説明

電動パワーステアリング装置

【課題】トルクセンサの異常時においても、継続して安定したステアリング操作を行なうことのできる電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】操舵トルクセンサの異常が検出された場合には、操舵トルクセンサに替えて、横Gに基づくアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させ、駆動電力の供給を実行することによりアシスト制御を継続する。その結果、横Gに基づくアシスト力目標値を発生させているので、路面状況の変化等を運転者に十分伝えることができ、操舵フィーリングの向上が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のパワーステアリング装置には、モータを駆動源とする電動パワーステアリング装置(EPS)がある。通常、このようなEPSでは、トルクセンサにより、その操舵系に入力される操舵トルクが検出されており、該操舵トルクに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力目標値が演算される。そして、そのアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させるべく、モータに対する駆動電力の供給を通じて、その作動が制御される構成となっている。
【0003】
ところが、このような構成では、そのトルクセンサに異常が生じた場合には、上記操舵トルクに基づくパワーアシスト制御は実行できなくなる。そこで、従来、ステアリングセンサにより検出される操舵角に基づいて、その代替的なアシスト力目標値を演算する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、その操舵角及び操舵方向の判定結果に基づく、アシスト力目標値の算出にヒステリシス特性を持たせる方法が開示されている。また、特許文献2には、操舵角に対応する係数を操舵速度に乗ずることにより、そのアシスト力目標値を演算する方法が開示されている。そして、これにより、トルクセンサ異常時においても、好適にアシスト力を付与することが可能な構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−338562号公報
【特許文献2】特開2004−114755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来の方法は、何れも上記操舵トルクに基づくアシスト力目標値を、代替する目標値を演算する位置づけにあり、トルクセンサによる実トルクの検出ができない状態になることで、路面状況の変化等が適切にアシスト力に反映されないという問題があり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、トルクセンサの異常時においても、継続して安定したステアリング操作を行なうことのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータ(12)を駆動源として操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置(10)と、前記モータ(12)に対する駆動電力の供給を通じて、前記操舵力補助装置(10)の作動を制御する制御手段(11)と、車両の横Gを検出する横Gセンサ(18)と、前記操舵系に入力される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ(14)と、前記操舵トルクセンサ(14)の異常を検出する異常検出手段(21)と、を備え、前記制御手段(11)は、前記操舵トルクに基づくアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させるべく、前記駆動電力の供給を実行するとともに、前記操舵トルクセンサ(14)の異常が検出された場合には、前記操舵トルクセンサ(14)に替えて、前記横Gに基づくアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させるべく、前記駆動電力の供給を実行すること、を要旨とする。
【0009】
請求項1の電動パワーステアリング装置によれば、操舵トルクセンサの異常が検出された場合には、操舵トルクセンサに替えて、横Gに基づくアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させ、駆動電力の供給を実行することによりアシスト制御を継続することができる。
また、横Gに基づくアシスト力目標値を発生させているので、路面状況の変化等を適切にアシスト力に反映することができ、アシストの過不足防止が図れる。
【0010】
これにより、請求項1の電動パワーステアリング装置は、操舵トルクセンサの異常が検出された場合には、操舵トルクセンサに替えて、横Gに基づくアシスト力目標値を生成することとしたので、路面状況の変化等を適切にアシスト力に反映することができ、アシストの過不足を防止することができる。その結果、より安定的にアシスト力付与を継続することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、左右輪のタイヤ荷重を検出する左右輪タイヤ荷重センサ(18,19)と、前記左右輪のタイヤ荷重の大きさによって車両の傾斜を演算する車両傾斜演算手段(21)と、前記制御手段(11)は、前記操舵トルクセンサ(14)の異常が検出された場合には、前記操舵トルクセンサ(14)に替えて、前記横Gに基づくアシスト力目標値と、前記車両傾斜演算手段(21)から算出された補正アシスト力を加算することによって、前記アシスト力目標値を補正し、前記駆動電力の供給を実行すること、を要旨とする。
【0012】
請求項2の電動パワーステアリング装置によれば、操舵トルクセンサの異常が検出された場合には、操舵トルクセンサに替えて、横Gに基づくアシスト力目標値に、左右輪のタイヤ荷重の大きさによって車両の傾斜を演算した後算出される補正アシスト力を加算することによって、アシスト力目標値を補正する。そのため、車両が傾斜した状態で操舵されている場合には、車両が傾斜した状態と反対方向のアシスト力が働く。その結果、継続して安定したステアリング操作を行なうことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、車速を検出する車速センサ(15)と、前記車速の大きさによってゲインを決定するゲイン決定手段(21)と、前記制御手段(11)は、前記操舵トルクセンサ(14)の異常が検出された場合には、前記操舵トルクセンサ(14)に替えて、前記横Gに基づくアシスト力目標値と、前記車両傾斜演算手段(21)から算出された補正アシスト力を加算することによって、前記アシスト力目標値を補正した値に、前記ゲイン決定手段(21)から決定されたゲインを乗算することによって、前記アシスト力目標値を補正した値を更に補正し、前記駆動電力の供給を実行すること、を要旨とする。
【0014】
請求項3の電動パワーステアリング装置によれば、操舵トルクセンサの異常が検出された場合には、操舵トルクセンサに替えて、横Gに基づくアシスト力目標値と、車両傾斜演算手段から算出された補正アシスト力を加算することによって、アシスト力目標値を補正する。そして、補正されたアシスト力目標値に、ゲイン決定手段から決定されたゲインを乗算することによって、もう一段の補正を行なう。
【0015】
ゲイン決定手段は、車速の大きさによって決定される。即ち、車速の大きさが零近傍では、ゲインの大きさは「0」であり、車速の大きさが所定値以上の場合には、ゲインは「1」となる。車両が停止付近状態にもかかわらず、横Gが出力するような場合には、アシスト力が発生し、ステアリングがセルフステア状態になる。請求項3の電動パワーステアリング装置によれば、車速の大きさが零近傍では、ゲインの大きさを「0」としているので、乗算されるアシスト力目標値も「0」となり、ステアリングがセルフステア状態になることを防止できる。
その結果、継続して安定したステアリング操作を行なうことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トルクセンサの異常時においても、継続して安定したステアリング操作を行なうことのできる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】EPSの制御ブロック図。
【図3】本発明の実施形態の代替アシスト制御量部の構成図。
【図4】本発明の実施形態の横G/代替アシスト制御量のマップ図。
【図5】本発明の実施形態の車両の傾斜演算部の処理手順を示すフローチャート図。
【図6】本発明の実施形態の車速/ゲインのマップ図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。
【0019】
尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0020】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0021】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、ブラシレスDCモータが採用されている。但し、モータ12には、ブラシ付きの直流モータを採用しても勿論よい。そして、EPSアクチュエータ10は、モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0022】
一方、ECU11には、トルクセンサ14、車速センサ15、横Gセンサ18及び右輪タイヤ荷重センサ19と左輪タイヤ荷重センサ20が接続されている。
そして、ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、操舵トルクτ、車速V、横G及び右輪タイヤ荷重Wrと左輪タイヤ荷重Wlを検出する。
【0023】
本実施形態のトルクセンサ14は、そのセンサ素子(14a、14b)に磁気検出素子(ホールIC)を用いた磁気式のトルクセンサである。本実施形態では、コラムシャフト3aの途中、詳しくは、上記EPSアクチュエータ10を構成する減速機構13よりもステアリング2側にトーションバー16が設けられている。そして、本実施形態のトルクセンサ14は、このトーションバー16の捩れに基づいて、ステアリングシャフト3を介して伝達される操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力するセンサ素子14a、14bを備えて構成されている。
【0024】
尚、このようなトルクセンサは、例えば、トーションバー16の捩れに基づき磁束変化が生ずるセンサコア(図示略)の外周に、二つの磁気検出素子(本実施形態ではホールIC)を上記各センサ素子14a、14bとして配置することにより形成することが可能である。
【0025】
即ち、回転軸であるステアリングシャフト3のトルク入力によりトーションバー16が捩れることで、その各センサ素子14a、14bを通過する磁束が変化する。そして、本実施形態のトルクセンサ14は、その磁束変化に伴い変動する各センサ素子14a、14bの出力電圧を、それぞれセンサ信号Sa,SbとしてECU11に出力する構成となっている。
【0026】
本実施形態では、トルク検出手段としてのECU11は、このトルクセンサ14、詳しくはその出力要素としての各センサ素子14a、14bが出力する各センサ信号Sa,Sbに基づいて操舵トルクτを検出する。そして、ECU11は、その操舵トルクτ及び車速センサ15により検出される車速Vに基づき目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力をEPSアクチュエータ10に発生させるべく、その駆動源であるモータ12に駆動電力を供給することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている。
【0027】
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン21と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12に駆動電力を供給する駆動回路22とを備えている。
【0028】
本実施形態では、ECU11には、モータ12に通電される実電流値Iを検出するための電流センサ27、及びモータ12の回転角θmを検出するための回転角センサ17が接続されている。そして、マイコン21は、上記各車両状態量、並びにこれら
電流センサ27及び回転角センサ17の出力信号に基づき、検出されたモータ12の
実電流値I及び回転角θmに基づいて、駆動回路22に出力するモータ制御信号を生成する。
【0029】
尚、以下に示す各制御ブロックは、マイコン21が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン21は、所定のサンプリング周期で、上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
【0030】
詳述すると、マイコン21は、モータ12に対する電力供給の目標値である電流指令値I*を演算する電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値I*に基づいて、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部24とを備えている。
【0031】
電流指令値演算部23には、上記アシスト力目標値の基礎成分としての基本アシスト制御量Ias*を演算する基本アシスト制御部26が設けられており、本実施形態では、この基本アシスト制御部26には、車速V及び操舵トルクτが入力されるようになっている。
【0032】
ここで、本実施形態では、トルクセンサ14の出力信号Sa,Sbは、マイコン21に設けられた操舵トルク検出部25に入力されるようになっており、基本アシスト制御部26には、同操舵トルク検出部25において各出力信号Sa,Sbに基づき検出される操舵トルクτが入力されるようになっている。そして、基本アシスト制御部26は、当該操舵トルクτの絶対値が大きいほど、また、車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力を付与すべき旨の基本アシスト制御量Ias*を演算する構成となっている。
【0033】
また、本実施形態では、上記操舵トルク検出部25には、トルクセンサ14の出力信号Sa,Sbに基づき、同トルクセンサ14の異常を検出する異常検出手段としての機能が備えられている。そして、電流指令値演算部23は、その異常検出機能により、通常状態と判定される場合、即ち、トルクセンサ14が正常に作動している通常時には、この基本アシスト制御量Ias*に基づく値を、上記電流指令値I*として、モータ制御信号出力部24に出力する構成となっている。
【0034】
モータ制御信号出力部24には、この電流指令値演算部23が出力する電流指令値I*とともに、電流センサ27により検出された実電流値I、及び回転角センサ17により検出されたモータ12の回転角θmが入力される。そして、モータ制御信号出力部24は、この電流指令値I*に、実電流値Iを追従させるべく、フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を演算する。
【0035】
具体的には、本実施形態では、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力の供給により回転するブラシレスモータが用いられている。そして、モータ制御信号出力部24は、実電流値Iとして検出されたモータ12の相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q座標系のd、q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
【0036】
即ち、電流指令値I*は、q軸電流指令値として、モータ制御信号出力部24に入力され、モータ制御信号出力部24は、回転角センサ17により検出された回転角θmに基づいて、相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q変換する。また、モータ制御信号出力部24は、そのd、q軸電流値及びq軸電流指令値に基づいて、d、q軸電圧指令値を演算する。そして、そのd、q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより、相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を演算し、当該相電圧指令値に基づいて、モータ制御信号を生成する。
【0037】
このようにして生成されたモータ制御信号は、マイコン21から駆動回路22へと出力され、同駆動回路22により当該モータ制御信号に基づく、三相の駆動電力がモータ12へと供給される。そして、その操舵トルクτに基づく、アシスト力目標値としての電流指令値I*に相当するモータトルクが発生することにより、当該アシスト力目標値に対応するアシスト力が操舵系に付与される構成となっている。
【0038】
(トルクセンサ異常時のアシスト継続制御)
次に、本実施形態のEPSにおけるトルクセンサ異常時のアシスト継続制御について説明する。
図2に示すように、本実施形態の電流指令値演算部23には、上記基本アシスト制御部26に加え、トルクセンサ異常時にアシスト継続制御を行う代替アシスト制御部28が設けられている。
【0039】
具体的には、代替アシスト制御部28は、横Gセンサにて検出された横Gと、車速V、及び右輪タイヤ荷重Wrと、左輪タイヤ荷重Wlを入力する。そして、代替アシスト制御部28は、横Gと、車速Vと、右輪タイヤ荷重Wrと、左輪タイヤ荷重Wlに対応した代替アシスト制御量Ibs*を出力する。
【0040】
詳述すると、代替アシスト制御部28は、図3に示すように横G/代替アシスト制御量マップ40と、車両傾斜演算部41と、車速/ゲインマップ42及び加算器43と、積算器44で構成されている。横G/代替アシスト制御量マップ40は、横Gを入力として代替アシスト制御量Ibs***を出力する。
【0041】
車両傾斜演算部41は、右輪タイヤ荷重Wrと、左輪タイヤ荷重Wlを入力として補正アシスト制御量Icoを出力する。また、車速/ゲインマップ42は、車速Vを入力としてゲインKを出力する。そして、横G/代替アシスト制御量マップ40から出力された代替アシスト制御量Ibs***と、車両傾斜演算部41から出力された補正アシスト制御量Icoは加算器43で加算され、代替アシスト制御量Ibs**となる。
【0042】
更に、代替アシスト制御量Ibs**は、車速/ゲインマップ42から出力されたゲインKと積算器44で積算され、代替アシスト制御量Ibs*となる。
【0043】
更に、詳述すると、横G/代替アシスト制御量マップ40は、図4で表される。当該横G/代替アシスト制御量マップ40は、横軸に、横Gを、縦軸に代替アシスト制御量Ibs***を表している。例えば、アシスト力を右方向に付与すると、横Gはその反力として、左方向にあらわれる。そのため、上記横G/代替アシスト制御量マップ40は、横Gが+方向に大きくなるに従って、代替アシスト制御量Ibs***を−方向に大きくなるように構成されている。
【0044】
次に、車両傾斜演算部41の機能については、図5のフローチャートで説明する。
まず、マイコン21は、右輪タイヤ荷重Wrを取り込む(ステップS101)。
次に、マイコン21は、左輪タイヤ荷重Wlを取り込む(ステップS102)。
そして、マイコン21は、右輪タイヤ荷重Wrと左輪タイヤ荷重Wlを使用して、
タイヤ荷重の平均値Waveを演算する(Wave=(Wr+Wl)/2:ステップS10
3)。
【0045】
次に、マイコン21は、タイヤ荷重の平均値Wave及び右輪タイヤ荷重Wrを使用
して、補正アシスト制御量Icoを演算する(Ico=α×(Wr−Wave)/Wave:ス
テップS104)。ここで、αは所定の重み係数である。そして、マイコン21は、
補正アシスト制御量Icoを加算器43に出力する(ステップS105)。
【0046】
また、車速/ゲインマップ42は、図6で表される。当該車速/ゲインマップ42は、横軸に、車速Vを、縦軸にゲインKを表している。上記車速/ゲインマップ42は、車速Vが所定車速V0(極低速)以下の場合は、ゲインKを「0」としている。そして、上記車速/ゲインマップ42は、車速Vが所定車速V1以上の場合は、ゲインKを「1」としている。また、上記車速/ゲインマップ42は、車速Vが所定車速V0以上かつ所定車速V1以下の場合は、ゲインKが急激に変化しないように漸増する。
【0047】
即ち、代替アシスト制御部28から出力される代替アシスト制御量Ibs*は、車速Vが所定車速V0(極低速以下の場合は)、「0」となり、アシスト力が発生しない。
その結果、車両が停止付近状態にもかかわらず、横Gが出力するような場合には、アシスト力が発生せず、ステアリングがセルフステア状態になることが防止される。
また、代替アシスト制御部28から出力される代替アシスト制御量Ibs*は、車速Vが所定車速V1以上の場合は、上記横G/代替アシスト制御量マップ40で生成された代替アシスト制御量Ibs**となり、所望のアシスト力を付与する。
【0048】
ここで、本実施形態の電流指令値演算部23は、上記異常検出手段としての操舵トルク検出部25により、トルクセンサ14の異常が検出された場合には、上記基本アシスト制御部26により演算される基本アシスト制御量Ias*を基礎成分とした電流指令値I*の演算を停止する。そして、その電流指令値演算の基礎成分を上記代替アシスト制御部28により演算される代替アシスト制御量Ibs*に切り替えて、当該電流指令値I*の演算を実行するように構成されている。
【0049】
更に、詳述すると、本実施形態の電流指令値演算部23には、切替制御部29が設けられており、上記基本アシスト制御部26により演算される基本アシスト制御量Ias*、及び上記代替アシスト制御部28により演算される代替アシスト制御量Ibs*は、この切替制御部29に入力される。
【0050】
また、同切替制御部29には、上記異常検出手段としての操舵トルク検出部25の出力する異常検出信号Strが入力されるようになっている。そして、切替制御部29は、その入力される異常検出信号Strがトルクセンサ14の異常を示すものである場合には、その出力する制御信号を、基本アシスト制御量Ias*から代替アシスト制御量Ibs*に切り替える。そして、電流指令値演算部23は、この切替制御部29の出力する制御信号に基づいて、モータ制御信号出力部24における、電流制御の目標値としての電流指令値I*の演算を実行する。
【0051】
即ち、本実施形態のECU11は、トルクセンサ14の異常時には、通常時におけるアシスト力目標値相当のモータトルクを発生させるための電力供給を停止する。そして、そのモータ12に対する駆動電力の供給形態を、横Gと力の作用する方向が逆関係にあるアシスト力を、上記代替アシスト制御部28からの電力供給に切り替える。
【0052】
このような構成とすることで、そのトルクセンサ14の異常により、操舵トルクが検出不能な状態においても、そのステアリング操作に応じて操舵系をモータ駆動することが可能になる。そして、本実施形態では、横Gに応じてアシスト制御量を生成しているので、路面状況の変化等を適切にアシスト力に反映することができ、アシストの過不足を防止することができる。その結果、トルクセンサ14の異常時においても、安定的にアシスト力付与を継続することができる。
【0053】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)マイコン21は、操舵トルクセンサ14の異常が検出された場合には、操舵トルクセンサ14に替えて、横Gに基づくアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させ、駆動電力の供給を実行することによりアシスト制御を継続する(アシスト継続制御)。
【0054】
上記構成によれば、横Gに基づくアシスト力目標値を生成することとしたので、路面状況の変化等を適切にアシスト力に反映することができ、アシストの過不足を防止することができる。その結果、より安定的にアシスト力付与を継続することができる。
【0055】
(2)マイコン21は、操舵トルクセンサ14の異常が検出された場合には、操舵トルクセンサ14に替えて、横Gに基づくアシスト力目標値と、車両傾斜演算手段21から算出された補正アシスト力を加算することによって、アシスト力目標値を補正し、前記駆動電力の供給を実行することによりアシスト制御を継続する(アシスト継続制御)。
【0056】
上記構成によれば、車両が傾斜した状態で操舵されている場合には、車両が傾斜した状態と反対方向のアシスト力を発生することができ、操舵フィーリングの悪化を防止することができる。その結果、継続して安定したステアリング操作を行なうことができる。
【0057】
(3)マイコン21は、操舵トルクセンサ14の異常が検出された場合には、操舵トルクセンサ14に替えて、前記横Gに基づくアシスト力目標値と、車両傾斜演算手段21から算出された補正アシスト力を加算することによって、前記アシスト力目標値を補正した値に、ゲイン決定手段21から決定されたゲインを乗算することによって、アシスト力目標値を補正した値を更に補正し、前記駆動電力の供給を実行することによりアシスト制御を継続する(アシスト継続制御)。
【0058】
上記構成によれば、ゲイン決定手段21は、車速の大きさによって決定される。即ち、車速の大きさが零近傍では、ゲインの大きさは「0」であり、車速の大きさが所定値以上の場合には、ゲインは「1」となる。車両が停止付近状態にもかかわらず、横Gが出力するような場合には、アシスト力が発生し、ステアリングがセルフステア状態になる。即ち、車速の大きさが零近傍では、ゲインの大きさを「0」としているので、乗算されるアシスト力目標値も「0」となり、ステアリングがセルフステア状態になることを防止できる。
その結果、継続して安定したステアリング操作を行なうことができる。
【0059】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、横Gの大きさに応じて、代替アシスト制御量を演算する構成としたが、横Gに替えてヨーレートを適用してもよい。
【0060】
・上記各実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、本発明は、所謂ピニオン型やラックアシスト型のEPSに適用してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、3a:コラムシャフト、
3b:インターミディエイトシャフト、3c:ピニオンシャフト、
4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、6:タイロッド、7:転舵輪、
10:EPSアクチュエータ、11:ECU、12:モータ、13:減速機構、
14:トルクセンサ、14a,14b:センサ素子、15:車速センサ、
16:トーションバー、17:回転角センサ、18:横Gセンサ、
19:右輪タイヤ荷重センサ、20:左輪タイヤ荷重センサ、
21:マイコン、22:駆動回路、23:電流指令値演算部、
24:モータ制御信号出力部、25:操舵トルク検出部、26:基本アシスト制御部、
27:電流センサ(電流検出器)、28:代替アシスト制御部、29:切替制御部、
40:横G/代替アシスト制御量マップ、41:車両傾斜演算部、
42:車速/ゲインマップ、43:加算器、44:積算器、
τ:操舵トルク、Sa,Sb:センサ信号、V:車速、G:横G、θm:回転角、
Wr:右輪タイヤ荷重、Wl:左輪タイヤ荷重、Wave:タイヤ荷重の平均値、
I*:電流指令値、I:実電流値、Ias*:基本アシスト制御量、
Ibs*、Ibs**、Ibs***:代替アシスト制御量、Ico:補正アシスト制御量、
Iu,Iv,Iw:相電流値、Vu*,Vv*,Vw*:相電圧指令値、
Str:異常検出信号、K:ゲイン、α:所定の重み係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源として操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、
前記モータに対する駆動電力の供給を通じて、前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段と、
車両の横Gを検出する横Gセンサと、
前記操舵系に入力される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記操舵トルクセンサの異常を検出する異常検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記操舵トルクに基づくアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させるべく、前記駆動電力の供給を実行するとともに、
前記操舵トルクセンサの異常が検出された場合には、前記操舵トルクセンサに替えて、前記横Gに基づくアシスト力目標値に相当するモータトルクを発生させるべく、
前記駆動電力の供給を実行すること、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
左右輪のタイヤ荷重を検出する左右輪タイヤ荷重センサと、
前記左右輪のタイヤ荷重の大きさによって車両の傾斜を演算する車両傾斜演算手段と、
前記制御手段は、前記操舵トルクセンサの異常が検出された場合には、前記操舵トルクセンサに替えて、前記横Gに基づくアシスト力目標値と、前記車両傾斜演算手段から算出された補正アシスト力を加算することによって、前記アシスト力目標値を補正し、前記駆動電力の供給を実行すること、
を特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
車速を検出する車速センサと、
前記車速の大きさによってゲインを決定するゲイン決定手段と、
前記制御手段は、前記操舵トルクセンサの異常が検出された場合には、前記操舵トルクセンサに替えて、前記横Gに基づくアシスト力目標値と、前記車両傾斜演算手段から算出された補正アシスト力を加算することによって、前記アシスト力目標値を補正した値に、前記ゲイン決定手段から決定されたゲインを乗算することによって、前記アシスト力目標値を補正した値を更に補正し、前記駆動電力の供給を実行すること、
を特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240633(P2012−240633A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115607(P2011−115607)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】