説明

電子デバイスおよびその製造方法

【課題】 導電性高分子を用いた透明導電膜の導電性および光透過率が良好であり、しかも低コスト化が可能な電子デバイスを提供する。
【解決手段】 ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜2を備え、透明導電膜2が、第1の領域21と、第1の領域21に隣接し第1の領域21より電気抵抗値が高い第2の領域22とを有する透明導電回路基板11を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)、タッチパネル等の電子デバイス、これに用いられる透明導電回路基板、および電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性高分子を含む透明導電膜からなる配線部を備えた透明導電回路基板を用いた電子デバイスが広く用いられている(例えば特許文献1を参照)。
前記配線部は、通常、導電性高分子を水に分散させたペーストを、スクリーン印刷やインクジェット印刷によって、所定の形状(例えば線状)となるよう基板上に印刷することにより形成される。
【特許文献1】特開2002−222056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、導電性高分子を用いて配線部を形成する際には、配線部の形状が不完全になることがあった。これは、前記ペーストの性状(粘度等)に起因して、ペーストに気泡が混入したり、ペーストが基板上で滲んだり、基板がペーストをはじくことによって、配線部の形状が乱れるためである。
配線部の形状が不完全になった場合には、配線部の電気抵抗値が不安定になることがあった。
塗布したペースト上に重ねてペーストを塗布することによって配線部の形状を整えることは可能であるが、この場合には、配線部が厚くなり、透明性が低下してしまう。また、工程が多くなるため、コスト面で不利になるという問題があった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、導電性高分子を用いた透明導電膜の導電性および光透過率が良好であり、しかも低コスト化が可能な電子デバイス、これに用いられる透明導電回路基板、および電子デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の請求項1に係る電子デバイスは、基材上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜を備え、この透明導電膜が、第1の領域と、この第1の領域に隣接し第1の領域より電気抵抗値が高い第2の領域とを有することを特徴とする。
本発明の請求項2に係る電子デバイスは、請求項1において、前記第1の領域が、回路を構成する配線部であることを特徴とする。
本発明の請求項3に係る電子デバイスは、請求項1または2において、前記第2の領域の電気抵抗値が、第1の領域の電気抵抗値の10倍以上であることを特徴とする。
【0005】
本発明の請求項4に係る透明導電回路基板は、基材上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜を備え、この透明導電膜が、第1の領域と、この第1の領域に隣接し第1の領域より電気抵抗値が高い第2の領域とを有し、前記第1の領域が、回路を構成する配線部であることを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項5に係る電子デバイスの製造方法は、基材上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜を備え、この透明導電膜が、第1の領域と、この第1の領域に隣接し第1の領域より電気抵抗値が高い第2の領域とを有する電子デバイスを製造する方法であって、基材上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜を形成する成膜工程と、前記透明導電膜の一部に紫外線を照射することによって、照射部分を前記第2の領域とし、非照射部分を前記第1の領域とする紫外線照射工程とを有することを特徴とする。
本発明の請求項6に係る電子デバイスの製造方法は、請求項5において、前記紫外線照射工程に先だって、前記透明導電膜を乾燥し硬化させる硬化工程を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、透明導電膜が、第1の領域(低抵抗領域)と第2の領域(高抵抗領域)とを備えているので、印刷により配線部を形成した従来品に比べ、滲みなどによる配線部の形成不良が起きることがなく、正確な形状の第1の領域を形成することができる。従って、配線部となる第1の領域の導電性を良好にすることができる。
【0008】
本発明では、第1の領域と第2の領域がいずれも透明導電膜内に形成されるので、構造が簡略である。このため、製造が容易であり、低コスト化が可能である。
さらには、第1の領域の形状を正確にすることができるため、第1の領域の導電性を低下させずに透明導電膜を薄く形成できる。
従って、透明導電膜の光透過性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の透明導電回路基板の一例を示す一部断面図である。
透明導電回路基板11は、基材1上に、導電性高分子を含む透明導電膜2を備えている。
基材1は、透明な材料、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、板状またはフィルム状に形成されている。
【0010】
透明導電膜2は、紫外線の照射によって電気抵抗値が上昇する性質を有するポリチオフェン系導電性高分子を含む材料からなる。
透明導電膜2は、第1の領域21と、第1の領域21に隣接して形成された第2の領域22とを有する。
第1の領域21は、電気抵抗値が比較的低い低抵抗領域である。第1の領域21の電気抵抗値(表面抵抗)は、例えば10Ω/□以下とすることができる。
第1の領域21は、透明導電回路を構成する配線部20となっている。
第1の領域21の形状は、特に限定されないが、一定幅の線状とすることができる。
【0011】
第2の領域22は、第1の領域21より電気抵抗値が高い高抵抗領域である。
第2の領域22の電気抵抗値(表面抵抗)は、第1の領域21の電気抵抗値の10倍以上(好ましくは10倍以上)とするのが好ましい。具体的には、10Ω/□以上とすることができる。
第2の領域22の電気抵抗値を、第1の領域21の電気抵抗値の10倍以上とすることによって、隣り合う配線部20間の絶縁性を高め、しかも配線部20の導電性を良好にすることができる。
【0012】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、例えば、式(1)に示すポリチオフェン系高分子からなる主鎖を有する未ドープの高分子に、ヨウ素等のハロゲン、あるいは他の酸化剤をドープして、これにより前記高分子を部分酸化して、カチオン構造を形成させたものを用いることができる。
【0013】
【化1】

【0014】
式(1)において、基R、Rは、それぞれ互いに独立に選択することができ、選択肢としては、水素原子;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子;シアノ基;メチル、エチル、プロピル、ブチル(n−ブチル)、ペンチル(n−ペンチル)、ヘキシル、オクチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどの直鎖アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ネオペンチルなどの分枝のあるアルキル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどの直鎖もしくは分枝のあるアルコキシ基;ビニル、プロペニル、アリル、ブテニル、オレイルなどのアルケニル基、エチニル、プロピニル、ブチニルなどのアルキニル基;メトキシメチル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、3−エトキシプロピルなどのアルコキシアルキル基;CO(CHCHO)CHCH基(mは1以上の整数)、CHO(CHCHO)CHCH基(mは1以上の整数)などのポリエーテル基;フルオロメチル基等、前記置換基のフッ素等のハロゲン置換誘導体等が例示される。
導電性高分子は、主鎖にπ−共役結合を含むものが好ましい。
【0015】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)が好ましい。特に、PEDOTをポリスチレンスルホン酸(PSS)でドーピングしたPEDOT−PSSが好ましい。
PEDOT−PSSからなる導電膜は、例えば次のようにして作製できる。
3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーにFe(III)トリス−p−トルエンスルフォネート溶液、イミダゾールの1−ブタノール溶液を加え、これを基材上に塗布し、加熱し乾燥した後、メタノール中でリンスしFe(II)ビス−p−トルエンスルフォネートを除去する。
【0016】
ポリチオフェン系導電性高分子として使用可能な市販品としては、スタルクヴィテック株式会社製BaytronP、長瀬産業株式会社製Denatron#5002LA、アグファゲバルト社製OrgaconS300を挙げることができる。
【0017】
次に、透明導電回路基板11を製造する方法を説明する。
図2(a)に示すように、基材1上に、その全面にわたってポリチオフェン系導電性高分子を含む原料液を塗布することなどによって、ほぼ一定厚さの透明導電膜23を形成し、導電基板10を得る(成膜工程)。
原料液の塗布は、ディップコート、スピンコート、バーコート等によって行うことができる。なお、透明導電膜23は塗布以外の方法によって形成してもよい。
【0018】
図2(b)に示すように、透明導電膜23に紫外線4を照射する。
この際、透明導電膜23に、非透過部31と透過部32とを有するマスク3を施し、マスク3を介して紫外線4を照射する(紫外線照射工程)。
紫外線4の波長は、例えば230〜280nmである。
紫外線4の強度は100mW以上が好ましく、照射時間は1分以上が好ましい。
【0019】
図2(c)に示すように、透過部32を通して紫外線4が照射された部分(照射部)は、導電性が低下し、高抵抗領域である第2の領域22となる。
非透過部31によって紫外線4が遮られた部分(非照射部)は、導電性の低下が起こらず、低抵抗領域である第1の領域21となる。
【0020】
図3は、照射部と非照射部の表面抵抗値の経時変化の一例を示すものである。この図に示すように、非照射部では抵抗値の変化が小さいのに対し、照射部では、紫外線4の照射によって徐々に抵抗値が上昇する。
紫外線4の照射方向が透明導電膜23に対しほぼ垂直である場合には、領域21、22は、断面略矩形となる。
以上の操作によって、図1に示す透明導電回路基板11が得られる。
【0021】
透明導電回路基板11は、透明導電膜2が、配線部20となる第1の領域21(低抵抗領域)と第2の領域22(高抵抗領域)とを備えている。
このため、印刷により配線部を形成した従来品に比べ、滲みなどによる配線部の形成不良が起きることがなく、正確な形状の第1の領域21を形成することができる。
従って、配線部20の導電性を良好にすることができる。また、幅が狭い配線部20を容易に形成することができる。
【0022】
透明導電回路基板11は、第1の領域21と第2の領域22がいずれも透明導電膜2内に形成されるので、構造が簡略である。このため、製造が容易であり、低コスト化が可能である。
さらには、第1の領域21の形状を正確にすることができるため、第1の領域21の導電性を低下させずに透明導電膜2を薄く形成できる。
従って、透明導電膜2の光透過性を高めることができる。
【0023】
また、透明導電回路基板11では、第1の領域21と第2の領域22がいずれも透明導電膜2内に形成されるので、その表面が平坦になる。このため、印刷により配線部を形成した従来品に比べ、配線部20を多層化するのが容易である。
【0024】
上記製造方法では、紫外線4を透明導電膜23の一部に照射し、照射部分を第2の領域22とし、非照射部分を第1の領域21とするので、容易な操作で第1の領域21および第2の領域22を形成することができる。
また、上記成膜工程および紫外線照射工程には、ドライプロセスを採用できるため、歩留まりを高めることができる。また、廃液の排出量を抑えることができ、環境保全の観点からも好適である。
【0025】
紫外線4が照射された部分において、透明導電膜23の導電性が低下する理由は明らかではないが、次の推測が可能である。
すなわち、ポリチオフェン系導電性高分子では、分子内の結合エネルギーが紫外線のエネルギー領域にあるため、紫外線の照射によってその結合がラジカル解裂し、その結果、導電性が低下すると考えることができる。
【0026】
本発明では、紫外線照射工程に先だって、透明導電膜23を乾燥し硬化させる硬化工程を行うのが好ましい。
この工程における温度条件は、例えば50〜130℃とすることができる。処理時間は1〜10分が好適である。
透明導電膜23を硬化させることによって、紫外線照射工程においてマスク3を透明導電膜2に当接させることができる。
従って、非透過部31および透過部32に正確に沿う領域21、22を形成することができる。
【0027】
透明導電回路基板11が適用される電子デバイスとしては、透明導電回路基板11上に、発光素子(図示略)が設けられた有機EL装置などの表示装置を挙げることができる。
透明導電回路基板11は、透明導電膜2の厚さを均一にすることができるため、透明導電膜2の光透過性を均一にすることができる。
このため、透明導電回路基板11を有機EL装置などの表示装置に用いる場合には、表示特性を高めることができる。
また、電子デバイスの他の例としては、透明導電回路基板11上に、空間を隔てて導電層(図示略)が設けられ、上方からの押圧によって導電層を配線部20に接触させることができるようにされたタッチパネルを挙げることができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
長さ15cm、幅15cm、厚さ188μmのPETフィルム(東レ社製:ルミラーS10)からなる基材1上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電インク(長瀬産業株式会社製:Denatron#5002LA)からなる透明導電膜23を、ディップコートにより形成し、導電基板10を得た。透明導電膜23を80℃で2分間乾燥させ、硬化させた。
透明導電膜23に、幅10mmの非透過部31を有するクロムマスク3を介して紫外線4を照射し、幅10mmの第1の領域21(配線部20)と第2の領域22とを有する透明導電回路基板11を得た。紫外線4の照射強度は500mW/cm、照射時間は15分間とした。
この透明導電回路基板11について、外観、表面抵抗、光透過率を評価した。評価結果を表1に示す。
【0029】
(比較例1)
ポリチオフェン系導電性高分子を含むペーストを用い、スクリーン印刷によって基材上に配線部を形成して透明導電回路基板を得た。その他の条件は実施例1に準じた。
この透明導電回路基板について、外観、表面抵抗、光透過率を評価した。評価結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、透明導電膜2に第1の領域21と第2の領域22とを形成し、第1の領域21を配線部20とする実施例1では、印刷法により配線部を形成する比較例に比べ、配線部20の形状不良が発生せず、良好な導電性が得られたことがわかる。
また、実施例1では、光透過率の点でも比較例1より優れた結果が得られた。
【0032】
(実施例2)
実施例1と同様にして、導電基板10を作製した。
幅5mmの非透過部31と幅5mmの透過部32を有するクロムマスク3を介して紫外線4を照射し、幅5mmの第1の領域21(配線部20)と幅5mmの第2の領域22とを有する透明導電回路基板11を得た。紫外線4の照射強度は500mW/cm、照射時間は15分間とした。その他の条件は実施例1に準じた。
非照射部分である第1の領域21と、照射部分である第2の領域22について、外観、表面抵抗、隣り合う配線部20間の絶縁性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0033】
(比較例2〜4)
紫外線の照射時間を3分間、5分間、または10分間とすること以外は実施例2と同様にして透明導電回路基板11を作製した。評価結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2より、照射部の抵抗値は照射時間が長いほど高くなり、15分間の照射によって、配線部間の絶縁性が充分な透明導電回路基板が得られたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の電子デバイスは、透明導電膜が良好な導電性を有するため、有機EL装置、タッチパネル、集積回路などの電子デバイスに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の電子デバイスに使用できる透明導電回路基板を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す透明導電回路基板の製造方法を説明する工程図である。
【図3】紫外線照射による透明導電膜の抵抗値変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1・・・基材、2・・・透明導電膜、3・・・マスク、4・・・紫外線、10・・・導電基板、11・・・透明導電回路基板、20・・・配線部、21・・・第1の領域、22・・・第2の領域、31・・・非透過部、32・・・透過部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜を備え、
この透明導電膜は、第1の領域と、この第1の領域に隣接し第1の領域より電気抵抗値が高い第2の領域とを有することを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
前記第1の領域は、回路を構成する配線部であることを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記第2の領域の電気抵抗値が、第1の領域の電気抵抗値の10倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
基材上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜を備え、
この透明導電膜は、第1の領域と、この第1の領域に隣接し第1の領域より電気抵抗値が高い第2の領域とを有し、前記第1の領域が、回路を構成する配線部であることを特徴とする透明導電回路基板。
【請求項5】
基材上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜を備え、この透明導電膜が、第1の領域と、この第1の領域に隣接し第1の領域より電気抵抗値が高い第2の領域とを有する電子デバイスを製造する方法であって、
基材上に、ポリチオフェン系導電性高分子を含む透明導電膜を形成する成膜工程と、
前記透明導電膜の一部に紫外線を照射することによって、照射部分を前記第2の領域とし、非照射部分を前記第1の領域とする紫外線照射工程とを有することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記紫外線照射工程に先だって、前記透明導電膜を乾燥し硬化させる硬化工程を有することを特徴とする請求項5に記載の電子デバイスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−185675(P2006−185675A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376277(P2004−376277)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】