説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ラトル音の低減化を一層実現することができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】本発明の電動パワーステアリング装置99は、ラックバー1と、電動モータ80と、動力変換機構20とを備える。ラックバー1は操舵時の回転運動を長手方向の直線運動に変換して操舵角を変更する。電動モータ80は操舵トルクに基づいてモータシャフト70を回転駆動する。動力変換機構20は、モータシャフト70の回転運動をラックバー1の軸方向への直線運動に変換する。
この電動パワーステアリング装置99において、ラックバー1と動力変換機構20との間にはグリースが介在されたグリース溜まり60が設けられ、ラックバー1及び動力変換機構20の間には互いの相対移動時にグリース溜まり60内のグリースの流動抵抗を受ける凸部26a、26b、26c、26dが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の電動パワーステアリング装置が開示されている。この電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して操舵角を変更させるラックバーと、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、モータシャフトの回転運動をラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備えている。
【0003】
ラックバーは1本の棒状体である。このラックバーの一方側には、ステアリングシャフトの回転運動により回転するピニオンと噛み合うラック歯が軸方向に沿って形成されている。また、ラックバーの他方側には動力変換機構が設けられ、ラックバーと動力変換機構とは互いに相対移動することが可能とされている。
【0004】
このため、この電動パワーステアリング装置は、例えば、自動車に搭載されることにより、操縦者が操舵する際に、過大な操作力を必要とすることがなく、車輪の方向を変えることが可能となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−306154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車の快適性向上のニーズが近年ますます高くなっていることから、騒音についても一層の低減化が求められている。特に、自動車が石畳路等の凹凸路面を走行する際には車輪が振動し、その振動により電動パワーステアリング装置や車輪懸架装置等から生じる騒音(打音)に関しても、低減することが求められている。この騒音は、車内に侵入して搭乗者に不快に感知されるものであり、ラトル音と呼ばれる。
【0007】
このラトル音の原因の一つである電動パワーステアリング装置からのものについて、これまで各種の低減化が検討されているが、振動は様々な箇所から発生するため、改善策も個別対応とならざるを得なかった。このため、ラトル音の低減化について、一層の改善が求められていた。
【0008】
例えば、特許文献1の電動パワーステアリング装置は、ラックバーの振動が車体側へ伝達することを抑制するため、ラックバーを支承する軸受等をラックバーの振動の節に配置している。しかしながら、この電動パワーステアリング装置においてその効果を生じるのは、ラックバーが長手方向の特定位置に存在する場合等に限られ、この電動パワーステアリング装置はより根本的な解決をもたらすものではない。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ラトル音の低減化を一層実現することができる電動パワーステアリング装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して操舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記ラックバーと前記動力変換機構との間にはグリースが介在されたグリース溜まりが設けられ、該ラックバー及び該動力変換機構の間には互いの相対移動時に該グリース溜まり内の該グリースの流動抵抗を受ける凸部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の電動パワーステアリング装置は自動車に搭載され、下記のように、基本的な機能を発揮する。
【0012】
すなわち、操縦者がステアリングを操作すると、ステアリングシャフトが回転して、ラックバーが長手方向に直線運動する。このため、ラックバーに接続されたタイロッドを介して、車輪が操舵される。この際、電動モータは、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動し、動力変換機構がモータシャフトの回転運動をラックバーの軸方向への直線運動に変換する。このため、電動モータはラックバーの直線運動を補助する。このため、操縦者が操舵する際に、過大な操作力を必要とすることがなく、車輪の方向を変えることができる。
【0013】
このような電動パワーステアリング装置が搭載された自動車が石畳路等の凹凸路面を走行する際、車輪は凹凸路面にあわせて上下左右に細かく振動する。このため、車輪の振動は、タイロッドを介して、電動パワーステアリング装置のラックバーの両端部に伝達される。このため、ラックバーは車輪の振動によって、軸方向及び軸と垂直方向に加振されることとなる。
【0014】
ここで、本発明の電動パワーステアリング装置では、ラックバーと動力変換機構との間にグリースが介在されたグリース溜まりが設けられている。このため、ラックバーが軸方向及び軸と垂直方向に振動して、動力変換機構との間に互いに相対移動を生じると、グリース溜まり内のグリースは、双方に接触する部分が粘性抵抗によってひきずられながら流動する。このため、グリース溜まり内のグリースは、ラックバーの軸方向及び軸と垂直の方向の振動に対してある程度は減衰効果を発揮することとなる。
【0015】
しかしながら、この程度の減衰効果では上記ラトル音の低減には効果的ではないのである。この点、本発明の電動パワーステアリング装置では、ラックバー及び動力変換機構の間に互いの相対移動時にグリース溜まり内のグリースの流動抵抗を受ける凸部が設けられているのである。このため、この電動パワーステアリング装置では、ラックバーと動力変換機構との相対移動時に、凸部がグリースを掻き取るように動き、凸部がグリースの流動抵抗を受ける。こうして、この電動パワーステアリング装置は、ラックバーの軸方向及び軸と垂直の方向の振動に対してさらなる減衰効果を発揮することとなる。このため、電動パワーステアリング装置内の他の構成部材への振動の伝達が抑制されるため、電動パワーステアリング装置内からの騒音は抑制されることとなる。
【0016】
したがって、本発明の電動パワーステアリング装置は、ラトル音の低減化を一層実現することができる。
【0017】
なお、特開平10−226340号公報開示のステアリング装置は、流体等を利用してラックバーの振動を減衰させている。この点、このステアリング装置は、本発明と類似している。しかしながら、発明者の試験結果によれば、このステアリング装置はラトル音の低減効果が十分ではなかった。本発明は流体の種類及び流体の位置を特定するとともに、凸部を設けることによって効果を確実に生じしめたものである。
【0018】
グリースとしては、低温時に流動性が低く、かつ高温時に潤滑性を発揮するものが好ましい。
【0019】
凸部は、1つでもよいし、複数でもよい。グリースの流動抵抗を受ける凸部の数を増やすことにより、減衰効果を調整することができる。
【0020】
本発明の電動パワーステアリング装置において、前記動力変換機構は、前記ラックバーに螺旋状に形成された第1ねじ溝と、該第1ねじ溝にボールを介して係合する螺旋状の第2ねじ溝が形成され、前記モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構であり、
前記グリース溜まりは該第1ねじ溝における該ボールの転動及び循環を阻害しない領域であり、該ボールねじナットに前記凸部が設けられたものとし得る。
【0021】
この場合、ラックバーは、一方側にステアリングシャフトの回転運動により回転するピニオンと噛み合うラック歯が軸方向に沿って形成され、他方側に動力変換機構を構成する第1ねじ溝が螺旋状に形成される。
【0022】
ボールねじナットには、螺旋状の第2ねじ溝が形成される。第2ねじ溝は、ラックバーに形成された第1ねじ溝と軸芯を共有し、ボールを介して第1ねじ溝に係合される。
【0023】
ボールは、第1ねじ溝と第2ねじ溝とで形成された螺旋状の空間内を転動及び循環する。動力変換機構に設けられるボールの循環経路は、1つであっても複数であってもかまわない。
【0024】
このような構成の動力変換機構が本発明の電動パワーステアリング装置に組み込まれる場合、下記のように、基本的な機能を発揮する。
【0025】
すなわち、電動モータは、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動することにより、ボールねじナットを回転させる。このため、ボールねじナットに形成された第2ねじ溝から、ボールを介して、ラックバーに形成された第1ねじ溝に力が伝達され、回転運動が直線運動に変換される。このため、モータシャフトの回転運動は、動力変換機構であるボールねじ機構によりラックバーの軸方向への直線運動に変換され、ラックバーの直線運動を補助する。このため、この電動パワーステアリング装置は、上述のものと同様に基本機能を発揮することができる。
【0026】
そして、この電動パワーステアリング装置においても、上述した理由により、ラックバーは、車輪の振動によって軸方向及び軸と垂直方向に加振されることとなる。この際、ラックバーの振動は、ラックバーの第1ねじ溝から、ボールを介して、ボールねじナットの第2ねじ溝に伝達される。ラックバーの振動のうち、軸方向の振動は、ボールねじナットの回転方向の振動に変換される。このため、第1ねじ溝とボールねじナットとの間には、軸方向の相対移動だけでなく回転方向の相対移動が生じる。
【0027】
この場合、グリース溜まりは第1ねじ溝におけるボールの転動及び循環を阻害しない領域に設けられ、凸部はボールねじナットに設けられる。具体的には、流動性の低いグリースは、少なくとも第1ねじ溝に存在し、第1ねじ溝間の山にも存在し得る。このため、第1ねじ溝とボールねじナットとの間に生じる軸方向及び回転方向の相対移動により、グリース溜まり内のグリースは双方に接触する部分が粘性抵抗によってひきずられながら流動する。このため、グリース溜まり内のグリースは、ボールねじナットの軸方向及び回転方向の振動に対して減衰効果を発揮する。それに加えて、ボールねじナットに設けられた凸部は、第1ねじ溝とボールねじナットとの間の軸方向及び回転方向の相対移動時に、第1ねじ溝内におけるボールの転動及び循環を阻害しない領域に設けられたグリース溜まりのグリースを掻き取るように、第1ねじ溝に沿いながら動くこととなる。このため、凸部はグリース溜まり内のグリースの流動抵抗を受ける。このため、グリース溜まり内のグリースは、ボールねじナットの軸方向及び回転方向の振動に対してさらに減衰効果を発揮する。その結果、ボールねじナットの軸方向及び回転方向の振動の減衰効果は、ボールねじ機構を介して、ラックバーの軸方向及び軸と垂直の方向の振動に対しても減衰効果を発揮することとなる。このため、ラックバーの振動は減衰し、電動パワーステアリング装置内の他の構成部材への振動の伝達も抑制される。このため、電動パワーステアリング装置内からの騒音も、より確実に抑制されることとなる。このため、この電動パワーステアリング装置は、ラトル音の低減化を一層顕著に実現することができる。
【0028】
また、この場合、グリース溜まりは、動力変換機構を構成する第1ねじ溝を利用するので、新たにグリース溜まりを新設する必要がない。さらに、凸部をボールねじナットに設ける方法も、ボールねじナットの空いた面に凸部を付加するだけでよく、比較的容易に実施できる。
【0029】
なお、この電動パワーステアリング装置では、グリース溜まりや凸部によってラトル音を低減することができるので、動力変換機構であるボールねじ機構に関しては、ガタを無くすためにプリロードを過度に大きくする必要がなく、ガタの調整も通常通りでよい。このため、ボールねじ機構の動力変換性能も適正に発揮することができる。
【0030】
また、この場合、ボールねじ機構に多少のガタがあったとしても、グリース溜まりや凸部によって、ラックバーの軸方向の振動を減衰させることができるので、ボールねじ機構を構成する第1ねじ溝とボールと第2ねじ溝とによる衝突音も小さくすることができる。
【0031】
本発明の電動パワーステアリング装置において、前記モータシャフトは前記ラックバーを内部に挿通させる筒状のものであり、
前記ボールねじナットは、該モータシャフト内に設けられ、前記第2ねじ溝が形成された本体と、該モータシャフトの内周面に形成された雌ねじと螺合する雄ねじを外周面にもち、該モータシャフトの一端から螺入されて該本体を該モータシャフト内に固定するロックナットとからなり、
該ロックナットに前記凸部が設けられたものとし得る。
【0032】
この場合、モータシャフトは、ラックバーに形成された第1ねじ溝及びボールねじナットの本体に形成された第2ねじ溝と軸芯を共有する。つまり、ラックバーと、ボールねじナットが一体又は一体的に設けられたモータシャフトとは同軸構造となる。このため、この電動パワーステアリング装置は、ラックバーとモータシャフトとが同軸構造でないものと比較して、小型化できる。
【0033】
また、この電動パワーステアリング装置を組み立てる場合、モータシャフトにボールねじナットの本体を挿入した後、ロックナットをモータシャフトの一端から螺入することにより、ボールねじナットへの凸部の組み付けと、モータシャフトへのボールねじナットの組み付けとを同時にかつ容易に実施することができる。
【0034】
本発明の電動パワーステアリング装置において、前記凸部は、前記グリース溜まり内にオリフィスを形成する弁体とし得る。
【0035】
この場合、凸部である弁体は、ラックバーに形成される第1ねじ溝等の隣接する部材との間で、断面積が小さく、長さが短い流路であるオリフィスを形成する。このため、弁体は、上述のグリース溜まり内のグリースがオリフィスを通過することによる流動抵抗を受けることとなり、凸部の作用効果をより確実に奏することができる。例えば、粘度の低いグリースを使わざるを得ない場合には、オリフィスの断面積を小さくすれば、粘性抵抗の減少を流動抵抗の増加で補って、同様の減衰効果を発揮させることができる。
【0036】
本発明の電動パワーステアリング装置において、前記弁体は、温度により前記オリフィスを変更可能な材料からなるものとし得る。
【0037】
この場合、弁体は、形状記憶合金、形状記憶樹脂、バイメタル等の温度変化によって伸縮したり変形したりする材料からなるものである。このため、弁体は、電動パワーステアリング装置内の温度変化に応じて、オリフィスの断面積を増減させたり、流路の長さを伸縮させたりすることができる。このため、電動パワーステアリング装置内の温度変化によって、グリースの粘度が変化する場合でも、温度変化に応じて、オリフィスを最適なものに変化させることが可能となる。このため、広い温度域で、本発明の効果を確実に奏することが可能となる。
【0038】
なお、この場合の弁体に用いる材料として、所定の温度より高温にするとあらかじめ記憶させた形状に復元する形状記憶合金等を用いる場合、それ自体では、不可逆的な変形しかできないものが一般的であるので、低温になったときに再び、形状記憶合金等を変形させる別の材料等と組み合わせて使用することが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施例1を説明する。
【実施例1】
【0040】
まず、図1及び図2に示すように、実施例1の電動パワーステアリング装置99を説明する。このパワーステアリング装置99は、ラックバー1と、モータシャフト70と、電動モータ80と、動力変換機構20とを備えている。
【0041】
ラックバー1は1本の棒状体である。このラックバー1の一方側には、図示しないステアリングシャフトに一体に設けられたピニオン9と噛み合うラック歯11が軸方向に沿って形成されている。また、このラックバー1の他方側には、後述する動力変換機構20を構成する第1ねじ溝21が螺旋状に形成されている。このラックバー1は、図示しないステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して、両端部1L、1Rに接続された図示しないタイロッドを介して、図示しない車輪の操舵角を変更させることができるようになっている。
【0042】
モータシャフト70は、筒状であり、ラックバー1を内部に挿通させた状態で、パワーステアリング装置99のハウジング98内にベアリング96、97を介して回転可能に支承されている。このため、このモータシャフト70は、ラックバー1と軸芯を共有する。
【0043】
電動モータ80は、ハウジング98内に設置された電機子鉄心81(コイル、給電端子82)と、モータシャフト70の外筒面に一体に装着されたリングマグネット83とを有し、ラックバー1と軸芯を共有する。この電動モータ80は、図示しないステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいて、制御された電流が給電端子82から電機子鉄心81に給電され、電機子鉄心81とリングマグネット83との間の電磁力の作用により、モータシャフト70を回転駆動するものである。
【0044】
動力変換機構20は、図3に拡大して示すように、ラックバー1に螺旋状に形成された第1ねじ溝21と、ボール22と、螺旋状の第2ねじ溝23が形成されたボールねじナット24、25とを有するボールねじ機構である。
【0045】
ボール22は、第1ねじ溝21と第2ねじ溝23とで形成された螺旋状の空間内を転動及び循環するものであり、第1ねじ溝21と第2ねじ溝23とを係合している。
【0046】
ボールねじナット24、25は、本体24とロックナット25とからなる。本体24は円筒状であり、その内周面には螺旋状の第2ねじ溝23が形成されている。本体24の外周面とモータシャフト70とは嵌合構造をなしており、本体24はモータシャフト70に挿入されて、所定の位置に収まるようにされている。ロックナット25は、本体24をモータシャフト70に固定するためのものであり、ロックナット25の外周面に雄ねじ25aが加工され、モータシャフト70の内周面には雌ねじ25bが加工され、これら雄ねじ25aと雌ねじ25bとは各々螺合するようになっている。このため、本体24がモータシャフト70に挿入された後に、ロックナット25をモータシャフト70の一端から螺入することにより、本体24をモータシャフト70に固定することができる。
【0047】
ラックバー1に螺旋状に形成された第1ねじ溝21及びその山には、図3(b)に示すように、流動性の低いグリースが塗りつけられることにより、グリース溜まり60が形成されている。このグリース溜まり60は、図3(b)に示す状態で、図1に示す第1ボールねじ溝21内の端から端まで形成されている。
【0048】
また、ロックナット25の内周面には、図4(a)に示すように、4つの凸部として、弁体26a、26b、26c、26dが設けられている。弁体26a、26b、26c、26dは、図4(b)及び(c)に示すように、ラックバー1に形成された第1ねじ溝21のねじ溝1周分に沿うように、90°づつ位相をずらして、螺旋状にロックナット25の内周面に設けられている。各弁体26a、26b、26c、26dは、図3(b)に示すように、第1ねじ溝21とともに、オリフィス61を形成している。このため、弁体26a、26b、26c、26dは、ラックバー1及び動力変換機構20の相対移動時に、グリース溜まり60内のグリースがオリフィス61を通過することによる流動抵抗を受けることができるようにされている。
【0049】
このような構成である動力変換機構20は、ラックバー1と同軸構造となっており、電動モータ80によりモータシャフト70が回転駆動されると、モータシャフト70に一体に設けられたボールねじナット24、25も回転する。このため、ボールねじナット24、25の本体24に形成された第2ねじ溝23も回転し、ボール21を介して、ラックバー1に形成された第1ボールねじ溝21に軸方向の駆動力を伝達する。こうして、動力変換機構20は、モータシャフト70の回転運動をラックバー1の軸方向への直線運動に変換することができる。
【0050】
こうして、この電動パワーステアリング装置99は、ラックバー1の一方に設けられたラック歯11により、ステアリングシャフトの回転を長手方向の直線運動に変換することが可能とされ、他方側に設置された動力変換機構20により、操舵トルクに応じて、ラックバー1の直線運動を補助することができるようになっている。
【0051】
このため、この電動パワーステアリング装置99は、自動車に搭載されることにより、操縦者が操舵する際に、過大な操作力を必要とすることがなく、ラックバー1を直線運動させることができる。このため、ラックバー1の両端部1L、1Rに接続された図示しないタイロッドを介して、図示しない車輪の方向を変えることが可能となっている。
【0052】
このような構成である電動パワーステアリング装置99は自動車に搭載され、その自動車が石畳路等の凹凸路面を走行する際、車輪は凹凸路面にあわせて上下左右に細かく振動する。このため、車輪の振動は、図示しないタイロッドを介して、電動パワーステアリング装置99のラックバー1の両端部1L、1Rに伝達される。このため、ラックバー1は、車輪の振動によって、軸方向及び軸と垂直方向に加振されることとなる。
【0053】
このラックバー1の振動は、ラックバー1に形成された第1ねじ溝21から、ボール22を介して、ボールねじナット24、25に形成された第2ねじ溝23に伝達される。この際、ラックバー1の振動のうち、軸方向の振動はボールねじナット24、25の回転方向の振動に変換される。このため、第1ねじ溝21とボールねじナット24、25との間には、軸方向の相対移動だけでなく回転方向の相対移動が生じる。
【0054】
そして、第1ねじ溝21とボールねじナット24、25との間に生じる軸方向及び回転方向の相対移動により、グリース溜まり60内のグリースは双方に接触する部分が粘性抵抗によってひきずられながら流動する。このため、グリース溜まり60内のグリースは、ボールねじナット24、25の軸方向及び回転方向の振動に対して減衰効果を発揮する。それに加えて、ボールねじナット24、25に設けられた弁体26a、26b、26c、26dは、第1ねじ溝21とボールねじナット24、25との間の軸方向及び回転方向の相対移動時に、第1ねじ溝21内におけるボール22の転動及び循環を阻害しない領域に設けられたグリース溜まり60のグリースを掻き取るように、第1ねじ溝21に沿いながら動くこととなる。このため、弁体26a、26b、26c、26dは、グリース溜まり60内のグリースの流動抵抗を受ける。このため、グリース溜まり60内のグリースは、ボールねじナット24、25の軸方向及び回転方向の振動に対してさらに減衰効果を発揮する。
【0055】
特に、実施例1の電動パワーステアリング装置99において、凸部26a、26b、26c、26dは、グリース溜まり60内にオリフィス61を形成する弁体26a、26b、26c、26dである。このため、弁体26a、26b、26c、26dは、グリース溜まり60内のグリースがオリフィス61を通過することによる流動抵抗を受け、凸部26a、26b、26c、26dの作用効果をより確実に奏することができている。
【0056】
その結果、ボールねじナット24、25の軸方向及び回転方向の振動の減衰効果は、動力変換機構20を介して、ラックバー1の軸方向及び軸と垂直方向の振動に対しても減衰効果を発揮することができる。このため、ラックバー1の振動は減衰し、電動パワーステアリング装置99内の他の構成部材への振動の伝達も抑制される。このため、電動パワーステアリング装置99内からの騒音は、抑制される。
【0057】
したがって、実施例1の電動パワーステアリング装置99は、ラトル音の低減化を一層実現することができている。
【0058】
また、この電動パワーステアリング装置99において、グリース溜まり60は、動力変換機構20を構成する第1ねじ溝21を利用しているので、新たにグリース溜まりを新設する必要がない。さらに、凸部26a、26b、26c、26dをボールねじナット24、25に設ける方法も、ボールねじナット24、25の空いた面に凸部を付加するだけであるので、比較的容易に実施できており、コスト削減に寄与する。
【0059】
さらに、実施例1の電動パワーステアリング装置99では、ラックバー1と、ボールねじナット24、25が一体に設けられたモータシャフト70とが同軸構造となっている。そして、この電動パワーステアリング装置99を組み立てる場合、モータシャフト70にボールねじナット24、25の本体24を挿入した後、ロックナット25をモータシャフト70の一端から螺入することにより、ボールねじナット24、25への凸部26a、26b、26c、26dの組み付けと、モータシャフト70へのボールねじナット24、25の組み付けとを同時にかつ容易に実施することができている。
【実施例2】
【0060】
実施例2の電動パワーステアリング装置99は、実施例1の電動パワーステアリング装置99に対して、弁体26a、26b、26c、26dを構成する材料が異なる。その他は全て実施例1と同様である。
【0061】
弁体26a、26b、26c、26dは、高温になると膨張する性質を有するバイメタルで構成され、ラックバー1及び動力変換機構20の周辺温度が通常温度より高温になるについて膨張して、オリフィス61の断面積を小さくすることができるものである。
【0062】
各弁体26a、26b、26c、26dを適用した電動パワーステアリング装置99では、電動パワーステアリング装置99内の温度が通常温度より高温になるにつれて、オリフィス61の断面積が減少するため、温度上昇によるグリースの粘度低下に応じて、オリフィスを最適な大きさに変化させることができる。このため、広い温度域で、本発明の効果を確実に奏することができている
【0063】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1,2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は電動パワーステアリング装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1の電動パワーステアリング装置の概略断面図である。
【図2】実施例1の電動パワーステアリング装置の拡大断面図である。
【図3】実施例1の電動パワーステアリング装置に係り、(a)はボールねじナットを示す要部拡大断面図であり、(b)は、ロックナット及び弁体を示す要部拡大断面図である。
【図4】実施例1の電動パワーステアリング装置に係り、(a)は弁体が設けられたボールねじナット単体の正面図であり、(b)は、そのA−A断面図であり、(c)はそのB−B断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1…ラックバー
20…動力変換機構
21…第1ねじ溝
22…ボール
23…第2ねじ溝
24、25…ボールねじナット(24…本体、25…ロックナット)
26a、26b、26c、26d…凸部(弁体)
60…グリース溜まり
61…オリフィス
70…モータシャフト
80…電動モータ
99…電動パワーステアリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して操舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記ラックバーと前記動力変換機構との間にはグリースが介在されたグリース溜まりが設けられ、該ラックバー及び該動力変換機構の間には互いの相対移動時に該グリース溜まり内の該グリースの流動抵抗を受ける凸部が設けられていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記動力変換機構は、前記ラックバーに螺旋状に形成された第1ねじ溝と、該第1ねじ溝にボールを介して係合する螺旋状の第2ねじ溝が形成され、前記モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構であり、
前記グリース溜まりは該第1ねじ溝における該ボールの転動及び循環を阻害しない領域であり、該ボールねじナットに前記凸部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記モータシャフトは前記ラックバーを内部に挿通させる筒状のものであり、
前記ボールねじナットは、該モータシャフト内に設けられ、前記第2ねじ溝が形成された本体と、該モータシャフトの内周面に形成された雌ねじと螺合する雄ねじを外周面にもち、該モータシャフトの一端から螺入されて該本体を該モータシャフト内に固定するロックナットとからなり、
該ロックナットに前記凸部が設けられていることを特徴とする請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記凸部は、前記グリース溜まり内にオリフィスを形成する弁体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記弁体は、温度により前記オリフィスを変更可能な材料からなることを特徴とする請求項4記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−131038(P2006−131038A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320827(P2004−320827)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】