説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ハンドル戻し状態時における、快適な操舵フィーリングを得ることのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【解決手段】操舵トルクが所定値1より大きく、操舵角速度が所定値2(ほぼゼロ値)より小さい場合には、ハンドルが保舵状態であると判定する。そして、ハンドル戻し制御時に、ハンドルが保舵状態にあると判定した場合には、ハンドル戻し制御のフィードバック制御の出力値をゼロとし、操舵トルクの増大を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置において、低速走行時のハンドル戻り特性を改善するために、ハンドル戻し状態時に、車速及び操舵角速度に応じたハンドル戻し電流を出力して、ハンドルが戻る方向にアシストを行なうのが一般的となっている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置では、まず、操舵角及び車速に基づいてハンドルを中立位置へ戻すための目標操舵角を設定し、次に目標操舵角と操舵角の偏差及び車速に基づいて目標操舵角速度を設定している。そして、目標操舵角速度と操舵角速度の偏差に基づいて設定した目標収斂電流を、アシスト用モータに出力することによって、ハンドルを中立位置へ戻している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−120745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このようなハンドル戻し状態時に、ハンドルを保舵する場合がある。
ハンドル戻し状態では、操舵トルクと車速から一般的に算出されるアシストトルクと同じ方向にハンドル戻しトルクが働く。その結果、ハンドル戻し状態時に、ハンドルを保舵すると、操舵トルクが大きくなってしまい、操舵フィーリングが低下する場合がある。この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、特に、ハンドル戻し状態時における、快適な操舵フィーリングを得ることのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両の操舵系に操舵補助力を付与するモータ(12)と、操舵角度を検出する操舵角センサ(17)と、操舵トルクを検出するトルクセンサ(15)と、前記操舵角度から目標操舵角速度を演算する目標操舵角速度演算手段(マイコン、21)と、前記操舵角度を微分した操舵角速度と、前記目標操舵角速度演算手段から演算された目標操舵角速度に前記操舵角速度が追従するようにしたフィードバック制御を構成するハンドル戻し制御(マイコン、21)とを、備えた電動パワーステアリング装置(1)において、
前記操舵トルクと前記操舵角速度からハンドルの保舵を判定するハンドル保舵判定手段(マイコン、21)と、前記ハンドル保舵判定手段(マイコン、21)がハンドルの保舵を判定した場合には、前記ハンドル戻し制御(マイコン、21)のフィードバック制御の出力値をゼロにすること、を要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、ハンドル戻し制御時に、ハンドルが保舵状態にあると判定した場合には、ハンドル戻し制御のフィードバック制御の出力値をゼロとなるようにした。その結果、操舵トルクの増大を防止できるので、快適な操舵フィーリングを得ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記ハンドル保舵判定手段(マイコン、21)は、前記操舵トルクが所定値1より大きく、前記操舵角速度が所定値2より小さい場合には、ハンドルが保舵状態であると判定すること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、操舵トルクが所定値1より大きく、操舵角速度が所定値2(ほぼゼロ値)より小さい場合には、ハンドルが保舵状態であると判定する。その結果、ハンドル戻し制御時のハンドル保舵状態を正確に判定できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハンドル戻し状態時のハンドル保舵時に、操舵トルクの増大を防止できるので、快適な操舵フィーリングを得ることのできる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】EPSの電気的構成を示すブロック図。
【図3】本発明の実施形態のハンドル戻し制御部における保舵判定部の処理手順フローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、コラム型の電動パワーステアリング装置1(以下、EPSという)に具体化した本発明の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角が変更される。
【0014】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ13と、EPSアクチュエータ13の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0015】
本実施形態のEPSアクチュエータ13は、コラム型のEPSアクチュエータであり、その駆動源であるモータ12は、減速機構14を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。EPSアクチュエータ13は、モータ12の回転を減速機構14により減速してコラムシャフト8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する。
【0016】
ECU11には、車速センサ16、トルクセンサ15、操舵角センサ17及びモータ回転角センサ18が接続されている。ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、車速V、操舵トルクτ、操舵角θs及びモータ回転角θmを検出する。例えば、本実施形態のトルクセンサ15は、一対のレゾルバが図示しないトーションバーの両端に設けられたツインレゾルバ型のトルクセンサである。また、ECU11は、これらの検出される各状態量に基づいて目標アシスト力を演算し、モータ12への駆動電力の供給を通じて、EPSアクチュエータ13の作動、即ち、操舵系に付与するアシスト力を制御する。
【0017】
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン21と、そのモータ制御信号に基づいて、モータ12に駆動電力を供給する駆動回路40とを備えて構成されている。
【0018】
本実施形態では、ECU11には、モータ12に通電される実電流値Imを検出するための電流センサ41、及びモータ12の回転角θmを検出するための回転角センサ18(図1参照)が接続されている。そして、マイコン21は、上記各車両状態量、並びにこれら電流センサ41及びモータ回転角センサ18の出力信号に基づき検出されたモータ12の実電流値Im及びモータ回転角θmに基づいて、駆動回路40に出力するモータ制御信号を生成する。
【0019】
尚、以下に示す各制御ブロックは、マイコン21が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン21は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
【0020】
詳述すると、マイコン21は、モータ12に対する電力供給の目標値である電流指令値Ias*を演算する電流指令値演算部22と、電流指令値演算部22により演算された電流指令値Ias*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部31とを備えている。
【0021】
電流指令値演算部22には、上記アシスト力目標値の基礎成分としての基礎アシスト制御量Ias**を演算する基本アシスト制御部24が設けられており、本実施形態では、この基本アシスト制御部24には、車速V及び操舵トルクτが入力されるようになっている。そして、基本アシスト制御部24は、当該操舵トルクτの絶対値が大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力を付与すべき旨の基礎アシスト制御量Ias**を演算する構成となっている。
【0022】
また、本実施形態では、上記電流指令値演算部22には、車速V、操舵角θs及びモータ回転角速度ωmに基づいてハンドル戻し制御量Iah*を演算するハンドル戻し制御部25が設けられている。そして、本実施形態の電流指令値演算部22は、ハンドル戻しを行なった場合には、このハンドル戻し制御部25が演算するハンドル戻し制御量Iah*に基づく値を、上記基礎アシスト制御量Ias**に加算して、電流指令値Ias*としてモータ制御信号出力部31に出力する構成となっている。
【0023】
詳述すると、本実施形態のハンドル戻し制御部25には、操舵角θsと、車速V及びモータ12の回転角θmの微分値であるモータ回転角速度ωmが入力されるようになっている。そして、ハンドル戻し制御部25は、これらの各状態量に基づいて、そのハンドル戻し制御量Iah*の演算を実行する。尚、このハンドル戻し制御量Iah*の演算の詳細については、例えば、上記特許文献1に記載の内容を参照されたい。
【0024】
また、本実施形態の電流指令値演算部22には、切替制御部26が設けられている。
ハンドル戻し制御部25において演算されたハンドル戻し制御量Iah*は、ハンドルの保舵状態を判定する保舵判定部28の出力する保舵判定フラグFLG1とともに、この切替制御部26に入力される。
【0025】
そして、同切替制御部26は、その入力される保舵判定フラグFLG1が保舵判定を示すものである場合には、接点26cと接点26bを接続し、上記基本アシスト制御量Ias**を電流指令値Ias*として出力する構成となっている。
【0026】
一方、同切替制御部26は、その入力される保舵判定フラグFLG1がハンドル戻し制御を示すものである場合には、接点26cと接点26aを接続し、上記基本アシスト制御量Ias**に上記ハンドル戻し制御量Iah*を加算した値を電流指令値Ias*として出力する構成となっている。
【0027】
一方、モータ制御信号出力部31には、この電流指令値演算部22が出力する電流指令値Ias*とともに、電流センサ41により検出された実電流値Im、及び回転角センサ18により検出されたモータ12の回転角θmが入力される。そして、モータ制御信号出力部31は、この電流指令値Ias*に実電流値Imを追従させるべくフィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を演算する。
【0028】
具体的には、本実施形態では、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力の供給により回転するブラシレスモータが用いられている。そして、モータ制御信号出力部31は、実電流値Imとして検出されたモータ12の相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q座標系のd、q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
【0029】
即ち、電流指令値Ias*は、q軸電流指令値としてモータ制御信号出力部31に入力され、モータ制御信号出力部31は、回転角センサ18により検出された回転角θmに基づいて相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q変換する。また、モータ制御信号出力部18は、そのd、q軸電流値及びq軸電流指令値に基づいてd、q軸電圧指令値を演算する。そして、そのd、q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を演算し、当該相電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成する。
【0030】
このようにして生成されたモータ制御信号は、マイコン21から駆動回路40へと出力され、同駆動回路40により当該モータ制御信号に基づく三相の駆動電力がモータ12へと供給される。そして、その操舵トルクτに基づくアシスト力目標値としての電流指令値Ias*に相当するモータトルクが発生することにより、当該アシスト力目標値に対応するアシスト力が操舵系に付与される構成となっている。
【0031】
次に、上記のように構成されたハンドル戻し演算部23における保舵判定部28の処理手順について説明する。
図3のフローチャートに示すように、マイコン21は、操舵トルクτを読み込む(ステップS101)。次に、操舵角速度ωsを読み込む(ステップS102)。そして、操舵トルクτの絶対値が所定の操舵トルク値τ1以上か否かを判定する(ステップS103)。
【0032】
そして、操舵トルクτの絶対値が所定の操舵トルク値τ1以上の場合(|τ|≧τ1、
ステップS103、YES)、モータ回転角速度ωmの絶対値が所定のモータ回転角速度ωso以下か否かを判定する(ステップS104)。そして、モータ回転角速度ωmの絶対値が所定のモータ回転角速度ωso以下の場合(|ωm|≦ωso、ステップS104、YES)、保舵判定フラグFLG1に「1」を書き込み(ステップS105)、ステップS106に推移する。ステップS106では、切替制御部26が、接点26cと接点26bを接続して、処理を終わる。即ち、ハンドル戻し状態時における保舵状態であるので、基本アシスト制御量Ias**にハンドル戻し制御量Iah*を加算しない(ハンドル戻し制御の出力値はゼロ)。
【0033】
また、操舵トルクτの絶対値が所定の操舵トルク値τ1より小さい場合(|τ|<τ1、ステップS103、NO)、又は、モータ回転角速度ωmの絶対値が所定のモータ回転角速度ωsoより大きい場合(|ωm|>ωso、ステップS104、NO)、保舵判定フラグFLG1に「0」を書き込み(ステップS107)、ステップS108に推移する。ステップS108では、切替制御部26が、接点26cと接点26aを接続して、処理を終わる。即ち、ハンドル戻し状態時における保舵状態ではないので、基本アシスト制御量Ias**にハンドル戻し制御量Iah*を加算して、操舵トルクを減少させる。
【0034】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)操舵トルクが所定値1より大きく、操舵角速度が所定値2(ほぼゼロ値)より小さい場合には、ハンドルが保舵状態であると判定する。そして、ハンドル戻し制御時に、ハンドルが保舵状態にあると判定した場合には、ハンドル戻し制御のフィードバック制御の出力値をゼロとなるようにした。
【0035】
その結果、ハンドル戻し制御時のハンドル保舵状態を正確に判定できるとともに、ハンドル戻し状態時のハンドル保舵時に、操舵トルクの増大を防止できるので、快適な操舵フィーリングを得ることができる。
【0036】
・上記実施形態では、本発明を、所謂コラム型のEPS1に具体化したが、本発明は、所謂ピニオン型やラックアシスト型のEPSに適用してもよい。
【0037】
・上記実施形態では、本発明を、ブラシレスモータを駆動源とするEPSに具体化したが、本発明は、ブラシ付の直流モータを駆動源とするEPSに適用してもよい。
【0038】
・上記実施形態では、ハンドル戻し制御時に、ハンドルが保舵状態にあると判定した場合には、ハンドル戻し制御のフィードバック制御の出力値をゼロとなるようにしたが、ハンドル戻し制御のフィードバック制御の出力値を漸減するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、
6:タイロッド、7:転舵輪、8:コラムシャフト、
9:インターミディエイトシャフト、10:ピニオンシャフト、11:ECU、
12:モータ、13:EPSアクチュエータ、14:減速機構、
15:トルクセンサ、16:車速センサ、17:操舵角センサ、
18:モータ回転角センサ、21:マイコン、22:電流指令値演算部、
23:ハンドル戻し演算部、24:基本アシスト制御部、
25:ハンドル戻し制御部、26:切替制御部、28:保舵判定部、
31:モータ制御信号出力部、40:駆動回路、41:電流センサ、
V:車速、τ:操舵トルク、θs:操舵角、θm:モータ回転角、
ωm:モータ回転角速度、Im:実電流値、Ias*:電流指令値、
Ias**:基礎アシスト制御量、Iah*:ハンドル戻し制御量、
FLG1:保舵判定フラグ、26a、26b、26c:接点、
τ1:所定の操舵トルク値、ωso:所定のモータ回転角速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵系に操舵補助力を付与するモータと、
操舵角度を検出する操舵角センサと、
操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記操舵角度から目標操舵角速度を演算する目標操舵角速度演算手段と、
前記操舵角度を微分した操舵角速度と、
前記目標操舵角速度演算手段から演算された目標操舵角速度に前記操舵角速度が追従するようにしたフィードバック制御を構成するハンドル目標戻し制御とを、備えた電動パワーステアリング装置において、
前記操舵トルクと前記操舵角速度からハンドルの保舵を判定するハンドル保舵判定手段と、前記ハンドル保舵判定手段がハンドルの保舵を判定した場合には、前記ハンドル目標戻し制御のフィードバック制御の出力値をゼロにすることを特徴とした電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記ハンドル保舵判定手段は、前記操舵トルクが所定値1より大きく、前記操舵角速度が所定値2より小さい場合には、ハンドルが保舵状態であると判定することを特徴とした請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−166769(P2012−166769A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31560(P2011−31560)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】