説明

電圧−電流コンバータ及びこれを備えたオーディオアンプ

【課題】負荷が平衡又は不平衡にかかわらず安定した電流を負荷に供給する。
【解決手段】本願発明の電圧−電流コンバータは、平衡入力される電圧信号を電流信号に変換し、負荷Lが接続される一対の出力端の一方から出力するための第1の電流−電圧変換部3と、電圧信号の位相を反転した電圧信号を電流信号に変換し、一対の出力端の他方から出力するための第2の電流−電圧変換部4と、一対の出力端間の電圧に含まれる、第1の電流−電圧変換部3及び第2の電流−電圧変換部4の出力に含まれるコモンモード成分に応じた電圧成分を第1の電流−電圧変換部3及び第2の電流−電圧変換部4の各入力端側にそれぞれ帰還させる帰還部5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電圧信号を電流信号に変換するための電圧−電流コンバータ、及びこれを備えたオーディオアンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オーディオアンプにおける信号伝送においては、例えば電圧信号としてのオーディオ信号を電流の形で伝送するいわゆる電流伝送が用いられている。電流伝送は、一般に、信号経路に直列に存在する例えば接触抵抗等の非線形要素の影響、あるいは電磁誘導や静電誘導による外部ノイズの影響等を受け難いとされている。
【0003】
そのため、オーディオアンプにおいては、信号の伝送や音量の調整等に電流伝送を用いた場合、出力電圧が負荷抵抗に比例することから、実用レベルでの高S/Nが実現できるとされている。電流伝送を行うためには、電圧信号を電流信号に変換するための電圧−電流コンバータ(以下、「VIコンバータ」という。)が用いられる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−186859号公報
【0005】
図8は、オーディオアンプに用いられるVIコンバータの一例を示す回路図である。同図に示すVIコンバータ100は、OPアンプを用いた反転入力型のVIコンバータで、入出力信号のタイプを不平衡型としたものである。具体的には、OPアンプ32の負の入力端子(−)は、抵抗R12を介して出力端子に接続されるとともに、抵抗R11を介してVIコンバータ100の一方の入力端子Nに接続され、OPアンプ32の出力端子は抵抗R14を介して出力端子Oに接続されている。
【0006】
また、OPアンプ32の正の入力端子(+)は、VIコンバータ100の一方の出力端子Oに接続されるとともに、抵抗R13を介してVIコンバータ100の他方の入力端子N’に接続されている。VIコンバータ100の他方の入力端子N’と他方の出力端子O’とはグランドに接地され、入力端子N−N’間にオーディオ信号を出力するオーディオ信号源31が接続され、出力端子O−O’間に負荷Lが接続されている。
【0007】
このVIコンバータにおいては、下記に示す式1及び式2が成立する。
【数1】

【数2】

なお、eはオーディオ信号源31から出力されるオーディオ信号の電圧、Zは負荷Lの負荷インピーダンス、VaはOPアンプ32の出力端子における電圧、V0は出力端子O−O’間の電圧を示す。
【0008】
式1及び式2より、出力電圧V0は式3で表すことができる。
【0009】
【数3】

【0010】
ここで、R11・R14=R12・R13、すなわちR11/R12=R13/R14が成立するように各抵抗R11〜R14の定数を設定すれば、式3は式4で表すことができる。
【0011】
【数4】

【0012】
負荷Lに流れる電流をI0(=V0/Z)とすれば、負荷電流I0は式4より式5で表すことができる。
【数5】

【0013】
すなわち、図8に示すVIコンバータ100では、R11・R14=R12・R13を満足するような回路定数を選択することで、式4に示すように、出力電圧V0は入力電圧e及び負荷インピーダンスZに比例するようになる。換言すれば、式5に示すように、負荷Lに流れる負荷電流I0は、負荷インピーダンスZには依存しないことになり、負荷Lには、入力電圧eに比例した負荷電流I0が流れることになる。
【0014】
一方、オーディオアンプといったオーディオ機器における信号伝送では、伝送経路での電磁誘導や静電誘導によるノイズを低減する目的で、平衡伝送が用いられることがある。この平衡伝送では、例えば機器間を接続する信号の往復線路にツイストペアが用いられる。この場合、電磁誘導や静電誘導による外部ノイズは、結合されてコモンモードノイズとなるのであるが、コモンモード成分は、平衡増幅器又は差動増幅器等によって除去することができる。
【0015】
特に、伝送経路が長くなるような業務用オーディオ機器においては、平衡伝送が標準的に用いられている。家庭用オーディオ機器においても、ハイエンド機器の中には平衡伝送機能を備えるものも少なくない。
【0016】
また、従来、業務オーディオ機器においては、トランスを用いた平衡伝送も用いられている。この平衡伝送によると、例えば平衡増幅器又は差動増幅器等はトランスの1次巻線−2次巻線間で絶縁されており、伝送形態が平衡(グランドに対してフロートな状態)であっても、不平衡(信号経路の一方がグランドに接地された状態)であっても使用できるといった特長を有している。
【0017】
したがって、上記VIコンバータ100が、平衡あるいは不平衡の何れの負荷Lに対しても信号電流を正確に供給することができれば、当該VIコンバータ100を業務用オーディオや家庭用ハイエンドオーディオ機器に採用することができる。また、この場合、VIコンバータ100において電流伝送の利点も生かすことができる。
【0018】
しかしながら、図8に示したVIコンバータ100は、入力及び出力とも信号基準点がグランドとなっている不平衡入出力タイプのものである。そのため、このVIコンバータでは、平衡伝送を用いた業務用オーディオ機器や家庭用ハイエンドオーディオ機器等には用いることができないといった問題点があった。
【0019】
図9は、図8に示したVIコンバータ100の一対の入力端子対N,N’にそれぞれ不平衡型のオーディオ信号源31a,31bをそれぞれ接続したものである。図9の回路構成では、VIコンバータ100の入力端子対Nにはオーディオ信号e1が入力され、入力端子対N’にはオーディオ信号e2が入力されるので、VIコンバータ100はオーディオ信号e1,e2の差分を電流に変換する差動型VIコンバータとして動作する。
【0020】
このVIコンバータ100は差動型動作となっているが、VIコンバータ100の他方の出力端子O’は接地されているため、出力電圧V0はグランドを基準とした不平衡出力となっている。そのため、図8に示した回路構成と同様に、業務用オーディオ機器や家庭用ハイエンドオーディオ機器等には用いることができないといった問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本願発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、負荷が平衡又は不平衡にかかわらず安定した電流を負荷に供給することのできる電圧−電流コンバータ及びそれを備えるオーディオアンプを提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0023】
本願発明の第1の側面によって提供される電圧−電流コンバータは、平衡入力される電圧信号を電流信号に変換し、負荷が接続される一対の出力端の一方から出力するための第1の電流−電圧変換手段と、前記電圧信号の位相を反転した電圧信号を電流信号に変換し、前記一対の出力端の他方から出力するための、前記第1の電流−電圧変換手段とは別に設けられた第2の電流−電圧変換手段と、前記一対の出力端間の電圧に含まれる、前記第1の電流−電圧変換手段及び前記第2の電流−電圧変換手段の出力に含まれるコモンモード成分に応じた電圧成分を前記第1の電流−電圧変換手段及び前記第2の電流−電圧変換手段の各入力端側にそれぞれ帰還させる帰還手段と、を備えることを特徴としている(請求項1)。
【0024】
この構成によれば、帰還手段が第1の電流−電圧変換手段及び第2の電流−電圧変換手段の出力に含まれるコモンモード成分を検出し、そのコモンモード成分に応じた電圧成分
を第1の電圧−電流変換手段の入力端側及び第2の電圧−電流変換手段の入力端側にそれぞれ帰還させるので、例えば第1及び第2の電圧−電流変換手段におけるわずかな回路定数のばらつきやオフセット等による電圧変動分を互いにキャンセルすることができ、負荷が平衡状態あるいは不平衡状態であっても、安定した出力電流を負荷に供給することができる。
【0025】
本願発明の電圧−電流コンバータにおいて、前記第1の電流−電圧変換手段に平衡入力される電圧信号は、不平衡信号からなる第1の電圧信号とこの第1の電圧信号の位相を反転した不平衡信号からなる第2の電圧信号との第1の差分信号であり、前記第2の電流−電圧変換手段に平衡入力される電圧信号は、前記第1の差分信号の位相を反転した第2の差分信号であるとよい(請求項2)。
【0026】
本願発明の電圧−電流コンバータにおいて、前記第1,第2の電流−電圧変換手段は、オペアンプを用いた電流−電圧変換回路によって構成される一方、前記帰還手段は、前記一対の出力端間の電位差の中間値が入力される積分回路と、前記積分回路から出力される信号の位相を反転する位相反転回路とによって構成され、前記位相反転回路の出力が前記第1,第2の電流−電圧変換手段を構成する2つのオペアンプの負入力端子に入力されるとよい(請求項3)。
【0027】
本願発明の電圧−電流コンバータにおいて、前記第1,第2の電流−電圧変換手段は、オペアンプを用いた電流−電圧変換回路によって構成される一方、前記帰還手段は、前記一対の出力端間の電位差の中間値が入力される積分回路によって構成され、前記積分回路の出力が前記第1,第2の電流−電圧変換手段を構成する2つのオペアンプの正入力端子に入力されるとよい(請求項4)。
【0028】
本願発明の第2の側面によって提供されるオーディオアンプは、本願発明の第1の側面によって提供される電圧−電流コンバータを備えたことを特徴としている(請求項5)。
【0029】
この構成によれば、このオーディオアンプは、本願発明の第1の側面によって提供される電圧−電流コンバータを備えているので、第1の側面によって提供される電圧−電流コンバータと同様の作用効果を奏する。
【0030】
本願発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本願発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0032】
図1は、本願発明に係る電圧−電流コンバータ1(以下、「VIコンバータ1」という。)の回路図である。このVIコンバータ1は、いわゆる平衡型(入力信号と出力信号がともに平衡型の信号のタイプ)を基本とするが、不平衡型負荷を接続しても使用することができるようになっている。
【0033】
VIコンバータ1は、大別して、第1の電圧−電流変換部3と、第2の電圧−電流変換部4と、積分帰還部5とによって概略構成されている。VIコンバータ1の一方の入力端子Nには不平衡型オーディオ信号源2aが接続され、他方の入力端子N’には不平衡型オーディオ信号源2bが接続されている。また、VIコンバータ1の一対の出力端子b,cはフローティング状態となっており、両出力端子b,cに負荷インピーダンスZを有する負荷Lが接続されている。
【0034】
第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bは、入力信号としてのオーディオ信号を発生させるためのものであり、その負極側同士がグランドに接地されている。この接続構成により、VIコンバータ1における入力側が平衡入力となっている。なお、図面上は、オーディオ信号発生源は、第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bというように2つのオーディオ信号発生源とされているが、平衡入力できるものであれば1つのオーディオ発生源によって構成されてもよい。
【0035】
第1の電圧−電流変換部3は、オーディオ信号としての電圧信号を電流信号に変換するためのものであり、第1OPアンプ11と、複数の抵抗R2,R4とからなる。一方、第2の電圧−電流変換部4は、第1の電圧−電流変換部3と同じく、オーディオ信号としての電圧信号を電流信号に変換するためのものである。第2の電圧−電流変換部4は、第1の電圧−電流変換部3と略同様の構成とされ、第1OPアンプ11と同様の機能を有する第2OPアンプ12と、複数の抵抗R2,R4とからなる。なお、図面上、抵抗について符号が同一で表されているものは、同一の機能及び同一の抵抗値を有するものとする。
【0036】
第1のオーディオ信号発生源2aには、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4がそれぞれ接続されている。より詳細には、第1のオーディオ信号発生源2aの正極側は、抵抗R1aを介して第1の電圧−電流変換部3の第1OPアンプ11の負極入力端子(−)に接続されているとともに、抵抗R3aを介して第2の電圧−電流変換部4の第2OPアンプ12の正極入力端子(+)にそれぞれ接続されている。
【0037】
また、第2のオーディオ信号発生源2bの正極側は、抵抗R1aを介して第2の電圧−電流変換部4の第2OPアンプ12の負極入力端子(−)に接続されているとともに、抵抗R3aを介して第1の電圧−電流変換部3の第1OPアンプ11の正極入力端子(+)に接続されている。これら第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bの接続構成により、第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bの各出力電圧e1,e2の差(e1−e2)は、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4にそれぞれ入力されることになる。
【0038】
第1の電圧−電流変換部3では、上述した抵抗R1aが第1OPアンプ11の負極入力端子(−)に接続されるとともに第1OPアンプ11のループ抵抗(帰還抵抗ともいう。以下同様。)である抵抗R2に接続されている。抵抗R2は、第1OPアンプ11の出力端子に接続されるとともに、第1OPアンプ11の出力抵抗である抵抗R4に接続されている。そして、抵抗R4は、第1OPアンプ11の正極入力端子(+)にループを形成する(帰還経路を形成するともいう。以下同様。)ように接続されている。
【0039】
この構成により、第1の電圧−電流変換部3は、正極入力端子(+)及び負極入力端子(−)間に入力された第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bの出力電圧の差(e1−e2)を、出力抵抗R4を流れる電流に変換している。
【0040】
また、第2の電圧−電流変換部4では、上述した抵抗R3aが第2OPアンプ12の正極入力端子(+)に接続されるとともに第2OPアンプ12の出力抵抗である抵抗R4に接続されている。抵抗R4は、第2OPアンプ12の出力端子に接続されるとともに、第2OPアンプ12のループ抵抗である抵抗R2に接続されている。そして、抵抗R2は、第2OPアンプ12の負極入力端子(−)にループを形成するように接続されている。
【0041】
この構成により、第2の電圧−電流変換部4は、正極入力端子(+)及び負極入力端子(−)間に入力された第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bの出力電圧の差(e1−e2)を、出力抵抗R4を流れる電流に変換している。
【0042】
第1の電圧−電流変換部3の出力抵抗R4と第2の電圧−電流変換部4の出力抵抗R4との間には、負荷Lが接続されているとともに積分帰還部5が接続されている。積分帰還部5は、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4の出力コモンモード成分を第1の電圧−電流変換部3の入力側及び第2の電圧−電流変換部4の入力側にそれぞれ負帰還させるものである。積分帰還部5は、2つの入力抵抗R3bと、積分回路を構成する第3OPアンプ13及びコンデンサCと、位相反転回路を構成する第4OPアンプ14及び複数の抵抗r1,r2とからなる。
【0043】
第1及び第2の電圧−電流変換部3,4の出力コモンモード成分は、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4の出力端とグランドとの間に生じるコモンモード(同相)成分である。より厳密には、上記出力コモンモード成分は、負荷Lに対して並列接続された2つの入力抵抗R3bの中点(接続点a参照)とグランドとの間に生じるコモンモード成分である。
【0044】
積分帰還部5の接続構成としては、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4の各出力抵抗R4がともに入力抵抗R3bを介して接続点aで接続されている。接続点aは、第3OPアンプ13の負極入力端子(−)に接続されているとともに積分用のコンデンサCに接続されている。コンデンサCは、第3OPアンプ13の出力端子に接続されているとともに抵抗r1に接続されている。第3OPアンプ13の正極入力端子(+)は、第4OPアンプ14の正極入力端子(+)に接続されているとともにグランドに接地されている。
【0045】
抵抗r1は、第4OPアンプ14の負極入力端子(−)に接続されているとともに、第4OPアンプ14のループ抵抗である抵抗r2に接続されている。抵抗r2は、第4OPアンプ14の出力端子に接続されている。第4OPアンプ14の出力端子は、第1の電圧−電流変換部3側の抵抗R1bを介して第1OPアンプ11の負極入力端子(−)に接続されているとともに、第2の電圧−電流変換部4側の抵抗R1bを介して第2OPアンプ12の負極入力端子(−)に接続されている。すなわち、積分帰還部5の出力は、第1の電圧−電流変換部3及び第2の電圧−電流変換部4にそれぞれ負帰還入力されている。
【0046】
上記の構成によると、式6〜式10が成立する。
【数6】

【0047】
【数7】

【0048】
【数8】

【0049】
【数9】

【0050】
【数10】

ここで、V1は負荷Lの一方端bにおける電圧、V2は負荷Lの他方端cにおける電圧、V3は第1OPアンプ11の出力端子dにおける電圧、V4は第2OPアンプ12の出力端子eにおける電圧、V5は積分帰還部5の出力端gにおける電圧、Zは負荷Lの負荷インピーダンスをそれぞれ示す。
【0051】
式6〜式10より、出力電圧V0は式11で表すことができる。
【数11】

【0052】
ここで、R1a1b4(R3a+R3b)=R3a3b2(R1a+R1b)、すなわち(R1a//R1b)/R2=(R3a//R3b)/R4が成立するように抵抗定数を選択すると、式12が成立する。
【0053】
【数12】

【0054】
すなわち、出力電圧V0は、負荷Lの負荷インピーダンスZに比例する。この場合、負荷Lに流れる電流をI0(=V0/Z)とすれば、負荷電流I0は式12より式13で表すことができる。
【0055】
【数13】

【0056】
ここで、R2=pR1a,R4=pR3aとなるような定数pを設定すると、式12に基づいて式14が成立する。
【0057】
【数14】

【0058】
式14により、負荷Lに流れる電流I0を再び導くと、負荷電流I0は式15で表すことができる。
【0059】
【数15】

【0060】
式15により、図1に示すVIコンバータ1の変換コンダクタンスは、−1/R3aであることがわかる。すなわち、負荷電流I0は、第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bの出力電圧の差(e1−e2)に比例するとともに、負荷Lの負荷インピーダンスZには依存しないことがわかる。そして、負荷Lには、第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bの出力電圧の差(e1−e2)に比例した負荷電流I0が流れることになる。
【0061】
このように、上記構成によれば、積分帰還部5の積分回路が第1及び第2の電圧−電流変換部3,4の出力コモンモード成分を検出し、位相反転回路によって位相を反転して第1の電圧−電流変換部3の入力側及び第2の電圧−電流変換部4の入力側にそれぞれ負帰還(直流サーボ帰還)させている。そのため、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4におけるわずかな回路定数のばらつきや第1又は第2OPアンプ11,12のオフセット等による電圧変動分を互いにキャンセルすることができ、負荷Lが平衡(フローティング)の状態であっても、安定した出力電流(負荷電流)I0を負荷Lに供給することができる。
【0062】
図2は、図1に示すVIコンバータ1における出力波形を示す図である。このVIコンバータ1では、負荷Lは、グランドに対してフローティング状態である平衡負荷であるため、出力電圧V1,V2がほぼ0Vを基準に対称に変化するように動作していることがわかる。そして、出力電圧V0(=V1−V2)は、正確な正弦波が見られる。
【0063】
ここで、図1に示すVIコンバータ1の出力コモンモード成分を算出すると、式6,10等により、式16が成立する。
【0064】
【数16】

【0065】
すなわち、出力コモンモード成分は、直流域や超低周波数帯域では、フラットな電流出力となるが、対象となるオーディオ帯域においてほぼ「0」となる。
【0066】
一方、図3は、図1に示すVIコンバータ1の比較例を示す回路図である。このVIコンバータ1Aでは、第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bの出力電圧e1,e2の差(e1−e2)が第1及び第2の電圧−電流変換部3,4に対して入力され、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4のそれぞれの出力抵抗R4に負荷Lが接続されている。すなわち、図3に示すVIコンバータ1Aは、図1に示すVIコンバータ1に比べ、積分帰還部5を備えていない構成とされている。
【0067】
この図3に示すVIコンバータ1Aにおいても、負荷Lは、グランドに対してフローティング状態である平衡負荷であり、第1及び第2のオーディオ信号発生源2a,2bの出力電圧e1,e2の差(e1−e2)に比例した出力電圧V0及び負荷電流I0を得ることができる。
【0068】
しかしながら、このVIコンバータ1Aでは、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4の出力コモンモード(同相)成分に対して負帰還量と正帰還量とが同じになっているため、出力コモンモード電圧が不定となる。そのため、わずかな回路定数のばらつきや第1又は第2OPアンプ11,12のオフセット等によって、無信号時には、出力電圧V0が第1及び第2OPアンプ11,12に供給される正負の電源電圧のいずれかに張り付いた状態となる。
【0069】
図4は、図3に示すVIコンバータ1Aにおける出力波形を示す図である。同図によると、出力電圧V0(=V1−V2)としては正確な出力波形が得られるが、出力電圧V1,V2の出力波形はかなり歪んでいる。すなわち、図3に示すVIコンバータ1Aでは、音質の劣化が生じていることがわかる。
【0070】
図5は、図1に示すVIコンバータ1の使用形態の変形例を示す回路図である。この変形例に示すVIコンバータ1では、負荷Lの他方端子(出力電圧V2側)がグランドに接地され、V2=0となることから、出力電圧V0は出力電圧V1と同電位になる。すなわち、負荷Lが不平衡の状態である。
【0071】
同図によると、式17〜式19が成立する。
【数17】

【0072】
【数18】

【0073】
【数19】

【0074】
式17〜19により、出力電圧V0は式20で表すことができる。
【数20】

【0075】
ここで、図1に示すVIコンバータ1における説明と同様に、R2=pR1a,R4=pR3aとなるような定数pを設定すると、式21が成立する。
【0076】
【数21】

【0077】
式21によると、負荷Lが通常の抵抗負荷の場合には、図5に示すVIコンバータ1がハイパスフィルタ(HPF)の特性を有することを示している。すなわち、直流域では出力電圧V0=0であるため、負荷電流I0=0である。
【0078】
一方、周波数が比較的高い交流域においては、式22,式23に示すように、負荷Lが平衡状態の場合(図1のVIコンバータ1参照)と同じ出力特性を有する。
【数22】

【数23】

【0079】
すなわち、図5に示す負荷Lが不平衡状態のVIコンバータ1では、ハイパスフィルタ(HPF)の特性を有し、その減衰域では電流出力されないが、通過帯域においては負荷Lが平衡状態のときと同じように、安定した出力電流(負荷電流)I0を負荷Lに供給することができる。
【0080】
したがって、積分帰還部5の積分用のコンデンサCの値を適当に選ぶことにより、対象となるオーディオ帯域においては、負荷Lが平衡状態又は不平衡状態に関係なく、VIコンバータ1が有する電流伝送の機能を発揮することができる。
【0081】
図6は、図5に示すVIコンバータ1における出力波形を示す図である。同図によると、出力電位V2がグランドに接地されているため0Vであるが、出力電位V1の波形が出力電圧V0として出力される。
【0082】
図7は、図1に示すVIコンバータ1の他の変形例を示す回路図である。図1に示すVIコンバータ1では、積分帰還部5の第3OPアンプ13によって出力コモンモード成分を検出し、検出された出力コモンモード成分を第4OPアンプ14によって位相反転して第1及び第2の電圧−電流変換部3,4の第1及び第2OPアンプ11,12の正極入力端子(+)に負帰還している。
【0083】
これに対し、図7に示すVIコンバータ1Bでは、積分帰還部5’の第3OPアンプ13によって検出されたコモンモード電圧を位相反転せずに、第1及び第2の電圧−電流変換部3,4の第1及び第2OPアンプ11,12の正極入力端子(+)に負帰還している。すなわち、図7に示すVIコンバータ1Bでは、図1に示すVIコンバータ1に比べ、位相反転用の第4OPアンプ14及びその周辺部品を省略することができ、回路構成を簡素化できるといった利点がある。なお、その他の構成については、図1に示すVIコンバータ1と略同様である。
【0084】
もちろん、この発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、上記実施形態に示した回路構成は一例であり、同等の機能を有するものであれば、種々の回路を適用することができる。例えば図1に、本願発明に係るVIコンバータの回路図を示したが、本願発明はこの回路に限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本願発明に係る電圧−電流コンバータの回路図である。
【図2】図1に示す電圧−電流コンバータにおける平衡負荷時の出力波形を示す図である。
【図3】図1に示す電圧−電流コンバータの比較例を示す回路図である。
【図4】図3に示す電圧−電流コンバータにおける平衡負荷時の出力波形を示す図である。
【図5】図1に示す電圧−電流コンバータの使用形態の変形例を示す回路図である。
【図6】図5に示す電圧−電流コンバータにおける不平衡負荷時の出力波形を示す図である。
【図7】図1に示す電圧−電流コンバータの他の変形例を示す回路図である。
【図8】従来の電圧−電流コンバータの一例を示す回路図である。
【図9】従来の電圧−電流コンバータの変形例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0086】
1 電圧−電流コンバータ
2a 第1のオーディオ信号源
2b 第2のオーディオ信号源
3 第1の電圧−電流変換部
4 第2の電圧−電流変換部
5 積分帰還部
11 第1OPアンプ
12 第2OPアンプ
13 第3OPアンプ
14 第4OPアンプ
S オーディオ信号
L 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平衡入力される電圧信号を電流信号に変換し、負荷が接続される一対の出力端の一方から出力するための第1の電流−電圧変換手段と、
前記電圧信号の位相を反転した電圧信号を電流信号に変換し、前記一対の出力端の他方から出力するための、前記第1の電流−電圧変換手段とは別に設けられた第2の電流−電圧変換手段と、
前記一対の出力端間の電圧に含まれる、前記第1の電流−電圧変換手段及び前記第2の電流−電圧変換手段の出力に含まれるコモンモード成分に応じた電圧成分を前記第1の電流−電圧変換手段及び前記第2の電流−電圧変換手段の各入力端側にそれぞれ帰還させる帰還手段と、
を備えることを特徴とする、電圧−電流コンバータ。
【請求項2】
前記第1の電流−電圧変換手段に平衡入力される電圧信号は、不平衡信号からなる第1の電圧信号とこの第1の電圧信号の位相を反転した不平衡信号からなる第2の電圧信号との第1の差分信号であり、
前記第2の電流−電圧変換手段に平衡入力される電圧信号は、前記第1の差分信号の位相を反転した第2の差分信号である、請求項1に記載の電圧−電流コンバータ。
【請求項3】
前記第1,第2の電流−電圧変換手段は、オペアンプを用いた電流−電圧変換回路によって構成される一方、前記帰還手段は、前記一対の出力端間の電位差の中間値が入力される積分回路と、前記積分回路から出力される信号の位相を反転する位相反転回路とによって構成され、
前記位相反転回路の出力が前記第1,第2の電流−電圧変換手段を構成する2つのオペアンプの負入力端子に入力される、請求項2に記載の電圧−電流コンバータ。
【請求項4】
前記第1,第2の電流−電圧変換手段は、オペアンプを用いた電流−電圧変換回路によって構成される一方、前記帰還手段は、前記一対の出力端間の電位差の中間値が入力される積分回路によって構成され、
前記積分回路の出力が前記第1,第2の電流−電圧変換手段を構成する2つのオペアンプの正入力端子に入力される、請求項2に記載の電圧−電流コンバータ。
【請求項5】
請求項1ないし4に記載の電圧−電流コンバータを備えたことを特徴とする、オーディオアンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−225086(P2009−225086A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67059(P2008−67059)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】