説明

電動アクチュエータ

【課題】 作動杆を比較的速い速度で移動させることができる小型で廉価な電動アクチュエータを提供する。
【解決手段】 モータによる駆動が、回転軸23、小径歯車28、大径歯車30、ピニオン30a、ラック8bを介して、移動体8を第1の圧縮コイルばね9の弾発力に抗して矢印A方向に移動させる。移動体8と一体的に移動する作動杆11の係合溝11cにストッパピン33の係合部33aが係合することにより、作動杆11の他端部11bが筺体6の外部に押し出された状態で保持される。同時に、モータと回転軸23との間の駆動伝達が電磁クラッチによって切断される。この状態から電磁ソレノイド32のプランジャー32aを後退させ、係合部33aと係合溝11cとの係合を解除すると、第1の圧縮コイルばね9の蓄積された弾発力によって、作動杆11が矢印B方向へ移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の駆動装置によって軸線方向に作動杆を移動させる電動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電動アクチュエータとしては、正逆方向に駆動するモータによって回転し軸線方向への移動が規制されたねじ棒と、このねじ棒が螺合するねじ孔を有し回転が規制された作動杆とを備え、モータの駆動を制御することにより、作動杆を異なる速度で移動させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開昭61−181153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の電動アクチュエータにおいては、作動杆の移動速度はモータの回転速度に比例しているため、比較的速い速度で作動杆を移動させようとすると、大型のモータが必要となり、装置が大型化するだけでなく、廉価に形成することが困難であるという問題があった。
【0004】
本発明は上記した従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、作動杆を比較的速い速度で移動させることができる小型で廉価な電動アクチュエータを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明は、駆動装置によって駆動される駆動伝達系と、この駆動伝達系を介して軸線方向に一方向へ移動する作動杆と、この作動杆の一方向への移動にしたがって当該作動杆を前記一方向と反対方向の他方向へ移動させる付勢力が蓄積される付勢部材と、この付勢部材の付勢力に抗して前記一方向へ所定位置まで移動した作動杆の位置を保持するストッパピンと、このストッパピンによる保持を解除する保持解除装置とを備え、前記駆動装置と前記駆動伝達系との間に、当該駆動装置の駆動を断接するクラッチを設けたものである。
【0006】
本発明は、前記発明において、前記保持解除装置によってストッパピンによる保持を解除しているとき、前記クラッチによって前記駆動装置の駆動を一時的に接続するものである。
【0007】
本発明は、前記発明のいずれか一つの発明において、前記駆動装置の駆動によって前記 作動杆が前記所定位置に位置付けられたことを検知する検知装置を備え、この検知装置の検知により前記クラッチが前記駆動装置と前記作動杆との間の駆動伝達を断つものである。
【0008】
本発明は、前記発明のいずれか一つの発明において、前記駆動装置を一方向のみに駆動するモータとし、前記駆動伝達系を歯車列とし、この歯車列の最終歯車に噛合し前記作動杆と一体的に移動するラックとを備え、前記保持解除装置をソレノイドとし、このソレノイドの進退自在なプランジャーに前記ストッパピンを連結したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、駆動装置によって作動杆を移動させることにより付勢部材に蓄積される付勢力を利用して、作動杆を比較的速い速度で移動させることができるため、従来のように作動杆を比較的速い速度で移動させるための大型の駆動装置を必要としないから、装置の小型化を図ることができ、かつ装置が安価となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明に係る電動アクチュエータの一部を破断して示す平面図、図2は同じく一部を破断して示す正面図、図3は図2におけるIII-III 線断面図、図4は図2におけるIV-IV 線断面図、図5は同じくモータの駆動によって作動杆を筺体から突出させた待機状態を示す正面図、図6は同じくクラッチ、ソレノイド、位置検知センサのタイムチャートと作動杆の動作状態との関係を説明するための図である。
【0011】
図1に全体を符号1で示す電動アクチュエータは、互いに対向する左右の側板2,3と、これら側板2,3に取り付けられ互いに対向する前板4および後板5とによって、平面視において枠状に形成された筺体6を備えている。7は左右の側板2,3間に横架されたガイド棒であって、このガイド棒7を直方体状に形成された移動体8の貫通孔8aに貫通させることにより、移動体8がガイド棒7に対して軸線方向(矢印A−B方向)に移動自在に支持される。
【0012】
この移動体8の下面には、図2に示すようにラック8bが形成され、移動体8と側板2との間には、図1に示すようにガイド棒7に巻回された付勢部材としての第1の圧縮コイルばね9が弾装されており、この第1の圧縮コイルばね9の弾発力によって移動体8は矢印B方向へ付勢されている。10は側板3に取り付けられゴムによって形成されたストッパ部材であって、矢印B方向に移動してきた移動体8が当接する。11はガイド棒7に平行となるように矢印A方向に延在する作動杆であって、一端部に形成した細径部11aが移動体8の貫通孔8cに嵌挿されボルト12によって抜け止めされることにより、移動体8に固定され移動体8と一体的に矢印A−B方向に移動し、他端部11bが側板2の貫通孔2aを貫通して筺体6の外部に突出している。
【0013】
この作動杆11の中央部の周面には、後述するストッパピン33の係合部33aが係合する環状の係合溝11cが設けられている。図1および図2において、13は角筒状に形成され側板2にボルトによって取り付けられたガイド部材であって、中空部13aとこの中空部13aと直交し中空部13aに連通する連通孔13bとが設けられている。中空部13aには、作動杆11の他端部11bを矢印A−B方向に移動自在に支持する軸受14,14が設けられている。
【0014】
図2において、15は移動体8の側部に取り付けられた被検出片であって、下方側に延設された先端部に被検出部15aが形成されている。図4において、16は前板4と後板5との間に掛け渡されたブラケット18上に取り付けられた発・受光素子からなるセンサであって、被検出片15の被検出部15aを検出するものである。すなわち、後述するように、図示を省略したモータを駆動することにより移動体8が矢印A方向に移動し、図5に示すように作動杆11の他端部11bが側板2の貫通孔2aから所定の長さだけ押し出された位置(以下、この位置を作動杆11のホームポジションという)に位置付けられることにより、被検出部15aがセンサ16によって検出されるように構成されている。したがって、これら被検出片15とセンサ16とが作動杆検知装置17を形成しており、この作動杆検知装置17は、センサ16によって被検出部15aが検出されることにより、後述する電磁クラッチ20によるモータと駆動伝達系31との間の駆動を断つように制御する。
【0015】
図4に全体を符号20で示す電磁クラッチは、一方向のみに駆動するモータの出力軸に軸着されているモータ歯車(いずれも図示せず)と噛合する歯車部21aが形成されたアーマチュアハブ21と、このアーマチュアハブ21のボス部21bに軸線方向に移動自在でアーマチュアハブ21と一体的に回転するように嵌合するアーマチュア22と、このアーマチュア22の摩擦面と対向する摩擦面が形成され回転軸23と一体的に回転するロータ24と、このロータ24にアーマチュア22を磁気吸着させるための磁束を発生する励磁コイル25と、この励磁コイル25への通電を断った後でアーマチュア22をロータ24から離間させるためにアーマチュアハブ21に固着されたラバーマグネット(図示せず)とから概ね構成されている。
【0016】
したがって、励磁コイル25に通電することによりアーマチュア22とロータ24との互いの摩擦面が摩擦係合するため、モータの駆動は、歯車部21a、アーマチュアハブ21、アーマチュア22、ロータ24を介して第1の回転軸23に伝達され、回転軸23が、図2中時計方向に回転する。一方、励磁コイル25への通電を断つことにより、アーマチュア22とロータ24との互いの摩擦面による摩擦係合が解除されるため、モータの駆動は回転軸23へ伝達されることはない。
【0017】
回転軸23は、前板4と後板5とに軸受27,27を介して回転自在に支持されており、この回転軸23の端部には小径歯車28が軸着されている。29は前板4と後板5との間に横架された軸であって、この軸29には小径歯車28と噛合する大径歯車30が回転自在に支持されており、この大径歯車30の側部には、上記した移動体8のラック8bに噛合するピニオン30aが大径歯車30と同軸上に一体に設けられている。これら回転軸23、小径歯車28、大径歯車30、ピニオン30aは、図示を省略したモータの駆動を移動体8に伝達する駆動伝達系31を構成しており、この駆動伝達系31とモータとの間にモータの駆動を断接する電磁クラッチ20が介装されている。
【0018】
このような構成において、電磁クラッチ20の励磁コイル25に通電し、モータを駆動することにより、回転軸23が図2中時計方向に回転し、大径歯車30とピニオン30aが反時計方向に回転するから、ピニオン30aと噛合しているラック8bが形成された移動体8が、図5に示すように第1の圧縮コイルばね9の弾発力に抗して矢印A方向に移動する。したがって、作動杆11も移動体8と一体的に矢印A方向に移動し、作動杆11の他端部11bが側板2の貫通孔2aから外部に押し出される。
【0019】
図2において、32は側板2に取り付けられた保持解除装置としての電磁ソレノイドであって、進退自在なプランジャー32aが備えられている。33はストッパピンであって、上記したガイド部材13の連通孔13b内に臨むようにピン34を介してプランジャー32aに連結されており、上端部に係合部33aが設けられ、この係合部33aの上端面に作動杆11の周面と同じ曲率に形成された係合面33bが形成されている。このストッパピン33の下端部には鍔33cが一体に突設されており、この鍔33cと電磁ソレノイド32の上端面との間には、第2の圧縮コイルばね35が弾装されている。
【0020】
したがって、この第2の圧縮コイルばね35の弾発力によって、ストッパピン33は図中上方に押し上げられ、係合面33bが常時作動杆11の周面に当接している。このような構成において、電磁クラッチ20の励磁コイル25に通電するとともに、モータを駆動することにより、上記したように作動杆11が矢印A方向に移動し、図5に示すようにホームポジションに位置付けられると、ストッパピン33の係合部33aが作動杆11の係合溝11cに係合する。したがって、作動杆11は、第1の圧縮コイルばね9の蓄積された弾発力に抗して、ホームポジションの位置に保持される。
【0021】
次に、主に図6を用いて、このように構成された電動アクチュエータの押出し動作および引き込み動作について説明する。図6において、時間「T1」以前では、図5に示すように作動杆11がホームポジションに位置付けられている。すなわち、作動杆11が第1の圧縮コイルばね9の蓄積された弾発力に抗して矢印A方向に移動しており、ストッパピン33の係合部33aが作動杆11の係合溝11cに係合し、作動杆11の他端部11bが側板2の貫通孔2aから外部に押し出された状態が保持されている。したがって、作動杆検知装置17においては、センサ16によって被検出部15aが検出されている。
【0022】
この状態で、作動杆11の他端部11b側を筺体6内に引き込むために、時間「T1」において、起動信号(A)によって信号を送ることにより、電磁ソレノイド32が作動し、プランジャー32aが後退するため、ストッパピン33が第2の圧縮コイルばね35の弾発力に抗して図5中下方に移動する。このとき、起動信号(A)から信号が送られることにより、図示を省略したタイマーが作動して、時間「T1」からわずかな時間だけ経過した時間「T2」において、わずかな時間だけ電磁クラッチ20の励磁コイル25に通電が行われる。したがって、電磁クラッチ20によるモータの作動杆11への駆動伝達がわずかな時間だけ行われ、作動杆11が矢印A方向にわずかだけ移動する。このため、ストッパピン33の係合部33aと作動杆11の係合溝11cとの間が離間するため、これらの間に摩擦力が発生しなくなるからストッパピン33が円滑に下方に移動し、係合部33aと係合溝11cとの係合が解除される。
【0023】
係合部33aと係合溝11cとの係合が解除されると、これまで第1の圧縮コイルばね9に蓄積されていた弾発力によって、作動杆11が一気に矢印B方向へ移動し、作動杆11の他端部11c側は筺体6内に引き込まれる。このように、モータの駆動によって作動杆11を移動させることにより第1の圧縮コイルばね9に蓄積される弾発力を利用して、作動杆11を比較的速い速度で移動させることができるため、従来のように作動杆11を比較的速い速度で移動させるための大型の駆動装置を必要としないから、装置の小型化を図ることができ、かつ装置が安価となる。
【0024】
図6において、時間「T2」からわずかな時間だけ経過した時間「T3」において、電磁ソレノイド32への通電が断たれるため、ストッパピン33は第2の圧縮コイルばね35の弾発力によって、図3に示すように上方に押し上げられ、ストッパピン33の係合面33bが作動杆11の周面に当接した状態になる。また、この時間「T3」経過後は、作動杆11が図1に示すように矢印B方向へ移動した状態になるため、作動杆検知装置17において、センサ16による被検出部15aの検出が解除される。
【0025】
時間「T4」において、起動信号(B)から信号が送られることにより、電磁クラッチ20の励磁コイル25に通電されることにより、図示を省略したモータの駆動が電磁クラッチ20を介して回転軸23に伝達されるため、小径歯車28、大径歯車30、ピニオン30a、ラック8bを介して、移動体8が第1の圧縮コイルばね9の弾発力に抗して、図1中矢印A方向へ移動する。したがって、作動杆11も一体的に矢印A方向へ移動し、時間「T5」において作動杆11がホームポジションに位置付けられると、図5に示すように作動杆11の係合溝11cにストッパピン33の係合部33aが係合することにより、作動杆11がホームポジションの位置に保持される。このとき、作動杆検知装置17においては、センサ16によって被検出部15aを検出する。この作動杆検知装置17の検出によって、時間「T5」からわずかな時間だけ経過した時間「T6」において電磁クラッチ20の励磁コイル25への通電が断たれ、モータと駆動伝達系31との間の駆動が遮断される。
【0026】
なお、本実施の形態においては、第1の圧縮コイルばね9の蓄積された弾発力によって、作動杆11を筺体6内に引き込むように構成したが、第1の圧縮コイルばね9を移動体8と側板3との間に弾装させ、かつモータを一方向と反対方向の他方向に駆動するモータとすることにより、第1の圧縮コイルばね9の蓄積された弾発力によって、作動杆11を筺体6の外部に押し出すような構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る電動アクチュエータの一部を破断して示す平面図である。
【図2】本発明に係る電動アクチュエータの一部を破断して示す正面図である。
【図3】図2におけるIII-III 線断面図である。
【図4】図2におけるIV-IV 線断面図である。
【図5】本発明に係る電動アクチュエータにおいて、モータの駆動によって作動杆を筺体から押し出した待機状態を示す正面図である。
【図6】本発明に係る電動アクチュエータにおいて、電磁クラッチ、電磁ソレノイド、作動杆検知装置のタイムチャートと作動杆の動作状態との関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0028】
1…電動アクチュエータ、8…移動体、8b…ラック、9…第1の圧縮コイルばね(付勢部材)、11…作動杆、11c…係合溝、15…被検出片、16…センサ、17…作動杆検知装置、20…電磁クラッチ、30a…ピニオン、32…電磁ソレノイド(保持解除装置)、32a…プランジャー、33…ストッパピン、33a…係合部、35…第2の圧縮コイルばね。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置によって駆動される駆動伝達系と、この駆動伝達系を介して軸線方向に一方向へ移動する作動杆と、この作動杆の一方向への移動にしたがって当該作動杆を前記一方向と反対方向の他方向へ移動させる付勢力が蓄積される付勢部材と、この付勢部材の付勢力に抗して前記一方向へ所定位置まで移動した作動杆の位置を保持するストッパピンと、このストッパピンによる保持を解除する保持解除装置とを備え、前記駆動装置と前記駆動伝達系との間に、当該駆動装置の駆動を断接するクラッチを設けたことを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記保持解除装置によってストッパピンによる保持を解除しているとき、前記クラッチによって前記駆動装置の駆動を一時的に接続することを特徴とする請求項1記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記駆動装置の駆動によって前記作動杆が前記所定位置に位置付けられたことを検知する検知装置を備え、この検知装置の検知により前記クラッチが前記駆動装置と前記作動杆との間の駆動伝達を断つことを特徴とする請求項1または2記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記駆動装置を一方向のみに駆動するモータとし、前記駆動伝達系を歯車列とし、この歯車列の最終歯車に噛合し前記作動杆と一体的に移動するラックとを備え、前記保持解除装置をソレノイドとし、このソレノイドの進退自在なプランジャーに前記ストッパピンを連結したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項記載の電動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−71347(P2010−71347A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237635(P2008−237635)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000185248)小倉クラッチ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】