説明

電動回転機

【課題】トルクの低下などを招くことなく、トルクリプルを低減させて、振動や騒音の少ない高品質な回転駆動をすることのできる電動回転機を提供すること。
【解決手段】固定子11は、回転子12に対面する複数本のティース15と、コイルをティースに巻き掛ける空間の複数のスロット18とを有し、回転子には、ティースに磁気力を働かせる一対の永久磁石16がV字に埋め込まれることにより、固定子内の回転子をリラクタンストルクとマグネットトルクにより回転駆動させる電動回転機10であって、回転子の外径Drの固定子の外径Dsに対する外径比率Δが、0.61〜0.645の範囲内に入るように回転子および固定子を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動回転機に関し、詳しくは、高品質な回転駆動を実現したものに関する。
【背景技術】
【0002】
各種装置に搭載する電動回転機には、搭載装置に応じた特性が要求されることになり、例えば、駆動源として内燃機関と共にハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle)に搭載されたり、単独の駆動源として電気自動車(Electric Vehicle)に搭載される、駆動用モータの場合には、低回転域で大トルクを発生するのと同時に、広い可変速特性を備えることが要求される。
【0003】
このような特性を有する電動回転機としては、マグネットトルクと共に、リラクタンストルクを効果的に利用可能な構造を採用するのが有効であり、外周面側に向かって開くV字型になるように永久磁石を回転子内に埋め込む、IPM(Interior Permanent Magnet)構造を採用することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
このIPM構造を採用する電動回転機にあっては、回転子内に永久磁石をV字型になるように埋め込んでq軸磁路を確保することによりリラクタンストルクを有効活用可能にする。このことから、この電動回転機におけるリラクタンストルクの比率がマグネットトルクよりも大きくなり、また、V字に永久磁石を埋め込んだ回転子におけるq軸とd軸のインダクタンス比(Lq/Ld)の突極比も大きくなって磁束波形に空間高調波が重畳し易くなる。なお、d軸は、磁極が作る磁束の方向、すなわち、V字の永久磁石間の中心軸となり、q軸は、そのd軸と電気的・磁気的に直交する、隣接する磁極(永久磁石)間の中心軸となる。
【0005】
このため、このような電動回転機では、トルクの変動幅であるトルクリプル(torque ripple)が増加してしまう。そして、このトルクリプルの増加は、電動回転機の振動や電磁騒音の増加原因になり、そのうちの電磁騒音は、内燃機関の駆動に起因する騒音よりも比較的周波数帯が高く、電動回転機を搭載する車両の乗員にとって不快な音になることから、できるだけ低減するのが好ましい。
【0006】
また、電動回転機は、電力消費を小さく、かつ、効率よく所望の駆動力を発生するために、高効率に駆動することが求められるが、振動等が発生すると損失となって、その効率の低下要因となる。
【0007】
特に、ハイブリッド自動車や電気自動車には、搭載空間の制約と共に、近年のエネルギ効率(燃費)の向上の要求に伴って、軽量化と同時に小型化による高エネルギ密度出力が可能な電動回転機が求められており、例えば、発進後の市街地走行時などに常用される領域における高効率な駆動を実現する必要があり、異常振動であるジャダー(judder)の低減やスムーズな加速性能のためにも、トルクリプルを抑えるのが効果的である。
【0008】
このような電動回転機(モータ)としては、単位体積当たりの出力密度を高めるほど、トルクリプルの発生による電磁騒音の増加や効率悪化の傾向になるため、モータ単体として、小型化と共に、効率向上、電磁騒音低減、低トルクリプルを両立させることは極めて困難であるが、要望が大きいのも現実である。
【0009】
この電磁騒音低減と低トルクリプルを実現する手段としては、回転子を軸方向に分割して永久磁石同士を回転方向(周回回転方向)に捩じった位置関係にする、所謂、スキューを施すことが提案されている(例えば、特許文献2)。
【0010】
しかしながら、スキューを施した電動回転機にあっては、組立工数が増加して生産コストが増加するとともに、隣接する永久磁石同士には段差が存在する状態で組み付けられることから、その段差の境界面付近での着磁率が悪化して永久磁石としての磁束密度が低下することになる。この結果、電動回転機に備えさせる出力トルクが低下してしまう。
【0011】
このことから、電動回転機では、スキューを施すことなく、電磁騒音低減と低トルクリプルを実現する各種工夫がなされており、固定子内で回転する回転子の外周面の断面形状を花弁状にするなどして、回転子の外周面と固定子の内周面との間の隙間(エアギャップ)を、q軸との交差位置で広くすることが提案されている(例えば、特許文献1、3、4)。
【0012】
しかしながら、この特許文献1、3、4に記載の電動回転機にあっては、励磁軸となるq軸でのエアギャップが広くなることにより磁気抵抗が増加して、突極比やトルクの低下と共に効率悪化を招くことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008− 99418号公報
【特許文献2】特開2006−304546号公報
【特許文献3】特開2000−197292号公報
【特許文献4】特開2007−312591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、トルクの低下などを招くことなく、トルクリプルを低減させて、振動や騒音の少ない高品質で高効率な回転駆動をすることのできる電動回転機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する電動回転機に係る発明の第1の態様は、軸心の回転軸を一体回転させる回転子と、該回転子を回転自在に収容する固定子と、を備えて、前記固定子は、前記回転子の周回回転する外周面に向かって延在して該外周面に内周面側を対面させる複数本のティース部と、駆動電力を入力するコイルを前記ティース部に巻き掛ける空間であって該ティース部間に形成される複数のスロットと、を有し、前記回転子には、前記ティース部の対向面に対する磁気力を働かせるように複数の永久磁石が埋め込まれることにより、前記コイルへの通電時に発生する磁束が、前記ティース部内、当該ティース部背面側および前記回転子内を通過することによるリラクタンストルクおよび前記永久磁石との間で働く吸引力または反発力のマグネットトルクにより前記固定子内の前記回転子を回転駆動させる電動回転機であって、前記回転子の外径Drの前記固定子の外径Dsに対する外径比率が、トルクの変動幅であるトルクリプルが最低範囲内に入るように、当該回転子および当該固定子を作製することを特徴とするものである。
【0016】
上記課題を解決する電動回転機に係る発明の第2の態様は、上記第1の態様の特定事項に加え、前記回転子側の1組の前記永久磁石と前記固定子側の1組の前記スロットとが対応する構成で、該1組の永久磁石側を1磁極としたときに、前記固定子側には、6つで前記1組のスロットが構成されており、前記外径比率が、0.61≦Dr/Ds≦0.645の範囲内になるように、前記回転子および前記固定子を作製することを特徴とするものである。
【0017】
上記課題を解決する電動回転機に係る発明の第2の態様は、上記第1または第2の態様の特定事項に加え、前記ティース部の肉厚幅をLt、前記ティース部の背面側の肉厚幅をLb、前記コイルの導体径をd、前記スロットの前記回転子の外面側の開口幅をLsとしたときに、Lt/Dr≦0.04、2Lt≦Lb、0.35≦d/Ls≦0.44、0.32≦Ls/Ltの条件を満たすことを特徴とするものである。
【0018】
ここで、前記回転子側には、当該外周面側に向かってV字型に開くように一対で前記1組の前記永久磁石を埋め込んで前記1磁極を構成させてもよい。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明の上記の第1の態様によれば、トルクリプルを最低範囲内にする回転子の外径Drと固定子の外径Dsの外径比率で、その回転子および固定子を作製することができる。したがって、回転子の回転時に生じるトルク変動のトルクリプルを低減することができ、振動や騒音の少ない高品質な回転駆動を実現し、また、同時に、損失の少ない高効率に回転駆動させることができる。
【0020】
本発明の上記の第2の態様によれば、一対1組の永久磁石側の1磁極が1組6スロットに対応する構造の場合に、外径比率を0.61〜0.645にされる。したがって、トルクリプルなどを低減して、振動や騒音と共に損失の少ない高品質な回転駆動を実現することができる。
【0021】
本発明の上記の第3の態様によれば、ティース部肉厚幅Lt/回転子の外径Dr≦0.04、ティース部肉厚幅2Lt≦ティース部背面側肉厚幅Lb、0.35≦コイル導体径d/スロット開口幅Ls≦0.44、0.32≦スロット開口幅Ls/ティース部肉厚幅Ltにすることにより、鉄損を低減することができるとともに、ティース部間のスロット内に巻線を巻線機により自動巻線してコイルを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る電動回転機の一実施形態を示す図であり、その概略全体構成を示す平面図である。
【図2】その1磁極における磁極開口角度を示す平面図である。
【図3】その回転子側に磁極がない場合の磁束発生の発生状況を示す平面図である。
【図4】その磁束の近似波形を示すグラフである。
【図5】その磁束の近似波形と磁極開口角度および磁石開口角度の関係を示す概念説明図である。
【図6】その固定子に発生する振動モードを説明する説明図である。
【図7】その固定子に発生する図6とは異なる振動モードを説明する説明図である。
【図8】その固定子と回転子の外径比率をパラメータとする電磁界解析結果を示すグラフである。
【図9】その固定子と回転子の外径比率をパラメータとする図8と異なる電磁界解析結果を示すグラフである。
【図10】その固定子と回転子の外径比率をパラメータとする図8、図9と異なる電磁界解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1〜図10は本発明に係る電動回転機の一実施形態を示す図である。
【0024】
図1および図2において、電動回転機(モータ)10は、概略円筒形状に形成された固定子(ステータ)11と、この固定子11内に回転自在に収納されて軸心に一致する回転軸13が固設されている回転子(ロータ)12と、を備えており、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車において、内燃機関と同様の駆動源として、あるいは車輪ホイール内に搭載するのに好適な性能を有している。
【0025】
固定子11には、回転子12の外周面12aにギャップGを介して内周面15a側を対面させるように軸心の法線方向に延在する複数本のステータティース15が形成されている。このステータティース15には、内部に対面収納されている回転子12を回転駆動させる磁束を発生させるコイルを構成する3相巻線(不図示)が分布巻により巻付形成されている。
【0026】
回転子12は、外周面12aに向かって開くV字型になるように、一対で1組の永久磁石16を1磁極として埋め込むIPM(Interior Permanent Magnet)構造になるように作製されている。この回転子12は、図面の表裏方向に延在する平板状の永久磁石16の角部16aを対面状態に嵌め込んで不動状態に収容する空間17aが形成されており、その永久磁石16の幅方向の両側方に位置して磁束の回り込みを制限するフラックスバリアとして機能する空間17b(以下ではフラックスバリア17bともいう)を形成するV字空間17が外周面12aに対面するように形成されている。このV字空間17には、永久磁石16を高速回転時の遠心力に抗して位置決め保持することができるように、永久磁石16間を連結支持するセンタブリッジ20が形成されている。
【0027】
この電動回転機10は、ステータティース15間の空間が、巻線を通して巻き掛けることによりコイルを形成するためのスロット18を構成しており、8組の永久磁石16側にそれぞれ6本のステータティース15が対面するように、言い換えると、一対の永久磁石16側が構成する1磁極に6スロット18が対応するように構築されている。すなわち、電動回転機10は、隣接する1磁極毎に永久磁石16のN極とS極の表裏を交互にした、8極(4極対)、48スロットで、単相分布巻5ピッチで巻線した3相IPMモータに作製されている。なお、図中のN極、S極の表示は、部材表面に存在する訳ではなく、説明のために図示するものである。
【0028】
これにより、電動回転機10は、固定子11のスロット18内のコイルに通電してステータティース15から対面する回転子12内に磁束を通したときに、永久磁石16との間に生じる吸引力と反発力に起因するマグネットトルクに加えて、その磁束が通過する磁路を最短にしようとするリラクタンストルクとの総合トルクにより回転駆動することができ、その回転子12と一体回転する回転軸13から通電入力する電気的エネルギを機械的エネルギとして出力することができる。
【0029】
ここで、この電動回転機10は、図3に示すように、1磁極を構成する一対の永久磁石16に対応する複数のステータティース15毎に、固定子11から回転子12内に均等配置された磁路を形成するように、スロット18内に巻線コイルを分布巻きして形成されており、この磁路に沿うように、言い換えると、磁束の形成を妨げないように永久磁石16を収容するV字空間17が形成されている。なお、固定子11と回転子12は、ケイ素鋼などの電磁鋼板材料の薄板を所望の出力トルクに応じた厚さになるように軸方向に重ねてボルト穴19などを利用してネジ止めすることにより作製されている。
【0030】
そして、電動回転機10は、永久磁石16を回転子12内に埋め込むIPM構造の場合、固定子11のステータティース15の1歯における磁束の変化は、図4に示すように、矩形波に近似することができる。この磁束波形には、5次や7次などの低次の空間高調波が重畳することにより、鉄損や、トルクの変動幅であるトルクリプルが増加して、熱エネルギとしての浪費による効率低下と共に、振動や騒音の発生要因となっている。鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損に分けることができる。ヒステリシス損は周波数と磁束密度の積であるとともに、渦電流損は周波数の2乗と磁束密度の積であることから、空間高調波を抑えることにより損失を低減することができ、電気エネルギの入力に対する駆動効率を向上させることができる。なお、図4では、縦軸を界磁磁束とし、横軸を時間にして、1つのステータティース15に対して、L1間では磁束の鎖交がなく、L2間で磁束が正逆鎖交する、電気角1周期T(4L1+2L2)における磁束波形の近似矩形波を図示している。
【0031】
また、モータ(電動回転機)の電磁騒音は、ステータ(固定子)側に働く電磁力により、そのステータが振動することで発生しており、ステータに働く電磁力は、ロータ(回転子)とステータの磁気結合に起因する径方向電磁力と、トルクに起因する周方向電磁力とが存在する。径方向電磁力は、1ステータティース15毎に、モータを線形磁気回路で近似して考察した場合には、磁束φ、磁気エネルギW、径方向電磁力fr、磁気抵抗Rg、磁束密度B、磁束鎖交面積S、エアギャップG間距離x、磁路透磁率μとすると、磁気エネルギWと径方向電磁力frは次の式(1)、式(2)のように表すことができる。
【数1】




【0032】
よって、空間高調波を考慮して磁束密度Bを次式(3)のように表したときには、径方向電磁力frは磁束密度Bの2乗を含むことから、空間高調波の重畳は径方向電磁力frの増加の要因となる。すなわち、空間高調波を低減することは、トルクリプルの低減、引いては、モータ電磁騒音の低減と共に駆動効率の向上を実現できることが鋭意研究検討することにより判明した。
【数2】




【0033】
また、IPM構造の3相モータのトルクリプルは、1相1極磁束の空間高調波と、相電流に含まれる時間高調波とにより、電気角θにおける6f次(f=1、2、3・・・:自然数)成分で発生することが鋭意研究検討することにより判明した。
【0034】
詳細には、角速度ω、UVWの各相誘起電圧E(t)、E(t)、E(t)、UVWの各相電流I(t)、I(t)、I(t)、としたときには、3相出力P(t)とトルクτ(t)は次の式(4)、式(5)のように表すことができる。
P(t)=E(t)I(t)+E(t)I(t)+E(t)I(t)=ω・τ(t) ……(4)
τ(t)=[E(t)I(t)+E(t)I(t)+E(t)I(t)]/ω ……(5)
【0035】
3相トルクは、U相、V相、W相のそれぞれのトルクの和であり、mを電流の高調波成分、nを電圧の高調波成分を表すものとし、U相電圧E(t)を次式(6)、U相電流I(t)を次式(7)と置くと、U相トルクτ(t)は次式(8)のように表すことができる。
【数3】




【0036】
ここで、相電流I(t)と相電圧E(t)は、いずれも対称波であるために「n」と「m」は奇数のみとなって、U相以外のV相トルクとW相トルクは、それぞれU相誘起電圧E(t)、U相電流I(t)に対して「+2π/3(rad)」、「−2π/3(rad)」の位相差であることから、全体のトルクとしては、「6」の係数の項だけが残るようにキャンセル(相殺)されて、
6f=n±m(f:自然数)、s=nα+mβ、t=nα−mβ
と、置くと、次式(9)のように表すことができる。
【数4】




【0037】
また、誘起電圧は磁束を時間微分して求めることができることから、各誘起電圧に含まれる高調波の次数と1相1極磁束に含まれる高調波も同じ次数成分が発生することになり、その結果、3相交流モータにおいては、磁束(誘起電圧)に含まれる空間高調波次数nと相電流に含まれる時間高調波次数mとの組み合わせが6fになるときに、その6f次成分のトルクリプルが発生していることが判明した。
【0038】
ところで、3相モータのトルクリプルは、上述するように、1相1極における磁束波形における空間高調波nと相電流の時間高調波mにおいては、n±m=6f(f:自然数)のときに発生することから、例えば、相電流の時間高調波m=1のみで正弦波近似した場合には、空間高調波n=5、7、11、13の次数の重畳が発生したときにトルクリプルが生じることになる。
【0039】
電動回転機10のように1磁極当たり6つのスロット18が対応する3相IPMモータの場合には、1磁極対当たり12個のスロット18が対応することになるので、電気角の1周期内においては、磁気抵抗が大となるスロット18が12箇所存在し、該当するスロット18の磁気抵抗により、11次、13次の空間高調波nが磁束波形に重畳することになる。
【0040】
しかしながら、3相のIPM構造の場合には、図4に示すように、1つのステータティース15に界磁磁束が鎖交する磁束波形がほぼ矩形波となるため、構造的にも、5次、7次の空間高調波n(6f次=6次の高調波)は重畳し易く低減することは困難である。
【0041】
この3相のIPM構造の1つのステータティース15における磁束波形を矩形波近似したときのフーリエ変換式f(t)は、次式(10)のように表され、図4に図示する磁束波形F(t)は、次式(11)のように表すことができる。この磁束波形F(t)は、7次までの空間高調波を含む近似式とすると、次式(12)のように表され、三角関数の和積の公式で展開し整理すると、次式(13)のように変形することができ、この式から5次または7次の高調波を低減するには、次の条件1または条件2を満たす必要があることが分かる。
条件1:「cos5ω・L1=0」
条件2:「cos7ω・L1=0」
【数5】




【0042】
ところで、図4の磁束波形を参照すると、次式(14)であることから、条件1の変形式に代入すると、次式(15)のようになる。ここで、「L1、L2>0」であることから、これを整理すると、次の条件1Aを満たすことにより5次の空間高調波をゼロにして抑えることができることが分かる。
角周波数(角速度)ω=2π/T=2π/(4L1+2L2) ……(14)
条件1:5ωL1=5・2πL1/(4L1+2L2)=±π/2 ……(15)
条件1A:L1=L2/8
【0043】
同様に、条件2の変形式は、次式(16)のようになり、「L1、L2>0」であることから、これを整理すると、次の条件2Aを満たすことにより7次の空間高調波をゼロにして抑えることができることが分かる。
条件2:7ωL1=7・2πL1/(4L1+2L2)=±π/2 ……(16)
条件2A:L1=L2/12
【0044】
そして、電動回転機10の8極48スロットモータの構成では、回転子12を半径rとすると、次の関係にあることから、周速度Vを使って次の式(17)、式(18)のように整理することができる。
機械角45度=電気角周期T/2
V(m/sec)=2πr・(45°/360°)/(T/2)
=2πr・(45°/360°)/((4L1+2L2)/2)
=r(m)・ω(rad/sec) ……(17)
2L1+L2=π/4ω ……(18)
【0045】
これに条件1Aと条件2Aを代入すると、次の条件を導くことができる。
5次空間高調波=0 ⇒ (L2、L1)=(π/5ω、π/40ω)
7次空間高調波=0 ⇒ (L2、L1)=(3π/14ω、π/56ω)
【0046】
これから、電動回転機10では、次の関係式(19)を満たすようにレイアウトすることで、5次と7次の空間高調波を低減傾向にして、トルクリプルを抑えることができる。
【0047】
π/5ω≦L2≦3π/14ω(sec) ……(19)
【0048】
ここで、当該関係式(19)の「L2」は、図4の磁束波形におけるステータティース15に対面する回転子12側の磁路を形成する領域に相当し、永久磁石16の両側のフラックスバリア17bの外端部までの領域を含む範囲の軸心を中心とする拡開角度θ1、言い換えると、磁極開口角度θ1とすることができる。
【0049】
この図4の磁束波形を参照すると、「θ=ωt」の関係式が成り立つことから、
「θ1=ωL2」と置き換えることができ、各種表示形式では次のように表すことができる。例えば、電動回転機10の8極48スロットモータの構造(1磁極に対して6スロットが対応する構造)では、8極中の2極で1周期であることから、回転子12の機械角1周期の360°回転は電気角4周期に相当し、次の関係式が成り立つことになる。
π/5(rad)≦θ1(機械角)≦3π/14(rad)
36(degree)≦θ1(機械角)≦270/7(degree)
θ1(機械角)=(8極/2極)・θ1(電気角)
144(degree)≦θ1(電気角)≦154.3(degree)
【0050】
このことから、電動回転機10では、図5に示すように、永久磁石16と両端側フラックスバリア17bの外端部までを含めた1磁極の磁極開口角度θ1が次の関係式(20)、関係式(21)になるようなレイアウトになるように回転子12内に設置されている。
36°≦θ1(機械角)≦38.6° ……(20)
144°≦θ1(電気角)≦154.3° ……(21)
【0051】
ところで、回転子12内に永久磁石16をV字に埋め込んだIPM構造では、磁極が作る磁束の方向、すなわち、V字の永久磁石16間の中心軸をd軸とし、また、そのd軸と電気的・磁気的に直交する、隣接する磁極間の永久磁石16間の中心軸をq軸とする。このときに、回転子12における1磁極の磁極開口角度θ1は、図4に示すような磁束波形の近似波形における、磁束がステータティース15に鎖交する期間L2に対応し、図5に示すように、その鎖交期間L2はq軸間θ2の中心に位置して、さらに、その鎖交期間L2の中心線にd軸が一致するタイミングの磁束波形となっている。なお、図2中の角度θ2は、q軸間の角度に相当して機械角度45°であり、また、磁束波形における半周期の電気角度θである。
【0052】
したがって、電動回転機10は、回転子12内の永久磁石16のフラックスバリア17bを含む磁極開口角度θ1を、相電流の時間高調波mの基本波形となるm=1としたときに、トルクリプルの低減に有効な特定次数である6f次(n=5、7)にする相電圧の空間高調波nの5次、7次を抑える角度範囲(144°≦θ1(電気角)≦154.3°)にすることによって、トルクリプルを低減して振動や騒音を少なく回転軸13を高品質に回転駆動させることができる。また、同時に、トルクリプルを低減させることにより振動を少なくすることによる熱損失と共に、ヒステリシス損と渦電流損の鉄損を抑えることができ、損失の少ない高効率に回転駆動させることができる。
【0053】
ここで、電動回転機10が基本構造として採用する3相のIPM構造のモータでは、固定子11(ステータ鉄心)の振動解析を行ったところ、上記の式(2)に示す径方向電磁力frにおいて上記の式(3)にて表される磁束密度の高調波によって発生する径方向電磁力高調波成分が2次、4次、8次、10次のときには、8角形に変形しつつその8角形が回転する振動モード(k=8)が発生し、また、径方向電磁力frの6次、12次(6f次)のときには、真円のまま膨張・収縮を繰り返す振動モード(k=0)が発生することが判明している。例えば、径方向電磁力frの2次により発生する振動モードは、図6(a)および図6(b)に異なる時間タイミングT1、T2における状態を示すように、固定子11の振動により変形した8角形が回転していることが分かる。また、径方向電磁力frの6次により発生する振動モードは、同様に、図7(a)および図7(b)に異なる時間タイミングT1、T2における状態を示すように、固定子11が膨張・収縮を繰り返していることが分かる。なお、径方向電磁力frの10次により発生する振動では、図示することは省略するが、k=8の8角形の振動モードに加えて楕円の振動モードが合わさっている。
【0054】
このとき、8極48スロットモータの電動回転機10では、機械角360度で、8方向に磁束密度が分布するために径方向電磁力frも8方向に分布することになり、その8方向の径方向電磁力frによりk=8の振動モードとなる。また、高調波の6f次が6次、12次の振動モードでは、トルクリプルに起因する周方向ベクトル電磁力と、固定子11の磁気結合に起因する径方向ベクトル電磁力frとの合成ベクトル電磁力が固定子11に作用することにより振動が発生している。これにより、トルクリプルが発生する6f次の6次、12次では、膨張・収縮を繰り返すk=0の振動モードとなって、その固定子11の外周面側の空気がその膨張・収縮に伴う振動を伝搬して、電動回転機10のモータ電磁騒音を他の次数よりも大きくしている。なお、上述以外の次数では、トルクリプルも発生せず、問題となるような振動や騒音は発生しない。
【0055】
この結果、電動回転機10では、磁束波形における高調波で、特に問題となる6次(m=1、n=5、7)を抑えることにより、トルクリプルを低減することができ、車載時の異常振動であるジャダー(judder)を抑えるとともに、モータ電磁騒音を抑えることができることも分かる。
【0056】
さらに、この電動回転機10では、回転子12側の1磁極毎の構造に加えて、さらにトルクリプルを最低限とする最低範囲内になるように、固定子11と回転子12の外径比が調整されている。
【0057】
詳細には、電動回転機10の構造で回転子12の外径Drの固定子11の外径Dsに対する外径比率Δ(Dr/Ds)をパラメータとして、有限要素法による電磁界解析を行って、トルクと、6次、12次(6f次)の高調波におけるトルクリプルとを導出して比較すると、図8〜図10のグラフに示すように、
0.61≦Δ≦0.645、
好ましくは、0.615≦Δ≦0.63、
さらに好ましくは、0.62≦Δ≦0.625
でトルクリプルと共に線間電圧THDなどを低減できることが分かる。
【0058】
ここで、図8は、固定子11と回転子12の外径比率Dr/Ds(Δ)をパラメータとして、トルク変動幅((最大−最小)/平均トルク)であるトルクリプル率と共に、外径比率Δ=0.61を基準にし、磁束波形に高調波の重畳したままのトルク増加率、その6次、12次の高調波トルク増加率を図示している。
【0059】
この図8のグラフからは、Δ=0.61、0.635でトルクリプル率が同等であり、その区間内(Δ=0.61〜0.635)では他の区間よりもトルクリプル率が低く抑えられ、また、Δ=0.615〜0.63の範囲(区間)ではよりその増加率を低く抑えられ、さらに、Δ=0.62〜0.625の範囲(区間)ではさらにその増加率を低く抑えられることが分かる。なお、トルクの増加率は、Δ=0.65まで増加傾向にあるが、その増加率は0.03程度であり、大きく増加している訳ではないことから、トルクリプル率や高調波トルク増加率から好適な範囲を判断すればよい。
【0060】
また、図9は、その外径比率Δをパラメータとして、線間電圧における(高調波トルク6次に起因する)m=5、7、(高調波トルク12次に起因する)m=11、13の空間高調波含有率、線間電圧THD(Total Harmonic Distortion:高調波歪率)を図示している。
【0061】
この図9のグラフからは、トルクリプルの発生原因のうちの11次の空間高調波含有率が他に比べて大きく変化しており、Δ=0.61、0.645で同等であり、その区間内(Δ=0.61〜0.645)では他の区間よりも低く抑えられ、さらに、Δ=0.615〜0.63の範囲(区間)ではより11次の空間高調波含有率を低く抑えられることが分かる。
【0062】
また、図10は、その外径比率Δ=0.61の外径比率を基準にして、6次、12次の電磁力高調波成分の変化率を図示している。
【0063】
この図10のグラフからは、Δ=0.61〜0.66の区間内では電磁力は大きく変化することはなく低減傾向にあり、6次の高調波ではΔ=0.66を超えると急激に増加する傾向にあることが分かる。
【0064】
これらの図9〜図10の傾向を踏まえると、上述するように、固定子11と回転子12の外径比率Δ(Dr/Ds)は、0.61〜0.645、好ましくは、0.615〜0.63、さらに好ましくは、0.62〜0.625の範囲内になるように、その固定子11と回転子12の外径Ds、Drを調整するのが好適であることが分かる。固定子11と回転子12は、この外径比率Δに調整することにより、回転子12を軸方向に分割して永久磁石16間を回転方向に捩じった位置にする、所謂、スキューを施すことなく、自動車の発進後の市街地走行時などに必要とされるトルク常用領域でも、トルクリプルと共に線間電圧THDをも低減できることが分かる。
【0065】
この固定子11は、鉄損や銅損を低減しつつスロット18内に巻線をコイル自動挿入機(インサータマシン)で巻き付けて3相用コイルを分布巻する。このことから、コイルの導体径をd、スロット18の回転子12側の開口幅をLsとしたときには、巻線1本並びで挿入の場合にはd/Ls=0.35〜0.44の範囲内にすることを満たしつつ、スロット18内のコイルの占有率が角線として計算したときには75%〜90%程度にして銅損の低減を狙う。また、鉄損の低減のために、ステータティース15の肉厚幅をLt、ステータティース15の背面側(バックヨーク)の肉厚幅をLbとしたときには、Lt/Dr≦0.04、2Lt≦Lb、0.32≦Ls/Ltを満たすように固定子11の各部の寸法を決定する。なお、巻線2本並びで挿入の場合にはd/Ls=0.29〜0.32の条件で寸法を決定すればよい。
【0066】
このように本実施形態においては、回転子12の外径Drと固定子11の外径Dsとの外径比率Δ(Dr/Ds)を0.61〜0.645の範囲内にすることにより、回転駆動時に生じるトルク変動のトルクリプルを最低範囲内に低減することができる。また、固定子11におけるステータティース15の肉厚幅Ltやその背面側のバックヨークの肉厚幅Lbなども含めて上記の最適条件にすることにより、コイルの自動巻線を確保しつつ銅損や鉄損も低減して効率よく電動回転機10を回転駆動させることができる。したがって、電動回転機10を振動や騒音を少なく高品質回転をさせることができるとともに、損失を少なく高効率に駆動させることができる。
【0067】
なお、本実施形態では、永久磁石16をV字型にして回転子12内に埋め込む構造を採用する場合を一例に説明するが、これに限るものではなく、例えば、永久磁石を回転子12の外周面12aに対して平板状に対面させる状態に埋め込む、平板配置の場合にも適用することができ、同様の作用効果を得ることができる。
【0068】
また、8極48スロットモータの構成の電動回転機10を一例にして説明するが、これに限るものではなく、磁極開口角度θ1の角度範囲に電気角θ1を採用することにより、1磁極に対して6スロットが対応する他のモータ構造にも適用することができ、例えば、6極36スロット、4極24スロット、10極60スロットのモータ構造にもそのまま適用することができる。
【0069】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、各請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0071】
10 電動回転機
11 固定子
12 回転子
13 回転軸
15 ステータティース
16 永久磁石
16a 角部
17 V字空間
17b フラックスバリア
18 スロット
20 センタブリッジ
Dr 回転子の外径
Ds 固定子の外径
Lt ステータティース肉厚幅
Lb ステータのバックヨーク肉厚幅
Ls スロットの開口幅
θ1 磁極開口角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心の回転軸を一体回転させる回転子と、該回転子を回転自在に収容する固定子と、を備えて、
前記固定子は、前記回転子の周回回転する外周面に向かって延在して該外周面に内周面側を対面させる複数本のティース部と、駆動電力を入力するコイルを前記ティース部に巻き掛ける空間であって該ティース部間に形成される複数のスロットと、を有し、
前記回転子には、前記ティース部の対向面に対する磁気力を働かせるように複数の永久磁石が埋め込まれることにより、
前記コイルへの通電時に発生する磁束が、前記ティース部内、当該ティース部背面側および前記回転子内を通過することによるリラクタンストルクおよび前記永久磁石との間で働く吸引力または反発力のマグネットトルクにより前記固定子内の前記回転子を回転駆動させる電動回転機であって、
前記回転子の外径Drの前記固定子の外径Dsに対する外径比率が、トルクの変動幅であるトルクリプルが最低範囲内に入るように、当該回転子および当該固定子を作製することを特徴とする電動回転機。
【請求項2】
前記回転子側の1組の前記永久磁石と前記固定子側の1組の前記スロットとが対応する構成で、該1組の永久磁石側を1磁極としたときに、
前記固定子側には、6つで前記1組のスロットが構成されており、
前記外径比率が、0.61≦Dr/Ds≦0.645の範囲内になるように、前記回転子および前記固定子を作製することを特徴とする請求項1に記載の電動回転機。
【請求項3】
前記ティース部の肉厚幅をLt、前記ティース部の背面側の肉厚幅をLb、前記コイルの導体径をd、前記スロットの前記回転子の外面側の開口幅をLsとしたときに、
Lt/Dr≦0.04
2Lt≦Lb
0.35≦d/Ls≦0.44
0.32≦Ls/Lt
の条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の電動回転機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−99171(P2013−99171A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241408(P2011−241408)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】