説明

電子線走査用電源装置

【課題】走査コイルに駆動電流を供給するハーフブリッジ回路に印加される正負電圧のバランスを安定化させることにより、電子線走査の安定化、高精度化を図る。
【解決手段】直流電源18の正極とGNDとの間、GNDと負極との間に電解コンデンサ33、34を設け、通常状態では±VCC/2をハーフブリッジ回路30に印加する。例えば電解コンデンサ33の両端電圧が下がり、電解コンデンサ34の両端電圧が上がると、MOSFET41がオンしたときに電解コンデンサ34からトランス42の1次巻線L1に電流が流れ、同一巻線数の2次巻線L2に同電圧が生起される。そして、リアクトル43、ダイオード44を介して電解コンデンサ33に電流が流れ込み、電解コンデンサ33は充電される。その結果、電解コンデンサ33、34のそれぞれの両端電圧は速やかにVCC/2に戻る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線(電子ビーム)を1次元的又は2次元的に走査するための走査コイルを駆動する電子線走査用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小径に絞った電子線を1次元的又は2次元的に走査する電子線走査装置は、電子線描画装置(電子線露光装置)、電子線蒸着装置、走査型電子顕微鏡など様々な装置で使用されている(例えば特許文献1など参照)。多くの場合、電子線の走査は走査コイルで生成される磁場によってなされ、走査コイルに駆動電流を供給する駆動回路には一般にB級アンプが用いられている。しかしながら、B級アンプでは走査コイルに入力された電力の殆どがアンプ回路のトランジスタで消費されてしまうため、電力効率があまり良好でないという問題がある。
【0003】
こうした問題を解決するために、従来、高周波スイッチングアンプ(いわゆるD級アンプ)を用いた電子線走査駆動装置が知られている(特許文献2参照)。これには、大別して、フルブリッジ回路方式とハーフブリッジ回路方式とがある。
【0004】
図4はフルブリッジ回路によるインバータ駆動方式の回路の概略構成図である。図4において、電子線を走査するための走査コイル23に流れる電流は電流検出器22により検出され、誤差アンプ10はその検出信号と走査制御用の入力信号との誤差信号を出力する。この誤差信号はコンパレータ11、12において三角波や鋸波などのキャリア信号と比較され、各コンパレータ11、12からPWM(パルス幅変調)信号が出力される。直流電源18とGND(接地点)との間に接続されたフルブリッジ回路17は4個のパワーMOSFET171、172、173、174により構成され、コンパレータ11、12によるPWM信号は、非反転ゲート13、15及び反転ゲート14、16を通してパワーMOSFET171〜174のゲート端子に供給される。フルブリッジ回路17の2つのブリッジアームの中点は、高周波平滑用のリアクトル19、コンデンサ20を介し走査コイル23に接続される。
【0005】
誤差アンプ10による誤差信号がキャリア信号よりも大きい場合、コンパレータ12はレベルが「1」、コンパレータ11はレベルが「0」、のPWMパルスを出力する。このとき、パワーMOSFET172、173はオン、パワーMOSFET171、174はオフし、走査コイル23には下向きの駆動電流が流れる。他方、誤差信号がキャリア信号よりも小さい場合には、走査コイル23に上向きの駆動電流が流れる。
【0006】
一般的に、電流検出器22としてはホール素子を用いた直流電流検出器(DCCT)が用いられるが、DCCTによる電流検出精度は比較的低い。そのため、安定的に精度の高い電子線走査を行うことは困難である。走査コイル23に流れる電流を検出するためにDCCTの代わりにシャント抵抗を用いることも考えられるが、上記のようなフルブリッジ回路の場合、シャント抵抗の両端はともにGNDに対して浮いた状態にある。このような状態のシャント抵抗の両端電位差は差動アンプにより検出可能ではあるものの、差動アンプを用いても同相電圧の除去はできない。そのため、やはり電流検出の精度が低く、安定した電子線走査を行うことは難しい。
【0007】
これに対し、ハーフブリッジ回路の場合には、正電源電圧と負電源電圧との中点を接地電位とすることができるため、シャント抵抗により直接的に、つまり差動アンプを用いることなく電流を検出することができる。そのため、電流の検出精度の向上には有利である。しかしながら、特に上記のような用途の電子線走査装置では、複雑な走査が要求され、走査コイルに高周波電流を流すだけでなく直流電流を流す場合や数Hz程度の低周波電流を流す場合もあり、このような駆動を行った場合に、高周波平滑用のリアクトルに蓄積されていたエネルギが正負いずれかの側のブリッジアームに放出され、その側で電圧が上昇してブリッジのバランスが崩れてしまう。その結果、所望の電子線走査ができなくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−270390号公報
【特許文献2】特開2001−169138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、走査コイルに流す高周波電流に直流電流を重畳する場合、低周波駆動する場合、入力電源電圧が変動する場合等の状況においても、安定し且つ精度の高い電子線走査が可能な電子線走査用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、電子線を1次元的又は2次元的に走査する走査コイルに駆動電流を供給するために、直流電源の正極と負極との間に接続された直列の2個のスイッチング素子を含むハーフブリッジ回路と、その2個のスイッチング素子の直列接続点にリアクトルを介して接続された走査コイルと、該走査コイルに流れる電流を検出するための抵抗器と、該抵抗器による検出電圧に応じて前記ハーフブリッジ回路のスイッチング素子をオン・オフさせるPWM信号を生成するPWM駆動回路部と、を具備する電子線走査用電源装置において、
a)前記直流電源の正極と接地点との間、及び、接地点と前記直流電源の負極との間にそれぞれ設けられた一対の電解コンデンサと、
b)前記一対の電解コンデンサのそれぞれの両端電圧のバランスを監視し、一方の電解コンデンサの両端電圧が前記直流電源電圧の1/2よりも大きくなったときに、該電解コンデンサから流出した電流が他方の電解コンデンサに流入する電流経路を有するエネルギ移動手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る電子線走査用電源装置において、定常的な動作状態では、対である各電解コンデンサの両端電圧は直流電源電圧VCCの略半分のVCC/2に維持され、ハーフブリッジ回路のブリッジアームの両端には±VCC/2の電源電圧が印加される。これにより、ハーフブリッジ回路の2個のスイッチング素子はバランスがとれた状態で動作する。何らかの原因で対である電解コンデンサの一方の両端電圧が下がった場合、その下がった電圧分だけ、他方の電解コンデンサの両端電圧が上昇する。すると、エネルギ移動手段が機能し、両端電圧が上がった側の電解コンデンサから両端電圧が下がった側の電解コンデンサに電流が送られる。この電流の流れ込みにより、後者の電解コンデンサは充電されて両端電圧が上昇し、前者の電解コンデンサの両端電圧が下がる。これにより、各電解コンデンサの両端電圧は速やかにそれぞれVCC/2に戻される。
【0012】
本発明に係る電子線走査用電源装置において、前記エネルギ移動手段の具体的な一態様として、
前記直流電源の正極と負極との間に接続された直列の2個の補助スイッチング素子と、
前記直流電源の正極と負極との間に接続された直列の2個のダイオードと、
前記2個の補助スイッチング素子を交互にオンさせる駆動信号を供給する駆動信号生成手段と、
前記2個の補助スイッチング素子の接続点と接地点との間に接続された1次巻線と、該1次巻線と同一巻線数で逆極性であり、一端が電流制限素子を介して前記2個のダイオードの接続点に接続され他端が接地された2次巻線とを有するトランスと、
を含む構成とすることができる。
【0013】
この構成では、一方の電解コンデンサの両端電圧がVCC/2より下がり、他方の電解コンデンサの両端電圧がVCC/2より上がると、オン状態になった一方の補助スイッチング素子を通して、両端電圧が高くなった電解コンデンサからトランスの1次巻線に電流が流れる。そして、これによってトランスの2次巻線に逆極性の電圧が生起され、リアクトル等の電流制限素子及びダイオードを介して、両端電圧が低くなった電解コンデンサに電流が流れ込む。その結果、各電解コンデンサの両端電圧は速やかにそれぞれVCC/2に戻される。
【0014】
本発明に係る電子線走査用電源装置において、前記エネルギ移動手段の具体的な別の態様として、
一方の電解コンデンサの両端電圧が印加される1次巻線と、該1次巻線と同一巻線数で逆極性であり、他方の電解コンデンサが接続される直流電源の正極又は負極に電流を供給するように接続される2次巻線と、を有するトランスを含む、DC/DCコンバータを、電解コンデンサ毎にそれぞれ備える構成とすることができる。
【0015】
この構成では、一方の電解コンデンサの両端電圧がVCC/2より下がり、他方の電解コンデンサの両端電圧がVCC/2より上がると、両端電圧が高くなった電解コンデンサの両端に1次巻線が接続されたトランスを含むDC/DCコンバータが機能し、該トランスの2次巻線から両端電圧が低くなった電解コンデンサに電流が流れ込む。その結果、各電解コンデンサの両端電圧は速やかにそれぞれVCC/2に戻される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電子線走査用電源装置によれば、走査コイルに流す高周波電流に直流電流が重畳された場合、低周波駆動された場合、入力電源電圧が変動した場合等、様々な要因によってハーフブリッジ回路に供給される正負電源電圧のバランスが崩れた場合でも、速やかにこれを元の状態に復帰させることができる。それによって、ハーフブリッジ回路による走査コイルへの駆動電流の供給が安定するとともに精度が向上し、電子線走査を安定的且つ高精度で行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例による電子線走査用電源装置の概略構成図。
【図2】本発明の第2実施例による電子線走査用電源装置の概略構成図。
【図3】本発明の第1及び第2実施例による電子線走査用電源装置の動作を説明するための概略波形図。
【図4】従来の電子線走査用電源装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施例]
以下、本発明の第1実施例による電子線走査用電源装置を、添付図面を参照して説明する。図1は第1実施例による電子線走査用電源装置の概略構成図である。既に説明した従来の構成と同一の構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0019】
図1において、直流電源18の正極、負極間に接続されたハーフブリッジ回路30は2個のパワーMOSFET301、302により構成され、コンパレータ11によるPWM信号は、非反転ゲート13及び反転ゲート14を通してパワーMOSFET301、302のゲート端子に供給される。2個のパワーMOSFET301、302の接続点Pは、高周波平滑用リアクトル19を介して走査コイル23の一端に接続され、走査コイル23の他端と接地点(以下「GND」という)との間には電流検出用のシャント抵抗35が設けられている。また、走査コイル23にはコンデンサ20が並列接続される。シャント抵抗35で検出されるコイル電流に応じた電圧信号は、誤差アンプ10にフィードバックされる。
【0020】
直流電源18の正極とGNDとの間には正電圧側電解コンデンサ33が接続され、GNDと直流電源18の負極との間には負電圧側電解コンデンサ34が接続される。また、直流電源18の正極と負極との間には2個のパワーMOSFET(本発明における補助スイッチング素子)40、41が直列的に接続され、その接続点とGNDとの間にはトランス42の1次巻線L1が接続される。1次巻線L1と巻線数が等しく極性は逆である2次巻線L2も一端がGNDに接続され、他端は電流制限素子であるリアクトル43を介して、直流電源18の正極、負極間に直列接続された2個のダイオード44、45の接続点に接続される。
【0021】
パワーMOSFET40、41のゲート端子には、パルス発生部46から極性が反転したパルス信号がそれぞれ供給される。厳密に言えば、パワーMOSFET40、41のゲート端子に印加されるパルス信号は、交互に「1」となり、且つ「1」である期間が重ならないようにタイミングが調整されたものである。したがって、パワーMOSFET40、41は一方がオンしている間に他方が必ずオフするように制御される。電解コンデンサ33、34、ダイオード44、45、トランス42、リアクトル43、パワーMOSFET40、41、及びパルス発生部46は、ハーフブリッジ回路30のブリッジアームのバランスが崩れたときにこれを速やかに復帰させるための機能を有する。
【0022】
この第1実施例の電子線走査用電源装置の特徴的な動作を説明する。誤差アンプ10による誤差信号はコンパレータ11において例えば三角波であるキャリア信号と比較され、コンパレータ11からPWM信号が出力される。誤差信号がキャリア信号よりも大きい場合、コンパレータ11はレベルが「0」であるPWM信号を出力し、これにより、パワーMOSFET301はオフ、パワーMOSFET302はオンして、走査コイル23に上向きの駆動電流i2が流れる。他方、誤差信号がキャリア信号よりも小さい場合には、パワーMOSFET301はオン、パワーMOSFET302はオフし、走査コイル23に下向きの駆動電流i1が流れる。
【0023】
ハーフブリッジ回路30がバランスを保って動作している状態では、2個の電解コンデンサ33、34のそれぞれの両端電圧は直流電源電圧VCCの1/2に維持される。例えばVCC=100[V]であれば、両端電圧は共に50[V]に維持される。上述したようにパワーMOSFET40、41は交互にオンする。例えばパワーMOSFET40がオンすると、トランス42の1次巻線L1の両端には正電圧側電解コンデンサ33の両端電圧、つまりVCC/2が印加される。このときトランス42の2次巻線L2の両端にはGNDを基準として−VCC/2の電圧が生起されるが、2次巻線L2に接続されたリアクトル43の端部とは反対側の端部とGNDとの間の電位は−VCC/2であるため、リアクトル43を介した電流はいずれの方向にも流れない。つまり、オン状態であるパワーMOSFET40を通した電流も流れない。ハーフブリッジ回路30がバランスを保って動作している状態で、パワーMOSFET41がオンしたときも同様に、オン状態であるパワーMOSFET41を通した電流は流れない。
【0024】
例えば図3(a)に示すように走査用の入力信号に直流電圧が重畳された入力信号が供給されると、コンパレータ11によるPWM信号のパルス幅が変化し、ハーフブリッジ回路30のブリッジのバランスが崩れることがある。この場合でも、ハーフブリッジ回路30に印加される直流電源電圧VCCは一定であるから、上記のようにバランスが崩れたことによって、図3(b)に示すように、正電圧側電解コンデンサ33の両端電圧がVCC/2からΔVだけ低下すると、負電圧側電解コンデンサ34の両端電圧はVCC/2からΔVだけ増加する(負電圧側電解コンデンサ34の負極性側端子電位は−(VCC/2−ΔV)になる)。
【0025】
パワーMOSFET41がオンしたとき、トランス42の1次巻線L1の両端には(VCC/2+ΔVの電圧が印加され、2次巻線L2の両端にも同じ大きさの電圧が生起される。つまり、2次巻線L2の接地端と反対側の端部の電圧はVCC/2+ΔVとなるのに対し、正電圧側電解コンデンサ33の正極側端子の電圧はVCC/2−ΔVであるから、リアクトル43の両端にはほぼ2×ΔVの電位差が生じ、リアクトル43及びダイオード44を経てトランス42の2次巻線L2から正電圧側電解コンデンサ33の正極側端子に電流が流れ、正電圧側電解コンデンサ33は充電される。それによって、正電圧側電解コンデンサ33の両端電圧は上昇し、逆に、負電圧側電解コンデンサ34の両端電圧は下がる。そして、両電解コンデンサ33、34の両端電圧がVCC/2になった時点で、上記のようなリアクトル43及びダイオード44を経た電流の流れは停止する。それにより、ハーフブリッジ回路30はバランスがとれた状態に戻る。
【0026】
即ち、正電圧側電解コンデンサ33の両端電圧が下がり、代わりに負電圧側電解コンデンサ34の両端電圧が上がると、トランス42を介して負電圧側電解コンデンサ34から正電圧側電解コンデンサ33に蓄積エネルギの移動が起こり、それによって両電解コンデンサ33、34のそれぞれの両端電圧は等しくなる。負電圧側電解コンデンサ34の両端電圧が下がり、代わりに正電圧側電解コンデンサ33の両端電圧が上がった場合には、逆に、パワーMOSFET40がオンしている期間に、トランス42を介して正電圧側電解コンデンサ33から負電圧側電解コンデンサ34に蓄積エネルギの移動が起こり、それによって両電解コンデンサ33、34のそれぞれの両端電圧は等しくなる。
【0027】
以上のように第1実施例の電子線走査用電源装置においては、直流電流の重畳や低周波駆動、或いは電源電圧の変動などの様々な要因によってハーフブリッジ回路30のバランスが崩れた場合でも、迅速にそれを修復して走査コイル23に適切な電流を流すような駆動を実施することができる。特に、この電源装置の構成の場合、電解コンデンサ33、34のそれぞれの両端電圧をバランスさせるためにフィードバック制御を行っていないので、フィードバック制御に伴うリンギング等の不安性さがなく、不要な電力ロスも少ないので効率がよいという利点を有する。
【0028】
[第2実施例]
次に、本発明の第2実施例による電子線走査用電源装置を、添付図面を参照して説明する。図2は第2実施例による電子線走査用電源装置の概略構成図である。既に説明した従来の構成及び第1実施例の構成と同一の構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0029】
この第2実施例の電子線走査用電源装置において、直流電源18の正極とGNDとの間に正電圧側電解コンデンサ33が接続され、GNDと直流電源18の負極との間に負電圧側電解コンデンサ34が接続される点は第1実施例と同じである。ハーフブリッジ回路30のブリッジのバランスが崩れ、電解コンデンサ33、34のそれぞれの両端電圧が相補的に変化したときにそれを解消するための、つまり電解コンデンサ33、34の蓄積エネルギを相互に移動させるための回路構成が第1実施例とは相違している。
【0030】
即ち、この第2実施例では、正電圧側電解コンデンサ33の両端とGND及び直流電源18の負極との間には第1のDC/DCコンバータ31が介挿され、負電圧側電解コンデンサ34の両端と直流電源18の正極及びGNDとの間には第2のDC/DCコンバータ32が介挿されている。第1及び第2のDC/DCコンバータ31、32は全く同一構成であり、例えば第1のDC/DCコンバータ31は、トランス312と、トランス312の1次巻線に直列に接続されたスイッチング用のMOSFET311と、トランス312の2次巻線に直列に接続された整流用のダイオード313と、該ダイオード313を経た整流後の出力電圧と内蔵された基準電圧源によるVCC/2の基準電圧との誤差を出力する誤差アンプ314と、誤差アンプ314の出力に応じたパルス幅のPWM信号を出力するPWM駆動部315と、PWM信号をMOSFET311のゲート端子に供給する非反転ゲート316と、を含む。
【0031】
なお、この図2においてトランス312、322は簡略化して記載しているが、図1に示したように、これはトランスのほかにリアクトル等の電流制限素子を含む構成とすることができる。
【0032】
この第2実施例の電子線走査用電源装置における特徴的な動作を説明する。第1実施例と同様に、ハーフブリッジ回路30がバランスを保って動作している状態では、2個の電解コンデンサ33、34の両端電圧は直流電源電圧VCCの1/2に維持される。このときに、誤差アンプ314、324により検出される誤差はほぼゼロになり、PWM駆動部315、325の出力は「0」になり、2つのMOSFET311、321はともにオフ状態を保つ。それにより、第1及び第2のDC/DCコンバータ31、32はいずれも動作せず、2個の電解コンデンサ33、34の間でのエネルギの移動は起こらない。
【0033】
ハーフブリッジ回路30のブリッジのバランスが崩れ、図3(b)に示すように、正電圧側電解コンデンサ33の両端電圧がVCC/2からΔVだけ低下すると、負電圧側電解コンデンサ34の両端電圧はVCC/2からΔVだけ増加する。正電圧側電解コンデンサ33の両端電圧は第2のDC/DCコンバータ32の誤差アンプ324にフィードバックされているから、誤差アンプ324は(VCC/2)−ΔVと基準電圧VCC/2との誤差を出力し、PWM駆動部325は「1」のパルス幅を広げたPWM信号を出力する。ΔVが大きいほどパルス幅は広くなる。これにより、第2のDC/DCコンバータ32は動作し、PWM信号が「1」である期間にはMOSFET322がオンし、トランス322の1次巻線に電解コンデンサ34からの電流が流れる。それに応じて、トランス322の2次巻線にも電流が流れ、この電流はダイオード323を通して正電圧側電解コンデンサ33に流れ込み、正電圧側電解コンデンサ33は充電される。即ち、第2のDC/DCコンバータ32の動作により、負電圧側電解コンデンサ34から正電圧側電解コンデンサ33に蓄積エネルギが移動し、それによって両電解コンデンサ33、34のそれぞれの両端電圧は等しくなる。その結果、第1実施例と同様に、ハーフブリッジ回路30のブリッジアームのバランスがとれた状態に復帰する。
【0034】
また逆に、負電圧側電解コンデンサ34の両端電圧がVCC/2からΔVだけ低下し、正電圧側電解コンデンサ33の両端電圧はVCC/2からΔVだけ増加したときには、上記とは全く逆の動作により、つまり、第1のDC/DCコンバータ31の動作により、正電圧側電解コンデンサ33から負電圧側電解コンデンサ34に蓄積エネルギが移動し、それによって両電解コンデンサ33、34のそれぞれの両端電圧は等しくなる。
【0035】
以上のように第2実施例の電子線走査用電源装置においても、直流電流の重畳や低周波駆動、或いは電源電圧の変動などの様々な要因によってハーフブリッジ回路30のバランスが崩れた場合でも、迅速にそれを修復して走査コイル23に適切な電流を流すような駆動を実施することができる。
【0036】
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、上記記載以外の点において本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、修正、又は追加を行っても、本願の特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0037】
10…誤差アンプ
11…コンパレータ
13…非反転ゲート
14…反転ゲート
18…直流電源
19…高周波平滑用リアクトル
20…コンデンサ
23…走査コイル
30…ハーフブリッジ回路
301、302…パワーMOSFET
31、32…DC/DCコンバータ
311、321…MOSFET
312、322…トランス
313、323…ダイオード
314、324…誤差アンプ
315、325…PWM駆動部
316、326…非反転ゲート
33…正電圧側電解コンデンサ
34…負電圧側電解コンデンサ
35…シャント抵抗
40、41…パワーMOSFET
42…トランス
43…リアクトル
44、45…ダイオード
46…パルス発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を1次元的又は2次元的に走査する走査コイルに駆動電流を供給するために、直流電源の正極と負極との間に接続された直列の2個のスイッチング素子を含むハーフブリッジ回路と、その2個のスイッチング素子の直列接続点にリアクトルを介して接続された走査コイルと、該走査コイルに流れる電流を検出するための抵抗器と、該抵抗器による検出電圧に応じて前記ハーフブリッジ回路のスイッチング素子をオン・オフさせるPWM信号を生成するPWM駆動回路部と、を具備する電子線走査用電源装置において、
a)前記直流電源の正極と接地点との間、及び、接地点と前記直流電源の負極との間にそれぞれ設けられた一対の電解コンデンサと、
b)前記一対の電解コンデンサのそれぞれの両端電圧のバランスを監視し、一方の電解コンデンサの両端電圧が前記直流電源電圧の1/2よりも大きくなったときに、該電解コンデンサから流出した電流が他方の電解コンデンサに流入する電流経路を有するエネルギ移動手段と、
を備えることを特徴とする電子線走査用電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子線走査用電源装置であって、前記エネルギ移動手段は、
前記直流電源の正極と負極との間に接続された直列の2個の補助スイッチング素子と、
前記直流電源の正極と負極との間に接続された直列の2個のダイオードと、
前記2個の補助スイッチング素子を交互にオンさせる駆動信号を供給する駆動信号生成手段と、
前記2個の補助スイッチング素子の接続点と接地点との間に接続された1次巻線と、該1次巻線と同一巻線数で逆極性であり、一端が電流制限素子を介して前記2個のダイオードの接続点に接続され他端が接地された2次巻線とを有するトランスと、
を含むことを特徴とする電子線走査電源装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電子線走査用電源装置であって、前記エネルギ移動手段は、
一方の電解コンデンサの両端電圧が印加される1次巻線と、該1次巻線と同一巻線数で逆極性であり、他方の電解コンデンサが接続される直流電源の正極又は負極に電流を供給するように接続される2次巻線と、を有するトランスを含む、DC/DCコンバータを、電解コンデンサ毎にそれぞれ備えることを特徴とする電子線走査電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−272336(P2010−272336A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122763(P2009−122763)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(392026888)京都電機器株式会社 (43)
【Fターム(参考)】