説明

電動パワーステアリング装置

【課題】緩衝機能を長期間持続できる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】取付け穴27、挿通穴28および段部27aを形成したハウジング25と、電動モータと、減速機構と、ボールネジ機構40とを備え、ボールネジ機構40は、ボールナット41と、ボールネジ部42とを備え、ボールネジ部42に自在継手81を連結し、自在継手81が当接するストッパ部75を取付け穴27の近傍でハウジング25に形成し、ストッパ部75より自在継手81側へ突出する形で取付け穴27に嵌合され、自在継手81によって圧縮される緩衝装置70を有する電動パワーステアリング装置において、緩衝装置70は、円筒状で一端に自在継手81に当接するフランジ部74を有するカラー部71と、カラー部71および取付け穴27間に介挿され、フランジ部74および段部27a間で軸方向に圧縮される緩衝部72とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの回転をボールネジ機構によってラック軸の軸方向移動に変換して車輪の操舵をアシストするようにした電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7(特許文献1)に示すように、電動ハウジング100および減速ハウジング101の挿通穴102にボールネジ部110を挿通し、ボールネジ部110にボール111を介してボールナット112を係合させ、ボールナット112を複列アンギュラ玉軸受120を介して電動ハウジング100に回転可能に軸承させ、ボールナット112に減速ギヤ130を嵌合固定している。電動モータ140の回転軸141の回転を、入力軸142、駆動ギヤ143、中間ギヤ144を介して減速ギヤ130に伝達することにより、ボールナット112を回転させ、ボールネジ部110の軸方向移動に変換している。
【0003】
ボールネジ部110の一端には、図略の自在継手が連結され、自在継手が減速ハウジング101のストッパ部103に当接することにより、ボールネジ部110の軸方向移動が制限されている。減速ハウジング101にはテーパ状の取付け穴104が形成され、この取付け穴104に樹脂製の緩衝部材160が嵌め込まれている。挿通穴102および取付け穴104間に段部105が形成され、この段部105に緩衝部材160の一端が当接している。自在継手がストッパ部103に当接する前に、緩衝部材160が自在継手および段部105間で圧縮されることにより、ボールネジ部110の軸方移動のエネルギーを吸収し、自在継手がストッパ部103に当接するときの干渉音を下げる効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−47111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
緩衝部材160の軸方向長さが短いので、自在継手により緩衝部材160が繰り返し圧縮されることにより、緩衝部材160がへたりやすく、早期に緩衝部材160の緩衝機能が低下する。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、緩衝機能を長期間持続できる電動パワーステアリング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、取付け穴、挿通穴および段部を形成したハウジングと、このハウジングに取付けられた電動モータと、電動モータの回転を減速する減速機構と、この減速機構により減速された回転を軸方向移動に変換するボールネジ機構とを備え、前記ボールネジ機構は、前記ハウジングに回転可能に軸承されるボールナットと、このボールナットに係合し前記取付け穴および前記挿通穴を挿通するボールネジ部とを備え、ボールネジ部の一端に自在継手を連結し、この自在継手が当接するストッパ部を前記取付け穴の近傍で前記ハウジングに形成し、前記ストッパ部より前記自在継手側へ突出する形で前記取付け穴に嵌合され、前記自在継手および前記段部とで圧縮される緩衝装置を有する電動パワーステアリング装置において、
前記緩衝装置は、円筒状で一端に前記自在継手に当接するフランジ部を有するカラー部と、このカラー部および前記取付け穴間に介挿され、前記フランジ部および前記段部間で軸方向に圧縮される緩衝部とからなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フランジ部および段部間で緩衝部が圧縮されたときに、カラー部によって、緩衝部の座屈を防ぐことができるので、緩衝部の軸方向長さを長くすることができ、緩衝機能を長期間持続できる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態における電動パワーステアリング装置全体図である。
【図2】本発明の実施形態における図1のA−A線断面図ある。
【図3】本発明の実施形態における図1の電動アシスト部の拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態における図1のボールネジ機構の拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態における図1のB−B線拡大断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態における図1のB−B線拡大断面図である。
【図7】従来における電動アシスト部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、図1ないし図5を参酌しつつ説明する。図1は電動パワーステアリング装置全体図であり、図2は図1のA−A線断面図であり、図3は図1の電動アシスト部の拡大断面図であり、図4は図1の電動アシスト部の拡大断面図であり、図5は図1のB−B線拡大断面図である。
【0011】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、図略のステアリングホイールの回転をラック軸13の軸方向移動に変換するラックピニオン機構11と、ラック軸13に軸方向のアシスト力と付与する電動アシスト部20とからなっている。電動アシスト部20は、電動モータ21と、電動モータ21の回転軸22の回転を減速する減速機構30と、減速された回転をラック軸12の軸方向移動に変換するボールネジ機構40とからなっている。さらに、電動パワーステアリング装置10は、後述するトルクセンサ80からの信号と、図略の車速センサからの信号とにより、電動モータ21を制御する図略のECU(Electronic control Unit:電子制御ユニット)を有する。
【0012】
図1および図2に示すように、前記ラックピニオン機構11は、図略のステアリングホイールの回転が図略のコラムを介して伝達されるピニオン軸12と、ピニオン軸12を回転可能に軸承するギヤハウジング14と、ピニオン軸12に噛合しピニオン軸12の回転をラック軸13の軸方向移動に変換するラック軸13と、このラック軸13の背後からラック軸13をピニオン軸12に噛合する方向に押圧するラックガイド機構60とからなっている。
【0013】
前記ギヤハウジング14は、図略の車体に固定されている。前記ラック軸13の両端は、ギヤハウジング14、後述する電動ハウジング24および減速ハウジング25からそれぞれ外方へ突出している。ラック軸13の両端には、自在継手81がネジ結合されている。この自在継手18を介して図略のタイロッド、図略のナックルアームを介して車輪が連結されている。
【0014】
ピニオン軸12は、これの軸方向中間に図略のトーションバーを有し、ピニオン軸12の入力側に回転トルクが作用すると、ピニオン軸の入力側とピニオン軸の出力側が互いに相対するようになっている。入力側と出力側の相対回転を検出するためのトルクセンサ80がギヤハウジング14に設けられている。
【0015】
前記ラックガイド機構60は、ギヤハウジング14に形成されたガイド穴61と、ガイド穴61に摺動可能に嵌合されるヨーク62と、ガイド穴61の一端に形成されたネジ穴に螺合された詰め栓63と、ヨーク62および詰め栓63間に介挿された押圧ばね64と、ヨーク62に取り付けられラック軸13に摺接する樹脂シート65とからなっている。押圧ばね64の押圧力によりラック軸13は、ピニオン軸12に噛合する方向に押圧されている。
【0016】
ギヤハウジング14の一端には、前記自在継手81が当接するストッパ部15が形成されている。ストッパ部15にはラック軸13と同軸に環状の取付け溝16が形成され、この取付け溝16にリング状の緩衝部材75が嵌め込まれている。ストッパ部15は、ラック軸13の軸方向移動を規制する機能を有し、緩衝部材75はラック軸13の軸方向移動のエネルギーを吸収してストッパ部15に当たるときの干渉音を下げる機能を有する。緩衝部材75は、ウレタンの材料から射出成形等により製作される。
【0017】
ギヤハウジング14の他端には、電動ハウジング24が取付けられ、電動ハウジング24に減速ハウジング25がボルト26を介して連結されている。電動ハウジング24に、電動モータ21が取付けられ、電動モータ21は回転駆動される回転軸22を有する。
【0018】
図1、図3および図4に示すように、前記減速機構30は、回転軸22と同軸に配置された入力軸34と、入力軸34に一体形成された駆動ギヤ31と、後述するボールナット41の他端外周に嵌合固定された減速ギヤ33と、ラック軸13および入力軸34間でこれらに対し平行に配置された中間軸35と、この中間軸35に一体形成され、駆動ギヤ31および減速ギヤ33に噛み合う中間ギヤ32とを備えている。減速ギヤ33は、駆動ギヤ31よりも多くの歯数を有し、駆動ギヤ31の回転は減速されて後述するボールナット41に伝えられる。回転軸22および入力軸34間には、樹脂製のカップリング23が介挿され、回転軸22の回転は、このカップリング23を介して入力軸34に伝達される。カップリング23は、回転軸22および入力軸34間の軸のずれ、傾きを吸収する役目を有する。
【0019】
ボールネジ機構40は、ラック軸13の一部に一体形成されたボールネジ部42と、ボールネジ部42の周囲を取り囲むように同軸に配置されたボールナット41と、ボールネジ部42およびボールナット41の間に介在する複数のボール43とからなっている。ボールナット41の一端側へ移動したボール84を、ボールナットの他端側へ戻して循環させるための図略のサーキュレータが、後述する複列アンギュラ玉軸受54の内径側でボールナット41に取付けられている。
【0020】
減速機構30およびボールネジ機構40は、電動ハウジング24および減速ハウジング25内に収容されている。入力軸34は、電動ハウジング24および減速ハウジング25により保持された一対の玉軸受50、51によって回転可能に支持されている。中間軸35は、電動ハウジング24により保持された一対の玉軸受52、53によって回転可能に支持されている。またボールナット41は、電動ハウジング24により保持された複列アンギュラ玉軸受54によって回転可能に支持されている。
【0021】
複列アンギュラ玉軸受54の外輪は、電動ハウジング24の段部と、ロックナット44とで挟み込まれ、ロックナット44は電動ハウジング24のネジ穴に螺合されている。複列アンギュラ玉軸受54の内輪は、ボールナット41の段部と、ロックナット43とで挟み込まれ、ロックナット43はボールナット41の一端外周のネジ部に螺合されている。
【0022】
減速ギヤ33およびボールナット41は、複列アンギュラ玉軸受54のみによって、片持ち支持されている。減速ギヤ33を片持ち支持した場合、減速ギヤ33のアライメント誤差が増加するおそれがある。そこで、減速ギヤ33の歯面に、歯すじ方向のクラウニングを設けることが好ましい。これにより、前記アライメント誤差の増加に拘らず、ギヤ騒音の増加を抑制することができる。
【0023】
図3および図4に示すように、減速ハウジング24には、自在継手81が当接するストッパ部75が一体的に形成されている。ストッパ部75にはボールネジ部42と同軸に環状の取付け穴27および挿通穴28が形成され、この取付け穴27に円筒状の緩衝装置70が嵌め込まれている。取付け穴27と挿通穴28間には、段部27aが形成されている。
【0024】
緩衝装置70は、円筒状のカラー部71と、カラー部71の外周に円周上等間隔に固着された緩衝部72とからなっている。カラー部71は、他端に外径方向に突出したフランジ部74を有し、このフランジ部74に自在継手81が当接する。カラー部71の外周には、円周上等間隔に軸方向溝73が形成され、この軸方向溝73に緩衝部72が嵌め込まれ、さらに脱落しないように接着剤を介して固着されている。軸方向溝73は、ラック軸13の軸方向に形成され、内径方向に凹んでいる。また軸方向溝73は、フランジ部74の裏面まで形成され、フランジ部74の裏面に凹んでいる。緩衝部72の他端に外径方向へ突出した突起部72aを有し、この突起部72aは、フランジ部74の裏面の軸方向溝73に嵌め込まれている。緩衝部72の一端が段部27aに当接している。このようにして、緩衝部72は、フランジ部74および段部27aによってラック軸13の軸方向に挟み込まれている。
【0025】
緩衝部72によって、カラー部71および挿通穴28間に半径方向に隙間を有し、カラー部71のフランジ部74およびストッパ部75間にラック軸13の軸方向の隙間を有する。ストッパ部75は、ラック軸13の軸方向移動を規制する機能を有し、緩衝装置70はラック軸13の軸方向移動のエネルギーを吸収してストッパ部75に当たるときの干渉音を下げる機能を有する。カラー部71を使用することにより、緩衝部72がラック軸13の軸方向に押しつぶされたときに、緩衝部72が座屈するのを防止できる。このようにして、緩衝部72のラック軸13の軸方向長さを長くとることにより、緩衝部72が早期にへたるのを防止できる。カラー部71は、鉄系の材料からプレス等により成形される。緩衝部71は、ゴムの材料から射出成形等により成形される。
【0026】
前記減速ギヤ33およびボールナット41を、負荷容量が大きくモーメント荷重に強い複列アンギュラ玉軸受54のみで支持している。すなわち、減速ギヤ33およびボールナット41を、複列アンギュラ玉軸受54によって片持ち支持し、他方の軸受を廃止する。これにより、減速ハウジング25に設けたストッパ部75を、減速ギヤ33の内径側に配置するレイアウトが実質的に可能となる。ストッパ部75を減速ギヤ33の内径側に配置することにより、電動パワーステアリング装置10のラック軸13の軸方向長さを短くしている。
【0027】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0028】
上述した実施形態として、駆動ギヤ31、減速ギヤ33および中間ギヤ32のそれぞれは、平歯車により構成した。他の実施形態として、駆動ギヤ31、減速ギヤ33および中間ギヤ32のそれぞれは、はすば歯車により構成しても良い。
【0029】
上述した実施形態として、減速機構30は、平行軸歯車機構により構成した。他の実施形態として、減速機構30はベルト・プーリ機構により構成しても良い。
【0030】
上述した実施形態は、カラー部71に略直方体形状の緩衝部72を接着剤により固着した。他の実施形態として、図6に示すように、カラー部91に環状の嵌め込み溝93を形成し、この嵌め込み溝93に円筒状の緩衝部92を嵌め込んでも良い。カラー部91は、カラー部71と同様に円筒形状を有し、他端に外径方向に突出したフランジ部94を有する。嵌め込み溝93は、ラック軸13の軸方向に形成され、内径方向に凹んでいる。また嵌め込み溝93は、フランジ部94の裏面まで形成され、フランジ部94の裏面に凹んでいる。緩衝部92の他端に外径方向に突出したリング状のフランジ部92aを有し、このフランジ部92aは、フランジ部94の裏面の嵌め込み溝93に嵌め込まれている。緩衝部92が円周方向に連続してある分だけ、略直方体形状の緩衝部72に比べてよりへたりにくい。緩衝部92は、緩衝部72を円周方向に連続させたものである。
【符号の説明】
【0031】
25:減速ハウジング(ハウジング)、27:取付け穴、27a:段部、28:挿通穴、40:ボールネジ機構、41:ボールナット、42:ボールネジ部、70:緩衝装置、71:カラー部、72:緩衝部、74:フランジ部、75:ストッパ部、81:自在継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付け穴、挿通穴および段部を形成したハウジングと、このハウジングに取付けられた電動モータと、電動モータの回転を減速する減速機構と、この減速機構により減速された回転を軸方向移動に変換するボールネジ機構とを備え、前記ボールネジ機構は、前記ハウジングに回転可能に軸承されるボールナットと、このボールナットに係合し前記取付け穴および前記挿通穴を挿通するボールネジ部とを備え、ボールネジ部の一端に自在継手を連結し、この自在継手が当接するストッパ部を前記取付け穴の近傍で前記ハウジングに形成し、前記ストッパ部より前記自在継手側へ突出する形で前記取付け穴に嵌合され、前記自在継手および前記段部とで圧縮される緩衝装置を有する電動パワーステアリング装置において、
前記緩衝装置は、円筒状で一端に前記自在継手に当接するフランジ部を有するカラー部と、このカラー部および前記取付け穴間に介挿され、前記フランジ部および前記段部間で軸方向に圧縮される緩衝部とからなることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−6517(P2013−6517A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140456(P2011−140456)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】