説明

電動モータ

【課題】少なくとも部分的に打撃運動を行う手工具装置に使用する電動モータにおいて、整流子とカーボンブラシの間での空転(非接触状態)を減少する
【解決手段】ステータ3を有するハウジング2、ならびにロータ軸受4においてロータ軸線Aの周りに回転可能に取り付けたロータ5を設け、このロータ5には、ロータ軸6および整流子7を設け、また、ステータ3には、カーボンブラシ9を有するブラシ支持体8を回転不能に組付けた電動モータにおいて、整流子側の前記ロータ軸受4を、前記ブラシ支持体8に固着し、このブラシ支持体8はハウジング2に対して緩衝作用を生ずるよう浮動可能に支持する。また、整流子側のロータ軸受4を、耐振剛性を有する軸受ブロック10に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チゼルハンマーや組み合わせハンマーなどの、少なくとも部分的に打撃運動を行う手工具装置において使用する、整流子側にロータ軸受を有する電動モータに関する。
【0002】
通常、電動モータ(交直両用のユニバーサルモータ)には、ハウジング固定のブラシ支持体、ならびにハウジング固定で軸線方向にプレストレスを加えて支承する、または整流子側で浮動可能に取り付けたロータを設ける。
【背景技術】
【0003】
特許文献1(独国特許出願公開第3346697号)には、ハウジング固定のブラシ支持体を有する手工具装置のユニバーサルモータに、ロータ軸を整流子側でニードル軸受と一緒に、ゴム製鉢状体に浮動可能に支持したものが記載されている。この構成により、2個のシェルハーフにより構成したハウジングを有する手工具装置においても、変形し易いニードル軸受を、ロータの軸受として用いることができる。
【特許文献1】独国特許出願公開第3346697号明細書
【0004】
少なくとも部分的に打撃運動を行う手工具装置において使用することで、打撃運動により発生する振動に起因して、ロータ軸に取り付けた整流子とハウジング固定の、炭素ブラシを有するブラシ支持体との間に慣性に基づく相対運動を生じ、結果としてこれらの間で空転(非接触状態)が発生するため、電動モータの耐用寿命と性能を減少してしまう。
【0005】
特許文献2(特開2003‐289641号)においては、整流子と、カーボンブラシとの間に滑りが生じるのを防ぐために、スリーブ状の緩衝素子を介して、ブラシ支持体をハウジングに対して浮動可能に支持するが、ロータ軸はハウジング固定とする。しかしながら、ブラシ支持体の慣性により、少なくとも部分的に打撃運動をする手工具装置において使用する際、空転が発生してしまう。
【特許文献1】独国特許出願公開第3346697号明細書
【特許文献2】特開2003‐289641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、特に少なくとも部分的に打撃運動を行う手工具装置に使用する電動モータにおいて、整流子とカーボンブラシの間での空転(非接触状態)を減少することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載する特徴を備えた電動モータによって達成される。好適な実施形態を従属請求項に記載する。
【0008】
本発明は、ステータを有するハウジング、ならびにロータ軸受においてロータ軸線の周りに回転可能に取り付けたロータを設け、このロータは、ロータ軸および整流子を有し、また、前記ステータには、カーボンブラシを有するブラシ支持体を回転不能に組付けた電動モータにおいて、整流子側の前記ロータ軸受を、前記ブラシ支持体に固着し、このブラシ支持体を前記ハウジングに対して浮動可能に支持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
ロータ軸受をブラシ支持体に固着することで、整流子とカーボンブラシとの間で慣性に起因して発生する空転(非接触状態)を、構造的に避けることができる。さらに、ロータを、整流子側でブラシ支持体と一緒に、ハウジングに対して浮動可能に支持することで、ロータに起因して発生するハウジングの振動も十分に緩衝することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
好適には、整流子側のロータ軸受を、耐振剛性を有する軸受ブロック、より好適にはアルミニウム合金製の軸受ブロックに配置し、この軸受ブロックをブラシ支持体に固着し、かつハウジングに対して浮動可能に支持する。この構成によれば、実質的にロータ軸受とブラシ支持体との間に相対振動が起こらない。
【0011】
好適には、軸受ブロックを、粘弾性を有する緩衝素子を介してハウジングと連結する。この構成によれば、軸受ブロックは、ハウジングに対して弾性的に、緩衝作用を生ずるよう浮動可能に支持することができる。
【0012】
好適には、緩衝素子を円錐鉢状に構成し、この緩衝素子を、ハウジングの円錐状のピンに嵌め込み、緩衝素子自体も軸受ブロックに設けた円錐状の空所に嵌め込む。この構成によれば、半径方向および軸線方向に浮動可能に支持した軸受ブロックを、軸線方向にハウジングに取り付けることができ、構造的に簡単な組み立てが可能となる。
【0013】
好適には、円錐鉢状に構成した緩衝素子の底面にこぶを設ける。この構成によれば、軸線方向への弾性が高まる。
【0014】
好適な代案において、緩衝素子をスリーブ状に構成し、この緩衝素子には、ハウジングの連結ボルトを嵌め込み、緩衝素子自体も軸受ブロックに設けた空所に嵌め込む。この構成によれば、半径方向および軸線方向に浮動可能に支持した軸受ブロックを、軸線方向にハウジングに取り付けることができ、さらに構造的に簡単な組み立てが可能となる。
【0015】
好適には、スリーブ状に構成した緩衝素子内に、同軸状に補強スリーブを設ける。こうすることで、連結ボルトに押圧力が加わる。
【0016】
好適には、ロータ軸を、ロータ受けに軸線方向に押圧しプレストレスを加えて支持する。この構成によれば、慣性に起因する軸線方向の振動が減少する。
【0017】
好適には、軸受ブロックと、ロータ軸受の回転不能な軸受部分との間に、粘弾性を持つO‐リングを設ける。この構成によれば、軸線方向にプレストレスを加えたロータ軸は、軸線方向に緩衝されてプレストレスをかけられる。
【実施例1】
【0018】
図1は、打撃軸線Sに沿って打撃運動をし、これにより振動を発生する手工具装置に使用される本発明によるハウジング2を有する電動モータ1を部分的に分解した状態を示し、この電動モータ1は、ステータ3、ならびにロータ軸受4において回転軸線Aの周りに回転可能に配置したロータ5を設け、このロータ5は、ロータ軸6および整流子7を有する。ステータ3は、カーボンブラシ9を有するブラシ支持体8回転不能に組み付ける。ブラシ支持体8に固着した、整流子側のロータ軸受4は、耐振剛性を持つ、アルミニウム合金製の軸受ブロック10に配置する。この軸受ブロック10は、粘弾性を持つ緩衝素子11を介して、ハウジング2に対して緩衝作用を生ずるよう浮動可能に連結する。ロータ軸6は、ロータ軸受4に対して軸線方向にプレストレス(予応力)を加えるよう支持し、軸受ブロック10とロータ軸受4の回転不能な軸受部分18との間に、粘弾性を有するO‐リング19を配置する。
【0019】
図2に示すように、緩衝素子11は円錐鉢状に構成し、この緩衝素子11を、ハウジング2の円錐状のピン12に嵌め込み、また緩衝素子11自体も軸受ブロック10に設けた円錐状の空所13に嵌め込む。円錐鉢状に構成した緩衝素子11の底面14に複数個のこぶ15を設ける(変形していない状態を点線で示す)。
【0020】
軸受ブロック10と回転不能な軸受部分18との間には、押圧緊張する粘弾性を有するO‐リング19を配置する。
【実施例2】
【0021】
図3および図4に示す実施例においては、緩衝素子11′はスリーブ状に構成し、この緩衝素子11′には、ハウジング2に組み付けるべき連結ボルト16を嵌め込み、また緩衝素子11′自体も軸受ブロック10に設けた空所13′にはめ込む。スリーブ状に構成した緩衝素子11′内には、同軸状の金属製補強スリーブ17を設ける。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明電動モータの第1実施例の分解図である。
【図2】図1に示す本発明電動モータの詳細な縦断面図である。
【図3】本発明電動モータの第2実施例の分解図である。
【図4】図3に示す本発明電動モータの詳細な縦断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 電動モータ
2 ハウジング
3 ステータ
4 ロータ軸受
5 ロータ
6 ロータ軸
7 整流子
8 ブラシ支持体
9 カーボンブラシ
10 軸受ブロック
11,11′ 緩衝素子
12 ピン
13,13′ 空所
14 底面
15 こぶ
16 連結ボルト
17 補強スリーブ
18 軸受部分
19 O‐リング
20 手工具装置
A 回転軸線
S 打撃軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ(3)を有するハウジング(2)、ならびにロータ軸受(4)においてロータ軸線(A)の周りに回転可能に取り付けたロータ(5)を設け、このロータ(5)はロータ軸(6)および整流子(7)を有し、また、前記ステータ(3)には、カーボンブラシ(9)を有するブラシ支持体(8)を回転不能に組み付けた電動モータにおいて、
整流子側の前記ロータ軸受(4)を、前記ブラシ支持体(8)に固着し、このブラシ支持体(8)を前記ハウジング(2)に対して浮動可能に支持したことを特徴とする電動モータ。
【請求項2】
前記整流子側の前記ロータ軸受(4)を、耐振剛性を有する軸受ブロック(10)に配置した請求項1に記載する電動モータ。
【請求項3】
前記軸受ブロック(10)を、粘弾性を有する緩衝素子(11,11′)を介して前記ハウジング(2)に連結した請求項2に記載する電動モータ。
【請求項4】
前記緩衝素子(11)を円錐鉢状に構成し、この前記緩衝素子(11)を、ハウジング(2)の円錐状のピン(12)に嵌め込み、前記緩衝素子(11)自体も前記軸受ブロック(10)に設けた円錐状の空所(13)に嵌め込んだ請求項3に記載する電動モータ。
【請求項5】
円錐鉢状に構成した前記緩衝素子(11)の底面(14)にこぶ(15)を設けた請求項4に記載する電動モータ。
【請求項6】
前記緩衝素子(11′)をスリーブ状に構成し、この前記緩衝素子(11′)には、ハウジング(2)の連結ボルト(16)を嵌め込み、前記緩衝素子(11′)自体も前記軸受ブロック(10)に設けた空所(13′)に嵌め込んだ請求項3に記載する電動モータ。
【請求項7】
スリーブ状に構成した緩衝素子(11′)内に、同軸状に補強スリーブ(17)を設けた請求項6に記載する電動モータ。
【請求項8】
前記ロータ軸(6)を、前記ロータ軸受(4)に軸線方向にプレストレスを加えて支持した請求項1〜7のうちいずれか一項に記載する電動モータ。
【請求項9】
前記軸受ブロック(10)と、ロータ軸受(4)の回転不能な軸受部分(18)との間に、粘弾性を持つO‐リング(19)を設けた請求項8に記載の電動モータ。
【請求項10】
少なくとも部分的に打撃運動を行う手工具装置(20)において使用する請求項1〜9のうちいずれか一項に記載の電動モータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−206389(P2008−206389A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34839(P2008−34839)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】