説明

電子ビーム(EB)を用いた有機化合物の除去方法とその装置

【課題】 電子ビーム(EB)により有機化合物を分解し、その分解物および当該分解物由来の微粒子を高効率で帯電化させ、静電的に捕集する方法および装置を提供する。
【解決手段】 気体を次のステップ1および2からなる一連の処理を少なくとも1回以上繰り返す。
ステップ1:未処理の気体またはステップ2により処理された気体を単極帯電化装置に通気し、単極帯電化室において、電子ビーム(EB)を照射して気体中の有機化合物を分解し、かつ、電極により電場を印加し有機化合物の分解物および当該分解物由来の微粒子を単極帯電化するステップ。
ステップ2:ステップ1により処理した気体を捕集容器に通気し、該容器内の電極により電場を印加し、単極帯電化された分解物および微粒子を電極に捕集し、清浄気体を得るステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、電子ビーム(以下EBと記載する)を用いた気体中の有機化合物の除去方法および除去装置に関するものである。より詳しくは、この出願の発明は、気体を前処理することなく連続通気し、EB照射によって有機化合物を分解し、分解物が形成する微粒子を帯電化して捕集する方法とそのための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族有機化合物などの有機化合物を含む気体にEBを照射して気体分子より正または負の電荷をもつ正負のイオン、正負のイオンクラスター、および、活性種(フリーラジカル、励起イオンおよび電子等)を生成させ、有機化合物を酸化分解して処理する方法が従来より知られている。この方法においては、気体分子から生成した活性種が空気中で有機化合物と反応しこの有機化合物を酸化する。その結果、有機化合物は完全酸化分解されれば気体状の無機物や有機物となるが、分子内の炭素数が比較的多い芳香族有機化合物などの有機化合物の場合には、単にEB照射を行っても、有機化合物は分解が不完全なまま分解物が凝集して直径数十nmの微粒子を形成することが知られている(非特許文献1)。さらに、この分解物由来の微粒子には、不完全分解によるニトロ基を有する人体に有害な有機化合物が含まれており(非特許文献2)、有機化合物を含む汚染空気を処理する上でこの微粒子の処理が非常に重要となる。
【0003】
このような、微粒子の処理方法について、微粒子のさらなる分解により微粒子そのものを無害化処理する方法、および、微粒子の捕集効率を上げて実質的に無害化する方法の2通りがある。前者の場合、高出力のEBにより発生するイオン、イオンクラスター、活性種の濃度を高め、分解を促進するが、その結果、稼動コストが増加したり、副次的に発生する制動X線からの遮蔽のために装置の大型化が必要であった。さらに、単にEBの照射強度を上げて活性種の濃度を高めても、活性種同士による失活反応も同時に増加するために期待するほど分解が促進されず、微小空間に凝集して気体中に局在化している分解生成物由来の微粒子を完全に分解するに至らず、微粒子中の分解物の処理効率を向上には至っていない。一方、後者の場合は、気体中の有機化合物を不完全分解して微粒子を形成させるには比較的低い出力のEBで十分であるため、装置の小型化が可能であり経済性だけでなく安全性も高い。しかしながら、従来、微粒子を捕集する方法としては、フィルターによる捕集除去などの物理的な方法が行われており、この方法では微粒子の粒径が小さいことから圧力損失が高く、高コストな微細フィルターを用いる必要がありコスト的に、また、捕集後のフィルターの処理が必要であるなどメンテナンス性にも問題があった。このように、分解生成物由来の微粒子をより効率的に捕捉する方法の開発が必要とされていた。
【非特許文献1】T. Hakoda et al., Charged Nanoparticle Formation from Humidified Gases with and without Dilute Benzene under Electron Beam Irradiation, Journal of Aerosol Science, 34, 977-991 (2004)
【非特許文献2】K. Hirota et al., Dechlorination of chlorobenzene in air with electron beam, Radiation Physic and Chemistry, 57, 63-73 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この出願の発明は、以上の通りの背景から、従来の問題点を解消し、EBにより有機化合物を分解し、その分解物および分解物由来の微粒子を高効率で帯電化させ、静電的に捕集する新しい方法とその方法を用いた気体浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために手段として、この出願の発明は、第1には、有機化合物含有の気体を次のステップ1および2からなる一連の処理を少なくとも1回以上繰り返すことを特徴とする気体中の有機化合物の除去方法を提供する。
【0006】
ステップ1:未処理の気体または次のステップ2により処理された気体を全て電子ビーム(EB)照射装置に通気し、両極帯電化室においてEBを照射して気体中の有機化合物を分解し、有機化合物の分解物および当該分解物由来の微粒子を両極帯電化するステップ、および
ステップ2:ステップ1により処理した気体を捕集容器に通気し、当該容器内の電極に電場を印加し、帯電化された分解物および微粒子を電極上に捕集し、清浄気体を得るステップ。
【0007】
また、この出願の発明は、第2には、有機化合物含有の気体を次のステップ1および2からなる一連の処理を少なくとも1回以上繰り返すことを特徴とする気体中の有機化合物の除去方法を提供する。
【0008】
ステップ1:未処理の気体または次のステップ2により処理された気体を電子ビーム(EB)照射装置に通気し、単極帯電化室において、EBを照射して気体中の有機化合物を分解し、かつ、電極により電場を印加し有機化合物の分解物および当該分解物由来の微粒子を単極帯電化するステップ、および
ステップ2:ステップ1により処理した気体を捕集容器に通気し、当該容器内の電極に電場を印加し、帯電化された分解物および微粒子を電極上に捕集し、清浄気体を得るステップ。
【0009】
さらに、この出願の発明は、第3には、有機化合物含有の気体を処理して清浄気体を得るための装置であって、未処理の気体もしくは再処理のための気体が通気される両極帯電化室には、この内部において、前記気体に電子ビーム(EB)を照射するEB照射部が具備されており、かつ、両極帯電化室においてEBの照射により分解・両極帯電化された有機化合物の分解物もしくは当該分解物由来の微粒子が捕集される電場印加用電極を備えた捕集容器が具備されていることを特徴とする有機化合物の除去装置を提供する。
そして、この出願の発明は、第4には、有機化合物含有の気体を処理して清浄気体を得るための装置であって、未処理の気体もしくは再処理のための気体が通気される単極帯電化室には、この内部において、前記気体に電子ビーム(EB)を照射するEB照射部と電場を印加する電極とが具備されており、かつ、単極帯電化室においてEBの照射により分解され、さらに電場により単極帯電化された、有機化合物の分解物もしくは当該分解物由来の微粒子が捕集される、電場印加用電極を備えた捕集容器が具備されていることを特徴とする有機化合物の除去装置を提供する。
【0010】
加えて、この出願の発明は、第5には捕集容器の電極の表面に水溶液層が備えられていることを特徴とする前記の有機化合物の除去装置を、第6には、捕集容器の電極の表面に水溶液層が備えられていることを特徴とする前記の有機化合物の除去装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、大気中の汚染物質の除去に関して、EB照射により有機化合物等を分解し、生じた有害な分解生成物をより効率的に捕集することが可能になる。すなわち、この出願の第1の発明の方法および第2の発明の方法により、気体中の芳香族有機化合物などの有機化合物を従来法より低エネルギーで効率よく除去することが可能となり、処理能力の向上すなわち処理された清浄気体中の有害成分の低減により、装置の小型化および稼動コストの低下が期待される。また、この出願の第3の発明により第1の発明の方法を、および第4の発明により第2の発明の方法を、それぞれ容易に実施できる装置が提供される。さらに、この出願の第5および第6の発明により、有害微粒子等を水溶液中に捕集することで、装置のメンテナンス性の向上と、稼動コストの低下が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にこの出願の発明の実施の形態について説明する。
【0013】
この出願の発明の方法(第1発明および第2発明)は、被処理気体にEBを照射するステップ、および、被処理気体中の帯電微粒子を捕集するステップ、の2つのステップからなる。また、この出願の発明の方法(第3発明ないし第6発明)による装置は上記の各ステップに対応するEB照射容器1と捕集容器7から構成される。
【0014】
まず、図1、および、図5に、それぞれこの出願の第1発明の方法を用いた第3発明の装置、および、第2発明の方法を用いた第4発明の装置の一態様を例示した構成概要図を示す。これらの態様においては、発明の電子ビーム(EB)はEB発生器6により生成され、EB照射窓5を通じてEB照射容器1内の気体に直接照射される。この場合の1電子あたりのエネルギーは30〜400keV程度であることが好適である。EB発生装置6は、公知のEB発生装置を用いることができるが、たとえば、金属製フィラメントを熱し、あるいは金属電極等に強電場を印加して金属表面から生じた電子を、真空で電場により加速し、金属等の無機物あるいは有機物の薄い隔膜を通過させて、加速した電子を取り出す装置であることが好ましい。EBは連続的に発生させてもよく、断続的あるいはパルス的に発生させてもよい。図1では被処理気体の流通方向に対してEBの照射方向が略直角、図4では被処理気体の流通方向に対してEBの照射方向が略同一方向なっているが、被処理気体の流通方向に対してEBの照射方向は特に制約はなく、両極帯電化する場合も単極帯電化する場合も任意に設定できる。
【0015】
EBを照射するステップにおいては、被処理気体中の有機化合物はEB照射により分解され、この分解物は微粒子を形成するが、この微粒子はEB照射により同時に発生するイオンやイオンクラスターなどの反応により帯電化される。被処理気体中の帯電微粒子を捕集するステップにおいては、この帯電化された微粒子を静電的に捕集する。
【0016】
この出願の第1の発明の方法により、EB照射と同時に両極帯電化を行う場合、例えば図1の構成を用いることができる。EB照射により気体中の有機化合物は分解されるが、同時にこの分解物由来の微粒子が両極帯電化される。両極帯電化のプロセスはEB照射容器1内に投入した気体分子にEBを照射することで、正負のイオン、正負のイオンクラスター、および、活性種を生成し、この活性種と有機化合物が反応することにより微粒子が生成し、この微粒子と正および負のイオンやイオンクラスターが反応することにより、気体中の微粒子を両極帯電化するものである。正のイオン、および、イオンクラスターは、負のイオン、および、イオンクラスターとほぼ同数発生する。両極帯電化室11内でのEB照射の態様は、浄化対象となる有機化合物を適当に分解でき、かつ、十分な正負のイオン、正負のイオンクラスター、および活性種の生成が実現できるものであればよく、気体の流通方向に対してEB照射方向は特に制約はなく、それが同一方向であっても垂直方向でもあってもよい。
【0017】
この出願の第2の発明の方法により、EB照射と同時に単極帯電化を行う場合、単極帯電化室12内では対向する電極2および3により電場を印加する。なお、EB照射窓5は好ましくは金属薄膜で構成されており、電極3と電気的に一体化させることが可能である。すなわち、この方法においては、EB照射窓5を電極3と電気的に接続し、一つの電極として機能させ、効率的な電場形成を担わせることを好ましい態様とする。さらに、EB照射窓5がEB照射容器1の底面と同じか大きい場合には、電極3を別途具備せずに、EB照射窓5を実質的に電極3として用いることができる。電場の印加方向と気体の導通方向については、EB照射によって発生した正負のイオンや正負のイオンクラスターから、片方の極性をもつ単極イオンや単極イオンクラスターのみを効率的に引き出して輸送する必要があることから、気体の流通方向と同一方向に電場を形成することが好ましい。また、電極2および3の形成する電場強度は50V/cm〜5kV/cm(絶対値)とすることが好ましい。実際の電場形成においてはEB照射窓5を通常接地して用いることから、電極3をEB照射窓5とともに接地し、電極2に任意の電場を印加して電場形成することが好ましいが、この場合、電極2は、正の電圧あるいは負の電圧の印加してもよく、どちらの場合においても、効率よく単極帯電化することができる。電極3を接地した場合、電極2に正電圧を印加すると微粒子が負電荷に帯電化し、負電圧に印加すると微粒子等が正に帯電化する。分解物由来の微粒子を単極帯電化するために電極2および3が形成した電場は2つの作用が必要である。1つは、EB照射場で共存する正負のイオンや正負のイオンクラスターから単極のイオンや単極のイオンクラスターを引き出す作用、また、もう1つは、単極イオンや単極イオンクラスターを輸送しながら分解物由来の微粒子に反応させる作用である。前者の作用を実現させるには、上記の電場強度が好ましいが、単に後者の作用を実現させる場合においては、上記の電場強度より弱い電場でも可能である。そこで、前者の作用と後者の作用を分離させてもよい。例えば、図6に示すように、網状電極4を単極帯電化室12内に設け、電極3を接地した場合においては、前者の作用を電極4によって、後者の作用を電極2によって担わせることができる。すなわち、電極3と電極4が形成する電場より僅かに強い電場を、電極3と電極2が形成するように、電極4の電圧よりわずかに大きな電圧を電極2に印加して、それぞれに電場を形成する。これにより、網状電極4と電極2の間には微弱な電場が形成され、網状電極4と電極3の間の領域で発生した正負イオンおよび正負イオンクラスターから引き出された単極イオンや単極イオンクラスターを、網状電極4と電極2の間の領域に輸送して効率的に単極帯電化を行うことができる。
【0018】
両極帯電化および単極帯電化された微粒子等の捕集は静電的捕集方法を用いることができる。静電的捕集は捕集容器7の電極8および9に互いに異なる電位を設定することにより電場を印加し、帯電化されている粒子を、粒子等の電荷と逆の電荷をもつ電極上に捕集する。例えば、この出願の第1の発明のとおり両極帯電化処理を行った場合は、それぞれの帯電化粒子と逆電荷を持つ電極上に両極帯電化粒子が捕集される。また、この出願の第2の発明のとおり単極帯電化処理を行った場合は、逆電荷を持つ片方の電極上に単極帯電化粒子が捕集される。
【0019】
帯電化粒子の捕集を行う電極は、水溶液層で覆うことが、装置のメンテナンス性の向上と、稼動コストの削減の観点からより好ましい。両極帯電化された粒子を捕集する場合は、図2のように、捕集容器7を電極8および9のそれぞれの表面に帯電化粒子捕集用の水溶液層81および91を備えた構造とすることが好ましい。単極帯電化した粒子を捕集する場合には図7のように、捕集容器7を電極8または9のうち帯電化粒子と逆の電荷をもついずれか一方の電極、図7においては電極9、に水溶液層91を備えた構造とすることがより好ましい。有害微粒子を水溶液中に捕集することで、電極表面からの有害物質の飛散が防止でき、無害化処理がより容易となる。電極の水溶液層91は適宜をバッチ式に交換してもよく廃液は、適当な方法で有害物質の不活性化処理することができる。また、水溶液を通液し溢出した廃液をリザーバー等に貯蔵しバッチ式に、あるいは廃液処理装置にフロースルーして、適当な方法で処理することができる。電極水溶液として、例えば水酸化ナトリウム水容器などのアルカリ性水溶液などが例示されるが、有機酸などを短時間に溶解し、水溶液中で安定化できる性質を有するものであれば特に制限はなく任意の水溶液を用いることができる。
【0020】
この出願の発明の捕集容器7はEB照射容器1内で帯電化した微粒子を捕集するものであるが、帯電化されていない微粒子は捕集容器7を通過する。この通過した非帯電微粒子について、さらに一般的な電気集塵装置を設け捕集してもよい。電気集塵装置は、線状電極とそれを取り囲む円筒状電極との間に高電場を印加し、線状電極近傍で発生した正負のイオンや正負のイオンクラスターのいずれか一方の単極イオンや単極イオンクラスターを円筒上の電極方向に輸送し、気体中の粒子を帯電させて捕集する装置であり、線状電極と円筒状電極間に微粒子を含む気体を流通させることから、フィルター捕集に比べて圧力損失が少ないという特徴を有する。また、電気集塵装置は、イオンやイオンクラスターの発生に際して、EB照射とは異なり活性種を生成せず、微粒子を細分化させずにそのまま捕集できるという特徴を有する。この出願の第1発明の方法においては、微粒子の帯電化効率が50%程度であるため、気体中に残存する非帯電粒子の捕集は重要であり、電極を用いた静電的な捕集プロセスの後に、電気集塵装置で非帯電粒子を帯電化させて捕集することを、さらに好ましい態様とする。また、本発明の第3発明の装置においては、捕集容器7の後に、直列してそのような電気集塵装置を設けることを、さらに好ましい態様とする。さらに、微粒子の帯電化効率の高いこの出願の第2発明の方法および第4発明の装置においても、非帯電粒子は少なからず発生することから、同様に電気集塵装置を用いた方法あるいは装置としてもよい。電気集塵装置は、乾式と湿式があり、乾式は円筒状電極を乾いた状態で用い、湿式は円筒状電極表面を水溶液層で覆うことを特徴とする。この水溶液層は、前述の捕集容器7の電極水溶液と同様に、水やアルカリ性水溶液を用いることができる。
【0021】
この出願の発明の方法により清浄化された気体について、再度同様の浄化処理を行うこともできる。すなわち、帯電化容器1と捕集容器7を1つの構成単位として、これを直列に接続し、装置を集積化することが可能である。この場合、捕集容器7と被処理気体排出口の間に、同様の構成の単極帯電化容器1と捕集容器7を1つ以上接続する。また、捕集容器7と次の単極帯電化容器1との間、および、最後の捕集容器7の後に、前述の電気集塵装置を設け、帯電捕集プロセスを備えてもよい。
【0022】
この出願の第3発明の装置および第4発明の装置は処理気体の輸送方法として強制通気、自然通気のどちらを採用してもよいが、安定した処理を行うために好ましくは制御された強制通気とする。強制通気の場合、1つ以上の送風装置を必要とするが、送風装置の配設される位置は、被処理気体採取口とEB照射容器1の送風ライン、EB照射容器1より捕集容器7への送風ライン、あるいは、捕集容器7から被処理気体排出口への送風ラインのいずれか1箇所以上であればよい。もしくは、送風装置を用いず被処理気体排出口側を陰圧に設定して、あるいは被処理気体採取口を陽圧に設定して、被処理気体採取口と被処理気体排出口の圧力差により強制通気を行ってもよい。
【0023】
また、この出願の第3の発明の装置および第4の発明の装置では、好ましくは被処理気体に対してEB照射前に集塵フィルターに通過させる。例えば、排ガスなどの汚染大気を処理する場合には被処理気体中に比較的大きな粒子や粉塵が混入している可能性が考えられる。このような場合、予め圧力損失の比較的小さいバグフィルター等の集塵フィルターを導通させることで、大きな粒子や粉塵を除去し、より効率的にEBを照射し、分解物由来の微粒子等を帯電化させることが可能となる。集塵フィルターの篩経は、被処理気体中の浮遊粒子等の濃度や粒径分布に従って、帯電化効率に加え、圧力損失やメンテナンス性を加味し適宜決定でき、好ましくは100μm以上である。
【0024】
なお、この出願の発明の対象とする有機化合物としては、各種の化合物であってよいが、なかでもベンゼン環を有する有機化合物が代表的なものとして例示される。例えばベンゼン、キシレン、トルエンであり、好ましくは大気汚染防止法の指定物質、有機溶剤中毒予防規則及び特定化学物質等障害予防規則の規制対象有機物、環境汚染物質排出移動量届出制度(PRTR)の対象物質である。
【0025】
また、この出願の発明におけるイオンとは、EBと気体分子との反応により生じる正イオンと負イオンであり、例えば、被処理気体が空気の場合では、正電荷を持つイオンとしては、窒素イオン(N2+)、酸素イオン(O2+)、オキソニウムイオン(H3+)等が、また、負電荷を持つイオンとしては、酸素イオン(O2-)、二酸化炭素イオン(CO2-)、窒素酸化物イオン(NOX-)等が発生する。単極イオンは正負どちらか一方のイオンであり、正負のイオンは正負両方のイオンをあらわす。また、イオンクラスターは、これらのイオンの周りに共存する水分子が緩やかに数個結合したものであり、単極イオンは単極イオンクラスターを、正負のイオンは正負のイオンクラスターをそれぞれ形成する。また、活性種とは、EB照射によって気体分子から発生するフリーラジカル、励起イオンおよび電子等である。
【0026】
そこで、以下に実施例を示し、この出願の発明をさらに詳細に説明するが、下記実施例により、発明が限定されることはない。
【実施例】
【0027】
〔実施例1〕両極帯電化
図1の模式図に基づき、アクリル製の円筒状のEB照射容器1(長さ3cm、直径4cm)、および電極8および9を含むステンレス製の捕集容器7からなる両極帯電化による有機化合物の除去装置を作成した。EB照射容器1の底面にはEB照射窓5を設置した。電極8および9はステンレス製のものを用いた。10ppmvのo−キシレンを含む大気圧の含水空気(水分濃度:約5000ppmv、流量:10L/分)を、EB照射容器1に通気し、加速エネルギー50keVのEBを吸収線量4kGyおよび10kGyで両極帯電化室11に照射した。微分型静電分級器およびファラデーカップ電流計システムで電場強度と帯電粒子の個数濃度の関係を測定した結果、吸収線量4kGyおよび10kGyのいずれにおいても、平均粒径が約50nmの正及び負電荷を有した帯電微粒子が同個数濃度で生成することが明らかとなった(図3aおよび図3b)。また、さらに、電極8および電極9に、電場を印加し両極に帯電化された微粒子を捕集した。捕集容器7の前後における被処理気体中の全微粒子の個数濃度を、Electrical Low Pressure Impactorで計測し、有機化合物の除去装置の捕集効率を評価した。その結果、捕集容器7へ印加する電場が0〜1kV/cmまでは捕集効率が電場強度の増加に符合して減少し、1kv/cm以上では捕集効率がほぼ一定で50%であった。実際に、捕集容器7の電場強度を1kv/cmに設定し、各吸収線量での、電場を印加した状態(ON)および印加していない状態(OFF)、それぞれにおける粒子個数濃度について、経時的に計測し、この結果を図4に示した。これより吸収線量にかかわらず全微粒子の個数濃度や重量濃度を約半数を静電的に捕集できることが確認された。なお、電極上に捕集された帯電微粒子については、水に完全溶解させて除去できることを確認した。
〔実施例2〕単極帯電化
図5の模式図に基づき、アクリル製の円筒状のEB照射容器1(高さ10cm、直径4cm)、および電極8および9を含むステンレス製の捕集容器7からなる単極帯電化による芳香族有機化合物の除去装置を作成した。EB照射容器1の底面には容器と同心円形状のEB照射窓5を設置し、さらにその周囲に単極帯電化容器の底面部を覆うようにドーナツ状の単極帯電化電極3を、天面に単極帯電化電極2を配設した。電極2、電極3、電極8および電極9はステンレス製のものを用いた。10ppmvのo−キシレンを含む大気圧の含水空気(水分濃度:約5000ppmv、流量:10L/分)を、EB照射容器1に通気し、加速エネルギー50keVのEBを吸収線量4kGyで単極帯電化室12に照射した。EB照射窓5および電極3を接地し、電極2に0〜−9kVの電圧を印加し、単極帯電化室12において気体の流通方向に0〜−0.9kV/cmの電場を印加した。EB照射容器1からの排出されて捕集容器7へ入る直前の気体について、微分型静電分級器およびファラデーカップ電流計システムで電場強度と帯電粒子の個数濃度の関係を測定した結果、電場強度の増大に符合して正帯電微粒子の個数濃度が増加し、負帯電微粒子濃度が減少した。−0.12kV/cmおよび−0.47kV/cmの電場を印加した場合の粒径と個数濃度の関係を、それぞれ図8(a)および図8(b)に示した。この場合、負の電場強度の増加に伴い気体中の微粒子が正電荷に単極帯電化する割合が増加することが明らかになった。これとは反対に、電極3に0〜9kVの正の電圧を印加した場合には、図8(a)および図8(b)中の帯電微粒子の正負の電荷が逆転した負に帯電した微粒子の結果が得られた。以上のことから、EB照射室1内での電場の形成により吸収線量4kGyという比較的出力の低いEB照射でありながら、効率的に粒子の単極帯電化を実現できることが判明した。
【0028】
さらに、電極8および電極9に、1kV/cmの電場を印加し、単極帯電化された微粒子を捕集した。捕集容器7の前後における被処理気体中の全微粒子の個数濃度を、Electrical Low Pressure Impactorで計測し、単極帯電化室12に印加された電場強度と有機化合物の除去装置の捕集効率の関係を評価した(図9)。その結果、単極帯電化室12の電場強度の増大に符合して、捕集効率が直線的に上昇し、最大の−0.9kV/cmの電場を印加した場合においては、EB照射により処理気体中に発生した全微粒子の90%以上を捕集でき、単極帯電化室12内に電場を印加しない場合(すなわち実施例1における両極帯電化と同様の場合)における捕集効率50%と比較して有害微粒子の捕集効率がより高くなることが明らかとなった。これとは反対に、単極帯電化室に12に最大0.9kV/cmの電場を印加した場合にも、全微粒子の90%以上を捕集除去できた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】両極帯電化を行う場合の有機化合物の除去装置の模式図である。
【図2】両極帯電化を行う場合の有機化合物の除去装置の別の態様の模式図である。
【図3】実施例1における吸収線量4Gky(a)および10Gky(b)での帯電化処理後の粒子の電荷と粒径・濃度の関係を示すグラフである。記号はそれぞれ、正電荷帯電粒子(黒丸)および負電荷帯電粒子(白四角)を示す。
【図4】実施例1における捕集容器7内の電場強度の有無と捕集容器通過後の帯電微粒子濃度の関係図である。
【図5】単極帯電化を行う場合の有機化合物の除去装置の模式図である。
【図6】単極帯電化を行う場合のEB照射容器1の一態様を示した模式図である。
【図7】単極帯電化を行う場合の捕集容器7の一態様を示した模式図である。
【図8】実施例2における吸収線量4Gky、電場強度−0.12kV/cm(a)および−0.47kV/cm(b)の電場を印加した場合での、帯電化処理後の粒子の電荷と粒径・濃度の関係を示すグラフである。記号はそれぞれ、正電荷帯電粒子(黒丸)および負電荷帯電粒子(白丸)を示す。
【図9】実施例2における芳香族有機化合物の処理装置の捕集効率と単極帯電化容器内の電場強度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 EB照射容器
11 両極帯電化室
12 単極帯電化室
2 単極帯電化電極
3 単極帯電化電極
4 網状電極
5 EB照射窓
6 EB発生装置
7 捕集容器
8 電極
81 電極水溶液
9 電極
91 電極水溶液
a EB
b 被処理気体採取口
c 被処理気体排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物含有の気体を次のステップ1および2からなる一連の処理を少なくとも1回以上繰り返すことを特徴とする気体中の有機化合物の除去方法。
ステップ1:未処理の気体または次のステップ2により処理された気体を全て電子ビーム(EB)照射装置に通気し、両極帯電化室においてEBを照射して気体中の有機化合物を分解し、有機化合物の分解物および当該分解物由来の微粒子を両極帯電化するステップ、および
ステップ2:ステップ1により処理した気体を捕集容器に通気し、当該容器内の電極に電場を印加し、帯電化された分解物および微粒子を電極上に捕集し、清浄気体を得るステップ。
【請求項2】
有機化合物含有の気体を次のステップ1および2からなる一連の処理を少なくとも1回以上繰り返すことを特徴とする気体中の有機化合物の除去方法。
ステップ1:未処理の気体または次のステップ2により処理された気体を電子ビーム(EB)照射装置に通気し、単極帯電化室において、EBを照射して気体中の有機化合物を分解し、かつ、電極により電場を印加し有機化合物の分解物および当該分解物由来の微粒子を単極帯電化するステップ、および
ステップ2:ステップ1により処理した気体を捕集容器に通気し、当該容器内の電極に電場を印加し、帯電化された分解物および微粒子を電極上に捕集し、清浄気体を得るステップ。
【請求項3】
有機化合物含有の気体を処理して清浄気体を得るための装置であって、未処理の気体もしくは再処理のための気体が通気される両極帯電化室には、この内部において、前記気体に電子ビーム(EB)を照射するEB照射部が具備されており、かつ、両極帯電化室においてEBの照射により分解・両極帯電化された有機化合物の分解物もしくは当該分解物由来の微粒子が捕集される電場印加用電極を備えた捕集容器が具備されていることを特徴とする有機化合物の除去装置。
【請求項4】
有機化合物含有の気体を処理して清浄気体を得るための装置であって、未処理の気体もしくは再処理のための気体が通気される単極帯電化室には、この内部において、前記気体に電子ビーム(EB)を照射するEB照射部と電場を印加する電極とが具備されており、かつ、単極帯電化室においてEBの照射により分解され、さらに電場により単極帯電化された、有機化合物の分解物もしくは当該分解物由来の微粒子が捕集される、電場印加用電極を備えた捕集容器が具備されていることを特徴とする有機化合物の除去装置。
【請求項5】
捕集容器の電極の表面に水溶液層が備えられていることを特徴とする請求項3記載の有機化合物の除去装置。
【請求項6】
捕集容器の電極の表面に水溶液層が備えられていることを特徴とする請求項4記載の有機化合物の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−218360(P2006−218360A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32336(P2005−32336)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】