説明

電動弁

【課題】エンジンを始動して電源のオンの時から瞬時に冷媒を大量に流して、エアコンから冷気を吹き出して車内温度を早期に低下させることを可能にする電動弁を提供する。
【解決手段】第1弁体51が第1弁座53に着座している状態で第2弁体52が第2弁座54又は第3弁座56に着座することで、電動弁10は閉じた状態になる。電動弁10の電源オンのとき、第2弁体52が第2弁座54から離間することで、大径の環状開口を通じて流れる流量は大流量となる。更に、第2弁体52が第3弁座56に着座している状態では流れは遮断され、その後、第1弁体51が第1弁座53から離間するときには流れる流量を小流量とすることができる。電動弁10を車両用のエアコンに適用した場合には、電動弁10の電源オンの際、短時間で大流量の冷媒を流すことができる状態になり、エアコンが早期に大量の冷気を吹き出すことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーエアコン等の空調システムに用いられる電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋外の駐車場等の場合、炎天下で駐車される車両においては、太陽光が車内に差し込んで車内温度が相当の高さになる。そうした特別環境下に置かれた車両において、車両のエンジンを始動しエアコンを運転しても、エアコンの空気吹き出し口からは当初、高温空気が吹き出す現象が見られ、エアコンが通常の運転状態になって冷気が送風されるようになっても、車内温度が快適な温度にまで低下するには相当の時間を要している。
【0003】
エアコンを循環する冷媒の流量を制御するには流量制御弁が設けられるが、上記の状況を考慮して、エンジン始動時に大流量が流れるように流量制御弁を制御することが考えられる。
【0004】
本出願人は、全長を短くして電動弁を小型化し、また、弁口を開閉させるロータの回転を安定させ、更にロータがストッパにより規制されたときもロータが傾斜することが少なく、安定して作動するための電動弁を提案している(特許文献1参照)。
【0005】
当該文献記載の電動弁は、弁室内の弁座に弁軸によって接離する弁体で通過流量を調整する弁本体と、該弁本体に固着され弁体を弁座に接離させるロータを内蔵するキャンと、該キャンに外嵌されロータを回転駆動するステータとを備えており、弁体を弁座に接離させる駆動機構は、弁本体よりロータ方向に延出して固定され固定ねじ部が形成されたガイドブッシュと、ロータを支持し該ガイドブッシュの固定ねじ部に螺合する移動ねじ部を有する弁軸ホルダとから構成されるねじ送り機構であり、弁軸ホルダとロータの上端部とは支持リングを介してかしめ固定され、支持リングはかしめ固定部の外周に溝部を有している。ねじ送り機構がロータ内に配置されているため、キャン全長及び弁本体の外径が小さくなり電動弁の小型化を図っている。また、ステータに通電励磁してロータを回転させると、ロータを支持駆動するねじ送り機構がロータ内に配置されているため、ロータの回転が安定してロータが回転軸に対して振れることが少ない。
【0006】
かかる電動弁では、ロータの回転制御は、閉弁状態を基準位置として開始されるようになっている。また、モータの回転をねじ作用によってニードルの昇降運動に変換しているので、ニードル弁が上昇してニードル先端が弁座から完全に抜けた状態にならないと、当該弁を流れる流量が最大流量とならない。ニードル弁が弁座から完全に抜けるまでの時間を要するので、こうした電動弁では状況に応じて機敏な対応を取ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4224187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電動弁においては、電源をオンにすると同時に、大きな流量が即座に確保されることが好ましい。本発明の目的は、閉弁状態から制御を開始する電動弁において、電源をオン等、駆動後に瞬時に流れる流量を大きくすることが可能な電動弁を提供することにより、例えばエンジンを始動後、瞬時にエアコンから冷気を吹き出して車内温度を早期に低下させることを可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明による電動弁は、モータの出力を受ける昇降機構により昇降駆動される第1弁体と、前記第1弁体が当接可能な第1弁座を備えると共に、該第1弁体により前記第1弁座を介して押圧され昇降可能とされた第2弁体と、前記第1弁座よりも大径で、前記第2弁体が当該第2弁体の下降又は上昇に応じてそれぞれ当接可能な第2弁座及び第3弁座とを備え、前記第2弁体に対する前記第1弁体の押圧により該第1弁体が前記第1弁座に当接し、その状態で行われる前記第2弁座及び前記第3弁座に対する前記第2弁体の接離動作により該第2弁座及び第3弁座を流れる流体の流量制御を行い、前記第2弁体が前記第3弁座に当接し、その状態で行われる前記第1弁座に対する前記第1弁体の接離動作により、該第1弁座を流れる流体の流量制御を行うことを特徴としている。
【0010】
本電動弁によれば、第1弁体が第1弁座に当接して第2弁体を押圧し、第2弁体が第2弁座に当接することにより、第1弁体及び第2弁体はそれぞれ第1弁座と第2弁座に着座状態となる。次いで、第1弁体が第1弁座に当接した状態で第2弁体とともに上昇し、第2弁体が第2弁座から離間すると、第2弁体と第2弁座(又は第3弁座)との間に生じる開口(隙間)を通して流体が流れる。第1弁体が第1弁座に当接した状態で第2弁体が更に上昇すると、第2弁体は第3弁座に着座状態となる。その状態から第1弁体が更に上昇すると、第2弁体は第3弁座に当接したまま第1弁体が第1弁座から離間してその開口(隙間)を通じて流体が流れる。
【発明の効果】
【0011】
本発明による電動弁は、上記のように構成されているので、第1弁体が第1弁座に着座している状態で第2弁体が第2弁座又は第3弁座に着座することで、電動弁は所謂、閉じた状態(微小流量を流す手段を備えるときに当該微小流量が流れるのを許容する場合を含む。)になる。また、第2弁体が第2弁座から離間して両者間に開く開口(隙間)を広くすることで、この状態で電動弁を流れる流量を大流量とすることができる。更に、第2弁体が第3弁座に着座している状態では上記の大流量の流れは遮断され、その後、第1弁体が第1弁座から離間するときの両者間に開く(開口)隙間を狭くすることで、この状態で電動弁を流れる流量を小流量とすることができる。
この結果、第1弁体が第1弁座に着座し、かつ第2弁体が第2弁座に着座した状態を当該電動弁の制御開始となる閉弁状態とすれば、該閉弁状態から第2弁体が第2弁座から離間するとき、即座に大流量とすることができる。
そして、本電動弁を車両用のエアコンに適用した場合には、電動弁の電源オンで、第2弁体が第2弁座から離間することで、短時間で大流量の冷媒を流すことができる状態になり、エアコンが早期に大量の冷気を吹き出すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による電動弁の一実施例を示す縦断面図であって、第1弁体及び第2弁体がそれぞれ第1弁座、第2弁座に着座している状態を示す。
【図2】図1に示す電動弁が、第1弁体が第1弁座に着座している状態で、第2弁体が第2弁座から離座した状態を示す図である。
【図3】図2に示す電動弁が、第1弁体が第1弁座に着座している状態で、第2弁体が上昇し第3弁座に着座した状態を示す図である。
【図4】図3に示す電動弁が、第2弁体が第3弁座に着座している状態で、第1弁体が上昇し第1弁座から離座した状態を示す図である。
【図5】本発明による電動弁の一実施例の要部を示す拡大断面図である。
【図6】本発明による電動弁の一実施例の弁開度に応じた流量の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面に基づいて、本発明による電動弁の実施例を説明する。図1は、本発明に係る電動弁の一実施形態の縦断面図である。自動車等の冷凍サイクル等における冷媒の流量制御を行う電動弁10は、弁室21内の弁座22に接離する弁体23により冷媒の通過流量を調整する弁本体20と、弁本体20に固着され弁体23を接離させるロータ30を内蔵するキャン40と、キャン40に外嵌されロータ30を回転駆動するステータ(図示せず)とを備えている。ロータ30とステータによりステッピングモータを構成している。なお、ステータの具体的な構造としては、前に掲げた特許文献1に開示のものとし、例えば、磁性材より構成されるヨークと、このヨークにボビンを介して巻回される上下のステータコイルとから構成され、キャン40に外嵌されるものとすることができる。
また、弁体23は、図5に関して詳細に説明する第1弁体51及び第2弁体52の総称であり、また弁座22は、同図に関して詳細に説明する第1弁座53、第2弁座54及び第3弁座56の総称である。
【0014】
キャン40はステンレス等の非磁性の金属から形成される有底円筒状をしており、弁本体20の上部に固着されたステンレス製の鍔状板41に溶接等により固着され、内部は気密状態に保たれている。弁本体20には、垂直方向の流体流入管20aと水平方向の流体流出管20bとが延出されている。なお、流体の流れる方向は逆としてもよい(管20aを流体流出管として用い、管20bを流体流入管として用いる)。
【0015】
ニードル弁から構成される弁体23の第1弁体51は黄銅製の弁軸24の下端に形成されている。弁体23を弁座22に接離させる駆動機構は、弁本体20よりロータ30方向に延出して固定され固定ねじ部(雄ねじ部)25が形成される筒状のガイドブッシュ26と、該ガイドブッシュ26の固定ねじ部25に螺合する移動ねじ部(雌ねじ部)31を有する弁軸ホルダ32とから構成されるねじ送り機構であり、このねじ送り機構をロータ30内の軸方向全長の略中央部に配置している。
【0016】
本実施例に示す電動弁は、従来の電動弁のようにロータの下方にねじ送り機構が位置するものと比較すると、軸方向の長さ及び弁本体の外径が大幅に低減されており、電動弁の小型化を図ることができる。固定ねじ部25はガイドブッシュ26の外周に雄ねじで構成され、移動ねじ部31は弁軸ホルダ32の内周に雌ねじで構成されている。なお、ガイドブッシュ26及び弁軸ホルダ32は、ともに黄銅製の円筒状材から形成されている。
【0017】
弁軸ホルダ32はガイドブッシュ26の外側に位置する下方開口の円筒状をしており、前記のように内面に移動ねじ部31を形成してあり、弁軸ホルダ32の中心に弁軸24の上部縮径部が嵌合してプッシュナット33により連結されている。弁体23を下端に形成した弁軸24は、黄銅より構成され、弁軸ホルダ32の中心に上下動可能に嵌挿されており、弁軸ホルダ32内に縮装された圧縮コイルばね34によって常時下方に付勢されている。ガイドブッシュ26の側面には弁室21とキャン40内の均圧を図る均圧孔32aが形成してある。
【0018】
弁軸24の上端に圧入固定されたプッシュナット33の外周に円筒状の圧縮コイルばねで構成される復帰ばね35を取付け、ガイドブッシュ26の固定ねじ部25と弁軸ホルダ32の移動ねじ部31との螺合が外れたときに、復帰ばね35がキャン40の頂部内面に当接して固定ねじ部25と移動ねじ部31との螺合を復帰させるように付勢する。復帰ばね35はプッシュナット33の外周に緩く嵌合して載置した状態で取り付けてもよく、またプッシュナット33の外周に弾接するように取り付けてもよい。
【0019】
弁本体20は黄銅等の金属から構成され、キャン40との接合は、弁本体20に溶接等により固着された鍔状板41の段差部にキャンの端部を突き合わせ溶接することにより行っている。なお、突き合わせ溶接に限らず、キャン40の端部を外周に平坦に折り曲げて鍔状部として形成し、この鍔状部と鍔状板41とをいわゆる拝み溶接により固定するようにしてもよい。
【0020】
弁軸ホルダ32とロータ30とは支持リング36を介して結合されており、支持リング36は本実施形態ではロータ30の成形時にインサートされた黄銅製の金属リングで構成されている。支持リング36の内周孔部に弁軸ホルダ32の上部突部が嵌合し、上記突部の外周をかしめ固定してロータ30、支持リング36及び弁軸ホルダ32を結合している。弁本体20、弁軸24、ガイドブッシュ26、弁軸ホルダ32、支持リング36は、前記したように全て黄銅より構成し、リサイクルを考慮した構成としている。さらに、それぞれの部品は圧入・かしめで結合されているので、たとえば、弁軸ホルダ32と支持リング36のかしめを除去することでロータ30を再利用することができる。なお、黄銅以外の金属、例えば、ステンレスを用いることができるのは勿論である。また、黄銅以外の金属、例えば、ステンレスを弁軸24のみに用いることができるのは勿論である。
【0021】
ガイドブッシュ26にはストッパ機構の一方を構成する下ストッパ体(固定ストッパ)27が固着されており、下ストッパ体27はリング状のプラスチックより構成され、上方に板状の下ストッパ片27aが突設されている。また、弁軸ホルダ32にはストッパ機構の他方を構成する上ストッパ体(移動ストッパ)37が固着されており、上ストッパ体37もリング状のプラスチックより構成され、下方に向けて板状の上ストッパ片37aが突設され前記した下ストッパ片27aと係合可能である。
【0022】
下ストッパ体27はガイドブッシュ26の外周に形成された螺旋溝部分26aに射出成形により固着され、上ストッパ体37は弁軸ホルダ32の外周に形成された螺旋溝部分32bに射出成形により固着されている。なお、下ストッパ体27、上ストッパ体37の固着は射出成形に限らず、接着や圧入等により固着してもよいのは勿論である。
【0023】
このように構成された電動弁10の動作について説明する。ステータのコイルに通電を行い励磁すると、弁本体20に固着されたガイドブッシュ26に対しロータ30及び弁軸ホルダ32が回転され、ガイドブッシュ26の固定ねじ部25と弁軸ホルダ32の移動ねじ部31とのねじ送り機構により、弁軸ホルダ32がその軸線方向に昇降する。通電方向に応じて、弁軸ホルダ32が、例えば下方に移動して弁体23が弁座22に着座又は離座する。
【0024】
弁体が着座した時点(第1弁体51が第2弁体52を押圧し、かつ該第2弁体52が第2弁座54に着座した時点)では上ストッパ体37は未だ下ストッパ体27に当接しておらず、弁体23が着座したままロータ30及び弁軸ホルダ32はさらに回転下降する。このときは弁軸24に対する弁軸ホルダ32の相対的な下降変位は、圧縮コイルばね34が圧縮されることにより吸収される。その後、ロータ30が更に回転して弁軸ホルダ32が下降して上ストッパ体37のストッパ片37aが下ストッパ体27のストッパ片27aに当接する。このストッパ片27a,37a同士の当接によって、ステータへの通電が継続されても、弁軸ホルダ32の下降は強制的に停止される。
【0025】
上ストッパ体37と下ストッパ体27とから構成されるストッパ機構は、ロータ30の軸方向の全長内に配置されているので、ストッパ機構が機能しているときでもロータ30や弁軸ホルダ32が大きく傾いたりすることが少なく作動が安定し、次にロータ30を逆転するときでも円滑に行うことができる。
【0026】
ステータへの通電を逆方向に行うと、ガイドブッシュ26に対しロータ30及び弁軸ホルダ32が上記と逆方向に回転され、上記のねじ送り機構により、弁軸ホルダ32が上方に移動して弁軸24の下端の弁体23が弁座22から離れ、冷媒が通過可能となる。ロータ30の回転量によって弁開度を変更することで、冷媒の通過量が調整される。ロータ30の回転量は、パルスモータへの入力パルス数にて規制されるため、冷媒通過量の正確な調整が可能である。
【0027】
このように、ロータ30の回転は、ガイドブッシュ26の固定ねじ部25と弁軸ホルダ32の移動ねじ部31とから成るねじ送り機構により、ロータ30、弁軸ホルダ32及び弁軸24の軸方向移動に変換される。ねじ送り機構がロータ30内の特に中央部に位置し、ロータ30の支持及び駆動がロータ30の全長内で行われているため、回転時にロータ30が振れることが少なく安定して回転させることができる。
【0028】
図5には、電動弁の本実施例の要部が拡大断面図として示されている。図1と図5とを併せて参照すると、弁体23は、モータの出力を受けて昇降機構としてのねじ送り機構により昇降駆動される第1弁体51と、第1弁体51により押圧され昇降可能とされた第2弁体52とから成っている。第1弁体51は弁軸24から軸線方向に一体的に延びていて、その先端側にテーパ状に形成されたニードル部が付設されたニードル弁体である。また、第2弁体52は、当該ニードル弁体が嵌入可能なリング状の弁体である。リング状の第2弁体52の内周上縁部52c、即ち、第2弁体52の貫通孔52dとそのテーパ開口面52eとが交差する縁部分が、ニードル弁体である第1弁体51が当接可能な第1弁座53としての機能を奏している。
【0029】
弁本体20に形成された弁室21には、第1弁座53よりも大径に形成された第2弁座54と第3弁座56とが設けられている。弁室21の段差部の環状角部21aが第2弁座54となっており、リング状の第2弁体52が下降するときにその外周下縁部52aが第2弁座54に着座可能となっている。弁室21にはまた、第2弁体52の上方位置においてリング状の弁座体55が圧入等の手段によって固定されている。弁座体55の中心部分はリングを構成するための貫通孔55aとなっており、弁軸24及びニードル弁が貫通孔55aに対して隙間を介して挿通可能となっている。弁座体55の内周下縁部55bが第3弁座56となっており、第2弁体52が上昇するときに、その外周上縁部52bが弁座体55の内周下縁部55bに着座可能となっている。
【0030】
弁室21の底部15には弁本体20の底面に開口するオリフィス16が形成されており、オリフィス16と干渉しないように、当該底部15と第2弁体52との間にはコイルばね57が圧縮状態に配置されている。第1弁体51が下降移動をするときに第2弁体52を押圧することによって、第1弁体51が第2弁体52上の第1弁座53に当接(着座)する。その状態で、第1弁体51の下降又は上昇に応じて第2弁体52が下降又は上昇移動することで該第2弁体52が第2弁座54又は第3弁座56に対して接離動作をし、第1弁体51及び第2弁体52(換言すれば閉塞された第2弁体52の外周部分)と第2弁座54及び第3弁座56との間で流体流量制御が行われる。
また、第1弁体51及び第2弁体52が当接した状態から第1弁体51を引き上げると、コイルばね57の弾発力により第2弁体52が上昇して該第2弁体52が第3弁座56に当接し、それ以降は、第1弁体51のみが上昇可能となり、これにより第1弁体51と第1弁座53との間で流量制御が行われる。
なお、第2弁体52のオリフィス部となる貫通孔52dは、第2弁座54及び第3弁座56よりも小径に形成されている。また、この例においては第1弁座53は、オリフィス16とほぼ同径である。
【0031】
図1は、第1弁体51及び第2弁体52が共にそれぞれ第1弁座53と第2弁座54に着座した状態(A)を示している。この状態は、モータの駆動によって、弁軸24を下降移動させ、第1弁体51が第2弁体52上の第1弁座53に当接(着座)し、その状態でモータの更なる駆動によって、第1弁体51及び第2弁体52がコイルばね57を圧縮しながら更に下降して、第2弁体52が弁室21に設けられた第2弁座54に着座して、開口面積がゼロとなったときを示しており、当該電動弁10の制御開始状態である閉弁状態(制御開始閉弁状態)である。なお、「閉弁状態」に関して、流体回路を所謂完全に「閉」となる状態で放置すると、冷凍サイクルの回路内に流体が高圧で溜まる危険性がある。各弁体及び弁座にブリード溝・孔のような工夫をしなければ電動弁10は閉弁状態にあるが、このような工夫を施すことで、全閉状態で電源を切ったときにも微小流量を流し続けるようにして、閉弁時にも少しずつ流体を漏らすようにして圧力を下げていくことが考えられる。本電動弁においては、閉弁状態とは、こうしたブリード溝・孔などを形成して、閉弁時においても微小流量を許容する状態も含むものとして説明をする。
【0032】
電動弁10は、この制御開始閉弁状態のとき、すなわち第1弁体51が第2弁体52に当接、押圧し、かつ第2弁体52が第2弁座54に着座したときに、ステッピングモータの回転を停止することが好ましい。しかしながら、部品や組立品にはバラツキがあるので、そうしたバラツキを吸収させるために圧縮コイルばね34を入れている。両ストッパ27,37が当たる手前で必ず上記の閉弁状態となるようにし、その後、両ストッパ27、37が当接するまで、圧縮コイルばね34を圧縮しながら継続してロータを動かすことで閉弁状態となってから電動弁10を停止させている。またこの結果、ステッピングモータを逆回転させて制御開始閉弁状態から開弁状態へ移行する際には、電源がオンとなってから最初の数パルス分は、両ストッパ27、37は互いの当接状態から離脱するが閉弁状態は維持されることとなる。
【0033】
図2は、図1に示す状態から弁軸24を引き上げ、第1弁体51及び第2弁体52がコイルばね57の弾発力により当接を維持しながら上昇し、該第2弁体52が第2弁座54と第3弁座59との間に位置した状態(B)を示している。モータの逆方向の駆動によって弁軸24が上昇するとき、コイルばね57の復元力によって第1弁体51が第1弁座53に着座した状態が維持されているので、第1弁体51と第2弁体52とが一緒に上昇する。この上昇のとき、ニードル弁である第1弁体51は第1弁座53に着座したままであるが、第2弁体52は第2弁座54から離座するので、第2弁体52について開いた周状の開口面積c(図5)を通じて、流体流入管20aから流体流出管20bへの大流量の流体が流れる。このとき、第2弁体52について開口面積cは大径の環状に形成されているので、第2弁体52の僅かな上昇でも開口面積cが大きくなり、短時間で(第1弁体51のわずかな上昇で)大流量の流れが得られる。この状態(B)は、次の図3に示す状態に移行するまで継続される。
【0034】
図3は、図2に示す状態から第1弁体51及び第2弁体52が更に上昇し、第1弁体51が第2弁体52に当接したままの状態で該第2弁体が第3弁座56に着座した状態(C)を示している。モータの更なる逆方向の駆動によって弁軸24が上昇すると、第2弁体52は、コイルばね57の復元力に基づいて、上昇する第1弁体51に追従して上昇する。図3には、第1弁体51の第1弁座53に対する着座状態は維持され、第2弁体52が第3弁座56に着座して開口面積b(図5)がゼロとなっている状態が示されており、電動弁10は図1と同様に閉弁状態にある。即ち、電動弁10は、図2に示すように、一旦、大流量となるように開弁した後、流量ゼロになるまで閉弁する。
【0035】
図4は、図3に示す状態から第1弁体51のみが更に上昇した状態(D)を示している。第2弁体52は、コイルばね57の復元力に基づいて、第3弁座56に着座した状態となっているので、モータの更なる逆方向の駆動によって弁軸24が上昇すると、第1弁体51のみが上昇し、第1弁座53から離座してニードル弁が開く。第1弁体51の上昇程度に応じてニードル弁の開度が変更されて、流量を調整することができる。開口面積cは最大に開いても開口面積bがゼロであるので、第2弁体52の周りを流れる流れは遮断される。
第1弁座53は第2弁座54及び第3弁座56と異なり弁座口径が小さく、また第1弁体51にはその先端にニードル部が付設されているため、第1弁体51のみが第1弁座53から上昇した場合における単位パルス(ステッピングモータ駆動用パルス1パルス)当たりの開口面積の変化を微小とすることが出来る。特許文献1の様な従来の電動弁で行う細かい流量制御は、本状態の第1弁体51で行う。
【0036】
図6には、本発明による電動弁の弁開度に応じた流量の特性を示すグラフが示されている。図6において、横軸が弁開度、縦軸が流量を示しており、(A)〜(D)はそれぞれ図1〜図4に示す状態を指している。図1に示す弁開度がゼロの状態(A)では、第1弁体51も第2弁体52も着座しており、流量はゼロである。モータの駆動が開始されて弁軸24が上昇をすると、第2弁体52が第2弁座54から離座し開口面積cの急激な増加によって流量が急増する。その後、第2弁体52が更に上昇するとそれに伴って開口面積cが増加し開口面積bが減少していくが、開口面積bと開口面積cとのいずれか一方がオリフィス16の開口面積aよりも小さければ、流量はその小さい方の開口面積で定まる流量となる。この状態は第2弁体52の第2弁座から離座した上昇量が小さいとき、及び第2弁体52が第3弁座56に近づいたときに生じる。これらの状態の中間では、開口面積bと開口面積cとのいずれもがオリフィス16の開口面積aよりも大きいときがあり、流量は、最も開口面積の小さいオリフィス16の開口面積aで定まるフラットで且つ最大流量となる状態(B’)を取る。即ち、開口面積cが開口面積aより大きくなったときに、フラットな部分(弁開度に関わらず流量が一定な領域)が始まる。開口面積cが増えるにしたがって開口面積bは小さくなるので、開口面積aと比較して開口面積bが開口面積aよりも小さくなると、流量が減少する部分になる。
【0037】
電動弁10においては、最大流量に達するまでのパルス位置は製品毎(或いは用いる部品)の精度によりバラツキがある。そこで、弁開度が多少ずれていても最大流量がフラットになる弁開度の範囲を設けて、最大流量のばらつきを緩和することが好ましい。即ち、最大流量特性がフラットにならずに急峻な三角状の山の特性を示すものであると、ある弁開度で弁の昇降動作を停止してもそのときの流量が最大流量になっている確証がない。最大流量がフラットになる特性を持たせることで、最大流量を狙った弁開度制御を行うことができる。
要するに、このようなフラットな最大流量部分(B’)を設けることにより、ステッピングモータに入力されるパルス数により想定される弁開度と、実際の弁開度とに若干の差異が生じても、確実に領域(B)における最大流量を確保することが出来る。
【0038】
図3に示す状態(C)では、第1弁体51及び第2弁体52は、それぞれ第1弁座53と第3弁座56に着座して流量がゼロになる。その後、更に弁軸24が上昇すると、その上昇程度に応じて弁開度が増加し、流量が次第に増加する通常制御の状態(D)に移行する。この実施例においては、図5に示されるように、オリフィス16の開口面積と第1弁座の53の開口面積(貫通孔52dの開口面積)とはほぼ同一とされているので、状態(B)で示す大流量制御領域のフラットな最大流量(B’)と状態(D)で示す通常流量制御領域の最大流量とは、ほぼ一致している。なお、状態(B)のフラットな最大流量領域(B’)を狭い範囲とすれば、状態(C)にまで短時間で移行出来、通常制御に素早く移行できることは明らかである。
【0039】
上記の実施例ではコイルばね57を設けた例として説明したが、流体が第2弁座54側(流体流入管20a側)から流入する場合、その流体圧により、第2弁体52が第3弁座56側に押圧されるので、そのように当該電動弁10を使用する場合は、このコイルばね57は不要とすることができる。
また、第1弁座53、第2弁座54、第3弁座56及びオリフィス16の口径については、当該電動弁に要求される仕様に基づき、適宜設定可能であることは同然である。
【符号の説明】
【0040】
10 電動弁 15 底部
16 オリフィス 20 弁本体
20a 流体流入管 20b 流体流出管
21 弁室 21a 環状角部
22 弁座
23 弁体 24 弁軸
24a スリット 25 固定ねじ部(雄ねじ部)
26 ガイドブッシュ 26a 螺旋溝部分
27 下ストッパ体(固定ストッパ) 27a 下ストッパ片
30 ロータ 31 移動ねじ部(雌ねじ部)
32 弁軸ホルダ 32a 均圧孔
32b 螺旋溝部分
33 プッシュナット
34 圧縮コイルばね 35 復帰ばね
36 支持リング 37 上ストッパ体(移動ストッパ)
37a 上ストッパ片
40 キャン 41 鍔状板
51 第1弁体
52 第2弁体 52a 外周下縁部
52b 外周上縁部 52c 内周上縁部
52d 貫通孔 52e テーパ開口面
53 第1弁座 54 第2弁座
55 弁座体 55a 貫通孔
55b 内周下縁部 56 第3弁座
57 コイルばね
a,b,c 開口面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの出力を受ける昇降機構により昇降駆動される第1弁体と、
前記第1弁体が当接可能な第1弁座を備えると共に、該第1弁体により前記第1弁座を介して押圧され昇降可能とされた第2弁体と、
前記第1弁座よりも大径で、前記第2弁体が当該第2弁体の下降又は上昇に応じてそれぞれ当接可能な第2弁座及び第3弁座とを備え、
前記第2弁体に対する前記第1弁体の押圧により該第1弁体が前記第1弁座に当接し、その状態で行われる前記第2弁座及び前記第3弁座に対する前記第2弁体の接離動作により該第2弁座及び第3弁座を流れる流体の流量制御を行い、前記第2弁体が前記第3弁座に当接し、その状態で行われる前記第1弁座に対する前記第1弁体の接離動作により、該第1弁座を流れる流体の流量制御を行うことを特徴とする電動弁。
【請求項2】
請求項1記載の電動弁において、
前記第2弁体に対する前記第1弁体の押圧により該第2弁体が前記第2弁座に当接した状態から当該電動弁の制御が開始されることを特徴とする電動弁。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電動弁において、
前記第2弁体に対して前記第1弁体と反対側に、前記第2弁座よりも小径のオリフィス部が形成されていることを特徴とする電動弁。
【請求項4】
請求項3記載の電動弁において、
前記第2弁体が前記第2弁座及び前記第3弁座の間を移動する区間内において、
前記第2弁体と前記第2弁座とにより画定される開口面積(c)、及び前記第2弁体と前記第3弁座とにより画定される開口面積(b)が、共に前記オリフィス部の開口面積(a)よりも大きくなるようにされたことを特徴とする電動弁。
【請求項5】
請求項3又は4記載の電動弁において、
前記第1弁座は、前記オリフィス部とほぼ同径であることを特徴とする電動弁。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の電動弁において、
前記第2弁体を前記第3弁座の方向に対して付勢するばね手段を備え、
前記第1弁体は、前記第2弁体に対して前記第3弁座の方向から該第2弁体を押圧することを特徴とする電動弁。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の電動弁において、
前記第1弁体の先端には、ニードル部が付設されたことを特徴とする電動弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−87841(P2012−87841A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233536(P2010−233536)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】