説明

電動工具

【課題】モータの冷却風を整流する従来のバッフルプレートの機能を損なわずこのモータを備える電動工具の軸線方向の全長を短縮する。
【解決手段】モータ2のステータ21の後側に、モータハウジング11及びステータ21と別体のバッフルプレート5が組み付けられている。バッフルプレート5は内周縁51が巻き線中継部23aの保持ガイド27よりも内側まで達する円環板形状とされ、モータ2の冷却風がその開口部を前側から後側へ通過する。これによりモータ2内を通過する冷却風の流路がコイル位置まで絞られコイルを効率よく冷却する。バッフルプレート5には弧状切欠き52が内周縁51から切り欠かれて形成され、保持ガイド27は先端がバッフルプレート5の後面に現れるまで弧状切欠き52内に嵌合する。このようにバッフルプレート5は軸方向で見てその全体が保持ガイド27とオーバラップする位置にあり軸方向の全長が短縮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線を挟んで二つ割り構成とされたモータハウジングと、該モータハウジング内に組立体として収容されるモータとを備え、該モータを駆動源とする電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを駆動源とする電動工具として、従来用いられているものの一部を図11及び図12に示す。この電動工具のモータ101は、図11に示されるように、モータハウジング100に対して固定される外側のステータ102と、このステータ102に対して回転する内側のロータ103とを備える。また、図12に示されるように、モータ101内となるステータ102とロータ103との隙間には、モータ101を冷却する冷却風の流路が軸線方向に形成されている。このモータ101と共に、トルクを伝達する回転軸104、冷却風を送風する送風ファン105等の諸部品が互いに組み立てられて、この組立体の状態でモータハウジング100内に収容されている。このモータハウジング100は収容されるモータの軸線を挟んで二つ割り構成とされており、モータハウジング100の内壁には、前記の冷却風を整流する整流板106等、各種に機能するリブがあらかじめ一体成形されている。この整流板106の整流機能によれば、冷却風の軸線方向の流路がステータの内側まで絞られ、モータ101の作動中に特に発熱するコイル107を効率的に冷却することが可能となっている。
なお、これに関連する技術としては下記特許文献1に開示されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−290218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の図11及び図12に示す技術において、前記モータ101等の諸部品からなる組立体は、あらかじめ整流板106が一体成形されたモータハウジング100の一方に軸線に対する側方から組み付けられて、これにモータハウジング100の他方が被せられることにより、モータハウジング100内に収容される。このため、整流板106と、ステータ102の軸方向の一端との間に、この収容工程のための空間的余裕となる隙間が必要となっていた。仮に、モータハウジング100に一体成形される整流板106の成形位置を無理にモータ101側に寄せようとすれば、その整流板106の成形形状はモータ101を軸線に対し側方から組み付ける際の障害とならない形状に限定されるため、冷却風の流路をステータ102の内側まで絞るという整流機能を損ないコイル107を効率的に冷却することができない。また、整流板106を成形可能とするために整流板106自身にもある程度の厚さが必要となっていた。
したがって、以上に述べた従来の技術による電動工具の構造においては、モータの収容工程のための隙間と整流板自身の厚さがこの電動工具の軸線方向に関する全長を短縮するための妨げとなっていたという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、モータの冷却風を整流する従来の整流板の機能を損なわずに、このモータを備える電動工具の軸線方向の全長を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る電動工具は次の手段をとる。
本発明の第1の発明に係る電動工具は、軸線を挟んで二つ割り構成とされたモータハウジングと、該モータハウジング内に組立体として収容されるモータとを備え、該モータを駆動源とする電動工具であって、前記組立体とされたモータは、前記モータハウジングに対して固定されるステータと、該ステータに対して回転するロータとを備え、該モータ内には、該モータを冷却する冷却風の流路が軸線方向に形成されており、該モータのステータにおける冷却風の下流側位置となる端部には前記モータハウジングとは別体に形成された整流板を備え、該整流板は前記冷却風の流路を軸心方向に絞る形態として前記モータハウジングの内周壁部に取り付けられて配設され、かつ該整流板の配設位置は軸線方向で見て整流板の厚み幅の少なくとも一部が前記モータのステータの端部とオーバラップして配設されていることを特徴とする。
この構成によれば、モータハウジングとは別体に形成された整流板が、ステータにおける冷却風の下流側位置となる端部に備えられており、その配設位置は軸線方向で見て整流板の厚み幅の少なくとも一部が前記モータのステータの端部とオーバラップして配設されている。このため、軸方向の全長のうち、モータのモータハウジングへの収容工程に際し従来必要であった整流板とステータ端との隙間、及び整流板の厚み幅のうちステータの端部とオーバラップする部分の幅が短縮される。したがって、モータの冷却風を整流する従来の整流板の機能を損なわずに、このモータを備える電動工具の軸線方向の全長が短縮される。
【0007】
本発明の第2の発明に係る電動工具は、第1の発明に係る電動工具であって、前記整流板の配設位置は軸線方向で見て整流板の厚み幅の全部が前記モータのステータの端部とオーバラップして配設されていることを特徴とする。
この構成によれば、整流板は軸線方向で見て整流板の厚み幅の全部がモータのステータの端部とオーバラップしている。このため、第1の発明の効果に加えて、軸方向の全長のうち整流板の全厚み幅が短縮される。したがって、モータの冷却風を整流する従来の整流板の機能を損なわずに、このモータを備える電動工具の軸線方向の全長がより一層短縮される。
【0008】
本発明の第3の発明に係る電動工具は、第1又は第2のいずれかの発明に係る電動工具であって、前記ステータは、その冷却風の下流側において、複数のコイルにわたる巻き線の中継部を該ステータの所定位置に保持する保持部を備え、前記整流板は、該保持部に対して軸線周りに回転不能な状態に係合して設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、前記整流板は保持部に対して軸線周りに回転不能な状態に係合している。これにより、複数のコイルにわたる巻き線の中継部をステータの所定位置に保持するために従来必要とされていた保持部を利用して、前記の整流板を軸線周りに回転不能に固定することができる。これにより、整流板のステータに対する周方向の位置決めをすることができる。
【0009】
本発明の第4の発明に係る電動工具は、第1から第3までのいずれかの発明に係る電動工具であって、前記整流板と前記ステータとの間には、該整流板を該ステータに対して軸線方向に組み付ける組み付け手段を備えることを特徴とする。
この構成によれば、前記の整流板をステータに対して軸線方向に組み付ける組み付け手段を備えるため、モータ組立体をモータハウジング内に収容するまでの軸線方向に関する仮の位置決めとして、整流板をモータのステータに対して組み付けることができる。これにより、モータ組立体と整流板とを互いに組み付け状態としてモータハウジング内に収容することができる。したがって、モータ及び整流板を容易にモータハウジング内へ収容できる。
【0010】
本発明の第5の発明に係る電動工具は、第1から第4のいずれかの発明に係る電動工具であって、前記整流板の外周縁には溝部が形成され、前記モータハウジングの内周壁部には該整流板の溝部と嵌合するリブが設けられ、該嵌合により該整流板が前記モータハウジングの内周壁部に対して軸線方向に位置決めされて取り付けられていることを特徴とする。
この構成によれば、ステータに設けられた整流板は、その外周縁に設けられた溝部がモータハウジングの内周壁に設けられたリブに対して嵌合している。このため、整流板の外周縁とモータハウジングの内周壁との間には、この嵌合により屈曲した隙間を有するラビリンス構造が形成されてシールされている。したがって、モータハウジングの内壁と整流板との間からの冷却風の漏れを抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、モータの冷却風を整流する従来の整流板の機能を損なわずに、このモータを備える電動工具の軸線方向の全長が短縮される。
第2の発明によれば、モータの冷却風を整流する従来の整流板の機能を損なわずに、このモータを備える電動工具の軸線方向の全長がより一層短縮される。
第3の発明によれば、整流板のステータに対する周方向の位置決めをすることができる。
第4の発明によれば、モータ及び整流板を容易にモータハウジング内へ収容できる。
第5の発明によれば、モータハウジングの内周壁部と整流板の外周縁との間からの冷却風の漏れを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態の電動工具を、右側のハウジングを取り去った状態で示す断面図である。
【図2】図1のモータハウジング部分を拡大して示す断面図である。
【図3】第1の実施形態のモータハウジング内に形成された冷却風の流路、及びバッフルプレートの配設位置を模式的に示す図である。
【図4】第1の実施形態の左側のモータハウジングを内周面側から見た斜視図である。
【図5】第1の実施形態のモータのステータにバッフルプレートを組み付ける前の状態を示す斜視図である。
【図6】第1の実施形態のモータのステータにバッフルプレートを組み付けた後の状態を示す斜視図である。
【図7】第2の実施形態の電動工具のモータハウジング部分を、右側のモータハウジングを取り去った状態で示す断面図である。
【図8】第2の実施形態のモータハウジング内に形成された冷却風の流路、及びバッフルプレートの配設位置を模式的に示す図である。
【図9】第2の実施形態のモータのステータにバッフルプレートを組み付ける前の状態を示す斜視図である。
【図10】第2の実施形態のモータのステータにバッフルプレートを組み付けた後の状態を示す斜視図である。
【図11】従来の電動工具を、右側のモータハウジングを取り去った状態で示す断面図である。
【図12】従来のモータハウジング内に形成された冷却風の流路、及びバッフルプレートの配設位置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための第1の形態を説明する。第1の実施形態に係るインパクトドライバ1は、装着されたビットによりねじ等の回転対象を回転させる通常の電動ドライバとしての機能に加え、回転方向に打撃力を繰り返し付加しながら回転させる機能を有する電動工具である。インパクトドライバ1は、2部材を互いに合わせて構成される、いわゆる二つ割りハウジング10を備える。図1には、二つ割りハウジング10の左部材のみが示されている。二つ割りハウジング10の上部は駆動源であるモータ2等を収容するモータハウジング11とされ、下部は使用者が握るための縦方向に延びる握り部12とされている。モータハウジング11内部には、前記モータ2の他、このモータ2のトルクを伝達する回転軸3と、モータ2の冷却風を送風する冷却ファン4等が収容される。図1には、これらの収容部品がモータハウジング11の合わせ面に沿って切断されて示されている。
【0014】
モータハウジング11の前方には、図1に示されるように、機構ケース13が挾持されて組みつけられている。機構ケース13内部には、モータ2が出力する回転を減速する減速機構6と、回転方向に打撃力を付与する打撃機構7、回転対象を回転するビットを装着するチャック機構等が設けられている。握り部12の下端には、本インパクトドライバ1の直流電源となる電池パック14が装着される。握り部12内部には、装着された電池パック14から前記モータ2に電力を供給する配線(図示しない)が収容されている。握り部12の前側には使用者が操作するトリガ15が設けられ、内部にはこのトリガ15の操作によりモータ2への電力供給状態を調節するスイッチ16が設けられている。
【0015】
図1に示されるように、本説明においては、モータ2の軸方向をインパクトドライバ1の前後方向とし、このうちビットが装着される側を前方とする。また、同図に示されるように、モータハウジング11に対して握り部12が延びる方向をインパクトドライバ1の縦方向とし、このうちモータ2側を上方とする。また、インパクトドライバ1の横方向については、後方から見た左右にて左方(図1紙面奥方向)、右方(同図紙面手前方向)を定める。
【0016】
次に、図2から図4までを参照しながら、モータハウジング11について説明する。
モータハウジング11内には、モータ2、回転軸3、冷却ファン4等の諸部品が、あらかじめ互いに組み立てられた組立体の状態で収容される。モータハウジング11は、モータ2の形状に合わせて概して筒形状とされており、二つ割りハウジング10の一部としては、内部に収容されるモータ2の軸線を挟んだ二つ割りとされている。モータ2等の諸部品からなる組立体は、まずモータハウジング11の一方の部材(例えば左部材)の中に軸線に対する側方(右方)から組み付けられて、次にこれに他方の部材(右部材)が被せられることにより、モータハウジング11内に収容される。
【0017】
モータハウジング11の筒形状の内周壁には、図4に示されているように、バッフルプレート5の保持リブ11aが周方向に沿って内側に突出して一体的に形成されている。この保持リブ11aは、モータ2等と共に組立体の状態で収容される後述のバッフルプレート5を、モータハウジング11に対して位置決めして保持している。モータハウジング11の筒形状の内周壁には、このバッフルプレート5用の保持リブ11aの他、バッフルプレート5以外の部品を保持するリブや、モータハウジング11の剛性を上げるリブ等が適宜設けられている。
【0018】
モータハウジング11内には、モータ2を冷却するための冷却風の流路が形成されている。モータハウジング11の筒形状の内周壁には、この冷却風をモータハウジング11外部から取り込む吸込窓11bと、モータハウジング11外部へ追い出す排出窓11cとが穿設されている。吸込窓11bの位置は、図4におよその位置が示されているように、左右のモータハウジング11の内周壁においてモータ2の配設位置に対応して穿設されている。また排出窓11cの位置は、図4に良く示されているように、左右のモータハウジング11の内周壁において冷却ファン4の配設位置に対応して穿設されている。冷却風の流路は、図3に示されているように、吸込窓11bから始まり、モータ2前方、モータ2内、モータ2後方の冷却ファン4を順に経由して、排出窓11cに至る。
【0019】
次に、モータ2について説明する。
モータ2は、整流子やブラシを用いず電子回路にて巻き線の電流を転流させる形式のブラシレスモータである。モータ2は、図2及び図3に示されるように、モータハウジング11に対して固定される概して円筒形状のステータ21と、この円筒形状内部において回転するロータ28とを備える。
【0020】
ステータ21は、磁性体である鉄心22と、この鉄心22に巻かれる導線である巻き線23と、これら両者を電気的に絶縁する絶縁部材としてのインシュレータ24,25とを備える。鉄心22は、図3及び図5に示されるように、円筒形状の筒体部22aと、この筒体部22aから内側に向かって突出して設けられた歯部22bとを備える。歯部22bは、鉄心22の内側において、周方向に関して等間隔に6本設けられている。ロータ28は、その鉄心の外側において、永久磁石29が周方向に両極を交互に配して設けられている。
【0021】
鉄心22と巻き線23との間には、これら両者を電気的に絶縁するインシュレータ24,25が介装されている。インシュレータ24,25は、図2、図3、図5に示されるように、鉄心22に対して前後に2分割されて構成されている。この前側と後側のインシュレータ24,25は、鉄心22に対してそれぞれ前後から内部へ嵌入するように取り付けられており、巻き線23が巻かれる歯部22bの周囲と、筒体部22aの内周面及び前後の端面とを覆っている。巻き線23は、このインシュレータ24,25に覆われた歯部22bの周囲に巻かれ、6本の歯部22bにそれぞれコイルが形成される。
前側のインシュレータ24前端には、モータ2を制御する電子回路が配置された回路基板26がねじにより取り付けられている。回路基板26は、モータ2の前方から内部へ通じる冷却風の流路を確保するため、中央が開口した円環板形状とされている。
【0022】
6つのコイルのうち軸線を挟んで対向位置にある2つがそれぞれ対を成して同位相の磁束を発生させる。1本の巻き線23は対を成す2つのコイルにわたって巻かれており、合計3本の巻き線23により互いに位相の異なる3対のコイルが構成されている。一方のコイルの巻き始め線と、対を成す他方のコイルの巻き終わり線は、ステータ21の前端側においてそれぞれ回路基板26上の回路に接続されている。
【0023】
図5に示されるように、ステータ21の後側には、保持ガイド27が設けられている。この保持ガイド27は、上述の対を成す2つのコイルにわたる巻き線23の中継部23aを、ロータ28やコイルよりも外周側に保持する。保持ガイド27は、後側のインシュレータ25から軸方向後端側に突出するようにして一体成形されている。巻き線23の中継部23aは、この突出する保持ガイド27の外周側に掛けられて保持されている。保持ガイド27の突出形状は、軸線を中心とする同一半径上に複数配置された円弧形状とされている。保持ガイド27の突出高さは、巻き線23を巻く途中の工程を考慮して、完成したモータ2の巻き線23を保持するために最低限必要な掛け代に加え、先端に所定の余裕を持たせた高さとされている。
【0024】
次に、図2を参照しながら、モータ2の回転軸3について説明する。
モータ2は、発生したトルクを冷却ファン4及び減速機構6に伝達する回転軸3を有している。回転軸3は、モータ2のロータ28に同軸に貫通して設けられており、ロータ28と一体的に回転する。回転軸3の後端部は、モータハウジング11後端に設けられた軸受けにより回転可能に支持されている。また回転軸3の前部は、機構ケース13後端に設けられた軸受けにより回転可能に支持されており、回転軸3の前端部は機構ケース13内に突出している。
【0025】
次に、図2及び図3を参照しながら、モータ2を冷却する冷却ファン4について説明する。
モータ2の後方には、冷却ファン4が設けられている。冷却ファン4は、モータ2の回転軸3の外側に設けられ、この回転軸3を介してロータ28と一体で回転する。冷却ファン4は、回転軸3から放射状に延びる複数の羽根41を有しており、軸方向に取り込まれた冷却風はこの羽根41の回転により径方向に送り出される。冷却ファン4は、図3に模式的に示すように、モータハウジング11の内周壁(ファンの径方向側)に設けられた排出窓11cから冷却風を強制的に排出し、冷却ファン4近傍の空間を負圧にすることで、吸込窓11bから新たな冷却風を引き込む。このようにして、冷却ファン4により吸込窓11bからモータ2内を経て排出窓11cに至るまでの流路に冷却風が通される。なお、冷却ファン4の羽根41の前面と、次に述べるバッフルプレート5との間隔は、バッフルプレート5が羽根41の回転を妨げず、かつ、冷却ファンの冷却風の排出力を低下させないように設定される。
【0026】
次に、図3、図5、図6を参照しながら、モータ2の冷却風を整流する整流板としてのバッフルプレート5を説明する。
モータ2のステータ21の後側には、冷却風の流路を軸方向へ絞るバッフルプレート5が組み付けられている。バッフルプレート5は、モータハウジング11及びステータ21とは別体形成される合成樹脂製の部品である。バッフルプレート5は、概して円環板形状(中空円盤形状)とされ、冷却風はその開口部を前側から後側へ通過する。バッフルプレート5の円環板形状は、図3に示されるように、その内周縁51が巻き線中継部23aの保持ガイド27よりも内側まで達している。これにより、モータ2内を通過する冷却風の流路がこの保持ガイド27の内側にあるコイル位置まで絞られ、モータ2の作動中に発熱するコイルを効率よく冷却可能である。
【0027】
バッフルプレート5は、図3に良く示されているように、ステータ21に対する組み付け状態において、軸方向で見てその全厚み幅が巻き線中継部23aの保持ガイド27とオーバラップする位置にある。バッフルプレート5には、この保持ガイド27が嵌合可能な円弧状の弧状切欠き52が形成されている。弧状切欠き52は、バッフルプレート5の内周縁51から径方向外側へ向かって切り欠かれて、保持ガイド27の円弧形状と対応する位置及び形状に形成されている。前述のように、保持ガイド27の突出高さは巻き線23を巻く途中の工程を考慮して先端部に余裕を持たせた高さとされているため、保持ガイド27は先端がバッフルプレート5の後面に現れるまでこの弧状切欠き52に嵌合可能である。この嵌合により、モータ2への組み付け状態におけるステータ21に対するバッフルプレート5の回転が防止される。
【0028】
バッフルプレート5外周縁には、モータハウジング11内周壁に設けられた前記の保持リブ11aに嵌合する外周溝54が設けられている。この外周溝54がモータハウジング11の保持リブ11aと嵌合することにより、バッフルプレート5はステータ21に対して軸方向に関して固定される。これによりバッフルプレート5は、モータハウジング11内への収容工程において、ステータ21に対する軸方向に関する完全な位置決めが行われる。
また、バッフルプレート5外周縁とモータハウジング11内周壁との間には、この嵌合により屈曲した隙間を有するラビリンス構造が形成されてシールされている。このラビリンスシールにより、冷却風がバッフルプレート5外周縁とモータハウジング11内周壁との間から漏れることが防止される。
【0029】
次に、図1を参照しながら、モータ2が出力する回転を減速する減速機構6を説明する。
減速機構6は、いわゆる遊星歯車機構として、ピニオンギヤ61と、インターナルギヤ(図示しない)と、遊星歯車63,63と、スピンドル64とを備える。前記の回転軸3の前端部には、機構ケース13内に突出するピニオンギヤ61が同軸で連結され、ピニオンギヤ61の外側には、これと対向する内歯を有するインターナルギヤが同軸に設けられている。さらに、ピニオンギヤ61とインターナルギヤとの間には、両者のギアに対して噛み合いながら公転する2つの遊星歯車63,63が保持されている。2つの遊星歯車63,63の支軸には、スピンドル64が固定され、遊星歯車63,63の公転運動が伝達される。スピンドル64は、機構ケース13に支持される軸受けによって、その後端部がモータ2の回転軸3と同軸で回転可能に支持されている。
【0030】
次に、図1を参照しながら、減速機構6が出力する回転に回転方向の打撃力を付与する打撃機構7を説明する。
打撃機構7は、主に前記のスピンドル64と、その前端部の外側に設けられたハンマ72と、その前方に設けられたアンビル74とを備える。スピンドル64外周面とハンマ72内周面との間には、鋼球71,71が設けられている。ハンマ72は、この鋼球71,71を介してスピンドル64と連結されており、スピンドル64からハンマ72へトルクを伝達可能とされている。スピンドル64の外周面には、鋼球71,71が嵌合するV字形状に窪んだV字溝64a,64aが形成されている。V字溝64a,64aのV字形状は、スピンドル64の外周面においてその開端側を後方に向けて配置されている。一方でハンマ72のスピンドル64と対向する内周面には、鋼球71,71が嵌合する軸方向のガイド溝72a,72aが形成されている。鋼球71,71は、スピンドル64のV字溝64a,64aとハンマ72のガイド溝72a,72aとの双方に跨って嵌合しており、この嵌合状態のままそれぞれの溝に沿って転動可能となっている。負荷側(回転対象)の回転抵抗が増大すると、スピンドル64はハンマ72に対し相対的に回転数を増すため、スピンドル64のV字溝64a,64aに嵌合した鋼球71,71がそのV字形状の開端側に転動する。これにより、ハンマ72は鋼球71,71を介してスピンドル64に対し後方へ引き戻され、機構ケース13内において後退する。
【0031】
ハンマ72は、機構ケース13内において前進することにより、前方のアンビル74に対して回転方向に関して係合し、また、後退することにより、このアンビル74に対する係合が脱離する。ハンマ72の前端には、アンビル74と係合可能な一対の打撃凸部(図示しない)が前方に突出して設けられている。一方でアンビル74の後端部には、ハンマ72の打撃凸部が係合する一対のアーム74a,74aが径方向に延びて設けられている。また、ハンマ72の後側には、ハンマ72を常に前方へ付勢するコイルばね73が設けられている。ハンマ72は、このコイルばね73の付勢力により前進すると、その打撃凸部がアンビル74のアーム74a,74aに対して回転方向に関して係合する。ハンマ72は、アンビル74に対する係合状態にある限りにおいて、アンビル74へトルクを伝達可能となる。さらにハンマ72は、機構ケース13内において前進、後退を繰り返すことで、アンビル74に対する係合、脱離が繰り返され、これによりアンビル74に対して回転方向に関する打撃力が繰り返し付与される。
【0032】
アンビル74の中間部は、機構ケース13前端の軸受によって支持され、アンビル74の前端は機構ケース13外へ突出している。アンビル74の前端には、ねじ等の回転対象を回転させるためのビット(図示しない)が装着可能となっており、装着されるビットをボールにより掴むチャック機構8が設けられている。
【0033】
以上のように構成される第1の実施形態に係る電動工具は、以下のような作用効果を奏する。
この構成によれば、モータハウジング11とは別体に形成されたバッフルプレート5が、ステータ21における冷却風の下流側位置となる端部に備えられており、その配設位置は軸線方向で見てバッフルプレート5の厚み幅の少なくとも一部が前記モータ2のステータ21の端部とオーバラップして配設されている。このため、軸方向の全長が、モータ2のモータハウジング11への収容工程に際し従来必要であったバッフルプレート5とステータ21端との隙間、及びバッフルプレート5の厚み幅の分だけ短縮される。したがって、モータ2の冷却風を整流する従来のバッフルプレート5の機能を損なわずに、このモータ2を備える電動工具の軸線方向の全長が短縮される。
【0034】
さらにこの構成によれば、バッフルプレート5の弧状切欠き52は、複数のコイルにわたる巻き線の中継部23aをステータ21の所定位置に保持する保持ガイド27に対して、軸線周りに回転不能な状態に嵌合している。これにより、従来必要とされていたこの保持ガイド27を利用して、バッフルプレート5をステータ21に対して軸線周りに回転不能に固定することができる。したがって、バッフルプレート5のステータ21に対する周方向の位置決めをすることができる。
また、この弧状切欠き52は、バッフルプレート5の内周縁51から径方向外側へ向かって切り欠かれて形成されているため、バッフルプレート5の成形が容易となる。
【0035】
さらにこの構成によれば、ステータ21に設けられたバッフルプレート5は、その外周縁に設けられた外周溝54がモータハウジング11の内周壁に設けられたリブに対して嵌合している。このため、バッフルプレート5の外周縁とモータハウジング11の内周壁との間には、この嵌合により屈曲した隙間を有するラビリンス構造が形成されてシールされている。したがって、モータハウジング11の内壁とバッフルプレート5との間からの冷却風の漏れを抑えることができる。
【0036】
[第2の実施形態]
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための第2の形態を説明する。
第2の実施形態は、図5に示す第1の実施形態のバッフルプレート5の形状を、図9に示すように変更した実施形態である。図7,図8,図9,図10は第2の実施形態を示しており、第1の実施形態を示す図2,図3,図5,図6にそれぞれ対応する図である。第2の実施形態のうち、前述の第1の実施形態から実質的な変更を要しない部分(バッフルプレート105以外の部分)については、第1の実施形態と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0037】
第2の実施形態に係るバッフルプレート105には、巻き線中継部23aの保持ガイド27が嵌合可能な円弧状の弧状スリット152が前後を貫通して形成されている。弧状スリット152は、保持ガイド27の円弧形状と対応する位置及び形状に形成されている。この弧状スリット152の構成は、第1の実施形態のバッフルプレート5に設けられていた弧状切欠き52に代わるものである。第1の実施形態と同様に、保持ガイド27はその先端がバッフルプレート105の後面に現れるまでこの弧状スリット152内に嵌合可能である。
【0038】
バッフルプレート105の前面には、バッフルプレート105をステータ21に対して軸方向に組み付ける手段(組み付け手段)として、3本の突起153が形成されている。なお、この突起153の構成は、第1の実施形態のバッフルプレート5には設けられていないものである。突起153は、バッフルプレート105の前面を周方向に3等分する位置にそれぞれ配設されており、ステータ21への組み付け状態においてステータ21の2つのコイルの間に差し込まれる。このため、突起153がコイル間に差込可能となるバッフルプレート105の向きは6通りあるが、巻き線中継部23aの保持ガイド27とバッフルプレート105の弧状スリット152とが嵌合可能な向きは、そのうちの1通りに定まる。この意味で、バッフルプレート105のステータ21に対する周方向に関する位置決めが成される。
【0039】
各突起153の先端には、図7に示されるように、径方向外側に向いた爪153aが設けられている。その一方で、ステータ21の円筒形状の内周面には、この爪153aが外側へ落ち込んで嵌合可能な嵌合スリット25aが設けられている。この嵌合スリット25aは、詳しくは、ステータ21の鉄心22の筒体部22aの内周面を覆っている後側のインシュレータ25に形成された軸方向のスリットである。ステータ21への組み付け状態において、バッフルプレート105の突起153先端の爪153aがこの嵌合スリット25aに落ち込むことにより、バッフルプレート105がステータ21に対し軸方向に抜けることが防止される。この組み付け手段は、バッフルプレート105がモータ2と共に組立体としてモータハウジング11内に収容されるまでの間、ステータ21に対する軸方向に関する仮の位置決めを行う手段(仮固定手段)として利用される。
なおバッフルプレート105の外周縁に設けられた外周溝154の構成は、第1の実施形態における外周溝54と同様である。
【0040】
以上のように構成される第2の実施形態に係る電動工具は、第1の実施形態と異なる構成により、以下のような作用効果を奏する。
この構成によれば、バッフルプレート105の弧状スリット152は、複数のコイルにわたる巻き線の中継部23aをステータ21の所定位置に保持する保持ガイド27に対して、軸線周りに回転不能な状態に嵌合している。これにより、従来必要とされていたこの保持ガイド27を利用して、バッフルプレート105をステータ21に対して軸線周りに回転不能に固定することができる。したがって、第1の実施形態と同様に、バッフルプレート105のステータ21に対する周方向の位置決めをすることができる。
【0041】
さらにこの構成によれば、バッフルプレート105をステータ21に対して軸線方向に組み付けるため、バッフルプレート105の前面には爪153aを有した突起153が設けられ、またステータ21の円筒形状の内周面には、この爪153aが外側へ落ち込んで嵌合可能な嵌合スリット25aが設けられている。このため、モータ2等を組立体としてモータハウジング11内に収容するまでの軸線方向に関する仮の位置決めとして、バッフルプレート105をモータ2のステータ21に対して組み付けることができ、バッフルプレート5の突起153先端の爪153aがこの嵌合スリット25aに落ち込むことにより、バッフルプレート105がステータ21に対し軸方向に抜けることが防止される。これにより、モータ2組立体とバッフルプレート105とを互いに組み付け状態としてモータハウジング11内に収容することができる。したがって、モータ2及びバッフルプレート105を容易にモータハウジング11内へ収容できる。
【0042】
なお、本発明に係る電動工具は、上記の第1及び第2の実施形態に限定されるものではなく、その他各種の形態で実施できるものである。
まず、第1及び第2の実施形態においては、バッフルプレート5,105の配設位置は軸線方向で見てバッフルプレート5,105の厚み幅の全部がモータ2のステータ21の端部とオーバラップして配設されていた。しかし、バッフルプレート5,105の配設位置は軸線方向で見てバッフルプレート5,105の厚み幅の少なくとも一部がモータ2のステータ21の端部とオーバラップして配設されていても良い。この構成とすれば、軸方向の全長のうち、モータ2のモータハウジング11への収容工程に際し従来必要であったバッフルプレート5,105とステータ21端との隙間、及びバッフルプレート5,105の厚み幅のうちステータ21の端部とオーバラップする部分の幅が短縮される。
【0043】
また、第2の実施形態においては、バッフルプレート105をステータ21に対して軸方向に組み付ける手段(組み付け手段)として、バッフルプレート105の前面に3本の突起153が形成されていた。しかし、組み付け手段としてバッフルプレート105に突起153を備えず、巻き線中継部23aの保持ガイド27とバッフルプレート105の弧状スリット152との嵌合を抜け防止可能な程度とし、この嵌合のみにより軸方向に関して組み付けられるものとしても良い。この構成とすれば、同一の手段によりバッフルプレート105の周方向の回転防止及び軸方向の組み付けを行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 インパクトドライバ
10 二つ割りハウジング
11 モータハウジング
11a 保持リブ
11b 吸込窓
11c 排出窓
12 握り部
13 機構ケース
14 電池パック
15 トリガ
16 スイッチ
2 モータ
21 ステータ
22 鉄心
22a 筒体部
22b 歯部
23 巻き線
23a 中継部
24 前側のインシュレータ
25 後側のインシュレータ
25a 嵌合スリット
26 回路基板
27 保持ガイド
28 ロータ
29 永久磁石
3 回転軸
4 冷却ファン
41 羽根
5,105 バッフルプレート
51,151 内周縁
52 弧状切欠き
152 弧状スリット
153 突起
153a 爪
54,154 外周溝
6 減速機構
7 打撃機構
8 チャック機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を挟んで二つ割り構成とされたモータハウジングと、該モータハウジング内に組立体として収容されるモータとを備え、該モータを駆動源とする電動工具であって、
前記組立体とされたモータは、前記モータハウジングに対して固定されるステータと、該ステータに対して回転するロータとを備え、該モータ内には、該モータを冷却する冷却風の流路が軸線方向に形成されており、該モータのステータにおける冷却風の下流側位置となる端部には前記モータハウジングとは別体に形成された整流板を備え、該整流板は前記冷却風の流路を軸心方向に絞る形態として前記モータハウジングの内周壁部に取り付けられて配設され、かつ該整流板の配設位置は軸線方向で見て整流板の厚み幅の少なくとも一部が前記モータのステータの端部とオーバラップして配設されていることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
請求項1に記載の電動工具であって、
前記整流板の配設位置は軸線方向で見て整流板の厚み幅の全部が前記モータのステータの端部とオーバラップして配設されていることを特徴とする電動工具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電動工具であって、
前記ステータは、その冷却風の下流側において、複数のコイルにわたる巻き線の中継部を該ステータの所定位置に保持する保持部を備え、前記整流板は、該保持部に対して軸線周りに回転不能な状態に係合して設けられていることを特徴とする電動工具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかの請求項に記載の電動工具であって、
前記整流板と前記ステータとの間には、該整流板を該ステータに対して軸線方向に組み付ける組み付け手段を備えることを特徴とする電動工具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかの請求項に記載の電動工具であって、
前記整流板の外周縁には溝部が形成され、前記モータハウジングの内周壁部には該整流板の溝部と嵌合するリブが設けられ、該嵌合により該整流板が前記モータハウジングの内周壁部に対して軸線方向に位置決めされて取り付けられていることを特徴とする電動工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−31901(P2013−31901A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169009(P2011−169009)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】