説明

電子部品、それに適用されるアルミニウム電極用導電性ペースト、及びアルミニウム電極用ガラス組成物

【課題】電子部品において、製造歩留まり、性能及び信頼性が、実用上使用できる水準を満たす電子部品を提供することである。
【解決手段】電子部品電極用ガラス組成物は、金属粒子と、ガラス相とを有する電極がシリコン基板に形成された電子部品であって、該電極中の該ガラス相が少なくともバナジウム、アンチモン、及びホウ素の酸化物を含み、さらにリン、テルル、バリウム及びタングテンの酸化物のうち1種以上を含み、前記リンの含有量が、酸化物換算で10質量%未満であり、該ガラス中の鉛含有量が1000ppm以下である酸化物ガラスであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板に形成されるアルミニウム電極用導電性ペースト、それに含有されるアルミニウム電極用ガラス組成物、及びそのアルミニウム電極用導電性ペーストを用いて製造した電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
pn接合を有するシリコン基板を用いた太陽電池セル等の電子部品では、銀電極やアルミニウム電極が形成されている。これらの電極は、銀やアルミニウムの金属粒子を多数含む導電性ペーストを塗布、乾燥、焼成することによってシリコン基板等に形成される。通常、この導電性ペーストは、その金属粒子を主とし、ガラス粒子、バインダー樹脂及び溶剤等から構成される。電極焼成時には、導電性ペースト中のガラス粒子の軟化点以上に加熱することによって、そのガラス粒子が軟化流動し電極が形成されるとともに、基板等に強固に密着する。
【0003】
このガラス粒子には、低温で軟化流動する、酸化鉛を主成分とする低融点ガラスが従来から使用されている。しかし、そのガラスに含まれる鉛は、RoHS指令等で規制されている有害物質であり、環境負荷への影響を低減するため、すなわち生態系の保全を図るために、太陽電池セルやプラズマディスプレイパネル等の電子部品では、鉛フリーの低融点ガラスが電極形成に適用されるようになってきた。たとえば、特許文献1では、太陽電池セルに形成される銀電極やアルミニウム電極に酸化ビスマスと酸化シリコンを含む鉛フリー低融点ガラスが提案されている。また、特許文献2では、酸化ビスマスと酸化ホウ素を含む低融点ガラスが提案されている。
【0004】
特にアルミニウム粒子やアルミニウム合金粒子等の金属粒子を主体とした導電性ペーストは、その金属粒子表面の酸化皮膜により緻密に焼成できず、低抵抗化に問題点が存在していた。この点については、特許文献3において、導電性ペースト中に、バナジウムや酸化バナジウムの粒子を添加することで、金属粒子の焼結性を改善し、低抵抗化させる手法が提案されている。また、特許文献4では、炭素、ゲルマニウム、スズ、水素化金属化合物及びリン化金属化合物等を添加することで耐酸化性を向上し、低抵抗化させる手法等も提案されている。
【0005】
一方で、太陽電池セル等に代表されるように、発電コストの低減が強く要求される電子部品においては、上記特許文献1〜4の電極は、電子部品の製造歩留まり、性能及び信頼性のすべてを向上するに当たり、十分に配慮されたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−543080号公報
【特許文献2】特開2006−332032号公報
【特許文献3】特開平7−73731号公報
【特許文献4】特開平5−298917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
pn接合を有するシリコン基板を用いた太陽電池セル等の電子部品では、n型半導体側には銀電極、p型半導体側にはアルミニウム電極が適用されることが多い。これらの電極に従来の酸化鉛を主成分とする低融点ガラスを用いると、太陽電池セルの発電効率、すなわち変換効率が高い。しかし、電極に特許文献1や2で提案されている鉛フリー低融点ガラスを使用すると、その変換効率が低下してしまう問題がある。
【0008】
また、太陽電池セルのそり量が増加し、製造歩留まりが低下する問題もある。これは、電極に使用するガラスが、電極の焼結状態やシリコン基板との界面状態等へ影響されているものと考えられる。また、寿命等の信頼性に関しては、従来の酸化鉛を主成分とする低融点ガラスや、特許文献1〜4で提案された材料や方法では改良が難しい。特にアルミニウム電極においては、水分によって、徐々に腐食され、水酸化アルミニウムが生成して、電極性能が劣化してしまう。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記問題を鑑み、環境保全に配慮したpn接合を有するシリコン基板を用いた太陽電池セル等の電子部品において、製造歩留まり、性能及び信頼性が、実用上使用できる水準を満たすことである。また、製造歩留まり、性能及び信頼性について、実用上使用できる水準を満たすアルミニウム電極用導電性ペースト及びそれに適用するアルミニウム電極用ガラス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、金属粒子と、ガラス相とを有する電極がシリコン基板に形成された電子部品であって、該電極中の該ガラス相が少なくともバナジウム(V)、アンチモン(Sb)及びホウ素(B)の酸化物を含み、さらにリン(P)、テルル(Te)、バリウム(Ba)及びタングステン(W)の酸化物のうち1種以上を含み、前記リンの含有量が、酸化物換算で10質量%未満であり、該ガラス中の鉛(Pb)含有量が1000ppm以下であることを特徴とする電子部品、アルミニウム電極用導電性ペースト、及びアルミニウム電極用ガラス組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バナジウム、アンチモン及びホウ素の酸化物を含み、さらにリン、テルル、バリウム及びタングステンの酸化物のうち1種以上を含み、前記リンの含有量が、酸化物換算で10質量%未満であり、該ガラス中の鉛含有量が1000ppm以下である酸化物ガラスを電極に適用することによって、製造歩留まり、性能及び信頼性について、実用上使用できる水準を満たす電子部品、アルミニウム電極用導電性ペースト、及びアルミニウム電極用ガラス組成物を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ガラス組成物の示差熱分析(DTA)で得られる代表的なDTAカーブである。
【図2】代表的な太陽電池セルの受光面の1例を示す平面模式図である。
【図3】代表的な太陽電池セルの裏面の1例を示す平面模式図である。
【図4A】図2中のA−A′線における断面模式図である。
【図4B】図4A中のI部分の拡大断面模式図である。
【図5】アルミニウム電極に含まれるガラス含有量と太陽電池セルのそり量及び変換効率との関係を示すグラフである。
【図6】アルミニウム電極に含まれるガラス含有量とその電極の比抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】代表的なプラズマディスプレイパネルの1例を示す断面模式図である。
【図8】LTCCの多層配線基板(5層)の構造例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、バナジウム、アンチモン及びホウ素の酸化物を含み、さらにリン、テルル、バリウム及びタングステンの酸化物のうち1種以上を含み、前記リンの含有量が酸化物換算で10質量%未満であり、該ガラス中の鉛含有量が1000ppm以下である酸化物ガラスを含有する電極をシリコン基板へ焼成、形成すると、そのシリコン基板を適用した電子部品の製造歩留まり、性能及び信頼性について、実用上使用できる水準を満たすことが可能となることを見出した。たとえば、pn接合を有するシリコン基板を用いた太陽電池セルにおいて、p型半導体側であるセル裏面に形成されるアルミニウム電極に上記酸化物ガラスを含有し、焼成すると、そのガラスに鉛を含まなくとも、従来の酸化鉛系ガラスと同レベルの酸化物ガラスを提供することができる。
【0014】
また、本発明により、製造歩留まり、性能及び信頼性について、実用上使用できる水準を満たすアルミニウム電極用導電性ペースト及びそれに適用するアルミニウム電極用ガラス組成物を提供することができる。たとえば、具体的にはpn接合を有するシリコン基板を用いた太陽電池セルにおいて、上記酸化物ガラスを含むアルミニウム電極をp型半導体側に形成することによって、太陽電池セルのそり量、変換効率、及び電極耐水性や密着性が、バランスよく改善され、実用上有用な太陽電池セルを提供することができる。
【0015】
また、酸化鉛系ガラスでは達成できなかったアルミニウム電極の耐湿性や耐水性も向上できた。本発明は、該発見に基づくものである。
【0016】
本発明の酸化物ガラスは、バナジウム、アンチモン及びホウ素の酸化物を含み、さらにリン、テルル、バリウム及びタングステンの酸化物のうち1種以上を含み、前記リンの含有量が酸化物換算で10質量%未満であることを特徴とする。リンの含有量が10質量%以上であると、ガラスが結晶化し、流動性が低下する。
【0017】
本発明の上記酸化物ガラスの好ましい組成範囲は、次の酸化物換算でVが20〜50質量%、Sbが10〜50質量%、Bが10〜40質量%、TeOが0〜20質量%、BaOが0〜20質量%、及びWOが0〜20質量%である。さらに、V、Sb及びBの合計量が70〜95質量%である。なお本発明において、「20〜50質量%」とは、「20質量%以上、50質量%以下」を意味するものとする。
【0018】
が20質量%未満であると、アルミニウム電極の耐湿性、耐水性等の信頼性が低下する。一方、Vが50質量%を超えると、太陽電池セルのそり量が大きくなり、セルの製造歩留まりに影響を及ぼす。
【0019】
Sbが10質量%未満であると、太陽電池セルのそり量が大きくなり、一方50質量%を超えると、アルミニウム電極の耐湿性、耐水性等の信頼性が低下する。
【0020】
は10質量%未満では、太陽電池セルのそり量が大きくなり、一方40質量%を超えると、アルミニウム電極の密着性が低下する。
【0021】
、TeO、BaO及びWOは、V、Sb及びBからなるガラスを作りやすくするため、或いは作ったガラスの結晶化を抑制性するために含有する。しかし、Pが10質量%以上になると、太陽電池セルのそり量が大きくなったり、TeOが20質量%を超えると、太陽電池セルの変換効率が低下したり、BaOやWOがそれぞれ20質量%を超えると、アルミニウム電極の密着性が低下する。さらに、V、Sb及びBの合計量が70質量%未満であると、太陽電池セルのそり量が増加したり、変換効率が低下したり、或いは信頼性が低下する傾向にあった。一方、95質量%を越えると、ガラス化が大変困難で、均一なガラスを作ることが難しい。
【0022】
太陽電池セルのそり量の低減、変換効率の向上、及び電極耐水性や密着性について、実用上使用できる水準を満たすアルミニウム電極用ガラス組成物として、好ましい組成範囲は、次の酸化物換算でVが20〜50質量%、Sbが10〜50質量%、Bが10〜40質量%、TeOが0〜20質量%、BaOが0〜20質量%、及びWOが0〜20質量%であり、しかもV、Sb及びBの合計量が70〜95質量%である。また、P、TeO、BaO、及びWOの合計量が5〜30質量%であることが好ましい。Pの含有量は、5質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
さらに、太陽電池セルに形成した電極中へのガラス含有量は、金属粒子100質量部対して、0.2〜2.0質量部であることが好ましい。0.2質量部未満では、太陽電池セルのそり量が大きくなり、耐湿性や耐水性等の信頼性も低下した。
【0024】
一方、2.0質量部を超えると、セル変換効率が低下する傾向にあった。しかし、太陽電池セル以外の電子部品の電極に展開する場合には、15質量%までガラスを含有することができる。15質量%を超えると、アルミニウム電極の電気抵抗が大きくなってしまった。さらにガラスは、転移点が400℃以下で、600℃における軟化流動性が良好なほど、アルミニウム電極の基板への密着性や耐湿性等の信頼性が高く、しかも太陽電池セルへ適用した際にはそり量が小さく、しかも変換効率が高い傾向を示した。
【0025】
さらに、上記本発明のガラスは、有害な鉛を含まない(鉛含有量1000ppm以下)。このため、環境に配慮した電子部品、アルミニウム電極用導電性ペーストおよびアルミニウム電極用ガラス組成物を提供することが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下、本実施形態について具体的に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施例に限定されることはなく、適宜組み合わせてもよい。
【0027】
(実施例1)
本実施例で検討したガラス系、その主成分である酸化物及びその特性を表1に示す。表1において、G−01〜05が実施例のガラス、G−06〜12が比較例のガラスである。表1中の「有害規制物質の有無」は、RoHS指令やジョイントインダストリ―ガイドライン(JIG;Joint Industry Guide)で規制されている有害物質が含まれるかどうかで判断した。「転移点」は、それぞれのガラス粉末を用い、示差熱分析(DTA)により測定した。DTAの分析昇温条件は大気中5℃/分とした。
【0028】
【表1】

【0029】
図1に代表的なガラスのDTAカーブの1例を示す。第一吸熱ピークの開始温度が転移点T、そのピーク温度が屈伏点M、発熱ピークの開始温度が結晶化温度Tcryである。TとMは粘度により定義され、Tが1013.3ポイズ、Mが1011ポイズに相当する。
【0030】
「軟化流動性」は、それぞれのガラス粉末を用い、直径10mm、厚み5mmの圧粉成形体を作製し、アルミナ基板上で加熱することによって評価した。加熱条件は、大気中600℃に保持した電気炉に、アルミナ基板に乗せた圧粉成形体を1分間投入し、取り出した。目視観察において良好な流動性が得られた場合には「○」、良好な流動性は得られなかったが、軟化していた場合には「△」、圧粉成形体のままで、軟化もしない場合には「×」と評価した。
【0031】
表1で示したガラスにおいて、有害規制物質を含むガラスはG−12のみであった。このPb‐B‐Si‐O系ガラスが、太陽電池セルやプラズマディスプレイパネル等の電子部品の各種電極に今まで広く適用されてきた。転移点も320℃と低く、600℃での流動性は大変良好であった。
【0032】
Pb‐B‐Si‐O系ガラスの代替として、幅広く検討され、実用化されはじめているPbフリーのガラスがG−11である。このBi‐B‐Si‐O系ガラスは有害規制物質を含まないが、G−12に比較すると転移点は70℃高温化した。その軟化流動性は、G−12ほどではなかったが、良好であった。
【0033】
G−11より転移点が高いガラスは、転移点が400℃であるV−Sb−B−W−O系のG−04と445℃であるV−B−Zn−O系のG−10であり、G−04は良好な流動性を示したが、G−10は軟化に留まり、流動するまでに至らなかった。よって、転移点は400℃以下であることが好ましいことがわかった。
【0034】
転移点が400℃以下であるV−Sb−B−P−O系のG−01、V−Sb−B−Te−O系のG−02、V−Sb−B−Ba−O系のG−03、V−Sb−B−W−O系のG−04、V−Sb−B−P−Ba−W−O系のG−05、V−P−B−O系のG−07、V−Te−P−O系のG−08、及びV−Te−Zn−Ba−O系のG−09は、600℃で良好な流動性を有していた。しかし、V−Sb−B−O系のG−06は、転移点が315℃と低かったが、600℃で軟化流動することはなかった。これは、結晶化が著しく発生したことが原因であった。
【0035】
それに対して、P、Te、Ba及びWの中から1種以上を含有したV−Sb−B−O系のG−01〜05では、G−06ほど結晶化が著しくなく、P、Te、Ba及びWの含有により結晶化を抑制することができた。このために、G−01〜05は、600℃での流動性が良好であった。
【0036】
表1で示したそれぞれのガラスを用いてアルミニウム電極用導電性ペーストを作製し、太陽電池セルに搭載することによって、セルのそり量、変換効率及び環境保全を評価した。セルのそり量の評価には、非接触形状測定装置(共進電機株式会社製、型式:KLS−2020)を使用し、セルの変換効率の測定には、ソーラーシュミレータ(セリック株式会社製、型式:XIL)を用いた。また、それぞれ形成したアルミニウム電極の外観、密着性及び耐水性も評価した。
【0037】
アルミニウム電極用導電性ペーストは、表1のG−01〜12のガラス毎に作製した。先ずはガラスをスタンプミルとジェットミルによって3μm以下の粒子に粉砕した。アルミニウム粒子には、アトマイズ法によって作製した平均粒径3μmのものを用い、アルミニウム粒子100質量部に対して、G−01〜10のガラス粒子では0.4質量部、G−11と−12のガラス粒子では0.7質量部をそれぞれ混合した。
【0038】
ガラス粒子の混合量を変えた理由は、G−11と−12のガラスの比重がG−01〜10のガラスの約2倍大きく、ガラス含有量を体積比でほぼ同程度にしたかったためである。これらの混合物100質量部に対して、事前にバインダー樹脂2質量%を溶解させておいた溶剤40質量部を添加し、混練することによってアルミニウム電極用導電性ペーストを作製した。ここで、バインダー樹脂にはエチルセルロース、溶剤にはα−テルピネオールを用いた。
【0039】
作製したアルミニウム電極用導電ペーストを用いて、本発明に係る電子部品として、太陽電池セルへ適用した例について説明する。
【0040】
図2は、代表的な太陽電池セルの受光面の1例を示す平面模式図である。また、図3はその裏面の1例を示す平面模式図、図4Aは図2中のA−A′線における断面模式図であり、図4Bは図4A中のI部分の拡大断面模式図である。
【0041】
太陽電池セル10の半導体基板1には、通常、単結晶シリコン基板または多結晶シリコン基板が使用され、ホウ素等が含有され、p型半導体となっている。受光面側は、太陽光の反射を抑制するために化学エッチング等により凹凸が形成されている。また、受光面には、リン等がドーピングされ、厚みが約1μm程度のn型半導体層2が形成されている。そして、p型バルク部分との境界にpn接合部を形成している。さらに、受光面上には、窒化シリコン等の反射防止層3が蒸着法等によって厚さ100nm程度で形成されている。
【0042】
次に、受光面に形成される受光面電極4と、裏面に形成される裏面電極5及び出力電極6の形成について説明する。
【0043】
通常、受光面電極4および出力電極6の形成には、銀粒子とガラス粒子とを含む銀電極用導電性ペーストが使用され、裏面電極5の形成には、アルミニウム粒子とガラス粒子とを含むアルミニウム電極用導電性ペーストが使用されている。それぞれの導電性ペーストは、スクリーン印刷法等にて半導体基板1の受光面に形成した反射防止層3や半導体基板1の裏面の表面上に塗布される。
【0044】
導電性ペーストを乾燥させた後、大気中800℃前後で焼成され、それぞれの電極が形成される。その際、受光面では、受光面電極4に含まれるガラス組成物と反射防止層3とが反応して、受光面電極4とn型半導体層2とが電気的に接続される。
【0045】
また、裏面では、裏面電極5中のアルミニウム成分がp型半導体基板1と反応し、アルミニウムとシリコンの合金層8が生成し、さらにアルミニウムがp型半導体基板1へ拡散したアルミニウム拡散層(Back Surface Field:BSF層)7が形成される。このBSF層7が形成されることにより、太陽電池セル内部で発生したキャリアが裏面で再結合するのを防止し、太陽電池セルの性能を向上させることができる。また、合金層8も、太陽電池セル10に入射した光を裏面で反射し、その光をp型半導体基板1に閉じ込める効果があり、太陽電池セルの性能向上に役立っている。
【0046】
なお、太陽電池セルにおいては、裏面電極用ペーストとして、従来からアルミニウム粒子と低融点ガラスであり、有害なPb−B−Si−O系や鉛を含まないBi−B−Si−O系のガラス組成物とを含む導電性ペーストが使用されているが、どちらのガラスとも裏面電極用アルミニウム電極の耐湿性や耐水性等の信頼性を向上できていない問題がある。さらに、両ガラスともアルミニウム電極上に異物や凹凸を発生し、歩留まりを低下させてしまう問題も抱えている。このため、太陽電池セルの性能、安全性(鉛フリー)、信頼性及び生産性を実用上使用できる水準を達成するアルミニウム電極用ガラス組成物の出現が要求されていた。
【0047】
一方、V−Te−P−O系やV−Te−Zn−Ba−O系では、アルミニウム電極の耐水性を向上でき、しかも電極上の異物や凹凸を著しく低減できたが、太陽電池セルのそり量が増加し、さらに変換効率が低減してしまう問題を抱えている。V−P−B−O系では、変換効率を向上できるが、そり量を低減するまでには至っていない。
【0048】
本発明の電子部品に係る太陽電池セルを作製した。半導体基板1には、p型単結晶シリコン基板を用いた。このシリコン基板のサイズは125mm角で、厚み200μmとした。次に、光入射効率を向上させるために、1%苛性ソーダ(水酸化ナトリウム:NaOH)と10%イソプロピルアルコール(CHCH(OH)CH)からなる強アルカリ性水溶液を用い、半導体基板1の受光面をエッチングして凹凸を形成した。その受光面に五酸化リン(P)を含む液を塗布し、900℃で30分間熱処理することによって、リン(P)を半導体基板1へ拡散させ、受光面に厚み1μm程度のn型半導体層2を形成した。五酸化リンを除去した後に、n型半導体層2上に窒化シリコン膜を反射防止層3として、約100nmの厚みで一様に形成した。この窒化シリコン膜は、シラン(SiH)とアンモニア(NH)の混合ガスを原料とするプラズマCVD法等により形成できる。
【0049】
次に、受光面電極4を形成するために、反射防止層3上に銀粒子とガラス粒子とを含む銀電極用導電性ペーストをグリッド状にスクリーン印刷法によって塗布し、150℃で10分間乾燥させた。銀粒子としては、平均粒径が約2μmのものを使用した。また、ガラス粒子としては、平均粒径が約2μmで、有害な鉛を含まないV−Ag−P−Te−O系低融点ガラスを用いた。半導体基板1の裏面に形成される出力電極6についても前記と同じ銀電極用導電性ペーストを用い、同様にスクリーン印刷法で塗布し、乾燥した。
【0050】
続いて、裏面電極5用として、アルミニウム粒子とガラス粒子とを含むアルミニウム電極用導電性ペーストも同様に塗布し、乾燥した。そのアルミニウム電極用導電性ペーストとしては、先に説明した実施例ガラスG−01〜05と、比較例ガラスG−06〜12をそれぞれ用いて作製したアルミニウム電極用導電性ペーストを用いた。トンネル炉を用いて大気中800℃まで急速に加熱し、30秒間保持することで、受光面電極4、裏面電極5及び出力電極6を同時に焼成、形成し、太陽電池セル10を作製した。受光面電極4と出力電極6の焼成後の膜厚は約20μm、裏面電極の膜厚は約40μmであった。
【0051】
上記のように、裏面電極5用としてアルミニウム電極用導電性ペーストを変えて作製した太陽電池セル10のそり量と変換効率を測定した。また、作製した太陽電池セル10を環境保全の観点(有害規制物質の有無)からも評価した。さらに、裏面電極5用として形成したアルミニウム電極の外観、密着性及び耐水性も評価した。作製した太陽電池セルの評価結果を表2に示す。
【0052】
表2中の「そり量」は、有害ではあるが、実績のあるPb−B−Si−O系のG−12を用いた場合を基準とし、それより小さい場合には「◎」、同等の場合には「○」、僅かに大きい場合には「△」、著しく大きい場合には「×」と評価した。また、「変換効率」欄に記載した「○」はセル変換効率が18.0%以上、「△」は17.5%以上、18.0%未満、「×」は17.5%未満とした。
【0053】
「環境保全」に関しては、作製した太陽電池セル10に有害規制物質が含まれるかどうかで判断し、有害規制物質が含まれない場合には「○」、含まれる場合には「×」とした。鉛の場合は、1000ppm以下であれば「○」とした。アルミニウム電極の外観は、目視観察によって、表面異物や大きな凹凸が認められない場合には「○」、若干認められた場合には「△」、明らかに認められた場合には「×」と評価した。また、アルミニウム電極の「密着性」は、ピール試験にて評価した。そのピール試験では、市販のセロハンテープをアルミニウム電極に張り付け、引き剥がす際にアルミニウム電極が剥離しなかった場合には「○」、僅かに一部剥離した場合には「△」、大きく剥離した場合には「×」とした。
【0054】
「耐水性」は、プレッシャークッカー試験機(株式会社平山製作所製、型式:PC−242HSR2)を使用した飽和型プレシャークッカー試験を温度120℃、圧力202kPa、湿度100%、試験時間5時間の条件で行い、でアルミニウム電極が外観上ほとんど変色しない場合には「○」、部分的に僅かに黒色化した場合には「△」、一面黒色化した場合には「×」と評価した。また、上記の各評価結果を総合的に検討及び判断し、実用上良好な太陽電池セルには「○」、不十分な太陽電池セルには「△」、問題のある太陽電池セルには「×」と評価した。
【0055】
【表2】

【0056】
表2において、比較例Pb−B−Si−O系ガラスG−12を用いたアルミニウム電極を裏面電極として搭載した太陽電池セルと同等のそり量と変換効率を有するガラスは、実施例G−01〜05と比較例G−06であった。それら以外の比較例G−07〜11は、少なくともどちらか一方がG−12より劣っていた。G−12は、そり量と変換効率は良好であったが、有害規制物質である鉛を含むために環境保全上、問題がある。また、アルミニウム電極としての外観、及び耐水性にも問題があった。
【0057】
比較例G−06においても、そり量と変換効率は良好であったが、アルミニウム電極としての外観及び耐水性が不十分であり、しかも密着性に問題があった。これは、G−06のガラスの結晶化が著しく発生するために、良好な軟化流動性を有さないためであると考えられる。アルミニウム電極としての外観、密着性及び耐水性のすべてが実用上良好なガラスは、実施例G−01〜05及び比較例G−07〜09であった。環境に配慮した上で、太陽電池セルのそり量と変換効率が共に良好であり、しかもアルミニウム電極としての外観、密着性及び耐水性のすべてが実用上良好なガラスは、実施例G−01〜05であった。
【0058】
これらのガラスは、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)及びホウ素(B)を含み、さらにリン(P)、テルル(Te)、バリウム(Ba)及びタングステン(W)の酸化物のうち少なくとも1種以上を含み、リンの含有量が10質量%未満である酸化物ガラスであった。また、これらのガラスの転移点は400℃以下であり、600℃で良好な流動性を有していた。さらに、これらのガラスは、鉛等の有害規制物質が含まれず(鉛の含有量1000ppm以下)、環境にも十分に配慮されたものであり、このガラスが適用された電極用導電性ペースト、及びこの導電性ペーストにより形成された電極を有する電子部品においても環境負荷への影響を低減することができる。
【0059】
RoHS規制やジョイントインダストリーガイドラインでは、電子部品の鉛含有量は1000ppm以下と規定されている。このため、電子部品を構成する各材料においては、故意に有害な鉛を含有すべきではない。しかし、不純物として鉛が混入されてしまう場合があり、電子部品を構成する各材料においても電子部品同様に1000ppm以下とすることが好ましい。
【0060】
本発明による電極用ガラスは、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)及びホウ素(B)を含み、さらにリン(P)、テルル(Te)、バリウム(Ba)及びタングステン(W)の酸化物のうち少なくとも1種以上を含む酸化物ガラスであり、環境負荷の影響を低減することを前提に開発し、従来からのPb−B−Si−O系ガラスやBi−B−Si−O系ガラスを用いた場合より電子部品の製造歩留まり、性能及び信頼性のすべてを同時に、実用上使用可能な水準を満たすことを見出した。
【0061】
本実施例では、シリコン基板を用いた太陽電池セルの裏面用アルミニウム電極へ適用した例について説明したが、シリコン基板へ形成する電極であれば、アルミニウム電極以外にも適用できることは言うまでもない。また、太陽電池セル以外の電子部品にも展開可能である。
【0062】
(実施例2)
実施例1において、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)及びホウ素(B)を含み、さらにリン(P)、テルル(Te)、バリウム(Ba)及びタングステン(W)のうち1種以上を含む酸化物ガラスで、リンの含有量が10質量%未満である酸化物ガラスを電極に適用することによって、電子部品の製造歩留まり、性能及び信頼性のすべてを同時に、実用上使用可能な水準を満たすことが分かった。具体的には、pn接合を有するシリコン基板を用いた太陽電池セルにおいて、上記酸化物ガラスを含むアルミニウム電極をp型半導体側に形成することによって、太陽電池セルのそり量の低減、変換効率の向上、及び電極耐水性や密着性のすべてが、実用上使用可能な水準を満たすことがわかった。
【0063】
本実施例では、上記酸化物ガラスの組成について詳細に検討した。作製したガラスの配合組成とその特性を表3に示す。表3に示すGA−01〜24のガラス作製方法について説明する。ガラス原料としては、V、Sb、B、P、TeO、BaCO及びWOを用い、表3で示した配合組成になるように各200〜300gを配合、混合した。それを白金ルツボに入れ、電気炉中10℃/分の昇温速度で900〜1000℃まで加熱し、攪拌しながら2時間保持した後にステンレス板へ流し込み、GA−01〜24のガラスをそれぞれ作製した。作製したガラスをスタンプミルとジェットミルによって、平均粒径が2μm以下になるまで粉砕し、それぞれのガラス粒子を得た。作製したガラスの転移点と軟化流動性は、実施例1と同様にして評価した。作製したガラスGA−01〜24の転移点は、どのガラスとも400℃以下であり、600℃での軟化流動性は良好であった。
【0064】
【表3】

【0065】
GA−01〜24のガラス粒子を用いて、実施例1と同様にしてアルミニウム電極用導電性ペーストを作製した。ただし、アルミニウム粒子には、僅かにマグネシウム(Mg)と亜鉛(Zn)を含むアルミニウム合金粒子を用いた。その粒子の作り方は、実施例1と同様にアトマイズ法によった。また、バインダー樹脂にはニトロセルロース、溶剤にはブチルカルビトールアセテートを用いた。比較のため、実施例1と同様にして、表1で示したBi−B−Si−O系ガラスG−11と有害なPb−B−Si−O系ガラスG−12をそれぞれ含むアルミニウム電極用導電性ペーストも作製して、GA−01〜24を用いた場合と比較検討した。
【0066】
作製したアルミニウム電極用導電性ペーストを用いて、実施例1と同様にして図2〜4で示した太陽電池セルを作製し、評価した。ただし、半導体基板1には、150mm角で厚み200μmのp型多結晶シリコン基板を用いた。
【0067】
作製した太陽電池セルの評価結果を表4に示す。表4中の「変換効率」を評価するに当たっては、本実施例では半導体基板1に単結晶シリコン基板よりセル変換効率が低くでる多結晶シリコン基板を使用したため、多結晶シリコン基板としては非常に高い変換効率である16.0%以上で「○」、15.5%以上、16.0%未満で「△」、15.5%未満で「×」とした。それ以外の評価では、実施例1と同じ方法で行った。ただし、「総合評価」において、どの項目においても良好な特性を示した優秀な太陽電池セルには「◎」、実用上問題のなく、従来よりも優れた太陽電池セルには「○」、実用上不十分な太陽電池セルには「△」、実用上問題のある太陽電池セルには「×」と評価した。
【0068】
【表4】

【0069】
表4の太陽電池セルの評価結果より、好ましいアルミニウム電極用ガラス組成物としては、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)及びホウ素(B)を含み、さらにリン(P)、テルル(Te)、バリウム(Ba)及びタングステン(W)のうち1種以上を含み、リンの含有量が10質量%未満である酸化物ガラスの組成全般に渡り、良好な結果が得られた。特にGA−01〜13のガラスを用いた場合が優秀な太陽電池セルが得られることが分かった。そのガラス組成範囲は、次の酸化物換算でVが20〜50質量%、Sbが10〜50質量%、Bが10〜40質量%、TeOが0〜20質量%、BaOが0〜20質量%、及びWOが0〜20質量%であり、しかもV、Sb及びBの合計量が70〜95質量%であった。
【0070】
上記組成範囲のアルミニウム電極用ガラス組成物は、太陽電池セルに限らず、シリコン基板を用いた電子部品全般に有効に適用できることは言うまでもない。また、特にアルミニウム電極には有効であるが、アルミニウム電極以外にも活用可能である。
【0071】
(実施例3)
本実施例では、アルミニウム電極中への本発明のアルミニウム電極用ガラス組成物の含有量が太陽電池セルのそり量と変換効率に及ぼす影響について、詳細に検討した。このガラスには、表3と表4で示した実施例2でのGA−06を用いた。GA−06のガラス含有量はアルミニウム粒子100質量部に対して0〜5質量部の範囲で検討した(0、0.2、0.4、0.7、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0及び5.0質量部)。
【0072】
ガラス含有量を変えて、実施例2と同様にして、アルミニウム電極用導電性ペーストを12種類作製した。作製したアルミニウム電極用導電性ペーストを裏面電極に用いて、実施例2と同様にして図2〜4で示した太陽電池セルを作製し、そり量と変換効率を測定した。
【0073】
図5にアルミニウム電極に含まれるガラス含有量と太陽電池セルのそり量及び変換効率との関係を示す。裏面電極であるアルミニウム電極にガラスが含まれないと、太陽電池セルのそり量は大きく、また変換効率は低かった。僅か0.2質量部のGA−06ガラスが含有されると、一気にそり量と変換効率が改善された。GA−06ガラスが0.2〜2.0質量部の範囲でそり量が小さく、しかも変換効率が高く、ともに良好な太陽電池セルが得られることが分かった。しかし、2.0質量%を超えると、ともに悪化した。
【0074】
以上より、太陽電池セルの裏面電極として適用するアルミニウム電極中のガラス含有量は、0.2〜2.0質量部の範囲が好ましいことが分かった。これは太陽電池セルに限らず、シリコン基板を用いた電子部品全般に有効に適用できることは言うまでもない。また、特にアルミニウム電極には有効であるが、アルミニウム電極以外にも活用できることは言うまでもない。
【0075】
(実施例4)
本実施例では、アルミニウム電極中のガラス含有量がその電極の比抵抗に及ぼす影響について検討した。アルミニウム粒子としては、銀を10質量%含むアルミニウム合金粒子を用いた。この粒子は、実施例1と同様にアトマイズ法により作製した。ガラスには、表3と表4で示した実施例2でのGA−07を用いた。GA−07のガラス含有量はアルミニウム合金粒子100質量部に対して0〜25質量部の範囲で検討した(0、0.2、2.0、5.0、10.0、15.0、20.0、及び25.0質量部)。実施例3と同様にして、ガラス含有量を変えアルミニウム電極用導電性ペーストを8種類作製した。ただし、バインダー樹脂にはニトロセルロースに代えてエチルセルロースを用いた。溶剤はブチルカルビトールアセテートである。
【0076】
作製したアルミニウム電極用導電性ペーストを単結晶シリコン基板へスクリーン印刷法で塗布し、150℃で10分間乾燥した。その後、電気炉に投入し、大気中10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱し、10分間保持した後に炉冷した。アルミニウム電極の膜厚は約20μmであった。シリコン基板に形成したアルミニウム電極の比抵抗を四探針法によって測定した。
【0077】
図6にアルミニウム電極に含まれるガラス含有量とその電極の比抵抗との関係を示す。図6に示されるように、アルミニウム電極にガラスが含まれないと、その比抵抗は高かった(10−4Ωcmオーダー)。僅か0.2質量部のGA−07ガラスが含有されると、一気に比抵抗が低下した。
【0078】
GA−07ガラスが0.2〜15.0質量部の範囲で10−5Ωcmオーダーの比抵抗を達成した。20質量部以上の含有量では、アルミニウム電極の比抵抗が再び大きいものとなった(10−4Ωcmオーダー)。このことから、アルミニウム電極を単に配線として用いる場合やシリコン基板を用いない電子部品へ適用する場合には、電極中のガラス含有量は、0.2〜15.0質量部の範囲が好ましいことが分かった。本実施例では、アルミニウム電極について検討したが、アルミニウム電極やそれ以外の電極にも活用できることは言うまでもない。
【0079】
(実施例5)
本実施例では、プラズマディスプレイパネル(PDP)の電極へ適用した例について説明する。図7は、プラズマディスプレイパネルの1例を示す断面模式図である。以下、図7を参照しながら説明する。
【0080】
はじめに、一般的なプラズマディスプレイパネルについて説明する。プラズマディスプレイパネル11は、前面板12と背面板13とが100〜150μmの間隙をもって対向させて配置され、各基板(前面板12と背面板13)の間隙は隔壁14で維持されている。前面板12と背面板13との周縁部は封着材料15で気密に封止され、パネル内部に希ガスが充填されている。
【0081】
前面板12上には表示電極20が形成され、表示電極20上に誘電体層23が形成され、誘電体層23上に放電から表示電極20等を保護するための保護層25(例えば、MgOの蒸着膜)が形成されている。また、背面板13上にはアドレス電極21が形成され、アドレス電極21上に誘電体層24が形成され、誘電体層24上にセル16を構成するための隔壁14が設けられている。この隔壁14は、少なくともガラス組成物とフィラーとを含む材料を500〜600℃で焼結した構造体よりなり、通常、ストライプ状あるいはボックス状の構造体である。また、背面板13のアドレス電極21は、前面板12の表示電極20に対して直交するように形成されている。
【0082】
隔壁14により区切られた微小空間(セル16)には蛍光体が充填されている。セル16中の蛍光体は、蛍光体用のペーストをセル16に充填し450〜500℃で焼成することによって形成される。赤色蛍光体17が充填されたセルと緑色蛍光体18が充填されたセルと青色蛍光体19が充填されたセルとの3色のセルで1画素が構成される。各画素は、表示電極20とアドレス電極21に掛かる信号に応じて種々の色を発光する。
【0083】
封着材料15は、ディスペンサー法や印刷法等により前面板12または背面板13のどちらか一方の周縁部に事前に塗布される。塗布された封着材料15は、蛍光体17〜19の焼成と同時に仮焼成されることもある。塗布された封着材料を仮焼成することによって、ガラス封着部の気泡を著しく低減することができ、信頼性の高い(すなわち気密性の高い)ガラス封着部が得られるためである。
【0084】
前面板12と背面板13との封着は、別々に作製した前面板12と背面板13とを正確に位置合わせしながら対抗させて配置し、420〜500℃に加熱して行われる。このとき、加熱しながらセル16内部のガスを排気して替わりに希ガスを封入し、電子部品としてのプラズマディスプレイパネルが完成する。なお、封着材料の仮焼成時やガラス封着時に、封着材料15が表示電極20やアドレス電極21と直接的に接触することがあるが、電極配線材料と封着材料とが化学反応しないように構成されていることが肝要である。
【0085】
プラズマディスプレイパネルのセル16を点灯(発光)するには、点灯させたいセル16の表示電極20とアドレス電極21との間に電圧を印加してセル16内にアドレス放電を行い、希ガスをプラズマ状態に励起してセル内に壁電荷を蓄積する。次に、表示電極対に一定の電圧を印加することで、壁電荷が蓄積されたセルのみに表示放電が起こり紫外線22を発生させる。そして、この紫外線22を利用して蛍光体17〜19を発光させてことで、画像情報が表示される。
【0086】
ここにおいて、表示電極20やアドレス電極21としては、良好な電気的性質と製造中の耐酸化性を考慮して銀厚膜の電極配線が従来から使用されている。表示電極20及びアドレス電極21の形成は、スパッタリング法によっても可能であるが、製造コスト低減のためには印刷法が有利である。なお、誘電体層23および24は、通常、印刷法で形成される。また、印刷法で形成される表示電極20、アドレス電極21、誘電体層23および24は、酸化雰囲気中550〜620℃の温度範囲で焼成されることが一般的である。
【0087】
前述したように、銀厚膜の電極配線は銀がマイグレーション現象を起こし易いという問題があるとともに材料コストが高いという問題がある。それらの問題を解決するためには、銀厚膜の電極配線からアルミニウム厚膜或いはアルミニウム合金厚膜の電極配線への変更が好ましい。しかしながら、アルミニウム厚膜或いはアルミニウム合金厚膜の電極配線へ変更するためには、電極配線の比抵抗が低いことと、電極配線と誘電体層とが化学反応しないこと、さらに形成した電極配線の近傍に空隙(気泡等)が発生して電気的耐圧性が低下しないこと等の条件を満たす必要がある。
【0088】
アルミニウム電極用導電性ペーストに含有させる金属粒子として、実施例4で用いたアルミニウム合金粒子(Al−10質量%Ag)を用意した。また、実施例4で用いたガラスGA−07のガラス粒子が上記アルミニウム合金粒子を100質量部とした場合に10質量部となるように混合した粉末に、さらにバインダー樹脂と溶剤とを添加・混錬してアルミニウム電極用導電性ペーストを作製した。この際、バインダー樹脂にはエチルセルロースを用い、溶剤にはα−テルピネオールを用いた。
【0089】
本発明に係るプラズマディスプレイパネルを作製した。まず、前記のアルミニウム電極用導電性ペーストを用い、スクリーン印刷法によって前面板12と背面板13の全面に塗布し、大気中150℃で乾燥した。フォトリソグラフィによって塗布膜の余分な箇所を除去して電極配線をパターニングし、その後、大気中600℃で10分間焼成して表示電極20とアドレス電極21を形成した。
【0090】
次に、誘電体層23、24をそれぞれ塗布し、大気中560℃で30分間焼成した。このようにして作製した前面板12と背面板13を対抗させて配置し、外縁部をガラス封着して図7に示したような構造を有するプラズマディスプレイパネルを作製した。
【0091】
本発明に係るアルミニウム電極用導電性ペーストを用いて形成した電極配線(表示電極20とアドレス電極21)は、表示電極20と誘電体層23との界面部や、アドレス電極21と誘電体層24の界面部に空隙の発生も認められず、外観上良好な状態のプラズマディスプレイパネルを作製することができた。
【0092】
続いて、作製したプラズマディスプレイパネルの点灯実験を行った。表示電極20及びアドレス電極21の比抵抗が増加することは無かった。また、電気的耐圧性が低下することもなくパネルを点灯することができた。
【0093】
さらに、銀厚膜の電極配線のようなマイグレーション現象も生じず、その他特に支障があるような点は認められなかった。以上のことから、本発明のアルミニウム電極用導電性ペーストは、プラズマディスプレイパネルの電極配線として適用できることが確認された。また、高価な銀厚膜の電極配線の代替となり得るので、コスト低減にも大きく貢献できる。
【0094】
(実施例6)
本実施例では、本発明に係る電子部品として多層配線基板の電極へ適用した例について説明する。図8は、LTCC(Low Temperature Co−fired Ceramics)の多層配線基板(5層)の焼成前の構造例を示す断面模式図である。図8に示すように、多層配線基板30は配線(配線用導電性ペースト31)が三次元的に形成されている配線基板である。
【0095】
以下、図8を参照しながら説明する。多層配線基板の製造は、通常、次のような手順で行われる。まず、ガラス粉末とセラミックス粉末とバインダーとを含むグリーンシート32を用意し、所望の位置に貫通孔33を開ける。貫通孔33の開いたグリーンシート32に対し、配線用導電性ペースト31を所望の配線パターンに印刷法で塗布するとともに、貫通孔33にも充填する。必要に応じて、グリーンシート32の裏面にも配線用導電性ペースト31を印刷法にて塗布する。グリーンシート32の裏面に塗布する場合には、表面に塗布した配線用導電性ペースト31を乾燥させてから行う。
【0096】
所定の配線パターンを形成した複数のグリーンシート32を積層し、一体で焼成することによりLTCCの多層配線基板が製造される。なお、焼成条件としては、大気中で900℃前後の温度が一般的である。また、配線用導電性ペーストとしては、良好な電気的性質と製造中の耐酸化性を考慮して銀の導電性ペーストが通常使用されている。
【0097】
マイグレーション現象の対策に有利でしかも安価な銅の導電性ペーストを使用した検討も行われている。しかしながら、銅粒子の酸化防止を目的として窒素雰囲気中で焼成されるため、導電性ペースト31やグリーンシート32中のバインダーの焼成除去(脱バインダー)が上手くいかず、緻密な多層配線基板を得ることが難しかった。
【0098】
また、銅を用いた従来の導電性ペーストにおいては、焼成中にグリーンシート32と導電性ペースト31とが接する部分でガラス相が軟化・流動しやすく銅粒子が酸化され、電極配線の比抵抗が増大する問題があった。さらに、ガラス相との化学反応により該界面部に空隙が発生することがあった。
【0099】
本発明に係る多層配線基板を作製した。配線用導電性ペースト31としては、実施例5で検討したアルミニウム電極用導電性ペーストを用い、上述と同様の手順で図8に示すような多層配線の積層体を形成して、大気中900℃で30分間焼成した。
【0100】
作製した多層配線基板において電極配線の比抵抗を測定したところ、設計通りの値が得られた。次に、作製した多層配線基板の断面観察を行った。その結果、作製した多層配線基板は十分緻密に焼成されていた。そのため、比抵抗も良好な設計通りの値となったと思われる。これは、昇降過程において略完全に脱バインダーが完了していたためと考えられた。また、ガラス相と電極配線との化学反応による界面近傍での空隙も発生していないことが確認された。以上のことから、本発明のアルミニウム電極用導電性ペーストは、多層配線基板の電極配線として適用できることが確認された。また、高価な銀厚膜の電極配線の代替となり得るので、コスト低減にも大きく貢献できる。
【符号の説明】
【0101】
1…p型半導体基板、2…n型半導体層、3…反射防止層、4…受光面電極、5…裏面電極、6…出力電極、7…BSF層、8…合金層、10…太陽電池セル、11…プラズマディスプレイパネル、12…前面板、13…背面板、14…隔壁、15…封着材料、16…セル、17…赤色蛍光体、18…緑色蛍光体、19…青色蛍光体、20…表示電極、21…アドレス電極、22…紫外線、23、24…誘電体層、25…保護層、30…多層配線基板、31…配線用導電性ペースト、32…グリーンシート、33…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、ガラス相とを有する電極がシリコン基板に形成された電子部品であって、該電極中の該ガラス相が少なくともバナジウム、アンチモン、及びホウ素の酸化物を含み、さらにリン、テルル、バリウム及びタングテンの酸化物のうち1種以上を含み、前記リンの含有量が、酸化物換算で10質量%未満であり、該ガラス中の鉛含有量が1000ppm以下である酸化物ガラスであることを特徴とする電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載された電子部品において、前記電極中の前記ガラス相が次の酸化物換算で、Vが20〜50質量%、Sbが10〜50質量%、Bが10〜40質量%、TeOが0〜20質量%、BaOが0〜20質量%、及びWOが0〜20質量%であり、しかもV、Sb及びBの合計量が70〜95質量%であることを特徴とする電子部品。
【請求項3】
請求項1または2に記載された電子部品において、前記Pの含有量が5質量%以下であることを特徴とする電子部品。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された電子部品において、前記P、TeO、BaO及びWOの合計量が5〜30質量%であることを特徴とする電子部品。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された電子部品において、前記電極中の前記金属粒子がアルミニウム或いはアルミニウム合金であることを特徴とする電子部品。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載された電子部品において、前記シリコン基板がpn接合を有し、該p型半導体面に前記電極が形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載された電子部品において、前記電極中の前記ガラス相が前記金属粒子の100質量部に対して0.2〜2.0質量部の割合で含有されていることを特徴とする電子部品。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載された電子部品において、前記電子部品が太陽電池セルであることを特徴とする電子部品。
【請求項9】
アルミニウム或いはアルミニウム合金からなる金属粒子と、ガラス粒子が、バインダー樹脂が溶解した溶剤中に分散したアルミニウム電極用導電性ペーストであって、該ガラス粒子が少なくともバナジウム、アンチモン、ホウ素の酸化物を含み、さらにリン、テルル、バリウム及びタングテンの酸化物のうち1種以上を含み、前記リンの含有量が、酸化物換算で10質量%未満であり、該ガラス中の鉛含有量が1000ppm以下であることを特徴とするアルミニウム電極用導電性ペースト。
【請求項10】
請求項9に記載されたアルミニウム電極用導電性ペーストにおいて、前記電極中の前記ガラス相が次の酸化物換算で、Vが20〜50質量%、Sbが10〜50質量%、Bが10〜40質量%、TeOが0〜20質量%、BaOが0〜20質量%、及びWOが0〜20質量%であり、しかもV、Sb及びBの合計量が70〜95質量%であることを特徴とするアルミニウム電極用導電性ペースト。
【請求項11】
請求項9または10に記載されたアルミニウム電極用導電性ペーストにおいて、前記P量が5質量%以下であることを特徴とするアルミニウム電極用導電性ペースト。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれかに記載されたアルミニウム電極用導電性ペーストにおいて、前記P、TeO、BaO及びWOの合計量が5〜30質量%であることを特徴とするアルミニウム電極用導電性ペースト。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれかに記載されたアルミニウム電極用導電性ペーストにおいて、前記ガラス粒子が前記金属粒子の100質量部に対して0.2〜15.0質量部の割合で含有されていることを特徴とするアルミニウム電極用導電性ペースト。
【請求項14】
請求項9ないし13のいずれかに記載されたアルミニウム電極用導電性ペーストにおいて、前記ガラス粒子が前記金属粒子の100質量部に対して0.2〜2.0質量部の割合で含有されていることを特徴とするアルミニウム電極用導電性ペースト。
【請求項15】
請求項9ないし14のいずれかに記載されたアルミニウム電極用導電性ペーストにおいて、前記バインダー樹脂がエチルセルロースまたはニトロセルロースであり、前記溶剤がα‐テルピネオールまたはブチルカルビトールアセテートであることを特徴とするアルミニウム電極用導電性ペースト。
【請求項16】
アルミニウム電極に含有するガラス組成物であって、該ガラス組成物が少なくともバナジウム、アンチモン、ホウ素の酸化物を含み、さらにリン、テルル、バリウム及びタングテンの酸化物のうち1種以上を含み、前記リンの含有量が、酸化物換算で10質量%未満であり、該ガラス中の鉛含有量が1000ppm以下であり、転移点が400℃以下で、600℃で流動することを特徴とするアルミニウム電極用ガラス組成物。
【請求項17】
請求項16に記載されたアルミニウム電極用ガラス組成物であって、前記電極中の前記ガラス相が次の酸化物換算で、Vが20〜50質量%、Sbが10〜50質量%、Bが10〜40質量%、TeOが0〜20質量%、BaOが0〜20質量%、及びWOが0〜20質量%であり、しかもV、Sb及びBの合計量が70〜95質量%であることを特徴とするアルミニウム電極用ガラス組成物。
【請求項18】
請求項16または17に記載されたアルミニウム電極用ガラス組成物であって、前記P量が5質量%以下であることを特徴とするアルミニウム電極用ガラス組成物。
【請求項19】
請求項16ないし18のいずれかに記載されたアルミニウム電極用ガラス組成物であって、前記P、TeO、BaO及びWOの合計量が5〜30質量%であることを特徴とするアルミニウム電極用ガラス組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−100201(P2013−100201A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245282(P2011−245282)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】