説明

電動機の送りねじ機構

【課題】油の粘性に起因したモータの位置制御の特性低下を解消することができる電動機の送りねじ機構を提供する。
【解決手段】電動機の送りねじ機構1を構成する軸部32を金属で形成し、その周面に雄ねじ42を形成する。電動機の送りねじ機構1を構成する外嵌部14を樹脂で形成し、その内周面に雌ねじ43を形成する。雄ねじ42が形成されたねじ形成面に、軸方向に延在する油逃がし溝91を設け、油逃がし溝91の一端を軸部32の基端面93に開口する。これにより、軸部32と外嵌部14間に軸方向に連通する連通空間101を油逃がし溝91で形成し、連通空間101を基端面93の開口部102を介して電動機の送りねじ機構1の基端側に開口する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに内蔵された電動機の送りねじ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータには、ロータでの回転運動を直線運動に変換する送りねじ機構が設けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この送りねじ機構では、金属製の雄ねじと樹脂製の雌ねじとによって構成されており、両者には、温度による線膨張係数差が生じ得る。
【0004】
このため、これを吸収する為に前記雄ねじと前記雌ねじ間には、所定のクリアランスが確保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−028861公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記雄ねじ及び前記雌ねじ間のクリアランスには、ねじ端部より引き込まれた油が貯留する。
【0007】
このため、低温環境下で始動する際には、内部の油の粘性抵抗が増大し、回転制御特性が低下してしまう。
【0008】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、油の粘性に起因したモータの位置制御の特性低下を解消することができる電動機の送りねじ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明の請求項1の電動機の送りねじ機構にあっては、周面に雄ねじが形成された軸部と、該軸部に外嵌した状態で前記雄ねじと螺合する雌ねじを備えた外嵌部とで構成され、回転運動を直線運動に変換する電動機の送りねじ機構において、前記雄ねじが形成された前記軸部のねじ形成面及び前記雌ねじが形成された前記外嵌部のねじ形成面の少なくとも一方に軸方向へ延在する油逃がし溝を設け、前記雄ねじを前記雌ねじに螺合した状態で軸方向に連通するとともに少なくとも軸方向一端側に開口する空間を前記油逃がし溝で形成した。
【0010】
すなわち、螺合状態にある雄ねじと雌ねじ間には、軸方向に連通するとともに少なくとも軸方向一端側に開口する空間が油逃がし溝によって形成されている。
【0011】
このため、前記雄ねじ及び前記雌ねじ間に貯留された余分な油は、比較的油温が高く粘度が低下した作動時等において、前記油逃がし溝が形成する前記空間に沿って誘導され前記両ねじ間から排出される。
【0012】
これにより、外気によって油温が冷やされた非作動時等に油の粘度が高まった状態であっても、前記雄ねじ及び前記雌ねじ間には、必要最小限の油が貯留されているだけなので、過度な負荷入力が防止される。
【0013】
また、請求項2の電動機の送りねじ機構においては、前記軸部及び前記外嵌部のいずれか一方を樹脂で構成するとともに他方を金属で構成し、金属で構成された他方に前記油逃がし溝を形成した。
【0014】
これにより、前記軸部及び前記外嵌部間に生じ得る線膨張係数差を解消する為に両部材間のクリアランスを広く設定した際に、前述した作用効果の顕著性が高められる。
【0015】
また、前記軸部及び前記外嵌部のうち金属で構成された部材に前記油逃がし溝を形成するため、強度の維持が容易となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明の請求項1の電動機の送りねじ機構にあっては、比較的油温が高く粘度が低下した作動時等において、雄ねじ及び雌ねじ間に貯留された余分な油を油逃がし溝が形成する空間を介して排出することができる。
【0017】
これにより、油温が冷やされた非作動時等に油の粘度が高まった状態であっても、前記雄ねじ及び前記雌ねじ間には、必要最小限の油のみが残存するため、起動時での過度な負荷入力を回避することができる。
【0018】
したがって、油の粘性抵抗の増大に伴う低温始動時での回転制御特性の低下を防止することができ、油の粘性に起因したモータの位置制御の特性低下を解消することができる。
【0019】
また、請求項2の電動機の送りねじ機構においては、前記軸部及び前記外嵌部間に生じ得る線膨張係数差を解消する為に両部材間のクリアランスを広く設定した場合において、前述した作用効果をより顕著なものとすることができる。
【0020】
そして、前記軸部及び前記外嵌部のうち金属で構成された部材に前記油逃がし溝を形成することで、強度の維持が容易となり、所定の剛性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す説明図である。
【図2】同実施の形態の要部を示す拡大図であり、(a)は第1の実施の形態を示す拡大図で、(b)は第2の実施の形態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
【0023】
以下、本発明の第1の実施の形態を図に従って説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態にかかる電動機の送りねじ機構1を備えたステッピングモータ2を示す断面図であり、該ステッピングモータ2は、例えば自動車の自動変速機の内部に配設され、自動変速機内の油圧の制御に利用される。
【0025】
このステッピングモータ2のケーシング11内には、回転駆動部12が設けられており、該回転駆動部12は、コイル13と該コイル13の内側に配設されたローターを構成する外嵌部14とにより構成されている。前記ケーシング11の側部には、コネクタ接続部15が設けられており、前記コイル13は、このコネクタ接続部15の電極16に接続されている。
【0026】
前記外嵌部14は、前部ベアリング21及び後部ベアリング22を介して前記ケーシング11に回動自在に支持されており、その中間部には、永久磁石23が外嵌した状態で設けられている。これにより、前記コネクタ接続部15の電極16に供給される信号を制御することで、前記コイル13から発生する磁力を可変して、前記永久磁石23を備えた前記外嵌部14の回転を制御できるように構成されている。
【0027】
この外嵌部14には、中空部31が形成されており、該中空部31には、作動軸を構成する軸部32が挿通されている。前記ケーシング11の前端及び後端には、前記軸部32が挿通する前部挿通孔33が設けられており、前記軸部32は、前部挿通孔33を介して前端部をケーシング11から突出できるように構成されている。これにより、当該ステッピングモータ2は、前記軸部32のケーシング11からの前端部の突出量を可変できるように構成されている。
【0028】
前記軸部32の後部側の周面には、雄ねじ42が形成されており、前記外嵌部14の後端部の内側面には、前記雄ねじ42と螺合する雌ねじ43が形成されている。また、前記軸部32の前部側の周面には、円柱の一部が欠損されてなる平面部44が形成されており、軸部32前部には、断面D字状の回転規制部45が形成されている。
【0029】
この軸部32の前端部が挿通する前記前部挿通孔33は、前記軸部32の前記平面部44に摺接する直線状の弦部51が形成されており、前記回転規制部45に適合した断面D字状に形成されている。
【0030】
これにより、前記軸部32の回転規制部45は、前記平面部44が前記前部挿通孔33の弦部51に摺動自在に係合することで、当該軸部32の中心軸46の延在方向への移動を許容しつつ回転を規制できるように構成されており、前記外嵌部14からの回転運動を前記軸部32の軸方向への直線運動に変換する前記電動機の送りねじ機構1が構成されている。
【0031】
また、前記軸部32の前部側には、ストッパ62が設けられており、該ストッパ62は側方へ向けて突出している。これにより、前記外嵌部14を回転制御して前記軸部32を図1中左側へ移動する際に、前記ストッパ62が前記ケーシング11前端部分に当接するまで、当該軸部32をを移動できるように構成されている。
【0032】
図2の(a)は、前記電動機の送りねじ機構1を構成する前記軸部32と前記外嵌部14との螺合部分を示す拡大図であり、この螺合状態において、前記軸部32の雄ねじ山71が前記外嵌部14の雌ねじ谷72内に配置されるとともに、前記外嵌部14の前記雌ねじ山73が前記軸部32の雄ねじ谷74内に配置されるように構成されている。
【0033】
すなわち、前記軸部32は、SUS等の金属で形成されており、当該軸部32の周面には、前記雄ねじ42が切削加工や転造加工等で形成されている。一方、前記外嵌部14は、樹脂製であり、前記雌ねじ43も樹脂で形成されている。これにより、前記軸部32及び前記外嵌部14のいずれか一方が樹脂で構成されており、他方が金属で構成されている。
【0034】
前記軸部32の前記雄ねじ42と前記外嵌部14の前記雌ねじ43との間には、間隙81が確保されており、金属製の前記雄ねじ42と樹脂製の前記雌ねじ43との線膨張係数差によって膨張差が生じた場合であっても、これを吸収できるように構成されている。
【0035】
金属製の前記軸部32において前記雄ねじ42が形成されたねじ形成面を構成する周面には、前記雄ねじ山71と交差する方向に延在した油逃がし溝91が切削により形成されており、該油逃がし溝91は、軸方向に延設されている。この油逃がし溝91の深さは、前記雄ねじ山71の高さ寸法より大きな寸法に設定されており、当該油逃がし溝91の底面92は、前記雄ねじ谷74より当該軸部32の中心側に達している。また、当該油逃がし溝91の一端は、前記軸部32の基端に達しており、当該軸部32の基端面93には、前記油逃がし溝91の一端が開口している。
【0036】
これにより、当該軸部32の前記雄ねじ42を前記外嵌部14の前記雌ねじ43に螺合した状態で、前記雄ねじ山71で区画された両側の雄ねじ谷74,74は、前記油逃がし溝91で連通されており、前記軸部32と前記外嵌部14との間には、軸方向に連通する連通空間101が前記油逃がし溝91によって形成されている。
【0037】
また、この油逃がし溝91の一端は、前記基端面93に開口しており、前記軸部32と前記外嵌部14間に形成された前記連通空間101は、前記基端面93に開口した開口部102を介して、当該電動機の送りねじ機構1の基端側に開口している。
【0038】
以上の構成にかかる本実施の形態において、このステッピングモータ2は、例えば自動車の自動変速機内の油中で使用されており、電動機の送りねじ機構1には、油が進入する。
【0039】
このとき、螺合状態にある軸部32の雄ねじ42と外嵌部14の雌ねじ43間には、軸方向に連通するとともに軸方向基端側に開口する連通空間101が油逃がし溝91によって形成されている。
【0040】
このため、前記雄ねじ42及び前記雌ねじ43間に貯留された余分な油は、例えば作動時にコイル13からの熱を受けて粘度が低下した状態おいて、前記油逃がし溝91が形成する前記連通空間101に沿って基端側に誘導され、当該電動機の送りねじ機構1の基端側より排出される。
【0041】
これにより、外気によって油温が冷やされた非作動時等に油の粘度が高まった場合であっても、前記雄ねじ42及び前記雌ねじ43間には、必要最小限の油が貯留されているだけなので、当該ステッピングモータ2起動時での過度な負荷入力を回避することができる。
【0042】
したがって、油の粘性抵抗の増大に伴う低温始動時での回転制御特性の低下を防止することができ、油の粘性に起因したステッピングモータ2の位置制御の特性低下を解消することができる。
【0043】
ここで、本実施の形態では、前記軸部32が金属で構成される一方、前記外嵌部14は樹脂で構成されており、前記軸部32及び前記外嵌部14間に生じ得る線膨張係数差を解消する為に両部材間の間隙81は、若干広く設定されている。これにより、この間隙81への油の進入量が増加するため、前述した作用効果をより顕著なものとすることができる。
【0044】
そして、金属で構成された前記軸部32に前記油逃がし溝91を形成したので、強度の維持が容易となり、所定の剛性を確保することができる。
【0045】
(第2の実施の形態)
【0046】
図2の(b)は第2の実施の形態を示すものであり、第1の実施の形態と同一又は同等部分に付いては同符号を付して説明を割愛するとともに、異なる部分に付いてのみ説明する。
【0047】
すなわち、前記軸部32は、樹脂で形成されており、該軸部32の外周面には、樹脂製の前記雄ねじ42が形成されている。また、前記外嵌部14は、SUS等の金属で形成されており、当該外嵌部14の内周面には、金属製の前記雌ねじ43が切削形成されている。これにより、前記軸部32及び前記外嵌部14のいずれか一方が樹脂で構成されており、他方が金属で構成されている。
【0048】
金属製の前記外嵌部14において前記雌ねじ43が形成されたねじ形成面を構成する内周面には、前記雌ねじ山73と交差する方向に延在した油逃がし溝201が切削により形成されており、該油逃がし溝201は、軸方向に延設されている。この油逃がし溝201の深さは、前記雌ねじ山73の高さ寸法より大きな寸法に設定されており、当該油逃がし溝201の底面202は、前記雌ねじ谷72より当該外嵌部14の外周側に達している。また、当該油逃がし溝201の一端は、前記外嵌部14の基端に達しており、当該外嵌部14の基端面には、前記油逃がし溝201の一端が開口している(図示省略)。
【0049】
これにより、前記軸部32の前記雄ねじ42を前記外嵌部14の前記雌ねじ43に螺合した状態で、前記雌ねじ山73で区画された両側の雌ねじ谷72,72は、前記油逃がし溝201で連通されており、前記軸部32と前記外嵌部14との間には、軸方向に連通する連通空間211が前記油逃がし溝201によって形成されている。
【0050】
また、この油逃がし溝201の一端は、前記外嵌部14の基端面に開口しており、前記軸部32と前記外嵌部14間に形成された前記連通空間211は、前記外嵌部14の基端面に開口した開口部を介して、当該電動機の送りねじ機構1の基端側に開口している。
【0051】
以上の構成にかかる本実施の形態において、螺合状態にある軸部32の雄ねじ42と外嵌部14の雌ねじ43間には、軸方向に連通するとともに軸方向基端側に開口する連通空間211が油逃がし溝201によって形成されている。
【0052】
このため、前記雄ねじ42及び前記雌ねじ43間に貯留された余分な油は、例えば作動時にコイル13からの熱を受けて粘度が低下した状態おいて、前記油逃がし溝201が形成する前記連通空間211に沿って基端側に誘導され、当該電動機の送りねじ機構1の基端側より排出される。
【0053】
これにより、外気によって油温が冷やされた非作動時等に油の粘度が高まった場合であっても、前記雄ねじ42及び前記雌ねじ43間には、必要最小限の油が貯留されているだけなので、当該ステッピングモータ2起動時での過度な負荷入力を回避することができる。
【0054】
したがって、油の粘性抵抗の増大に伴う低温始動時での回転制御特性の低下を防止することができ、油の粘性に起因したステッピングモータ2の位置制御の特性低下を解消することができる。
【0055】
このとき、本実施の形態においては、前記軸部32が樹脂で構成される一方、前記外嵌部14は金属で構成されており、前記軸部32及び前記外嵌部14間に生じ得る線膨張係数差を解消する為に両部材間の間隙81は、若干広く設定されている。これにより、この間隙81への油の進入量は増加するため、前述した作用効果をより顕著なものとすることができる。
【0056】
そして、金属で構成された前記外嵌部14に前記油逃がし溝201を形成したので、強度の維持が容易となり、所定の剛性を確保することができる。
【0057】
なお、前述した両実施の形態では、金属製の部材側に油逃がし溝91,201を形成したベストモードに付いて説明したが、これに限定されるものではなく、樹脂製の部材側に油逃がし溝91,201を形成しても課題を解決することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 電動機の送りねじ機構
2 ステッピングモータ
14 外嵌部
32 軸部
42 雄ねじ
43 雌ねじ
81 間隙
91 油逃がし溝
101 連通空間
201 油逃がし溝
211 連通空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面に雄ねじが形成された軸部と、該軸部に外嵌した状態で前記雄ねじと螺合する雌ねじを備えた外嵌部とで構成され、回転運動を直線運動に変換する電動機の送りねじ機構において、
前記雄ねじが形成された前記軸部のねじ形成面及び前記雌ねじが形成された前記外嵌部のねじ形成面の少なくとも一方に軸方向へ延在する油逃がし溝を設け、前記雄ねじを前記雌ねじに螺合した状態で軸方向に連通するとともに少なくとも軸方向一端側に開口する空間を前記油逃がし溝で形成したことを特徴とする電動機の送りねじ機構。
【請求項2】
前記軸部及び前記外嵌部のいずれか一方を樹脂で構成するとともに他方を金属で構成し、金属で構成された他方に前記油逃がし溝を形成したことを特徴とする請求項1記載の電動機の送りねじ機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−189098(P2012−189098A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51460(P2011−51460)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000220505)日本電産トーソク株式会社 (189)
【Fターム(参考)】