説明

電子写真装置

【課題】 電子写真感光体の回転振れが抑制された電子写真装置を提供する。
【解決手段】 電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置が、電子写真感光体ユニットの長手方向の中心よりも、電子写真感光体を電子写真装置内で回転させる回転駆動力を出力するための出力ギアと噛合しうる入力ギアが取り付けられているフランジに取り付けられているベアリング側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体を有する電子写真装置は、例えば、複写機、ファクシミリ、プリンターとして広く利用されている。
【0003】
図2は、電子写真装置の構成の一例を示す図である。以下、図2を用いて、電子写真装置による画像形成プロセス(電子写真プロセス)を説明する。
【0004】
回転駆動機構(不図示)により、円筒状の電子写真感光体2001を回転させる。電子写真感光体2001の表面(外周面)に接触配置された帯電ローラー2002を有する帯電装置により、回転する電子写真感光体2001の表面を帯電する。その後、画像露光装置(不図示)により、電子写真感光体2001の表面に画像露光光2003を照射し、電子写真感光体2001の表面に静電潜像を形成する。その後、現像装置2004内のトナーにより、電子写真感光体2001の表面に形成された静電潜像を現像し、電子写真感光体2001の表面にトナー像を形成する。
【0005】
このトナー像を、転写装置2005により、電子写真感光体2001の表面から転写材2006に転写する。その後、電子写真感光体2001の表面から転写材2006を分離して、定着装置(不図示)により、トナー像を転写材2006に定着させる。
【0006】
トナー像が転写材2006に転写された後も電子写真感光体2001の表面に残留しているトナー(転写残トナー)は、電子写真感光体2001の表面に接触配置されたクリーニングブレード2009を有するクリーニング装置2007によって除去される。クリーニングブレード2009による転写残トナーの除去に先立ち、必要に応じて、磁気ブラシを有するマグネットローラー2008により、転写残トナーを摺擦する。
【0007】
その後、必要に応じて、前露光装置2010により、電子写真感光体2001の表面に前露光光を照射し、電子写真感光体2001の表面を除電する。
【0008】
以上のプロセスを繰り返すことで画像形成が連続的に行われる。
【0009】
このような電子写真装置においては、長期間の繰り返し使用に際しても、高画質を保つことが要求されている。
【0010】
しかしながら、電子写真感光体を長期間繰り返し使用すると、帯電ローラーやクリーニングブレードとの接触による機械的な負荷によって、電子写真感光体の表面には削れが生じてしまう。
【0011】
また、上記回転によって電子写真感光体の表面が振れてしまうと(以下「回転振れ」と表記する。)、帯電ローラーやクリーニングブレードとの接触が不均一になり、電子写真感光体の表面の削れにムラ(以下「削れムラ」と表記する。)が生じやすくなる。削れムラが生じると、電子写真感光体の表面の光透過量にムラが生じてしまうため、電子写真感光体の感度にムラ(以下「感度ムラ」と表記する。)が発生する。感度ムラが発生すると、画像形成時の電子写真感光体の表面の電位のムラが引き起こされ、出力画像に濃度ムラ(以下「画像濃度ムラ」と表記する。)が発生し、高画質を保てなくなる。
【0012】
特許文献1および2には、電子写真感光体の回転による振動や騒音を取り除くため、電子写真感光体の内部に防振材や消音材を入れる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−013704号公報
【特許文献2】特開2001−235971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、電子写真感光体の回転振れが抑制された電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、電子写真感光体の回転振れを抑制するために鋭意検討を行った結果、電子写真感光体の回転振れは、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心を電子写真感光体ユニットの長手方向の中心から回転駆動機構側に位置させることで抑制できることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、
円筒状の電子写真感光体、ならびに、該電子写真感光体の両端を電子写真装置内で回転自在に支持するための第一のベアリングおよび第二のベアリングを有する電子写真感光体ユニットと、
該電子写真感光体を電子写真装置内で回転させる回転駆動力を出力するための出力ギアを有する回転駆動機構と、
該電子写真感光体の表面に接触配置された帯電ローラーを有する帯電装置と、
画像露光装置と、
現像装置と、
転写装置と、
該電子写真感光体の表面に接触配置されたクリーニングブレードを有するクリーニング装置と
を有する電子写真装置であって、
該電子写真感光体ユニットが、該出力ギアと噛合しうる入力ギアをさらに有しており、
該電子写真感光体が、円筒状の基体、該基体上のアモルファスシリコンで構成された光導電層、ならびに、該基体の両端に嵌め込まれた第一のフランジおよび第二のフランジを有しており、
該第一のフランジに該第一のベアリングが取り付けられ、該第二のフランジに該第二のベアリングが取り付けられており、
該第一のフランジには該入力ギアは取り付けられておらず、該第二のフランジのみに該入力ギアが取り付けられており、
該電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置が、該電子写真感光体ユニットの長手方向の中心よりも該第二のベアリング側に位置する
ことを特徴とする電子写真装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電子写真感光体の回転振れが抑制された電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電子写真感光体ユニットの構成の一例を示す図(概略断面図)である。
【図2】電子写真装置の構成の一例を示す図(概略断面図)である。
【図3】電子写真感光体の層構成の一例を示す図(概略断面図)である。
【図4】電子写真感光体を作製するためのRFプラズマCVD法による堆積膜形成装置の構成の一例を示す図(概略断面図)である。
【図5】電子写真感光体ユニットと重心の測定方法を説明するための図である。
【図6】電子写真感光体ユニットの構成の一例を示す図(概略断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、電子写真感光体ユニットの構成の一例を示す図である。
【0020】
電子写真感光体ユニット1000は、主として、円筒状の電子写真感光体1001と、電子写真感光体1001の両端を電子写真装置内で回転自在に支持するための第一のベアリング10061および第二のベアリング10062を有している。ここで、「ベアリング」とは「軸受け」と同義である。電子写真感光体1001は、円筒状の基体(不図示)の両端に嵌め込まれた第一のフランジ1002および第二のフランジ1003を有している。なお、図1の例では、第一のフランジ1002および第二のフランジ1003は、基体(不図示)の長手方向の外向きに突き出した軸部10021および10031をそれぞれ有している。第一のベアリング10061は、第一のフランジ1002(の軸部10021)に取り付けられており、第二のベアリング10062は、第二のフランジ1003(の軸部10031)に取り付けられている。さらに、電子写真感光体ユニット1000は、ステー1005、ステー1005に取り付けられた重り1012、ならびに、第一のフランジ1002および第二のフランジ1003とステー1005とを接続するためのネジ10041〜10044を有している。電子写真感光体1001の両端の内面は、インロー加工が施され、インロー加工部10081および10082が形成されている。第一のフランジ1002および第二のフランジ1003は、それぞれ、インロー加工部10081および10082に嵌められ、ネジ10041〜10044によってステー1005と締結されており、電子写真感光体1001を挟むようにして固定されている。
【0021】
また、図1中、Aは、電子写真感光体ユニット1000の長手方向の長さであり、第一のベアリング10061の中心から第二のベアリング10062の中心までの距離である。第一のベアリング10061の中心と第二のベアリング10062の中心を結んだ線を2等分した位置が、電子写真感光体ユニット1000の長手方向の中心1011である。後述の実施例および比較例では、ベアリングとして転がり軸受け(ボールベアリング)を用いたが、転がり軸受け(ボールベアリング)以外のベアリング(例えば、すべり軸受け)を用いることもできる。その場合、電子写真感光体ユニットの両端に設置されたすべり軸受けと軸とが接する部分のそれぞれの中心を結んだ線を2等分する位置が、電子写真感光体ユニットの長手方向の中心となる。このように、電子写真感光体ユニットの長手方向の中心とは、第一のベアリングおよび第二のベアリングの中心同士を結んだ線を2等分する位置のことである。
【0022】
また、図1中、1010は、電子写真感光体ユニット1000の長手方向の重心である。Bは、電子写真感光体ユニット1000の中心1011から電子写真感光体ユニット1000の長手方向の重心1010までの距離である。
【0023】
また、図1中、第二のフランジ1003(の軸部10031)のみに、入力ギア1007が取り付けられている。入力ギア1007は、電子写真感光体1001を電子写真装置内で回転させる回転駆動力を出力するための出力ギア1009に噛合しうるギアである。電子写真感光体1001を電子写真装置内で回転させる回転駆動力は、回転駆動機構(不図示)から出力ギア1009および入力ギア1007を介して、電子写真感光体1001に伝達される。入力ギア1007は、第一のフランジ1002には取り付けられていない。つまり、電子写真感光体ユニット1000は、長手方向の一方のみにて、回転駆動機構(不図示)の出力ギア1009に入力ギア1007を介して接続されている。電子写真感光体ユニットが長手方向の一方のみで回転駆動機構の出力ギアに接続されている理由は、メンテナンス時に電子写真装置からの電子写真感光体ユニットの取り外しが容易となるからであり、そのような構成を採ることが一般的である。
【0024】
そして、本発明においては、電子写真感光体ユニット1000の長手方向の重心1010は、電子写真感光体ユニット1000の中心1011よりも第二のベアリング10062側に位置している。
【0025】
以上の構成とすることで、電子写真感光体ユニットの回転振れを抑制することができる理由を以下に説明する。
【0026】
上述のとおり、一般的に、電子写真感光体ユニットは、長手方向の一方のみにて電子写真感光体を回転させるための回転駆動機構に接続され、長手方向の他方(回転駆動機構の反対側)は支持されてはいるが回転駆動機構には接続されていないという構成が採られる。このような構成においては、電子写真感光体ユニットの回転駆動機構の反対側(第一のベアリング側)は、回転駆動機構側(第二のベアリング側)に比べて外力に対して弱い構造になっている。そのため、電子写真感光体(電子写真感光体ユニット)を回転させると、回転駆動機構の反対側は、回転駆動機構から電子写真感光体(電子写真感光体ユニット)に与えられる回転駆動力によって軸心のずれが大きくなり、回転振れが大きくなる。
【0027】
ここで、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置が、電子写真感光体ユニットの長手方向の中心よりも第二のベアリング側、すなわち回転駆動機構側に偏って位置していれば、電子写真感光体ユニットの荷重が、外力に対して強い構造になっている回転駆動機構側に偏ることになる。そのため、回転駆動機構の反対側のモーメントが相対的に減少し、電子写真感光体を電子写真装置内で回転させたときの軸心のずれが減少することによって、電子写真感光体の回転振れが抑制される。
【0028】
電子写真感光体の回転振れを抑制する観点から、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置は、電子写真感光体ユニットの長手方向の中心よりも第二のベアリング側、すなわち回転駆動機構側に偏っているほどよい。しかしながら、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置を回転駆動機構側に偏らせるほど、重心の位置を調節するための重りが多く必要になり、回転駆動機構にかかる負荷が大きくなる傾向がある。したがって、上述のように定義される電子写真感光体ユニットの長手方向の長さA、および、電子写真感光体ユニットの長手方向の中心から電子写真感光体ユニットの長手方向の重心までの距離Bは、0.04≦B/A≦0.13の関係を満足することが好ましい。
【0029】
電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置を測定する方法としては、例えば、図5に示すように、電子写真感光体ユニット1000の第一のベアリング10061および第二のベアリング10062の下にそれぞれ重量測定器10131および10132を設置し、それぞれの重量を測定する方法を採用することができる。すなわち、それらの重量の比から、電子写真感光体ユニット1000の長手方向の重心の位置を求めることができる。
【0030】
電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置を調節する方法としては、上述のステー1005に重り1012を取り付ける方法のほか、電子写真感光体1001の両端の内面に形成するインロー加工部の深さを両端で変える方法などが挙げられる。
【0031】
電子写真感光体(電子写真感光体ユニット)の電子写真装置内における回転速度は、小さいほど、本発明の効果が顕著に得られる。
【0032】
クリーニング装置におけるクリーニングブレードの支持方法に関しては、電子写真感光体の回転振れに対してクリーニングブレードを追従させる機能のついていない支持方法を採用した場合に、本発明の効果が顕著に得られる。これは、電子写真感光体の回転振れに対してクリーニングブレードを追従させる機能がない場合、電子写真感光体の回転振れが発生すると、電子写真感光体の表面に対するクリーニングブレードの当接圧(接触圧力)が変動しやすく、電子写真感光体の削れムラがより生じやすくなるためである。
【0033】
また、電子写真感光体に関しては、アモルファスシリコン(以下「a−Si」と表記する。)で構成された光導電層を有する電子写真感光体(以下「a−Si感光体」と表記する。)を使用する場合に、本発明の効果が顕著に得られる。これは、a−Si感光体は、各種の電子写真感光体の中でも非常に安定性が高いものであるため、表面の削れムラが感度ムラおよび画像濃度ムラを引き起こす最大の原因となる場合が多いからある。また、電子写真感光体の表面は、削れやすい方が、本発明の効果が顕著に得られる。
【0034】
図3は、電子写真感光体の層構成の一例を示す図(概略断面図)である。図3に示す層構成の電子写真感光体には、円筒状の基体3001の上に、基体3001から光導電層3003への電荷の注入の阻止を目的とした電荷注入阻止層3002が設けられており、その上に光導電層3003および表面層3004が順に設けられている。
【0035】
基体は導電性を有するもの(導電性基体)が好ましく、その材料としては、Al、Cr、Mo、Au、In、Nb、Te、V、Ti、Pt、Pd、Feなどの金属や、これらの合金(例えば、アルミニウム合金やステンレス鋼など)などが挙げられる。これらの中でも、加工性や製造コストの観点から、アルミニウム合金が好ましく、具体的には、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金が好ましい。
【0036】
表面層の材料としては、アモルファス炭化ケイ素、アモルファス窒化ケイ素、アモルファス酸化ケイ素などの、炭素原子、窒素原子および酸素原子の少なくとも1種とケイ素原子とを含有する材料が挙げられる。
【0037】
図4は、電子写真感光体(a−Si感光体)を作製するためのRFプラズマCVD法による堆積膜形成装置の構成の一例を示す図(概略断面図)である。
【0038】
図4に示す堆積膜形成装置は、大別すると、反応容器4110を有する堆積装置4100、原料ガス供給装置4200、および、反応容器4110内を減圧するための排気装置(不図示)から構成されている。
【0039】
堆積装置4100中の反応容器4110内には、アースに接続された基体4112、基体加熱用ヒーター4113、および、原料ガス導入管4114が設置されている。さらに、カソード電極4111には、高周波マッチングボックス4115を介して高周波電源4120が接続されている。
【0040】
原料ガス供給装置4200は、主として、SiH、H、CH、NO、Bなどの原料ガスのボンベ4221〜4225、バルブ4231〜4235、圧力調整器4261〜4265、流入バルブ4241〜4245、流出バルブ4251〜4255、および、マスフローコントローラー4211〜4215から構成されている。各原料ガスを封入したボンベは、補助バルブ4260を介して反応容器4110内の原料ガス導入管4114に接続されている。4116はガス配管である。
【0041】
次に、この堆積膜形成装置を使った堆積膜の形成方法について説明する。
【0042】
まず、あらかじめ脱脂洗浄した基体4112を反応容器4110に受け台4123を介して設置する。次に、排気装置(不図示)を運転し、反応容器4110内を排気する。真空計4119の表示を見ながら、反応容器4110内の圧力が所定の圧力(例えば1Pa以下)になったところで、基体加熱用ヒーター4113に電力を供給し、基体4112を所定の温度(例えば50〜350℃)に加熱する。このとき、ガス供給装置4200より、Ar、Heなどの不活性ガスを反応容器4110に供給して、不活性ガス雰囲気中で加熱を行うこともできる。
【0043】
次に、ガス供給装置4200より堆積膜形成に用いる原料ガスを反応容器4110に供給する。すなわち、必要に応じて、バルブ4231〜4235、流入バルブ4241〜4245、流出バルブ4251〜4255を開き、マスフローコントローラー4211〜4215に流量設定を行う。各マスフローコントローラーの流量が安定したところで、真空計4119の表示を見ながらメインバルブ4118を操作し、反応容器4110内の圧力が所定の圧力になるように調整する。所定の圧力が得られたところで高周波電源4120より高周波電力を印加するとともに高周波マッチングボックス4115を操作し、反応容器4110内にプラズマ放電を生起する。その後、速やかに高周波電力を所定の電力に調整し、堆積膜の形成を行う。4121は絶縁材料である。
【0044】
所定の堆積膜の形成が終わったところで、高周波電力の印加を停止し、バルブ4231〜4235、流入バルブ4241〜4245、流出バルブ4251〜4255、および、補助バルブ4260を閉じ、原料ガスの供給を終える。それとともに、メインバルブ4118を全開にし、反応容器4110内を所定の圧力(例えば1Pa以下)まで排気する。
【0045】
以上で、堆積膜の形成を終えるが、複数の堆積膜を形成する場合、上記の手順を繰り返してそれぞれの堆積膜を形成すればよい。原料ガスの流量や圧力などを一定の時間で変化させて、堆積膜間の接合領域の形成を行うこともできる。
【0046】
すべての堆積膜の形成が終わった後、メインバルブ4118を閉じ、リークバルブ4117を開いて、反応容器4110内に不活性ガスを導入し、大気圧に戻した後、表面に堆積膜が形成された基体4112を取り出す。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
電子写真感光体用の導電性の円筒状の基体(以下単に「基体」ともいう。)の材料として、内径74mm、長さ358mmのアルミニウム製の管材を使用した。
【0049】
管材の両端部の内周面に深さ13mm、内径76mmのインロー加工を施した。このインロー加工を施した管材を外周面加工用旋盤にセットし、インロー加工面を基準として管材の外周面を切削加工し、外径80mmの管材を得た。これを電子写真感光体用の基体とした。
【0050】
上記基体を用い、図4に示す堆積膜形成装置を用い、表1に示す条件で、電子写真感光体を4つ作製した。
【0051】
作製したそれぞれの電子写真感光体を2つのフランジ(第一のフランジおよび第二のフランジ)で挟み込み、概ね図1に示す構成の電子写真感光体ユニットを4つ作製した。そして、表2に示すように4つの電子写真感光体ユニットに関してステーに取り付ける重りの位置をそれぞれ変え、いずれも電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置が回転駆動機構側に寄るように調節した。重りは400gの重りを用いた。重りを取り付けていない状態での電子写真感光体ユニットの質量は1600gである。重りの位置は、電子写真感光体ユニットの長手方向の中心を0とし、中心よりも回転駆動機構側を+側とし、中心よりも回転駆動機構の反対側を−側とした。
【0052】
【表1】

【0053】
(比較例1)
実施例1と同様にして電子写真感光体ユニットを2つ作製した。そして、表2に示すように2つの電子写真感光体ユニットに関してステーに取り付ける重りの位置をそれぞれ変え、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置が、電子写真感光体ユニットの長手方向の中心または中心よりも回転駆動機構の反対側に位置するように調節した。
【0054】
(実施例1と比較例1の評価)
回転振れ、削れムラ、画像濃度ムラの評価を行うため、評価用の電子写真装置として、概ね図2に示す構成のキヤノン(株)製の複写機(商品名:iR5075)の改造機を用いた。この電子写真装置は、帯電装置を電子写真感光体の表面に接触配置される帯電ローラーを有するものに変更し、回転駆動機構による回転速度(電子写真感光体の回転速度)を80rpmとし、画像露光装置として発振波長635nmのレーザー光源を用い、1200dpiの解像度で画像出力を行うように改造したものである。これらのほか、この電子写真装置は、現像装置、転写装置、電子写真感光体の表面に接触配置されるクリーニングブレードを有するクリーニング装置を有している。
【0055】
以下に、回転振れ、削れムラ、画像濃度ムラの評価方法を示す。
【0056】
(回転振れの評価方法)
作製した電子写真感光体ユニットを上記電子写真装置に設置した。設置した電子写真感光体ユニットを80rpmの速さで回転させ、変位センサー(KEYENCE:EX201、EX305)によって回転振れの大きさを測定した。測定箇所は、電子写真感光体の長手方向9点(電子写真感光体の長手方向の中心を基準として、回転駆動機構側を+としたときに、0mm、±50mm、±90mm、±130mm、±150mm)である。B/A=0としたときの回転振れの値を100としたときの相対値で比較した。評価結果としては、相対値の数字が小さいほどよいことを意味し、相対値が100未満で本発明の効果が得られていることを意味する。また、相対値が90以下で本発明の効果が顕著に得られていると判断した。結果を表2に示す。
【0057】
(削れムラの評価方法)
作製直後の電子写真感光体の表面層の膜厚を電子写真感光体の任意の周方向で長手方向9点(電子写真感光体の長手方向の中心を基準として、0mm、±50mm、±90mm、±130mm、±150mm)、および、上記任意の周方向から90°刻みで回転させ、周方向4点測定した。つまり、長手方向9点×周方向4点の合計36点を測定した。
【0058】
表面層の膜厚を測定した後、連続通紙試験を実施した。具体的には、上述のようにして電子写真感光体ユニットを作製し、上記電子写真装置を用い、印字率1%のA4テストパターンを用いて、1日当たり5万枚の連続通紙試験を40日間実施して200万枚まで行った。200万枚の連続通紙試験が終了した後、電子写真感光体ユニットを電子写真装置から取り出した。取り出した電子写真感光体ユニットの電子写真感光体の表面層の膜厚を、作製直後と同じ測定位置で、作製直後と同様にして、測定した。そして、作製直後および連続通紙試験後の表面層の膜厚から差分を求め、200万枚の連続通紙試験による削れ量を算出した。測定した36点のうちの最も削れ量が多かった点と最も削れ量が少なかった点の差分を削れムラの指標とした。B/A=0としたときの削れムラの値を100としたときの相対値で比較した。評価結果としては、相対値の数字が小さいほどよいことを意味し、相対値が100未満で本発明の効果が得られていることを意味する。また、相対値が90以下で本発明の効果が顕著に得られていると判断した。結果を表2に示す。
【0059】
以下、表面層の膜厚の測定方法について詳細に説明する。
【0060】
まず、基体(導電性の円筒状の基体)上に電荷注入阻止層および光導電層のみを形成してなるリファレンス電子写真感光体を作製し、任意の周方向における長手方向の中央部を15mm四方の正方形で切り出し、リファレンス試料を作製した。次に、基体上に電荷注入阻止層、光導電層および表面層を形成してなる電子写真感光体(膜厚測定対象の電子写真感光体)についても、15mm四方の正方形を同様に切り出し、測定用試料を作製した。
【0061】
次に、リファレンス試料と測定用試料に関して分光エリプソメトリー(J.A.Woollam社製:高速分光エリプソメトリーM−2000)による測定を行い、表面層の屈折率を求めた。
【0062】
分光エリプソメトリーの具体的な測定条件は、入射角:60°、65°、70°、測定波長:195nmから700nm、ビーム径:1mm×2mmである。
【0063】
まず、リファレンス試料に関して、分光エリプソメトリーにより各入射角における波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を求めた。
【0064】
次に、リファレンス試料の結果をリファレンスとして、測定用試料に関しても、リファレンス試料と同様に分光エリプソメトリーにより各入射角における波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を求めた。
【0065】
さらに、基体上に電荷注入阻止層、光導電層および表面層を順次形成してなり、かつ、最表面に表面層と空気層が共存する粗さ層を有する層構成を計算モデルとして用いた。そして、解析ソフトにより粗さ層の表面層と空気層の体積比を変化させて、各入射角における波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を計算により求めた。この計算モデルにより表面層の屈折率を算出し、得られた値を表面層の屈折率とした。なお、解析ソフトとしては、J.A.Woollam社製のWVASE32を用いた。また、粗さ層の表面層と空気層の体積比に関しては、表面層:空気層を10:0から1:9まで粗さ層における空気層の比率を1ずつ変化させて計算をした。実施例1で作製されたa−Si感光体においては、粗さ層の表面層と空気層の体積比が8:2のときに計算によって求められた波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係と測定して求められた波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係の平均二乗誤差が最小となった。このことは、粗さ層の表面層と空気層の体積比が8:2のときに計算値の精度が高いことを意味し、この体積比を用いて屈折率を計算した。
【0066】
次に、2mmのスポット径で電子写真感光体の表面に垂直に光を照射し、大塚電子(株)製の分光計(商品名:MCPD−2000)を用いて、反射光の分光測定を行った。得られた反射波形をもとに表面層の膜厚を算出した。このとき、波長範囲を500nmから750nmとし、光導電層の屈折率を3.30とし、表面層の屈折率は、上述した分光エリプソメトリーの測定より求めた値を用いた。
【0067】
(画像濃度ムラの評価方法)
上記電子写真装置に200万枚の連続通紙試験後の電子写真感光体(電子写真感光体ユニット)を設置し、テキストモードを用いて画像比率50%のハーフトーン画像をA3用紙に3枚出力した。削れムラ評価時に表面層の膜厚を測定した位置と出力した画像位置とが一致する場所の画像濃度を、X−RiteInc製の反射濃度計(商品名:504分光濃度計)により測定した。各測定個所で画像濃度の平均値を求めた。そして、最も画像濃度が高い値と、最も低い値の差を画像濃度ムラとした。B/A=0としたときの画像濃度ムラの値を100としたときの相対値で比較した。評価結果としては、相対値の数字が小さいほどよいことを意味し、相対値が100未満で本発明の効果が得られていることを意味する。また、相対値が90以下で本発明の効果が顕著に得られていると判断した。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2より、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置を電子写真感光体ユニットの長手方向の中心から回転駆動機構側に位置させることによって、電子写真感光体ユニットの回転振れ、削れムラ、画像濃度ムラが抑制されることがわかる。また、B/Aが大きくなるに従って、回転振れが抑制されることがわかる。重りを最も回転駆動機構側に寄るように取り付けたときのB/Aは0.08であり、実施例1においてとりうるB/Aの最大値である。
【0070】
また、表2より、回転振れが抑制されれば、削れムラおよび画像濃度ムラが抑制されることがわかる。以下、評価は回転振れのみ行った。
【0071】
(実施例2)
実施例1と同様にして電子写真感光体ユニットを3つ作製した。そして、電子写真感光体ユニットに取り付ける重りの位置を、いずれも最も回転駆動機構側に寄る位置にして重りを固定した。そして、それぞれ重りの質量を表3に示すようにして、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置を調節した。
【0072】
実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
表2および3より、B/Aの値が同じでも、重りの質量が軽くなるに従って、回転振れが抑制されることがわかる。また、表2および3の中で、実施例2のB/A=0.13のときに回転振れが最も抑制されたことから、重りの質量による影響よりも、B/Aの値の影響の方が大きいことがわかる。
【0075】
(実施例3)
実施例1と同様にして電子写真感光体ユニットを6つ作製した。そして、電子写真感光体ユニットに取り付ける重りの位置を、いずれも最も回転駆動機構側に寄る位置にして重りを固定した。そして、それぞれ重りの質量を表4に示すようにして、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置を調節した。
【0076】
実施例1と同様にして評価を行った。その際、電子写真感光体ユニットの回転速度はそれぞれ表4に示すようにした。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
表4より、電子写真感光体(電子写真感光体ユニット)の電子写真装置内における回転速度が小さくなるに従って、回転振れが抑制されることがわかる。
【0079】
(実施例4)
基体(導電性の円筒状の基体)の材料として内径27.6mm、外径30mm、長さ370mmのアルミニウム製の管材を使用し、かつ、管材の両端部の内周面にインロー加工を施さなかった以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を6つ作製した。
【0080】
作製したそれぞれの電子写真感光体を用いて、概ね図6に示す構成の電子写真感光体ユニットを6つ作製した。具体的には、電子写真感光体6001を第一のフランジ6002および第二のフランジ6003で挟み込み、電子写真感光体ユニット6000を作製した。第一のフランジ6002(の軸部60021)には、第一のベアリング60041を取り付け、第二のフランジ6003(の軸部60031)には、第二のベアリング60042を取り付け、第二のベアリング60042には、入力ギア6005を取り付けた。入力ギア6005は、電子写真感光体6001を電子写真装置内で回転させる回転駆動力を出力するための出力ギア6010に噛合しうるギアである。電子写真感光体6001を電子写真装置内で回転させる回転駆動力は、回転駆動機構(不図示)から出力ギア6010および入力ギア6005を介して、電子写真感光体6001に伝達される。電子写真感光体ユニット6000にはステーは取り付けられてない。プレート状の重り6006を第二のフランジ6003にネジ60071および60072を用いて取り付けた。電子写真感光体ユニット6000の長手方向の中心6009および電子写真感光体ユニットの長手方向の重心6008は、実施例1(図1)と同様にして求めた。重りのついていない状態での電子写真感光体ユニットの質量は130gである。
【0081】
それぞれ重りの質量を表5に示すようにして、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置を調節した。
【0082】
評価用の電子写真装置を、概ね図2に示す構成のキヤノン(株)製の複写機(商品名:GP405)の改造機に変更した以外は、実施例1と同様にして評価を行った。その際、電子写真感光体ユニットの回転速度はそれぞれ表5に示すようにした。結果を表5に示す。
【0083】
【表5】

【0084】
(実施例5)
基体(導電性の円筒状の基体)の材料として内径98mm、外径108mm、長さ358mmのアルミニウム製の管材を使用し、管材の両端部の内周面に深さ13mm、内径100mmのインロー加工を施した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を6つ作製し、それらを用いて電子写真感光体ユニットを6つ作製した。重りのついていない状態での電子写真感光体ユニットの質量は3900gである。
【0085】
電子写真感光体ユニットに取り付ける重りの位置を、いずれも最も回転駆動機構側に寄る位置に固定した。そして、それぞれ重りの質量を表6のようにして、電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置を調節した。
【0086】
評価用の電子写真装置を、概ね図2に示す構成のキヤノン(株)製の複写機(商品名:IR105)の改造機に変更した以外は、実施例1と同様にして評価を行った。その際、電子写真感光体ユニットの回転速度はそれぞれ表6に示すようにした。結果を表6に示す。
【0087】
【表6】

【0088】
表2〜6より、基体の外径(電子写真感光体の外径)が異なっていても、本発明の効果が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0089】
1000 電子写真感光体ユニット
1001 電子写真感光体
1002 第一のフランジ
10021 第一のフランジの軸部
1003 第二のフランジ
10031 第二のフランジの軸部
10041〜10044 ネジ
1005 ステー
10061 第一のベアリング
10062 第二のベアリング
1007 入力ギア
10081、10082 インロー加工部
1009 出力ギア
1010 電子写真感光体ユニットの長手方向の重心
1011 電子写真感光体ユニットの長手方向の中心
1012 重り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の電子写真感光体、ならびに、該電子写真感光体の両端を電子写真装置内で回転自在に支持するための第一のベアリングおよび第二のベアリングを有する電子写真感光体ユニットと、
該電子写真感光体を電子写真装置内で回転させる回転駆動力を出力するための出力ギアを有する回転駆動機構と、
該電子写真感光体の表面に接触配置された帯電ローラーを有する帯電装置と、
画像露光装置と、
現像装置と、
転写装置と、
該電子写真感光体の表面に接触配置されたクリーニングブレードを有するクリーニング装置と
を有する電子写真装置であって、
該電子写真感光体ユニットが、該出力ギアと噛合しうる入力ギアをさらに有しており、
該電子写真感光体が、円筒状の基体、該基体上のアモルファスシリコンで構成された光導電層、ならびに、該基体の両端に嵌め込まれた第一のフランジおよび第二のフランジを有しており、
該第一のフランジに該第一のベアリングが取り付けられ、該第二のフランジに該第二のベアリングが取り付けられており、
該第一のフランジには該入力ギアは取り付けられておらず、該第二のフランジのみに該入力ギアが取り付けられており、
該電子写真感光体ユニットの長手方向の重心の位置が、該電子写真感光体ユニットの長手方向の中心よりも該第二のベアリング側に位置する
ことを特徴とする電子写真装置。
【請求項2】
前記電子写真感光体ユニットの長手方向の長さをAとし、前記電子写真感光体ユニットの長手方向の中心から前記電子写真感光体ユニットの長手方向の重心までの距離をBとしたとき、0.04≦B/A≦0.13の関係を満足する請求項1に記載の電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−255933(P2012−255933A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129157(P2011−129157)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】