説明

電動機の制御装置

【課題】高応答な電流制御を行う電動機の制御装置を提供する。
【解決手段】IP制御のKpおよびKiは、埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIrefと埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdetとの比を伝達関数により表したIdet/Iref=Ki/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}(ただし、Lは埋込磁石同期モータのインダクタンス、Rは埋込磁石同期モータの電機子巻線抵抗)に基づいて決定され、IP制御にFFを付加した2自由度の制御にて、埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIref′と埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdet′との比であるIdet′/Iref′=(Ki+FF*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}を用いて算出されるステップ指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、ステップ指令に対する定常偏差をゼロにするFFを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードフォワードを用いた電流制御を行う電動機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋込磁石同期モータ(以下、IPMSMと称す。)ではP(比例)I(積分)制御にて電流を制御している。電流制御の構成を図8に示す。上段がd軸の制御を行っており、目標値となる入力電流をId_refとし、出力電流をId_detとしている。また、下段がq軸の制御を行っており、目標値となる入力電流をIq_refとし、出力電流をIq_detとしている。
【0003】
以下、伝達関数のsはラプラス演算子とする。
【0004】
減算器51は、Id_refからId_detを減算し、伝達関数52はKdpがd軸の比例ゲインであり、Kdiがd軸の積分ゲインである。加算器53は、伝達関数58で処理されたIq_refと伝達関数52の出力信号とを加算する。この加算された値が電機子電圧のd軸成分Vdとなる。なお、伝達関数58の、ωは電気角速度であり、Lqはq軸のインダクタンスである。加算器54は、加算器53の出力信号から伝達関数57で処理されたIq_detを減算する。伝達関数57と伝達関数58のLqは共にq軸のインダクタンスである。伝達関数55は、RaがIPMSMの電機子巻線抵抗であり、Ldがd軸のインダクタンスである。
【0005】
減算器60は、Iq_refからIq_detを減算し、伝達関数61はKqpがq軸の比例ゲインであり、Kqiがq軸の積分ゲインである。加算器62は、伝達関数56で処理されたId_refと伝達関数61の出力信号とωφとを加算する。φはIPMSMの永久磁石による電機子鎖交磁束である。この加算された値が電機子電圧のq軸成分Vqとなる。加算器63は、加算器62の出力信号から伝達関数59で処理されたId_detおよびωφを減算する。伝達関数56と伝達関数59のLdは共にd軸のインダクタンスである。伝達関数64は、RaがIPMSMの電機子巻線抵抗であり、Lqがq軸のインダクタンスである。点線で囲まれているのは、非干渉補償部65である。
【0006】
ここで、IPMSMの電圧方程式を式(1)に示す。
【0007】
【数1】

【0008】
なお、pは微分演算子で、ΨはIPMSMの永久磁石による電機子鎖交磁束である。
【0009】
IPMSMの干渉項は、非干渉補償部65であり、dq軸間の干渉項式(2)は相殺されて非干渉化をしている。
【0010】
【数2】

【0011】
干渉の影響が十分小さいとすれば、図8は図9のように1次遅れ系として表すことが可能となる。更に簡略化し、従来の電流制御構成を図10とする。RはIPMSMの電機子巻線抵抗であり、LはIPMSMのインダクタンスであり、Kpは比例ゲインであり、Kiは積分ゲインである。
【0012】
このようなフィードバックによる電動機の制御を行うものが、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開H5−300778号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
最近では、加振等の目的により安定で高応答な周波数特性が望まれている。しかし、PI制御のみのフィードバック系では、指令値応答と外乱応答の両方を向上させることはトレードオフの関係であるため、高応答な電流制御を実現することは困難になっている。
【0015】
本発明は、前記課題に基づいてなされたものであり、高応答な電流制御を行う電動機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記課題の解決を図るために、埋込磁石同期モータの電流制御をIP制御にて行う電動機の制御装置において、前記IP制御の比例ゲインであるKpおよび積分ゲインであるKiは、前記埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIrefと前記埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdetとの比を伝達関数により表したIdet/Iref=Ki/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}(ただし、Lは前記埋込磁石同期モータのインダクタンス、Rは前記埋込磁石同期モータの電機子巻線抵抗、sはラプラス演算子)に基づいて決定され、前記IP制御にフィードフォワードであるFFを付加した2自由度の制御にて、前記埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIref′と前記埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdet′との比であるIdet′/Iref′=(Ki+FF*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}を用いて算出されるステップ指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記ステップ指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求めることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、IP制御にてIdet/Iref=Ki/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}なる式に基づいてKp,Kiを決定し、FFを付加した2自由度制御においてステップ指令に対する定常偏差をゼロにするFFをIdet′/Iref′=(Ki+FF*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}なる式に基づいて決定している。これにより、ステップ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。
【0018】
また、埋込磁石同期モータの電流制御をPI制御にて行う電動機の制御装置において、前記PI制御の比例ゲインであるKpおよび積分ゲインであるKiは、前記埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIrefと前記埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdetとの比を伝達関数により表したIdet/Iref=(Ki+Kp*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}
(ただし、Lは前記埋込磁石同期モータのインダクタンス、Rは前記埋込磁石同期モータの電機子巻線抵抗、sはラプラス演算子)に基づいて決定され、前記PI制御にフィードフォワードであるFFを付加した2自由度の制御にて、前記埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIref′と前記埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdet′との比であるIdet′/Iref′={Ki+(FF+Kp)*s}/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}
を用いて算出されるステップ指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記ステップ指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求めることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、PI制御にてKp,KiをIdet/Iref=(Ki+Kp*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}なる式に基づいて決定し、FFを付加した2自由度制御においてステップ指令に対する定常偏差をゼロにする2自由度制御におけるFFをIdet′/Iref′={Ki+(FF+Kp)*s}/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}なる式に基づいて決定している。これにより、ステップ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。
【0020】
また、前記Idet′/Iref′を用いて算出されるランプ指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記ランプ指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求めることを特徴とする
上記構成によれば、ランプ指令に対する定常偏差をゼロにする2自由度制御におけるFFを決定している。これにより、ランプ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。
【0021】
また、前記Idet′/Iref′を用いて算出される加速度指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記加速度指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求め、前記FFは不完全微分の項を含むことを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、加速度指令に対する定常偏差をゼロにする2自由度制御におけるFFを決定し、FFは不完全微分の項を含んでいる。これにより、加速度指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、IP制御にてIdet/Iref=Ki/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}なる式に基づいてKp,Kiを決定し、FFを付加した2自由度制御においてステップ指令に対する定常偏差をゼロにするFFをIdet′/Iref′=(Ki+FF*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}なる式に基づいて決定している。これにより、ステップ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。
【0024】
請求項2および5の発明によれば、ランプ指令に対する定常偏差をゼロにする2自由度制御におけるFFを決定している。これにより、ランプ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。
【0025】
請求項3および6の発明によれば、加速度指令に対する定常偏差をゼロにする2自由度制御におけるFFを決定し、FFは不完全微分の項を含んでいる。これにより、加速度指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。
【0026】
請求項4の発明によれば、PI制御にてKp,KiをIdet/Iref=(Ki+Kp*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}なる式に基づいて決定し、FFを付加した2自由度制御においてステップ指令に対する定常偏差をゼロにする2自由度制御におけるFFをIdet′/Iref′={Ki+(FF+Kp)*s}/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}なる式に基づいて決定している。これにより、ステップ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】IP制御の制御構成を示す構成図。
【図2】IP制御にフィードフォワードを付加した制御構成を示す構成図。
【図3】実施例1における指令値に対する検出値の時間変化を示す説明図。
【図4】実施例2における、フィードフォワードを付加した場合とそうでない場合の指令値に対する検出値の時間変化を示す説明図。
【図5】実施例3における、フィードフォワードを付加した場合とそうでない場合の指令値に対する検出値の時間変化を示す説明図。
【図6】PI制御の制御構成を示す構成図。
【図7】PI制御にフィードフォワードを付加した制御構成を示す構成図。
【図8】従来の制御構成を示す構成図。
【図9】簡略化した従来の制御構成を示す構成図。
【図10】更に簡略化した従来の制御構成を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態における電動機の制御装置を図面等に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
実施例1では、電流制御を先ずI−P制御にて設計し、ステップ指令の定常偏差が無いように2自由度制御を付加することを提案する。2自由度制御を付加する前のI−P制御構造を図1に示し、2自由度制御を付加したI−P制御構造を図2に示す。
【0030】
図1において、図10と同一のものには同一の符号を付して説明を省略する。また、目標値となる電流をI_ref、出力電流をI_detとする。減算器1は、I_refからI_detを減算し、減算器3は伝達関数2が送出した信号から伝達関数4が送出した信号を減算する。
図1より、フィードフォワードであるFFを付加する前の制御則は、IPMSMの電機子電圧をVとすると、
V={(Ki/s)*(Iref−Idet)}−(Kp*Idet)・・・(3)
{(L*s)+R}*Idet=V・・・(4)
となり、式(3),(4)の制御則をIdet/Irefについて解くことにより、
Idet/Iref=Ki/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}・・・(5)
となる。式(5)の分母多項式は2次式であり、定数項Kiで分母多項式を割り定数項を1にした式(5)の分母の1次,2次の係数はKi,Kpに関して独立になっている。従って、式(5)の分母多項式が1+c1*s+c2*s2になるように係数比較を行うと、
Kp=c1*L/c2−R・・・(6)
Ki=L/c2・・・(7)
となりKi,Kpを決定すればよいことがわかる。例えば、すべての極がダンピング係数1となる二項係数型(s+1)2=1+2*s+1*s2を求め、sをs/wcで置き換え、その係数をc1,c2とする。二項係数型では、c1=2/wc,c2=1/(wc)2となる。c1,c2に対して、式(6),(7)で示されるPID型制御器のパラメータKi,Kpを決定する。
【0031】
次にフィードフォワードを付加した図2の説明を行う。図1と同一のものには同一の符号を付して説明を省略する。図2にはフィードフォワード5が付加されており、フィードフォワード5にはI_refが入力され、減算器6へ出力信号を送出する。減算器6は、伝達関数2が送出した信号およびフィードフォワード5から伝達関数4が送出した信号を減算する。この場合の制御則は、
V={(Ki/s)*(Iref−Idet)}−(Kp*Idet)+(FF*Iref)・・・(8)
{(L*s)+R}*Idet=V・・・(9)
となり、式(8),(9)の制御則をIdet/Irefについて解くことにより、
Idet/Iref=(Ki+FF*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}・・・(10)
となる。
入力に対する偏差は式(10)を用いて、
(Iref−Idet)/Iref={L*s2+(Kp+R―FF)*s}/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}・・・(11)
となる。最終値の定理を用いると、ステップ指令に対する定常偏差e(t)は式(12)のようになる。
【0032】
【数3】

【0033】
式(12)は零となるので、安定であることを条件に、任意のKpとFFが設定される。任意のKpは、FFを付加する前にKpとKiを算出した定数を使用する事になる。
【0034】
本実施例によれば、L,R,wcを設定する事により、一意に電流制御器のKp,Kiパラメータ及びFFパラメータを設計することが可能になり、ステップ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。図3は、縦軸に信号の強さをとり横軸に時間をとった、電流指令に対する電流検出の信号の変化の一例を示した図である。
【実施例2】
【0035】
実施例2では、電流制御を先ずI−P制御にて設計し、ランプ指令の定常偏差が無いように2自由度制御を付加することを提案する。I−P制御の設計方法は実施例1と同様に設計する。すなわち、制御構成は図1,2と同様である。
【0036】
最終値の定理を用いると、ランプ指令の定常偏差e(t)は式(13)のようになる。
【0037】
【数4】

【0038】
式(13)を零とするにはKp+R−FF=0とすればよく、
FF=Kp+R・・・(14)
になる。
【0039】
本実施例によれば、L,R,wcを設定する事により、一意に電流制御器のKp,Kiパラメータ及びFFパラメータを設計することが可能になり、ランプ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。図4は、縦軸に信号の強さをとり横軸に時間をとった、電流指令に対する電流検出の信号の変化の一例を示した図である。図4(a)はFFを負荷する前の信号の変化であり、図4(b)はFFを付加した後の信号の変化である。検出値の信号は指令値の信号に重なった状態になっており、FFを付加することにより高応答になっている。
【実施例3】
【0040】
本実施例では、電流制御を先ずI−P制御にて設計し、加速度指令の定常偏差が無いように2自由度制御を付加することを提案する。I−P制御の設計方法は実施例1と同様に設計する。すなわち、制御構成は図1,2と同様である。
最終値の定理を用いると、加速度指令の定常偏差e(t)は式(15)のようになる。
【0041】
【数5】

【0042】
式(15)を零とするにはL*s2+(Kp+R−FF)*s=0(条件1)とすればよく、またL*s2+(Kp+R−FF)*s=−a*sn/H(s)(条件2)としてもよい。ただし、aは定数、n≧3、H(0)で有限の値である。
条件1より、
FF=Kp+R+L*s・・・(16)
になる。また、条件2よりn=3として、
【0043】
【数6】

【0044】
となり、さらに
【0045】
【数7】

【0046】
とすると
FF=Kp+R+L*s/G(s)・・・(19)
となる。
ただし、G(0)=1が必須条件である。L*sは完全微分になってしまうため、L*s/G(s)とすることにより不完全微分(擬似微分)にしている。例えば、G(s)は、1次のローパスフィルタなどになるが、I−P制御帯域に影響しないように、また、高調波のノイズを除去するように設定するような、任意の伝達関数になる。
【0047】
本実施例によれば、L,R,wcを設定する事により、一意に電流制御器のKp,Kiパラメータ及びFFパラメータを設計することが可能になる。また、FFパラメータの算出の際に不完全微分を用いている。これにより、加速度指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。図5は、縦軸に信号の強さをとり横軸に時間をとった、電流指令に対する電流検出の信号の変化の一例を示した図である。図5(a)はFFを付加する前の信号の変化であり、図5(b)はFFを付加した後の信号の変化である。検出値の信号は指令値の信号に重なった状態になっており、FFを付加することにより高応答になっている。
【実施例4】
【0048】
実施例4では、電流制御を先ずPI制御にて設計し、ステップ指令の定常偏差が無いように2自由度制御を付加することを提案する。2自由度制御を付加する前のPI制御構造を図6に示し、2自由度制御を付加したPI制御構造を図7に示す。
【0049】
図6において、図10と同一のものには同一の符号を付して説明を省略する。伝達関数7は、Kp,Kiの両方を含んでいる。
図6より、フィードフォワードを付加する前の制御則は、電機子電圧をVとすると、
V={Kp+(Ki/s)}*(Iref−Idet)・・・(20)
{(L*s)+R}*Idet=V・・・(21)
となり、式(20),(21)の制御則をIdet/Irefについて解くことにより、
Idet/Iref=(Ki+Kp*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}・・・(22)
となる。式(22)の分母多項式は2次式であり、定数項Kiで分母多項式を割り定数項を1にした式(22)の分母の1次,2次の係数はKi,Kpに関して独立になっている。従って、式(22)の分母多項式が1+c1*s+c2*s2になるように係数比較を行うと、
Kp=c1*L/c2−R・・・(23)
Ki=L/c2・・・(24)
となりKi,Kpを決定すればよいことがわかる。例えば、すべての極がダンピング係数1となる二項係数型(s+1)2=1+2*s+1*s2を求め、sをs/wcで置き換え、その係数をc1,c2とする。二項係数型では、c1=2/wc,c2=1/(wc)2となる。c1,c2に対して、式(23),(24)で示されるPID型制御器のパラメータKi,Kpを決定する。
【0050】
次にフィードフォワードを付加した図7の説明を行う。図6と同一のものには同一の符号を付して説明を省略する。図7にはフィードフォワード5が付加されており、フィードフォワード5にはI_refが入力され、加算器8へ出力信号を送出する。加算器8は、伝達関数7が送出した信号とフィードフォワード5が送出した信号とを加算する。この場合の制御則は、
V={Kp+(Ki/s)}*(Iref−Idet)+(FF*Iref)・・・(25)
{(L*s)+R}*Idet=V・・・(26)
となり、式(25),(26)の制御則をIdet/Irefについて解くことにより、
Idet/Iref={Ki+(FF+Kp)*s}/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}・・・(27)
となる。
入力に対する偏差は式(27)を用いて、
(Iref−Idet)/Iref={L*s2+(Kp+R―FF)*s}/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}・・・(28)
となる。
最終値の定理を用いると、ステップ指令の定常偏差e(t)は最終値の定理から式(29)のようによる。
【0051】
【数8】

【0052】
式(29)は零となるので、安定であることを条件に、任意のKpとFFが設定できる。任意のKpは、FFを付加する前にKpとKiを算出した定数を使用する事になる。
【0053】
本実施例によれば、L,R,wcを設定する事により、一意に電流制御器のKp,Kiパラメータ及びFFパラメータを設計することが可能になり、ステップ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。本実施例においても図3の結果が得られる。
【実施例5】
【0054】
実施例5では、電流制御を先ずPI制御にて設計し、ランプ指令の定常偏差が無いように2自由度制御を付加することを提案する。PI制御の設計方法は実施例4と同様に設計する。すなわち、制御構成は図6,7と同様である。
【0055】
最終値の定理を用いると、ランプ指令の定常偏差e(t)は式(30)のようになる。
【0056】
【数9】

【0057】
式(30)を零とするにはR−FF=0とすればよく、
FF=R・・・(31)
になる。
【0058】
本実施例によれば、L,R,wcを設定する事により、一意に電流制御器のKp,Kiパラメータ及びFFパラメータを設計することが可能になり、ランプ指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。本実施例においても図4と同様の結果が得られる。
【実施例6】
【0059】
実施例6では、電流制御を先ずPI制御にて設計し、加速度指令の定常偏差が無いように2自由度制御を付加することを提案する。PI制御の設計方法は実施例4と同様に設計する。すなわち、制御構成は図6,7と同様である。
【0060】
最終値の定理を用いると、加速度指令の定常偏差e(t)は式(32)のようになる。
【0061】
【数10】

【0062】
式(32)を零とするにはL*s2+(R−FF)*s=0(条件1)とすればよく、またL*s2+(R−FF)*s=−a*sn/H(s)(条件2)としてもよい。ただし、aは定数、n≧3、H(0)で有限の値である。
条件1より、
FF=R+L*s・・・(33)
になる。また、条件2よりn=3として、
【0063】
【数11】

【0064】
となり、さらに実施例3で述べた式(18)のように定義すると、
FF=R+L*s/G(s)・・・(35)
となる。
ただし、G(0)=1が必須条件である。L*sは完全微分になってしまうため、L*s/G(s)とすることにより不完全微分(擬似微分)にしている。例えば、G(s)は、1次のローパスフィルタなどになるが、PI制御帯域に影響しないように、また、高調波のノイズを除去するように設定するような、任意の伝達関数になる。
【0065】
本実施例によれば、L,R,wcを設定する事により、一意に電流制御器のKp,Kiパラメータ及びFFパラメータを設計することが可能になる。また、FFパラメータの算出の際に不完全微分を用いている。これにより、加速度指令の定常偏差が抑制された電流制御が可能となる。本実施例においても図5と同様の結果が得られる。
【0066】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0067】
1,3,6,51,54,60,63,66…減算器
2,4,52,55〜59,61,64,66〜68…伝達関数
5…フィードフォワード
8,53,62…加算器
65…非干渉補償部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋込磁石同期モータの電流制御をIP制御にて行う電動機の制御装置において、
前記IP制御の比例ゲインであるKpおよび積分ゲインであるKiは、前記埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIrefと前記埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdetとの比を伝達関数により表した
Idet/Iref=Ki/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}
(ただし、Lは前記埋込磁石同期モータのインダクタンス、Rは前記埋込磁石同期モータの電機子巻線抵抗、sはラプラス演算子)
に基づいて決定され、
前記IP制御にフィードフォワードであるFFを付加した2自由度の制御にて、前記埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIref′と前記埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdet′との比である
Idet′/Iref′=(Ki+FF*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}
を用いて算出されるステップ指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記ステップ指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求めることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
前記Idet′/Iref′を用いて算出されるランプ指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記ランプ指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求めることを特徴とする請求項1に記載の電動機の制御装置。
【請求項3】
前記Idet′/Iref′を用いて算出される加速度指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記加速度指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求め、前記FFは不完全微分の項を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動機の制御装置。
【請求項4】
埋込磁石同期モータの電流制御をPI制御にて行う電動機の制御装置において、
前記PI制御の比例ゲインであるKpおよび積分ゲインであるKiは、前記埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIrefと前記埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdetとの比を伝達関数により表した
Idet/Iref=(Ki+Kp*s)/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}
(ただし、Lは前記埋込磁石同期モータのインダクタンス、Rは前記埋込磁石同期モータの電機子巻線抵抗、sはラプラス演算子)
に基づいて決定され、
前記PI制御にフィードフォワードであるFFを付加した2自由度の制御にて、前記埋込磁石同期モータに流れる電流の目標値であるIref′と前記埋込磁石同期モータに流れる電流であるIdet′との比である
Idet′/Iref′={Ki+(FF+Kp)*s}/{L*s2+(Kp+R)*s+Ki}
を用いて算出されるステップ指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記ステップ指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求めることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項5】
前記Idet′/Iref′を用いて算出されるランプ指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記ランプ指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求めることを特徴とする請求項4に記載の電動機の制御装置。
【請求項6】
前記Idet′/Iref′を用いて算出される加速度指令に対する定常偏差に最終値の定理を適用し、前記加速度指令に対する定常偏差をゼロにする前記FFを求め、前記FFは不完全微分の項を含むことを特徴とする請求項4に記載の電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−78192(P2011−78192A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226276(P2009−226276)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】