説明

電圧自動調整器の制御装置および制御方法

【課題】配電系統の計測情報を用いて電圧自動調整器(SVR)の整定パラメータを効率よく決定する。
【解決手段】配電系統100に設置されたセンサ170は、線路の電流,電流力率,有効電力P,無効電力Q,ノード電圧Vなどを測定し、通信端局180、通信ネットワーク190を介してLDCパラメータ決定装置10に情報を送る。センサの電圧計測データとSVR出力電圧Vsvr,SVR通過有効電力Psvr,無効電力Qsvrに相当する計測データを基に、まず、分析対象期間内で配電系統の分析対象ノードの電圧上下限値範囲内となるような電圧自動調整器の出力電圧理想値Vsを求め、次に、この理想値Vsと配電系統の電気量の計測値との相関を重回帰分析することによって、電圧自動調整器の整定パラメータを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧自動調整器の整定パラメータを設定する電圧自動調整器の制御装置および制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配電系統の電圧は、配電用変電所の変圧器(LRT:Load Ratio Tap-changer)のタップ切り替えや電圧自動調整器(SVR:Step Voltage Regulator)のタップ切り替えによって制御される。これらの装置には、系統の電圧低下を補償するようにLRT、SVRの二次側電圧(出力電圧)を決定する制御装置であるLDC(Line Drop Compensator)が設置されている。このLDCのパラメータの決定方法として、次のような手法が示されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、SVRの通過電流の最大,最小値と力率から、計算式によってLDCのパラメータを求める手法が開示されている。また、特許文献1には、LDCパラメータの整定範囲を限定し、潮流計算とリアクティブタブサーチ手法(最適化手法)により評価指標を最適にする整定値を求める手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「線路電圧調整器の進歩と適用」現代の配電技術、電気書院pp.128−134(1972)
【非特許文献2】足立堅一著「多変量解析入門―線形代数から多変量解析へ」篠原出版新社(2005/12)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−51466号公報
【特許文献2】特開2008−154418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の非特許文献1に記載の方法では、系統の力率が時間とともに変化する場合が想定されていない。このため、例えば夜間の進相電流が増加して(力率が進みとなって)系統電圧が上昇するようなフェランチ現象発生系統では、LDCが適切に電圧を補償することができず、SVRの電圧調整機能が十分に働かない場合がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法では、パラメータ決定のために膨大な潮流計算とパラメータ探索を行う必要があり、良い解を得るために計算時間と計算機能力が必要となる。
【0008】
このように,フェランチ現象の発生する系統や力率が時間によって変化するような配電系統においては,SVRのパラメータを適切に設定する実用的な方法は確立されておらず,特にSVRパラメータを設定する実務者にとって困難な問題として残されている状況である。一方で,情報通信技術の進展に伴い,配電系統の計測データが逐次収集される方向にあり,計測値データベースを活用してSVRのパラメータ整定の問題を解決し,SVRのより高度な活用によって,配電系統の高効率運用や実務者の業務効率化を可能とすることを目指した。
【0009】
本発明は、電圧自動調整器の整定パラメータを配電系統の計測情報を利用して短時間かつ適切に設定することができる電圧自動調整器の制御装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、電圧自動調整器の整定パラメータを配電系統の計測情報を利用して短時間かつ適切に設定することができる電圧自動調整器の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はその一面において、配電系統の各時間の電気量の計測値を格納する計測データベースと、配電系統の電圧自動調整器の二次側電圧(以下、出力電圧と言う)の理想値を格納する電圧自動調整器の理想電圧データベースと、電圧自動調整器の整定パラメータを格納する電圧自動調整器の整定パラメータデータベースを有し、前記電圧自動調整器の出力電圧の理想値は前記電気量の計測値を基に計算され、前記電圧自動調整器の整定パラメータは前記電圧自動調整器の出力電圧の理想値と前記電気量の計測値から計算することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は他の一面において、前記電圧自動調整器の整定パラメータを、前記電圧自動調整器の出力電圧の理想値と、配電系統の電気量の計測値との相関を、重回帰分析することによって求めることにある。
【0013】
また、本発明は他の一面において、前記電圧自動調整器の整定パラメータを、分析対象期間において配電系統の分析対象ノードの電圧上下限値範囲内となるような電圧自動調整器の出力電圧理想値を決定し、電圧自動調整器の出力電圧理想値と、電圧自動調整器を通過する電流実部と電流虚部の関係を重回帰分析することによって求めることにある。
【0014】
また、本発明は他の一面において、前記電圧自動調整器の整定パラメータを、分析対象期間において配電系統の分析対象ノードの電圧上下限値範囲内となるような電圧自動調整器の出力電圧理想値を決定し、電圧自動調整器の出力電圧理想値と、電圧自動調整器を通過する有効電力と無効電力の関係を重回帰分析することによって求めることにある。
【0015】
また、本発明は他の一面において、前記配電系統の電気量の計測値の代わりに、状態推定または潮流計算結果を用いることにある。
【0016】
また、前記配電系統の電気量の計測値は、電圧自動調整器を通過する電流、電流力率、端子電圧および、配電系統ノードの電圧であることにある。
【0017】
また、本発明は他の一面において、前記配電系統の電気量の計測値は、電圧自動調整器を通過する電流実部、電流虚部、端子電圧および、配電系統ノードの電圧であることにある。
【0018】
また、本発明は他の一面において、前記配電系統の電気量の計測値は、電圧自動調整器を通過する有効電力、無効電力、端子電圧および、配電系統ノードの電圧であることにある。
【0019】
また、本発明は他の一面において、前記電圧自動調整器の整定パラメータは、通信ネットワークを介して電圧自動調整器の制御部に伝送されることにある。
【0020】
また、本発明は他の一面において、前記電圧自動調整器の整定パラメータ決定装置は、電圧自動調整器の制御部の機能として設けられることにある。
【0021】
また、本発明は他の一面において、前記電圧自動調整器の整定パラメータ決定装置は、季節または曜日または時間帯または系統構成の違いなどの条件毎に複数の整定パラメータを有するデータベースを持つことにある。
【0022】
また、本発明は他の一面において、前記電圧自動調整器の制御部は、季節または曜日または時間帯または系統構成の違いなどの条件毎に複数の整定パラメータを有するデータベースを持ち、日時または外部からの指令に応じて整定パラメータを切り替えることにある。
【発明の効果】
【0023】
本発明の望ましい実施態様によれば、配電系統内のセンサの電圧計測データとSVR出力電圧Vsvr、SVR通過有効電力Psvr、無効電力Qsvrに相当する計測データを基にLDCパラメータを決定するアルゴリズムによってLDCのパラメータを決定することで、力率が変化するような系統においても、適切にパラメータを設定することが可能となる。
【0024】
また、本発明の望ましい実施態様によれば、潮流計算やパラメータ探索を行うことが不要であるため、計算量が少なく、また高速に計算することが可能となる。また、重負荷、軽負荷のような2断面でなく、実際の計測データ履歴を基に年間、週間、24時間に渡って多数断面の系統状態を考慮してパラメータを決定するため、より実情に即した電圧制御を可能とするパラメータを決定することが可能となる効果がある。
【0025】
さらに、本発明の望ましい実施態様によれば、配電系統内のセンサの電圧、電流、有効電力、無効電力等の計測データとSVR出力電圧Vsvr、SVR通過有効電力Psvr、無効電力Qsvrに相当する計測データを基にLDCパラメータを決定することで、力率が変化するような系統においても、適切にパラメータを設定することが可能となる。
【0026】
また、潮流計算や状態推定計算によって配電系統の各ノードの電圧を考慮することができ、また、配電系統に設置するセンサや通信ネットワークの設備を低減することが可能となる。
【0027】
また、重回帰分析によってパラメータを決定することで、パラメータ探索を行うことが不要であるため、探索時に必要となる潮流計算などの計算量も少なくなり、計算負荷を低減することができると共に高速にパラメータを求めることが可能となる効果がある。
【0028】
本発明の望ましい実施態様によれば、LDCパラメータ決定装置を、SVRの制御部の機能として持たせることで、電圧が最も厳しい地点があらかじめ絞られている場合など、少ないセンサと通信ネットワークでLDCパラメータを計算することが可能となり、蓄積するデータベース量も低減することが可能となる効果がある。
【0029】
本発明の望ましい実施態様によれば、LDCパラメータ決定装置で計算された代表的なLDCパラメータの複数セットをLDCに持たせ、適宜切り替えて用いることで、負荷状況や、系統状況が大きく変わった場合にも、SVRは適切に動作することが可能となり、電圧維持、系統の電圧余裕拡大、高効率運用が可能となる効果がある。
【0030】
本発明のその他の目的と特徴は、以下に述べる実施形態の中で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例による電圧自動調整器のパラメータ決定装置を備えた配電系統概要図である。
【図2】本発明の一実施例による電圧自動調整器SVRの構成を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施例によるLDCパラメータ決定装置の構成図である。
【図4】本発明の一実施例によるLDCパラメータ決定アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例によるLDCパラメータ決定アルゴリズムを示すフローチャートの処理イメージ図である。
【図6】本発明の他の実施例による電圧自動調整器SVRの整定パラメータ決定手順を説明する例題系統図である。
【図7】図6におけるSVRの通過有効電力,無効電力,力率のデータ例図である。
【図8】図6のSVRの理想的出力電圧Vsと末端電圧Vr’のデータ例図である。
【図9】図8に示すパラメータをSVRのLDCに設定し、式(1)に従ってSVR電圧を決定した結果を示す図である。
【図10】本発明の他の実施例によるLDCパラメータ決定アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図11】本発明の一実施例による季節、曜日、時間帯毎のパラメータセットのデータベースの一例である。
【図12】本発明の一実施例による系統構成毎のパラメータセットのデータベース例図である。
【図13(a)】重回帰分析の観測値Psvrに対するVsの理想値をプロットしたグラフである。
【図13(b)】重回帰分析の観測値Psvrに対するVsの予測値をプロットしたグラフである。
【図13(c)】重回帰分析の観測値Qsvrに対するVsの理想値をプロットしたグラフである。
【図13(d)】重回帰分析の観測値Qsvrに対するVsの予測値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0033】
図1は、本発明の一実施例による電圧自動調整器のパラメータ決定装置を備えた配電系統概要図であり、配電系統100と、LDCパラメータ決定装置10とそれらを結ぶ通信ネットワーク190の構成を示している。配電系統100は、配電変電所110とノード(母線)120およびそれらを接続する配電線路140、ノード120に接続される負荷150や発電機130、配電線路に設置されるセンサ170で構成される。センサ170は、線路の電流,流力率,有効電力P,無効電力Q,ノード電圧Vなどを測定し、通信端局180、通信ネットワーク190を介してLDCパラメータ決定装置10に情報を送る。電圧調整器であるSVR300が、配電系統100の線路に直列に設置されている。SVR300には制御装置310が接続され、LDCもこの制御装置に含まれている。また、制御装置310は、通信端局180と接続され、通信ネットワーク190を介してLDCパラメータ決定装置10から情報を受け取る。
【0034】
センサ171は、SVR300を通過する有効電力Psvr,無効電力Qsvr,電流IsvrおよびSVRの出力の電圧測定値Vsvrを測定する。
【0035】
図2は、本発明の一実施例による電圧自動調整器SVR300の構成を示す。SVR300は、単巻変圧器301,タップチェンジャ302および制御装置310で構成される。制御装置310の計測部320には、線路の電流Isvrを測定するセンサ311および電圧Vsvrを測定するセンサ312が接続される。LDC330では、計測部320で測定された電流,電圧から、有効電力Psvr,無効電力Qsvr,力率cosθを計算する。LDC330には、LDCパラメータ決定装置10で決定されたパラメータR,X,Vref(または、Ap,Aq,Vref)が設定される。RはSVRの通過電流の実部Irに対する係数、XはSVRの通過電流の虚部Ixに対する係数、Vrefは基準電圧である。(ApはSVRの有効電力Psvrに対する係数、AqはSVRの無効電力Qsvrに対する係数である。)
次に、LDC330の計算処理について説明する。まず、式(1)に従って、理想値Vsを計算する。SVRの出力電圧Vsvrがこの理想値Vsより一定値以上小さい状態で一定時間経過すると、SVRのタップ302を上げ方向に変更し、出力電圧を上昇させる。逆に、SVRの出力電圧Vsvrがこの理想値Vsより一定値以上大きい状態で一定時間経過すると、SVR300のタップ302を下げ方向に変更し、出力電圧を下降させる。このように、LDC330は、SVR300の通過電力情報とLDCパラメータを基に、出力電圧の制御を行う
Vs=Vref+R・Ir+X・Ix
=Vref+Ap・Psvr+Aq・Qsvr………………………………(1)
なお、SVRの詳細な構成例は、非特許文献1にも詳しく記載されている。
【0036】
図3は、本発明の一実施例によるLDCパラメータ決定装置10の構成図である。表示装置11,キーボードやマウス等の入力手段12,コンピュータ(CPU)13,通信手段14,RAM15,および各種データベースがバス線30に接続されている。データベースとして、潮流計算データ21,計測データ22,制御装置整定データ23,SVR理想電圧データ24,およびプログラムデータ25がある。コンピュータ(CPU)13は、計算プログラムを実行して表示すべき画像データの指示や、各種データベース内のデータの検索等を行う。RAM15は、表示用の画像データ,潮流計算結果,計測データ一覧,整定パラメータ計算結果,およびSVR理想電圧計算結果等の計算結果データを一旦格納するメモリである。これらのデータに基き、CPU13によって必要な画像データを生成して、表示装置11(例えば表示ディスプレイ画面)に表示する。
【0037】
LDCパラメータ決定装置内のメモリには、大きく分けて5つのデータベースが格納される。潮流計算データ21には、線路140のインピーダンスを示す線路定数Z(=R+jX),負荷・発電量,並びに系統の線路やノードの接続状況を表す系統構成データが記憶されている。計測データ22には、配電系統100内のセンサ170で計測された各時間断面毎の線路の電流,電流力率,有効電力P,無効電力Q,負荷や発電量,およびノード電圧Vなどの情報が格納される。これらのデータは、通信ネットワーク190やLDCパラメータ決定装置10の通信手段14を介して伝送される。計測データ22には、この他に、潮流計算や状態推定計算によって求められた各時間断面毎の線路の電流,電流力率,有効電力P,無効電力Q,負荷や発電量,およびノード電圧Vなどの情報も格納される。制御装置整定データ23には、計算結果であるLDCの整定パラメータ値であるR,X,Vref,Ap,およびAqなどが格納される。RはSVRの通過電流の実部Irに対する係数、XはSVRの通過電流の虚部Ixに対する係数、Vrefは基準電圧、ApはSVRの有効電力Psvrに対する係数、AqはSVRの無効電力Qsvrに対する係数である。SVR理想電圧データ24には、各時刻のSVR出力電圧の理想値の計算結果が格納される。プログラムデータ25は、計算プログラムである潮流計算プログラム,状態推定計算プログラム,および重回帰分析プログラムを格納する。これらのプログラムは、必要に応じてCPU13に読み出され、計算が実行される。
【0038】
図4は、本発明の一実施例によるLDCパラメータ決定アルゴリズムを示すフローチャートである。この図に示すLDCパラメータ決定装置10の計算処理内容について説明する。図には、配電系統内のセンサの電圧計測データとSVR出力電圧Vsvr,SVR通過有効電力Psvr,および無効電力Qsvrに相当する計測データを基に、LDCパラメータを決定する手順の例を示している。以下、処理の流れを説明する。
【0039】
まず、ステップS1で、処理に必要なデータ読み込みを行う。分析対象とする期間を決め(例えば、過去1週間など、ユーザが指定してもよい)、対象期間の各時間毎のSVR出力電圧Vsvr,SVRを通過する電流Isvr,および力率cosθを読み込む。力率cosθに代えて、SVR通過有効電力,無効電力に相当する計測データ(Psvr,Qsvr)を読み込んでも良い。Isvr,cosθ(またはPsvr,Qsvr)、系統の基準電圧(例えば6.6[kV])から、電流の実部Irと虚部Ixを計算しておく。また、系統の定格電圧(例えば6.6[kV])から、線路のSVR通過有効電力,無効電力に相当する値を計算しておく。
【0040】
次に、ステップS2で、各ノードの電圧上下限値までの電圧余裕の最小値が最大となるようなSVR出力電圧理想値Vsを求める。これを、対象期間の各時間毎に実施し、SVRの出力電圧理想値Vsと通過電流Ir,Ix(またはP,Q)のデータセットを作る。ここで、各時刻毎のVsは、例えば式(2)のように計算すればよい。
【0041】
Vs=Vsvr+△Vsvr
=Vsvr+(VU+VL−Vmax−Vmin)/2……………………(2)
ここで、VUはノードの電圧上限値(高圧換算)、VLはノードの電圧下限値(高圧換算)、Vmaxは各ノード毎の電圧最大値、Vminは各ノード毎の電圧最小値を表す。
【0042】
次に、ステップS3で、SVR出力電圧理想値Vsと、SVRを通過する電流実部、虚部(またはP,Q)の関係を重回帰分析によって求める。具体的には、式(3)のようにSVR出力電圧理想値Vsと、SVR通過電流Ir,Ixの関係を定義し、重回帰分析によってパラメータR,X,Vrefを求める。
【0043】
Vs=Vref+R・Ir+X・Ix
=Vref+R・Icosθ+X・Isinθ………………………………(3)
重回帰分析では、VsとIxの相関係数としてRが、VsとIxの相関係数としてXが、オフセットとしてVrefが計算される。重回帰分析の具体的な計算方法は、例えば、非特許文献2などに記載してあるアルゴリズムに従って計算すればよい。
【0044】
図5は、以上のような、図4のLDCパラメータ決定アルゴリズムを示すフローチャートの処理イメージ図である。ステップS1で取り込む計測値のイメージを図5(a)に示す。ここでは、ノードの電圧値は、SVRの出力電圧Vsvrと、末端電圧V1、V2を処理対象とする。また、ある時刻を対象としたSVR出力電圧理想値Vsの計算結果イメージを図5(b)に示す。ここでは、Vsvr、V1、V2の中で、Vsvrが最も高く、V2が最も低い。ここで、SVRの電圧調整を(離散的ではなく)連続的可能であるとすると、Vsvrと電圧上限値の差、電圧下限値とV2の差が等しくなるようにVsvrを△Vsvrほど(SVRの電圧調整機能で)変化させることができ、このときV1、V2も△Vsvrほど同様に変化すると近似的に見なすことができる。このときのSVR出力電圧が理想的電圧Vsに相当する。この計算を対象とする各時刻毎に実施することで、図5(c)に示すように、各時刻毎のVsが得られる。これと、図5(d)に示すような、各時刻毎のIr、Ixを対象にして、重回帰分析でおのおのの相関を求める。重回帰分析の結果のイメージを図5(e)に示す。VsとIrの近似直線の傾きとして(相関係数として)Rが、VsとIxの近似直線の傾きとして(相関係数として)Xが、直線のY軸切片として(オフセットとして)Vrefが得られる。
【0045】
以上のように、図4,図5を用いて説明した処理フローでは、LDCのパラメータとして、R、X、Vrefを求める方法を説明したが、パラメータとしてAp、Aq、Vrefを用いる場合もIr、Ixの代わりにPsvr,Qsvrを用いることで、同様に求められる。例えば、ステップS3で、式(1)の後半に示したように、SVR出力電圧理想値Vsと、SVR通過電流Psvr,Qsvrの関係を定義し、重回帰分析によってパラメータAp,Aq,Vrefを求める。重回帰分析では、VsとPsvrの相関係数としてApが、VsとQsvrの相関係数としてAqが、オフセットとしてVrefが計算される。
【0046】
このようなアルゴリズムによってLDCのパラメータを決定することで、力率が変化するような系統においても、適切にパラメータを設定することが可能となる。また、潮流計算やパラメータ探索を行うことが不要であるため、計算量が少なく、また高速に計算することが可能となる。また、重負荷、軽負荷のような2断面でなく、実際の計測データ履歴を基に年間、週間、24時間に渡って多数断面の系統状態を考慮してパラメータを決定するため、より実情に即した電圧制御を可能とするパラメータを決定することが可能となる。
【0047】
次に、SVR出力電圧理想値Vsと、SVR通過電流Psvr、Qsvrの関係を定義し、重回帰分析によってパラメータAp、Aq、Vrefを求める例題について説明する。
【0048】
図6は、本発明の他の実施例による電圧自動調整器SVRの整定パラメータ決定手順を説明する例題系統図である。ここでは、SVRから、配電線路を経由して、負荷に電力を供給する系統構成である。計測データは、1日分(24時間分)を対象としてLDCパラメータを求める。
【0049】
図7は、図6におけるSVRの通過有効電力,無効電力,力率のデータ例図であり、SVRの通過有効電力Psvr,無効電力Qsvr,および力率cosθを図7(a)(b)に示す。一日の内で、Psvr,Qsvr,およびcosθとも大きく変化している。
【0050】
図8は、図6のSVRの理想的出力電圧Vsと末端電圧Vr’を示す。各時刻でVs,Vr’の大きい方と電圧上限の差と、Vs,Vr’の小さい方と電圧下限の差が等しくなるように、Vsが計算されていることが分かる。
【0051】
このVsと、図7のPsvr,Qsvrの相関係数を、重回帰分析で求めた結果、おのおのの相関係数ApとAqとVrefは次のように得られた。
【0052】
Ap=0.2
Aq=0.1
Vref=6543[V]
また,図13(a)〜図13(d)に,重回帰分析の観測値(Psvr,Qsvrに対するVs:「Vsの理想値」としてプロット)と,重回帰分析結果による予測値(回帰式により予測された値:「Vsの予測値」としてプロット)のグラフを示す。観測値と予測値は一定範囲内の値におさまっており,分析結果が妥当であることが分かる。
【0053】
図9は、図8に示すパラメータをSVRのLDCに設定し、式(1)に従ってSVR電圧を決定した結果を示す図である。ここで、SVRのタップ幅は100Vとしている。SVR出力電圧、系統末端電圧とも電圧上下限範囲内に収まっていることが分かる。
【0054】
図10は、本発明の他の実施例によるLDCパラメータ決定アルゴリズムを示すフローチャートである。配電系統内のセンサの電圧,電流,有効電力,および無効電力等の計測データと、SVR出力電圧Vsvr,SVR通過有効電力Psvr,および無効電力Qsvrに相当する計測データを基に、LDCパラメータを決定する手順の例を示している。以下、処理の流れを説明する。
【0055】
まず、ステップS1で、処理に必要なデータ読み込みを行う。分析対象とする期間を決め(例えば、過去1週間など、ユーザが指定してもよい)、対象期間の各時間毎のSVR出力電圧Vsvr,SVRを通過する電流Isvr,力率cosθ,各計測地点の電圧,有効電力,無効電力,電流,力率等の情報も読み込む。あるいは、SVRを通過する電流Isvr,力率cosθに代えて、SVR通過有効電力,無効電力に相当する計測データ(Psvr、Qsvr)を読み込んでも良い。これらのデータを基に、系統の状態推定を行い、各ノードの電圧を求める。
【0056】
状態推定のアルゴリズムについては、例えば特許文献2に示されるアルゴリズムを用いて計算すればよい。もしくは、SVRの通過P,Qを各ノードに接続される負荷の契約容量の比率で案分し、その負荷データとSVR出力電圧データから、潮流計算によって各ノードの電圧値を求めてもよい。
【0057】
潮流計算のアルゴリズムについても、例えば特許文献2に示されるアルゴリズムを用いて計算すればよい。
【0058】
また、Isvr,cosθまたはPsvr,Qsvr,およびSVR出力電圧の大きさ(例えば6.6[kV])から、電流の実部Irと虚部Ixを計算しておく。
【0059】
このように、各ノードの電圧が求められたので、各ノードの電圧値を電圧計測値と見なす。あとは、図4と同様に、ステップ2、ステップ3の処理を行えばよい。
【0060】
このようなアルゴリズムによってLDCのパラメータを決定することで、力率が変化するような系統においても、適切にパラメータを設定することが可能となる。また、潮流計算や状態推定計算によって配電系統の各ノードの電圧を考慮することができ、また、配電系統に設置するセンサや通信ネットワークの設備を低減することが可能となる。また、重回帰分析によってパラメータを決定することで、パラメータ探索を行うことが不要であるため、探索時に必要となる潮流計算などの計算量も少なくなり、計算負荷を低減することができると共に高速にパラメータを求めることが可能となる。
【0061】
このように、LDCの各パラメータは、LDCパラメータ決定装置10で計算され、SVR300のLDC330に送られ、整定パラメータとして設定される。
【0062】
このLDCパラメータ決定装置10は、SVR300の制御装置310の機能として持たせてもよい。すなわち、LDCパラメータ決定装置10がSVR300に設置されてもよい。
【0063】
このように構成することで、例えば電圧が最も厳しい地点があらかじめ絞られている場合など、少ないセンサと通信ネットワークでLDCパラメータを計算する事が可能となる。また、蓄積するデータベース量も低減することが可能となる。
【0064】
LDCパラメータ決定装置10で計算されたLDCパラメータは、随時LDC330に設定することができるが、あらかじめ代表的なパラメータセットをLDC330に持たせておいてもよい。例えば、平日用のパラメータと、休日用のパラメータセットを2パターンLDC330に持たせておき、曜日によってLDC330内でパラメータを切り替えてもよい。また、季節毎に切り替えたり、昼と夜とで切り替えてもよい。もしくは系統構成毎に切り替えてもよい。
【0065】
以下,季節、曜日、時間帯毎のLDCパラメータを求める手法について説明する。
【0066】
配電系統内には,力率,有効電力,無効電力及び電圧を24時間に渡って連続的に測定する測定計器が設けられ,図7(a),(b)に示すような測定データが年間を通して得られる。このデータから,図8に示すVsのような,SVRの二次側電圧の理想的制御値を求める。これらの計測データおよび計算値を基に重回帰分析によってLDCパラメータを決定することになる。実際には,年間,週間,24時間に渡って多数断面の系統状態を考慮してパラメータを決定することがより実情に即した電圧制御を可能とするために,例えば図11に示すように,季節,曜日,時間帯に分けてそれぞれのLDCパラメータを決定することが望ましい。図11の例は,本発明の一実施例によるLDC330に持たせる季節、曜日、時間帯毎のパラメータセットのデータベース例図であり,1年間を11月〜4月(冬季を含む),5月(ゴールデンウイークを含む),6月〜10月(夏季を含む)の3つに区分すると共に,曜日を平日と休日に,1日を8時〜18時と18時〜8時にそれぞれ区分する場合を示している。
【0067】
次に,この図11の最上段の11月〜4月の平日8時〜18時の場合のLDCパラメータを決定する手順を説明する。分析対象データとして,11月〜4月の平日8時〜18時の,配電系統内の有効電力,無効電力,SVR二次側電圧,系統電圧測定値データを用意する。このデータは,例えば図7(a),(b)のような時系列データから,8時〜18時のデータを抽出して11月〜4月の平日について時系列に並べたデータを,有効電力,無効電力,SVR二次側電圧,系統内の各地点の電圧の測定値について作成し,測定値データとして用いればよい。このデータに対して,図4,5,10で前述のように説明した処理を行うことで,LDCパラメータである,R0.21,X0.14,Vref6500の値を決定することができる。
【0068】
このような手順を順次行うことにより,図11に示す3区分の季節のLDCパラメータを決定することができる。
【0069】
図12は、本発明の一実施例による系統構成毎のパラメータセットのデータベース例図である。これらのパラメータは、LDCパラメータ決定装置10で決定した値を随時設定しても良いし、あらかじめ操作員がLDCパラメータ決定装置10の出力表示を基に設定しておいてもよい。LDC330には、カレンダー,タイマー機能を持たせておき、該当時刻になったときにLDCパラメータを変更すればよい。また、系統構成パターンについては、操作員が系統構成パターンを随時LDC330に設定してもよいし、配電自動化システムのような配電系統の監視制御システムからの遠隔指令によって切り替えても良い。
【0070】
このようにすることで、負荷状況や、系統状況が大きく変わった場合にも、SVRは適切に動作することが可能となり、電圧維持,系統の電圧余裕拡大,および高効率運用が可能となる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0071】
配電系統の計測情報計測データを基に、配電系統に設置されたSVRや配電用変電所LRTのLDCパラメータを決定する支援システムとして活用することができる。また、自動的にLDCのパラメータを設定する、自動整定システムとして活用することができる。また、電圧品質を考慮した自動化システムの機能として活用することができる。また、SVRや配電用変電所のLDCの高機能LDCとして活用することが可能となる。
【符号の説明】
【0072】
10…LDCパラメータ決定装置、11…表示装置、12…キーボードやマウス等の入力手段、13…コンピュータ(CPU)、14…通信手段、15…RAM、21…潮流計算データ、22…計測データ、23…制御装置整定データ、24…SVR理想電圧データ、25…プログラムデータ、100…配電系統、110…配電変電所、120…ノード、130…発電機、140…配電線路、150…負荷、170…センサ、180…通信端局、190…通信ネットワーク、300…電圧自動調整器(SVR)、301…単巻変圧器、302…タップチェンジャ、310…制御装置、311…電流センサ、312…電圧センサ、320…制御装置の計測部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統に設置された電圧自動調整器の制御装置であって、
配電系統の各時間の電気量の計測値を格納する計測データベース、
配電系統の電圧自動調整器の出力電圧の理想値を格納する理想電圧データベース、
電圧自動調整器の整定パラメータを格納する整定データベース、
電気量の計測値に基いて、電圧自動調整器の出力電圧の理想値を計算する出力電圧理想値計算手段、並びに
電圧自動調整器の出力電圧の前記理想値と電気量の計測値に基いて、電圧自動調整器の整定パラメータを計算するパラメータ決定手段を備えたことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記パラメータ決定手段は、電圧自動調整器の出力電圧の前記理想値と配電系統の電気量の計測値との相関を重回帰分析することによって、電圧自動調整器の前記整定パラメータを求める手段を備えたことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記パラメータ決定手段は、
分析対象期間内で配電系統の分析対象ノードの電圧上下限値範囲内となるような電圧自動調整器の出力電圧理想値を決定する理想値決定手段と、
この出力電圧理想値と、電圧自動調整器を通過する電流実部と電流虚部との関係を重回帰分析することによって、電圧自動調整器の前記整定パラメータを求める手段を備えたことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項4】
請求項1または2において、前記パラメータ決定手段は、
分析対象期間内で配電系統の分析対象ノードの電圧上下限値範囲内となるような電圧自動調整器の出力電圧理想値を決定する理想値決定手段と、
この出力電圧理想値と、電圧自動調整器を通過する有効電力と無効電力の関係を重回帰分析することによって、電圧自動調整器の前記整定パラメータを求める手段を備えたことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項5】
請求項3または4において、前記理想値決定手段を、各ノードの電圧上下限値までの電圧余裕の最小値が最大となるように、電圧自動調整器の出力電圧理想値を決定するように構成したことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかにおいて、配電系統の電気量の計測値の代わりに、状態推定または潮流計算結果を用いるように構成したことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかにおいて、配電系統の電気量の計測値は、電圧自動調整器を通過する電流,電流力率,端子電圧,または配電系統ノードの電圧であることを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかにおいて、配電系統の電気量の計測値は、電圧自動調整器を通過する電流実部,電流虚部,端子電圧,または配電系統ノードの電圧であることを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかにおいて、配電系統の電気量の計測値は、電圧自動調整器を通過する有効電力,無効電力,端子電圧,または配電系統ノードの電圧であることを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、電圧自動調整器の前記整定パラメータを、通信ネットワークを介して電圧自動調整器の制御部に伝送するように構成したことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかにおいて、電圧自動調整器の前記パラメータ決定手段を、電圧自動調整器の制御部に設けたことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかにおいて、電圧自動調整器の前記パラメータ決定手段は、季節,曜日,時間帯,または系統構成の違いによって異なる複数の整定パラメータを有するデータベースを備えたことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項13】
請求項12において、日時または外部からの指令に応じて整定パラメータを切り替えるパラメータ切替手段を備えたことを特徴とする電圧自動調整器の制御装置。
【請求項14】
配電系統に設置された電圧自動調整器の制御方法であって、
配電系統の各時間の電気量の計測値を計測データベースに格納するステップ、
配電系統の電圧自動調整器の出力電圧の理想値を理想電圧データベースに格納するステップ、
電圧自動調整器の整定パラメータを整定データベースに格納するステップ、
電気量の計測値に基いて、電圧自動調整器の出力電圧の理想値を計算する出力電圧理想値計算ステップ、並びに
電圧自動調整器の出力電圧の前記理想値と電気量の計測値に基いて、電圧自動調整器の整定パラメータを計算するパラメータ決定ステップを備えたことを特徴とする電圧自動調整器の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図13(c)】
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【図13(d)】
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【公開番号】特開2010−220283(P2010−220283A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60832(P2009−60832)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】