説明

電動機及び電動機の製造方法

【課題】封止剤注入側のコイルエンドのステータ内周側への傾きを防止して、封止剤による封止効果を堅持する。
【解決手段】ステータコア28にステータコイル29が巻装されてステータ23が構成され、このステータ23全体または両側コイルエンド29a,29bを含むステータ一部が、一方のコイルエンド29a側から注入される封止剤30で覆われる電動機において、封止剤30が注入される側のコイルエンド29aのステータ内周側の面29a1をステータ外周側に傾斜させ、封止剤30の層厚を十分に確保するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は両側コイルエンドを含むステータ全体またはステータ一部が封止剤でモールドされる電動機及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機は、図6に示すように電動機シャフト1を中心として回転するロータ2と、このロータ2の外周に配置されたステータ3がケーシング4に収容され、このケーシング4の軸方向の一端にカバー5が装着されて構成される。
【0003】
ここでは、ショベルの旋回電動機のように電動機シャフト1が鉛直となる縦置き姿勢で設置される電動機を例にとっている。
【0004】
以下、これを前提として、図6〜図8に示す従来技術、及び後述する本発明の実施形態において、この電動機の軸方向を上下方向として説明する。また、図の上側、下側をそのまま電動機の「上部(または上側)」、「下部(または下側)」として表記する。
【0005】
また、この明細書において「電動機」とは、電動機と同一原理の発電機及び発電電動機を含むものとする。
【0006】
カバー5は、ケーシング4の上端面に図示しないボルトによって取付けられ、電動機シャフト1の上部がこのカバー5に、下部がケーシング4の下部にそれぞれ軸受6,7を介して回転自在に支持される。
【0007】
ステータ3は、電磁鋼板を積層して成るステータコア8と、このステータコア8に上下方向(電動機シャフトの軸方向。以下、電動機軸方向という場合がある)に巻装されたステータコイル9とによって構成される。
【0008】
ステータコイル9は、上下両側の折り返し部分である両側コイルエンド9a,9bがステータコア8の軸方向両端面から電動機軸方向に真っ直ぐに突出する状態で巻装され、ステータ全体または両側コイルエンド9a,9bを含むステータ一部が、上側コイルエンド9a側から注入・充填される封止剤(通常は電気絶縁性と伝熱性を備えた不飽和ポリエステル等の合成樹脂)10で覆われる(特許文献1参照)。
【0009】
図7,8はこの封止剤10(溶融状態の封止材料)を注入する封止工程を示し、コイル巻装工程の後、ステータ3をケーシング4に入れ、このケーシング4を受け型(下型)として上から注入型11を被せる。
【0010】
注入型11は複数の注入口12を備え、この注入口12から上側コイルエンド9aの上面に向けて封止材料を注入する。
【0011】
この場合、封止材料は、ステータコイル間等、封止が必要な部分に確実に浸透するように一定の圧力をかけて注入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−125337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように封止工程において、封止材料が一定の圧力をもって上側コイルエンド9aの上面に向けて注入されるため、注入前は図8中の二点鎖線で示すように電動機軸方向に真っ直ぐであったコイルエンド9aが、注入圧力によって変形し、直径方向に傾く場合がある。
【0014】
ここで、コイルエンド9aは、元々、図6に示すようにステータ内周側に近い位置に巻装され、封止剤10の層厚がステータ外周側よりも薄いため、図8実線で示すようにコイルエンド9aがステータ内周側に傾いた状態で封止材料が硬化する(封止剤10となる)と、この傾いた部分での封止剤10の厚みが益々薄くなる。あるいは、コイルエンド9aの先端部分が封止剤10の内周側の表面に露出したりはみ出したりする場合もある。
【0015】
こうなると、層厚の薄い、あるいはコイルエンド9aが表面に露出またははみ出した部分で封止剤10の割れや剥離が発生するおそれがあった。
【0016】
そこで本発明は、封止剤注入側のコイルエンドのステータ内周側への傾きを確実に防止して、封止剤による封止効果を堅持することができる電動機及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する手段として、本発明(請求項1〜4の電動機)においては、電動機シャフトを中心として回転するロータと、このロータの外周に配置されたステータがケーシング内に収容され、上記ステータは、ステータコアにステータコイルを、その両端の折り返し部分である両側コイルエンドが上記ステータコアの軸方向両端面から突出する状態で巻装して構成され、上記ステータ全体または上記両側コイルエンドを含むステータ一部が、一方の上記コイルエンド側から注入される封止剤で覆われる電動機において、上記封止剤が注入される側の上記コイルエンドの少なくともステータ内周側の面をステータ外周側に傾斜させたものである。
【0018】
また、本発明の電動機の製造方法(請求項5)においては、電動機シャフトを中心として回転するロータと、このロータの外周に配置されたステータがケーシング内に収容され、上記ステータは、ステータコアにステータコイルを、その両端の折り返し部分である両側コイルエンドが上記ステータコアの軸方向両端面から突出する状態で巻装して構成され、上記ステータ全体または上記両側コイルエンドを含むステータ一部が、一方の上記コイルエンド側から注入される封止剤で覆われる電動機の製造方法において、上記ステータコアに上記ステータコイルを巻装するコイル巻き工程の後、上記封止剤が注入される側の上記コイルエンドのステータ外周側の面を規制治具によってステータ外周側から位置規制した状態で、内周側の面を、先すぼまりのテーパ面を備えた型付け治具で型付けすることによって上記内周側の面をステータ外周側に傾斜させ、この状態で上記封止剤を注入するものである。
【0019】
ここで、請求項1〜5の電動機において、封止剤注入側のコイルエンドのステータ内周側の面(以下、内側面という)について「ステータ外周側に傾斜させる」とは、封止工程前に傾斜させ、封止材料の注入中及び注入後にこの傾斜が維持されることを意味する。
【0020】
すなわち、予めステータ外周側に傾斜させておけば、封止剤の注入圧力がかかっても、上記傾斜によって圧力がコイルエンドに外向きの力として作用するため、内側面の傾斜角度が増加することはあっても内向きに傾くことはなく、注入前後で傾きが維持されるものである。
【0021】
この電動機及びその製造方法によれば、封止剤注入側のコイルエンドの内側面がステータ内周側に傾いて封止剤の表面から露出したりはみ出したり、また封止剤の層厚が薄くなったりするおそれがない。
【0022】
従って、封止剤硬化後の割れや剥離を確実に防止することができる。
【0023】
本発明において、上記封止剤が注入される側の上記コイルエンドのステータ内周側の面のみをステータ外周側に傾斜させてもよいし(請求項2)、上記封止剤が注入される側の上記コイルエンドの内周側の面を含めたコイルエンド全体をステータ外周側に傾斜させてもよい(請求項3)。
【0024】
この場合、コイルエンド内側面のみを傾斜させる構成をとれば、コイルエンド全体をステータ外周側に傾斜させる場合と比較して、傾斜のための加工が容易となる。
【0025】
また本発明においては、上記注入側の封止剤の内周に、上記コイルエンドの内周側の面と同方向に、かつ、コイルエンド内周側の面よりも小角度で傾斜するテーパ状の型抜き面を設けるのが望ましい(請求項4)。
【0026】
この構成によれば、封止剤注入後、注入型を容易に抜くことができる。すなわち、型抜きの容易性を確保しながら、封止剤の層厚を十分確保して割れ、剥離を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、封止剤注入側のコイルエンドのステータ内周側への傾きを確実に防止して、封止剤による封止効果を堅持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る電動機の断面図である。
【図2】図1のA部の拡大図である。
【図3】実施形態に係る電動機におけるコイルエンドの内側面を外向きに傾斜させるための型付け工程を示す断面図である。
【図4】同、封止工程を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る電動機の断面図である。
【図6】従来の電動機の断面図である。
【図7】従来の電動機の封止工程を示す断面図である。
【図8】封止工程によってコイルエンドが傾いた状態を示す図7のB部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態を図1〜図5によって説明する。
【0030】
実施形態は、背景技術の説明に合わせて、ショベルの旋回電動機のように電動機シャフトが鉛直となる縦置き姿勢で設置される電動機を適用対象としている。
【0031】
実施形態に係る電動機において、次の点は図6〜図8に示す従来技術と同じである。
【0032】
(i) 電動機シャフト21を中心として回転するロータ22と、このロータ22の外周に配置されたステータ23がケーシング24に収容され、このケーシング24の軸方向の一端にカバー25が装着されて構成される点。
(ii) カバー25は、ケーシング24の上端面に図示しないボルトによって取付けられ、電動機シャフト21の上部がこのカバー25に、下部がケーシング24の下部にそれぞれ軸受26,27を介して回転自在に支持される点。
【0033】
(iii) ステータ23は、電磁鋼板を積層して成るステータコア28と、このステータコア28に上下方向に巻装されたステータコイル29とによって構成される点。
【0034】
(iv) ステータコイル29は、上下両側の折り返し部分である両側コイルエンド29a,29bがステータコア28の軸方向両端面から電動機軸方向に突出する状態で巻装され、ステータ全体または両側コイルエンド29a,29bを含むステータ一部が、上側コイルエンド29a側から注入・充填される封止剤(通常は電気絶縁性と伝熱性を備えた不飽和ポリエステル等の合成樹脂)30で覆われる点。
【0035】
実施形態においては、図1,2に示すように、封止剤30が注入される上側コイルエンド29aのステータ内周側の面(内側面)29a1がステータ外周側に傾斜する傾斜面として形成されている。
【0036】
図1,2中、29a2はコイルエンド外側面、図2中のαは、鉛直線に対する上側コイルエンド内側面29a1の傾斜角度である。
【0037】
なお、下側コイルエンド29bは、従来同様、内外両側面とも鉛直面として形成されている。
【0038】
図3は、ステータコイル29をステータコア28に巻装した後、上側コイルエンド内側面29a1を傾斜面として成形するための型付け工程を示す。
【0039】
ステータコイル29は、巻装直後は空気が内包されて柔軟な状態にあるため、外力を加えれば任意に変形する。
【0040】
そこでコイル巻装後、封止剤注入側である上側のコイルエンド29aの外側面29a2を規制治具31によってステータ外周側から位置規制した状態で、先すぼまりのテーパ面32aを備えた型付け治具32をコイルエンド内側に押し込むことにより、内側面29a1をテーパ面32aに沿って外向きに押圧する。
【0041】
これにより、コイルエンド外側面29a2はコイル巻装直後のほぼ鉛直な状態に保たれたまま、内側面29a1のみがステータ外周側に傾斜した状態となる。
【0042】
この型付け工程後、図4に示す封止工程に移る。
【0043】
この封止工程では、従来技術と同様にステータ23をケーシング24に入れ、このケーシング24を受け型(下型)として上から注入型33を被せる。
【0044】
注入型33は、上側コイルエンド29aの内側面29a1に対向する外周部分に下すぼまりのテーパ面33aを有するとともに、複数の注入口34を備え、この注入口34から上側コイルエンド29aの上面に向けて封止剤30を一定の圧力をかけながら注入する。
【0045】
この場合、コイルエンド内側面29a1が外向きに傾斜しているため、注入圧力がかかっても、上記傾斜によって圧力がコイルエンド29aに外向きの力として作用するため、傾斜角度αが増加することはあってもコイルエンド内側面29a1が内向きに傾くことはない。
【0046】
すなわち、コイルエンド内側面29a1は、封止工程後も外向きの傾斜面として維持される。
【0047】
この後、封止剤30を硬化させて注入型33を抜き取ることにより、図1に示すように少なくとも両側コイルエンド29a,29bが封止剤30で覆われたステータ23が構成され、封止剤30によってコイルエンド29a,29bが保護されるとともに、コイル熱がケーシング24に伝えられる。
【0048】
また、注入型33のテーパ面33aにより、硬化後の封止剤30の上側内周に、上側コイルエンド内側面29a1と同方向に傾斜する上広がりのテーパ状の型抜き面30aが形成され、この型抜き面30aにより、封止剤注入後、注入型33を容易に抜くことができる。
【0049】
ここで、図2に示すように、この型抜き面30aの傾斜角度βは、コイルエンド内側面29a1の傾斜角度αよりも小さい角度(α>β)に設定されている。
【0050】
この後、ステータ内周にロータ22が組み込まれ、かつ、カバー25、電動機シャフト21が装着されて電動機の組立が完了する。
【0051】
この電動機によると、封止剤注入側である上側コイルエンド29aの内側面29a1をステータ外周側に傾斜させているため、コイルエンド29aが封止剤30の表面から露出したりはみ出したり、また封止剤30の層厚が薄くなったりするおそれがない。
【0052】
従って、封止剤硬化後の割れや剥離を確実に防止することができる。
【0053】
この場合、コイルエンド内側面29a1のみを傾斜させるため、コイルエンド全体をステータ外周側に傾斜させる場合と比較して、傾斜のための加工が容易となる。
【0054】
また、封止剤30の上側内周に、コイルエンド内側面29a1と同方向に、かつ、内側面29a1よりも小角度βで傾斜するテーパ状の型抜き面30aを設けているため、封止剤注入後、注入型33を容易に抜くことができる。
【0055】
すなわち、型抜きの容易性を確保しながら、封止剤30の層厚を十分確保して割れ、剥離を確実に防止することができる。
【0056】
他の実施形態
(1) 上記実施形態では、封止剤30の上側内周にテーパ状の型抜き面30aを設けたが、図5に示すようにこの型抜き面30aを設けずに、封止剤上側内周を外周と同じ鉛直面(電動機シャフト21に対して平行な面)に形成してもよい。
【0057】
この場合でも、封止剤硬化後、一定の圧力をかければ注入型33を抜き取ることが可能である。
【0058】
また、上側内周面を鉛直面とすれば、上側コイルエンド内側面29a1部分の封止剤30の層厚をより大きくとることができる。
【0059】
(2) 上記実施形態では上側コイルエンド29aの内側面29a1のみを外向きに傾斜させたが、上側コイルエンド29a全体を外向きに傾斜させてもよい。
【0060】
この場合、図3中の規制治具31を、コイルエンド29aから外周側に離間して設置し、型付け治具32による内周側からの圧力によりコイルエンド29a全体を外向きに傾斜変形させる加工法をとることができる。
【0061】
なお、このときのコイルエンド全体の傾斜角度は、コイルエンド29aに応力集中が起こったり磁界の乱れが生じたりするおそれのない範囲とするのが望ましい。
【0062】
(3) 本発明は、縦置き配置される電動機に限らず、横置き配置される電動機にも、また前記のように同一原理の発電機及び発電電動機にも上記同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
21 電動機シャフト
22 ロータ
23 ステータ
24 ケーシング
25 カバー
28 ステータコア
29 ステータコイル
29a 封止剤注入側のコイルエンド
29a1 コイルエンド内側面
α コイルエンド内側面の傾斜角度
29a2 コイルエンド外側面
29b 反対側のコイルエンド
30 封止剤
30a 成形勾配
β 成形勾配の角度
31 規制治具
32 型付け治具
32a 型付け治具のテーパ面
33 注入型
33a 型抜き面
34 注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機シャフトを中心として回転するロータと、このロータの外周に配置されたステータがケーシング内に収容され、上記ステータは、ステータコアにステータコイルを、その両端の折り返し部分である両側コイルエンドが上記ステータコアの軸方向両端面から突出する状態で巻装して構成され、上記ステータ全体または上記両側コイルエンドを含むステータ一部が、一方の上記コイルエンド側から注入される封止剤で覆われる電動機において、上記封止剤が注入される側の上記コイルエンドの少なくともステータ内周側の面をステータ外周側に傾斜させたことを特徴とする電動機。
【請求項2】
上記封止剤が注入される側の上記コイルエンドのステータ内周側の面のみをステータ外周側に傾斜させたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項3】
上記封止剤が注入される側の上記コイルエンドの内周側の面を含めたコイルエンド全体をステータ外周側に傾斜させたことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項4】
上記注入側の封止剤の内周に、上記コイルエンドの内周側の面と同方向に、かつ、コイルエンド内周側の面よりも小角度で傾斜するテーパ状の型抜き面を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項5】
電動機シャフトを中心として回転するロータと、このロータの外周に配置されたステータがケーシング内に収容され、上記ステータは、ステータコアにステータコイルを、その両端の折り返し部分である両側コイルエンドが上記ステータコアの軸方向両端面から突出する状態で巻装して構成され、上記ステータ全体または上記両側コイルエンドを含むステータ一部が、一方の上記コイルエンド側から注入される封止剤で覆われる電動機の製造方法において、上記ステータコアに上記ステータコイルを巻装するコイル巻き工程の後、上記封止剤が注入される側の上記コイルエンドのステータ外周側の面を規制治具によってステータ外周側から位置規制した状態で、内周側の面を、先すぼまりのテーパ面を備えた型付け治具で型付けすることによって、少なくとも上記内周側の面をステータ外周側に傾斜させ、この状態で上記封止剤を注入することを特徴とする電動機の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−94011(P2013−94011A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235855(P2011−235855)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】