説明

電子デバイスの製造方法および圧電デバイスの製造方法

【課題】加熱剥離における問題を解決できる圧電デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】圧電単結晶基板1に対して所定条件で水素イオンを注入して、圧電単結晶基板1の一主面から所定深さの位置にイオン注入層100を形成する(S101)。イオン注入層100が形成された圧電単結晶基板1を支持基板30Bに接合し(S102→S103)、加熱することで、イオン注入層100を剥離面として圧電薄膜10を剥離形成する。この加熱剥離を行う際、減圧雰囲気下で、且つ当該減圧雰囲気の気圧に応じた加熱温度を用いる(S104)。このような減圧雰囲気を用いることで、大気圧での加熱よりも低い温度で圧電薄膜10が剥離形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、結晶性材料を用いた電子デバイスの製造方法、特に薄膜の圧電単結晶デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体や圧電体等の所定電気的特性を有する結晶性材料を用いた電子デバイスが各種製造および使用されている。その中で、圧電デバイスとしてSAWやF−BAR等がある。そして、圧電デバイスとしては、さらに高周波のラム波デバイスに対応する等の理由により、圧電体を薄膜化してなる薄膜型圧電デバイスが多く開発されている。そして、このような薄膜型圧電デバイスを形成するための圧電薄膜の製造方法は、例えば、非特許文献1や特許文献1に示すように各種考案されている。
【0003】
非特許文献1には、圧電単結晶を形成する材料、例えばAlNやZnOをスパッタ法やCVD法を用いて堆積させる堆積法や、所定厚みを有する圧電単結晶基板を支持基板に貼り付けた後研磨することにより薄膜化する研磨法が示されている。
【0004】
また、特許文献1は、いわゆるスマートカット法と呼ばれる方法である。スマートカット法では、圧電材料として、例えば、LiNO3,LiTaO3の基板(以下、特にこれらの材質からなる圧電基板をLN基板およびLT基板と称する。)を用い、(1)圧電基板に所定条件でイオン注入を行うことで、圧電基板の表面からの圧電薄膜を形成したい深さの位置にイオン注入層を形成する。(2)イオン注入層が形成された圧電基板を加熱する。このような加熱処理を行うことで、当該イオン注入層が剥離面となって、圧電薄膜が圧電基板から剥離される。
【非特許文献1】Y.Osugi etal.:"Single crystal FBAR with LiNO3 and LiTaO3",2007 IEEE MTT-S International Microwave Symposium, pp.873-876
【特許文献1】特表2002−534886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の堆積方法を用いる場合には、所望の配向膜を得るための成膜温度や成膜条件等からAlN等に材料が限られてしまう。また、結晶軸の配向方向を制御することができないため、振動モードを考慮して結晶を形成することが難しい。
【0006】
また、上述の研磨法を用いる場合には、圧電薄膜となる部分以外は、研磨屑となってしまうので、圧電材料の利用効率が非常に悪い。さらに、研磨条件や元の圧電基板の形状バラツキ等により、圧電薄膜全体を均一な厚みに形成することが難しく、生産性が悪くなってしまう。
【0007】
さらに、上述のスマートカット法を用いる場合、上述のイオン注入層を利用した剥離工程で加熱処理を行うが、450℃程度の高温で加熱を行わなければならないので、以下に示す各種の問題が発生する。
【0008】
(A)圧電基板のキュリー温度が加熱温度よりも低いので、高温加熱によってキュリー温度以上に加熱されてしまい、圧電性が劣化して、剥離後の圧電薄膜の圧電特性が悪くなる。
【0009】
(B)圧電基板にLN基板やLT基板を用いる場合には、高温加熱により圧電基板中の酸素が外部へ拡散するので、圧電基板の表面付近が剥離してなる圧電薄膜は、絶縁性が劣化して、圧電特性が悪くなる。
【0010】
(C)圧電薄膜側の表面に電極が形成されているような場合には、高温加熱により電極を形成する金属元素が圧電薄膜中に拡散して、圧電薄膜の結晶構造が崩れ、圧電薄膜内での伝送損失が大きくなる。
【0011】
(D)圧電薄膜を支持基板で支持する構造を用いる場合には、これらの線膨張係数を、できる限り近くしなければ、高温加熱時に線膨張係数の違いから圧電薄膜と支持基板との接合部で割れが生じてしまう。このため、支持基板の材料に制約を受けてしまう。
【0012】
(E)加熱処理の場合、急激に目的温度まで昇温させ、急激に降温させることができないので、加熱温度が高くなるほど処理タクトが遅くなる。
【0013】
したがって、本発明の目的は、上述の加熱による各種の問題を解決できる圧電デバイス等の結晶性材料を用いた電子デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、結晶性基板にイオンを注入することでイオン注入層を形成する工程と、
イオン注入層が形成された前記結晶性基板を加熱することにより結晶性基板から結晶性薄膜を剥離形成する工程を有する、電子デバイスの製造方法に関するものである。そして、この電子デバイスの製造方法では、結晶性薄膜を剥離形成する工程は、イオン注入層が形成された結晶性基板を、減圧雰囲気下で、且つ該減圧雰囲気の圧力に応じた加熱温度で加熱する。
【0015】
この製造方法では、減圧雰囲気下で加熱することにより、従来の大気圧(1.01325×105Pa)雰囲気下で加熱する場合よりも低温で剥離が行われる。これは、減圧雰囲気下では、大気圧よりも注入イオンが低温でガス化され易く、イオン注入層の圧力と圧電基板の圧力との差が低温で大きくなり易いことにより、クラックの進展、剥離が助長されるからである。これにより、従来よりも低温での剥離が可能になり、結晶性基板の有する電気的特性が高温加熱によって劣化されることが保護される。
【0016】
また、この発明は、圧電基板にイオンを注入することでイオン注入層を形成する工程と、イオン注入層が形成された圧電基板を加熱することにより圧電基板から圧電薄膜を剥離形成する工程を有する、圧電デバイスの製造方法に関するものである。そして、この圧電デバイスの製造方法では、圧電薄膜を剥離形成する工程は、イオン注入層が形成された圧電基板を、減圧雰囲気下で且つ該減圧雰囲気の圧力に応じた加熱温度で加熱する。
【0017】
この製造方法では、減圧雰囲気下で加熱することにより、従来の大気圧(1.01325×105Pa)雰囲気下で加熱する場合よりも低温で剥離が行われる。これは、上述の結晶性基板の場合と同様に、減圧雰囲気下では、大気圧よりも注入イオンが低温でガス化され易く、イオン注入層の圧力と圧電基板の圧力との差が低温で大きくなり易いことにより、クラックの進展、剥離が助長されるからである。
【0018】
さらに、圧電基板では、ガス化時に発生する応力によって、圧電単結晶の焦電性により、イオン注入層近傍で電荷分布により放電が発生する。この放電の発生は、大気圧雰囲気下よりも減圧雰囲気下の方が起こりやすく、当該放電によりイオン注入層近傍での結晶構造の破断が助長され、剥離させやすくなる。これらの理由により、従来よりも低温での剥離が可能になり、圧電基板の有する各種の特性が高温加熱によって劣化されることが保護される。
【0019】
また、この発明の製造方法では、イオン注入層が形成された圧電基板に対して、イオン注入層により圧電薄膜が形成される側に支持体を形成する工程を備える。そして、圧電薄膜を剥離形成する工程は、支持体が形成された圧電基板を、減圧雰囲気下で、且つ該減圧雰囲気の圧力に応じた加熱温度で加熱する。
【0020】
この製造方法では、圧電薄膜を支持する支持体が、圧電薄膜に接合された複合基板状態であっても、上述の場合と同様に、低温での加熱剥離が可能になる。したがって、複合基板化された圧電薄膜の有する各種の特性が高温加熱によって劣化されることが保護される。
【0021】
また、この発明の製造方法では、圧電基板と支持体との線膨張係数が異なる。
【0022】
この製造方法では、圧電基板(圧電薄膜)と支持体との線膨張係数が異なっていても、加熱温度が低いことで、当該線膨張係数による割れを防ぐことができる。
【0023】
また、この発明の製造方法では、圧電基板と支持体とは、圧電基板表面に接着層を形成し、該接着層と前記支持体との互いの接合面を清浄化接合によって直接接合してなる。
【0024】
この製造方法では、清浄化接合により接合時の加熱が必要ないので線膨張係数を用いた場合の割れをさらに確実に防ぐことができる。
【0025】
また、この発明の製造方法では、支持体が、圧電基板に対して熱伝導率が良い材料によって形成される。
【0026】
この製造方法では、圧電基板が熱伝導性の良いものとなることで、上述のような電気的特性の劣化が抑えられるとともに、さらに耐電力性に優れる圧電デバイスを形成することができる。
【0027】
また、この発明の製造方法では、圧電基板を前記支持体に接合する工程の前に、圧電基板の圧電薄膜側表面および支持体の圧電基板を接合する表面の少なくとも一方に電極形成を行う工程を有する。
【0028】
この製造方法では、圧電薄膜の表面に電極が接するような構造であっても、加熱温度が低いことにより、電極を形成する金属の圧電薄膜内への拡散が抑制される。これにより、圧電薄膜内での伝送損失の増加を抑制することができる。
【0029】
また、この発明の製造方法では、減圧雰囲気の圧力を、該圧力によって設定される加熱温度で圧電基板の圧電性劣化が殆ど生じないような圧力に設定している。
【0030】
この製造方法では、減圧雰囲気を形成する圧力および加熱温度の具体的な設定として、圧電基板の圧電性劣化が生じない温度で加熱剥離が可能な圧力に設定する。例えば、LT基板であれば、0.1〜5000Paとすることで、加熱温度が350℃以下となり、圧電基板の圧電性劣化が抑制される。
【0031】
また、この発明の製造方法は、減圧雰囲気の圧力を、該圧力によって設定される加熱温度で圧電基板の酸素抜けが殆ど生じないような圧力に設定している。
【0032】
この製造方法では、減圧雰囲気を形成する圧力および加熱温度の具体的な別の設定として、圧電基板の酸素抜けが生じない温度で加熱剥離が可能な圧力に設定する。例えば、LT基板であれば、1×10-6Pa〜0.1Paとすることで、加熱温度が250℃以下になり、圧電基板の酸素抜けが抑制される。
【0033】
また、この発明の製造方法では、加熱温度を、該加熱温度によって電極を形成する金属が圧電基板に殆ど拡散しないような温度に設定している。
【0034】
この製造方法では、加熱温度の具体的なまた別の設定として、圧電基板に対する電極からの金属拡散が生じない温度に設定する。例えば、LT基板であって電極がAlであれば、加熱温度を250℃以下にすることで、電極を形成する金属の圧電基板への拡散が抑制される。
【0035】
また、この発明の製造方法では、圧電基板はタンタル酸リチウムを材料とする。
【0036】
この製造方法では、圧電基板がタンタル酸リチウム(LiTaO3)であるので、上述のような特性の劣化が無く、より各種特性に優れる圧電デバイスを形成することができる。
【発明の効果】
【0037】
この発明によれば、スマートカット法を用いて圧電デバイス等の結晶性材料を用いた電子デバイスを製造する際に、加熱による各種特性劣化を防ぎ、優れた特性を有する電子デバイスを製造することができる。特に、当該製造方法を圧電デバイスに適用することで、優れた特性の圧電デバイスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明の実施形態に係る電子デバイスの製造方法について、図を参照して説明する。なお、以下の説明では、結晶性材料を用いた電子デバイスとして、圧電薄膜を用いたラム波用の薄膜型圧電デバイスを例に説明する。
【0039】
図1は、本実施形態の薄膜型圧電デバイスの製造方法を示すフローチャートである。
図2〜図4は、図1に示す製造フローで形成される薄膜型圧電デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【0040】
所定厚みからなる圧電単結晶基板1を用意し、図2(A)に示すように、裏面12側から水素イオンを注入することで、イオン注入層100を形成する(図1:S101)。この際、圧電単結晶基板1としては、薄膜型圧電デバイス単体が複数配列されたマルチ状態の基板を用いる。そして、例えば圧電単結晶基板1にLT基板を用いれば、加速エネルギー150KeVで1.0×1017atom/cm2のドーズ量により水素イオン注入を行うことにより、裏面12から深さ約1μmの位置に水素イオン層が形成されて、イオン注入層100が形成される。なお、圧電単結晶基板1には、LT基板以外に、LN基板やLBO(Li247)基板やランガサイト(La3Ga5SiO14)基板を用いてもよく、それぞれの基板に応じた条件でイオン注入を行う。
【0041】
次に、図2(B)に示すように、圧電単結晶基板1の裏面12にAl(アルミニウム)等を用いて所定厚みからなる下部電極20を形成する。さらに、当該下部電極20が形成された裏面12上に接合層30Aを形成する(図1:S102)。ここで、接合層30Aとしては例えばSiO2膜を用い、その表面をCMP処理等により研磨して平坦化する。
【0042】
ここで、支持基板30Bを用意しておく、支持基板30Bは、母体基板301B上に支持層302Bを形成してなる。母体基板301Bには、圧電単結晶基板1と同じような圧電性材料を用いてもよいが、圧電単結晶基板1と熱膨張係数が異なるが耐熱性に優れ入手が容易で安価なSiやガラスを用いるとよい。今回の説明ではSiを用いた場合を示す。Siからなる母体基板301B表面には、回路電極パターン50を形成するとともに、SiO2からなる支持層302Bを形成する。さらに、この支持層302Bに対してエッチング等を行うことで、後述するIDT電極等が形成される領域に対応する部分に凹部を形成するとともに、回路電極パターン50の一部に対応する領域に貫通孔を形成する。そして、当該凹部および貫通孔に犠牲層材料を成膜して犠牲層40A,40Bを形成し、支持層302Bの表面をCMP等により平坦化する。
【0043】
このように形成された支持基板30Bに対して、図2(C)に示すように、支持層301Aを接合層30Aの表面に清浄化接合技術を用いて直接接合することで、圧電単結晶基板1と支持基板30Bとを接合する(図1:S103)。ここで、清浄化接合とは、真空中でArイオン等を照射して接合面を活性化させた状態で接合するものであり、加熱を必要としない接合方法である。このように清浄化接合を行うことで、接合面が加熱されないため、上述のように圧電単結晶基板1と、接合層30Aおよび支持基板30Bの支持層302Bと、支持基板30Bの母体基板301Bとの線膨張係数が異なっていても、各界面付近での割れが発生することを防止できる。また、加熱を行わないことで、圧電単結晶基板1に熱が加わらないので、加熱による特性劣化を防止することができる。さらには、親水化接合のようにOH基を用いないので、水素の発生によるボイド等も防止することができる。
【0044】
次に、図2(D)に示すように、支持基板30Bが接合された圧電単結晶基板1を、減圧雰囲気下に配置して加熱し、イオン注入層100を剥離面とした剥離を行う(図1:S104)。これにより、支持基板30Bに支持された圧電薄膜10が形成される。
【0045】
この際、加熱温度は、減圧雰囲気の気圧に応じて、大気圧状態よりも低い温度までしか加熱しない。具体的には、次に示す条件を考慮して減圧雰囲気の圧力及び加熱温度を設定する。
【0046】
図5は、加熱剥離を行う際の気圧に応じた剥離可能温度の遷移を示す図である。
【0047】
図5に示すように、大気圧に対して減圧した雰囲気下では、剥離可能温度が低下する。例えば、大気圧では剥離可能温度が450℃であるのに対して、約5000Paまで減圧することで、剥離可能温度を350℃まで低下させることができる。さらに、約0.1Paまで減圧することで、剥離可能温度を250℃まで低下させることができる。
【0048】
このような減圧による剥離可能温度の低下は、次に示す理由であると考えられる。
【0049】
(1)減圧雰囲気下では、大気圧よりも注入された水素イオンが低温でガス化され易く、イオン注入層100の圧力と圧電単結晶基板1外部の圧力との差が低温で大きくなり易いことにより、クラックの進展、剥離が助長されるからである。
【0050】
(2)ガス化時に発生する応力によって、圧電単結晶基板1の焦電性により、イオン注入層100の近傍で電荷分布により放電が発生する。この放電の発生は、大気圧雰囲気下よりも減圧雰囲気下の方が起こりやすく、当該放電によりイオン注入層100の近傍での結晶構造の破断が助長されるからである。
【0051】
このように、剥離可能温度を350℃まで低下させることで、LT単結晶やLN単結晶に対しては、キュリー温度以下となり、圧電性劣化を防止することができる。
【0052】
さらに、剥離可能温度を250℃まで低下させることで、LT単結晶に対しては、さらに絶縁性劣化を防止することができるとともに、下部電極20を形成するAlが圧電単結晶基板1であるLT単結晶に拡散することを抑制することができる。また、上述のように支持基板30B内に回路電極パターン50を形成するような場合にも、当該回路電極パターン50を形成する金属が支持基板30B(特に支持層302B)に拡散することを防止でき、特性劣化を防ぐことができる。
【0053】
また、加熱温度が低くなることで、線膨張係数が異なっていても、加熱により発生する応力を抑制することができるので、当該応力による割れを抑制することができる。これにより、温度特性が優れたり耐電力性が優れるが熱膨張係数が圧電単結晶基板1と異なるような材質であっても支持基板に利用することができるので、支持基板の選択幅が広げられるとともに、より安価なものを選択することもできる。
【0054】
また、さらに、このような加熱工程では、通常、急激な昇降温を行わず、所定のプロファイルで徐々に昇温および降温を行わなければならない。したがって、加熱温度(到達温度を低くすることにより、加熱工程のスループットを早くすることができる。この際、これまでの大気圧で行う場合と異なり減圧処理を行わなければならないが、加熱の昇降温時間と比較して減圧昇圧時間の方が短くすることができるので、結果的に従来よりも加熱工程のスループットを早くすることができ、生産性を向上することができる。
【0055】
次に、図2(E)に示すように、圧電薄膜10の剥離面(表面)13をCMP等により鏡面仕上げにする(図1:S105)。このように表面13を鏡面化することで、圧電デバイスとしての特性を向上することができる。
【0056】
次に、図3(A)に示すように、圧電薄膜10の表面13上に、ラム波デバイスの励振電極となるIDT電極60や、配線電極61Aおよびバンプパッド61B等の上面電極パターンを形成する(図1:S106)。
次に、図3(B)に示すように、上面電極パターンが形成された圧電薄膜10の表面にレジスト膜70を形成する(図1:S107)。そして、フォトリソグラフィ技術を用いて、図3(C)に示すように、犠牲層40A,40Bを除去するためのエッチング窓71,72をレジスト膜70に形成する(図1:S108)。
【0057】
次に、エッチング窓71にエッチング液もしくはエッチングガスを導入することで、図3(D)に示すように、犠牲層40A,40Bを除去する。これにより、単体の薄膜型圧電デバイスの下部電極20およびIDT電極60が形成される領域に対応する犠牲層40Aが形成された空間は、空乏層80となる(図1:S109)。そして、このような犠牲層40A,40Bの除去を行った後、図3(E)に示すようにレジスト膜70の除去を行う(図1:S110)。
【0058】
次に、図4(A)に示すように、薄膜型圧電デバイスとして完成させるための仕上げ上面電極として、回路電極パターン50と配線電極61Aおよびバンプパッド61Bとを接続するスルーホール電極91を形成するとともに、バンプパッド61B上にバンプ90を形成する(図1:S111)。そして、図4(B)に示すように、マルチ状態から個別の薄膜型圧電デバイスを切り出す。このようにして薄膜型圧電デバイスを形成する。
【0059】
そして、本実施形態に示す特徴的な製造方法、すなわち、減圧雰囲気下で且つ当該減圧雰囲気の圧力に応じた低温で加熱を行って剥離を行う工程を有することで、従来のスマートカット法を用いることで発生する上述の各課題を解決して、各種特性に優れた薄膜型圧電デバイスを製造することができる。
【0060】
すなわち、圧電性が劣化を防止するとともに絶縁性の劣化を防止して、良好な圧電特性の薄膜型圧電デバイスを製造することができる。また、圧電薄膜表面に電極が形成されていても、当該電極の金属元素が圧電薄膜中に拡散することを防止して、伝送損失が低い薄膜型圧電デバイスを製造することができる。また、圧電薄膜に対して線膨張係数の異なる支持基板を用いることができるので、支持基板の材料に制約を受けず、設計が容易になるとともに安価にすることもできる。また、さらに、加熱剥離工程のスループットを改善し、生産性を向上することができる。
【0061】
なお、上述の説明では、ラム波用デバイスの製造方法を例に示したが、他の圧電薄膜を用いるSAWデバイスや、F−BARデバイス、ジャイロ、RFスイッチ等にも本実施形態の製造方法を適用することができる。さらには、焦電デバイスや他の結晶性デバイスに対しても、本実施形態の製造方法を適用することができる。
【0062】
また、上述の説明では、下部電極を有する薄膜型圧電デバイスを例に説明したが、下部電極を有さない薄膜型圧電デバイスに対しても、本実施形態の製造方法を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態の薄膜型圧電デバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す製造フローで形成される薄膜型圧電デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【図3】図1に示す製造フローで形成される薄膜型圧電デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【図4】図1に示す製造フローで形成される薄膜型圧電デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【図5】加熱剥離を行う際の気圧に応じた剥離可能温度の遷移を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1−圧電単結晶基板、10−圧電薄膜、12−圧電単結晶基板1の裏面、13−圧電薄膜の表面、20−下部電極、30A−接合層、30B−支持基板、301B−母体基板、302B−支持層、40A,40B−犠牲層50−回路電極パターン、60−IDT電極、61A−配線電極、61B−バンプパッド、70−レジスト膜、71,72−エッチング窓、80−空乏層、90−バンプ、91−スルーホール電極、100−イオン注入層、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性基板にイオンを注入することで、イオン注入層を形成する工程と、
イオン注入層が形成された前記結晶性基板を加熱することにより、前記結晶性基板から結晶性薄膜を剥離形成する工程を有する、電子デバイスの製造方法であって、
前記結晶性薄膜を剥離形成する工程は、
前記イオン注入層が形成された結晶性基板を、減圧雰囲気下で、且つ該減圧雰囲気の圧力に応じた加熱温度で加熱する、電子デバイスの製造方法。
【請求項2】
圧電基板にイオンを注入することで、イオン注入層を形成する工程と、
イオン注入層が形成された圧電基板を加熱することにより前記圧電基板から圧電薄膜を剥離形成する工程を有する、圧電デバイスの製造方法であって、
前記圧電薄膜を剥離形成する工程は、
前記イオン注入層が形成された圧電基板を、減圧雰囲気下で、且つ該減圧雰囲気の圧力に応じた加熱温度で加熱する、圧電デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記イオン注入層が形成された圧電基板に対して、前記イオン注入層により前記圧電薄膜が形成される側に支持体を形成する工程を備え、
前記圧電薄膜を剥離形成する工程は、
前記支持体が形成された圧電基板を、減圧雰囲気下で、且つ該減圧雰囲気の圧力に応じた加熱温度で加熱する、請求項2に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記圧電基板と前記支持体とは線膨張係数が異なる、請求項3に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記圧電基板と前記支持体とは、前記圧電基板の表面に接着層を形成し、該接着層と前記支持体との接合面を清浄化接合によって直接接合してなる、請求項4に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記支持体は、前記圧電基板に対して熱伝導率が良い材料によって形成される、請求項3〜請求項5のいずれかに記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記圧電基板を前記支持体に接合する工程の前に、
前記圧電基板の前記圧電薄膜側表面および前記支持体の前記圧電基板を接合する表面の少なくとも一方に、電極形成を行う工程を有する、請求項3〜請求項6のいずれかに記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記減圧雰囲気の圧力は、該圧力によって設定される加熱温度で前記圧電基板の圧電性劣化が殆ど生じないように設定されている、請求項2〜請求項7のいずれかに記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記減圧雰囲気の圧力は、該圧力によって設定される加熱温度で前記圧電基板の酸素抜けが殆ど生じないように設定されている、請求項2〜請求項7のいずれかに記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記減圧雰囲気の加熱温度は、該加熱温度によって前記電極を形成する金属が前記圧電基板に殆ど拡散しないように設定されている、請求項2〜請求項7のいずれかに記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記圧電基板は、タンタル酸リチウムを材料とする、請求項2〜請求項10のいずれかに記載の圧電デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−109949(P2010−109949A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282567(P2008−282567)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】