説明

電動機制御装置及び電動機制御方法

【課題】複数の電動機を制御する場合における異常の予測または検知を好適に実行すること。
【解決手段】複数の電動機を統括制御する電動機制御方法であって、複数の制御器によって複数の電動機を個別に制御し、複数の制御器夫々による電動機の制御の電気的状態を検知し、複数の電気状態検知部によって夫々検知された電気的状態に基づいて前記複数の電動機夫々の特性を示す状態特性値に関する値を算出し、予め記憶された複数の電動機夫々の特性の初期状態を示す初期特性値に基づいて算出された状態特性に関する値に対応する比較対象値を算出し、比較対象値と状態特性値に関する値とを比較し、その比較結果に基づいて電動機夫々の劣化を判断し、複数の電動機に共通する条件に基づいて比較対象値の算出または比較対象値と状態特性値に関する値との比較を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機制御装置及び機制御方法に関し、特に、複数の電動機が連結されることにより所定の拘束条件において駆動される電動機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の複数の誘導電動機を制御する制御装置においては、各々の誘導電動機の速度センサ数値に基づいてトルクが演算された上でトルクのアンバランスが検知され、その検知結果に応じて車輪径のばらつきが許容量を超えているか否かが判定される方法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された方法では、各誘導電動機のすべりに比例するようにトルクの推定を行っている。更に、特許文献1記載の制御装置は、この推定結果をもとに車両の車輪径を管理することができる構成となっている。
【0003】
また、電動機制御システムにおいて、操業条件変化に起因するプロセス機器の異常運転を予防するため、操業条件の変化に合わせて電動機の制御パラメータを設定変更可能とする方法が既に提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2においては、上記制御パラメータとして、電動機制御系の比例ゲイン及び積分時定数の他、電動機の電流制限値及び電気定数等が用いられている。
【0004】
また、電気車の車輪と軌道面との空転を検知して再粘着させるため、複数の電動機の回転速度から平均速度を演算し、平均速度と各電動機との回転数との比から各電動機軸に結合された車輪の車輪径差補正量を演算し、車輪径差補正量と平均速度から各電動機の制御における再粘着制御の基準となる基準速度を演算し、各電動機毎に平均速度と電動機の回転速度とに基づいて車輪の空転を検知し、電動機のトルクを絞る方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−340437号公報
【特許文献2】特開平04−85604号公報
【特許文献3】特開2001−145207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の電動機を制御する制御装置を搭載し、電動機それぞれが異なる駆動軸を駆動する構成の電機駆動システムにおいては、特定の電動機の機械異常や、モータの電気的な異常が発生したときに、電動機の動作が不安定になり、前述した特定の電動機以外の電動機や制御装置の異常を招く可能性がある。このような現象が発生する原因としては、駆動部やギアなどの伝達部といった機械的異常と、モータの電気的異常の2つが挙げられる。この特定の電動機やその駆動部の異常を検知し、切り分けるための異常検知方法が必要である。
【0007】
ここで、異常検知においては、測定値に基づいて異常を検知する対象の値を算出し、その算出結果が正常であるか否かを判断することが一般的な処理であるが、夫々の算出結果が正常であるか否かを判断するためには何らかの基準値との比較が必要であり、正確な判断のためには好適な基準値の設定が不可欠である。
【0008】
複数の電動機が同時に用いられる場合、その複数の電動機の動作には共通する条件(拘束条件)が作用する場合があり、上述したような異常を検知する対象の値を算出し、比較する場合も、そのような拘束条件を加味することが可能である。しかしながら、特許文献1乃至3において開示されている方法においては、いずれも夫々の電動機の状態判断を個別に行っており、拘束条件を加味した異常の判断は行っていない。
【0009】
本発明は、上述したような課題に対応したものであり、複数の電動機を制御する場合における異常の予測または検知を好適に実行することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、複数の電動機を統括制御する電動機制御装置であって、前記複数の電動機を個別に制御する複数の制御器と、前記複数の制御器夫々による前記電動機の制御の電気的状態を検知する複数の電気状態検知部と、前記複数の電気状態検知部によって夫々検知された電気的状態に基づいて前記複数の電動機夫々の特性を示す状態特性値に関する値を算出する複数の状態特性値算出部と、前記複数の制御器を統括制御する統括制御部とを含み、前記統括制御部は、予め記憶された前記複数の電動機夫々の特性の初期状態を示す初期特性値に基づいて前記算出された状態特性に関する値に対応する比較対象値を算出し、算出した前記比較対象値と、前記状態特性値算出部が算出した状態特性値に関する値とを比較し、その比較結果に基づいて前記電動機夫々の劣化を判断することを特徴とする。
【0011】
複数の電動機を統括制御する電動機制御方法であって、複数の制御器によって前記複数の電動機を個別に制御し、前記複数の制御器夫々による前記電動機の制御の電気的状態を検知し、夫々検知された複数の電気的状態に基づいて前記複数の電動機夫々の特性を示す状態特性値に関する値を算出し、予め記憶された前記複数の電動機夫々の特性の初期状態を示す初期特性値に基づいて前記算出された状態特性に関する値に対応する比較対象値を算出し、前記比較対象値と前記状態特性値に関する値とを比較し、その比較結果に基づいて前記電動機夫々の劣化を判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明を用いることで、複数の電動機を制御する場合における異常の予測または検知を好適に実行することをが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る制御システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御システムの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る連続負荷の態様を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る制御システムの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る制御器の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る適用例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る適用例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、複数の電動機を制御する制御装置において、それぞれの電動機の電気定数及び機械定数を推定し、その推定したデータをもとに、特定の電動機の機械的異常と、電気的異常の発生を検知し通知すること、もしくは、電動機異常が発生する前段階の予兆を検知し通知すること、および異常発生時の異常な電動機と正常な電動機の制御切替をその要旨とする。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る電動機制御システムは、3つの電動機1、11、21を制御するために3系統の制御系を含み、それぞれの制御系は、配線2、12、22、制御器3、13、23、PWM(Pulse Width Modulation)制御部4、14、24、定数演算部5、15、25及びトルク演算部6、16、26を含む。更に、本実施形態に係る電動機制御システムは、それぞれの制御系を統括する統括コントローラ7及び記録部8を含む。
【0016】
制御器3、13、23は、電動機1、11、21に対して配線2、12、22を介して電流を流すことにより電動機1、11、21をそれぞれ制御する。定数演算部5、15、25は、それぞれ電動機1、11、21の機械定数を確認するための値や、制御器3、13、23の電気定数を確認するための値を算出する。なお前述した電気定数は第1の配線2の寄生抵抗やインダクタンスを含んだ数値となる。
【0017】
統括コントローラ7は、定数演算部5、15、25の演算結果を取得し、予め記録部8に登録されている機械定数や電気定数に基づいて算出された比較対象の値と比較する。そして、定数演算部5、15、25の演算結果と記録部8に登録されている値に基づいて算出された値との間に差異が生じた場合、その差異に基づいて制御系の故障の予兆を検知して警報をならしたり、非常モードなどといった、特有の動作モードに制御を変更することができる。
【0018】
図1に示すように、電動機1、11、21それぞれを制御する複数の制御系を統括コントローラ7で制御する場合、複数の電動機に加わる負荷には相関がある場合がある。したがって、統括コントローラ7によって統括制御する場合、夫々の制御計における故障の予兆を判断するために統括コントローラ7が算出する値は、複数の制御系に共通する条件を加味して算出することが好ましく、値の比較についても同様である。このように、複数の制御系に共通する条件(拘束条件)を考慮して比較用の値の算出及び値の比較を行うことが本実施形態に係る要旨である。
【0019】
次に本発明の第1の実施例を実現するのに好適な制御コントローラの機能構成について説明する。図2は複数の電動機を駆動する複数の制御装置と統括コントローラ7の構成例を示したものである。図1と同じ構成の部品には同じ番号を付してある。図2に示すように、PWM制御部4、14、24は、それぞれ異常時運転制御パターン9、19、29を含む。また、統括コントローラ7は、異常検知用の比較値演算部30a及び異常判定部30bを含む。
【0020】
比較値演算部30aは、定数演算部5、15、25それぞれが算出した機械定数、電気定数を確認するための値と、記録部8に登録されている値に基づいて算出した値とを比較する。この比較結果に基づき、異常判定部30bが、特定の電動機1、11、21やその制御系の故障の予兆を検知し、異常判定出力を生成して出力する。これにより、それぞれの制御系においては、PWM制御部4、14、24が、異常時運転制御パターン9、19、29による異常時運転に切り替えを行う。
【0021】
このような演算、判定機能を統括コントローラ7の機能として付加することによって、発明の効果を実現することが可能である。本実施例では故障もしくは異常の予兆を算定し判定する演算機能が統括コントローラ7に内蔵している構成であったが、比較値算出部30や異常判定部30bが統括コントローラ7の外部に設けられている場合であっても、同様の効果を得ることが可能である。
【0022】
次に、上述した電動機の制御システムを適用可能な複数台の電動機、制御器の構成の一例を図3に示す。図3に示す構成は、電動機1、11、21それぞれに変速機31、41、51を介して回転体32、42、52が接続されており、夫々の回転体32、42、52は、連続負荷10を介して連結されている。そして、図3の例においては、複数の電動機1、11、21を用いて連続負荷10に必要な速度やトルクを加える。連続負荷10に必要な速度やトルクを加える為に、電動機1、11、21を連動させて制御する必要がある。このとき必要な回転数やトルクを制御しながら、電動機1、11、21を協調させて駆動する必要がある。
【0023】
図3の例においては、電動機1、11、21の機械異常及び制御系の電気異常並びにそれらの予兆を検知するため、予め電動機1、11、21の機械定数(イナーシャ)や、制御系の電気定数を記録部8に登録しておく。そして、定数演算部5、15、25が、運転中の動作状態に応じて上述した機械定数や電気定数を確認する値を算出し、統括コントローラ7において、記録部8に登録されている機械定数や電気定数に基づいて算出された値と比較される。
【0024】
例えば、記録部8に登録されている各電動機または制御系の定数演算結果と、運転中に同定した各々の電動機、もしくは制御系の同定演算結果を比較することによって、それぞれの電動機、もしくは制御系の機械定数もしくは電気定数の変化量を算出することができる。なお、上述した同定とは、電動機の機械定数や制御系の電気定数そのものを演算する処理の他、上述したように、機械定数や電気定数を確認するための値を演算する処理を含む。この結果に基づいて、それぞれの電動機の故障もしくは故障の予兆を検知することができ、保護動作を行う為の制御パターンに運転変更ができる。また故障の予兆を検知したときにはメンテナンスを行うことが可能である。
【0025】
例えば、電動機1が故障した場合を考える。電動機1機械定数や、それを駆動する制御装置3の電気定数の同定結果、即ち、動作状態に応じた演算結果と、記録部8に登録されている値とを比較することで、電動機1やそれを駆動する制御器3の異常もしくはその予兆を検知することができる。また、このときには異常時制御パターン9に制御を切り替えて、電動機1を停止し、連続負荷10を介して変速機31、41、51と機械的に接続されている電動機11や電動機21の異常動作を未然に防ぐことが可能である。
【0026】
ただし、連続負荷10を複数台の電動機で駆動する電動機駆動システムを構成する電動機や制御器にかかる負荷についてはそれぞれの電動機で大きく変動する可能性がある。例えば、比較値演算部30aを使って運転パターンにあわせてしきい値を変更することで、発明の効果を実現することが可能である。また、機械定数もしくは電気定数の異常判定に関しても運転パターンにあわせて異常判定部30bにて判定演算をすることで、各々の電動機もしくは制御器の機械定数もしくは電気定数の異常の切り分けも同時に行うことができる。
【0027】
統括コントローラ7の演算結果を使って、異常判定出力を行い、異常時制御器運転パターンに制御切替を行うことによってシステムの安全動作が可能であり、発明の効果を達成することができる。本実施例では3台の電動機を対象に実施例を説明したが、少なくとも電動機2台以上あれば複数のモータを協調制御しながら、異常判定のしきい値算定の演算が可能であり、2台以上の電動機の駆動する電動機駆動システムであれば、発明の効果を実現できることは明らかである。
【0028】
次に、図3とは異なる態様の例について図4を用いて説明する。図4に示す構成は、電動機1、11、21夫々の状態を監視するセンサである測定器33、43、53を含む。測定器33、43、53は例えば速度センサであり、それによって計測した結果を用いてトルク演算部6、16、26で電圧や電流を算出することにより、定数演算部5、15、25による同定演算結果の精度向上を図ることができ、異常時もしくは、異常を発生する予兆の判定精度を向上させることができる。
【0029】
上記記載した内容は測定器が速度センサだった場合であるが、測定器が電動機の端子電圧を測定可能な電圧センサの場合でも検出結果を用いることによって、各電動機の同定演算結果を評価するのに必要な情報を精度よく計測することが可能であり、上記発明の効果を実現することは明らかである。
【0030】
次に本発明の予兆もしくは故障検知を実現する為の電動機1、11、21と制御器3、13、24の駆動制御系の形態例として、制御器3、13、23が2レベルの3相のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)インバータの場合を図5を用いて説明する。図5においては、電動機1、制御器3を含む一の制御系について説明するが、他の制御系についても同様である。図5に示すように、制御器3は、半導体素子61〜66を含む。また、制御器3による電動機1の制御のための構成として直流回路54、出力電流検知部55、電流/制御電圧解析部56が設けられている。図5の例においては、電流/制御電圧解析部56が定数演算部5として機能する。
【0031】
図5の態様は、半導体素子61〜66を組み合わせて構成される、IGBTをはじめとした2レベルインバータ回路を使って、交流電動機1の制御を行う構成例のひとつである。制御器3は統括コントローラ7のからの指令をうけて、交流電動機が必要なトルクや速度、電圧を実現する為に、PWM制御信号をPWM制御部4で作成し、半導体素子61〜64の各スイッチング素子のゲートに信号を送信することによって、直流回路54の電力を変換して電動機1に必要な交流電力をつくることができる。
【0032】
このとき、電流/制御電圧解析部56は、出力電流検出部55から得られた信号に基づいて必要な回路インピーダンスや、イナーシャなどの機械定数を解析し、統括コントローラ7に情報を送信する。例えば、特定の運転モードにおいて電流/制御電圧解析部56が、回路インピーダンス及びイナーシャの2つの解析結果を同定し、その結果を統括コントローラ7に送信する。そして、統括コントローラ7が、取得した同定結果を記録部8に登録されている値と比較することで、1組の電動機と、制御器の状態を監視することができる。
【0033】
例えば、半導体素子61〜66の1つが破損するなど異常が生じた場合、電流/制御電圧解析部56による解析結果と記録部8に登録されている値との間にずれが生じる。回路インピーダンスと、機械定数を解析することによって、このずれを検知して単体の異常や予兆を検知することが可能である。
【0034】
ただし、図3に示した連続負荷10のようなものでつながれた複数の駆動系を制御する場合、一定の拘束条件があった状態で、図5で示した構成の制御系の一部が故障した場合には他の制御系の制御に影響を及ぼすことがある。例えば、図3で示した複数動力の駆動システムで、連続負荷10を図5で示した駆動系単体を複数備えた構成において、連続負荷10にかかる張力を制御している間に、制御器の一部が破損した場合、他の電動機駆動系に影響を与えるだけでなく連続負荷10の異常挙動につながる可能性がある。
【0035】
ここで、電動機1制御器3を含む一の制御系における半導体素子の一部に異常が発生した場合を考える。このとき、その制御系を異常運転制御パターン9に切り替えるだけでなく、他の制御系においても、異常運転制御パターン19、29に切り替えることにより、連続不可10の異常挙動を防ぎつつ安全に駆動システムを停止することができる。
【0036】
なお、このような駆動システムで使用する複数の電動機は必ずしも同じ容量や定格電流、電圧の電動機とは限らないので、動作中における特定の駆動系の異常を判定する為には、複数の電動機の機械定数、電気定数をはかった上で、比較値演算部30aによる比較演算を行い、異常判定部30bによる判定動作を経ることで、誤検知や、それに伴う複数の駆動システム全体の誤動作を防ぐことができる。
【0037】
上述した内容は制御装置が2レベルのIGBTインバータ回路の場合であるが、回路方式がマルチレベルのインバータ回路など、回路方式が変わっても、電流/制御電圧解析部56を用いることによって、各電動機単体の同定演算結果を評価するのに必要な情報を精度よく計測することが可能であり、上記発明の効果を実現できることは明らかである。
【0038】
また制御装置の制御方法に関しても同様に、PWM制御部4が、PAM(Pulse Amplitude Modulation)制御であったり、PDM(Pulse Density Modulation)制御であった場合においても上記発明の効果を実現できることは明らかである。
【0039】
次に、図3を更に具体化した態様の例として、2つの駆動系からなる、ベルトコンベアシステムを図6について説明する。図6に示す構成は、電動機1、11によって夫々回転駆動される回転体32、42に加えて、駆動力を持たない回転体69を含み、連続負荷であるベルト10によって機械的に接続されている。これら二つの駆動系の制御について説明する。例えば図6で示す構成では、ベルトに必要な張力を保つように電動機1の制御系と電動機11の制御系とを強調制御する。
【0040】
制御器3内の半導体素子に異常が発生した場合に動作を停止するような保護設定だとすると、32の張力制御ができなくなった状態でも、42の駆動制御で連続負荷10が異常な挙動を示さずに止める必要がある。上記状態に限らず、図6のような構成の場合、42の駆動だけで、連続負荷10がたるまないように制御しながら止める必要があることもあり得る。本発明によって、このときの42の異常が機械的な異常か、電気的な異常か、異常状態切り分けて検知することができ、またそれに応じて必要な制御に切り替えることも可能である。
【0041】
また図6に示すように回転体32の方が回転体42より高所に置かれた場合、回転体32を駆動する電動機1が電動機11より容量が大きいことがある。このようにモータの仕様が異なり、負荷が大きく変化する場合でも、特定の電動機または制御器の異常に関して、電気的異常か、機械的異常か切り分けて、統括コントローラ7で判断することができる。
【0042】
次に、図3の具体化の他の例として、3つの駆動系からなる圧延システムを図7に示す。図7に示す構成は、駆動力を持たない回転体67及び68と、連続負荷である圧延材料10の位置を調整するルーパ70を含む。R1〜R3の回転体は、夫々の制御系によって制御され、これにより連続負荷である圧延材料10の張力制御をしながら、圧延に必要な圧下量を制御していく。ルーパ70は、板のたるみ量や、張力を制御しながら、システム全体で、板厚を制御しながら連続負荷である圧延材料10を圧延する構成となっている。
【0043】
例えば図7のような構成で、電動機11と制御器13に接続された回転体68の機械異常が発生したとする。このときルーパ70まで正常に連続負荷10を送ることができなくなる可能性がある。そうすると必要な圧延ができなくなる可能性があり、システム全体に影響を及ぼす可能性がある。
【0044】
本発明では、統括コントローラ7で、あらかじめ正常動作時の電気定数または機械定数を演算して記録部8に登録し、動作中の電気定数や機械定数の変動を監視するといった方法を用いることによって、特定の電動機の電気異常もしくは機械異常といった原因を簡便に評価することが可能となる。例えば、第二の回転体の機械異常を検知することによって注油を行ったり、部品を行うなどのメンテナンスを行う警報をつくることができる。
【0045】
圧延システムでは、連続負荷である圧延材料10の板厚や長さ等が変わる場合があるので材料によって負荷が変化することがある。また、圧延材料10をロール状に収納する場合などに特定の駆動部分に大きな負荷がかかること起こることがある。このとき例えば図2に示した統括コントローラの構成を使うことによって、連続負荷からかかる負荷状態に関わらず、特定の駆動系の機械異常と電気異常を分離し判定することが可能である。
【0046】
次に、図3の具体化の更に他の例として、複数の駆動系からなる、列車駆動システムを図8に示す。図8に示す構成は、車体71、72、車体同士を連結する連結部73、電動機1、11、21によって夫々駆動される車輪81、82、83を含む。
【0047】
図8を用いて発明の効果を説明する。図8における連続負荷はレール10である。列車駆動システムの場合、レールの路面状態や、勾配に従って、車輪が空転しないように各電動機のトルクと速度を制御している。また車輪が必ずしも連続負荷であるレール10に接地していない場合もあり、列車のレールに対する垂直抗力が変化する可能性がある。このため、必要な速度で運転する為に駆動用の各車輪の負荷が大きく変動する。
【0048】
このような状況で統括コントローラ7で、あらかじめ正常動作時の電気定数または機械定数を同定し、記録部8に保存しておき、動作中の電気定数や機械定数の変動を監視することによって、特定の電動機の電気異常もしくは機械異常といった原因を簡便に評価することが可能となる。
【0049】
図8の例は2両の列車駆動システムの場合であるが、車両が複数でなくても、1両の車両に電動機や制御器が複数あり、複数の電動機または制御器を統括制御できる統括コントローラ7を用いて、出力電圧や電流等の解析を行うことによって、上記発明の効果を実現できることは明らかである。上述した本発明の実施の形態例は、鉄道への利用可能性があるが、これに限らず、車両の概念に含まれる自動車やゴーカート等のその他の移動体に適用することも可能である。
【0050】
次に、統括コントローラ7による記録部8に登録された値と定数演算部5、15、25によって演算された値との比較の例について説明する。運転状態に応じた機械定数や電気定数を確認するための値の算出として、定数演算部5、15、25が、図5に示す出力電流検知部55や測定器33のようなセンサの出力結果に基づき、連続負荷10が搬送される速度(ライン速度)や、電動機1、11、21のトルクを演算する。例えば、ライン速度を演算する場合、図6の例であれば、定数演算部5、15、25は、センサの出力結果としてインバータの周波数を取得し、電動機1の極対数及び回転体32のロール半径を用いてライン速度を算出することができる。
【0051】
即ち、この例においては、電動機の状態特性値である電気定数や機械定数に関する値として、電動機によって駆動される回転体によって搬送される連続負荷10のライン速度が算出される。換言すると、演算部5、15、25が、電動機制御の電気的状態を検知する電気状態検知部として機能すると共に、状態特性値算出部として機能する。
【0052】
他方、統括制御部である統括コントローラ7の比較値演算部30aにおいては、電動機1、11、21のトルク及び回転体32のロール半径と、予め記録部8に登録されている電動機1の機械定数(イナーシャ)とを用いて、同じくライン速度を算出することができる。即ち、統括コントローラ7の比較値演算部30aが、上記状態特性値に関する値に対応する比較対照値として、初期特性である予め登録された機械定数に基づいてライン速度を算出する。そして、比較値演算部30aは、記録部8に登録されているパラメータから算出したライン速度と定数演算部5、15、25が算出したライン速度とを比較することにより、その差異に基づいて夫々の電動機1、11、21の機械定数の状態、即ち劣化を確認することができる。
【0053】
なお、比較値演算部30aによる比較の結果に基づいて劣化の判断を行うのは、異常判定部30bである。異常判定部30bは、例えば、上述した2つの値の差異を算出し、その算出結果が予め設定された閾値を上回るか否かによって劣化を判断することができる。
【0054】
また、電動機1、11、21のトルクは、上述したようなセンサの出力結果に応じて取得される電流値を、電気定数によって変換して求める他、電動機1、11、21にトルクを検知するトルクセンサが設けられている場合は、そのセンサの出力値を用いることも可能である。
【0055】
ここで、連続負荷10によって複数の電動機1、11、21が機械的に接続されている場合、夫々の電動機におけるライン速度は同一であるという拘束条件が得られる。従って、電動機1について求められたライン速度と、電動機11、21について求められたライン速度とを比較することが可能となる。
【0056】
また、連続負荷10によって複数の電動機1、11、21が機械的に接続されている場合、夫々の電動機について求められた連続負荷10の張力は、少なくとも隣接する電動機間において同一であるという拘束条件が得られる。そして、張力は電動機のトルクと回転体のロール系及び電動機と回転体とのギア比によって求められるため、上述したように統括コントローラ7が、電動機1、11、21それぞれについてのライン速度を求める際のトルクの拘束条件として用いることができる。
【0057】
他方、他の比較の例としては、トルクを比較する態様も考えられる。図6の例であれば、センサの出力結果としてインバータの周波数や電動機に入力される線電流の値を取得し、トルク演算部6、16、26の制御パラメータを用いてトルクを算出することができる。他方、統括コントローラ7の比較値演算部30aにおいては、上述したようなセンサの出力結果に応じて取得される電流値を変換して求められる電動機の角速度と、予め記録部8に登録されている電動機1の機械定数(イナーシャ)とを用いて、同じくトルクを算出することができる。このように算出されたトルクを比較することにより、上記の例と同様に機械定数の状態を確認することが可能であり、ライン速度やトルクの拘束条件も同様に用いることができる。
【0058】
このように、本実施形態に係る制御システムにおいては、複数の電動機を統括制御する電動機の制御システムにおいて、夫々の電動機の運転状態に応じて算出される状態量と、予め登録されている機械定数や電気定数に応じて算出される状態量とを比較する際に、連続負荷10によって与えられる拘束条件を加味して比較を行うことにより、より夫々の電動機の異常状態の判定若しくは故障の予兆の検知をより好適に行うことができる。
【0059】
また、上記の例では機械定数を例として説明しているが、電気定数の場合も同様である。即ち、運転状態に応じて定数演算部5、15、25が算出する値と、予め記録部8に登録されている電気定数を用いて統括コントローラ7において算出される値とを比較し、その際に連続負荷10によって与えられる拘束条件を加味した比較を行うことにより、上記と同様の効果を得ることができる。
【0060】
また、上記実施形態においては、拘束条件としてライン速度やトルクが同一である場合を例として説明したが、これは一例であり、電動機が用いられるシステムに応じて様々な拘束条件を設定することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1、11、21 電動機
2、12、22 配線
3、13、23 制御器
4、14、24 PWM制御部
5、15、25 定数演算部
6、16、26 トルク演算部
7 統括コントローラ
8 記録部
9、19、29 異常時運転制御パターン
10 連続負荷
30a 比較値演算部
30b 異常判定部
31、41、51 変速器
32、42、52、69 回転体
33、43、53 測定器
54 直流回路
55 出力電流検知部
56 電流/制御電圧解析部
61、62、63、64、65、66 半導体素子
70 ルーパ
71、72 車両
81、82、83 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電動機を統括制御する電動機制御装置であって、
前記複数の電動機を個別に制御する複数の制御器と、
前記複数の制御器夫々による前記電動機の制御の電気的状態を検知する複数の電気状態検知部と、
前記複数の電気状態検知部によって夫々検知された電気的状態に基づいて前記複数の電動機夫々の特性を示す状態特性値に関する値を算出する複数の状態特性値算出部と、
前記複数の制御器を統括制御する統括制御部とを含み、
前記統括制御部は、
予め記憶された前記複数の電動機夫々の特性の初期状態を示す初期特性値に基づいて前記算出された状態特性に関する値に対応する比較対象値を算出し、
算出した前記比較対象値と、前記状態特性値算出部が算出した状態特性値に関する値とを比較し、その比較結果に基づいて前記電動機夫々の劣化を判断し、
前記複数の電動機に共通する条件に基づいて前記比較対象値の算出または前記比較対象値と前記状態特性値に関する値との比較を行うことを特徴とする電動機制御装置。
【請求項2】
前記複数の電動機に共通する条件は、前記複数の電動機が夫々駆動する駆動対象が機械的に連結されることによって発生する条件であることを特徴とする請求項1に記載の電動機制御装置。
【請求項3】
前記複数の電動機が夫々駆動する駆動対象が圧延機において被圧延材を圧延する圧延ローラであり、
前記被圧延材の搬送速度が前記複数の電動機に共通する条件として用いられることを特徴とする請求項2に記載の電動機制御装置。
【請求項4】
前記複数の電動機が夫々駆動する駆動対象が圧延機において被圧延材を圧延する圧延ローラであり、
前記被圧延材の圧延方向において隣接する圧延ロール間における前記被圧延材の張力が前記複数の電動機に共通する条件として用いられることを特徴とする請求項2または3に記載の電動機制御装置。
【請求項5】
前記状態特性値算出部は、前記検知された電気的状態に基づいて前記被圧延材の搬送速度を算出し、
前記比較対象値算出部は、前記初期特性値及び前記電動機のトルクに基づいて前記被圧延材の搬送速度を算出して前記状態特性値算出部が算出した値と比較し、前記電動機のトルクに基づいて求められる前記被圧延材の張力を前記複数の電動機に共通する条件として用いることを特徴とする請求項4に記載の電動機制御装置。
【請求項6】
前記制御器は、異常状態であると判定された場合に前記電動機を制御するための異常時運転制御パターンの情報を記憶しており、
前記統括制御部は、前記電動機夫々の劣化の判断結果に応じて、前記制御器に前記異常時運転制御パターンによる制御を実行させることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項7】
前記統括制御部は、前記電動機夫々の劣化の判断結果において、劣化していると判断された電動機以外の電動機の制御器に対しても前記異常時運転制御パターンによる制御を実行させることを特徴とする請求項6に記載の電動機制御装置。
【請求項8】
複数の電動機を統括制御する電動機制御方法であって、
複数の制御器によって前記複数の電動機を個別に制御し、
前記複数の制御器夫々による前記電動機の制御の電気的状態を検知し、
夫々検知された複数の電気的状態に基づいて前記複数の電動機夫々の特性を示す状態特性値に関する値を算出し、
予め記憶された前記複数の電動機夫々の特性の初期状態を示す初期特性値に基づいて前記算出された状態特性に関する値に対応する比較対象値を算出し、
前記比較対象値と前記状態特性値に関する値とを比較し、その比較結果に基づいて前記電動機夫々の劣化を判断し、
前記複数の電動機に共通する条件に基づいて前記比較対象値の算出または前記比較対象値と前記状態特性値に関する値との比較を行うことを特徴とする電動機制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−21870(P2013−21870A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154867(P2011−154867)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】