説明

電動パワーステアリング装置

【課題】容易な構成であって、搭載スペースを小さくすることができる揺動内接式遊星歯車装置を用いた電動パワーステアリングを提供する。
【解決手段】ハウジングHに支持された電動モータ40と、電動モータ40と同軸的に配置され電動モータ40の駆動力を減速してピニオン軸を駆動する減速機60とを備える。減速機60には、揺動内接式遊星歯車装置が適用される。揺動内接式遊星歯車装置の内歯歯車121の内歯および外歯歯車130,140の外歯は、インボリュート歯形に形成される。そして、駆動状態において、内歯歯車121の内歯本体121aおよび外歯歯車130,140の外歯本体131,141の一方が周方向に伸張弾性変形し且つ他方が収縮弾性変形することにより、内歯121bと外歯132,142の噛み合い数が、非駆動状態における内歯121bと外歯132,142との噛み合い数よりも多くなるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置には、操舵トルクに応じて電動モータを回転させ、減速機を介してピニオンに操舵補助力を付与するピニオンアシスト式の電動パワーステアリング装置がある。ピニオンアシスト式の電動パワーステアリング装置には、ステアリングホイールからの操舵力と電動モータの補助操舵力とを異なるピニオンを介して、かかるラック軸に伝達するデュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置がある。これらの電動パワーステアリング装置には、電動モータの回転力を減速(増力)してステアリングシャフトに伝達する減速機が備えられている。この減速機には、ウォーム減速機が広く用いられている。例えば、特許文献1に記載されたウォーム減速機は、ウォームとウォームホイールとが互いに直交する軸心を有して支持され、ウォームホイールの外周のウォーム歯にウォームを噛合させて構成されている。このため、ウォームを駆動する電動モータは、ウォームホイールを支持するギヤハウジングの外側に、ウォームホイールの接線方向に突出して取付けられるので、大きな搭載スペースを必要としている。
【0003】
ピニオンアシスト式の電動パワーステアリング装置は、搭載スペースが限定される小型車等にも使用されるため、搭載スペースを小さくして、搭載位置の自由度を高くすることが要求されている。搭載スペースを小さくするには、減速機の減速比を高くして、電動モータを小型化することが有効である。しかしながら、ウォーム減速機構の場合、減速比を増加させると、ウォームホイール側(ステアリング側)からウォーム側(モータ側)を回転させることができない、いわゆるセルフロックが発生しやすくなることが知られている。このようにウォーム減速機は、減速比を増加させていくと、ロストルクの増加が大きくなり、このために車両等のタイヤの向きを進行方向と一致させるようにタイヤの向きを変えようとするセルフアライニングトルクの作用が低下して、電動パワーステアリング装置の操舵フィーリングに影響を与える場合がある。このようなセルフロックが発生しにくい減速機として、遊星歯車減速機が知られている。
【0004】
ところで、遊星歯車減速機として、例えば、特許文献2に記載された揺動内接式遊星歯車装置が知られている。この揺動内接式遊星歯車装置は、サイクロイド減速装置であって、入出力軸線回りに回転し入出力軸線に対して偏心した偏心軸線を中心とした偏心体と、入出力軸線を中心として複数の内歯が形成された内歯歯車と、偏心体に対して相対回転可能に支持され、偏心軸線を中心として複数の外歯が形成され、内歯歯車に噛合しながら内歯歯車に対して相対的に揺動回転する外歯歯車とを備えて構成される。このサイクロイド減速機構においては、内歯歯車の各内歯をピンとし、外歯歯車の各外歯をトロコイド歯形により形成している。
【0005】
揺動内接式遊星歯車装置は、このように構成することで、内歯歯車と外歯歯車の歯数差を小さくすることができ、高い減速比を得ることができる。さらに、内歯歯車と外歯歯車との噛み合い率が高くなるため、高剛性の歯車として知られている。この構成において、さらに高減速比を得るためには、外歯歯車および内歯歯車の歯数を多くすることにより実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−149573号公報
【特許文献2】特開2002−266955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ピンとトロコイド歯形による噛み合いでは、多数の歯を形成するには、大径化してしまうという問題がある。特に、デュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置に適用する減速機の場合、減速機および駆動用電動モータは、ラック軸中央付近のピニオン軸に設けられるため、エンジンルームの幅方向中央部分のエンジンやラジエータ等、多くの車載機器との干渉を回避して配置される必要がある。そのため、デュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置に適用する減速機は、小型であることが望まれる。さらに、駆動用電動モータを小型化にするために、高減速比であることが望まれている。
【0008】
ここで、多数の歯を形成することができる歯車としてインボリュート歯形が知られている。しかし、揺動内接式遊星歯車装置の内歯歯車および外歯歯車をインボリュート歯形にすると、歯先の干渉を生じるために、内歯歯車と外歯歯車との歯数差を少なくする構成は容易ではない。さらに、インボリュート歯形では、噛み合い率が低くなり、噛み合う歯が受ける荷重が大きくなるため、大きなトルクを伝達するには、歯の剛性を高くする必要があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、容易な構成であって、搭載スペースを小さくすることができる揺動内接式遊星歯車装置を用いた電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために提供される請求項1に記載の発明は、ステアリングホイールからステアリングシャフトに加わる操舵力に応じて、モータを駆動制御し、前記モータの回転を、減速機を介して、操舵補助力として与える電動パワーステアリング装置であって、前記ステアリングホイールの操舵により回転する第1ピニオンシャフトと、前記モータの駆動により回転する第2ピニオンシャフトと、前記第1ピニオンシャフト及び前記第2ピニオンシャフトと歯合するラック歯を有し軸方向に移動可能に設けられたラック軸と、を備え、前記減速機は、入出力軸線回りに回転し、前記入出力軸線に対して偏心した偏心軸線を中心とした偏心体と、環状の内歯本体および前記内歯本体の内周側に一体形成された複数の内歯を備え、前記入出力軸線を中心とした内歯歯車と、環状の外歯本体および前記外歯本体の外周側に一体形成された複数の外歯を備え、前記偏心体に対して相対回転可能に支持され、前記偏心軸線を中心とし、駆動状態において前記内歯歯車に噛合しながら前記内歯歯車に対して相対的に揺動回転する外歯歯車と、を備え、前記内歯および前記外歯は、インボリュート歯形に形成され、駆動状態において、前記内歯本体および前記外歯本体の一方が周方向に伸張弾性変形し且つ他方が収縮弾性変形することにより、前記内歯と前記外歯の噛み合い数が、非駆動状態における前記内歯と前記外歯との噛み合い数よりも多くなるように設定され、歯番号iを、非駆動状態において噛み合う前記内歯および前記外歯である基準噛合歯を1とし、前記基準噛合歯から遠ざかる前記内歯および前記外歯について1ずつ加算した値として定義し、前記歯番号iにおける前記内歯および前記外歯の一方の伸張方向の移動量をδ1,iとし、前記歯番号iにおける前記内歯および前記外歯の他方の収縮方向の移動量をδ2,iとし、前記歯番号iにおける前記内歯の歯面と前記外歯の歯先との隙間をδiとした場合に、前記内歯歯車および前記外歯歯車のモジュールは、式(1)を満たすように設定されたモジュールである揺動内接式遊星歯車装置であり、前記モータは、円筒形状のロータと、前記ロータの径方向外側に対向して配置された円筒形状のステータと、前記入出力軸線上に配されるとともに前記ロータ内に嵌合されることで前記ロータの回転を前記揺動内接式遊星歯車装置の前記偏心体に伝達するシャフトと、を備え、前記シャフトは、前記第2ピニオンシャフトと同軸に連結されることである。
【数1】

【0011】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、減速機としての揺動内接式遊星歯車装置において、内歯および外歯の撓み変形ではなく、外歯本体および内歯本体の一方が周方向に伸張弾性変形するとともに、外歯本体および内歯本体の他方が周方向に収縮弾性変形することにより、内歯と外歯の噛み合い数を多くしている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記揺動内接式遊星歯車装置は、前記歯番号iにおける前記内歯および前記外歯の一方の伸張方向の移動量δ1,iを式(2)として定義し、前記歯番号iにおける前記内歯および前記外歯の他方の収縮方向の移動量δ2,iを式(3)として定義し、前記歯番号iにおける前記内歯の歯面と前記外歯の歯先との隙間δiを式(4)として定義している。
【数2】

【数3】

【数4】

【0013】
式(2)の第一項が、内歯本体および外歯本体の一方の周方向の伸張弾性変形量を表し、式(3)の第一項が、内歯本体および外歯本体の他方の周方向の収縮弾性変形量を表す。つまり、式(1)は、内歯本体および外歯本体が周方向に伸張弾性変形または収縮弾性変形した場合に、内歯および外歯の一方の伸張方向の移動量と他方の収縮方向の移動量の合計値が、当該外歯歯先と内歯歯面との隙間に一致する場合を意味している。当該式(1)を用いて、内歯歯車および外歯歯車の設計を行うことで、上述した効果を確実に奏することができるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、前記揺動内接式遊星歯車装置は、前記内歯歯車および前記外歯歯車のモジュールは、前記式(1)においてi=2を満たすモジュール以下に設定される。
【0015】
式(1)においてi=2を満たす状態とは、基準噛合歯の隣の内歯および外歯が接触している状態を意味する。つまり、噛み合い数が少なくとも2となる。
【0016】
また、外歯本体および内歯本体を周方向に弾性変形させつつ、噛み合い数を多くするためには、内歯歯車および外歯歯車のモジュールを可能な限り小さくすることが好ましい。モジュールを小さくすることにより、内歯および外歯の歯丈が低くなるため、内歯および外歯の撓みが小さくなる。これにより、内歯および外歯の先端角部が相手歯面に接触することを防止できる。つまり、先端角部の接触による高面圧化を防止できる。従って、外歯および内歯に生じる面圧が小さくなるため、外歯および内歯が受ける荷重を大きくすることができる。その結果、内歯歯車および外歯歯車の全体としてさらに高いトルクを伝達できるようになる。
【0017】
ところで、非駆動状態において噛み合う内歯および外歯を基準噛合歯とした場合に、基準噛合歯から周方向に遠ざかるほど、内歯本体および外歯本体に生じる荷重が小さくなる。つまり、内歯本体および外歯本体において、基準噛合歯から周方向に近い位置ほど大きく伸張弾性変形または収縮弾性変形をする。そして、本発明によれば、モジュールを小さくすることになるため、言い換えると、外歯の数および内歯の数が多くなるということになる。つまり、隣り合う外歯のピッチ、および、隣り合う内歯のピッチが狭くなる。そうすると、基準噛合歯から周方向に近い位置に多くの内歯および外歯が存在する状態となる。従って、内歯本体および外歯本体が伸張弾性変形量または収縮弾性変形量が大きな位置に、多数の内歯および外歯が存在するため、多くの内歯および外歯が噛み合いに参加できる。このように、モジュールを小さくすることにより、結果として、多くの内歯および外歯が噛み合いに参加できる雰囲気を形成することができる。
【0018】
さらに、モジュールを小さくすると、内歯および外歯のインボリュート歯面が、直線的になる。その結果、内歯と外歯の接触面積が大きくなり、このことからも内歯および外歯に生じる面圧が小さくなる。従って、内歯歯車および外歯歯車の全体としてさらに高いトルクを伝達できるようになる。さらに、モジュールを小さくすることにより、隣接する内歯と外歯の歯面間の隙間が小さくなる。このことからも、多くの内歯および外歯が噛み合いに参加できる可能性が高くなる。
【0019】
さらに、各歯が受ける面圧が小さくなることにより、従来当然のように施していた熱処理を廃止することができる場合が出てくる。従来は耐圧を高めるために熱処理を施していたが、本発明においては、面圧低下に伴い、各歯に生じる面圧が、熱処理を施すことなく耐圧の範囲内となる場合がある。その結果、熱処理を不要とすることにより、低コスト化を図ることができる。そして、i=2を満たすモジュール以下のモジュールに設定することで、確実に噛み合い数が2以上となる。これにより、上記効果を確実に奏することができる。
【0020】
また、デュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置は、エンジンルームの幅方向中央部分のエンジンやラジエータ等、多くの車載機器との干渉を回避して配置するため、搭載スペースを小さくすることが要求される。本発明の電動パワーステアリング装置は、減速機を小型にするとともに、高減速比とすることができるので、駆動用モータを小型化することができる。従って、本発明の電動パワーステアリング装置をデュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置に適用することで、要求を確実に満たすことができる。また、揺動内接式遊星歯車装置は、減速比を増加させても、セルフロックが発生しにくいため、セルフアライニングトルクの作用を低下させることなく、電動パワーステアリング装置の操舵フィーリングに影響を与えない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、容易な構成であって、搭載スペースを小さくすることができる揺動内接式遊星歯車装置を用いた電動パワーステアリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態を示す電動パワーステアリング装置の概略構成図。
【図2】本発明の実施形態を示す電動パワーステアリング装置の側面図である。
【図3】図2の減速機および電動モータ部分の軸方向断面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】内歯の一部と第一,第二外歯の位置を示し、非駆動状態にける両歯の噛み合い状態を示す。
【図6】内歯および第一,第二外歯の諸元を示す図である。
【図7】内歯および第一,第二外歯を展開した状態の部分図である。
【図8】基準噛合歯からの位相に対する各歯が受ける負荷の特性を示す図である。
【図9】FEM解析結果であり、第一,第二外歯の歯数と内歯の歯数の比の値に対する噛み合い歯数を示す。
【図10】FEM解析結果であり、内歯の歯数に対する噛み合い歯数を示す。
【図11】FEM解析結果であり、噛み合い歯の位置に対する内歯と第一,第二外歯との周方向隙間を示す。
【図12】FEM解析結果であり、負荷トルクに対する噛み合い歯数を示す。
【図13】FEM解析結果であり、負荷トルクに対する最大面圧を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態の電動パワーステアリング装置の構成を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態を示すデュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置の概略構成図である。図2は、本発明の実施形態を示すデュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置の側面図である。図3は、図2の電動パワーステアリング装置の軸方向断面図である
【0024】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置101は、ステアリングホイール9と、ステアリングシャフト8と、操舵機構3,4を構成する第1ピニオン6及び第2ピニオン10とラック軸5と減速機60と電動モータ40を備えて構成される。操舵機構3,4は、ラック軸5の両端に連結されたタイロッド3a,4aにより、車輪1,2を操舵する。ラック軸5は、軸方向に移動可能にギヤハウジング(図示せず)に支持されており、図1における左方の領域には第1ラック歯5aが形成され、右方の領域には第2ラック歯5bが形成されている。
【0025】
第1ラック歯5aには、第1ピニオン6が噛合している。第1ピニオン6は、トルクセンサ7を介してステアリングシャフト8に連結されており、ステアリングシャフト8の上端には、ステアリングホイール9が取り付けられている。トルクセンサ7は、制御装置13に電気的に接続されており、ステアリングシャフト8に伝達された操舵力を検出し、制御装置13に対して操舵力に応じた検出信号を送信可能となっている。
【0026】
第2ラック歯5bには、第2ピニオン10が噛合している。第2ピニオン10は、減速機60を介して電動モータ40に連結されている。電動モータ40は、制御装置13に対して電気的に接続されており、制御装置13からの駆動信号に応じて操舵補助力を出力可能となっている。
【0027】
上記した構成により、運転者がステアリングホイール9を操作すると、ステアリングシャフト8に連結された第1ピニオン6が回転し、ラック軸5を軸方向に移動させるとともに、トルクセンサ7がステアリングシャフト8の操舵力を検出し、制御装置13に検出信号を送信する。制御装置13は、この検出信号に応じて、操舵補助用の電動モータ40を駆動して、操舵補助力をラック軸5に伝達することが可能となる。
【0028】
次に、上記した電動パワーステアリング装置101の具体例を説明する。
図2に示すように、電動パワーステアリング装置101は、車両の左右方向に延在して配設されたギヤハウジング31を備えている。ギヤハウジング31には、ラック軸5がギヤハウジング31の長手方向に軸方向に移動可能に収容され、ラック軸5の両端には、タイロッド3a,4a(図1参照)を介して車輪1,2(図1参照)が連結されるようになっている。
【0029】
ギヤハウジング31には、ステアリングホイール9(図1参照)によって回転される第1ピニオン6がラック軸5と交差する軸線の回りに回転可能に支持され、第2ピニオン10はラック軸5に形成された第1ラック歯5a(図1参照)に噛合されている。また、ギヤハウジング31には、ラック軸5を第1,第2ピニオン6,10に向けて押圧するサポートヨーク手段32,33が設けられ、このサポートヨーク手段32,33によってラック軸5と第1,第2ピニオン6,10との噛合いを適正に維持するようにしている。
【0030】
そして、ギヤハウジング31には、減速機60と電動モータ40が一体的に取付けられている。ハウジングHには、電動モータ40と減速機60が収納される。減速機60は、揺動内接式遊星歯車装置を適用している。電動モータ40は、電源装置及び電源ケーブル(図示せず)により、電力供給がおこなわれる。
【0031】
次に、電動パワーステアリング装置101の詳細構成について説明する。
図3に示すように、電動モータ40は、ステータ41とロータ42とを備えて構成され、減速機60とともに、ギヤハウジング31と一体的に形成された筒状のハウジングHの径方向内側に収容されるように配置される。ステータ41は、筒状に形成され、コイルが巻回されている。ステータ41は、ハウジングHの内周面に支持されて固定される。そして、ステータ41は、第2ピニオン10の回転軸に同軸的に配置される。
【0032】
ロータ42は、ステータ41の径方向内側に所定のギャップを介して、ステータ41の内周面に対向するようにかつ同軸的に、ステータ41に対して相対回転可能に配置されている。つまり、ステータ41のコイルに電力を供給することにより、ロータ42がステータ41に対して入出力軸線X1を中心に回転する。
【0033】
減速機60は、電動モータ40と同軸的に配置され、電動モータ40の駆動力を減速して第2ピニオン10を駆動する。減速機60は、入力軸110と出力軸152とが同軸上に設けられ、入力軸110の回転を減速して、出力軸152に伝達する減速機として機能する。そして、出力軸152が第2ピニオン10に固定されることにより、出力軸152の駆動力が第2ピニオン10に伝達される。
【0034】
減速機60の概要は、ハウジングHの内周面に内歯歯車121を形成し、第一,第二外歯本体131,141の外周面に外歯歯車131,141を形成し、入力軸110の回転によって第一,第二外歯本体131,141が内歯歯車121に対して揺動回転することにより、内歯歯車121と外歯歯車131,141との相対回転差に相当する分が、出力軸152に出力される。
【0035】
次に、減速機60の詳細構成について説明する。
減速機60は、ハウジングHと、入力軸110と、出力軸152と、第一,第二外歯本体131,141と、複数の内ピン160とを備えて構成される。
【0036】
ハウジングHは、有底円筒状に形成されている。ハウジングHは、入力軸110の先端側と、出力軸152の基端側と、第一,第二外歯本体131,141を収容している。ハウジングHの底面には、入出力軸線X1を中心とした円形孔が形成され、第四軸受74を嵌挿している。
【0037】
ハウジングHの円筒状部分の内周面には、内歯歯車121が設けられている。内歯歯車121は、ハウジングHと一体形成されるようにしてもよいし、ハウジングHとは別体に形成されハウジングHに一体的に取り付けられるようにしてもよい。この内歯歯車121は、環状の内歯本体121aと、内歯本体121aの内周側に一体形成された複数の内歯121bとを備える。そして、内歯歯車121は、入出力軸線X1を中心とした歯車である。つまり、内歯121bのピッチ円の中心位置は、入出力軸線X1に一致する。さらに、内歯121bは、インボリュート歯形に形成されている。また、内歯歯車121は、樹脂により形成される。
【0038】
入力軸110は、先端部110bの外周面に第三軸受73とハウジングHの円形孔に嵌挿された第四軸受74によって、入出力軸線X1を中心にハウジングHに対して回転可能に設けられている。そして、入力軸110は、電動モータ40の回転軸に連結され、回転駆動力を入力する。この入力軸110は、基端側(図3の下側)から順に、基端部110aと、第一,第二偏心体112,113と、先端部110bとを備え、一体的に成形されている。
【0039】
入力軸110は、ハウジングHの円形孔に嵌挿された第四軸受74によって、入出力軸線X1を中心にハウジングHに対して相対回転可能に支持されている。そして、入力軸110は、電動モータ40に連結され、回転駆動力を入力する。この入力シャフト20は、基端側(図3の下側)から順に、基端部110aと、第一,第二偏心体112,113と、先端部110bとを備え、一体的に成形されている。
【0040】
基端部110aは、入出力軸線X1を中心軸とする円筒状または円柱状に形成され、ハウジングHに対して入出力軸線X1回りに回転可能に支持される。この基端部110aが、回転駆動源に連結される。先端部110bは、入力軸110の先端側(図3の上側)、すなわち、出力軸152側に設けられている。この先端部110bは、基端部110aと同様に、入出力軸線X1を中心軸とする円筒状または円柱状に形成されている。この先端部110bの外周面には第三軸受73が配置され、後述するように、先端部110bは出力軸152を相対回転可能に支持している。
【0041】
第一偏心体112は、中空軸状または中実軸状に形成され、入出力軸線X1に対して偏心した第一偏心軸線X2を中心とした円形外周面を有している。この第一偏心体112の外径は、本実施形態においては、基端部110aの外径よりも大きく設定されている。第一偏心体112は、軸方向において、ハウジングHに形成される内歯歯車121のうち軸方向中央より基端側(図3の下側)に位置している。
【0042】
第二偏心体113は、第一偏心体112よりも入力軸110の先端側(図3の上側)に設けられている。この第二偏心体113は、中実軸状または中空軸状に形成され、入出力軸線X1に対して偏心した第二偏心軸線X3を中心とした円形外周面を有している。この第二偏心体113は、第一偏心体112と同径に形成されている。第二偏心軸線X3は、入出力軸線X1に対して第一偏心軸線X2とは位相を180°ずれた方向に、第一偏心軸線X2の偏心量と同量偏心している。第二偏心体113は、軸方向において、ハウジングHに形成される内歯歯車121のうち軸方向中央より先端側(図3の上側)に位置している。従って、入力軸110が入出力軸線X1回りに回転すると、入力軸110の第一,第二偏心体112,113が、入出力軸線X1回りに公転することになる。
【0043】
出力軸152は、ハウジングHに嵌挿された第五軸受75および入力軸110の先端部110bの外周面に嵌挿された第三軸受73によって、ハウジングHおよび入力軸110に対して、入出力軸線X1回りに回転可能に設けられている。この出力軸152は、入力軸110よりも図3の上側に位置し、フランジ部152bと、軸部152aとを備えている。フランジ部152bは、中空円盤状に形成されており、フランジ部152bの内周面が第三軸受73を介して入力軸110の先端部110bに回転可能に支持されている。また、フランジ部152bの一面には、入出力軸線X1を中心とした周方向に等間隔に円形凹部152cが形成されている。つまり、それぞれの円形凹部152cの円形中心位置は、入出力軸線X1を中心とした同一円上に位置する。なお、本実施形態においては、10個の円形凹部152cを形成したものを例に挙げている。出力軸152の軸部152aは、フランジ部152bの他面(図3の上面)に同軸上に一体的に形成されている。この軸部152aは、入出力軸線X1を中心とした円筒状または円柱状に形成されている。
【0044】
第一外歯歯車130は、中央に円形孔がある円盤状に形成されている。第一外歯歯車130の内周面が、入力軸110の第一偏心体112の外周側に、第一軸受71を介して嵌挿されている。つまり、第一外歯歯車130は、第一偏心体112に対して、第一偏心軸線X2を中心に回転可能に支持されている。そして、第一偏心体112が入出力軸線X1に対して偏心しているため、第一外歯歯車130は、ハウジングH内において、入出力軸線X1回りに公転すると共に第一偏心軸線X2回りに自転するように設けられている。
【0045】
この第一外歯歯車130は、環状の第一外歯本体131と、第一外歯本体131の外周側に一体形成された複数の第一外歯132とを備える。つまり、第一外歯歯車130は、第一偏心軸線X2を中心とした歯車である。従って、第一外歯132のピッチ円の中心位置は、第一偏心軸線X2に一致する。さらに、第一外歯132は、インボリュート歯形に形成されている。この第一外歯歯車130のピッチ円直径は、ハウジングHに形成される内歯歯車121のピッチ円直径よりも、第一偏心軸線X2の入出力軸線X1に対する偏心量の分、小さく設定されている。従って、第一外歯歯車130は、内歯歯車121の一部分に内接して噛合する関係となる。つまり、第一外歯歯車130は、内歯歯車121に噛合しながら内歯歯車に対して相対的に揺動回転することになる。
【0046】
また、第一外歯歯車130の軸方向幅は、内歯歯車121の軸方向幅の半分に形成されている。そして、第一外歯歯車130は、内歯歯車121の軸方向一方側(図3の下側)半分に噛合する。また、第一外歯歯車130は、内歯歯車121と同一材質により形成されている。また、第一外歯歯車130は、通常、内歯歯車121と同様に熱処理が施されている。
【0047】
さらに、第一外歯本体131の径方向中央には、第一偏心軸線X2を中心とした周方向に等間隔に円形貫通孔131aが複数形成されている。つまり、それぞれの円形貫通孔131aの円形中心位置は、第一偏心軸線X2を中心とした同一円上に位置する。また、円形貫通孔131aは、出力軸152のフランジ部152bに形成された円形凹部152cと同数形成されている。円形貫通孔131aの内径は、出力軸152のフランジ部152bに形成された円形凹部152cの内径よりも大きく形成されている。そして、入出力軸線X1の軸方向から見た場合に、それぞれの円形貫通孔131aは、フランジ部152bに形成されたそれぞれに対応する円形凹部152cの全体を視認できるような位置および形状に形成されている。
【0048】
第二外歯歯車140は、第一外歯歯車130と同一材質により同一形状に形成されている。すなわち、第二外歯歯車140は、環状の第二外歯本体141と、第二外歯本体141の外周側に一体形成された複数の第二外歯142とを備える。第二外歯本体141の内周面が、入力軸110の第二偏心体113の外周側に、第二軸受72を介して嵌挿されている。つまり、第二外歯歯車140は、第二偏心体113に対して、第二偏心軸線X3を中心に回転可能に支持されている。そして、第二偏心体113が入出力軸線X1に対して偏心しているため、第二外歯歯車140は、ハウジングH内において、入出力軸線X1回りに公転すると共に第二偏心軸線X3回りに自転するように設けられている。つまり、第二外歯歯車140は、第二偏心軸線X3を中心とした歯車である。従って、第二外歯142のピッチ円の中心位置は、第二偏心軸線X3に一致する。
【0049】
そして、第二外歯歯車140は、内歯歯車121の一部分に内接して噛合する関係となる。つまり、第二外歯歯車140は、内歯歯車121に噛合しながら内歯歯車121に対して相対的に揺動回転することになる。また、第二外歯歯車140の軸方向幅は、内歯歯車121の軸方向幅の半分に形成されている。そして、第二外歯歯車140は、内歯歯車121の軸方向他方側(図3の上側)半分に噛合する。
【0050】
さらに、第二外歯本体141の径方向中央には、第二偏心軸線X3を中心とした周方向に等間隔に円形貫通孔141aが複数形成されている。つまり、それぞれの円形貫通孔141aの円形中心位置は、第二偏心軸線X3を中心とした同一円上に位置する。また、円形貫通孔141aは、出力軸152のフランジ部152bに形成された円形凹部152cと同数形成されている。円形貫通孔141aの内径は、出力軸152のフランジ部152bに形成された円形凹部152cの外径よりも大きく形成されている。そして、入出力軸線X1の軸方向から見た場合に、それぞれの円形貫通孔141aは、フランジ部152bに形成されたそれぞれに対応する円形凹部152cの全体を視認できるような位置および形状に形成されている。
【0051】
それぞれの内ピン160は、出力軸152のフランジ部152bに形成される。それぞれの円形凹部152cに嵌合され、かつ、第一,第二外歯本体131,141に形成される円形貫通孔131a,142に遊嵌されている。なお、遊嵌とは、軸部材が孔に対して、径方向に隙間を有して挿入されている意味である。
【0052】
この内ピン160は、円柱状に形成されるピン本体161と、ピン本体161の外周に嵌挿される円筒状のすべり軸受162とから構成される。ピン本体161は、出力軸152のフランジ部152bに形成されるそれぞれの円形凹部152cに嵌合され、フランジ部152bの一面から軸方向に突出するように設けられている。そして、ピン本体161は、第一,第二外歯本体131,141に形成される円形貫通孔131a,142を貫通している。また、すべり軸受162は、ピン本体161の外周に嵌挿されている。このすべり軸受162の外径は、円形貫通孔131a,142の内径よりも小さく設定されている。ここで、図4に示すように、すべり軸受162の外周面の一部が、円形貫通孔131a,142の内周面の一部に当接している。入力軸110の回転に伴って、すべり軸受162と円形貫通孔131a,142との接触部位が移動する。
【0053】
このように構成される電動パワーステアリング装置101の動作を説明する。
まず電動モータ40のロータ42が駆動することにより、ロータ42の駆動力が入力軸110に伝達されて、入力軸110が入出力軸線X1回りに回転する。この回転に伴って、第一,第二偏心体112,113は、入出力軸線X1回りに公転する。そうすると、第一外歯歯車130が第一偏心体112の公転に伴って、入出力軸線X1回りに公転する。同様に、第二外歯歯車140が第二偏心体113の公転に伴って、入出力軸線X1回りに公転する。このとき、第一外歯歯車130は、内歯歯車121に噛合することによって、第一外歯132と内歯121bとの歯数差に対応する分、第一偏心軸線X2回りに自転する。一方、第二偏心体113の公転に伴って、第二外歯歯車140が入出力軸線X1回りに公転する。このとき、第二外歯歯車140は、内歯歯車121に噛合することによって、第二外歯142と内歯121bとの歯数差に対応する分、第二偏心軸線X3回りに自転する。
【0054】
ここで、第一,第二外歯本体131,141の円形貫通孔131a,142には、内ピン160が貫通されている。そして、すべり軸受162が円形貫通孔131a,142の内周面にすべり接触している。この内ピン160は、出力軸152のフランジ部152bに形成されるそれぞれの円形凹部152cに嵌合されている。従って、第一,第二外歯歯車130,140は、出力軸152に対して自転することが規制されている。つまり、入力軸110が入出力軸線X1回りに回転することにより、第一,第二外歯歯車130,140は、入出力軸線X1回りに公転しつつ、第二偏心軸線X2,X3回りの自転はしない。ただし、第一,第二外歯歯車130,140は、入力軸110から見た場合には、相対的に公転および自転している。
【0055】
このように、第一,第二外歯歯車130,140が自転規制されつつ公転することにより、第一,第二外歯歯車130,140のうち内歯歯車121に噛合する位相が徐々に移動していく。その結果、第一,第二外歯歯車130,140と内歯歯車121との歯数差に対応する分だけ、出力軸152が入出力軸線X1回りに回転する。つまり、入力軸110が1回転したときには、出力軸152は、内歯歯車121の各歯間位相に、第一,第二外歯歯車130,140と内歯歯車121との歯数差を乗じた角度だけ回転する。従って、内歯歯車121の各歯間位相が小さいほど、かつ、第一,第二外歯歯車130,140と内歯歯車121との歯数差が少ないほど、減速比が高くなることになる。従って、第一,第二外歯歯車130,140がハウジングHに対して相対回転する際に、第一,第二外歯歯車130,140の第一,第二偏心軸線X2,X3回りの自転の成分が出力軸152に伝達される。
【0056】
そして、出力軸152は、第2ピニオン10に同軸に連結されている。従って、出力軸152は、減速された電動モータ40の駆動力を伝達し、ラック軸5を補助駆動する。
【0057】
次に、内歯歯車121と第一,第二外歯歯車130,140の概要構成について図5を参照して詳細に説明する。内歯121bおよび第一,第二外歯132,142は、上述したように、インボリュート歯形を適用している。インボリュート歯形を適用する場合には、噛み合い数が少なくなるため、動力を伝達する際に、噛み合っている歯に応力が集中するという問題があった。この点について、本発明者等が鋭意、内歯121bと第一,第二外歯132,142の噛み合い状態について研究し、適切な内歯歯車121と第一,第二外歯歯車130,140の構成について検討した。
【0058】
重要なことは、回転駆動力を伝達している状態(本発明の「駆動状態」に相当する)において、内歯歯車121と第一,第二外歯歯車130,140を弾性変形させて、噛み合う歯数を増加させることとした点である。より詳細には、内歯本体121aおよび第一,第二外歯本体131,141の周方向への伸張弾性変形または収縮弾性変形により、噛み合う歯数を増加させた。つまり、回転駆動力を内歯歯車121と第一,第二外歯歯車130,140との間で伝達する際に、その回転駆動力に応じて、内歯本体121aおよび第一,第二外歯本体131,141を周方向に弾性変形させることで、理論上噛み合っていない歯を噛み合う歯に変化させることができる。そして、駆動状態において、内歯本体121aおよび第一,第二外歯本体131,141の両者が弾性変形することにより、内歯121bと第一,第二外歯132,142の噛み合い数が、回転駆動力が伝達されていない状態(本発明の「非駆動状態」に相当する)における内歯121bと第一,第二外歯132,142との噛み合い数よりも多くなるように設定されている。
【0059】
そのためには、図5に示すように、非駆動状態において、噛み合っていない内歯121bの歯面と第一,第二外歯132,142の歯面との周方向隙間Wを小さく設定することが必要となる。内歯121bの歯面と第一,第二外歯132,142の歯面との周方向隙間Wが、駆動状態における内歯121bの周方向収縮方向への移動量と第一,第二外歯132,142の周方向伸張方向への移動量との合計値よりも小さくなる場合に、駆動状態において当該内歯121bと第一,第二外歯132,142とが接触して噛み合う歯に変化することになる。
【0060】
次に、上述した内歯歯車121および第一,第二外歯歯車130,140の構成を設計するための具体的な設計手法概念について、図6〜図8を参照して説明する。ここで、以下の説明において、説明の容易化のため、内歯歯車121と第一外歯歯車130の設計について説明する。なお、第二外歯歯車140は、第一外歯歯車130と同一である。
【0061】
まずは、各歯の諸元について図6を参照して説明する。各歯の諸元は下記のように定義される。ここで、第一外歯132について各記号の添え字を1とし、内歯121bについて各記号の添え字を2とする。また、図6において、内歯121bのピッチ円をC2aとし、基礎円をC2bとし、第一外歯132のピッチ円をC1aとし、基礎円をC1bとする。
【0062】
【数5】

【0063】
上記の諸元を用いて、以下の歯諸元は、式(5)〜式(9)のように表される。
【0064】
【数6】

【0065】
【数7】

【0066】
【数8】

【0067】
【数9】

【0068】
【数10】

【0069】
【数11】

【0070】
次に、内歯歯車121と第一外歯歯車130とが噛み合う際に隣接する内歯121bと第一外歯132の歯面間の隙間δiを算出する理論について図6および図7を参照して説明する。ここで、図7は、説明を容易にするために、内歯121bおよび第一外歯132を水平に展開した図とし、かつ、各歯面をインボリュート形状ではなく直線形状として図示している。また、内歯121bおよび第一外歯132の位置を、歯番号としての添え字のiで表す。歯番号i=1となる内歯121bおよび第一外歯132は、非駆動状態において接触する内歯121bと第一外歯132であり、基準噛合歯と称する。そして、歯番号iの値は、基準噛合歯から周方向に遠ざかる順に1加算した値とする。
【0071】
まず、基準噛合歯からi番目の歯における、内歯121bと第一外歯132との噛み合い線上の各歯面の圧力角(噛み合い圧力角)αiを式(10)に従って算出する。
【0072】
【数12】

【0073】
次に、第一外歯132の基礎円C1bから第一外歯132の歯先までの任意円上であって、第一外歯132が噛み合いに参加する可能性がある点の座標を算出する。まずは、第一外歯歯車130の中心oを基準とするo−xy座標系における、第一外歯132の噛み合い点の座標(xi,yi)を式(11)に従って算出する。
【0074】
【数13】

【0075】
この第一外歯132の噛み合い点の座標(xi,yi)を、内歯歯車121の中心Oを基準とするO−XY座標系における座標(Xi,Yi)に座標変換すると、式(12)にて表される。
【0076】
【数14】

【0077】
続いて、式(12)にて算出した第一外歯132の噛み合い点の座標(xi,yi)を用いて、各第一外歯132に対応する内歯121bの圧力角a2,iを式(13)に従って算出する。さらに、内歯121bの中心Oを基準とするO−XY座標系における、内歯121bの噛み合い点の座標(X1,i,Y2,i)を式(14)に従って算出する。
【0078】
【数15】

【0079】
【数16】

【0080】
そして、式(12)と式(14)により、基準噛合歯からi番目の内歯121bの歯面と第一外歯132の歯先との隙間δiは式(15)のように表される。このようにして、当該隙間δiを算出する。従って、当該隙間δiは、モジュールm、基準圧力角α、歯数z1,z2、転位係数x1,x2、中心間距離aを変数とする関数で表される。
【0081】
【数17】

【0082】
次に、第一外歯歯車130と内歯歯車121との間で伝達される力がT[N]のときに、各歯が受ける力によって各歯の移動する量を算出する。ここで、図7に示すように、基準噛合歯である第一外歯132と内歯121bとが噛み合っている場合に、第一外歯本体131の基準噛合歯近傍の領域は、伝達力Tによって周方向に伸張する方向に弾性変形する。一方、内歯本体121aの基準噛合歯近傍の領域は、伝達力Tによって周方向に収縮する方向に弾性変形する。さらに、第一外歯132の基準噛合歯近傍の領域は、対応する内歯121bから受ける力によって撓み変形する。一方、内歯121bの基準噛合歯近傍の領域は、対応する第一外歯132から受ける力によって撓み変形する。
【0083】
つまり、第一外歯132の周方向伸張方向への移動量δ1,iおよび、内歯121bの周方向収縮方向への移動量δ2,iは、式(16)に従って算出される。ここで、式(16)の第一式における第一項が、第一外歯本体131の周方向伸張方向への弾性変形量に相当し、第二項が、第一外歯132の撓み変形量に相当する。また、式(16)の第二式における第一項が、内歯本体121aの周方向収縮方向への弾性変形量に相当し、第二項が、内歯121bの撓み変形量に相当する。
【0084】
【数18】

【0085】
ここで、図8に示すように、基準噛合歯からの位相に対する各歯が受け得る負荷の特性は、基準噛合歯から遠ざかるほど負荷は小さくなる関係を有する。また、式(16)における基準噛合歯からi番目の第一外歯132の有効断面積S1,iおよび基準噛合歯からi番目の内歯121bの有効断面積S2,iは、式(17)に従って算出される。
【0086】
【数19】

【0087】
最後に、式(15)および式(16)により、式(18)の関係を満たすような、諸元を設定する。
【0088】
【数20】

【0089】
式(18)において、i=1である基準噛合歯においては、既に接触しているため、当然に式(18)の関係を満たす。そして、少なくともi=2としたときの式(18)の関係を満たすように、各歯の諸元を設定する。具体的には、モジュールmを設定することになる。i=2としたときに式(18)の関係を満たす場合には、少なくとも基準噛合歯の隣の歯が噛み合っている状態となる。
【0090】
また、i=2としたときに式(18)の関係を満たすように設定されたモジュールmよりも小さなモジュールmとすることで、式(18)の関係を満たすiの値が大きくなる。つまり、式(18)により、モジュールmの上限値が決定される。そして、他の条件を満たす範囲内で、より小さなモジュールmを選択することにより、多数の歯が噛み合いに参加する状態となる。
【0091】
式(16)(18)から分かるように、第一外歯本体131および内歯本体121aの基準噛合歯近傍の領域がそれぞれ周方向に伸張弾性変形または収縮弾性変形することにより、第一外歯132と内歯121bの噛み合い数を多くなるような諸元を設定している。そして、このように第一外歯本体131および内歯本体121aの基準噛合歯近傍の領域を周方向に弾性変形させつつ、噛み合い数を多くするためには、上述したように、内歯歯車121および第一外歯歯車130のモジュールmを可能な限り小さくすることになる。
【0092】
このことを実現するために、内歯121bの数および第一,第二外歯132,142の数を、いずれも100以上に設定する。特に、歯数が100より多ければ多いほど、上述した周方向隙間が小さくなる内歯121bと第一,第二外歯132,142とが多く存在することになる。さらに、第一,第二外歯132,142の数Naと内歯121bの数Nbとの比の値(Na/Nb)が、0.9以上であって1未満に設定する。特に、当該歯数比の値(Na/Nb)が、1に近づくほど、上述した周方向隙間が小さくなる内歯121bと第一,第二外歯132,142とが多く存在することになる。
【0093】
以下に、FEM解析を行った結果について説明する。第一,第二外歯132,142の数と内歯121bの数の比の値(Na/Nb)を0.975〜0.995の範囲で変化させ、且つ、内歯121bの数が50〜200に変化させた場合について、回転駆動力を付与した場合に、内歯121bと第一,第二外歯132,142にかかる応力についてFEM解析を行った。
【0094】
図9には、横軸を第一,第二外歯132,142の数と内歯121bの数の比の値(Na/Nb)とし、縦軸を噛み合い歯数として表示し、内歯121bの歯数を120,200に変化させた場合について示す。また、図10には、横軸を内歯121bの歯数とし、縦軸を噛み合い歯数として表示し、歯数比の値(Na/Nb)を0.975,0.991,0.995に変化させた場合について示す。
【0095】
図9および図10に示すように、内歯121bの数が同一の場合において、歯数比の値(Na/Nb)が大きくなるに従って、噛み合い歯数も増加している。特に、歯数比の値(Na/Nb)を0.975以上で、歯数120以上とすることで、噛み合い歯数を4箇所以上にできる。すなわち、非駆動状態(理論上)における噛み合い歯数の2倍以上にすることができる。また、内歯121bの歯数が多いほど、噛み合い歯数が増加している。特に、内歯121bの歯数および第一,第二外歯132,142の歯数が100以上で、噛み合い歯数を4箇所以上にできる。すなわち、非駆動状態(理論上)における噛み合い歯数の2倍以上にすることができる。
【0096】
また、非駆動状態において内歯121bと第一,第二外歯132,142の噛み合う歯を基準噛合歯とした場合に、駆動状態において、どの位置にある内歯121bと第一,第二外歯132,142が噛み合うかについて、FEM解析を行った。具体的には、内歯121bと第一,第二外歯132,142との周方向隙間を解析することによって把握できる。図11には、歯数比の値0.975、外歯117個、内歯120個の場合、歯数比の値0.991、外歯119個、内歯120個の場合、歯数比の値0.995、外歯199個、内歯200個の場合について、基準噛合歯の近傍に位置する内歯121bと第一,第二外歯132,142との周方向隙間について、横軸に基準噛合歯を中心(0)として周方向一側と周方向他側に位置する歯を示し、縦軸に周方向隙間を示す。なお、横軸において、周方向一側をプラスとし、周方向他側をマイナスとして示す。
【0097】
図11に示すように、基準噛合歯から周方向一側および周方向他側のそれぞれ遠ざかるほど、周方向隙間が大きくなっていることが分かる。さらに、基準噛合歯から遠ざかった歯において、歯数比の値が大きいほど、周方向隙間が小さいことが分かる。また、何れの解析結果においても、基準噛合歯から周方向一側と周方向他側とで周方向隙間が同じように変化している。従って、回転駆動力が伝達されることによって、基準噛合歯から周方向一側における内歯121bと第一,第二外歯132,142との噛み合い数と、基準噛合歯から周方向他側における内歯121bと第一,第二外歯132,142との噛み合い数は、同数となる。
【0098】
また、図12および図13に、負荷トルクを変化させた場合に、減速比を39、99、199のそれぞれについて、噛み合い歯数と最大面圧についての解析結果を示す。つまり、モジュールを小さくして減速比を大きくすることにより、負荷トルクが大きくなった場合でも、最大面圧が低減されていることが分かる。
【0099】
モジュールmを小さくすることにより、内歯121bおよび第一外歯132の歯丈が低くなるため、内歯121bおよび第一外歯132の撓みが小さくなる。つまり、式(16)の第二項の値が小さくなる。仮に、内歯121bおよび第一外歯132の撓みが大きくなると、内歯121bおよび第一外歯132の先端角部が相手歯面に接触するおそれがある。この接触により、接触する歯面における面圧が高くなるという問題が生じる。しかし、モジュールmを小さくすることにより、内歯121bおよび第一外歯132の撓みを小さくできることにより、内歯121bおよび第一外歯132の先端角部が相手歯面に接触することを防止できる。つまり、先端角部の接触による高面圧化を防止できる。第一外歯132および内歯121bに生じる面圧が小さくなるため、第一外歯132および内歯121bが受ける荷重を大きくすることができる。その結果、内歯歯車121および第一外歯歯車130の全体としてさらに高いトルクを伝達できるようになる。
【0100】
ところで、図8に示すように、基準噛合歯から周方向に遠ざかるほど、内歯本体121aおよび第一外歯本体131に生じる荷重が小さくなる。つまり、内歯本体121aおよび第一外歯本体131において、基準噛合歯から周方向に近い位置ほど大きく伸張弾性変形または収縮弾性変形をする。そして、上述したように、モジュールmを小さくすることになるため、言い換えると、同径の場合には、第一外歯132の数および内歯121bの数が多くなるということになる。つまり、隣り合う第一外歯132のピッチP1,i、および、隣り合う内歯121bのピッチP2,iが狭くなる。そうすると、基準噛合歯から周方向に近い位置に多くの内歯121bおよび第一外歯132が存在する状態となる。従って、内歯本体121aおよび第一外歯本体131の基準噛合歯近傍の領域における伸張弾性変形量または収縮弾性変形量が大きな位置に多数の内歯121bおよび第一外歯132が存在するため、多くの内歯121bおよび第一外歯132が噛み合いに参加できる。このように、モジュールmを小さくすることにより、結果として、多くの内歯121bおよび第一外歯132が噛み合いに参加できる雰囲気を形成することができる。
【0101】
さらに、モジュールmを小さくすると、内歯121bおよび第一外歯132のインボリュート歯面が、直線的になる。その結果、内歯121bと第一外歯132の接触面積が大きくなり、このことからも内歯121bおよび第一外歯132に生じる面圧が小さくなる。従って、内歯歯車121および第一外歯歯車130の全体としてさらに高いトルクを伝達できるようになる。さらに、モジュールmを小さくすることにより、隣接する内歯121bと第一外歯132の歯面間の隙間が小さくなる。このことからも、多くの内歯121bおよび第一外歯132が噛み合いに参加できる可能性が高くなる。
【0102】
さらに、各歯が受ける面圧が小さくなることにより、従来当然のように施していた熱処理を廃止することができる場合が出てくる。つまり、面圧低下に伴い、各歯に生じる面圧が、熱処理を施すことなく耐圧の範囲内となる場合がある。その結果、熱処理を不要とすることにより、低コスト化を図ることができる。
【0103】
そして、インボリュート歯形を揺動内接式遊星歯車装置1に適用することができるため、小型で高い減速比の装置を実現できる。また、基準噛合歯から周方向一側と周方向他側の両方向に同数の内歯121bと第一,第二外歯132,142が噛み合っているようにすると、安定して駆動トルクの伝達がされる。さらには、駆動状態において内歯121bと第一,第二外歯132,142との噛み合う位置が周方向に移動していく際に、それぞれの内歯本体121aおよび第一,第二外歯本体131,141の基準噛合歯近傍の領域の弾性変形量が、徐々に大きくなっていき、ピークに達すると、その後徐々に小さくなっていき、接触しない状態へと移行する。その結果、駆動トルクの伝達が確実に行うことができ、各内歯121bおよび各外歯132,142に急激な負荷をかけることがない。従って、耐久性も優れている。
【0104】
上記実施形態においては、電動パワーステアリング装置を、第1ピニオン及び第2ピニオンと、それらと歯合する第1ラック歯及び第2ラック歯がそれぞれ形成されたラック軸とから構成される操舵機構に適用した場合について説明した。この他に、第1ピニオン及び第2ピニオンと、これらと歯合する第1ラック歯及び第2ラック歯が一体的に形成されたラック歯を有するラック軸とから構成される操舵機構に適用することもできる。これらにおいても上記と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0105】
1,2:車輪、 3,4:操舵機構、 3a、4a:タイロッド
5:ラック軸、5a:第1ラック歯、 5b:第2ラック歯
6:第1ピニオン、 7:トルクセンサ、
8:ステアリングシャフト、 9:ステアリングホイール、
10:第2ピニオン、 13:制御装置、
31:ギヤハウジング、 32,33:サポートヨーク手段、
40:電動モータ、 41:ステータ、 42:ロータ、
60:減速機、
71:第一軸受、 72:第二軸受、 73:第三軸受、
74:第四軸受、 75:第五軸受、
101:電動パワーステアリング装置、
110:入力軸、 110a:基端部、 110b:先端部、
112:第一偏心体、 113:第二偏心体、
121:内歯歯車、 121a:内歯本体、 121b:内歯、
130:第一外歯歯車、131:第一外歯本体、131a:円形貫通孔、
132:第一外歯、
140:第二外歯歯車、141:第二外歯本体、141a:円形貫通孔、
142:第二外歯、
152:出力軸、 152a:軸部、 152b:フランジ部、 152c:円形凹部、
160:内ピン、 161:ピン本体、 162:すべり軸受、
H:ハウジング、
W:周方向隙間、
X1:入出力軸線、
X2:第一偏心軸線、
X3:第二偏心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールからステアリングシャフトに加わる操舵力に応じて、モータを駆動制御し、前記モータの回転を、減速機を介して、操舵補助力として与える電動パワーステアリング装置であって、
前記ステアリングホイールの操舵により回転する第1ピニオンシャフトと、
前記モータの駆動により回転する第2ピニオンシャフトと、
前記第1ピニオンシャフト及び前記第2ピニオンシャフトと歯合するラック歯を有し軸方向に移動可能に設けられたラック軸と、
を備え、
前記減速機は、
入出力軸線回りに回転し、前記入出力軸線に対して偏心した偏心軸線を中心とした偏心体と、
環状の内歯本体および前記内歯本体の内周側に一体形成された複数の内歯を備え、前記入出力軸線を中心とした内歯歯車と、
環状の外歯本体および前記外歯本体の外周側に一体形成された複数の外歯を備え、前記偏心体に対して相対回転可能に支持され、前記偏心軸線を中心とし、駆動状態において前記内歯歯車に噛合しながら前記内歯歯車に対して相対的に揺動回転する外歯歯車と、
を備え、
前記内歯および前記外歯は、インボリュート歯形に形成され、
駆動状態において、前記内歯本体および前記外歯本体の一方が周方向に伸張弾性変形し且つ他方が収縮弾性変形することにより、前記内歯と前記外歯の噛み合い数が、非駆動状態における前記内歯と前記外歯との噛み合い数よりも多くなるように設定され、
歯番号iを、非駆動状態において噛み合う前記内歯および前記外歯である基準噛合歯を1とし、前記基準噛合歯から遠ざかる前記内歯および前記外歯について1ずつ加算した値として定義し、
前記歯番号iにおける前記内歯および前記外歯の一方の伸張方向の移動量をδ1,iとし、
前記歯番号iにおける前記内歯および前記外歯の他方の収縮方向の移動量をδ2,iとし、
前記歯番号iにおける前記内歯の歯面と前記外歯の歯先との隙間をδiとした場合に、
前記内歯歯車および前記外歯歯車のモジュールは、式(1)を満たすように設定されたモジュールである揺動内接式遊星歯車装置であり、
前記モータは、
円筒形状のロータと、
前記ロータの径方向外側に対向して配置された円筒形状のステータと、
前記入出力軸線上に配されるとともに前記ロータ内に嵌合されることで前記ロータの回転を前記揺動内接式遊星歯車装置の前記偏心体に伝達するシャフトと、
を備え、
前記シャフトは、前記第2ピニオンシャフトと同軸に連結されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【数1】

【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記揺動内接式遊星歯車装置は、
前記歯番号iにおける前記内歯および前記外歯の一方の伸張方向の移動量δ1,iを式(2)として定義し、
前記歯番号iにおける前記内歯および前記外歯の他方の収縮方向の移動量δ2,iを式(3)として定義し、
前記歯番号iにおける前記内歯の歯面と前記外歯の歯先との隙間δ iを式(4)として定義したことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【数2】

【数3】

【数4】

【請求項3】
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記揺動内接式遊星歯車装置は、
前記内歯歯車および前記外歯歯車のモジュールは、前記式(1)においてi=2を満たすモジュール以下に設定されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−35475(P2013−35475A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174562(P2011−174562)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】