説明

電子キー

【課題】電子キーにおいて、制御実行中において、同実行中の制御内容とは異なる制御内容をよりスムーズに実行させることにある。
【解決手段】ユーザはウィンドウの移動方向を反転させたいときにはシェイク操作を行う。このシェイク操作は、実行中の制御内容に関わらず同一であるところ、ユーザが精神的に緊迫した状態にあっても確実に行うことができる。また、シェイク操作は、電子キー2の振り方向や振りパターンという観点は存在せず、とにかく電子キー2を連続的に往復運動させればよいため、精神的に緊迫した状態においても実施し易い。これにより、よりスムーズにウィンドウの移動方向を反転させて、ウィンドウによる物体の挟み込みを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠隔操作にて車両の制御ができる電子キーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子キーにはその表面に複数の操作スイッチが設けられる。各操作スイッチには、例えば車両ドアの施錠及び解錠、車両ウィンドウの開閉、並びにスライドドアの開閉等の各種制御内容が割り当てられている。そして、電子キーの操作スイッチが操作されることで、電子キーから車両側に各種制御を要求する旨の信号が送信される。車両は当該信号に応じた制御内容の制御を実行する。これにより、電子キーを通じた車両の遠隔制御が可能となる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
近年、車載機能の多様化に伴い電子キーのスイッチ数が増加する傾向にある。これは、高い携帯性が求められる電子キーの小型化を妨げるばかりか、操作スイッチの押し間違え等のユーザの意図しない操作による誤入力を招く原因となっていた。そこで、例えば、特許文献2に記載の電子キーにおいては、許可スイッチを押した状態での振り操作によって、例えばスライドドアの開閉等の遠隔制御が可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−54525号公報
【特許文献2】特開平9−303026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2に記載の電子キーシステムにおいては、振り操作のパターンと制御内容とが関連付けられている。すなわち、例えば、スライドドアを開くときには、ユーザは許可スイッチを操作した状態で第1の振りパターンにて電子キーの振り操作を行う。また、例えば、スライドドアを閉じるときには、ユーザは許可スイッチを操作した状態で第2の振りパターンにて電子キーの振り操作を行う。ここで、ユーザは、制御実行中にその制御をキャンセルしたいときがある。例えば、ユーザは、スライドドアの閉方向への移動中に、そのスライドドアにより物体を挟み込むおそれがあると気が付いた時点で、即座に第2の振りパターンを行う。これにより、スライドドアの閉方向への移動に係る制御は、キャンセルされて開方向の移動に切り替わる。このような場合、ユーザは、精神的に緊迫した状態にあることから、即座にスライドドアの閉操作に関連付けられる第2の振りパターンを行えないおそれがある。
【0006】
また、特許文献1に記載の電子キーシステムにおいても、スライドドアの閉方向への移動中に、電子キーに設けられる複数のスイッチからスライドドアの開動作に対応するスイッチを即座に操作することは困難である。これは、スライドドアに限らず、例えばパワーウィンドウにおいても同様である。
【0007】
上記何れの電子キーシステムにおいても、制御実行中においては、精神的に緊迫した状態にあることから、同実行中の制御内容とは異なる制御内容をスムーズに実行させることは困難であった。
【0008】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制御実行中において、同実行中の制御内容とは異なる制御内容をよりスムーズに実行させることができる電子キーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、ユーザに所持されて、ユーザの操作により制御対象に対して制御を要求する旨の第1の制御要求信号を送信する電子キーにおいて、前記第1の制御要求信号を通じて前記制御対象において制御が実行されている期間において、特定の操作がされた旨判断したとき、前記第1の制御要求信号とは異なる第2の制御要求信号を送信することをその要旨としている。
【0010】
同構成によれば、制御実行中に特定の操作がされた旨判断されたとき、第2の制御要求信号が送信される。この特定の操作は、実行中の制御内容に関わらず同一であるところ、制御実行中におけるユーザが精神的に緊迫した状態にあっても確実に行うことができる。これにより、制御実行中において、同実行中の制御内容とは異なる制御内容をスムーズに実行させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電子キーにおいて、前記制御対象は開閉体の動作を制御するものであって、前記第2の制御要求信号とは、実行中の動作のキャンセル又は反転を要求する旨の信号であることをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、特定の操作を通じて、開閉体において実行中の動作をキャンセル又は反転させることができる。これにより、実行中の制御内容が開閉体の閉動作であった場合、特定の操作を通じて開閉体の閉動作をキャンセル又は反転させること、ひいては開閉体による物体の挟み込みを防止することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電子キーにおいて、前記電子キーの動きを検出するモーションセンサの検出結果を通じて前記特定の操作の有無を判断することをその要旨としている。
【0014】
同構成によれば、電子キーを振ることで特定の操作を行うことができる。ここで、振り操作は、スイッチ操作と比較して、スイッチを視認する必要がないことから容易に行われる。これにより、ユーザが精神的に緊迫した状態にあっても、特定の操作を確実に行うことができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電子キーにおいて、前記特定の操作とは、前記電子キーが連続的に往復するように振られるシェイク操作であることをその要旨としている。
【0016】
同構成によれば、制御実行中において電子キーがシェイク操作されることで、第2の制御要求信号が送信される。ここで、シェイク操作は、電子キーの振り方向や振りパターンという観点は存在せず、とにかく電子キーを連続的に往復運動させればよいため、精神的に緊迫した状態においても実施し易い。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の電子キーにおいて、車両ドアの解錠を要求する旨の解錠要求信号を送信する際に操作されるアンロックスイッチと、車両ドアの施錠を要求する旨の施錠要求信号を送信する際に操作されるロックスイッチと、を備え、前記アンロックスイッチ又は前記ロックスイッチが操作されたとき、解錠要求信号又は施錠要求信号を送信し、その操作が維持された状態で、前記モーションセンサの検出結果を通じて前記電子キーが振り操作された旨認識すると、前記第1の制御要求信号として同振り操作された方向に開閉体を移動させることを要求する旨の信号を送信するとともに、前記開閉体の移動中において、前記各スイッチの操作の有無に関わらず、前記特定の操作がされた旨判断したとき、前記第2の制御要求信号として前記開閉体において実行中の動作をキャンセル又は同開閉体の移動方向の反転を要求する旨の信号を送信することをその要旨としている。
【0018】
同構成によれば、アンロックスイッチ又はロックスイッチが操作された状態で、電子キーが振り操作されると、その振り操作方向に開閉体が移動する。例えば、この振り操作により開閉体が閉方向に移動しているときに、このままでは開閉体に物体が接触することに気が付いた時点で、ユーザは特定の操作(シェイク操作)を行う。これにより、閉方向に移動していた開閉体が開方向に移動を開始する。この特定の操作を行うときには、アンロックスイッチ又はロックスイッチを操作する必要がない。このため、そのスイッチを黙視したうえで操作する手間なく、即座に開閉体の移動方向を反転させることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項3〜5の何れか一項に記載の電子キーにおいて、前記モーションセンサは、前記電子キーの加速度を検出する加速度センサであって、前記加速度センサを通じて検出される前記電子キーの加速度が、一定時間内に、加速度がゼロを中心として一定幅に設定される設定範囲を複数回以上外れたとき、シェイク操作された旨判断することをその要旨としている。
【0020】
同構成によれば、電子キーの加速度が設定範囲を外れた回数に基づき、容易にシェイク操作の有無が判断可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電子キーにおいて、制御実行中において、同実行中の制御内容とは異なる制御内容をよりスムーズに実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態における電子キーシステムの構成図。
【図2】第1の実施形態における電子キーの斜視図。
【図3】第1の実施形態における1軸方向における加速度の推移を示すグラフ。
【図4】第1の実施形態における加速度の推移及び振り操作の有無の判断基準を示すグラフ。
【図5】第1の実施形態における加速度の推移及びシェイク操作の有無の判断基準を示すグラフ。
【図6】第1の実施形態におけるマイコンの処理手順を示すフローチャート。
【図7】第2の実施形態におけるスライドドアを備える車両を示した上面図。
【図8】第2の実施形態における操作されるスイッチ及び振り方向に応じた要求する制御内容を示したマップ。
【図9】第2の実施形態における振り操作時のユーザ推定位置を示した上面図。
【図10】第3の実施形態における振り操作時のユーザ向き推定方向を示した上面図。
【図11】第3の実施形態におけるスライドドアに係る操作を有効とするユーザ向き推定方向を示した上面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、本発明を電子キーシステムに具体化した第1の実施形態について図1〜図6を参照して説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の車両には、電子キーシステム1が搭載されている。電子キーシステム1は、車両ユーザが所持する電子キー2(送信側)と、車両側に設けられる車載装置3(受信側)との間での単方向通信が可能である。
【0025】
図2に示すように、電子キー2は、その表面に車両ドアを施錠する際に操作されるロックスイッチ27と、車両ドアを解錠する際に操作されるアンロックスイッチ26と、を備えている。なお、ロックスイッチ27及びアンロックスイッチ26はプッシュ式スイッチである。
【0026】
ユーザはロックスイッチ27を押下することで車両ドアの施錠を行うことができる。さらに、ユーザは、ロックスイッチ27を押下した状態を保ったまま電子キー2を上方向に振り操作することで、車両のウィンドウを閉方向(上方向)に移動させて全閉状態とすることができる。また、ユーザはアンロックスイッチ26を押下することで、車両ドアの解錠を行うことができる。さらに、ユーザは、アンロックスイッチ26を押下した状態を保ったまま電子キー2を下方向に振り操作することで、車両のウィンドウを開方向(下方向)に移動させて全開状態とすることができる。また、ユーザは、ウィンドウの移動中にシェイク操作を行うことで、そのウィンドウの移動方向を反転させることができる。以下、電子キーシステム1の構成について説明する。ここで、シェイク操作とは、電子キー2が往復運動する態様で連続的に振られる操作である。
【0027】
(電子キー2)
図1に示すように、電子キー2は、ロックスイッチ27及びアンロックスイッチ26に加えて、マイコン23と、送信回路24と、送信アンテナ25と、加速度センサ21とを備えている。なお、電子キー2には図示しない電池が内蔵され、同電池から各部に動作電源が供給される。
【0028】
加速度センサ21は、電子キー2が振られたときに生じる加速度に応じた電圧を検出し、その検出結果をマイコン23に出力する。本実施形態における加速度センサ21は3軸方向(XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸)の加速度を検出可能である。加速度センサ21には機械式、光学式、半導体式等あるが電子キー2に内蔵可能であって振り操作に基づく加速度を検出できるものであれば何れであってもよい。
【0029】
マイコン23は、不揮発性のメモリ23aを備えるとともに、そのメモリ23aには、振り操作及びシェイク操作の有無の判断基準となる各種数値(設定範囲、設定時間)、並びに電子キー2に固有のIDコード(識別コード)が記憶されている。マイコン23は、加速度センサ21の検出結果に基づき振り操作の有無及び振り操作の方向を判断して、その判断結果に基づきユーザが所望する制御内容を判断する。マイコン23による振り操作及び振り方向に基づく制御内容の判断方法については後で詳述する。この振り操作は、上記シェイク操作とは異なる操作であって、電子キー2が上方向又は下方向に1回振られる操作をいう。
【0030】
アンロックスイッチ26が操作されるとその旨を示す操作信号Suがマイコン23に出力され、ロックスイッチ27が操作されるとその旨を示す操作信号Slがマイコン23に出力される。操作信号Su,Slはアンロックスイッチ26又はロックスイッチ27が押下されている限りは出力され続け、押下されなくなると出力は停止する。マイコン23は操作信号Su,Slの入力の有無に基づきアンロックスイッチ26又はロックスイッチ27の操作の有無を検知する。
【0031】
ここで、マイコン23はいずれかの操作信号Su,Slの入力を契機として加速度センサ21へ電力を供給して、これを起動させ、同加速度センサ21の検出結果に基づき振り操作の有無及び振り操作の方向の判断を開始する。マイコン23は操作信号Su,Slが検知できなくなった時点で加速度センサ21への電力の供給を停止する。すなわち、マイコン23は、操作信号Su,Slが検知されない期間においては、加速度センサ21へ電力を供給することなく、振り操作の有無及び振り操作の方向の判断は行わない。
【0032】
マイコン23は、アンロックスイッチ26が操作されたことを、操作信号Suの入力を通じて認識すると、IDコード及びドアの解錠を要求する旨のコードを含む解錠要求信号を生成して、それを送信回路24に出力する。送信回路24は、マイコン23から入力された解錠要求信号を変調して、それを送信アンテナ25を介してUHF(Ultra High Frequency)帯の無線信号として送信する。
【0033】
さらに、マイコン23は、操作信号Suが継続して入力された状態にて、下方向への振り操作があると判断した場合には、IDコード及びウィンドウを開くことを要求する旨のコードを含む開窓要求信号を生成して、それを送信回路24に出力する。送信回路24は、マイコン23から入力された開窓要求信号を変調して、それを送信アンテナ25を介してUHF帯の無線信号として送信する。
【0034】
また、マイコン23は、送信回路24を通じて開窓要求信号を送信すると、パニック検出モードに移行する。このモードにおいては、加速度センサ21の検出結果に基づき、振り操作が特定方向に沿って往復運動する態様で連続的に行われるシェイク操作の有無が判断される。このシェイク操作の有無の判断方法については後述する。マイコン23は、パニック検出モードにおいて、シェイク操作がされた旨判断したとき、ウィンドウを反転させる旨の要求信号を送信する。すなわち、上記振り操作により開窓要求信号が送信された場合には、シェイク操作により閉窓要求信号が送信される。
【0035】
また、マイコン23は、ロックスイッチ27が操作されたことを、操作信号Slの入力を通じて認識すると、IDコード及びドアの施錠を要求する旨のコードを含む施錠要求信号を生成して、それを送信回路24に出力する。送信回路24は、マイコン23から入力された施錠要求信号を変調して、それを送信アンテナ25を介してUHF帯の無線信号として送信する。
【0036】
さらに、マイコン23は、操作信号Slが継続して入力された状態にて、上方向への振り操作があると判断した場合には、IDコード及びウィンドウを閉じることを要求する旨のコードを含む閉窓要求信号を生成して、それを送信回路24に出力する。送信回路24は、マイコン23から入力された閉窓要求信号を変調して、それを送信アンテナ25を介してUHF帯の無線信号として送信する。
【0037】
また、マイコン23は、送信回路24を通じて閉窓要求信号を送信すると、パニック検出モードに移行する。マイコン23は、パニック検出モードにおいては、上記同様にシェイク操作がされた旨判断すると、送信回路24を通じて開窓要求信号を送信する。
【0038】
なお、パニック検出モードにおいては操作信号Sl,Suが入力されても、施錠要求信号又は解錠要求信号が送信されることはない。また、パニック検出モードにおいては、操作信号Sl,Suの有無に関わらず、シェイク操作がされたか否かが判断される。
【0039】
(車載装置)
車載装置3は、受信アンテナ31と、受信回路32と、車載制御部33とを備えている。受信アンテナ31は、電子キー2から送信される各種要求信号(施錠要求信号、解錠要求信号、開窓要求信号、閉窓要求信号)を受信する。受信回路32は、受信アンテナ31を通じて受信された各種要求を復調して、それを車載制御部33に出力する。
【0040】
車載制御部33は、不揮発性のメモリ33aを備えるとともに、そのメモリ33aには、電子キー2のIDコードと同一のIDコードが記憶されている。
車載制御部33は、受信回路32からの各種要求信号に含まれるIDコードと、メモリ33aに記憶されるIDコードとの照合を行う。車載制御部33は、受信回路32からの信号が解錠要求信号である場合において、IDコードの照合が成立したとき、ドア制御装置40を通じて車両ドアを解錠する。
【0041】
また、車載制御部33は、受信回路32からの信号が施錠要求信号である場合において、IDコードの照合が成立したとき、ドア制御装置40を通じて車両ドアを施錠する。
車載制御部33は、受信回路32からの信号が開窓要求信号である場合において、IDコードの照合が成立したとき、パワーウィンドウ装置41を通じてウィンドウを全開状態となるまで開方向へ移動させる。
【0042】
車載制御部33は、受信回路32からの信号が閉窓要求信号である場合において、IDコードの照合が成立したとき、パワーウィンドウ装置41を通じてウィンドウを全閉状態となるまで閉方向へ移動させる。
【0043】
なお、車載制御部33は、ウィンドウの移動中に、新たに閉窓要求信号又は閉窓要求信号を受けた場合、この信号を優先してウィンドウが全閉又は全開状態となる前に、ウィンドウの移動方向を反転させる。
【0044】
次に、具体的にマイコン23による電子キー2の振り操作方向の判断方法について説明する。
電子キー2の各軸方向における振りの方向は、加速度センサ21からの各軸方向の加速度の検出結果である出力信号(電圧値)のプラス、マイナスで判断可能である。これにより、電子キー2の振り方向が上下何れの方向であるかが判断可能となる。
【0045】
図2に例示するように、電子キー2に対して加速度センサ21が加速度を検出するXYZ軸は互いに直交するように設定されている。詳しくは、電子キー2の長辺に沿う方向にX軸、電子キー2の短辺に沿う方向にY軸、電子キー2の両スイッチ26,27が設けられる面に直交する方向にZ軸、がそれぞれ延出している。
【0046】
図3に示すように、加速度センサ21による所定軸方向の加速度の検出結果である出力信号(電圧値)がプラスであるときと、マイナスであるときとでは、電子キー2の動きは同一の軸方向において反対方向となる。例えば、図2に示すように、電子キー2のZ軸方向が重力方向に一致した状態において、電子キー2が重力方向に振られた場合について説明する。図3に示すように、重力方向において、上方向に振られたときと、下方向に振られたときとではプラス、マイナスで異なる信号(電圧値)がでる。具体的には、マイコン23はプラスの電圧のとき上方向に振られたと判断し、マイナスの電圧のとき下方向に振られたと判断する。
【0047】
マイコン23は、図4に示されるように、第1の設定時間T1に亘って第1の設定範囲Aを外れる加速度が検出されたとき、振り操作がされた旨判断する。第1の設定時間T1及び第1の設定範囲Aは、マイコン23のメモリ23aに予め記憶されている。ここで、図4に2点鎖線で例示する歩行に伴う振動等に比べて、振り操作は瞬間的に大きい加速度が検出される。第1の設定範囲Aは、例えばシミュレーションによって、歩行に伴う振動による加速度を含む範囲であって、振り操作に伴い生じる加速度がその第1の設定範囲Aを外れるように設定されている。
【0048】
加速度センサ21により検出される加速度が第1の設定範囲Aを外れない場合若しくは、第1の設定範囲Aを外れても第1の設定時間T1に亘ってその状態が持続しない場合には、マイコン23は振り操作がされた旨判断しない。
【0049】
次に、マイコン23による電子キー2のシェイク操作の有無の判断方法について説明する。
図5に示すように、マイコン23のメモリ23aには、上記第1の設定範囲Aより小さい第2の設定範囲Bが記憶されている。第2の設定範囲Bは、加速度のゼロを中心として設定されている。
【0050】
マイコン23は、パニック検出モードに移行すると、同モード開始時から第2の設定時間T2を経過するまで、検出される加速度が第2の設定範囲Bを外れる回数をカウントすることを通じてシェイク操作の有無を判断する。この第2の設定時間T2は、ウィンドウが全閉状態から全開状態となるまでに要する時間に設定されている。マイコン23は、検出される加速度が第2の設定範囲Bを外れる回数をカウントし、そのカウント数がしきい値に達したとき、シェイク操作がされた旨判断する。本例では、しきい値は、図5の丸数字にて示すように、「6」に設定されている。このシェイク操作の有無の判断は、X軸、Y軸及びZ軸の各軸における加速度について行われる。
【0051】
次に、マイコン23の処理手順について図6のフローチャートに従って説明する。このフローチャートは、ロックスイッチ27又はアンロックスイッチ26の操作を通じて、操作信号Sl,Suが入力されたとき開始される。
【0052】
入力された操作信号Sl,Suに応じて施錠要求信号又は解錠要求信号が送信される(S101)。そして、操作信号Sl,Suが継続して入力されているか否かが判断される(S102)。操作信号Sl,Suが継続して入力されていない旨判断されたとき(S102でNO)、すなわち、ロックスイッチ27又はアンロックスイッチ26の押し操作が解除されたとき、開窓要求信号等を送信することなく、当該フローチャートは終了される。操作信号Sl,Suが継続して入力されている旨判断されたとき(S102でYES)、すなわちロックスイッチ27又はアンロックスイッチ26が押し操作されている状態が保たれているとき、振り操作の有無が判断される(S103)。
【0053】
振り操作がない旨判断されると(S103でNO)、開窓要求信号等が送信されることなく、当該フローチャートは終了される。振り操作がある旨判断されると(S103でYES)、振り操作方向が判断される(S104)。この振り操作方向に応じて開窓要求信号又は閉窓要求信号が送信された(S105)後、パニック検出モードに移行される。
【0054】
このパニック検出モードにおいては、このモード開始からの時間が第2の設定時間T2を経過するか否かが判断される(S106)。第2の設定時間T2が経過しない旨判断されると(S106でNO)、シェイク操作の有無が判断される(S107)。
【0055】
シェイク操作がない旨判断されたとき(S107でNO)、再びパニック検出モード開始からの時間が第2の設定時間T2を経過するか否かが判断される(S106)。すなわち、第2の設定時間T2に亘ってシェイク操作の有無が判断される。シェイク操作がある旨判断されたとき(S107でYES)、上記ステップS105において送信した信号と異なる開窓要求信号又は閉窓要求信号が送信される(S108)。具体的には、上記ステップS105において開窓要求信号が送信された場合にはステップS108において閉窓要求信号が送信され、上記ステップS105において閉窓要求信号が送信された場合にはステップS108において開窓要求信号が送信される(S108)。そして、当該フローチャートは終了される。なお、ステップS105において送信される信号は、第1の制御要求信号に相当し、ステップS108において送信される信号は、第2の制御要求信号及び実行中の動作の反転を要求する旨の信号に相当する。
【0056】
また、パニック検出モード開始からの時間が第2の設定時間T2を経過した旨判断されたときには(S106でYES)、開窓要求信号等が送信されることなく、当該フローチャートが終了される。
【0057】
次に、ユーザによる電子キー2の一連の操作について説明する。
まず、乗車時においては、ユーザは電子キー2のアンロックスイッチ26を押下する。さらに、ウィンドウを開けたい場合には、アンロックスイッチ26を押下した状態を保ったまま、電子キー2を下方向に振り操作をする。このとき、電子キー2からは解錠要求信号及び開窓要求信号が順に送信される。この結果、車載制御部33は車両ドアを解錠した後にウィンドウを下方向に開かせる。
【0058】
そして、降車時においては、ユーザは電子キー2のロックスイッチ27を押下する。さらに、ウィンドウを閉めたい場合には、ロックスイッチ27を押下した状態を保ったまま、電子キー2を上方向に振り操作をする。これにより、電子キー2からは施錠要求信号及び閉窓要求信号が順に送信される。この結果、車載制御部33は車両ドアを施錠した後にウィンドウを閉方向に移動させる。このウィンドウの閉動作にあたって、例えば、このままではウィンドウ及び窓枠間に物体が挟み込まれることに、ユーザが気が付いた場合、ユーザは電子キー2をシェイク操作する。これにより、電子キー2から開窓要求信号が送信され、これに基づき閉方向に移動していたウィンドウが開方向に移動される。
【0059】
ここで、シェイク操作は、ユーザが精神的に緊迫した状態においても即座に実施することができる。これは、シェイク操作は、その振り操作方向が決まっておらず、とにかく連続して振り操作を行えばよいからである。また、シェイク操作は、上記振り操作と異なってロックスイッチ27又はアンロックスイッチ26の押し操作が必要とならないからである。すなわち、シェイク操作時にはロックスイッチ27等を黙視したうえで押し操作する手間がなくなる。従って、よりスムーズにウィンドウによる物体の挟み込みを抑制することができる。
【0060】
また、通常の例えば直線状の振り操作等に比べて、ユーザの意図なくシェイク操作がされた旨判断される可能性は低い。これは、様々な外的要因により電子キー2に加わる加速度が第2の設定範囲Bを外れることは想定されるものの、そのような加速度が複数回に亘って連続して検出されることは考えづらいからである。
【0061】
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)ユーザはウィンドウの移動方向を反転させたいときにはシェイク操作を行う。このシェイク操作は、実行中の制御内容に関わらず同一であるところ、ユーザが精神的に緊迫した状態にあっても確実に行うことができる。また、シェイク操作は、電子キー2の振り方向や振りパターンという観点は存在せず、とにかく電子キー2を連続的に往復運動させればよいため、精神的に緊迫した状態においても実施し易い。これにより、よりスムーズにウィンドウの移動方向を反転させて、ウィンドウによる物体の挟み込みを抑制することができる。
【0062】
(2)シェイク操作を行うときには、アンロックスイッチ26又はロックスイッチ27を操作する必要がない。このため、そのスイッチを黙視したうえで操作する手間がなく、即座にスライドドア等の移動方向を反転させることができる。
【0063】
(3)ロックスイッチ27又はアンロックスイッチ26に操作があったときにのみ、振り操作の有無の判断がされる。従って、ユーザに操作の意思がない動作が振り操作であると判断されることによる誤入力が防止できる。
【0064】
(4)ユーザは降車したときにはロックスイッチ27を操作して、車両ドアを施錠する。ユーザは施錠後にロックスイッチ27の操作状態を保ちながら振り操作をすることで、マイコン23はウィンドウを全閉状態とする。このように、ユーザは車両ドアの施錠から連続的な動作により、車両の状態をユーザが同車両から降車して離れることに適した初期状態とすることができる。また、ロックスイッチ27には施錠すなわち、“閉める”というイメージがあることからユーザは感覚的にロックスイッチ27を操作した状態における振り操作がウィンドウであれば閉じるであることがわかる。
【0065】
(5)ユーザは乗車するときにはアンロックスイッチ26を操作して、車両ドアを解錠する。ユーザは解錠後にアンロックスイッチ26の操作状態を保ちながら振り操作をすることで、マイコン23はウィンドウを開くことができる。また、アンロックスイッチ26には解錠すなわち、“開ける”というイメージがあることからユーザは感覚的にアンロックスイッチ26を操作した状態における振り操作がウィンドウであれば開けるであることがわかる。
【0066】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について、図7〜図9を参照して説明する。この実施形態においては、電子キーの振り操作によりスライドドアを開閉制御する点が上記第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、この実施形態の電子キーシステムは、図1に示す第1の実施形態の電子キーシステムとほぼ同様の構成を備えている。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0067】
図1の2点鎖線で示すように、車両にはスライドドア装置42が設けられている。具体的には、図7に示すように、車両の両側部には、前側にヒンジドア7が設けられ、その後側にスライドドア6が設けられる。ヒンジドア7は自身の前側に設けられる車両高さ方向(図7の紙面方向)へ延びるヒンジ7aを中心に開閉可能である。スライドドア6は車両に対して前後方向にスライドすることで開閉が可能である。
【0068】
スライドドア6は、その内外から操作可能な位置にドアハンドル8が設けられ、同ドアハンドル8を把持しつつ押し引きすることで手動にてスライドドア6を開閉することが可能である。また、スライドドア6は電子キー2の振り操作を通じて自動での開閉が可能である。以下、説明において特に必要な場合には、車両の進行方向(前進方向)に対する右側のスライドドア6を右側スライドドア6Rとし、左側のスライドドア6を左側スライドドア6Lとして記載する。
【0069】
次に、電子キー2の操作方法について簡単に説明する。
第1の実施形態と同様に、ユーザは、電子キー2のアンロックスイッチ26又はロックスイッチ27を押下することで、スライドドア6及びヒンジドア7の施解錠を行うことができる。さらに、アンロックスイッチ26又はロックスイッチ27を押下した状態を保ったまま、スライドドア6を移動させたい方向に振り操作をすることで、同方向に自動でスライドドア6を開閉させることができる。
【0070】
以下、マイコン23の動作を中心に説明する。なお、本実施形態においては、図6のフローチャートにおけるステップS105,S108において送信される信号の種類が異なる他は第1の実施形態と同様に処理が行われる。
【0071】
具体的には、マイコン23は、操作信号Su,Slを受けて、送信回路24を通じて解錠要求信号又は施錠要求信号を送信する。
そして、マイコン23は、自身のメモリに記憶される図8のマップに従い、操作信号Sl,Suを検知した状態での振り操作方向に基づき要求する制御内容を決定する。
【0072】
具体的には、マイコン23は操作信号Suを検知した状態にて、ユーザからみて右方向への振り操作があると判断した場合には、IDコード及び左側スライドドア6Lを開くことを要求する旨のコードを含む開左ドア要求信号を生成して、それを送信回路24に出力する。なお、図7に示すように、アンロックスイッチ26が操作されてユーザからみて右方向に振られたときには、車外においてユーザからみて右方向に開くのは左側スライドドア6Lに限定されるため、ユーザは左側スライドドア6Lに対向して振り操作をしていると想定される。
【0073】
また、マイコン23は操作信号Suを検知した状態にて、ユーザからみて左方向への振り操作があると判断した場合には、IDコード及び右側スライドドア6Rを開くことを要求する旨のコードを含む開右ドア要求信号を生成して、それを送信回路24に出力する。なお、図7に示すように、アンロックスイッチ26が操作されてユーザからみて左方向に振られたときには、車外においてユーザからみて左方向に開くのは右側スライドドア6Rに限定されるため、ユーザは右側スライドドア6Rに対向して振り操作をしていると想定される。
【0074】
さらに、マイコン23は操作信号Suを検知した状態にて、右方向への振り操作があると判断した場合には、IDコード及び右側スライドドア6Rを閉じることを要求する旨のコードを含む閉右ドア要求信号を生成して、それを送信回路24に出力する。なお、図7に示すように、ロックスイッチ27が操作された状態でユーザからみて右方向に振られたときには、車外においてユーザからみて右方向に閉じるのは右側スライドドア6Rに限定されるため、ユーザは右側スライドドア6Rに対向して振り操作をしていると想定される。
【0075】
また、マイコン23は操作信号Suを検知した状態にて、左方向への振り操作があると判断した場合には、IDコード及び左側スライドドア6Lを閉じることを要求する旨のコードを含む閉左ドア要求信号を生成して、それを送信回路24に出力する。なお、図7に示すように、ロックスイッチ27が操作された状態でユーザからみて左方向に振られたときには、車外においてユーザからみて左方向に閉じるのは左側スライドドア6Lに限定されるため、ユーザは左側スライドドア6Lに対向して振り操作をしていると想定される。
【0076】
ここで、電子キー2の振り方向は加速度センサ21の検出結果に基づき判断可能であるものの、同振り方向のみではユーザの立ち位置が不明であるところ、ユーザからみて電子キー2が左右何れの方向に振られたかを判断することはできない。そこで、マイコン23は、電子キー2が振り操作された旨判断したときには、その振り方向に基づき振りの軌跡を算出し、同軌跡に基づき電子キー2を振り操作するユーザが立っていると推定される位置である図9に示すユーザ推定位置60を算出する。
【0077】
具体的には、図9に示すように、電子キー2がXY面に沿って振られた場合には、マイコン23は加速度センサ21により検出されるXY軸方向における加速度を合成することで振り方向を判断する。ここで、電子キー2が非直線状に振られているときには、振り方向は時々刻々と変化する。マイコン23は、この振り方向の変化に基づき電子キー2の振りの軌跡を算出する。ここで、ユーザが電子キー2を把持した状態において、左右方向に振った場合には、肩、肘若しくは手首等の関節を支点として振るところ、振りの軌跡は円弧状となる。マイコン23は、電子キー2の振りの軌跡である円弧の曲率に基づき同円弧の中心点をユーザ推定位置60として算出する。このユーザ推定位置60を算出することで、電子キー2の振り操作がユーザ(ユーザ推定位置60)に対して左右何れの方向にされたかの判断が可能となる。
【0078】
送信回路24は、マイコン23から入力された開右ドア要求信号、開左ドア要求信号、閉右ドア要求信号及び閉左ドア要求信号(これらを総称して以下各種スライドドア要求信号と呼ぶ)を変調して、それを送信アンテナ25を通じてUHF帯の無線信号として送信する。
【0079】
マイコン23は、送信回路24を介して各種スライドドア要求信号を送信すると、パニック検出モードに移行する。マイコン23は、パニック検出モードにおいて、シェイク操作がされた旨判断したとき、現在移動しているスライドドアを反転させる旨の各種スライドドア要求信号を送信する。例えば、閉右ドア要求信号が送信された後にパニック検出モードに移行された場合には、同モードにおいてシェイク操作がされたとき開右ドア要求信号が送信される。
【0080】
受信回路32は、受信アンテナ31を通じて受信された各種スライドドア要求信号を復調して、それを車載制御部33に出力する。
車載制御部33は、受信回路32からの開右ドア要求信号に含まれるIDコードと、メモリ33aに記憶されるIDコードとの照合が成立したとき、スライドドア装置42を通じて右側スライドドア6Rを開方向へ移動させる。以下、同様にして、車載制御部33は開左ドア要求信号についてIDコードの照合が成立したとき、左側スライドドア6Lを開方向へ移動させる。また、車載制御部33は閉右ドア要求信号についてIDコードの照合が成立したとき、右側スライドドア6Rを閉方向へ移動させ、閉左ドア要求信号についてIDコードの照合が成立したとき左側スライドドア6Lを閉方向へ移動させる。車載制御部33は、スライドドア6R,6Lの移動中に新たな各種スライドドア要求信号を受けない限り、スライドドアの開閉が完了するまで各スライドドア6R,6Lを移動させる。
【0081】
車載制御部33は、スライドドア6の移動中に、新たな各種スライドドア要求信号を受けたときには、この新たな各種スライドドア要求信号を優先してスライドドアの開閉を行う。例えば、車載制御部33は、右側スライドドア6Rの閉方向への移動中に上記シェイク操作に基づく開右ドア要求信号を受信したとき、右側スライドドア6Rを開方向に反転させる。このため、第1の実施形態と同様に、シェイク操作に基づきスライドドア6に物体が挟み込まれることが抑制される。
【0082】
また、スライドドア6が開動作しているときには、上記挟み込みのおそれはないものの、
開方向に移動するスライドドア6が物体に接触するおそれがある。このため、スライドドア6がこのままでは物体に接触することにユーザが気が付いた時点でシェイク操作を行うことで、スライドドア6を反転させて上記接触を回避することができる。
【0083】
以上、説明した実施形態によれば、特に以下の作用効果を奏することができる。
(6)スライドドア6が閉方向に移動している際に、このままでは、そのスライドドア6及びスライドドア枠間に物体が挟み込まれることに、ユーザが気が付いた時点でシェイク操作することで、スライドドア6を閉方向に移動させることができる。このように、精神的に緊迫した状態であってもシェイク操作を通じてスライドドア6の移動方向の反転を可能とすることで、スライドドア6による物体の挟み込みを抑制することができる。
【0084】
(7)ユーザはスライドドア6を移動させたい方向に、電子キー2を振ればその方向へのスライドドア6の開閉が可能である。従って、振り方向の間違えが生じにくく、振り操作方向の間違えに基づく誤入力を防止できる。
【0085】
(8)ユーザ推定位置60を算出することで、電子キー2の振り操作がユーザ(ユーザ推定位置60)に対してスライドドア6の開方向又は閉方向の何れの方向にされたかが判断可能となる。
【0086】
(第3の実施形態)
以下、本発明を電子キーシステムに具体化した第3の実施形態について、図10及び図11を参照して説明する。この実施形態の電子キーシステムは、振り方向を間違えた場合に、希望する操作対象でない方のスライドドア6が開閉することを防止する手段を備えている点が上記第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、この実施形態の電子キーシステム1は、図1に示す第2の実施形態の電子キーシステム1とほぼ同様の構成を備えている。
【0087】
図1に2点鎖線で示すように、電子キー2には地磁気を利用して自身の向く方位を検出するキー側方位センサ28が設けられ、車載装置3には、同じく地磁気を利用して自車の向く方位を検出する車両側方位センサ35が設けられている。
【0088】
マイコン23は、第2の実施形態で説明した電子キー2の振りの軌跡に基づきユーザ推定位置60の算出を行うとともに、振りの軌跡及びユーザ推定位置60に基づき、ユーザが向いていると推定される方向であるユーザ向き推定方向62を算出する。一般的に、ユーザは自身の正面にて電子キー2の振り操作を行う。例えば、図10に示すように、ユーザが電子キー2をユーザからみて左方向へ振り操作を行う場合には、ユーザは例えば右手で把持する電子キー2を正面右側から、ユーザの正面を通過して、さらに正面左側となるまで振る。そこで、マイコン23は振りの軌跡(ユーザ推定位置60を中心とする円弧)を2等分する中間点61をユーザの正面であるとして、ユーザ推定位置60から中間点61に向かう方向をユーザ向き推定方向62として算出する。
【0089】
キー側方位センサ28は自身の向く方位に応じた電圧(信号)をマイコン23に出力する。マイコン23はキー側方位センサ28からの電圧(信号)に基づき、電子キー2のユーザ向き推定方向62がどの方位を向いているか、すなわち、ユーザ向き推定方位を算出する。そして、マイコン23は、ユーザ向き推定方位の情報をアンロックスイッチ26若しくはロックスイッチ27の操作がされた状態での振り操作を通じて送信される開ドア要求信号若しくは閉ドア要求信号に含ませて送信する。
【0090】
車載制御部33は車両側方位センサ35からの電圧(信号)に基づき、車両の進行方向の方位を算出する。車載制御部33は算出した車両の方位及びユーザ向き推定方位の情報に基づき、車両に対するユーザの向き方向を判断できる。図11に示すように、車両に対するユーザの向き方向は、同車両の外周を囲むようにして同車両の中心に向かって、全方位を向きうる。車載制御部33はユーザの向き方向が車両に対してどの方向を向いているかで、操作を可能とするスライドドア6を制限する。
【0091】
すなわち、図11において、車両の右側には右側スライドドア6R側に向く図11の斜線の矢印51で示される方向のユーザの向き方向で構成される第1許容範囲55が形成され、車両の左側には左側スライドドア6L側に向く図11の白抜きの矢印52で示される方向のユーザの向き方向で構成される第2許容範囲56が形成される。詳しくは、第1許容範囲55及び第2許容範囲56は車両を中心に右側及び左側に扇状に形成され、車両の前後方向には第1許容範囲55及び第2許容範囲56の何れにも属さない領域が存在する。ユーザの向き方向が第1許容範囲55及び第2許容範囲56の何れに属するかで、ユーザの操作対象となるスライドドア6が判断できる。例えば、第1許容範囲55に属するユーザの向き方向であった場合には、操作対象は右側スライドドア6Rに限定される。すなわち、第1許容範囲55に属する方向のユーザの向き方向であった場合には、左側スライドドア6Lの操作時にされる振り操作、例えば、アンロックスイッチ26が押圧されつつ、右側に振り操作がされた場合であっても、車載制御部33はその操作を無効として、左側スライドドア6Lを開く制御を実行しない。
【0092】
同様にして、第2許容範囲56に属するユーザの向き方向であった場合には、操作対象は左側スライドドア6Lに限定される。すなわち、第2許容範囲56に属する方向のユーザの向き方向であった場合には、右側スライドドア6Rの操作時にされる振り操作、例えば、アンロックスイッチ26が押圧されつつ、左側に振り操作がされた場合であっても、車載制御部33はその操作を無効として、右側スライドドア6Rを開く制御を実行しない。
【0093】
また、第1許容範囲55及び第2許容範囲56の間に形成される第1許容範囲55及び第2許容範囲56の何れにも属さないユーザの向き方向であった場合には、車載制御部33はスライドドア6の開閉を行う意思はないものとして、振り操作を無効とする。
【0094】
なお、実際には、電子キー2の振り操作の軌跡はユーザ推定位置60が中心ではなく、ユーザの肩、肘等を中心に円弧を描くため、実際のユーザの向く方向と、ユーザ向き推定方向62、ひいてはユーザ向き方向とには若干のずれが生じるおそれがあるものの、そのずれは操作対象となるスライドドア6の判断に影響の与えるほど大きなものではない。
【0095】
以上のように、ユーザが操作対象のスライドドア6を向いていないとされる場合における、電子キー2によるスライドドア6の操作は無効とされる。従って、振り方向を間違えることによるスライドドア6の誤開閉が防止される。また、スライドドア6の操作時には、操作対象のスライドドア6を向くことをユーザに要求するためユーザの意図しない方のスライドドア6が開閉することが抑制され、セキュリティ性が向上する。
【0096】
以上、説明した実施形態によれば、特に以下の作用効果を奏することができる。
(9)ユーザ推定位置60からの振り操作の軌跡の中間点61への方向をユーザが向いていると推定される方向であるユーザ向き推定方向62とする。ユーザ向き推定方向62が操作対象に係るスライドドア6を向いている状態においては、電子キー2の振り操作に基づく同スライドドア6の開閉を有効とし、ユーザ向き推定方向62が操作対象に係るスライドドア6を向いていない状態においては、電子キー2の振り操作に基づく同スライドドア6の開閉を無効とする。これにより、ユーザの意図しないスライドドア6の開閉が抑制される。
【0097】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記各実施形態においては、一回のパニック検出モードにつき、最大で1つの開窓要求信号又は閉窓要求信号が送信されていた。しかし、一回のパニック検出モードにおいて、複数の要求信号が送信可能であってもよい。この場合、シェイク操作があった旨判断されたとき(S107でYES)、再び、パニック検出モード開始からの時間が第2の設定時間T2を経過するか否かが判断される(S106)。すなわち、第2の設定時間T2を経過したときに限って、フローチャートが終了される。これにより、パニック検出モードにおいては、例えば6回の振り操作(シェイク操作)がされる毎に、第1の実施形態においては開窓要求信号及び閉窓要求信号が交互に送信される。第2及び第3の実施形態においても、スライドドア6を反転させる信号が交互に送信される。
【0098】
・第1の実施形態においては電子キー2の振り操作によりウィンドウを開閉可能であって、第2の実施形態においては電子キー2の振り操作によりスライドドアを開閉可能であった。しかし、上記両実施形態を組み合わせて、電子キー2の振り操作によりスライドドア及びウィンドウの開閉を可能としてもよい。本構成においても、ウィンドウに係る電子キー2の振り操作方向は上下方向であって、スライドドアに係る電子キー2の振り操作方向は水平方向であるため振り操作方向が重複することはない。
【0099】
・上記各実施形態においては、検出される加速度が第2の設定範囲Bを外れる回数に基づきシェイク操作の有無が判断されていた。しかし、シェイク操作の有無の判断手法はこれに限定されず、例えば、検出される加速度の周波数が一定値以上となったとき、シェイク操作がされた旨判断されてもよい。さらに、第2の設定範囲B及び周波数の両方でシェイク操作の有無が判断されてもよい。これにより、判断の精度が向上する。
【0100】
・第1の実施形態においては、ステップS105において閉窓要求信号が送信されたときには、パニック検出モードにおけるステップS108において開窓要求信号が送信されていた。しかし、ステップS108において反転要求信号が送信されてもよい。車載制御部33は、受信回路32を通じて反転要求信号を受信したとき、現在移動中のウィンドウの移動方向を反転させる。すなわち、車載制御部33は、ウィンドウが停止状態にあるとき、反転要求信号を受信しても、その信号を無視する。第2の実施形態においても同様に、反転要求信号を送信させて、スライドドアの移動方向を反転させてもよい。本構成によれば、ステップS108において常に同一の反転要求信号を送信すればよい。
【0101】
・上記各実施形態においては、シェイク操作の有無の判断は、X軸、Y軸及びZ軸の各軸における加速度について行われていた。しかし、3軸に限らず、X軸、Y軸及びZ軸の少なくとも何れか1軸における加速度について行ってもよい。
【0102】
・上記各実施形態においては、マイコン23は、パニック検出モードにおいてシェイク操作がされた旨判断すると、スライドドア又はウィンドウの開閉を要求する旨の信号を送信していた。しかし、マイコン23は、パニック検出モードにおいてシェイク操作がされた旨判断すると、送信回路24を通じて現在実行中の制御の停止を要求する旨のキャンセル信号を送信してもよい。この場合、車載制御部33は、キャンセル信号を受信するとスライドドア等の移動を停止させる。これによって、上記実施形態と同様にスライドドア等による物体の挟み込みを抑制できる。
【0103】
・上記各実施形態におけるシェイク操作は、特定の操作であればシェイク操作に限らない。例えば、電子キー2を叩く操作により各種スライドドア要求信号等が送信されてもよい。具体的には、マイコン23は、歩行等により電子キー2に生じる加速度より大きいしきい値を設定する。電子キー2の加速度(正確にはその絶対値)は、叩かれたときの衝撃を通じてしきい値以上となる。マイコン23は、パニック検出モードにおいて加速度がしきい値以上となって、叩き操作がされた旨判断したときには、シェイク操作されたとき(ステップS107でYES)と同様に、図6のフローチャートに示した処理を行う。
【0104】
さらに、特定の操作は、上記のように電子キーの動きによる操作でなくてもよく、例えば、アンロックスイッチ26及びロックスイッチ27が同時に操作されることであってもよい。具体的には、マイコン23は、操作信号Sl,Suに基づきアンロックスイッチ26及びロックスイッチ27が同時に操作された旨認識した場合、シェイク操作されたとき(ステップS107でYES)と同様に、図6のフローチャートに示した処理を行う。本構成によれば、加速度センサ21を省略して構成することができる。
【0105】
・上記各実施形態においては、アンロックスイッチ26等の操作がない状態であっても、パニック検出モードにおいてはシェイク操作の有無が判断されていた。しかし、振り操作と同様に、パニック検出モードにおいてアンロックスイッチ26又はロックスイッチ27の操作がされたときにのみ、シェイク操作の有無が判断されてもよい。この場合、ユーザの意図なくシェイク操作がされた旨の誤判断がされることがいっそう抑制される。
【0106】
・上記各実施形態においては、電子キー2にはロックスイッチ27及びアンロックスイッチ26が設けられていたが、スイッチの数及び種類はこれに限定されない。例えば、第2の実施形態において、スライドドアの開閉を行う際に操作される新たなスイッチを設けてもよい。この新たなスイッチの操作を通じて、各種スライドドア要求信号が送信されたときパニック検出モードに移行される。例えば、上記各種スライドドア要求信号が閉右ドア要求信号であった場合において、シェイク操作がされた旨判断されると、開右ドア要求信号が送信される。
【0107】
・さらにアンロックスイッチ26又はロックスイッチ27が省略してもよい。この場合、例えば第1のパターンの振り操作が行われることで、電子キー2から解錠要求信号又は施錠要求信号が送信される。また、第2のパターンの振り操作が行われることで、電子キー2から各種スライドドア要求信号が送信される。第1及び第2のパターンとは、例えば丸や三角等の軌跡を描くパターンである。各種スライドドア要求信号が送信された後、パニック検出モードに移行される。以下、上記各実施形態と同様に処理が行われる。本構成においては、例えば、電子キー2にタッチセンサを設けて、同タッチセンサの検出結果を通じてユーザが電子キー2を把持している旨判断されるときに限って、振り操作(シェイク操作を含む)の有無を判断してもよい。これにより、振り操作がされた旨の誤判断を抑制することができる。
【0108】
・上記各実施形態においては、ロックスイッチ27又はアンロックスイッチ26を押し操作しつつ振り操作することで、開閉体に相当するウィンドウ又はスライドドアを開閉することができる。しかし、振り操作により可能となる開閉体はこれらに限らず、ドアミラーやルーフウィンドウであってもよい。ドアミラーの場合、例えば、シェイク操作により展開中のドアミラーが格納方向に移動する。これにより、ドアミラーが物体に接触することが抑制される。
【0109】
・上記各実施形態においては、振り操作によりウィンドウ等の開閉が可能であったが、傾け操作であってもよい。ここで、電子キー2の傾け操作とはユーザが把持した電子キー2を、手首等を動かして傾ける操作をいう。この傾け操作を検出する検出手段としては角速度を検出する角速度センサが好適である。本構成において、シェイク操作は、上記傾け操作を連続的に行う操作である。
【0110】
・上記各実施形態においては、パニック検出モードにおいては、シェイク操作によりウィンドウ等は開閉方向の何れにも移動可能であった。しかし、パニック検出モードにおいて、シェイク操作に伴うウィンドウ等の移動方向を閉方向から開方向のみに制限してもよい。これは、ウィンドウ等に物体が挟み込まれるおそれがある場合とは、ウィンドウ等が開方向から閉方向に移動しているときであって、それはウィンドウ等を閉方向から開方向に移動させることで防止できるからである。本構成においては、ステップS108において開窓要求信号のみが送信される。
【0111】
・上記各実施形態においては、マイコン23はパニック検出モードにおいて、加速度センサ21の検出結果に基づき、シェイク操作があるか否かを判断していた。しかし、マイコン23は、シェイク操作があるか否かを判断することなく、送信回路24及び送信アンテナ25を介して車両側に加速度センサ21の検出結果を加速度情報信号として送信してもよい。この場合、車載制御部33は受信アンテナ31及び受信回路32を介して受信した前記加速度情報信号に基づきシェイク操作の有無を判断し、この判断結果に基づきウィンドウ等の開閉に係る処理を実行する。同様に、ロックスイッチ27又はアンロックスイッチ26が操作された状態での振り操作及びその方向の判断(S103,S104)を車載制御部33において行ってもよい。
【0112】
・上記各実施形態においては、ロックスイッチ27等が操作された状態での振り操作方向と、ウィンドウ等の移動方向は一致していたが、これは異なっていてもよい。
・上記各実施形態においては、制御対象は車両であったが、車両に限らず、住宅であってもよい。
【0113】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
(イ)電子キーは、ユーザに所持されるとともに、ユーザの操作により制御を要求する旨の制御要求信号を送信し、制御対象は、受信した制御要求信号に応じて制御を実行する、電子キーシステムにおいて、前記電子キーに設けられる、同電子キーの動きを検出するモーションセンサと、前記電子キーに設けられる、前記モーションセンサの検出結果を通じて特定のモーション操作がされた旨判断したとき、前記実行中の制御のキャンセルを要求する旨のキャンセル信号を送信する制御装置と、を備え、前記制御対象は、前記制御要求信号に応じた制御を実行している期間において、前記キャンセル信号を受信すると、その制御をキャンセルする電子キーシステム。
【0114】
同構成によれば、制御要求信号を通じて制御を実行している期間において、キャンセル信号が受信されると、その実行中の制御がキャンセルされる。これにより、例えば、制御対象がスライドドアの場合には、移動中のスライドドアが停止される。
【符号の説明】
【0115】
1…電子キーシステム、2…電子キー、3…車載装置、21…加速度センサ(モーションセンサ)、23…マイコン、26…アンロックスイッチ、27…ロックスイッチ、33…車載制御部、41…パワーウィンドウ装置(開閉体)、42…スライドドア装置(開閉体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに所持されて、ユーザの操作により制御対象に対して制御を要求する旨の第1の制御要求信号を送信する電子キーにおいて、
前記第1の制御要求信号を通じて前記制御対象において制御が実行されている期間において、特定の操作がされた旨判断したとき、前記第1の制御要求信号とは異なる第2の制御要求信号を送信する電子キー。
【請求項2】
請求項1に記載の電子キーにおいて、
前記制御対象は開閉体の動作を制御するものであって、
前記第2の制御要求信号とは、実行中の動作のキャンセル又は反転を要求する旨の信号である電子キー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子キーにおいて、
前記電子キーの動きを検出するモーションセンサの検出結果を通じて前記特定の操作の有無を判断する電子キー。
【請求項4】
請求項3に記載の電子キーにおいて、
前記特定の操作とは、前記電子キーが連続的に往復するように振られるシェイク操作である電子キー。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の電子キーにおいて、
車両ドアの解錠を要求する旨の解錠要求信号を送信する際に操作されるアンロックスイッチと、
車両ドアの施錠を要求する旨の施錠要求信号を送信する際に操作されるロックスイッチと、を備え、
前記アンロックスイッチ又は前記ロックスイッチが操作されたとき、解錠要求信号又は施錠要求信号を送信し、その操作が維持された状態で、前記モーションセンサの検出結果を通じて前記電子キーが振り操作された旨認識すると、前記第1の制御要求信号として同振り操作された方向に開閉体を移動させることを要求する旨の信号を送信するとともに、前記開閉体の移動中において、前記各スイッチの操作の有無に関わらず、前記特定の操作がされた旨判断したとき、前記第2の制御要求信号として前記開閉体において実行中の動作をキャンセル又は同開閉体の移動方向の反転を要求する旨の信号を送信する電子キー。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか一項に記載の電子キーにおいて、
前記モーションセンサは、前記電子キーの加速度を検出する加速度センサであって、
前記加速度センサを通じて検出される前記電子キーの加速度が、一定時間内に、加速度がゼロを中心として一定幅に設定される設定範囲を複数回以上外れたとき、シェイク操作された旨判断する電子キー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−149473(P2012−149473A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10700(P2011−10700)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】