説明

電動車椅子

【課題】雑音中であっても正確に使用者の発生する操作用の音声を聞き取り、それに基づき制御する電動車椅子を提供する。
【解決手段】電動車椅子は、ユーザ音声をマルチチャンネルで複数受音するために任意数のマイクロフォンを設けたマイクロフォンアレイ30a、30bを複数個相互に離間して配置してなる受音手段を備えた音声入力手段と、3次元空間中の任意の位置に配置された前記受音手段で受音したマルチチャネル音声データに基づいてMUSIC法によりユーザの発声位置を推定し発声位置推定信号を出力する発声位置推定手段と、前記発声位置推定信号に基づき車輪35a、35b、36bの駆動源を制御する制御手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自分の意思で自分の行きたいところへ行くという自立移動は、人にとって重要な生活機能である。重度の障害により、身体機能に制限がある場合、自立移動の実現は、生活や精神的側面に絶大な効果を発揮する。本発明は、このような自立移動を支援するために、声や「スー」という摩擦音、また口笛など音をある程度発することができ、更に目的の方向に首や上半身を使って口先などの音源位置を移動することができる障害者を対象として、発声位置を推定しその情報に基づいて電動車椅子の操作をする発声位置推定方法およびそれを用いた発声位置推定装置、電動車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
音声により制御可能な電動車椅子に関する先行技術として特許文献1や特許文献2などがあるが、いずれも音声の入力装置としてシングルマイクロフォンの使用を前提としている。よって、このような先行技術では、ユーザ音声の発声位置を検出することは不可能であり、電動車椅子を制御するためには、音声認識技術と組み合わせる必要がある。
【特許文献1】特開2003−310665号公報
【特許文献2】特開平6−225910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
様々な環境騒音が存在する実環境下において、音・音声を用いたインタフェースにより電動車椅子を操作する場合、雑音に対する頑健性が必要不可欠である。従来のシングルマイクロフォンから入力される音声で制御する電動車椅子では、雑音の混入を抑えるためにヘッドセットなどの接話型マイクロフォンが広く用いられている。しかし、ヘッドセットマイクロフォンは、電動車椅子を使用する度に装着する必要があり、また使用中に位置がずれた場合は、自分でその位置を修正する必要がある。これでは、例えば、手を自由に動かすことが困難な障害者などにとって、必ずしも実用的とは言えない。また、車椅子制御に音声認識を用いる従来技術では、ユーザが識別可能な音声を発声できることが前提となるが、重度の障害を持つ障害者の中には、明瞭な音声を出すことが困難な場合もある。
本発明の目的は、上記従来例の欠点に鑑み、雑音中であっても正確に使用者の発生する操作用の音声を聞き取り、それに基づき制御する電動車椅子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を解決するために以下の解決手段を採用する。
(a)電動車椅子は、ユーザ音声をマイクロフォンアレイで受音する音声入力手段と、そのマルチチャネル音声データから、周囲雑音に対して頑健なユーザ音声の発声位置推定手段と、ジョイスティックと緊急停止ボタンによる補助操作手段と、ユーザ音声の発声位置推定結果や車椅子の状態を視覚的に示す表示手段と、車椅子の車輪を駆動する駆動手段と、前記推定した発声位置に基づいて前記駆動手段を制御する制御手段を有することを特徴とする。
(b)ユーザ音声の発声位置推定方法および発声位置推定装置は、平行マイクロフォンアレイを用いることを特徴とする。
(c)電動車椅子は、マイクロフォンアレイを用いてユーザ音声の発声位置を推定し、それに基づいて操作および制御される。
具体的には、以下の手段を採用する。
【0005】
(1)電動車椅子は、ユーザ音声をマルチチャンネルで複数受音するために任意数のマイクロフォンを設けたマイクロフォンアレイを複数個相互に離間して配置してなる受音手段を備えた音声入力手段と、3次元空間中の任意の位置に配置された前記受音手段で受音したマルチチャネル音声データに基づいてMUSIC法によりユーザの発声位置を推定し発声位置推定信号を出力する発声位置推定手段と、前記発声位置推定信号に基づき車輪の駆動源を制御する制御手段を有し、前記発声位置推定手段が、座標P=(Px,Py,Pz)にある音源の位置ベクトルa(ω,P)と、マイクロフォン入力の連続するフレームの短時間フーリエ変換値を要素とした観測ベクトルを求め、前記観測ベクトルから相関行列R(ω)の雑音部分空間相関行列Rn(ω)を求め、下記数1式の関数F(P)を計算し、
【数1】

関数F(P)を最大にする座標P0=(Px0,Py0,Pz0)を求め、その座標P0から最大値F(P0)を求め、その座標から到来する音源のパワーを下記数2式の関数P(P0)により求め、
【数2】

求めた関数F(P0)と関数P(P0)の値を所定の閾値と比較し、ともに所定の閾値以上で有る場合に前記座標P0において発音があったと判断するようになっていることを特徴とする。
(2)上記(1)記載の電動車椅子は、前記音声入力手段は、ユーザがシートに座ったときにユーザの両側にそれぞれ配置されるマイクロフォンを含むことを特徴とする。
(3)上記(2)記載の電動車椅子は、前記複数個相互に離間して配置してなるマイクロフォンアレイを、互いに平行配置したマイクロフォンアレイとしたことを特徴とする。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれか1項記載の電動車椅子は、ユーザ音声を受音するために相互に離間して配置した複数のマイクロフォンアレイからなる受音手段を備えた音声入力手段と、前記受音手段で受音したマルチチャネル音声データに基づきユーザの発声位置を推定し発声位置推定信号を出力する発声位置推定手段と、座標位置指定手段および停止ボタンにより補助操作信号を出力する補助操作手段と、前記発声位置推定信号および車椅子の状態を視覚的に示す画像表示手段と、車椅子の車輪の駆動源を駆動制御する駆動手段と、前記発声位置推定信号および前記補助操作信号に基づき前記駆動手段を制御する制御手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
車椅子に固定されたマイクロフォンアレイを用いることで、ユーザはコードや機器を一切身につける必要がなくなり、電動車椅子の利用が容易になる。
このため、手を自由に動かすことが困難な障害者などが使用しても、マイクロフォンの装着やマイクロフォン位置の修正などの手続きを必要としない実用的な電動車椅子が実現される。
平行マイクロフォンアレイ音声入力装置を利用することで、周囲に妨害雑音が複数存在しても、ユーザの発声位置を推定することが可能になる。
そして、その発声位置を利用して電動車椅子を制御することが可能になる。
このため、ユーザは明瞭な音声を発声する必要はなく、例えば、不明瞭な音声、「スー」という摩擦音、また口笛などであっても、そのような音をある程度発することができ、更に目的の方向に首や上半身を使って口先などの音源位置を移動することができさえすれば、本発明の電動車椅子が利用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
以下、本発明の電動車椅子の実施形態について説明する。なお、以下に示す電動車椅子は、本発明の一実施形態であり、当該実施形態に限定されるものではない。
図1は本実施形態の電動車椅子の外観図、図2は図1に示す電動車椅子の機能ブロック図である。図1に示すように、電動車椅子、例えば、2つの後輪36a(図示省略)、36b、2つの前輪35a,35b、後輪36a、36bの上方に設置されたシート37と背もたれ40、背もたれ40の両側に設置された肘掛33a,33b、前輪35a,35bの前方に設置された足置き41a、41bを有する。肘掛33aにはディスプレイ31が、そして肘掛33bにはジョイスティック32と緊急停止ボタン34がそれぞれ固定されている。背もたれ40には、支柱42a、42bを介して取り付け金具を設けた調節バー39を取り付ける。支柱42aおよび42bと、取り付け金具を設けた調節バー39によりスタンド金具を構成する。調節バー39に設けた取り付け金具に、マイクロフォンアレイ30a、30bを先端部分に設けたマイクロフォン取付体30c、30dを摺動自在に設ける。
一対のマイクロフォン取付体30c、30dは、平行に配置され、ユーザの背後から両肩上を通ってユーザの口元より先まで達する程度の長さを持ち、その上にマイクロフォンを配置できるようにする。
また、図2に示すように、電動車椅子は、例えば、2本のマイクロフォンアレイ30a,30bで構成する平行マイクロフォンアレイ、マイクロフォンアンプとADC(アナログ/デジタル変換器)61が本発明の平行マイクロフォンアレイ音声入力手段、ディスプレイ31が本発明の表示手段、CPU(中央演算処理装置)ボード63、記憶装置64が本発明の制御手段、駆動制御65、駆動モータ67が本発明の駆動手段、ジョイスティック32や緊急停止ボタン34などの操作スイッチ66が本発明の操作手段にそれぞれ対応している。CPU63と駆動制御65は、シリアルケーブル69で接続する。
【0008】
(平行マイクロフォンアレイ音声入力装置)
音声入力手段は、ユーザ音声を受音するために相互に離間して配置した複数のマイクロフォンアレイからなる受音手段を備える。
図1および図2に示した平行マイクロフォンアレイ音声入力装置の構成について、以下に説明する。図1に示すように、マイクロフォンを取り付ける2本の金具30a,30bは、一端をスタンドの金具39に固定し、任意の間隔、例えば37cmの間隔で平行に背後から両肩上を通ってユーザの口元より先まで達する程度の長さを持ち、左右それぞれの金具上に任意数、例えば4つのマイクロフォン(計8個)を任意の間隔、例えば3cm間隔で配置している。走行中の振動に対しては、制振機構、例えば2本の支柱42a,42bの下にショックアブソーバを入れ、更にその2本の支柱を繋ぐ金具の中央に上下に移動可能な金具を取り付け、そこにスプリングを入れる等により上下の振動を吸収する機構を用いる。また、必要に応じて、前記上下移動可能な金具を挟んで左右にもスプリングを入れることで、横方向の振動を吸収する。マイクロフォンスタンドの高さ・幅およびマイクロフォンの位置は使用者毎に調整可能となっている。
図2に示すように、音声入力手段は、平行マイクロフォンアレイ30a、30bと、マイクロフォンアンプとADC(アナログ/デジタルコンバータ)61を有する。
受音手段は、少なくとも複数のマイクロフォンを備え、好ましくは多数個のマイクロフォンをアレイ状に配置したマイクロフォンアレイが好ましい。また、マイクロフォンの配置方向は、少なくとも相互に離間して、音源からのベクトルが異なるようにする。さらに好ましくは、マイクロフォンがユーザの両側に配置されていることが好ましい。このようにユーザの両側に配置されることにより、ユーザの音声入力が容易に且つ明瞭になる。
【0009】
(発声位置推定手段と制御手段)
CPU(中央演算処理装置)ボード68は、CPUを搭載したボードからなり、発声位置推定手段および制御手段を含む。発声位置推定手段および制御手段は、CPUボード68に接続される記憶装置64を備える。
発声位置推定手段は、前記受音手段で受音したマルチチャネル音声データに基づきユーザの発声位置を推定し発声位置推定信号を出力する。
制御手段は、前記発声位置推定信号および前記補助操作信号に基づき前記駆動手段を制御する。
ADC61とCPUボード63はUSBケーブル68を介して接続し、マイクロフォンアンプおよびADC61の電源はCPUボード63から供給する。サンプリングレートは任意に設定でき、例えば8kHzとし、量子化ビット数は任意に設定でき、例えば16bitとする。処理精度を上げるときには、サンプリングレートおよび量子化ビット数を上げる。
【0010】
(補助入力手段)
補助操作手段は、操作スイッチ66で代表され、例えばジョイスティック(図示省略)からなる座標位置指定手段、および、緊急停止ボタン(図示省略)により補助操作信号を出力する。
【0011】
(画像表示手段)
画像表示手段は、ディスプレイ31を有し、前記発声位置推定信号および車椅子の状態等を視覚的に示す。
【0012】
(駆動手段)
駆動手段は、駆動制御装置65を備え、車椅子の車輪の駆動源である駆動モータ67を駆動制御する。
【0013】
(発声位置推定)
上記発声位置推定手段による、複数の受音手段を備えた音声入力装置からの入力信号を用いた発声位置推定処理について、以下に説明する。
3次元空間中の任意の位置
【数3】

に置かれた点音源から出力された音響信号を、3次元空間中の任意の位置
【数4】

に配置されたQ個のマイクロフォンで受音する。点音源と各マイクロフォン間の距離Rqは次式で求められる。
【数5】

点音源から各マイクロフォンまでの伝播時間τqは、音速をvとすると、次式で求められる。
【0014】
【数6】

各マイクロフォンで受音した中心周波数ωの狭帯域信号の、点音源のそれに対する利得gqは、一般的に、点音源とマイクロフォン間の距離Rqと中心周波数ωの関数として定義される。
【数7】

中心周波数ωの狭帯域信号に関する、点音源と各マイクロフォン間の伝達特性は、
【数8】

と表される。そして、位置P0にある音源を表す位置ベクトルa(ω,P0)を、次式のように、狭帯域信号に関する、点音源と各マイクロフォン間の伝達特性を要素とする複素ベクトルとして定義する。
【0015】
【数9】

発声位置推定はMUSIC法(相関行列を固有値分解することで信号部分空間と雑音部分空間を求め、任意の音源位置ベクトルと雑音部分空間の内積の逆数を求めることにより、音源の到来方向や位置を調べる手法)を用いて、以下の手順で行う。q番目のマイクロフォン入力の短時間フーリエ変換を
【数10】

で表し、これを要素として観測ベクトルを次のように定義する。
【数11】

ここで、nはフレーム時刻のインデックスである。連続するN個の観測ベクトルから相関行列を次式により求める。
【数12】

【0016】
この相関行列の大きい順に並べた固有値を
【数13】

とし、それぞれに対応する固有ベクトルを
【数14】

とする。そして、音源数Sを次式により推定する。
【数15】

雑音部分空間相関行列Rn(ω)を次のように定義し、
【数16】

【0017】
周波数帯域
【数17】

および発声領域U
【数18】

として、
【数19】

を計算し、関数F(P)を最大にする座標を求める。
【数20】

【0018】
次に、上記座標から到来する音源のパワーを、
【数21】

により推定する。そして、2つの閾値Fthr, Pthrを用意し、次の条件を満足するときに、
【数22】

連続するN個のフレーム時間内の座標P=(Px,Py,Pz)において発声があったと判断する。
発声位置推定処理は連続するN個のフレームを1つのブロックとして処理する。発声位置推定をより安定に行うためには、フレーム数Nを増やす、そして/また連続するNb個のブロックの全てで数22の式の条件が満たされたら発声があったと判断する。ブロック数は任意に設定する。ブロック数が多いほど、一般に精度が向上する傾向にある。
【0019】
以下では、具体例として、図3に示すように、8個のマイクロフォンを平面上に平行に配置する場合について説明する。座標(Px,Py)にある音源の位置ベクトルa(ω,Px,Py)は次式のように表される。
【数23】

ここで、mはマイクロフォンアレイ番号(右=1、左=2)、iはマイクロフォン番号を表す。また、ここでは利得の関数を簡単に音源-マイクロフォン間距離rだけに依存する関数g(r)として、例えば、実験的に求めた次式のような関数を用いる。
【0020】
【数24】

なお上記関数はマイクロフォンアレイが平行でなくても使うことができる。
発声位置推定は以下の手順で行う。(m,i)番目のマイクロフォン入力の短時間フーリエ変換を
【数25】

で表し、これを要素として観測ベクトルを次のように定義する。
【数26】

【0021】
ここで、nはフレーム時刻のインデックスである。連続するN個の観測ベクトルから相関行列を次式により求める。
【数27】

この相関行列の大きい順に並べた固有値を
【数28】

とし、それぞれに対応する固有ベクトルを
【数29】

とする。そして、音源数Sを次式により推定する。
【0022】
【数30】

行列Rn(ω)を次のように定義し、
【数31】

周波数帯域
【数32】

および発声領域
【数33】

として、
【数34】

を計算し、関数F(Px,Py)を最大にする座標を求める。
【0023】
【数35】

次に、上記座標から到来する音源のパワーを、
【数36】

により推定する。
【0024】
そして、2つの閾値Fthr,Pthrを用意し、次の条件を満足するときに、
【数37】

連続するN個のフレーム時間内の座標(Px0,Py0)において発声があったと判断する。
発声位置推定処理は連続するN個のフレームを1つのブロックとして処理する。発声位置推定をより安定に行うためには、フレーム数Nを増やす、そして/また連続するNb個のブロックの全てで数37の式の条件が満たされたら発声があったと判断する。ブロック数は任意に設定する。ブロック数が多いほど、一般に精度が向上する傾向にある。
【0025】
(電動車椅子の制御方法)
上記の平行マイクロフォンアレイ音声入力装置による発声位置推定手段を用いた電動車椅子の制御方法について、以下に述べる。
図4は、当該動作例を説明するためのフローチャートである。また、図5は、ディスプレイ31に表示する、電動車椅子制御インタフェースのレイアウト例である。
当該実施例では、上記式12で表される発声領域を、図5に示すように4つの領域に区分けし、それぞれの領域に、前進100、右折101、左折102、停止103という4種類の車椅子の動作を割り振る。ユーザは、希望する車いすの動作に相当する領域に口先など音源位置が入るように首など上半身を使って姿勢をつくる。そして、声に限らず、口笛、摩擦音など様々な音を発することにより、車椅子に対して動作を指示する。
【0026】
このユーザの発声に対して本発明装置は、以下の手順により電動車椅子の制御を行う。

ステップ1:80
ユーザの発した音のNフレーム(1ブロック)分のデータを、平行マイクロフォンアレイ音声入力装置から入力する。

ステップ2:81
前述の発声位置推定手段によりユーザの発声位置(Px0,Py0)を求める。

ステップ3:82
式16の条件が満足されていれば発声ありと判断し、ステップ4へ進む。そうでない場合は発声なしと判断し、ステップ1へ戻る。

ステップ4:83
発声位置(Px0,Py0)が図5のどの領域に対応するかを、以下の手順で調べる。
はじめに、2つの関数を次式のように定義する。
【数38】

【数39】

【0027】
次の条件を満たす場合は前進100と判断する。
【数40】

次の条件を満たす場合は右折101と判断する。
【数41】

次の条件を満たす場合は左折102と判断する。
【数42】

【0028】
次の条件を満たす場合は停止103と判断する。
【数43】

ステップ5:84
ディスプレイ31に表示されている図5のレイアウトで、発声位置から特定された電動車椅子の動作に該当する領域の色を反転させることで、動作の特定結果を表示する。そして、CPU63から駆動制御65に制御信号を送信することで、電動車椅子が目的の動作をするように制御する。その後、ステップ1へ戻る。

当該実施形態の電動車椅子は、CPU68と記憶装置64で構成する本発明の制御手段から制御信号を駆動制御65に送信する他に、ジョイスティック34と緊急停止ボタン32からなる操作スイッチ66から直接駆動制御65を制御することが可能である。
【実施例】
【0029】
平行マイクロフォンアレイを搭載した当該実施形態の電動車椅子のシートに座って、口先がマイクロフォンアレイ内で円を2周描くように移動しながら摩擦音を発し、その口先の動きを本発明装置で推定する実験を行った。発声位置の推定は、周波数を2〜4kHzに制限し、発声領域は
【数44】

[cm]として1cm間隔のグリッド上で行った。FFTのフレーム幅は64ms、フレーム周期は12.5ms、相関行列はN=15フレーム分のデータから求めた。
図6は、周囲に妨害雑音が無い状態で発声位置推定を行った結果である。図示されている領域が実験条件の発声領域を示し、横軸と縦軸の交点が発声位置推定のグリッドを示している。また、グリッド上に置かれたドットが検出された発声位置を示している。
次に、進行方向右手60度の方向の、マイクロフォンアレイの中心から1.2m離れた場所に、マイクロフォンアレイの中心方向に向けてスピーカを設置し、妨害音(テレビ音声)を流し、その妨害音だけを収録する。そして、先に妨害音がない状態で収録した摩擦音に、マイクロフォンで受音した信号のSNRがほぼ0dBとなるようにレベル調整した妨害音を、計算機上で加え合わせることで、妨害音のある雑音環境下で収録したデータを人工的に生成する。
図7は、雑音環境下のデータから発声位置推定をした結果である。図6の妨害雑音が無い状態で発声位置を検出した結果と、図7の妨害雑音がある状態で発声位置を推定した結果を比べると、いずれの結果も、周囲の妨害雑音の有無に係わらず、ユーザの意図したとおり、口先の移動した軌跡が円状になっていることがわかる。これらより、本発明装置は、電動車椅子を制御するのに十分な精度を持って発声位置を推定できていることがわかる。
図6および図7の縦軸および横軸はマイクロフォンアレイの先端からの距離(単位cm)を表す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
電動車椅子だけでなく、クレーン車やショベルカーなど雑音が大きく複雑な操作のため手が使えないような重機、また、リビングのソファーなどにマイクロフォンアレイを仕込むことで、テレビやビデオなど様々な家電機器を操作するインタフェースとしの応用など、その他様々な雑音があり更に振動を伴うような環境下で音・音声による操作を必要とする状況において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】平行マイクロフォンアレイ音声入力装置を搭載した電動車椅子の概観である。
【図2】図1に示す電動車椅子の機能ブロック図である。
【図3】平行マイクロフォンアレイ音声入力装置の配置図である。
【図4】動作例を説明するためのフローチャートである。
【図5】電動車椅子制御インタフェースのレイアウト例である。
【図6】周囲に妨害雑音が無い状態で発声位置検出を行った結果である。
【図7】周囲に妨害雑音がある状態で発声位置検出を行った結果である。
【符号の説明】
【0032】
30a、30b マイクロフォンアレイ
30c、30d マイクロフォン取付体
31 ディスプレイ
32 ジョイスティック
33a、33b 肘掛
34 緊急停止ボタン
35a、35b 前輪
36a、36b 後輪
39 調節バー
40 背もたれ
41a、41b 足置き
42a、42b 支柱
61 マイクロフォンとADC
63 CPU
65 駆動制御手段
66 操作スイッチ
67 駆動モータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ音声をマルチチャンネルで複数受音するために任意数のマイクロフォンを設けたマイクロフォンアレイを複数個相互に離間して配置してなる受音手段を備えた音声入力手段と、3次元空間中の任意の位置に配置された前記受音手段で受音したマルチチャネル音声データに基づいてMUSIC法によりユーザの発声位置を推定し発声位置推定信号を出力する発声位置推定手段と、前記発声位置推定信号に基づき車輪の駆動源を制御する制御手段を有し、
前記発声位置推定手段が、座標P=(Px,Py,Pz)にある音源の位置ベクトルa(ω,P)と、マイクロフォン入力の連続するフレームの短時間フーリエ変換値を要素とした観測ベクトルを求め、前記観測ベクトルから相関行列R(ω)の雑音部分空間相関行列Rn(ω)を求め、下記数45式の関数F(P)を計算し、
【数45】

関数F(P)を最大にする座標P0=(Px0,Py0,Pz0)を求め、その座標P0から最大値F(P0)を求め、その座標から到来する音源のパワーを下記数46式の関数P(P0)により求め、
【数46】

求めた関数F(P0)と関数P(P0)の値を所定の閾値と比較し、ともに所定の閾値以上で有る場合に前記座標P0において発音があったと判断するようになっていることを特徴とする電動車椅子。
【請求項2】
前記音声入力手段は、ユーザがシートに座ったときにユーザの両側にそれぞれ配置されるマイクロフォンを含むことを特徴とする請求項1記載の電動車椅子。
【請求項3】
前記複数個相互に離間して配置してなるマイクロフォンアレイを、互いに平行配置したマイクロフォンアレイとしたことを特徴とする請求項2記載の電動車椅子。
【請求項4】
ユーザ音声を受音するために相互に離間して配置した複数のマイクロフォンアレイからなる受音手段を備えた音声入力手段と、前記受音手段で受音したマルチチャネル音声データに基づきユーザの発声位置を推定し発声位置推定信号を出力する発声位置推定手段と、座標位置指定手段および停止ボタンにより補助操作信号を出力する補助操作手段と、前記発声位置推定信号および車椅子の状態を視覚的に示す画像表示手段と、車椅子の車輪の駆動源を駆動制御する駆動手段と、前記発声位置推定信号および前記補助操作信号に基づき前記駆動手段を制御する制御手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電動車椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−107714(P2011−107714A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275175(P2010−275175)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【分割の表示】特願2006−45096(P2006−45096)の分割
【原出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度文部科学省「科学技術振興調整費 障害者の安全で快適な生活の支援技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】