説明

電圧制御型圧電発振器

【課題】ECL出力回路を有する電圧制御型圧電発振器の周波数温度特性を改善する手段
を得る。
【解決手段】圧電振動子Y1と、発振回路11と、周波数電圧制御回路12と、発振回路
11の出力に接続されるECL出力回路13と、各要素を搭載する絶縁基板5と、絶縁基
板5を収容するケースと、を備えた電圧制御型圧電発振器である。圧電振動子Y1は、水
晶のX軸(電気軸)の回りにθ回転し、更にZ’軸(光学軸)の回りにφ回転した二回回
転カット水晶振動子である。発振回路11は、コルピッツ型発振回路、又はピアース型発
振回路であり、周波数電圧制御回路12は、容量素子とインダクタと少なくとも1つの可
変容量素子とを有する回路からなる。ECL出力回路13は、発振回路11の出力をデジ
タル出力に変換して出力するECL回路を有し、圧電振動子Y1とECL出力回路13と
を絶縁基板5上に近接配置して電圧制御型圧電発振器を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ECL回路を備えた電圧制御型水晶発振器であって、周波数温度特性を改善
した電圧制御型水晶発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、光デジタル通信網の普及により発振周波数が数百MHzと非常に高い電圧制御型
水晶発振器が要求され、ECLロジック・インバータを用いて高周波化に図っている。C
−MOSロジックの場合は電荷が飽和してスイッチングするのに対し、ECL(Emitter
Coupled Logic)の場合には不飽和でスイッチングするので、スイッチングスピードが速
くなり、高周波に適している。
特許文献1には、ECL回路(ECLIC)を用いた電圧制御型圧電発振器(VCXO
)が開示されている。図11は、VCXOの回路図であり、水晶振動子Y1を有するコル
ピッツ型の水晶発振回路11と、周波数電圧制御回路12と、ECL回路13とを備えて
いる。
水晶発振回路11は、トランジスタQ1のベースに水晶振動子Y1の一端が接続されて
いると共に、抵抗R4、R5から成るベースバイアス回路が接続され、更にベースと接地
との間に負荷容量の一部を担うコンデンサC1、C2との直列回路が接続されている。そ
して、この直列回路の接続中点がトランジスタQ1のエミッタと抵抗R7との接続点に接
続される。またトランジスタQ1のコレクタがコレクタ抵抗R6を介して電源Vccに接
続されている。なおコンデンサC10、C11はノイズ除去用のバイパスコンデンサであ
る。
【0003】
水晶振動子Y1の他端には、周波数電圧制御回路12が接続されている。周波数電圧制
御回路12は、コンデンサC5とコンデンサC6との並列回路、抵抗R3とインダクタL
1との並列回路、及び抵抗R2とを直列にした直列回路から成り、コンデンサC5とコン
デンサC6との並列回路の一端を水晶振動子Y1の他端に接続し、抵抗R2の一端を接地
するようにしている。更に抵抗R3と抵抗R2との接続点と接地との間には、コンデンサ
C4と可変容量ダイオードD2とを並列に接続した第1の並列回路と、コンデンサC3と
可変容量ダイオードD1とを並列に接続した第2の並列回路とを直列に接続した直列回路
が接続されている。
また可変容量ダイオードD1、D2のカソード接続点が交流阻止用の抵抗R1を介して
制御電圧端子Vcontに接続されている。
水晶発振回路11の出力を結合コンデンサC8と抵抗R8の直列回路を介してECL回
路13に入力し、ECL回路13によりデジタル出力に変換して出力するように構成され
ている。ECL回路13は、ICにより構成される差動増幅回路V1の各端子と、レベル
調整用の抵抗R9、及びバイパスコンデンサC9を所定の端子に接続して構成される。
制御電圧端子Vcontからの制御電圧により、水晶発振回路11の発振出力を可変制御
可能に構成され、ECL回路13を介して出力される。
なお、VCXOの小型化を図るために、可変容量ダイオードD1、D2を発振器用基板
上にベアチップで搭載すると共に、VCXOの抵抗を発振器用基板上に印刷抵抗により形
成するようにしたと開示されている。
【0004】
ECLの特徴はトランジスタを飽和させずに利用するため、状態変化が非常に高速に行
える点であり、ECLで構成された回路は非常に高速で動作する。欠点は、トランジスタ
を常に駆動しているため、電力消費が大きくなる点で、その電力のほとんどは熱として放
熱される。
また、ECLは入力段として差動増幅回路構成を使い、入力電圧の適当な論理関数がそ
の増幅回路を制御して、出力トランジスタのベースを制御するために、差動増幅回路のH
ighレベルと、Lowレベルとの中間の電圧をバイアスとして供給する。なお、出力ト
ランジスタはコレクタ接地回路構成(エミッタフォロア)で使われる。スイッチングにか
かる遅延時間は1ナノ秒(10-9s)未満であり、ECLが最も高速な論理素子とされて
きた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−189284公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている電圧制御型圧電発振器(VCXO)は、E
CL回路から放熱される熱のため、水晶振動子が呈する温度特性の高温側の特性が、VC
XOの周波数温度特性となるので、温度特性が劣化するという問題があった。
また、VCXOの周波数温度特性の劣化を防止するに、水晶振動子とECL回路とを離
間させると、回路基板を大きくなり、ひいてはVCXOが大きく成り過ぎるという問題が
あった。
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、小型化と周波数温度特性の改善と
を図った高周波の電圧制御型圧電発振器(VCXO)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本発明の電圧制御型圧電発振器は、圧電振動子と、前記圧電振動子を励振
する発振回路と、発振周波数を可変する周波数電圧制御回路と、前記発振回路の出力に接
続されるECL出力回路と、を備えた電圧制御型圧電発振器であって、前記圧電振動子と
前記発振回路と前記周波数電圧制御回路と前記ECL出力回路とを搭載する絶縁基板と、
を有し、前記圧電振動子は、水晶のX軸(電気軸)の回りにθ回転し、更にZ’軸(光学
軸)の回りにφ回転した二回回転カット水晶基板に励振電極を形成した水晶振動子素子を
パッケージに収納したものであり、前記ECL出力回路は、前記発振回路の出力をデジタ
ル出力に変換して出力するECL回路を有し、前記圧電振動子と前記ECL出力回路とが
前記絶縁基板上で互いに隣在することを特徴とする電圧制御型圧電発振器である。
【0009】
絶縁基板上に圧電振動子と、発振回路と、周波数電圧制御回路と、ECL出力回路とを
搭載して電圧制御型圧電発振器を構成する際に、圧電振動子とECL出力回路と近接配置
する。ECL出力回路の消費電流の一例は40mAにもなり、放熱される熱量は大きい。
この放熱される熱のため電圧制御型圧電発振器の周囲温度と、内部の圧電振動子の呈する
温度とに温度差ΔTが生じることになる。電圧制御型圧電発振器を中心周波数f0に設定
する際の温度をTs(通常は25℃)とすると、圧電振動子の変曲点温度TfをTf=T
s+ΔTに設定することにより、常温(25℃)に対し電圧制御型圧電発振器の周波数偏
差の極大値と、極小値の絶対値とがほぼ等しくなり、良好な周波数温度特性の電圧制御型
圧電発振器が得られるという効果がある。
【0010】
[適用例2]本発明の電圧制御型圧電発振器は、圧電振動子と、前記圧電振動子を励振
する発振回路と、発振周波数を可変する周波数電圧制御回路と、前記発振回路の出力に接
続されるECL出力回路と、を備えた電圧制御型圧電発振器であって、前記圧電振動子と
前記発振回路と前記周波数電圧制御回路と前記ECL出力回路とを搭載する絶縁基板と、
を有し、前記圧電振動子は、水晶のX軸(電気軸)の回りにθ回転し、更にZ’軸(光学
軸)の回りにφ回転した二回回転カット水晶基板に励振電極を形成した水晶振動子素子を
パッケージに収納したものであり、前記ECL出力回路は、前記発振回路の出力をデジタ
ル出力に変換して出力するECL回路を有し、熱伝導性の樹脂によって前記圧電振動子の
上面及び前記ECL出力回路の上面が覆われ、且つ前記圧電振動子と前記ECL出力回路
との挟まれた間も前記樹脂が充填されていることが好ましい。
【0011】
電圧制御型圧電発振器の圧電振動子の上面及びECL出力回路の上面を覆うと共に、夫
々の間も連続して覆うように熱伝導性の良い接着剤を接着することにより、圧電振動子と
ECL出力回路との温度勾配が短時間で緩やかになる。周囲温度が変化しても、ECL出
力回路から圧電振動子への熱伝導が素早く、且つ両者間の温度勾配が早く安定になるため
、電圧制御型圧電発振器の周波数温度特性が安定になるという効果がある。
【0012】
[適用例3]本発明の電圧制御型圧電発振器では、前記圧電振動子の変曲点温度を30
度から65度の範囲に設定することが好ましい。
【0013】
電圧制御型圧電発振器の周囲温度と、内部の圧電振動子の呈する温度との温度差ΔTと
し、中心周波数f0に設定する際の温度をTs(通常は25℃)とすると、圧電振動子の
変曲点温度TfをTf=Ts+ΔTに設定すると良好な周波数温度特性の電圧制御型圧電
発振器が得られる。ECL出力回路の放熱量から計算して、圧電振動子の変曲点温度を3
0度から65度の範囲に設定することにより、上記の式を満たすことができるという効果
がある。
【0014】
[適用例4]本発明の電圧制御型圧電発振器では、前記水晶振動素子と、前記発振回路
と、前記周波数電圧制御回路と、前記出力回路と、を前記パッケージの中に収納すること
が好ましい。
【0015】
発振回路、周波数電圧制御回路及びECL出力回路をIC化し、このICとパッケージ
に収容してない圧電振動素子と、を1つのパッケージ内に収めることにより、電圧制御型
圧電発振器を大幅に小型化することができるという効果がある。ECL回路から放熱され
熱によるパッケージ内の温度上昇は、SCカット水晶基板の切断角度を適宜選定すること
により、良好な周波数温度特性の電圧制御型圧電発振器が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る電圧制御型圧電発振器1の構成を示す平面図。
【図2】電圧制御型圧電発振器1の構成を示す回路図。
【図3】従来の電圧制御型圧電発振器の周波数温度特性の一例を示す図。
【図4】圧電振動子にATカット水晶振動子を、出力回路にECLを用いた電圧制御型圧電発振器の周波数温度特性の一例を示す図。
【図5】回転角φを0°から15°まで変化させたときのSCカット水晶振動子の周波数温度特性を示す図。
【図6】回転角φと変曲点温度を示す図。
【図7】ATカット水晶振動子の周波数温度特性C1と、SCカット水晶振動子の周波数温度特性C2を示す図。
【図8】SCカット水晶振動子とECL出力回路とを用いた電圧制御型圧電発振器1の周波数温度特性を示す図。
【図9】第2の実施例の電圧制御型圧電発振器2の構成を示す平面図。
【図10】シングルシール型電圧制御型圧電発振器3の構成を示す断面図。
【図11】従来の電圧制御型圧電発振器の回路構成を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施
形態に係る電圧制御型圧電発振器(VCXO)1の構成を示す平面図であり、図2はその
回路図である。電圧制御型圧電発振器(VCXO)1は、圧電振動子Y1と、圧電振動子
Y1を励振するための発振回路11と、圧電振動子Y1と発振回路11とからなる圧電発
振器の発振周波数を可変可能にする周波数電圧制御回路12と、発振回路11の出力に接
続されるECL出力回路13と、前記各要素を搭載する基板5と、基板5を収容するケー
ス(図示せず)と、を備えた電圧制御型圧電発振器である。
圧電振動子Y1は、水晶のX軸(電気軸)の回りにθ回転し、更にZ’軸(光学軸)の
回りにφ回転した二回回転カット水晶基板の表裏面に対向する励振電極を形成した水晶振
動子素子をパッケージに密封して構成する。
発振回路11は、図2に示すようなコルピッツ型発振回路、又はピアース型発振回路で
構成される。そして、周波数電圧制御回路12は、容量素子とインダクタL1と少なくと
も1つの可変容量素子とを有する回路からなる。
出力回路は、発振回路11の出力をデジタル出力に変換して出力するECL回路で構成
され、圧電振動子Y1とECL出力回路13とを図1に示すように、基板5上に互いに隣
在して電圧制御型圧電発振器1を構成する。
【0018】
図2は電圧制御型圧電発振器1の回路構成を示す回路図である。発振回路11は、トラ
ンジスタQ1のベースに水晶振動子Y1の一端が接続されていると共に、抵抗R4、R5
から成るベースバイアス回路が接続され、更にベースと接地との間に負荷容量の一部を担
うコンデンサC1、C2との直列回路が接続されている。そして、この直列回路の接続中
点がトランジスタQ1のエミッタと抵抗R7との接続点に接続される。またトランジスタ
Q1のコレクタがコレクタ抵抗R6を介して電源Vccに接続されている。なおコンデン
サC10、C11はノイズ除去用のバイパスコンデンサである。
水晶振動子Y1の他端には、周波数電圧制御回路12が接続されている。周波数電圧制
御回路12は、コンデンサC5とコンデンサC6との並列回路、抵抗R3とインダクタL
1との並列回路、及び抵抗R2とを直列にした直列回路から成り、コンデンサC5とコン
デンサC6との並列回路の一端を水晶振動子Y1の他端に接続し、抵抗R2の一端を接地
するようにしている。更に抵抗R3と抵抗R2との接続点と接地との間には、コンデンサ
C4と可変容量ダイオードD2とを並列に接続した第1の並列回路と、コンデンサC3と
可変容量ダイオードD1とを並列に接続した第2の並列回路とを直列に接続した直列回路
が接続されている。
また可変容量ダイオードD1、D2のカソード接続点が交流阻止用の抵抗R1を介して
制御電圧端子Vcontに接続されている。
水晶発振回路11の出力を結合コンデンサC8と抵抗R8の直列回路を介してECL出
力回路13に入力し、ECL出力回路13によりデジタル出力に変換して出力するように
構成されている。ECL出力回路13は、ICにより構成される差動増幅回路V1の各端
子と、レベル調整用の抵抗R9、及びバイパスコンデンサC9を所定の端子に接続して構
成される。
制御電圧端子Vcontからの制御電圧により、水晶発振回路11の発振出力を可変制
御可能に構成され、ECL回路13を介して出力される。
【0019】
図3は一般的なトランジスタを用いた電圧制御型圧電発振器(VCXO)の周波数温度
特性の一例を示す図である。発振回路の温度特性は小さいので、圧電振動子(ATカット
水晶振動子)の周波数温度特性が、ほぼVCXOの周波数温度特性となる。つまり曲線C
1はATカット水晶振動子の周波数温度特性であると共に、VCXOの周波数温度特性を
示す曲線である。説明を容易にするため使用温度範囲を、変曲点温度Tf1(25℃強)
に対し左右対称な−25℃から+75℃として進める。
図3の黒●点はATカット水晶振動子の変曲点を示し、変曲点温度Tf1は25℃強で
ある。25℃におけるATカット水晶振動子の周波数をf25とし、任意の温度における周
波数をftとしたとき、周波数偏差Δf/fは(ft−f25)/f25で表わされる。ここで
はΔf/fをDfとして表わすものとする。
図3に示すように、ATカット水晶振動子の頂点温度をTp、その温度Tp1における
周波数偏差DfをDf(Tp1)、谷の温度をTv1、その温度Tv1での周波数偏差を
Df(Tv1)とする。水晶振動子の周囲温度Tを−25℃から+75℃まで上昇させる
と、水晶振動子の温度特性は、周波数偏差Df(−25)、Df(Tp1)、Df(25
)(一般的にはDf(25)=0とする)、Df(Tv1)、Df(75)と推移し、周
波数偏差Df(T)の近似式は温度Tの三次式で表わされる。
一般的にT=25℃における周波数偏差Df(25)を零とするので、温度を−25℃
から+75℃まで変化させた場合の周波数偏差Dfは、図3に示した例では、極大値Df
(Tp1)から極小値Df(Tv1)までとなる。ATカット水晶振動子の場合は、Df
(Tp1)≒|Df(Tv1)|となり、良好な周波数温度特性が得られる。
同様に、このような周波数温度特性を有するATカット水晶振動子を用いて、電圧制御型
圧電発振器(VCXO)を構成すれば、図3の曲線C1で示すような良好な周波数温度特
性の電圧制御型圧電発振器が得られる。
【0020】
図4は、圧電振動子がATカット水晶振動子であって、出力回路にECL(ECLIC
)を付加した電圧制御型圧電発振器(VCXO)の周波数温度特性の一例を示す図である
。曲線C1はATカット水晶振動子の周波数温度特性であるが、VCXOの発振回路の温
度特性は小さいので、近似的にECL出力回路を用いたVCXOの周波数温度特性と考え
る。ECL回路は大きな発熱を伴うので、図4の横軸はVCXOの周囲温度Totと、V
CXOの内部温度(圧電振動子の呈する温度)Tinとを二重表記している。VCXOの
周囲温度Totと、内部温度Tinとの差の一例として、15℃とする。発熱源のECL
回路からの圧電振動子への熱伝導は、両者の温度差に依存するが、ECL回路と圧電振動
子とを近接配置しているので、周囲温度に関わらず両者の差は一定温度15℃とする。
【0021】
周囲温度Totが25℃のとき、ECL回路の発熱により内部温度(圧電振動子の呈す
る温度)Tinは白抜き○点となり、黒●点で示す圧電振動子の変曲点温度(Tf1=2
5℃強)より15℃高い40℃となる。VCXOの周囲温度を−25℃から+75℃まで
変化させると、内部温度、即ち水晶振動子の呈する温度は、−10℃から90℃まで変化
することになる。VCXOの初期設定周波数は、周囲温度Totがほぼ25℃のとき所定
の周波数に設定するので、内部温度Tin、つまり水晶振動子の呈する温度が40℃のと
きDf(40)を零に設定することになる。周囲温度Totが25℃より低温側では、温
度変化による周波数偏差は、図4に示す曲線C1では(Df(Tp1)−Df(40))
=Df(Tp1)となる。また、25℃より高温側では、温度変化による周波数偏差は、
(Df(90)+|Df(Tv1)|)となる。周囲温度Totが25℃より低温側であ
れ、高温側であれECL回路を用いたVCXOの周波数温度特性は、一般的なトランジス
タを用いたVCXOより、劣化することになる。
そこで、高安定圧電発振器に用いられている2回回転水晶振動子を、図1、2に示す電
圧制御型圧電発振器(VCXO)1に用いることを想致した。2回回転水晶振動子Y1は
、X軸の回りにθ回転し、Z’軸の回りにφ回転して切断されたカットアングルの水晶基
板であり、SCカットやITカットとの名称でよく知られている。図5はSCカットの回
転角φを0°から15°まで変化させたときの水晶振動子Y1の周波数温度特性を示す図
である。回転角φと共に変曲点温度Tf2が高温側に移動する。
【0022】
図6は回転角φとそのときの変曲点温度とを示す図である。回転角φが13.9°のと
き、変曲点温度Tf2は42.0℃となり、ATカットの変曲点温度Tf1(25℃強)
より高温側に移っていることが分かる。
図7は、ATカット水晶振動子の一例の周波数温度特性を破線曲線C1で示し、SCカ
ット水晶振動子Y1の一例の周波数温度特性を実線曲線C2で示す図である。ATカット
水晶振動子の変曲点温度Tf1(25℃強)を白抜き○で、SCカット水晶振動子Y1の
変曲点温度Tf2(40℃)を黒●で示す。SCカット水晶振動子Y1の周波数温度特性
C2は、頂点温度Tp2で極大の周波数偏差Df(Tp2)となり、変曲点温度Tf2で
周波数偏差Df(Tf2)、谷温度Tv2で極小の周波数偏差Df(Tv2)となる特性
である。ATカット水晶振動子の周波数温度特性C1は、変曲点温度Tf1に対して点対
象であるが、SCカット水晶振動子Y1の周波数温度特性C2は、変曲点温度Tf2に対
して点対象である。
変曲点温度Tf2が、ATカット水晶振動子の変曲点温度Tf1(25℃強)より、1
5℃高いSCカット水晶振動子Y1を例にして、図1、2に示す出力回路にECL回路を
使用した電圧制御型圧電発振器(VCXO)1の周波数温度特性を説明する。
【0023】
図8は、SCカット水晶振動子Y1の周波数温度特性を表わすと共に、図2に示す発振
回路11の温度特性が小さいので、電圧制御型圧電発振器(VCXO)1の周波数温度特
性を表わすものとする。図8の横軸はVCXO1の周囲温度Totと、VCXO1の内部
温度(SCカット水晶振動子Y1の呈する温度)Tinと、の二重表記で表わす。つまり
、VCXO1の周波数温度特性の温度は、横軸Totを用い、SCカット水晶振動子Y1
の周波数温度特性の温度は、横軸Tinを用いるものとする。縦軸は周波数偏差Df(=
Δf/f)を表わす。
周囲温度Totが25℃のとき、内部温度(水晶振動子Y1の温度)は、ECL回路の
発熱により15℃高い40℃を呈する。つまり、周囲温度Totが25℃のとき、内部温
度TinとSCカット水晶振動子Y1の変曲点温度Tf2とをほぼ一致するようにSCカ
ット水晶振動子Y1の変曲点温度Tf2を設定する。周囲温度Totを−25℃から+7
5℃まで変化させると、図8の例では、内部温度Tinは−10℃から+90℃まで変化
することになる。
【0024】
周囲温度Totが−25℃のとき、内部温度Tinは−10℃であり、周波数偏差はD
f(−10)となる。周囲温度Totが−25℃から25℃まで変化するとき、SCカッ
ト水晶振動子Y1の頂点温度Tp2で周波数偏差は極大となり、そのときの周波数偏差D
fはDf(Tp2)となる。周囲温度Totが25℃から+75℃まで変化するとき、S
Cカット水晶振動子Y1の谷温度Tv2で極小となり、周波数偏差DfはDf(Tv2)
となる。周囲温度を−25℃から+75℃まで変化させると、VCXO1の周波数偏差D
fは、極小値Df(Tv2)から極大値Df(Tp2)まで変化する。つまり、周囲温度
Totが25℃(内部温度Tinが40℃)のときの周波数偏差Df(Tot=25)=
零に対し、Df(Tp2)≒|Df(Tv2)|となり、周波数偏差Δf/fは周囲温度
Totに対しほぼ点対象な特性となり、良好な温度特性が得られることになる。
【0025】
以上では、周囲温度Totと内部温度(SCカット水晶振動子Y1の呈する温度)Ti
nとの温度差を15℃として説明してきたが、使用するECL出力回路の消費電流により
放熱される熱量は異なり、温度差も異なる。発振回路11に流れる電流が数mAであるの
に対し、ECL出力回路には40mA以上の電流が流れ、熱として放熱される。
絶縁基板5上に圧電振動子Y1と、発振回路11と、周波数電圧制御回路12と、EC
L出力回路13と、を搭載して電圧制御型圧電発振器1を構成する際に、圧電振動子Y1
とECL出力回路13と近接配置する。ECL出力回路13の消費電流の一例は40mA
にもなり、放熱される熱量は大きい。この放熱される熱のため電圧制御型圧電発振器の周
囲温度と、内部の圧電振動子の呈する温度とに温度差ΔTが生じることになる。電圧制御
型圧電発振器1を中心周波数f0に設定する際の温度をTs(通常は25℃)とすると、
圧電振動子Y1の変曲点温度TfをTf=Ts+ΔTに設定することにより、Ts(常温
で一般的には25℃)に対し電圧制御型圧電発振器1の周波数偏差の極大値と、極小値の
絶対値とがほぼ等しくなり、良好な周波数温度特性の電圧制御型圧電発振器1が得られる
という効果がある。
ECL出力回路13の放熱量から計算して、圧電振動子Y1の変曲点温度を30度から
65度の範囲に設定することにより、Tf=Ts+ΔTを満たすことが可能となり、良好
な周波数温度特性の電圧制御型圧電発振器1が得られるという効果がある。
【0026】
図9は、第2の実施例の電圧制御型圧電発振器2の構成を示す平面図である。図1に示
した電圧制御型圧電発振器1と異なる点は、圧電振動子Y1の上面及びECL出力回路1
3の上面を覆うと共に夫々の間も連続して熱伝導性の良い樹脂(シリコン接着剤等)15
を装着した点である。熱伝導性の良い樹脂で連続して覆うことにより、圧電振動子Y1と
ECL出力回路13との温度勾配が短時間で緩やかになる。周囲温度の変化が多く且つ大
きい場所での使用では、図9に示す電圧制御型圧電発振器2の方が、ECL出力回路13
から圧電振動子Y1への熱伝導が素早く、且つ早く温度勾配が安定になるため、電圧制御
型圧電発振器2の周波数温度特性が改善される。
電圧制御型圧電発振器2の圧電振動子Y1の上面及びECL出力回路の上面を3覆うと
共に、夫々の間も連続して覆うように熱伝導性の良い樹脂15を装着することにより、圧
電振動子Y1とECL出力回路13との温度勾配が短時間で緩やかになる。周囲温度が変
化しても、ECL出力回路13から圧電振動子Y1への熱伝導が素早く、且つ両者間の温
度勾配が早く安定になるため、電圧制御型圧電発振器2の周波数温度特性が安定になると
いう効果がある。
【0027】
図10は、第3の実施例の電圧制御型圧電発振器3の構成を示す断面図である。第3の
実施例の電圧制御型圧電発振器3では、発振回路11、周波数電圧制御回路12、ECL
出力回路13を集積化してIC30とし、このIC30をパッケージ20の底面に接着す
ると共に、IC30の接続端子とパッケージのパッド電極とをボンディングワイヤー32
を用いて接続する。更に、パッケージの台座上に導電性接着剤を塗布し、その上に圧電振
動素子(SCカット水晶振動素子)25を載置し、導電性接着剤を硬化させた後、パッケ
ージ20の上面周縁に形成したメタライズ部に蓋体21を抵抗溶接等の手段を用いて溶接
して、電圧制御型圧電発振器3を完成する。
発振回路11、周波数電圧制御回路12及びECL出力回路13を集積化したIC30
と、パッケージに収容してない圧電振動素子25と、を1つのパッケージ20内に収める
ことにより、電圧制御型圧電発振器3を大幅に小型化することができるという効果がある
。ECL出力回路13から放熱され熱によるパッケージ20内の温度上昇は、SCカット
水晶基板25の切断角度を適宜選定することにより、良好な周波数温度特性の電圧制御型
圧電発振器3が得られるという効果がある。
【符号の説明】
【0028】
1、2、3…電圧制御型圧電発振器、5…絶縁基板、Y1…圧電振動子、11…発振回路
、12…周波数電圧制御回路、13…ECL出力回路、15…樹脂、20…パッケージ、
21…蓋体、30…IC、32…ボンディングワイヤー、Q1…トランジスタ、R1、R
2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9…抵抗、C1、C2、C3、C4、C5
、C6、C8、C9、C10、C…11容量、L1…インダクタ、D1、D2…可変容量
素子、V1…ECL回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子と、前記圧電振動子を励振する発振回路と、発振周波数を可変する周波数電
圧制御回路と、前記発振回路の出力に接続するECL出力回路と、を備えた電圧制御型圧
電発振器であって、
前記圧電振動子と前記発振回路と前記周波数電圧制御回路と前記ECL出力回路とを搭
載する絶縁基板と、を有し、
前記圧電振動子は、水晶のX軸(電気軸)の回りにθ回転し、更にZ’軸(光学軸)の
回りにφ回転した二回回転カット水晶基板に励振電極を形成した水晶振動子素子をパッケ
ージに収納したものであり、
前記ECL出力回路は、前記発振回路の出力をデジタル出力に変換して出力するECL
回路を有し、
前記圧電振動子と前記ECL出力回路とが前記絶縁基板上で互いに隣在することを特徴
とする電圧制御型圧電発振器。
【請求項2】
圧電振動子と、前記圧電振動子を励振する発振回路と、発振周波数を可変する周波数電
圧制御回路と、前記発振回路の出力に接続するECL出力回路と、を備えた電圧制御型圧
電発振器であって、
前記圧電振動子と前記発振回路と前記周波数電圧制御回路と前記ECL出力回路とを搭
載する絶縁基板と、熱伝導性の樹脂と、を有し、
前記圧電振動子は、水晶のX軸(電気軸)の回りにθ回転し、更にZ’軸(光学軸)の
回りにφ回転した二回回転カット水晶基板に励振電極を形成した水晶振動子素子をパッケ
ージに収納したものであり、
前記ECL出力回路は、前記発振回路の出力をデジタル出力に変換して出力するECL
回路を有し、
熱伝導性の樹脂によって前記圧電振動子の上面及び前記ECL出力回路の上面が覆われ
、且つ前記圧電振動子と前記ECL出力回路との挟まれた間も前記樹脂が充填されている
ことを特徴とする電圧制御型圧電発振器。
【請求項3】
前記圧電振動子の変曲点温度を30度から65度の範囲に設定することを特徴とする請
求項1又は2に記載の電圧制御型圧電発振器。
【請求項4】
前記水晶振動素子と、前記発振回路と、前記周波数電圧制御回路と、前記出力回路と、
を前記パッケージの中に収納したことを特徴とする請求項1又は3に記載の電圧制御型圧
電発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate