説明

電動式パワーステアリング装置

【課題】スプライン係合部で、必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期に亙り十分に防止できる構造を実現する。
【解決手段】スプライン孔11とスプライン軸部12とのスプライン係合部から軸方向に外れた位置に、弾性部材19を設ける。この弾性部材19を、電動モータ7の出力軸10に設けた各出力軸側突出部18、18と、ウォーム8側(抑え部材16)に設けた各ウォーム側突出部17、17とにそれぞれ係合させた状態で設ける。又、この状態で、上記出力軸10と上記ウォーム8との間に相対回転に対する抵抗力を付与する方向に弾性変形させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る電動式パワーステアリング装置は、自動車の操舵装置として利用するもので、電動モータを補助動力源として利用する事により、運転者がステアリングホイールを操作する為に要する力の軽減を図るものである。本発明は、この様な電動式パワーステアリング装置を構成する減速機のウォーム軸の基端部と、上記電動モータの出力軸の先端部との接続部に設けるトルク継手部で、回転方向のがたつきに伴う異音の発生を、長期に亙り十分に抑えるべく発明したものである。
【背景技術】
【0002】
操舵輪(フォークリフト等の特殊車両を除き、通常は前輪)に舵角を付与する際に運転者がステアリングホイールを操作する為に要する力の軽減を図る為の装置として、パワーステアリング装置が広く使用されている。又、この様なパワーステアリング装置で、補助動力源として電動モータを使用する電動式パワーステアリング装置も、近年普及し始めている。この様な電動式パワーステアリング装置の構造は、各種知られているが、何れの構造の場合でも、ステアリングホイールの操作によって回転させられ、回転に伴って操舵輪に舵角を付与する回転軸に電動モータの補助動力を、減速機を介して付与する。この減速機として一般的には、ウォーム減速機が使用されている。ウォーム減速機を使用した電動式パワーステアリング装置の場合、上記電動モータにより回転駆動されるウォームと、上記回転軸と共に回転するウォームホイールとを噛合させて、上記電動モータの補助動力をこの回転軸に伝達自在とする。
【0003】
例えば特許文献1には、図11〜12に示す様な電動式パワーステアリング装置が記載されている。ステアリングホイール1により所定方向に回転させられる、回転軸であるステアリングシャフト2の前端部は、ハウジング3の内側に回転自在に支持しており、この部分にウォームホイール4を固定している。このウォームホイール4と噛合するウォーム歯5をウォーム軸6の軸方向中間部に設け、電動モータ7により回転駆動されるウォーム8の両端部を、深溝型玉軸受等の1対の転がり軸受9a、9bにより、上記ハウジング3内に回転自在に支持している。
【0004】
上記ウォーム8を上記電動モータ7の出力軸10により回転駆動する為に、上記ウォーム軸6の基端部にスプライン孔11を、このウォーム軸6の基端面に開口する状態で形成している。又、上記出力軸10の先端部にスプライン軸部12を形成している。そして、このスプライン軸部12と上記スプライン孔11とをスプライン係合させる事で、上記出力軸12と上記ウォーム軸6とを、回転力の伝達を自在に結合している。尚、本明細書で用いる「スプライン」の語には、ピッチの細かい、所謂「セレーション」と呼ばれるものも含むものとする。
【0005】
更に、図12に示した従来構造の場合、上記ウォームホイール4と上記ウォーム歯5との噛合部のバックラッシュをなくす為に、上記ウォーム軸6の先端部(図12の右端部)を上記ウォームホイール4に向け弾性的に押圧する様にしている。即ち、上記ウォーム軸6の先端部で先端側の転がり軸受9aよりも突出した部分に押圧駒13を外嵌し、この押圧駒13と上記ハウジング3との間にコイルばね14等の弾性部材を設けている。そして、このコイルばね14により、上記押圧駒13を介して、上記ウォーム歯5を上記ウォームホイール4に向け押圧している。この様な構成により、これらウォーム歯5とウォームホイール4との間のバックラッシュを抑え、上記電動モータ7の回転方向の変換時に、上記ウォームホイール4と上記ウォーム歯5との噛合部での歯打ち音の発生を抑えている。
【0006】
ところで、上述の様な図12に示した構造の場合、前記出力軸10と前記ウォーム軸6とのトルク継手部、即ち、前記スプライン孔11と前記スプライン軸部12とのスプライン係合部で、これらスプライン孔11とスプライン軸部12とを円周方向の隙間なく(バックラッシュ無しで)スプライン係合させる事ができれば、このスプライン係合部(トルク継手部)で回転方向のがたつきは生じない。但し、実際の場合には、このスプライン係合部にはバックラッシュが存在する。このスプライン係合部のバックラッシュは、上記スプライン孔11とスプライン軸部12とをスプライン係合させる作業を容易に行なえる様にする為に必要である。
【0007】
又、上記出力軸10の中心軸と上記ウォーム軸6の中心軸とが僅かにずれた程度では、上記スプライン係合部にコジリが発生しない様にして、上記出力軸10を回転させる為に要するトルクが上昇する事を防止する為にも、上記バックラッシュは必要である。特に、前記コイルばね14等の弾性部材により上記ウォーム軸6に設けたウォーム歯5を前記ウォームホイール4に向け押圧して、これらウォーム歯5とウォームホイール4との間のバックラッシュを解消する構造の場合には、上記スプライン係合部のバックラッシュを設ける事は必須となる。この様なバックラッシュ、即ち、円周方向の隙間は、トルク継手部として上記スプライン係合部に代え、例えば断面小判形の如き非円形嵌合部等の、他の機構のトルク継手部を採用した場合にも同様に必要になる。
【0008】
ところが、上記スプライン係合部にバックラッシュ(円周方向の隙間)が存在すると、即ち、上記出力軸10と上記ウォーム軸6との間に回転方向のがたつきがあると(出力軸10とウォーム軸6とが微小に相対回転可能であると)、このがたつきに基づきスプライン係合部で異音が発生する可能性がある。即ち、例えば電動モータ7が起動し始める瞬間や、その回転方向が変換される瞬間に、上記スプライン軸部12の外周面に設けられた雄スプライン歯の円周方向側面と、上記スプライン孔11の内周面に設けられた雌スプライン歯の円周方向側面とが勢い良く衝突し、歯打ち音と呼ばれる異音が発生する可能性がある。
【0009】
この様な歯打ち音は、上記スプライン係合部のバックラッシュ(がたつき、相対回転量)が大きくなる程著しくなるので、従来は、このバックラッシュを、このスプライン係合部の組立が可能な範囲で、更には、上記ウォーム歯5とウォームホイール4との間のバックラッシュを解消できる範囲で、小さく抑える様にしていた。但し、上記スプライン係合部のバックラッシュを小さくすると、その分、上記スプライン軸部12を上記スプライン孔11に挿入しにくくなり、組立作業性が低下し、電動式パワーステアリング装置の製造コスト上昇の原因となる。又、上記出力軸10と上記ウォーム軸6との組み付け精度を高くしないと、上記コジリによるトルク上昇の問題が発生し易くなるので、やはり電動式パワーステアリング装置の製造コスト上昇の原因となる。
【0010】
上述の様な歯打ち音(回転方向のがたつき)の防止を図る為の技術として、例えば、特許文献2に記載された構造が知られている。この特許文献2に記載された構造の場合には、出力軸とウォーム軸とのトルク継手部に弾性部材を設け、この弾性部材の弾性力に基づいて、このトルク継手部で歯打ち音(回転方向のがたつき)が生じるのを防止している。但し、上記特許文献2に記載された構造の場合には、上記出力軸とウォーム軸との間でのトルクの伝達が、上記弾性部材を介して行われる。この為、トルク伝達時にこの弾性部材にそのトルクが常に加わり、長期の使用に伴いこの弾性部材が、所期の弾性力を付与できなくなる(初期の弾性力を長期に亙り付与できなくなる、へたり易くなる)可能性がある。そして、この様に所期の弾性力を付与できなくなると、上記歯打ち音(回転方向のがたつき)を十分に防止できなくなり、好ましくない。
【0011】
一方、特許文献3には、上述の様な電動式パワーステアリング装置の作動時の動作を安定させるべく、電動モータの出力軸とウォーム軸とが軸方向にがたつくのを防止する為の構造が記載されている。即ち、この特許文献3に記載された構造の場合には、出力軸とウォーム軸との間にOリングを、弾性的に圧縮した状態で挟持する。そして、これら出力軸とウォーム軸とに互いに離れる方向の弾力を付与し、これら出力軸とウォーム軸とが軸方向にがたつく事を防止する。但し、この様な特許文献3に記載された構造の場合には、上述した様な回転方向のがたつき(バックラッシュ)に伴う異音(歯打ち音)の発生を防止する事を意図してはいない。
【0012】
即ち、上記特許文献3に記載された構造の場合は、上述の様に出力軸とウォーム軸との間にOリングを軸方向に圧縮した状態で挟持し、このOリングにより軸方向の弾性力を付与する。この様にOリングを軸方向に圧縮した状態で挟持した構造の場合、回転方向の抵抗力は、殆ど得られないか、仮に得られたとしても、摩擦力に基づく不安定なものとなる。従って、上記特許文献3に記載された様な、Oリングを組み込んだ構造では、上述の様な回転方向のがたつき(バックラッシュ)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期間に亙り安定して防止する事はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−306898号公報
【特許文献2】特開2006−177505号公報
【特許文献3】特開2002−255047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、電動モータの出力軸とウォーム減速機のウォームとの間でトルク伝達を行なう為のトルク継手部で、必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期に亙り十分に防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の電動式パワーステアリング装置は何れも、例えば前述した特許文献1等に記載されて従来から知られている電動式パワーステアリング装置と同様に、ハウジングと、回転軸と、ウォームホイールと、ウォームと、電動モータと、トルク継手部とを備える。
このうちのハウジングは、ステアリングコラム、ステアリングギヤユニットのケース等の固定の部分に支持されて、回転する事はない。
又、上記回転軸は、上記ハウジングに対し回転自在に設けられて、ステアリングホイールの操作により回転させられ、回転に伴って操舵輪に舵角を付与する。この様な回転軸としては、上記固定の部分が上記ステアリングコラムの場合には、ステアリングシャフト若しくはこのステアリングシャフトと同軸に設けられたシャフトが、上記固定の部分がステアリングギヤユニットのケースである場合にはピニオン軸が、それぞれ相当する。
又、上記ウォームホイールは、上記ハウジングの内部で上記回転軸の一部に、この回転軸と同心に支持されて、この回転軸と共に回転する。
【0016】
又、上記ウォームは、ウォーム軸の軸方向中間部にウォーム歯を設けて成り、このウォーム歯を上記ウォームホイールと噛合させた状態で、上記ウォーム軸の軸方向端部を転がり軸受により、上記ハウジングに対し回転自在に支持されている。
又、上記電動モータは、上記ウォームを回転駆動する為のものである。
又、上記トルク継手部は、上記電動モータの出力軸の先端部と上記ウォームの基端部との間に設けられて、この出力軸からこのウォームへのトルクの伝達を可能としたもので、継手受孔と継手軸部とにより構成される。
このうちの継手受孔は、上記出力軸と上記ウォームとのうちの一方の部材の軸方向端面に開口したもので、内周面の断面形状が非円形である。
又、上記継手軸部は、上記出力軸と上記ウォームとのうちの他方の部材の端部であって、上記継手受孔の内周面とトルク伝達を可能に継手係合すべく、外周面の断面形状が非円形である。
尚、これら継手受孔並びに継手軸部の断面形状は、欠円状、小判形、多角形等、非円形であれば、各種形状を採用できるが、好ましくは、これら継手受孔と継手軸部とをそれぞれ、スプライン孔とスプライン軸部とする。
【0017】
特に、本発明の電動式パワーステアリング装置のうち、請求項1に記載した電動式パワーステアリング装置に於いては、上記継手受孔と上記継手軸部との継手係合部から軸方向に外れた位置に、例えばニトリルゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等のゴム、或いはポリウレタンの如きエラストマー、合成樹脂等の弾性材により造られた弾性部材を設けている。そして、この様な弾性部材を、上記出力軸(出力軸と共に回転する部材を含む)に設けた出力軸側突出部と上記ウォーム(ウォームと共に回転する部材を含む)に設けたウォーム側突出部とにそれぞれ係合させた状態で、且つ、この係合に基づき、上記出力軸と上記ウォームとの間に相対回転に対する抵抗力(捩り剛性)を付与する方向に弾性変形させた状態で設けている。
【0018】
又、この様な請求項1に記載した電動式パワーステアリング装置の発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記出力軸(出力軸と共に回転する部材を含む)に、少なくとも1個(より好ましくは複数個)の上記出力軸側突出部を設ける。又、これと共に、上記ウォーム(ウォームと共に回転する部材を含む)に、少なくとも1個(より好ましくは複数個)の上記ウォーム側突出部を設ける。そして、これら出力軸側突出部とウォーム側突出部との間に上記弾性部材を、これら弾性部材と出力軸側突出部及びウォーム側突出部とが、上記出力軸の径方向に重畳する状態で設ける。
又、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、上記出力軸側突出部を、上記出力軸(出力軸と共に回転する部材を含む)に一体に設けると共に、上記ウォーム側突出部を、上記ウォーム(ウォームと共に回転する部材を含む)に一体に設ける。
又、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、上記出力軸側突出部の径方向の一部と、上記ウォーム側突出部の径方向の一部とを、円周方向に重畳させる。
【0019】
又、本発明の電動式パワーステアリング装置のうち、請求項5に記載した電動式パワーステアリング装置に於いては、前記継手受孔と前記継手軸部との継手係合部の径方向内側に、これら継手受孔及び継手軸部と径方向に重畳する状態で、且つ、前記出力軸と前記ウォームとにより軸方向に圧縮した状態で、例えばニトリルゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等のゴム、或いはポリウレタンの如きエラストマー、合成樹脂等の弾性材により造られた第二の弾性部材を設ける。そして、この様な第二の弾性部材により、上記出力軸と上記ウォームとの間に互いに軸方向に離れる方向の力と、相対回転に対する抵抗力(捩り剛性)とを付与する。尚、この様な力を付与する為に、例えば上記第二の弾性部材の自由状態での軸方向寸法を、組み付け状態での、この第二の弾性部材の軸方向両端面とそれぞれ当接する相手面同士の間隔よりも大きくする。
【0020】
又、この様な請求項5に記載した電動式パワーステアリング装置の発明を実施する場合に、好ましくは、請求項6に記載した発明の様に、上記継手軸部の端面に、この端面から凹入する状態で凹部を設けると共に、この凹部の底面と上記継手受孔の奥端面との間で、上記第二の弾性部材を軸方向に圧縮する。
又、この場合に、より好ましくは、請求項7に記載した発明の様に、外周面の断面形状を非円形とした円筒部材を、上記出力軸又は上記ウォームの端部に外嵌固定する事により上記継手軸部を構成する。そして、この円筒部材の内周面と上記出力軸又はウォームの端面とにより上記凹部を構成する。
【発明の効果】
【0021】
上述の様な本発明の電動式パワーステアリング装置によれば、トルク継手部で、必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期に亙り十分に防止できる。
先ず、請求項1に記載した発明の場合には、電動モータの出力軸に設けた出力軸側突出部とウォームに設けたウォーム側突出部とにそれぞれ係合させた状態で設けた弾性部材により、これら出力軸とウォームとの間に相対回転に対する抵抗力(捩り剛性)を付与する。この為、この抵抗力(捩り剛性)に基づいて、上記電動モータが起動し始めた瞬間や、その回転方向が変換される瞬間に、上記出力軸とウォーム軸との間のトルク継手部で、トルク伝達面同士が勢い良く衝突する事を防止できる(勢いを鈍らせる事ができる)。しかも、上記弾性部材を、継手受孔と継手軸部との継手係合部から軸方向に外れた位置に設けている為、これら継手受孔と継手軸部との直接の係合(当接)に基づいてトルクの伝達を行える(弾性部材を介してトルクの伝達が行われない)。この為、長期に亙る使用に拘らず、上記弾性部材により常に所期の弾性力を付与できる(初期の弾性力を長期に亙り付与できる、へたりにくくできる)。この結果、上記トルク継手部で必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期間に亙り十分に防止できる。
【0022】
又、請求項5に記載した発明の場合には、電動モータの出力軸とウォーム軸との間に軸方向に圧縮された状態で設けた第二の弾性部材により、これら出力軸とウォーム軸との間に互いに離れる方向の弾性力(軸方向の弾性力)を付与しつつ、相対回転に対する抵抗力(捩り剛性)も付与する。この為、この抵抗力(捩り剛性)に基づいて、上記電動モータが起動し始めた瞬間や、その回転方向が変換される瞬間に、上記出力軸とウォーム軸との間のトルク継手部で、トルク伝達面同士が勢い良く衝突する事を防止できる(勢いを鈍らせる事ができる)。しかも、上記第二の弾性部材を、上記継手受孔と上記継手軸部との継手係合部の径方向内側に、これら継手受孔及び継手軸部と径方向に重畳する状態で設けている為、これら継手受孔と継手軸部との直接の係合(当接)に基づいてトルクの伝達を行える(第二の弾性部材を介してトルクの伝達が行われない)。この為、長期に亙る使用に拘らず、上記第二の弾性部材により常に所期の弾性力を付与できる(初期の弾性力を長期に亙り付与できる、へたりにくくできる)。この結果、上記トルク継手部で必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期間に亙り十分に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分切断側面図。
【図2】ウォームと出力軸との間に弾性部材を組み付ける状態を示す、図1と同方向から見た部分断面図。
【図3】弾性部材を取り出して図2の左方から見た図。
【図4】本発明の実施の形態の第2例を示す、図3と同様の図。
【図5】同第3例を示す部分切断側面図。
【図6】ウォームと出力軸との間に弾性部材を組み付ける状態を示す、図5と同方向から見た部分断面図。
【図7】同じく部分拡大斜視図。
【図8】弾性部材を取り出して図7の左方から見た図。
【図9】本発明の実施の形態の第4例を示す部分切断側面図。
【図10】図9のA部拡大図。
【図11】従来構造の1例を示す部分切断側面図。
【図12】図11の拡大B−B断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の電動式パワーステアリング装置の特徴は、ウォーム軸6の基端面に開口したスプライン孔11と電動モータ7の出力軸10の先端部に形成したスプライン軸部12とのスプライン係合部の隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を防止する為の構造にある。その他、電動式パワーステアリング装置全体の構造及び作用に就いては、前述した従来構造と同様であるから、この従来構造と同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。尚、前述の図11〜12と図1とでは、ハウジング3に対する電動モータ7の取付方向が異なっているが、この点は、設置する自動車に応じ適宜設計的に変更するものであって、本発明の特徴部分とは関係がない。
【0025】
本例の場合は、上記ウォーム軸6の基端部に、特許請求の範囲に記載した継手受孔に相当するスプライン孔11を、このウォーム軸6の基端面に開口する状態で、このウォーム軸6と同心に形成している。又、電動モータ7の出力軸10の先端部に、特許請求の範囲に記載した継手軸部であるスプライン軸部12を、この出力軸10と同心に形成している。そして、このスプライン軸部12と上記スプライン孔11とを、特許請求の範囲に記載した継手係合であるスプライン係合させる事で、上記出力軸10と上記ウォーム軸6とを、回転力の伝達を可能に結合している。上記スプライン軸部12と上記スプライン孔11とのスプライン係合部には隙間(バックラッシュ)を介在させて、これらスプライン孔11とスプライン軸部12とをスプライン係合させる作業を容易に行なえる様にすると共に、上記出力軸10の中心軸に対し上記ウォーム軸6の中心軸が、多少傾斜する事を許容できる様にしている。
【0026】
又、本例の場合は、上記ウォーム軸6の基端部外周面で、このウォーム軸6を回転自在に支持する転がり軸受9bよりも軸方向基端側に突出した部分に、この転がり軸受9bを構成する内輪15がこのウォーム軸6から抜け出るのを防止する為の、抑え部材16を外嵌固定している。そして、この抑え部材16の軸方向片側面(図1、2の右側面、スプライン孔11と反対側の面)に、この片側面から軸方向片側に向けて突出する状態で、且つ、円周方向に関して等間隔に離隔した状態で、複数個(図示の例の場合は3個)のウォーム側突出部17、17を、上記抑え部材16と一体に設けている。
【0027】
又、上記出力軸10の先端部で、上記スプライン軸部12よりも基端側に、この出力軸10の外周面から径方向外方に突出する状態で、且つ、円周方向に関して等間隔に離隔した状態で、複数個(図示の例の場合は3個)の出力軸側突出部18、18を、上記出力軸10と一体に設けている。即ち、本例の場合には、これら各出力軸側突出部18、18と上記各ウォーム側突出部17、17とを、上記スプライン軸部12及び上記スプライン孔11から軸方向に外れた位置に設けている。そして、これら各出力軸側突出部18、18と上記各ウォーム側突出部17、17との間に弾性部材19を、これら弾性部材19と、出力軸側突出部18、18及びウォーム側突出部17、17とが、上記出力軸10の径方向に(但し、各突出部18、17毎に周方向に外れた位置で)重畳する状態で設けている。
【0028】
本例の場合、上記弾性部材19は、例えばニトリルゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等のゴム、或いはポリウレタンの如きエラストマー、合成樹脂等のうちから選択される、耐油性を有する弾性材により、全体を円環状(略円筒状)に造られたもので、少なくとも円周方向に関して拡縮自在な弾性を有する。そして、この様な弾性部材19の外周面に、この外周面から径方向内方に凹入する状態で、上記各ウォーム側突出部17、17と係合する外径側係合凹部20、20を設けている。又、同じく上記弾性部材19の内周面に、この内周面から径方向外方に凹入する状態で、上記各出力軸側突出部18、18と係合する内径側係合凹部21、21を設けている。
【0029】
そして、この様な各内径側係合凹部21、21を、上記出力軸10の各出力軸側突出部18、18に係合させると共に、上記各外径側係合凹部20、20を、上記ウォーム軸6に結合固定された上記抑え部材16の各ウォーム側突出部17、17に係合させた状態で、上記弾性部材19を上記出力軸10とウォーム軸6との間に組み付けている。又、この様に組み付けた状態で、上記外径側、内径側各係合凹部20、21とウォーム側、出力軸側各突出部17、18との係合に基づき上記弾性部材19を、上記出力軸10とウォーム8との間に相対回転に対する抵抗力を付与する方向に弾性変形させて(上記各係合凹部20、21内に上記各突出部17、18を圧入して)いる。この為に、本例の場合には、上記弾性部材19の自由状態での、円周方向に関する、上記内径側、外径側各係合凹部20、21の内側面同士の間隔を、上記ウォーム側、出力軸側各突出部17、18の円周方向に関する側面同士の間隔よりも大きくしている。そして、これらウォーム側、出力軸側各突出部17、18と上記内径側、外径側各係合凹部20、21とを係合させた状態で、上記スプライン軸部12とスプライン孔11との関係が中立状態(回転方向両側に同大のバックラッシュが存在する状態)となる様に、且つ、上記出力軸10とウォーム8との間に(両方向の)相対回転に対する抵抗力が付与される様にしている。
【0030】
この様な本例の電動式パワーステアリング装置の場合には、ウォーム軸6の基端面に開口したスプライン孔11と電動モータ7の出力軸10の先端部に形成したスプライン軸部12とのスプライン係合部で、必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期に亙り十分に防止できる。
即ち、本例の場合には、上記出力軸10に設けた各出力軸側突出部18、18とウォーム8(を構成するウォーム軸6の基端部に結合固定した抑え部材16)に設けた各ウォーム側突出部17、17とにそれぞれ係合させた状態で設けられた弾性部材19により、上記出力軸10とウォーム8との間に相対回転に対する抵抗力(捩り剛性)を付与する。この為、この抵抗力(捩り剛性)に基づいて、上記電動モータ7が起動する瞬間や、その回転方向が変換される瞬間に、上記出力軸10とウォーム軸6との間のトルク継手部(スプライン係合部)で、トルク伝達面同士が勢い良く衝突する事を防止できる(勢いを鈍らせる事ができる)。
【0031】
しかも、上記弾性部材19を、上記スプライン孔11と上記スプライン軸部12とのスプライン係合部から軸方向に外れた位置に設けている為、これらスプライン孔11とスプライン軸部12との直接の係合(スプライン歯の側面同士の直接の当接)に基づいてトルクの伝達を行える。即ち、中立状態からスプライン歯の側面同士が当接するまでの瞬間は、上記弾性部材19が弾性変形しつつ極く僅かのトルク伝達が行われるにしても、それ以外は、この弾性部材19を介してトルクの伝達が(この極く僅かのトルクに相当する分を除き)行われない様にできる。この為、長期に亙る使用に拘らず、上記弾性部材19により常に所期の弾性力を付与できる(初期の弾性力を長期に亙り付与できる、へたりにくくできる)。この結果、上記スプライン係合部で必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期間に亙り十分に防止できる。
【0032】
しかも、本例の場合には、上記弾性部材19を、空間(特に径方向の空間)に余裕のある部分である、ウォーム軸6の基端部のうちのより出力軸10に近い部分(ウォーム軸6の基端部に結合固定した抑え部材16と隣り合う部分)に配置している為、この弾性部材19として大型のもの(容積の大きなもの、径方向寸法の大きなもの)を組み込み易くでき、この弾性部材19による弾性力を確保し易くできる。又、各出力軸側突部18、18を出力軸10と一体に設けると共に、各ウォーム側突出部17、17を、ウォーム軸6の基端部に結合固定した抑え部材16と一体に設けている為、部品点数の低減による製造コストの低減も図れる。
【0033】
[実施の形態の第2例]
図4は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。上述した実施の形態の第1例の場合は、外径側係合凹部20、20と内径側各係合凹部21、21との数(ウォーム側突出部17、17と出力軸側突出部18、18との数)を同じとしている(図1〜3参照)のに対して、本例の場合には、その数を異ならせている。即ち、本例の場合には、弾性部材19aの内周面の径方向反対側2個所位置に内径側係合凹部21a、21aを設けると共に、同じく外周面の円周方向等間隔4個所位置に各外径側係合凹部20a、20aを設けている。これに合わせて、ウォーム軸6の基端部に結合固定した抑え部材16の片側面の円周方向等間隔4個所位置にウォーム側突出部17、17を、出力軸10の中間部外周面の径方向反対側2個所位置に出力軸側突出部18、18(図1〜2参照)を、それぞれ設ける。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0034】
[実施の形態の第3例]
図5〜8は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合は、出力軸10の先端部に円筒部材22を外嵌固定すると共に、この円筒部材22の基端部に出力軸側突出部18a、18aを設けている。そして、本例の場合には、これら各出力軸側突出部18a、18aの径方向の一部と、ウォーム軸6の基端部に結合固定した抑え部材16の片側面に設けた各ウォーム側突出部17a、17aの径方向の一部とを、円周方向に重畳させている。
【0035】
この様な本例の場合には、弾性部材19bのうちで、円周方向に関し各内径側係合凹部21b、21bと各外径側係合凹部20b、20bとの間部分が、上記各出力軸側突出部18a、18aの各側面と上記各ウォーム側突出部17a、17aの各側面とにより円周方向に圧縮される(図8に斜格子で示す部分に圧縮荷重が加わる)。この為、例えば、前述の図3に示した様な、各出力軸側突出部18、18の径方向の一部と各ウォーム側突出部17、17の径方向の一部とが円周方向に重畳しない構造の場合の様に、各内径側係合凹部21、21と各外径側係合凹部20、20との間部分に剪断力(図3の矢印α、α)が加わる事を防止できる。この為、この様な図3に示した構造に比べ、弾性部材19bの耐久性や弾性力をより確保し易くできる。
【0036】
又、本例の場合には、上記円筒部材22の基端部で、上記各出力軸側突出部18a、18aを設けた部分よりも基端側に、全周に亙り径方向外方に突出する状態で鍔部25を設けている。そして、互いに対向する、この鍔部25の側面と、抑え部材16の側面とにより、上記弾性部材19bを軸方向に圧縮している。この様な本例の場合には、電動モータ7の出力軸10とウォーム軸6との間に、互いに離れる方向の弾性力(軸方向の弾性力)を付与できる。この為、これら出力軸10とウォーム軸6とが軸方向にがたつく事を防止できると共に、スプライン係合部での異音の発生をより確実に防止できる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1、2例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0037】
[実施の形態の第4例]
図9〜10は、請求項1〜7に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。上述した実施の形態の第3例の場合には、出力軸10の先端部に外嵌固定した円筒部材22の基端部にのみ、(第一の)弾性部材19bを設けている(例えば図5参照)。これに対して、本例の場合には、この様な(第一の)弾性部材19bの他、この(第一の)弾性部材19bとは別に、第二の弾性部材23を設けている。即ち、本例の場合には、スプライン孔11とスプライン軸部12とのスプライン係合部の径方向内側に、これらスプライン孔11及びスプライン軸部12と径方向に重畳する状態で、且つ、このスプライン孔11の奥端面と上記スプライン軸部12の内径側に設けられた凹部24の底面(出力軸10の先端面)とにより軸方向に圧縮した状態で、上記第二の弾性部材23を設けている。この第二の弾性部材23は、例えばニトリルゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等のゴム、或いはポリウレタンの如きエラストマー、合成樹脂等のうちから選択される、耐油性を有する弾性材により、全体を充実円柱状に造られたもので、軸方向寸法を拡縮自在な弾性を有する。そして、この様な第二の弾性部材23により、上記出力軸10とウォーム8との間に互いに軸方向に離れる方向の力と、相対回転に対する抵抗力とを付与している。
【0038】
この為に、本例の場合には、上記スプライン軸部12の端面に、この端面から凹入する状態で上記凹部24を設けている。この様な凹部24を構成する為に、本例の場合には、外周面に上記スプライン軸部12を形成した円筒部材22を、上記出力軸10の先端部に外嵌固定している。そして、この円筒部材22の内周面と上記出力軸10の先端面とにより上記凹部24を構成している。そして、この凹部24の底面(出力軸10の先端面)と上記スプライン孔11の奥端面との間で、上記第二の弾性部材23を軸方向に圧縮している。尚、この様に第二の弾性部材23を軸方向に圧縮した状態で設ける為に、本例の場合には、この第二の弾性部材23の自由状態での軸方向寸法を、組み付け状態での、上記スプライン孔11の奥端面と上記凹部24の底面(出力軸10の先端面)との間隔よりも大きくしている。
【0039】
又、この様に組み付け状態で、上記第二の弾性部材23の軸方向両側面は、全体に亙り、上記スプライン孔11の奥端面と上記凹部24の底面(出力軸10の先端面)とに、それぞれ当接する様にしている。又、この凹部24の内面(内周面)に、上記第二の弾性部材の出力軸10側の端部外周面を全周に亙り当接する様にする事も好ましい。又、上記スプライン軸部12と上記スプライン孔11との関係が中立状態(回転方向両側に同大のバックラッシュが存在する状態)で、上記第二の弾性部材23も中立状態(捩れていない状態)となる様にしている。そして、この様な第二の弾性部材23により、上記スプライン軸部12を設けた上記出力軸10と上記スプライン孔11を設けた上記ウォーム軸6との間に、軸方向に離れる方向の力と、相対回転に対する抵抗力とを付与している。
【0040】
尚、必要に応じて、上記スプライン孔11の奥端面と、上記凹部24の内面又は底面(出力軸10の先端面)と、上記第二の弾性部材23の軸方向端面又は外周面とのうちの少なくとも何れかの表面を、静止摩擦係数を大きくすべく、粗くする。そして、この様に粗くする事により、上記第二の弾性部材23の軸方向側面と相手面{スプライン孔11の奥端面、凹部24の内面及び底面(出力軸10の先端面)}とを互いに滑りにくくし、この滑りに伴う上記抵抗力(捩り剛性)の低減や喪失を防止する。又、上記第二の弾性部材23の軸方向両側面又は外周面を、上記スプライン孔11の奥端面と、上記凹部24の内面又は底面(出力軸10の先端面)とのそれぞれに、回転方向の相対変位を阻止した状態で係合させる事もできる。この為に、例えばこれら第二の弾性部材23の軸方向側面又は外周面と相手面{スプライン孔11の奥端面、凹部24の内面又は底面(出力軸10の先端面)}とに互いに係合自在な、非円形若しくは偏心等の凹部と凸部とをそれぞれに分けて設け、これら凹部と凸部とを凹凸係合させる事で、上記回転方向の相対変位を阻止する事ができる。又、必要に応じて、スプライン孔11の奥端面と上記凹部24の内面又は底面(出力軸10の先端面)とのうちの少なくとも一方の面に、上記第二の弾性部材23を、例えば接着、焼き付き等により不離に接合する事もできる。
【0041】
何れにしても、本例の電動式パワーステアリング装置の場合には、ウォーム軸6の基端面に開口したスプライン孔11と電動モータ7の出力軸10の先端部に形成したスプライン軸部12とのスプライン係合部で、必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期に亙り十分に防止できる。
即ち、本例の場合には、スプライン孔11の奥端面と、電動モータ7の出力軸10の先端面である、凹部24の底面との間に設けた第二の弾性部材23により、この出力軸10とウォーム軸6との間に、互いに離れる方向の弾性力(軸方向の弾性力)を付与しつつ、相対回転に対する抵抗力(捩り剛性)も付与できる。この為、この抵抗力(捩り剛性)に基づいて、上記電動モータ7が起動する瞬間や、その回転方向が変換される瞬間に、上記出力軸10とウォーム軸6との間のトルク継手部(スプライン係合部)で、トルク伝達面同士が勢い良く衝突する事を防止できる(勢いを鈍らせる事ができる)。
【0042】
しかも、上記第二の弾性部材23を、上記スプライン孔11とスプライン軸部12とのスプライン係合部の径方向内側に、これらスプライン孔11及びスプライン軸部12と径方向に重畳する状態で設けている為、これらスプライン孔11とスプライン軸部12との直接の係合(スプライン歯の側面同士の直接の当接)に基づいてトルクの伝達を行える。即ち、中立状態からスプライン歯の側面同士が当接するまでの瞬間は、上記第二の弾性部材23が弾性変形しつつ極く僅かのトルク伝達が行われるにしても、それ以外は、この第二の弾性部材23を介してトルクの伝達が(上記極く僅かのトルクに担当する分を除き)行われない様にできる。この為、長期に亙る使用に拘らず、上記第二の弾性部材23により常に所期の弾性力を付与できる(初期の弾性力を長期に亙り付与できる、へたりにくくできる)。この結果、上記スプライン係合部で必要な隙間(バックラッシュ)を確保しつつ、この隙間の存在に起因する、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生を、長期間に亙り十分に防止できる。
【0043】
又、本例の場合には、スプライン孔11及びスプライン軸部12の径方向に内側に、これらスプライン孔11及びスプライン軸部12と径方向に重畳する状態で第二の弾性部材23を設けている為、装置全体としての軸方向寸法を増大させる事なく、この第二の弾性部材23を組み込む部分を確保できる。又、この第二の弾性部材23として軸方向寸法が大きいものも組み込み易くできる。又、本例の場合には、上記出力軸10の先端部に、スプライン軸部12を形成した円筒部材22を外嵌固定する事により、上記第二の弾性部材23を組み付ける為の凹部24を構成している為、この凹部24の形成作業を容易に行える。即ち、上記出力軸10の先端面に穿孔加工等を施す事により凹部24を形成する場合に比べ、加工を容易に行え、製造コストの低減を図れる。しかも、上記スプライン孔11の深さを深くしなくても(必要以上に深くする事なく)、上記第二の弾性部材23を組み込む部分を確保できる為、この面からも、製造コストの低減を図れる。又、この様にスプライン孔11の深さを深くしなくて済む分、このスプライン孔11の深さ(奥端面の位置)を精度良く規制できる。この為、組み付け状態での上記第二の弾性部材23の寸法(圧縮された状態での寸法)を精度良く規制でき、この第二の弾性部材23が付与する軸方向弾性力並びに抵抗力を所定の値に規制し易くできる。この為、回転方向のがたつき(相対回転)に伴う異音(歯打ち音)の発生をより確実に防止できる。
【0044】
尚、本例の場合には、(第一の)弾性部材19bと第二の弾性部材23との2つの弾性部材を設けている。但し、このうちの(第一の)弾性部材19bを省略し、この第二の弾性部材23のみの弾性力に基づいて、上記電動モータ7の出力軸10とウォーム軸6との間に相対回転に対する抵抗力(捩り剛性)を付与する事もできる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1〜3例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0045】
尚、前述した実施の形態の各例の何れもが、ウォーム6側にスプライン孔11を設けると共に、出力軸10側にスプライン軸部12を設けているが、逆にする事もできる。即ち、図示は省略するが、ウォーム側にスプライン軸部を設けると共に、出力軸側にスプライン孔を設ける事もできる。
【符号の説明】
【0046】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 ハウジング
4 ウォームホイール
5 ウォーム歯
6 ウォーム軸
7 電動モータ
8 ウォーム
9a、9b 転がり軸受
10 出力軸
11 スプライン孔
12 スプライン軸部
13 押圧駒
14 コイルばね
15 内輪
16 抑え部材
17、17a ウォーム側突出部
18、18a 出力軸側突出部
19、19a、19b 弾性部材
20、20a、20b 外径側係合凹部
21、21a、21b 内径側係合凹部
22 円筒部材
23 第二の弾性部材
24 凹部
25 鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定の部分に支持されて回転する事のないハウジングと、このハウジングに対し回転自在に設けられて、ステアリングホイールの操作により回転させられ、回転に伴って操舵輪に舵角を付与する回転軸と、上記ハウジングの内部でこの回転軸の一部に、この回転軸と同心に支持されて、この回転軸と共に回転するウォームホイールと、ウォーム軸の軸方向中間部にウォーム歯を設けて成り、このウォーム歯を上記ウォームホイールと噛合させた状態で、上記ウォーム軸の軸方向端部を転がり軸受により上記ハウジングに対し回転自在に支持されたウォームと、このウォームを回転駆動する為の電動モータと、この電動モータの出力軸の先端部とこのウォームの基端部との間に設けられて、この出力軸からこのウォームへのトルクの伝達を可能としたトルク継手部とを備え、このトルク継手部は、上記出力軸と上記ウォームとのうちの一方の部材の軸方向端面に開口した、内周面の断面形状が非円形である継手受孔と、上記出力軸と上記ウォームとのうちの他方の部材の端部であってこの継手受孔の内周面とトルク伝達を可能に継手係合する、外周面の断面形状が非円形である継手軸部とにより構成されるものである
電動式パワーステアリング装置に於いて、
上記継手受孔と上記継手軸部との継手係合部から軸方向に外れた位置に弾性部材を、上記出力軸に設けた出力軸側突出部と上記ウォームに設けたウォーム側突出部とにそれぞれ係合させた状態で、且つ、この係合に基づき、上記出力軸と上記ウォームとの間に相対回転に対する抵抗力を付与する方向に弾性変形させた状態で設けた
事を特徴とする電動式パワーステアリング装置。
【請求項2】
出力軸に少なくとも1個の出力軸側突出部を設けると共に、ウォームに少なくとも1個のウォーム側突出部を設け、これら出力軸側突出部とウォーム側突出部との間に弾性部材を、これら弾性部材と出力軸側突出部及びウォーム側突出部とが、上記出力軸の径方向に重畳する状態で設けた、
請求項1に記載した電動式パワーステアリング装置。
【請求項3】
出力軸側突出部を出力軸に一体に設けると共に、ウォーム側突出部をウォームに一体に設けた、
請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した電動式パワーステアリング装置。
【請求項4】
出力軸側突出部の径方向の一部と、ウォーム側突出部の径方向の一部とを、円周方向に重畳させた、
請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した電動式パワーステアリング装置。
【請求項5】
固定の部分に支持されて回転する事のないハウジングと、このハウジングに対し回転自在に設けられて、ステアリングホイールの操作により回転させられ、回転に伴って操舵輪に舵角を付与する回転軸と、上記ハウジングの内部でこの回転軸の一部に、この回転軸と同心に支持されて、この回転軸と共に回転するウォームホイールと、ウォーム軸の軸方向中間部にウォーム歯を設けて成り、このウォーム歯を上記ウォームホイールと噛合させた状態で、上記ウォーム軸の軸方向端部を転がり軸受により上記ハウジングに対し回転自在に支持されたウォームと、このウォームを回転駆動する為の電動モータと、この電動モータの出力軸の先端部とこのウォームの基端部との間に設けられて、この出力軸からこのウォームへのトルクの伝達を可能としたトルク継手部とを備え、このトルク継手部は、上記出力軸と上記ウォームとのうちの一方の部材の軸方向端面に開口した、内周面の断面形状が非円形である継手受孔と、上記出力軸と上記ウォームとのうちの他方の部材の端部であってこの継手受孔の内周面とトルク伝達を可能に継手係合する、外周面の断面形状が非円形である継手軸部とにより構成されるものである
電動式パワーステアリング装置に於いて、
上記継手受孔と上記継手軸部との継手係合部の径方向内側に、これら継手受孔及び継手軸部と径方向に重畳する状態で、且つ、上記出力軸と上記ウォームとにより軸方向に圧縮した状態で第二の弾性部材を設け、この第二の弾性部材により、上記出力軸と上記ウォームとの間に互いに軸方向に離れる方向の力と、相対回転に対する抵抗力とを付与した
事を特徴とする電動式パワーステアリング装置。
【請求項6】
継手軸部の端面に、この端面から凹入する状態で凹部を設けると共に、この凹部の底面と継手受孔の奥端面との間で、第二の弾性部材を軸方向に圧縮した、
請求項5に記載した電動式パワーステアリング装置。
【請求項7】
外周面の断面形状を非円形とした円筒部材を、出力軸又はウォームの端部に外嵌固定する事により継手軸部を構成すると共に、この円筒部材の内周面と上記出力軸又はウォームの端面とにより凹部を構成した、
請求項6に記載した電動式パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−107640(P2013−107640A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−280631(P2012−280631)
【出願日】平成24年12月25日(2012.12.25)
【分割の表示】特願2008−239524(P2008−239524)の分割
【原出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】