源を直流電圧に変換して負荷電圧とする際、前記交流電源をリアクタを介してスイッチング素子により短絡して力率を改善する電力変換装置において、前記スイッチング素子を含む昇圧回路と、前記昇圧回路により昇圧された出力電圧を平滑化する平滑コンデンサと、前記交流電源の電圧位相を検出することにより前記交流電源の電圧ゼロクロス点を検出する電源位相検出回路と、前記昇圧回路の入力電流を検出する入力電流検出部と、前記電圧ゼロクロス点および前記入力電流に基づき、所定のスイッチング動作期間において前記スイッチング素子をスイッチング動作させる制御部と、前記制御部から出力されるスイッチングパルスに基づき前記スイッチング素子を駆動する駆動部と、を備え、前記制御部は、連続する2つの前記電圧ゼロクロス点で示される前記交流電源の半周期毎に、同半周期の前半で複数回の前記スイッチング動作を行った後、前記電圧ゼロクロス点から前記入力電流に比例する時間であり予め定められた後半スイッチング開始時間の経過後に、前記スイッチング素子のスイッチングを少なくとも1回実施するように前記駆動部を制御して前記平滑コンデンサの損失低減を図ることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記後半スイッチング開始時間は、前記昇圧回路の入力電流のパッシブ動作期間のピーク点から同入力電流が流れ終わる点までの期間の中間点付近となるように決定されている。また、前記後半スイッチング開始時間は、予め実験的に求めるか、または前記後半スイッチング開始時間の算出式として前記制御部に記憶されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、平滑コンデンサの損失に起因するリップル電流の低次成分を高調波成分に移行(分散)させることが可能となり、平滑コンデンサの損失を低減させることにより、平滑コンデンサの発熱低減効果が得られるため、平滑コンデンサが長寿命化し、電力変換装置の信頼性を向上させると共に、低価格品の平滑コンデンサが使用可能となってコストダウンが図れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施例にかかる電力変換装置の一構成例を示す図である。
【図2】図2は、図1の制御部の一構成例を示す図である。
【図3】図3は、本実施例にかかる電力変換装置による入力電流波形とリップル電流波形の一例を示す線図である。
【図4】図4は、各次数における従来技術と本発明の電力変換装置の高調波リップル電流の値を対比させた図である。
【図5】図5は、本実施例にかかる電力変換装置に用いた電解コンデンサのESR値の周波数特性例を示す図である。
【図6】図6は、図4のリップル電流をフーリエ変換し図5の各周波数成分のESR値から算出した電解コンデンサの損失例を示す図である。
【図7】図7は、スイッチング素子の後半スイッチング開始時間に対する電解コンデンサの損失結果を示す図である。
【図8】図8は、電源電圧と入力電流における前半ゼロクロス点と後半ゼロクロス点の定義を説明する図である。
【図9】図9は、本実施例にかかる電力変換装置の制御部が昇圧回路のスイッチング素子をスイッチング制御するタイミングを説明する線図である。
【図10】図10は、従来の電力変換装置における制御部の一構成例を示す図である。
【図11】図11は、従来の電力変換装置の制御部が昇圧回路のスイッチング素子をスイッチング制御するタイミングを説明する線図である。
【図12】図12は、従来の電力変換装置における入力電流波形とリップル電流波形の一例を示す線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態にかかる電力変換装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本実施例にかかる電力変換装置の一構成例を示す図であり、図2は、図1の制御部の一構成例を示す図であり、図3は、本実施例にかかる電力変換装置による入力電流波形とリップル電流波形の一例を示す線図であり、図4は、各次数における従来技術と本発明の電力変換装置の高調波リップル電流の値を対比させた図であり、図5は、本実施例にかかる電力変換装置に用いた電解コンデンサのESR値の周波数特性例を示す図であり、図6は、図4のリップル電流をフーリエ変換し図5の各周波数成分のESR値から算出した電解コンデンサの損失例を示す図であり、図7は、スイッチング素子の後半スイッチング開始時間に対する電解コンデンサの損失結果を示す図であり、図8は、電源電圧と入力電流における前半ゼロクロス点と後半ゼロクロス点の定義を説明する図であり、図9は、本実施例にかかる電力変換装置の制御部が昇圧回路のスイッチング素子をスイッチング制御するタイミングを説明する線図である。
【0020】
まず、実施例1にかかる電力変換装置は、図1に示すように、周波数が50Hz(ヘルツ)の交流電源1と、整流回路2と、整流回路2の一方の端子側に直列に接続したリアクタ(昇圧チョークコイル)3aと、昇圧回路3と、昇圧回路3により昇圧された出力電圧を平滑化する平滑コンデンサ(電解コンデンサ)12と、負荷4と、交流電源1の電圧ゼロクロス点を検出する電源位相検出回路5と、昇圧回路3の入力電流Iiを検出するための電流センサ(例えばCT)6と、昇圧回路3の入力電流Iiを電流センサ6からの検出信号により検出する入力電流検出部8と、昇圧回路3の入力電圧Viを検出するための入力電圧検出部9と、昇圧回路3の出力電圧(母線電圧)Voを検出するための出力電圧検出部10と、入力電流検出部8による入力電流Iiおよび電源位相検出回路5による電圧ゼロクロス点の検出結果に基づいて、昇圧回路3を駆動するスイッチングパルス信号を駆動部7に出力するマイクロコンピュータなどからなる制御部11と、制御部11からの駆動信号により昇圧回路3を駆動する駆動部7とを備えている。なお、上記したリアクタ(昇圧チョークコイル)3aの位置は、図1の位置に限るものではなく、交流電源1と整流回路2との間の一方の端子側に直列に接続しても良い。また、本実施例1では、リアクタ(昇圧チョークコイル)3aのインダクタンス値が13mHのものを用い、平滑コンデンサ(電解コンデンサ)12の容量が1320μFのものを用いている。
【0021】
昇圧回路3は、リアクタ3aと、リアクタ(昇圧チョークコイル)3aに直列に接続された逆阻止ダイオード3bと、このリアクタ(昇圧チョークコイル)3aと逆阻止ダイオード3bとの間で整流回路2の負端子側に接続されたスイッチング素子(例えばIGBT;絶縁ゲート形トランジスタ)3cとを備えている。この昇圧回路3は、スイッチング素子3cによってリアクタ3aを介して短絡電流を流すことにより力率を改善すると共に、リップル電流の低次成分を高調波成分に移行させることで、平滑コンデンサの損失を低減することができる。
【0022】
負荷4は、例えば空気調和機のコンプレッサモータに適用した場合インバータ回路およびモータを想定することができる。
【0023】
続いて、実施例1にかかる電力変換装置の制御部11の構成および概略機能について説明する。制御部11の特徴的な構成は、図10に示す従来の制御部に、後半スイッチング制御部600を追加した点にある。
【0024】
なお、図10に示す従来の制御部は背景技術で説明したように、この制御部は連続する2つの電圧ゼロクロス点で示される交流電源の半周期毎に、同半周期の前半で複数回のスイッチング動作を行った後、スイッチング動作を行わないパッシブ動作期間を設けている(部分スイッチング)。実施例1では以上説明した従来の機能に加えて、後半スイッチング制御部600がこのパッシブ動作期間内で平滑コンデンサの損失を低減するスイッチング動作を行う。
【0025】
この後半スイッチング制御部600は、入力電流の大きさに応じて後半のスイッチング動作を開始する時間(以下、「後半スイッチング開始時間」という)Tdを算出する後半スイッチングTd算出部601と、スイッチングのオン幅Tonを決定する後半スイッチングTon算出部602と、後半スイッチング制御によるスイッチング回数を設定するスイッチング回数設定部606と、後半スイッチングTd算出部601と後半スイッチングTon算出部602とスイッチング回数設定部606とに基づいて、後半スイッチング許可信号を作成する後半スイッチング許可信号作成部603と、従来の前半スイッチング制御を行う前半スイッチング許可信号を論理否定するNOT回路604と、論理否定された前半スイッチング許可信号と後半スイッチング許可信号との論理積をとるAND回路605とを備えている。なお、駆動部7は、AND回路500の出力、もしくは、AND回路605の出力のいずれかの信号で駆動される。
【0026】
実施例1にかかる電力変換装置を動作させると、平滑コンデンサ(電解コンデンサ)において、外気温度の高温時やコンデンサに流れるリップル電流が大きくなる高負荷時ではコンデンサの損失や、電解コンデンサの自己発熱が発生する。電解コンデンサの損失は、次式(1)により求めることができる。
【0027】
【数1】

【0028】
つまり、電解コンデンサの損失は、リップル電流をフーリエ変換し、各周波数成分におけるESR値から求めることができる。また、コンデンサのESR値は、図5に示すように、周波数によって変化し、特に、ESR値が高周波になるとESR値が低くなる傾向にある。このため、本実施例1では、リップル電流に含まれる高周波成分において、高次の高調波成分が多くなるようにスイッチング素子3cをスイッチング制御する。このように制御することにより、電解コンデンサの損失が抑えられ、自己発熱が低減されることにより、電解コンデンサの長寿命化と、それを用いた電力変換装置の信頼性の向上を図り、大容量の電解コンデンサや低ESR品の電解コンデンサを用いないことによる低価格品の使用が可能となって、コストダウンを図ることができる。
【0029】
まず、電源電圧と入力電流のゼロクロス点の用語について、図8に示すように定義するものとする。つまり、電源電圧の正弦波の前半部分でゼロ点と接する点、および、入力電流の前半部分でゼロ点と接する点を「前半ゼロクロス点」と称し、電源電圧の正弦波の後半部分でゼロ点と接する点、および、入力電流の後半部分でゼロ点と接する点を「後半ゼロクロス点」とそれぞれ称することにする。なお、入力電流のピーク点とは、図9に示すように、前半部スイッチングが終了した以降のパッシブ期間における入力電流のピーク点と定義する。
【0030】
実施例1において、リップル電流を高周波化し、電解コンデンサの損失を抑えるスイッチング制御は、図9に示すように、入力電流のピーク点(A点)から入力電流の後半ゼロクロス点(B点)までのパッシブ動作期間の中間点(C点)を含む一定の範囲(損失低減区間)内で、スイッチング素子3cのスイッチングを少なくとも1回実施するように、制御部11が駆動部7を制御する。
【0031】
スイッチング素子3cのスイッチングを実施する好適な損失低減区間の範囲は、図7に示すように、比較対象である従来技術の損失が1.457(W)であり、これとの比較で電解コンデンサの損失が1.457(W)以下となる範囲が好ましい。つまり、電源電圧の前半ゼロクロス点を0msとすると、図9に示すように、入力電流ピーク点(A点)が5.2msとなるが、これを図7で見ると、電解コンデンサの損失が1.465(W)となり、従来技術よりも損失が大きくなる。このため、損失低減区間は、図7に示すように、5.5ms(A−C間)〜8.0ms(B点)となる。さらに、この損失低減区間の中で最も電解コンデンサの損失低減効果の大きい後半スイッチング開始時間は、入力電流ピーク点(A点)と入力電流の後半ゼロクロス点(B点)との略中間点付近の6.6ms(C点)である。従って、入力電流の後半部にスイッチング素子3cによるスイッチングを実施する場合は、図9に示すように、入力電流のピーク点から入力電流の後半ゼロクロス点までのパッシブ動作期間の中間点付近で、少なくとも1回実施することにより、効率的な電解コンデンサの損失低減効果を得ることができる。また、スイッチングを複数回実施する場合は、損失低減効果の最も大きい6.6ms(C点)と、次に損失低減効果の大きい7.0ms(C−B間)の2回実施も可能である。その場合も効率的な電解コンデンサの損失低減効果を得ることができる。
【0032】
上記した電解コンデンサの損失低減効果が得られる制御部11の制御動作を、図2を用いて説明する。後半スイッチング制御部600における後半スイッチングTd算出部601は、電源位相検出回路5による電源電圧のゼロクロスの検出信号を入力すると共に、入力電流検出部8で検出した入力電流Iiから後半スイッチング開始時間Tdを次式(2)により算出する。(2)式におけるIは、入力電流の平均値であり、半周期毎に算出した電流の平均値を次の半周期の入力電流値として用いる。なお、αとβは定数である。
Td=α×I+β・・・・(2)
【0033】
この(2)式から入力電流が増加していくのに比例して、後半スイッチング開始時間を決定することができる。本実施例では、入力電流のピーク点をスイッチングのタイミングを決定する要素として説明しているが、実際には、入力電流の変化による電流のピーク点の時間的な前後を予め実験的に求め、これを考慮してTd算出の定数を決定している。なお、入力電流の平均値算出の都度、Td算出の式を用いてTdを求めてもよいし、入力電流値毎にTdの計算結果を記憶して用いてもよい。また、これらの式や計算結果は後半スイッチングTd算出部601に予め記憶されている。
【0034】
また、後半スイッチングTon算出部602は、スイッチングオン幅Tonを決定するものである。実施例1の後半スイッチングTon算出部602では、スイッチングオン幅Tonが予め設定された固定値を用いているが、スイッチングオン幅Tonを可変としても良い。例えば、入力電流に比例させて、スイッチングオン幅Tonを変更する比例制御を行うようにしても良い。
【0035】
さらに、スイッチング回数設定部606は、スイッチング回数を設定するものであり、実施例1では予め設定された固定のスイッチング回数(1回)を用いているが、入力電流に比例してスイッチング回数を変更する比例制御を行うようにしても良い。
【0036】
このように、実施例1における電力変換装置の制御部11は、図3に示すように、入力電流のピーク点(約165.500ms)と入力電流の後半ゼロクロス点(約168.000ms)との間のパッシブ動作期間の中間点(約166.750ms)でスイッチング素子3cをスイッチングするように駆動部7を制御している。このため、図4に示すように、従来技術と比較すると、主として低次成分(1次〜4次)において、高調波リップル電流(A)が減少しており(黒枠部分)、逆にその他の高次成分が主として増えていることがわかる。このことは、本発明の電解コンデンサの損失が従来技術と較べて低減されていることを意味している。すなわち、電解コンデンサの損失(W)は、数式1に図4の高調波リップル電流値を代入して求めると、図6に示すように従来技術の損失が1.43Wであるのに対し、本発明の損失が1.38Wと低減されていることからもわかる。なお、n次成分のESR値は、図5の表から補間して用いている。
【0037】
実施例1の電力変換装置によれば、入力電流の後半時においてスイッチング素子3cをスイッチングさせることで、従来よりも電解コンデンサの損失を低減することが可能となり、電解コンデンサの損失が減るので、その分の発熱温度が低下し、電解コンデンサが長寿命化すると共に、それを用いた電力変換装置の信頼性を向上させることができるという効果が得られる。
【0038】
また、実施例1の電力変換装置によれば、制御部により昇圧回路のスイッチング素子をスイッチング制御することで、電解コンデンサの損失を低減することができるため、大容量のコンデンサや低ESRのコンデンサ等の高価格品を用いる必要がなくなり、低コスト化することができると共に、電解コンデンサおよびそれを用いた電力変換装置を小型化できるという効果が得られる。
【0039】
さらに、実施例1の電力変換装置によれば、入力電流の波形から所定の高調波成分を低減するためのモデリング波形の電流指令値を作成する電流指令値作成部150と、電流指令値と入力電流に対応する電圧とを比較するコンパレータ400と、コンパレータ400の比較結果および前半スイッチング許可信号に基づいてスイッチングパルス信号を生成するAND回路500とを備えている。このモデリング波形の電流指令値の作成は、本願出願人の特開2007−129849号公報に係る電力変換装置と同様の制御を行うものであり、本願発明の一部に加えるものとする。さらに、作成された電流指令値と電源位相検出回路5のゼロクロス信号とに基づいて、スイッチング回数制御部100により、電流波形から所定の高調波成分を減少させたモデリング波形を電流指令値として生成し、交流電源半周期のうち前半部分の区間、入力電流と電流指令値の比較結果に基づいてスイッチング素子をオン/オフ制御することとしたので、上記実施例1の効果に加え、リアクタインダクタンスを大きくすることなく、所定の高調波成分を低減することができ、大電流領域においても、リアクタインダクタンスを大きくすることなく、電源高調波規制をクリアすることが可能となる。また、従来方式と同じ電流領域を使用した場合は、リアクタインダクタンスを小さくできるため、コストを低減することが可能となる。
【0040】
本実施例では、交流電源の周波数を50Hzとして説明しているが、他の周波数でも良い。例えば、60Hzの場合は、50Hzに比較して周期が短くなるため、損失低減区間は4.6ms〜6.7msになる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、電力変換装置に用いられる平滑コンデンサの発熱を低減することで、コンデンサ自体が長寿命化し、それを用いた電力変換装置の信頼性が向上すると共に、低価格なコンデンサであっても使用可能になることから、空気調和機や冷蔵庫のコンプレッサだけなく、家電機器全般に適用するとともに、産業機器にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 入力電源(交流電源)
2 整流回路
3 昇圧回路
3a リアクタ(昇圧チョークコイル)
3b 逆阻止ダイオード
3c スイッチング素子
12 平滑コンデンサ(電解コンデンサ)
4 負荷
5 電源位相検出回路
6 電流センサ
7 駆動部
8 入力電流検出部
9 入力電圧検出部
10 出力電圧検出部
11 制御部
100 スイッチング回数制御部
150 電流指令値作成部
200 母線電圧比例制御部
300 演算手段
400 コンパレータ
500 AND回路
600 後半スイッチング制御部
601 後半スイッチングTd算出部
602 後半スイッチングTon算出部
603 後半スイッチング許可信号作成部
604 NOT回路
605 AND回路
606 スイッチング回数設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源を直流電圧に変換して負荷電圧とする際、前記交流電源をリアクタを介してスイッチング素子により短絡して力率を改善する電力変換装置において、
前記スイッチング素子を含む昇圧回路と、
前記昇圧回路により昇圧された出力電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記交流電源の電圧位相を検出することにより前記交流電源の電圧ゼロクロス点を検出する電源位相検出回路と、
前記昇圧回路の入力電流を検出する入力電流検出部と、
前記電圧ゼロクロス点および前記入力電流に基づき、所定のスイッチング動作期間において前記スイッチング素子をスイッチング動作させる制御部と、
前記制御部から出力されるスイッチングパルスに基づき前記スイッチング素子を駆動する駆動部と、を備え、
前記制御部は、連続する2つの前記電圧ゼロクロス点で示される前記交流電源の半周期毎に、同半周期の前半で複数回の前記スイッチング動作を行った後、
前記電圧ゼロクロス点から前記入力電流に比例する時間であり予め定められた後半スイッチング開始時間の経過後に、前記スイッチング素子のスイッチングを少なくとも1回実施するように前記駆動部を制御して前記平滑コンデンサの損失低減を図ることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記後半スイッチング開始時間は、前記昇圧回路の入力電流のパッシブ動作期間のピーク点から同入力電流が流れ終わる点までの期間の中間点付近となるように決定されており、予め実験的に求めるか、または前記後半スイッチング開始時間の算出式として前記制御部に記憶されていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−210060(P2012−210060A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73687(P2011−73687)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006611)株式会社富士通ゼネラル (1,266)
【Fターム(参考)】