説明

電子写真機器用部材

【課題】長期間の使用によっても、最外層たる弾性層の表面に微小な亀裂が発生せず、優れた耐久性を発揮する電子写真機器用部材を提供すること。
【解決手段】イソシアネート系硬化剤と、かかるイソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基及び重合可能な不飽和結合を分子内に有するゴム材料とからなる弾性層用材料を用いて形成された弾性層を、最外層として有する電子写真機器用部材において、前記弾性層に対して、(A)所定の塩素化合物の一種又は二種以上を用いた表面処理、(B)所定の塩素化合物の一種又は二種以上とBF3 とを用いた表面処理、(C)イソシアネートを用いた表面処理、又は、(D)紫外線による表面処理を施すことにより、目的とする電子写真機器用部材を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用部材に係り、特に、電子写真方式を利用したプリンタやファクシミリ等の画像形成装置において、中間転写ベルト等の無端ベルトとして、或いは現像ロールや帯電ロール等の導電性ロールとして、有利に用いられ得る電子写真機器用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置(以下、電子写真機器という)においては、無端ベルトや導電性ロール等を始めとする様々な電子写真機器用部材が広く用いられている。
【0003】
例えば、像担持体(感光体)上に形成されたトナー像を、ベルト表面に一次転写し、その後、ベルト表面のトナー像を被印刷物(紙)に二次転写する電子写真機器用無端ベルトとして、中間転写ベルトが用いられている。また、接触現像方式を採用している電子写真機器においては、トナー規制部材によって形成されたトナー層を表面に保持した状態で、静電潜像が形成された像担持体(感光体)と接触して、像担持体(感光体)と相互に回転することにより、静電潜像の現像を行なう電子写真機器用導電性ロールとして、現像ロールが採用されている。
【0004】
ここで、無端ベルトや導電性ロール等の電子写真機器用部材においては、各々に要求される特性等に応じた構成が採用されている。例えば、上述した中間転写ベルトや現像ロールは、像担持体(感光体)と接触した状態で用いられるものであるところ、像担持体の削れの発生やトナー劣化の防止、引いては、最終的に得られる画像の高画質化等の観点から、電子写真機器における中間転写ベルトや現像ロール等として好適に用いられ得るものとして、各種ゴム材料を主成分とする形成材料からなる層(弾性層)を最外層として有する無端ベルトや導電性ロールが提案されている(特許文献1を参照)。また、本願出願人は、画像不具合が生じ難く、長期に亘って離型性を確保可能な電子写真機器用ロールとして、特許文献2において、ロール最外周にゴム層を備え、ゴム層の少なくとも表面部分のゴムが所定の化学構造を有する電子写真機器用ロールを提案している。
【0005】
しかしながら、電子写真機器の高寿命化に伴い、電子写真機器用部材に対しても耐久性の更なる向上が求められている現状において、本発明者等が、従来の各種ゴム材料を主成分とする形成材料からなる層(弾性層)を最外層として有する無端ベルトや導電性ロールについて鋭意、検討したところ、従来の弾性層を最外層として有する無端ベルト等にあっては、長期間の使用により、表面に微小な亀裂(クラック)が発生することが認められた。また、本願出願人が特許文献2において提案した電子写真機器用ロールにあっても、弾性層を構成するゴムの種類によっては、表面処理により架橋ゴムの主鎖を切断し、弾性層表面の強度が低下することに起因して、上述した問題(長期間の使用による微小な亀裂の発生)が惹起される恐れがあることが判明した。電子写真機器に対する高寿命化の要求は年々、高まっているところから、現状においては、従来以上の耐久性を発揮し得る電子写真機器用部材の開発が望まれているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−84437号公報
【特許文献2】特開2007−256709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、長期間の使用によっても、最外層たる弾性層の表面に微小な亀裂が発生せず、優れた耐久性を発揮する電子写真機器用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、そのような課題を有利に解決するために、イソシアネート系硬化剤と、かかるイソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基及び重合可能な不飽和結合を分子内に有するゴム材料とからなる弾性層用材料を用いて形成された弾性層を、最外層として有する電子写真機器用部材にして、前記弾性層に対して、(A)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上を用いた表面処理、(B)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いた表面処理、(C)イソシアネートを用いた表面処理、又は、(D)紫外線による表面処理、が施されていることを特徴とする電子写真機器用部材を、その要旨とするものである。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0009】
なお、本発明に従う電子写真機器用部材における好ましい第一の態様においては、前記官能基がカルボキシル基又はアミノ基である。
【0010】
また、本発明の電子写真機器用部材における好ましい第二の態様においては、前記ゴム材料が液状ゴムである。
【0011】
さらに、本発明における好ましい第三の態様においては、前記弾性層用材料に難燃剤が配合されている。
【0012】
一方、本発明は、上述の如き各態様の電子写真機器用無端ベルト及び電子写真機器用導電性ロールをも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従う電子写真機器用部材は、最外層として、イソシアネート系硬化剤と、かかるイソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基及び重合可能な不飽和結合を分子内に有するゴム材料とからなる弾性層用材料を用いて形成された弾性層を有し、且つ、その弾性層の表面に対しては、所定の表面処理が施されているものである。即ち、本発明に従う電子写真機器用部材にあっては、最外層たる弾性層が、ゴム材料とイソシアネート系硬化剤との結合によって形成された、所定の表面処理にも耐え得る強い骨格にて構成されており、且つ、かかる弾性層表面には所定の表面処理が施されているのである。従って、そのような電子写真機器用部材を、他の部材と接触した状態で用いられる部材として、より具体的には中間転写ベルトや現像ロール等として、使用すると、長期間に亘る使用によっても弾性層表面における亀裂の発生は効果的に抑制され、以て、優れた耐久性を発揮することとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に従う電子写真機器用部材たる電子写真機器用無端ベルトの一例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を適宜、参酌しながら、本発明を具体的に説明する。
【0016】
図1には、本発明に従う電子写真機器用部材たる電子写真機器用無端ベルトの一例が、部分断面図にて表わされている。そこにおいて、電子写真機器用無端ベルト2は、基層4の表面に、後述する所定の弾性層用材料からなる弾性層6が設けられており、かかる弾性層6の表面8に対しては、後述する所定の表面処理が施されているのである。
【0017】
具体的に、先ず、基層4は、合成樹脂材料を主成分とする基層用材料を用いて、構成されている。かかる基層用材料を構成する合成樹脂材料としては、従来より電子写真機器用無端ベルトにおいて用いられているもの、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の何れをも、単独で若しくは二種以上のものを併せて用いることが可能であるが、それらの中でも、優れた剛性等を発揮するポリイミド樹脂及び/又はポリアミドイミド樹脂が、本発明において特に有利に用いられる。
【0018】
また、基層用材料には、必要に応じて、上述の如き合成樹脂材料と共に、導電剤や難燃剤、炭酸カルシウム等の充填剤、レベリング剤等の添加剤が、適宜、配合される。
【0019】
基層用材料に配合される導電剤は、特に限定されるものではなく、例えば、カーボンブラックやグラファイト等の導電性粉末、アルミニウム粉末やステンレス粉末等の金属粉末、導電性酸化亜鉛(c−ZnO)、導電性酸化チタン(c−TiO2 )、導電性酸化鉄(c−Fe34)や導電性酸化錫(c−SnO2 )等の導電性金属酸化物、第四級アンモニウム塩、リン酸エステル、スルホン酸塩、脂肪族多価アルコールや脂肪族アルコールサルフェート塩等のイオン導電剤を、用いることが出来る。また、基層用材料に配合される難燃剤としては、後述する無機系難燃剤や有機系難燃剤を、例示することが出来る。
【0020】
なお、上述の合成樹脂材料等を用いた基層用材料の調製は、ベルトの製造方法に応じて行なわれる。例えば、後述する製造方法に従って、本発明の電子写真機器用無端ベルトを製造する場合には、上述の合成樹脂材料等を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエンやアセトン等の有機溶媒に添加し、混合することによって、液状の基層用材料が調製される。
【0021】
そして、図1に示す電子写真機器用無端ベルト2は、そのような基層用材料を用いて形成された基層4の表面に、イソシアネート系硬化剤と、かかるイソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基及び重合可能な不飽和結合を分子内に有するゴム材料とからなる弾性層用材料を用いて、弾性層6が形成されており、且つ、かかる弾性層6の表面8に対して、所定の表面処理が施されているところに、大きな特徴が存するのである。このような構成を採用したことによって、本発明に係る電子写真機器用無端ベルト2にあっては、長期間に亘る使用によっても、弾性層6の表面における亀裂の発生が効果的に抑制され、以て、優れた耐久性を発揮することとなるのである。
【0022】
ここで、弾性層6は、上述したように、イソシアネート系硬化剤と、1)かかるイソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基、及び2)重合可能な不飽和結合を分子内に有するゴム材料とからなる弾性層用材料を用いて、形成されている。
【0023】
先ず、本発明において、弾性層用材料に配合されるイソシアネート系硬化剤としては、従来より公知の各種のイソシアネート類、具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート(LDI)、水添XDI(H6XDI )、水添MDI(H12MDI)、ポリメリックMDIや、これらイソシアネートのビュレットタイプ、イソシアヌレートタイプ、トリメチロールプロパン変性タイプ、更には、これらのブロックタイプ等を、例示することが出来る。これらの中でも、イソホロンジイソシアネート(IPDI)系のイソシアネートが、弾性層の耐久性(耐摩耗性)の観点から有利に用いられる。
【0024】
また、そのようなイソシアネート系硬化剤と共に配合されるゴム材料は、上述のイソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基、及び重合可能な不飽和結合を分子内に有するゴム材料である。イソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基としてはカルボキシル基やアミノ基等を、重合可能な不飽和結合としては炭素−炭素二重結合等を、それぞれ例示することが出来る。具体的には、カルボキシル変性アクリロニトリル−ブタジエンゴム(以下、COOH変性NBRと表わす)やアミン変性アクリロニトリル−ブタジエンゴム(以下、NH2 変性NBRと表わす)等が、有利に用いられる。特に、本発明に従う電子写真機器用無端ベルト2を後述する手法に従って製造する場合には、液状の弾性層用材料が用いられるところ、ゴム材料として固体状のものを用いると有機溶媒が必要となる。有機溶媒を用いて液状とされた弾性層用材料を用いると、基層表面に塗布した後に溶媒除去のための工程(乾燥)が必要となり、製造ラインが大型化する恐れがある。一方、液状のゴム材料(液状ゴム)にあっては、有機溶媒を用いる必要が無い、若しくは使用する場合であっても少量ですむ為、製造ラインのコンパクト化を図ることが出来る。また、液状のゴム材料は、一般に主鎖が短く、分子内に多くの官能基が存在するため、前述のイソシアネート系硬化剤との架橋がより強固になるという利点をも有する。従って、本発明においては、上記したCOOH変性NBRやNH2 変性NBR等であって液状のものが、特に有利に用いられる。
【0025】
上述したイソシアネート系硬化剤及びゴム材料の配合割合は、ゴム材料中の官能基の種類等に応じて適宜、決定される。例えば、NH2 変性NBR等のアミノ基を有するゴム材料、又はCOOH変性NBR等のカルボキシル基を有するゴム材料を用いる場合には、NCOインデックス[アミノ基又はカルボキシル基の100当量に対するイソシアネート基の当量]が80〜150の範囲内となるように、イソシアネート系硬化剤及びゴム材料が配合される。NCOインデックスが80未満の場合には、硬化性が不十分となる恐れがあり、一方、150を超えると、得られる弾性層の硬度が高くなりすぎて画像に悪影響を与える恐れがあるからである。
【0026】
本発明の電子写真機器用無端ベルト(2)の弾性層を作製するに際しては、弾性層用材料に、上述したイソシアネート系硬化剤及びゴム材料に加えて、各種添加剤が、それぞれの添加目的に応じて適宜、配合される。
【0027】
例えば、電子写真機器用無端ベルト(2)に導電性を付与せしめるべく、弾性層用材料には、一般に、導電剤が配合される。かかる導電剤としては、従来より広く用いられている導電剤、例えばカーボンブラックや金属酸化物等の他、第四級アンモニウム塩、リン酸エステル、スルホン酸塩、脂肪族多価アルコールや脂肪族アルコールサルフェート塩等のイオン導電剤等を、例示することが出来る。
【0028】
また、昨今、電子写真機器用部材に対しても難燃性が要求されていることから、弾性層用材料には難燃剤が配合されることが好ましい。かかる難燃剤としては従来より各種のものが知られており、一般に、有機系難燃剤と無機系難燃剤に大別される。
【0029】
本発明において用いられる有機系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A及びその誘導体、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン等の多ベンゼン環化合物、臭素化ポリスチレン及びポリ臭素化スチレン等の臭素系難燃剤や、芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類、含ハロゲンリン酸エステル類、含ハロゲン縮合リン酸エステル類、フォスファゼン誘導体等のリン系難燃剤等を、挙げることが出来る。
【0030】
また、無機系難燃剤としては、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤や、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物系難燃剤等を、例示することが出来る。
【0031】
なお、それら難燃剤は、本発明の範囲内において、適宜、使用量が決定され、弾性層用材料に配合される。また、上述した各種難燃剤を二種以上、併用することも可能である。
【0032】
その他にも、本発明の範囲内において、例えばレベリング剤等の各種添加剤も配合することが可能である。
【0033】
上述したゴム材料等の各成分を用いた弾性層用材料の調製は、基層用材料の調製と同様に、ベルトの製造方法に応じて適宜、行なわれる。例えば、固体状のゴム材料を用いて、以下に述べる製造方法に従って本発明の電子写真機器用無端ベルトを製造する場合には、上述のゴム材料等を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエン、アセトン、シクロヘキサノン(アノン)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチルやキシレン等の有機溶媒に添加し、混合することによって、液状の弾性層用材料が調製される。尚、先述したように、液状のゴム材料を用いる場合には、有機溶媒は不要若しくは少量で足りる。従って、溶媒除去が不要又は短時間ですむことから、製造ラインのコンパクト化を図ることが出来る。
【0034】
ところで、本発明に係る電子写真機器用無端ベルト(2)を製造するに際しては、通常、上述した基層用材料及び弾性層用材料を用いて、先ず、表面処理が施される前のベルト(以下、表面処理前ベルトという)が作製される。表面処理前ベルトは、好ましくは、以下の手法に従って作製される。
【0035】
先ず、軸中心に回転可能な円筒状乃至は円柱状の基体と、かかる基体の外周面と近接する位置で、基体の軸方向に沿って移動可能な二つのノズル(第1ノズル、第2ノズル)とを準備する。その一方、液状の基層用材料及び液状の弾性層用材料を調製し、それら液状材料を、異なるエアー加圧タンクに各々、収容する。
【0036】
次いで、例えば、特許第3855896号(図2等)に記載の方法のように、円筒状の基体を垂直にした状態で、軸中心に回転させる。かかる基体を回転させた状態で、基層用材料が収容されたエアー加圧タンクに所定の圧力をかけて、内蔵する基層用材料を第1ノズルに圧送し、かかる第1ノズルから、基体の外周面に対して基層用材料を吐出させる。この基層用材料の吐出と同時に、第1ノズルを、基体の軸方向に沿って、一定速度で移動させる。これによって、基体の外周面には、基層用材料からなる一定幅の帯(塗膜)が、らせん状に形成されるのであり、第1ノズルを基体の一方の端部側から他方の端部側へ移動せしめることによって、基体の外周面には、基層用材料のらせん状塗膜の連続からなる全体塗膜が形成されるのである。なお、基層用材料のらせん状塗膜は、通常、上側の帯と下側の帯との間に所定の間隔が生ずるように、基体の外周面上に形成される。
【0037】
そのようにして基体の外周面上に形成された全体塗膜に対して、所定条件にて加熱処理を施し、有機溶媒を除去することにより、先ず、表面処理前ベルトの基層が形成されるのである。
【0038】
次いで、外周面上に基層が形成された基体を、先程と同様に(特許第3855896号の図2等に示されているように)、軸中心に回転させる。基体を軸中心に回転させた状態で、弾性層用材料が収容されたエアー加圧タンクに所定の圧力をかけて、内蔵する弾性層用材料を、基体の外周面(形成された基層の表面)に近接する第2ノズルに圧送し、かかる第2ノズルから、基体の外周面上の基層に対して、弾性層用材料を吐出させる。この弾性層用材料の吐出と同時に、第2ノズルを、基体の軸方向に沿って一定速度で移動させる。これによって、基体の外周面に形成された基層の表面に、弾性層用材料からなる一定幅の帯(塗膜)が、らせん状に形成されるのであり、第2ノズルを基体の一方の端部側から他方の端部側へ移動せしめることによって、基体の外周面上の基層には、その表面に、弾性層用材料のらせん状塗膜の連続からなる全体塗膜が形成されるのである。
【0039】
そして、得られた全体塗膜に対して、加熱等の架橋処理を施すことによって、基層の表面に、表面処理前の弾性層が設けられてなる2層構造の表面処理前ベルトが得られるのである。
【0040】
なお、上述してきた手法においては、円筒状の基体に代えて、中実の円柱状基体を用いることも可能であるが、回転部の負担を軽く出来るという観点から、円筒状基体が有利に用いられる。具体的には、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属製の回転ドラム等が、好適に用いられる。また、基体の直径は、通常、120〜500mmであり、軸方向の長さは、通常、300〜600mmである。更に、基体の回転数は、低すぎると重量によって形成された塗膜が下に落ちてしまう恐れがあり、その一方、回転数が高すぎると、遠心力で形成された塗膜が飛び散る恐れがあることから、一般には、50〜500rpm程度に設定される。
【0041】
また、液状材料(基層用材料、弾性層用材料)を吐出するためのノズルとしては、ニードルノズル等が用いられ、その吐出部形状は、丸形状、平形形状、矩形状等のものを用いることが出来る。
【0042】
さらに、上述の手法においては、通常、基層用材料からなる塗膜の厚さは、50〜130μmとなるように、好ましくは60〜90μmとなるように、また、弾性層用材料からなる塗膜の厚さは、10〜300μmとなるように、好ましくは80〜220μmとなるように、各ノズルから液状材料(基層用材料又は弾性層用材料)が吐出される。このような厚さの各塗膜を形成せしめるべく、種々の条件、具体的には、基体の軸方向に沿って移動するノズルの移動速度、基体とノズルとの距離、各液状材料の粘度、ノズル形状、吐出圧等が、適宜、設定されることとなる。
【0043】
そして、以上のようにして作製された表面処理前ベルトに対して、以下に述べる表面処理を実施することにより、本発明に係る電子写真機器用無端ベルト2が製造されるのである。即ち、本発明においては、表面処理前ベルトの表面(弾性層の表面)に対して、以下の何れかの表面処理が施されることとなる。
(A)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有 する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上を用いた表面処理[以下 、塩素処理又はCl処理という]。
(B)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有 する化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いた表面 処理[以下、フッ素・塩素処理又はF・Cl処理という]。
(C)イソシアネートを用いた表面処理[以下、イソシアネート処理という]。
(D)紫外線による表面処理[以下、UV処理という]。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金 属原子又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0044】
−「塩素処理」及び「フッ素・塩素処理」−
「塩素処理」においては、(α)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物、及び(β)分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物の中から一種又は二種以上のものが、また、「フッ素・塩素処理」においては、上記化合物(α)及び化合物(β)の中の一種又は二種以上とBF3 とが、各々、用いられる。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0045】
具体的には、(α)上記一般式(I)で表わされる塩素化合物において、アルカリ金属原子としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等の各原子を、また、アルカリ土類金属原子としては、マグネシウムやカルシウム等の各原子を、更に、アルキル基としては、メチル基、エチル基、第三級ブチル基、トリフルオロメチル基等を、例示することが出来る。
【0046】
そのような一般式(I)で表わされる化合物としては、具体的に、メチルハイポクロライド、エチルハイポクロライド、第三級ブチルハイポクロライド、トリフルオロメチルハイポクロライド等のアルキルハイポクロライドや、メチルハイポフルオライド、エチルハイポフルオライド、第三級ブチルハイポフルオライド、トリフルオロメチルハイポフルオライド等のアルキルハイポフルオライド等といった、アルキルハイポハライドや、次亜塩素酸、更に、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸塩等を、例示することが出来る。
【0047】
また、(β)分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物としては、具体的に、N−クロロスクシンイミドやN−クロロフタルイミド等の酸イミドハロゲン化合物、トリクロロイソシアヌル酸やジクロロイソシアヌル酸等のイソシアヌル酸ハライド、ジクロロジメチルヒダントイン等のハロゲン化ヒダントイン等を、例示することが出来る。
【0048】
本発明においては、表面処理前の弾性層に対して、「塩素処理」においては、上記化合物(α)及び(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上を用いて、また「フッ素・塩素処理」においては、上記化合物(α)及び(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いて、表面処理が実施される。かかる表面処理は、それら化合物を、処理前の弾性層に対して接触せしめることによって実施されることとなるが、好ましくは、接触せしめる化合物を、水又は所定の有機溶媒に溶解乃至は分散させてなる処理液を調製し、かかる処理液を弾性層の表面に接触させることによって実施することが望ましい。
【0049】
なお、処理液の調製に用いられる溶媒としては、水や、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、第三級ブタノール、イソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン等を、例示することが出来る。また、処理液中の上記化合物の含有量は、弾性層表面(ベルト表面)が全面に亘って充分に処理され得る量であれば、特に限定されるものではないが、一般に、各化合物の濃度が、0.01〜40重量%程度となるように、処理液が調製される。このような濃度に調製された処理液を用いることによって、表面処理後の弾性層の表面が、適度な硬度を維持しつつ、耐トナー付着性の向上がより図られたものとなるのである。
【0050】
上記化合物(α)及び(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いて、表面処理を実施する場合、それらを所定の溶媒にて混合してなる一の処理液であっても、また、それらを個別に所定の溶媒に混合して、二以上の処理液とした場合であっても、本発明においては使用することが可能である。なお、このように、化合物(α)及び化合物(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを、所定の溶媒に混合して、一の処理液を調製する場合、化合物(α)及び化合物(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上の化合物(ここではXと総称する)と、BF3 との重量比は適宜に決定されるが、好ましい範囲として、X:BF3 =1:99〜90:10(重量比)を例示することが出来る。これらの範囲内では、弾性層を構成する架橋ゴムへの反応性と、弾性層表面に対するBF3 によるフッ素原子の導入効果とのバランスが、優れたものとなるからである。
【0051】
上述の如き所定の処理液を用いて、弾性層の表面処理を実施する際は、通常、室温付近で実施されることとなるが、必要に応じて、高温下において、処理液を弾性層表面に接触せしめることも可能である。
【0052】
また、処理液を弾性層表面に接触せしめる方法は、特に限定されるものではなく、従来より公知の種々の方法を採用することが可能である。具体的には、表面処理前ベルトに処理液を塗工する方法や、ロールに処理液を吹き付ける方法等が挙げられる。特に、上述した手法に従って、円筒状基体の表面に表面処理前ベルトを作製した場合には、かかる表面処理前ベルトが形成された円筒状基体を、表面処理前ベルトの少なくとも一部が所定の槽内の処理液と接するように配置し、かかる状態にて、円筒状基体を軸中心に回転せしめることによって、表面処理前ベルトの全面に亘って処理液を接触せしめる方法が、有利に採用される。
【0053】
以上のようにして、処理液を表面処理前ベルトの表面に接触せしめることにより、(処理前の)弾性層を構成する架橋ゴム中の不飽和結合が効果的に切断され、下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上の化合物に由来する塩素原子(及びBF3 に由来するフッ素原子)が、架橋ゴムの強固な骨格を損なうことなくその分子内に導入されることとなる。そして、かかる表面処理後の電子写真機器用無端ベルトにあっては、例えば、電子写真機器における中間転写ベルトとして長期間、使用された場合でも、弾性層表面における亀裂の発生は効果的に抑制され、以て、優れた耐久性を発揮することとなるのである。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0054】
上述してきたように、表面処理前ベルトの表面に処理液を接触せしめた後、かかる表面を、水を含む液体で洗浄し、必要に応じて、エアーブロー等で水滴を除去することにより、本発明に係る電子写真機器用無端ベルト2が得られるのである。なお、かかる洗浄の際における洗浄時間等の条件は、適宜に決定されることとなる。
【0055】
−「イソシアネート処理」−
「イソシアネート処理」は、処理前の弾性層に対してイソシアネートを接触せしめることによって実施される。ここで、かかる処理に際して用いられるイソシアネートとしては、イソシアネート系硬化剤として先に示したものと同様のものを用いることが可能である。
【0056】
また、「イソシアネート処理」においても、上述した「塩素処理」及び「フッ素・塩素処理」と同様に、イソシアネートを、酢酸エチル等の所定の有機溶媒に溶解させてなる処理液を調製し、かかる処理液を弾性層の表面に接触させることによって実施することが望ましい。更に、処理液を弾性層表面に接触せしめる方法についても、「塩素処理」及び「フッ素・塩素処理」において述べた手法と同様のものが有利に採用される。
【0057】
そして、イソシアネートを含む処理液を表面処理前ベルトの表面に接触せしめることにより、処理液中のイソシアネートと、架橋ゴム中に残存するイソシアネートと反応可能な官能基とが効果的に反応し、弾性層の表面においてのみ硬度が有利に高くなる。従って、かかる表面処理後の電子写真機器用無端ベルトを、例えば、電子写真機器における中間転写ベルトとして長期間、使用すると、弾性層表面における亀裂の発生は効果的に抑制され、以て、従来のものと比較して優れた耐久性を発揮することとなるのである。
【0058】
−「UV処理」−
「UV処理」において用いられる紫外線照射装置としては、従来より公知の紫外線照射装置であって、本発明の目的に応じたものであれば、如何なるものであっても使用可能であり、具体的には、アイグラフィックス株式会社製のUB031-2A/BM (商品名)等を例示することが出来る。
【0059】
また、「UV処理」を実施するに際しての紫外線の照射条件は、用いる紫外線照射装置の種類等に応じて適宜、決定されるが、一般には、照射強度:20〜150mW/cm2 程度、紫外線の光源と弾性層表面との距離:20〜80mm程度、照射時間:5〜360秒程度の条件が採用される。
【0060】
そして、上記した条件に従って、表面処理前ベルトの表面に紫外線(UV)を照射せしめると、かかる表面が効果的に改質され、以て、中間転写ベルト等として長期間、使用した場合にあっても、弾性層表面における亀裂の発生が効果的に抑制され得る、優れた耐久性を有する電子写真機器用無端ベルトが得られるのである。
【0061】
以上、本発明において、弾性層に対して実施される表面処理について詳述してきたが、各表面処理は、他の表面処理と比較して、それぞれ以下に述べる特徴を有する。即ち、「塩素処理」が施された弾性層表面は、低摩擦性に優れている。また「フッ素・塩素処理」が施された弾性層表面は、低摩擦性及びトナー離型性に優れている。更に「UV処理」が施された弾性層表面は、トナー離型性に優れている。弾性層表面の耐久性をより優れたものとするためには、「塩素処理」、「フッ素・塩素処理」又は「UV処理」の何れかが好ましい。「イソシアネート処理」は、弾性層表面に薄膜が形成され、イソシアネートと架橋ゴムとの反応が効果的に進行しない恐れがあるため、「イソシアネート処理」が施された弾性層表面は、他の処理が施された弾性層表面と比較して、耐久性が若干劣る。
【0062】
以上、本発明の一実施形態を詳述してきたが、本発明に係る電子写真機器用部材が上述した態様に限定されないことは、言うまでもないところである。即ち、本発明は、所定の導電性軸体の外周面上に、ゴム材料及び/又は合成樹脂材料を主成分とする機能層用材料を用いて、一又は二以上の機能層が積層形成されてなる電子写真機器用導電性ロールにおいても適用可能である。
【0063】
例えば、先ず、従来より公知の各種手法に従って、所定の機能層用材料を用いて、軸体の外周面上に一又は二以上の機能層を形成し、更に、前述の如きイソシアネート系硬化剤と所定のゴム材料とからなる弾性層用材料を用いて、最外層たる弾性層を形成することにより、表面処理前の電子写真機器用導電性ロールを作製する。その後、最外層たる弾性層の表面に対して、上述した手法の何れかに従って表面処理を施すことにより、本発明に従う電子写真機器用部材たる電子写真機器用導電性ロールが得られるのである。
【0064】
そのようにして得られた電子写真機器用導電性ロールにあっては、最外層たる弾性層が、ゴム材料とイソシアネート系硬化剤との結合によって形成された、所定の表面処理にも耐え得る強い骨格にて構成されており、且つ、かかる弾性層表面には所定の表面処理が施されている。従って、かかる電子写真機器用導電性ロールを、例えば、感光体と接した状態で用いられる現像ロールとして使用すると、長期間に亘る使用によっても弾性層表面における亀裂の発生は効果的に抑制され、以て、優れた耐久性を発揮することとなるのである。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0066】
A.無端ベルトの作製及び評価
−基層用材料の調製−
ポリアミドイミド樹脂(東洋紡績株式会社製、商品名:バイロマックスHR-16NN )を準備し、かかるポリアミドイミド樹脂の樹脂:100重量部と、カーボンブラック:10重量部とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP):800重量部に配合して、混合することにより、液状の基層用材料を調製した。
【0067】
−弾性層用材料の調製−
下記表1及び表2に示す組成にて各成分を配合し、混合することにより、液状の弾性層用材料を複数種、調製した。尚、各弾性層用材料の調製に際しては、溶媒として所定量のシクロヘキサノン(アノン)を用いた。また、表1及び表2の「溶媒比率(%)」とは、各弾性層用材料に含まれるシクロヘキサノン(アノン)の重量割合を示すものである。弾性層用材料の調製に際して使用した各成分は、以下の通りである。
・NBR(固形ゴム):ニポールDN101 (商品名)、日本ゼオン株式会社製
・COOH変性NBR(固形ゴム)
:ニポール1072J(商品名)、日本ゼオン株式会社製
・NH2 変性NBR(液状ゴム)
:ATBN1300×45(商品名)、エメラルド・パフォーマンス・マテリアルズ社製
・ブロックイソシアネート(イソシアネート系硬化剤)
・HDI系イソシアネート
:コロネート2507 (商品名)、日本ポリウレタン工業株式会社製
・IPDI系イソシアネート
:タケネートB874(商品名)、三井化学株式会社製
・樹脂架橋剤(フェノール樹脂)
:スミライトレジンPR-11078(商品名)、住友ベークライト株式会社製
・有機系難燃剤:ラビトルFP-390(商品名)、株式会社伏見製薬所製
・無機系難燃剤:キスマ5A(商品名)、協和化学工業株式会社製
【0068】
−ベルトの作製−
基体として、アルミニウム製の円筒状金型を準備する一方、2つのノズルを有するディスペンサ(液体定量吐出装置)を準備した。かかるディスペンサのノズルは、内径φ:1mmのニードルノズルである。次いで、先に準備した液状の基層用材料及び弾性層用材料を、それぞれ別のエアー加圧タンクに収容し、金型の外周面とノズルとのクリアランスを1mmとして、金型及びノズルをセットした。金型を垂直にした状態で、回転数:200rpmで軸中心に回転させながら、基層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度にて軸方向下方に移動させると共に、エアー加圧タンクに0.4MPaの圧力をかけて基層用材料をノズルに圧送し、かかるノズルから基層用材料を吐出せしめて、金型の外周面上にらせん状にコーティングし、らせん状塗膜の連続からなる全体塗膜を形成した。なお、形成された全体塗膜の厚さは80μmであった。形成された全体塗膜に対して、加熱処理(常温→250℃:2時間、250℃:1時間)を施すことにより、金型の外周面上に基層を形成せしめた。
【0069】
次いで、かかる基層が形成された金型を、回転数:200rpmで軸中心に回転させながら、弾性層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度にて軸方向に沿って移動させると共に、エアー加圧タンクに0.8MPaの圧力をかけて弾性層用材料をノズルに圧送し、かかるノズルから弾性層用材料を吐出せしめて、金型の外周面上にある基層の表面にらせん状にコーティングし、らせん状塗膜の連続からなる全体塗膜を形成した。なお、形成された全体塗膜の厚さは170μmであった。形成された塗膜に対して加熱処理(常温→170℃:表1及び表2に示す必要昇温時間、170℃:0.5時間)を施すことにより、金型の外周面上に、基層表面に弾性層が設けられてなるベルト(表面処理前ベルト)を作製した。尚、常温から170℃まで昇温させる際の時間(必要昇温時間)は、ゴム材料としてNBR(固形ゴム)又はCOOH変性NBR(固形ゴム)を用いたもの(実施例1及び12、比較例1及び2)については90分とし、ゴム材料としてNH2 変性NBR(液状ゴム)を用いたもの(実施例2〜11、13〜22)については5分とした。
【0070】
得られた表面処理前ベルトに対して、以下の手法に従って表面処理を施した。尚、表1及び表2に、各ベルトに対して実施した表面処理を併せて示す。
【0071】
−塩素処理(Cl処理)、フッ素・塩素処理(F・Cl処理)−
酢酸エチルとターシャリーブチルアルコール(TBA)との混合溶媒[酢酸エチル:TBA=9:1(重量比)]に、各成分を下に示す各割合で配合し、表面処理液A(固形分:2%)及び表面処理液B(固形分:2%)を調製した。
〔表面処理液A〕
・次亜塩素酸t−ブチル 2重量部
・酢酸エチル 9.8重量部
・ターシャリーブチルアルコール 88.2重量部
〔表面処理液B〕
・三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル錯体 2重量部
・酢酸エチル 9.8重量部
・ターシャリーブチルアルコール 88.2重量部
【0072】
塩素処理(Cl処理)においては表面処理液Aを、フッ素・塩素処理(F・Cl処理)においては表面処理液Aと表面処理液Bとの混合溶液を、それぞれ用いて、大気雰囲気中、室温下にて、所定のベルトの表面にローラー塗工せしめた後(塗工時間:30秒)、ベルト表面を水で洗浄し、エアーブローにより水滴を除去することにより、表面処理を行なった。
【0073】
−イソシアネート処理−
処理液として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の酢酸エチル溶液(濃度:50重量%)を用いて、大気雰囲気中、室温下にて、所定のベルトの表面にローラー塗工せしめた(塗工時間:30秒)後、80℃に保持されたオーブンで1時間、加熱することにより、表面処理を行なった。
【0074】
−UV処理−
アイグラフィックス株式会社製の紫外線照射機「UB031-2A/BM 」(商品名、水銀ランプ形式)を用いて、表面処理前ベルトの表面(弾性層の表面)に対して、周速:570〜590mm/secでベルトを回転させながら、照射強度:120mW/cm2 、紫外線照射機の光源と弾性層表面との距離:40mm、照射時間:180秒の条件にて紫外線を照射することにより、表面処理を行なった。
【0075】
以上の手順に従って、24種類の電子写真機器用無端ベルト(実施例1〜22、比較例1及び2)を作製した。
【0076】
得られた24種類の電子写真機器用無端ベルトについて、以下の測定及び/又は評価を行なった。
【0077】
−硬化性の評価−
得られたベルトから弾性層の一部を切り出して試料とし、各ベルトについて2つずつ、試料を準備した。各試料の重量を測定した後、一の試料をメチルイソブチルケトン(MIBK)に、他の一の試料をトルエンに、それぞれ4時間、浸漬し、その後に試料を取り出し、乾燥させて溶剤を除去した。かかる後、各試料の重量を測定した。そして、以下の式に従って、ゲル分率を算出した。各ベルトについて、1)MIBKに浸漬させた試料、及びトルエンに浸漬させた試料の何れもゲル分率が90%以上の場合には◎と、2)何れか一方の試料のゲル分率が90%以上であり、且つ他方の試料のゲル分率が80%以上90%未満である場合には○と、3)二つの試料のゲル分率が何れも80%以上90%未満である場合には△と、4)二つの試料のゲル分率が何れも80%未満である場合には×と、それぞれ評価した。各ベルトの評価結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
ゲル分率(%)
={[浸漬後の試料重量]/[浸漬前の試料重量]}×100
【0078】
−マルテンス硬度−
ISO 14577に準じて、微小硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製、商品名:H100)を用いて、ビッカース圧子により荷重:10mN、保持時間:30秒にて圧縮したときのマルテンス硬度(N/mm2 )を測定した。マルテンス硬度が4.0未満の場合には◎と、4.0以上4.5未満の場合は○と、4.5以上5.0未満の場合は△と、5.0以上の場合は×と、それぞれ評価した。各ベルトの評価結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
【0079】
−耐久性の評価−
各ベルトを、市販のフルカラーデジタル複合機(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製、bizhab C550 :商品名)に中間転写ベルトとして組み込み、23.5℃×53%RHの環境下で50000枚、画像出力(テストパターン印刷)を行なった。その後、ベルト表面(弾性層表面)を目視で観察し、クラックが全く認められないものを◎と、クラックは認められるものの、非常に微細であって画質に悪影響を与える程のものではないものを○と、画質に悪影響を与えるほどのクラックが認められるものを×と、それぞれ評価した。各ベルトの評価結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
【0080】
−難燃性の評価−
難燃剤を配合した弾性層用材料を用いて作製したベルト(実施例12〜22、比較例2)については、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ・INC.(UL)が規定したUL規格94(第5版、第11章)に準じたVTM燃焼性試験を行なった。なお、この試験における評価を下記表3に示すが、かかる表3から明らかなように、VTM−0が最も優れた評価であり、以下、VTM−1、VTM−2となる。VTM−0を満たす場合はAと、VTM−1以下の場合にはBとして、各ベルトを評価したところ、下記表2に示すように、難燃剤を配合した弾性層用材料を用いて作製したベルト(実施例12〜22、比較例2)は、全てAの評価であった。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
上記表1及び表2からも明らかなように、本発明に従う電子写真機器用部材たる電子写真機器用無端ベルト(実施例1〜22)にあっては、何れも、長期間に亘る使用によっても弾性層表面における亀裂の発生は効果的に抑制され、優れた耐久性を発揮することが認められたのである。
【0085】
B.導電性ロールの作製及び評価
−ベースゴム層用材料の調製−
SBR(JIS−A硬度20°):100重量部と、カーボンブラック:10重量部とを混合することにより、ベースゴム層用材料を調製した。
【0086】
−弾性層用材料の調製−
下記表4に示す組成にて各成分を配合し、混合することにより、液状の弾性層用材料を複数種、調製した。尚、各弾性層用材料の調製に際しては、溶媒として所定量のシクロヘキサノン(アノン)を用いた。また、表4の「溶媒比率(%)」とは、各弾性層用材料に含まれるシクロヘキサノン(アノン)の重量割合を示すものである。弾性層用材料の調製に際して使用した各成分は、前述の無端ベルト作製時に用いたものと同様である。
【0087】
−ロールの作製−
先ず、軸体として、直径:6mmのステンレス(SUS304)製の芯金を準備した。そして、先に調製したベース材料を用いて、金型成形により、芯金の外周面にベースゴム層が形成されたロール基体を作製した。尚、形成されたベースゴム層の厚さは3mmであった。
【0088】
その後、かかるロール基体の外周面に対して、先に調製した弾性層用材料を、ロールコート法により塗工して、芯金の外周面上にあるベースゴム層の表面に塗膜(ロールコート層)を形成した。なお、形成されたロールコート層(弾性層)の厚さは120μmであった。形成された塗膜に対して加熱処理(常温→170℃:表4に示す必要昇温時間、170℃:0.5時間)を施すことにより、芯金の外周面上に、ベースゴム層、弾性層が順に設けられてなるロール(表面処理前ロール)を作製した。尚、常温から170℃まで昇温させる際の時間(必要昇温時間)は、ゴム材料としてNBR(固形ゴム)又はCOOH変性NBR(固形ゴム)を用いたもの(実施例23、比較例3)については90分とし、ゴム材料としてNH2 変性NBR(液状ゴム)を用いたもの(実施例24〜33)については5分とした。
【0089】
得られた表面処理前ロールに対して、前述の無端ベルトの作製時と同様の手法に従って、表面処理を施した。尚、表4に、各ロールに対して実施した表面処理を併せて示す。
【0090】
以上の手順に従って、12種類の電子写真機器用導電性ロール(実施例23〜33、比較例3)を作製した。
【0091】
得られた12種類の電子写真機器用導電性ロールについて、以下の測定及び/又は評価を行なった。
【0092】
−硬化性の評価−
得られたロールから弾性層の一部を切り出して試料とし、各ロールについて2つずつ、試料を準備した。各試料の重量を測定した後、一の試料をメチルイソブチルケトン(MIBK)に、他の一の試料をトルエンに、それぞれ4時間、浸漬し、その後に試料を取り出し、乾燥させて溶剤を除去した。かかる後、各試料の重量を測定した。そして、以下の式に従って、ゲル分率を算出した。各ロールについて、1)MIBKに浸漬させた試料、及びトルエンに浸漬させた試料の何れもゲル分率が90%以上の場合には◎と、2)何れか一方の試料のゲル分率が90%以上であり、且つ他方の試料のゲル分率が80%以上90%未満である場合には○と、3)二つの試料のゲル分率が何れも80%以上90%未満である場合には△と、4)二つの試料のゲル分率が何れも80%未満である場合には×と、それぞれ評価した。各ロールの評価結果を、下記表4に併せて示す。
ゲル分率(%)
={[浸漬後の試料重量]/[浸漬前の試料重量]}×100
【0093】
−マルテンス硬度−
ISO 14577に準じて、微小硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製、商品名:H100)を用いて、ビッカース圧子により荷重:10mN、保持時間:30秒にて圧縮したときのマルテンス硬度(N/mm2 )を測定した。マルテンス硬度が4.0未満の場合には◎と、4.0以上4.5未満の場合は○と、4.5以上5.0未満の場合は△と、5.0以上の場合は×と、それぞれ評価した。各ロールの評価結果を、下記表4に併せて示す。
【0094】
−耐久性の評価−
各ロールを、プリンター(株式会社リコー製、商品名:CX3000)に帯電ロールとして組み込み、文字チャートを10000枚、出力し、画像出力耐久評価(テストパターン印刷)を行なった。その後、各色ハーフトーンでの画像出力評価、及びロール表面(弾性層表面)の目視観察を行ない、ロール表面にクラックが全く認められず、画像にも影響がないものを◎と、ロール表面にクラックは認められるものの、非常に微細であって画質に悪影響を与える程のものではないものを○と、ロール表面にクラックが認められ、わずかに画像に影響がみられるものを△、画質に悪影響を与えるほどのクラックが認められるものを×と、それぞれ評価した。各ロールの評価結果を、下記表4に併せて示す。
【0095】
【表4】

【0096】
上記表4からも明らかなように、本発明に従う電子写真機器用部材たる電子写真機器用導電性ロール(実施例23〜33)にあっては、何れも、長期間に亘る使用によっても弾性層表面における亀裂の発生は効果的に抑制され、優れた耐久性を発揮することが認められた。
【符号の説明】
【0097】
2 電子写真機器用無端ベルト 4 基層
6 弾性層 8 弾性層表面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート系硬化剤と、かかるイソシアネート系硬化剤と反応可能な官能基及び重合可能な不飽和結合を分子内に有するゴム材料とからなる弾性層用材料を用いて形成された弾性層を、最外層として有する電子写真機器用部材にして、
前記弾性層に対して、(A)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上を用いた表面処理、(B)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いた表面処理、(C)イソシアネートを用いた表面処理、又は、(D)紫外線による表面処理、が施されていることを特徴とする電子写真機器用部材。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【請求項2】
前記官能基がカルボキシル基又はアミノ基である請求項1に記載の電子写真機器用部材。
【請求項3】
前記ゴム材料が液状ゴムである請求項1又は請求項2に記載の電子写真機器用部材。
【請求項4】
前記弾性層用材料に難燃剤が配合されている請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電子写真機器用部材。
【請求項5】
電子写真機器用無端ベルトである請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電子写真機器用部材。
【請求項6】
電子写真機器用導電性ロールである請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電子写真機器用部材。


【図1】
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【公開番号】特開2011−248333(P2011−248333A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74922(P2011−74922)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】