説明

電子部品の製造方法、アーク溶接装置、及びアーク溶接方法

【課題】1台のアーク溶接装置で導線の一端部を一の端子金具にアーク溶接すると同時に導線の他端部を他の端子金具にアーク溶接することができる電子部品の製造方法、アーク溶接装置、及びアーク溶接方法の提供。
【解決手段】アーク電流供給装置10はマイナス電極とグランド電極とを有し、マイナス電極には第1トーチ電極12Aが電気的に接続されている。グランド電極には第2トーチ電極17Aが電気的に接続されている。電子部品の製造方法では、第1トーチ電極12Aを巻線103の一端103Cに対向させると共に第2トーチ電極17Aを巻線103の他端103Dに対向させるトーチ対向工程を行う。次に、第1トーチ電極12Aから巻線103の一端103Cに対してアーク放電をすると同時に第2トーチ17の第2トーチ電極17Aから巻線103の他端103Dに対してアーク放電をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品の製造方法、アーク溶接装置、及びアーク溶接方法に関し、特に導線の一端部及び他端部が導体にアーク溶接されて構成される電子部品の製造方法、当該電子部品の製造方法で用いられるアーク溶接装置、及びアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品等の電子部品としては導線と端子電極をなす端子金具とを有する構成のものが従来より知られている。端子金具は導線の一端及び他端の数だけ設けられており、導線の一端部、他端部は端子金具にそれぞれ1つずつアーク溶接により溶接されて電気的に接続され継線されている。導線の一端部、他端部の端子金具への継線は、先ず導線の一端部及び他端部の絶縁被覆を剥離する。次に、導線の一端部を、端部がアースされた一の端子金具にアーク溶接し、次に導線の他端部を、端部がアースされた他の端子金具にアーク溶接することにより行われる。このような継線を行う方法は、例えば、特開2000−190068号公報に記載されている。
【特許文献1】特開2000−190068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記公報記載の従来の方法では、前述のように、導線の一端部を一の端子金具にアーク溶接した後に、導線の他端部を他の端子金具にアーク溶接するといったように、2回のアーク溶接の工程を行う必要があった。このように順番にアーク溶接せずに、導線の一端部を一の端子金具にアーク溶接すると同時に導線の他端部を他の端子金具にアーク溶接しようとする場合には、アーク溶接装置が2台必要となり、電子部品の製造に係るコストの低減を図ることが困難となる。
【0004】
そこで、本発明は、1台のアーク溶接装置で導線の一端部を一の端子金具にアーク溶接すると同時に導線の他端部を他の端子金具にアーク溶接することができる電子部品の製造方法、アーク溶接装置、及びアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、第1被溶接部を有する第1の導体部と第2被溶接部を有する第2の導体部と導線とを備え該第1被溶接部と該導線の一端部とが溶接され該第2被溶接部と該導線の他端部とが溶接されてなる電子部品を製造するための電子部品の製造方法であって、第1電極と第2電極とを有する一台のアーク電流供給装置と、該第1電極に電気的に接続された第1トーチと、該第2電極に電気的に接続された第2トーチとを備えるアーク溶接装置の該第1トーチを、該導線の一端部又は該導線の一端部近傍に近接配置された該第1被溶接部に対向させると共に、該第2トーチを、該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通する該導線の他端部に対向させるか又は該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通し該導線の他端部近傍に近接配置された該第2被溶接部に対向させるトーチ対向工程と、該導線の一端部又は該第1被溶接部に対して該第1トーチからアーク放電すると同時に、該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通する該導線の他端部に対して該第2トーチからアーク放電するか又は該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通する該第2被溶接部に対して該第2トーチからアーク放電して、該導線の一端部と該第1被溶接部とを電気的に接続すると同時に該導線の他端部と該第2被溶接部とを電気的に接続するアーク放電工程とを有する電子部品の製造方法を提供している。
【0006】
第1電極と第2電極とを有する一台のアーク電流供給装置と、第1電極に電気的に接続された第1トーチと、第2電極に電気的に接続された第2トーチとを備えるアーク溶接装置の第1トーチを、導線の一端部又は導線の一端部近傍に近接配置された第1被溶接部に対向させると共に、第2トーチを、導線の一端部若しくは第1被溶接部に導通する導線の他端部に対向させるか又は導線の一端部若しくは第1被溶接部に導通し導線の他端部近傍に近接配置された第2被溶接部に対向させるトーチ対向工程と、導線の一端部又は第1被溶接部に対して第1トーチからアーク放電すると同時に、導線の一端部若しくは第1被溶接部に導通する導線の他端部に対して第2トーチからアーク放電するか又は導線の一端部若しくは第1被溶接部に導通する第2被溶接部に対して第2トーチからアーク放電して、導線の一端部と第1被溶接部とを電気的に接続すると同時に導線の他端部と第2被溶接部とを電気的に接続するアーク放電工程とを有するため、一回のアーク放電作業で導線の一端部を第1被溶接部に電気的に接続して継線すると同時に導線の他端部を第2被溶接部に電気的に接続して継線することができる。このため、一のトーチに対して導線の一端部又は第1被溶接部を対向させて導線の一端部と第1被溶接部とを溶接した後に、当該一のトーチに対して導線の他端部又は第2被溶接部を対向させて導線の他端部と第2被溶接部とを溶接するといったように溶接箇所を入れ替えて2回アーク溶接を行わずに済む。
【0007】
ここで、該トーチ対向工程を行う前に該第1の導体部と該第2の導体部とは非導通状態で設けられ、該トーチ対向工程では、該第1トーチを該導線の一端に対向させると共に該第2トーチを該導線の他端に対向させ、該アーク放電工程では、該第1トーチから該導線の一端に対してアーク放電すると同時に該第2トーチから該導線の他端に対してアーク放電することが好ましい。
【0008】
トーチ対向工程を行う前に第1の導体部と第2の導体部とは非導通状態で設けられ、トーチ対向工程では、第1トーチを導線の一端に対向させると共に第2トーチを導線の他端に対向させ、アーク放電工程では、第1トーチから導線の一端に対してアーク放電すると同時に第2トーチから導線の他端に対してアーク放電するため、導線が絶縁被覆されている場合には、アーク放電によって導線の一端部の絶縁被覆と他端部の絶縁被覆とを同時に剥離した後に、導線の一端部と第1被溶接部とを溶接すると同時に導線の他端部と第2被溶接部とを溶接することができる。このため、導線の一端部及び他端部の絶縁被覆を剥離する工程を行わずに済み、また、絶縁被覆によって導線の一端部及び他端部の溶融が阻害されることを防止することができる。この結果、確実に溶接することができ、絶縁被覆の一部が残って溶接の際に煤けることを防止することができる。また、アーク放電をする前に例えばかしめ片でかしめる等によって溶接しようとする導線の一端部と第1の導体部とを導通させておかずに済み、同様に、溶接しようとする導線の他端部と第2の導体部とを導通させておかずに済む。
【0009】
また、該第1被溶接部には、該導線に沿うように該第1溶接部から突出する第1溶融補助片が設けられていることが好ましい。第1被溶接部には、導線に沿うように第1溶接部から突出する第1溶融補助片が設けられているため、アーク溶接による溶接玉を確実に形成することができる。
【0010】
また、該第2被溶接部には、該導線に沿うように該第2溶接部から突出する第2溶融補助片が設けられていることが好ましい。第2被溶接部にも導線に沿うように第2溶接部から突出する第2溶融補助片が設けられているため、導線の一端部と他端部との両方においてアーク溶接による溶接玉を確実に形成することができる。
【0011】
また、該トーチ対向工程を行う前に該第1の導体部と該第2の導体部とは導通状態で設けられ、該トーチ対向工程では、該第1トーチを該第1被溶接部に対向させると共に該第2トーチを該第2被溶接部に対向させ、該アーク放電工程では、該第1トーチから該第1被溶接部に対してアーク放電すると同時に該第2トーチから該第2被溶接部に対してアーク放電し、該アーク放電工程の後に該第1の導体部と該第2の導体部とを非導通状態とする工程を有することが好ましい。
【0012】
トーチ対向工程を行う前に第1の導体部と第2の導体部とは導通状態で設けられ、トーチ対向工程では、第1トーチを第1被溶接部に対向させると共に第2トーチを第2被溶接部に対向させ、アーク放電工程では、第1トーチから第1被溶接部に対してアーク放電すると同時に第2トーチから第2被溶接部に対してアーク放電し、アーク放電工程の後に第1の導体部と第2の導体部とを非導通状態とする工程を有するため、第1の導体部と第2の導体部が一体に連結されてリードフレームをなし第1の導体部と第2の導体部とが互いに導通する状態のときに、アーク溶接の作業を行うことができる。
【0013】
また、該トーチ対向工程を行う前に該第1の導体部と該第2の導体部とは非導通状態で設けられ、該アーク放電工程の前に該導線の一端部と該第1被溶接部とを導通状態とすると共に、該導線の他端部と該第2被溶接部とを導通状態とする端部導体導通工程を有し、該トーチ対向工程では、該第1トーチを該第1被溶接部に対向させると共に該第2トーチを該第2被溶接部に対向させ、該アーク放電工程では、該第1トーチから該第1被溶接部に対してアーク放電すると同時に該第2トーチから該第2被溶接部に対してアーク放電することが好ましい。
【0014】
トーチ対向工程を行う前に第1の導体部と第2の導体部とは非導通状態で設けられ、アーク放電工程の前に導線の一端部と第1被溶接部とを導通状態とすると共に、導線の他端部と第2被溶接部とを導通状態とする端部導体導通工程を有し、トーチ対向工程では、第1トーチを第1被溶接部に対向させると共に第2トーチを第2被溶接部に対向させ、アーク放電工程では、第1トーチから第1被溶接部に対してアーク放電すると同時に第2トーチから第2被溶接部に対してアーク放電するため、導線の一端部と第1被溶接部とは予め導通し、導線の他端部と第2被溶接部とは予め導通しているので、導線の一端部と第1被溶接部と溶接を確実にすることができ、導線の他端部と第2被溶接部と溶接を確実にすることができる。
【0015】
また、該アーク放電工程では、該第1被溶接部と該導線の一端部とが溶接される部分及びその近傍に対してアシストガスを供給するとともに、該第2被溶接部と該導線の他端部とが溶接される部分及びその近傍に対してアシストガスを供給することが好ましい。ここで、該第1被溶接部と該導線の一端部とが溶接される部分及びその近傍に対してアシストガスを供給するとは、第1トーチからアシストガスを供給する場合や別途設けられたアシストガス供給用ノズルからアシストガスを供給する場合を含む意味である。同様に該第2被溶接部と該導線の他端部とが溶接される部分及びその近傍に対してアシストガスを供給するとは、第2トーチからアシストガスを供給する場合や別途設けられたアシストガス供給用ノズルからアシストガスを供給する場合を含む意味である。
【0016】
アーク放電工程では、第1被溶接部と導線の一端部とが溶接される部分及びその近傍に対してアシストガスを供給するとともに、第2被溶接部と導線の他端部とが溶接される部分及びその近傍に対してアシストガスを供給するため、導線の一端部と第1被溶接部との溶接においてアシストガスの効果を得ることができ、且つ、導線の他端部と第2被溶接部との溶接においてアシストガスの効果を得ることができる。
【0017】
また、該アーク放電工程では、該第1トーチ及び該第2トーチにおける該アシストガスの供給量を制御することにより該第1被溶接部及び該導線の一端部の溶融量と該第2被溶接部及び該導線の他端部の溶融量とを制御することが好ましい。
【0018】
アーク放電工程では、第1トーチ及び第2トーチにおけるアシストガスの供給量を制御することにより第1被溶接部及び導線の一端部の溶融量と第2被溶接部及び導線の他端部の溶融量とを制御するため、導線の一端部と第1被溶接部との溶接の具合と導線の他端部と第2被溶接部との溶接の具合とのばらつきを極力なくすことができる。
【0019】
また、本発明は、互いに近接配置された導線の一端部と第1の導体部の第1被溶接部とをアーク溶接により電気的に接続すると共に互いに近接配置された該導線の他端部と第2の導体部の該第2被溶接部とをアーク溶接により電気的に接続して、該第1の導体部と該導線の一端部とが溶接され該第2の導体部と該導線の他端部とが溶接されてなる電子部品を製造するためのアーク溶接装置であって、第1電極と第2電極とを有する一台のアーク電流供給装置と、該第1電極に電気的に接続され、該導線の一端部に対向可能であるか又は該一端部近傍に近接配置された該第1被溶接部に対向可能な第1トーチと、該第2電極に電気的に接続され、該導線の他端部に対向可能であるか又は該他端部近傍に近接配置された該第2被溶接部に対向可能な第2トーチとを備え、該導線の一端部又は該導線の一端部近傍に近接配置された該第1被溶接部に対して該第1トーチからアーク放電すると同時に、該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通する該導線の他端部に対して該第2トーチからアーク放電するか又は該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通し該導線の他端部近傍に近接配置された該第2被溶接部に対して該第2トーチからアーク放電して、該導線の一端部と該第1被溶接部とを電気的に接続すると同時に該導線の他端部と該第2被溶接部とを電気的に接続するアーク溶接装置を提供している。
【0020】
第1電極と第2電極とを有する一台のアーク電流供給装置と、第1電極に電気的に接続され、導線の一端部に対向可能であるか又は一端部近傍に近接配置された第1被溶接部に対向可能な第1トーチと、第2電極に電気的に接続され、導線の他端部に対向可能であるか又は他端部近傍に近接配置された第2被溶接部に対向可能な第2トーチとを備えているため、導線の一端部又は導線の一端部近傍に近接配置された第1被溶接部に対して第1トーチからアーク放電すると同時に、導線の一端部若しくは第1被溶接部に導通する導線の他端部に対して第2トーチからアーク放電するか又は導線の一端部若しくは第1被溶接部に導通し導線の他端部近傍に近接配置された第2被溶接部に対して第2トーチからアーク放電することができ、導線の一端部と第1被溶接部とを電気的に接続すると同時に導線の他端部と第2被溶接部とを電気的に接続することができる。
【0021】
また、本発明は、トーチを相対的にプラスの電位とし被溶接物を相対的にマイナスの電位として、該トーチから該被溶接物に対してアーク放電することにより該被溶接物を溶融させる逆電極放電工程を有するアーク溶接方法を提供している。
【0022】
トーチを相対的にプラスの電位とし被溶接物を相対的にマイナスの電位として、トーチから被溶接物に対してアーク放電することにより被溶接物を溶融させる逆電極放電工程を有するため、相対的にマイナス側をなす電極の側で被溶接物を溶融させることができ溶接を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
以上より本発明によれば、1台のアーク溶接装置で導線の一端部を一の端子金具にアーク溶接すると同時に導線の他端部を他の端子金具にアーク溶接することができる電子部品の製造方法、アーク溶接装置、及びアーク溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態によるアーク溶接装置を示す概略図。
【図2】本発明の実施の形態によるアーク溶接装置によりアーク溶接を行った様子を示す概略図。
【図3】本発明の実施の形態によるアーク溶接装置により溶接される第一端子の第一継線部、第二端子の第二継線部を示す斜視図。
【図4】本発明の実施の形態によるアーク溶接装置により溶接される第一端子の第一継線部、第二端子、巻線の一端部、巻線の他端部を示す斜視図。
【図5】本発明の実施の形態によるアーク溶接装置により溶接され第一端子の第一継線部と巻線の一端部とで溶接玉が形成され、第二端子の第二継線部と巻線の他端部で溶接玉が形成された状態を示す斜視図。
【図6(a)】本発明の実施の形態による電子部品の製造方法の変形例により製造されたコイル部品を示す斜視図。
【図6(b)】本発明の実施の形態による電子部品の製造方法の変形例のアーク放電工程を行う前に巻線の一端部が第一継線部のかしめ片によってかしめられた状態を示す要部斜視図。
【図7】本発明の実施の形態による電子部品の製造方法の変形例においてアーク放電工程を行っている様子を示す概略図。
【図8】本発明の実施の形態による電子部品の製造方法の変形例において巻線をドラムコアの巻芯部に巻回する前の状態を示す概略図。
【図9】本発明の実施の形態による電子部品の製造方法の変形例において巻線をドラムコアの巻芯部に巻回している様子を示す概略図。
【図10】本発明の実施の形態による電子部品の製造方法の変形例において余分な巻線の部分を切断除去している様子を示す概略図。
【図11】本発明の実施の形態による電子部品の製造方法の変形例においてアーク放電工程を行っている様子を示す概略図。
【図12】本発明の実施の形態による電子部品の製造方法の変形例において第一端子、第二端子からリードフレーム枠部を切断して、第一端子と第二端子とを非導通状態とした様子を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態によるアーク溶接装置について図1乃至図2に基づき説明する。アーク溶接装置1は、図1に示されるように一台のアーク電流供給装置10を備えており、アーク電流供給装置10は図示せぬマイナス電極とグランド電極とを有している。マイナス電極には、グランド電極に対して瞬間的に15KV以上の電圧を印加可能であり、また、数ボルト程度の電圧を継続的に印加できるように構成されている。また、アーク電流供給装置10は、これら図示せぬマイナス電極、グランド電極を介して8A以上の電流を流すことができるように構成されている。マイナス電極は、第1電極及び相対的にマイナス側をなす電極に相当する。グランド電極は、第2電極及び相対的にプラス側をなす電極に相当する。
【0026】
マイナス電極には、図1に示されるように、絶縁被覆導線11の一端が接続されており、絶縁被覆導線11の他端には第1トーチ12が設けられている。第1トーチ12は、図示せぬマイナス電極に絶縁被覆導線11を介して電気的に接続されタングステンからなり略棒状をした第1トーチ電極12Aと、略筒状をなし第1トーチ電極12Aを環装するようにして第1トーチ電極12Aに同軸的に設けられた図示せぬインナーノズルと、略筒状をなし図示せぬインナーノズルを環装するようにして第1トーチ電極12Aに同軸的に設けられたノズル12Bとを備えており、ノズル12Bの内周面と図示せぬインナーノズルの外周面との間には、第1トーチ電極12Aの基端側から先端側へ向かって、即ち図1の上側から下側へ向かってアシストガス13を流すことが可能な図示せぬアシストガス流路が形成されている。第1トーチ電極12Aの先端部は、図示せぬインナーノズル及びノズル12Bの先端部から突出しており、後述のコイル部品となる巻線103の一端103Cに対向可能である。
【0027】
また、後述の巻線103の一端部103Aであって後述の第一溶融補助片152Aと溶接される部分と第一溶融補助片152Aとに対向するようにノズル口が配置されたアシストガス供給ノズル14が設けられている。同様に、後述の巻線103の他端部103Bであって後述の第二溶融補助片162Aと溶接される部分と第二溶融補助片162Aとに対向するようにノズル口が配置されたアシストガス供給ノズル19が設けられている。
【0028】
グランド電極には、マイナス電極と同様に、図1に示されるように絶縁被覆導線16の一端が接続されており、絶縁被覆導線16の他端には第2トーチ17が設けられている。絶縁被覆導線16の中間部は接地されている。第2トーチ17は、図示せぬグランド電極に絶縁被覆導線16を介して電気的に接続されタングステンからなり略棒状をした第2トーチ電極17Aと、略筒状をなし第2トーチ電極17Aを環装するようにして第2トーチ電極17Aに同軸的に設けられた図示せぬインナーノズルと、略筒状をなし図示せぬインナーノズルを環装するようにして第2トーチ電極17Aに同軸的に設けられたノズル17Bとを備えており、ノズル17Bの内周面と図示せぬインナーノズルの外周面との間には、第2トーチ電極17Aの基端側から先端側へ向かって、即ち図1の上側から下側へ向かってアシストガス18を流すことが可能なアシストガス流路が形成されている。第2トーチ電極17Aの先端部は、図示せぬインナーノズル及びノズル17Bの先端部から突出しており、後述のコイル部品となる巻線103の他端103Dに対向可能である。
【0029】
上述のように、第1トーチ電極12Aの先端部が後述のコイル部品となる巻線103の一端103Cに対向し、第2トーチ電極17Aの先端部が後述のコイル部品となる巻線103の他端103Dに対向した状態で、後述のアーク放電工程が行われるのであるが、このとき、第1トーチ電極12Aは相対的にマイナスの電位となり、被溶融物たる巻線103の一端103Cは相対的にプラスの電位となる。また、第2トーチ電極17Aは相対的にプラスの電位となり、被溶融物たる巻線103の他端103Dは相対的にマイナスの電位となるように構成されている。
【0030】
アーク溶接により溶接される対象物は、各種電子機器においてチョークコイルとして用いられるコイル部品を構成する部材である。コイル部品101(図5)は、ドラムコア102と、巻線103(図4等)と、端子金具104とから構成されており、巻線103の一端部103Aと後述の第一端子105とが溶接され、巻線103の他端部103Bと後述の第二端子106とが溶接される。
【0031】
ドラムコア102は、例えばNi−Zn系の磁性材料を基材とし、図示せぬ巻芯部と、一対の鍔部102B、102Cとから構成されている。図示せぬ巻芯部は略柱状に構成され、巻線103が巻回されている。一対の鍔部102B、102Cはそれぞれ同形かつ略円板状で、図示せぬ巻芯部の軸方向両端に巻芯部と一体で設けられている。図示せぬ巻芯部と、一対の鍔部102B、102Cとは同軸的に配置されている。
【0032】
巻線103(図4)は銅線にポリウレタン被膜が施された絶縁被覆導線により構成されており、被膜を含めた巻線103の直径は0.4mm程度であり、被膜の厚さは0.03mm程度である。従って、被覆を除いた銅線の直径は0.34mm程度である。巻線103は、図示せぬ巻芯部に巻回されて、前述のように一端部103A(図5等)及び他端部103Bがそれぞれ第一端子105、第二端子106に継線されている。
【0033】
端子金具104は燐青銅等の銅合金を基材とし、図3に示されるように、後述のトーチ対向工程前には互いに非導通状態の第一端子105と第二端子106とから構成されている。第一端子105と第二端子106とは、並列して配置されて鍔部102Bに固定され、その並列方向と直交する面において対称に構成されている。よって第一端子105についてのみ説明し、第二端子106については説明を省略する。第一端子105は第1の導体部に相当し、第二端子106は第2の導体部に相当する。
【0034】
第一端子105は第一実装部151と第一継線部152とから主に構成されている。第一実装部151は略長方形の板材より構成されており、その一面側(図3の下側の面)がドラムコア102との接合箇所となり、他面側(図3の上側の面)が図示せぬ回路基板との実装箇所になっている。この第一実装部151の長手方向の一端部に第一継線部152が設けられている。第一継線部152は第1被溶接部に相当する。
【0035】
第一継線部152は、巻線103が未だ継線されていない状態で、第一実装部151の平面と平行となるように第一実装部151との間に屈曲箇所を経て第一実装部151の一面側に持ち上げられて(図3では下げられて)設けられている。第一継線部152の当該持ち上げられた部分であって第一端子105と第二端子106とを結ぶ方向における略中央部分は、図3に示されるように第一実装部151の平面に垂直の方向であって鍔部102Cから鍔部102Bへと向かう方向、即ち図1の上方向へ折り曲げられて突出する第一溶融補助片152Aをなしており、第一溶融補助片152Aとして折り曲げられた第一継線部152の部分は、第一実装部151の方向へ切欠いたような形状の巻線掛け凹部152aをなしている。巻線掛け凹部152aには、図4に示されるように、後述の巻線103の一端部103Aとなる部分が掛けられるように構成されている。このように巻線103の一端部103Aが掛けられているときに、図4に示されるように、第一溶融補助片152Aは巻線103の一端部103Aに沿った状態となっている。そして、このように沿った状態となっているときに巻線103の一端部103Aに対向する第一溶融補助片152Aの面、即ち、図3においてちょうど符号「152A」が指している第一溶融補助片152Aの面には、錫やニッケル等からなるめっきが施されており、このため、第一溶融補助片152Aは、後述のアーク放電工程におけるアーク溶接の際に溶融しやすい。
【0036】
第二端子106は、第一端子105と同様に第二実装部161と第二継線部162とを有している。第一溶融補助片152Aに相当する第二端子106の第二継線部162の部分は第二溶融補助片162Aをなしており、第二端子106の巻線掛け凹部162aには、第一溶融補助片152Aと同様に図4に示されるように、後述の巻線103の他端部103Bとなる部分が掛けられるように構成されている。このように巻線103の他端部103Bが掛けられているときに、図4に示されるように、第二溶融補助片162Aは巻線103の他端部103Bに沿った状態となっている。そして、第一溶融補助片152Aと同様に、このように沿った状態となっているときに巻線103の一端部103Bに対向する第二溶融補助片162Aの面、即ち、図3においてちょうど符号「162A」が指している第二溶融補助片162Aの面には、錫やニッケル等からなるめっきが施されており、このため、第二溶融補助片162Aは、後述のアーク放電工程におけるアーク溶接の際に溶融しやすい。
【0037】
第一継線部152には、巻線103の一端部103Aに沿うように第一継線部152から突出する第一溶融補助片152Aが設けられているため、アーク溶接による溶接玉101A、101B(図5)を確実に形成することができる。また、第二継線部162にも巻線103に沿うように第二継線部162から突出する第二溶融補助片162Aが設けられているため、巻線103の一端部103Aと他端部103Bとの両方においてアーク溶接による溶接玉101A、101Bを確実に形成することができる。
【0038】
上述のコイル部品を製造するための電子部品の製造方法では、先ず、ドラムコア102の一方の鍔部102Bに接着剤等により端子金具104を固定する。この時に第一端子105及び第二端子106は、それぞれ第一実装部151及び第二実装部161の長手方向が略平行となり、第一継線部152及び第二継線部162の向きが同一となるように配置される。次に、図示せぬ巻芯部に巻線103を巻回し、巻線103の一端部103Aと他端部103Bとを図示せぬ巻芯部における巻線103の巻回部分から引出す。
【0039】
次に、図4に示されるように、巻線103の一端部103Aを巻線掛け凹部152aに掛け、第一溶融補助片152Aが巻線103の一端部103Aに沿った状態とすると共に、巻線103の他端部103Bを巻線掛け凹部162aに掛け、第二溶融補助片162Aが巻線103の他端部103Bに沿った状態とする。次に、巻線103の一端部103A、他端部103Bとなる位置の近傍において巻線103をそれぞれ切断し、図1に示されるように、巻線103の一端部103A、他端部103Bの軸心方向が、第一実装部151、第二実装部161の平面に垂直の方向であって鍔部102Cから鍔部102Bへと向かう方向へ指向した状態とする。このとき、巻線103の一端部103Aは第一溶融補助片152Aよりも図1上方へ突出しており、同様に、巻線103の他端部103Bは第二溶融補助片162Aよりも図1上方へ突出している。
【0040】
次にトーチ対向工程を行う。トーチ対向工程では、アーク溶接装置1の第1トーチ12の第1トーチ電極12Aの軸方向を巻線103の一端部103Aの軸方向と一致させた状態として第1トーチ電極12Aの巻線103の一端103C(図1)に対向させると共に、第2トーチ17の第2トーチ電極17Aの軸方向を巻線103の他端部103Bの軸方向と一致させた状態として第2トーチ電極17Aを巻線103の他端103Dに対向させる。
【0041】
次に、アーク放電工程を行う。アーク放電工程では、アーク電流供給装置10によりマイナス電極に対して瞬間的に−15KVの電圧を印加するとともにアーク電流供給装置10から第1トーチ12及び第2トーチ17に対して電流を供給する。印加する電圧は通電後には数V程度とされる。供給する電流は最初の0.7msecは1A程度とし、その後2.0msec間8A供給する。このことにより、巻線103の一端103Cに対向させた状態のアーク溶接装置1の第1トーチ12の第1トーチ電極12Aから巻線103の一端103Cに対してアーク放電をすると同時に、巻線103の他端103Dに対向させた状態のアーク溶接装置1の第2トーチ17の第2トーチ電極17Aから巻線103の他端103Dに対してアーク放電をする。このアーク放電により、巻線103の一端部103Aと第一継線部152とが電気的に接続されて溶接玉101A(図5)となると同時に巻線103の他端部103Bと第二継線部162とが電気的に接続されて溶接玉101Bとなる。より詳細には、主として第一継線部152の第一溶融補助片152Aが溶融して溶接玉101Aが形成され、主として第二継線部162の第二溶融補助片162Aが溶融して溶接玉101Bが形成される。アーク放電工程は逆電極放電工程に相当する。
【0042】
アーク放電を行っている間中、第1トーチ12の図示せぬアシストガス流路及び第2トーチ17の図示せぬアシストガス流路においてアシストガス13、18としてアルゴンガスを供給し続けると共に、アシストガス供給ノズル14から、巻線103の一端部103Aであって第一溶融補助片152Aと溶接される部分と第一溶融補助片152Aとに対して、また、アシストガス供給ノズル19から、巻線103の他端部103Bであって第二溶融補助片162Aと溶接される部分と第二溶融補助片162Aとに対して、それぞれ空気を供給し続ける。アルゴンガスは、アーク放電の着弾箇所のばらつきを極力防止すると共に、必要以上の酸素が第1トーチ電極12A、第2トーチ電極17Aに接触して第1トーチ電極12A、第2トーチ電極17Aが劣化することを防止する。また、アーク放電で発生した煤を吹き飛ばすことができる。空気に含有される酸素は、絶縁被覆を完全に燃焼させて二酸化炭素とし煤の発生を防止することができる。
【0043】
また、アーク放電中に供給するアルゴンガス及び酸素量の調整が行われる。例えば、溶融の程度が少ない方にアシストガス13、18を多く供給させることで溶融を促進させることができる。この調整により巻線103の一端部103A、第一継線部152、巻線103の他端部103B、第二継線部162の溶融量を制御することができ、巻線103の一端部103Aと第一継線部152との溶接の具合と巻線103の他端部103Bと第二継線部162との溶接の具合とのばらつきを極力なくすことができる。この結果、巻線103の一端部103Aと第一継線部152とが溶接されてなる溶接玉101Aと、巻線103の他端部103Bと第二継線部162とが溶接されてなる溶接玉101Bとを略同一の大きさの略同一形状とすることができる。
【0044】
また、第1トーチ12及び第2トーチ17においてアシストガス13、18を供給するため、巻線103の一端部103Aと第一継線部152との溶接においてアシストガス13、18の効果をそれぞれ得ることができ、且つ、巻線103の他端部103Bと第二継線部162との溶接においてアシストガス13、18の効果を得ることができる。
【0045】
また、第1トーチ電極12Aを巻線103の一端部103Aに対向させると共に第2トーチ電極17Aを巻線103の他端部103Bに対向させるトーチ対向工程と、巻線103の一端部103Aに対して第1トーチ電極12Aからアーク放電すると同時に、巻線103の他端部103Bに対して第2トーチ電極17Aからアーク放電するアーク放電工程とを有するため、一回のアーク放電作業で巻線103の一端部103Aを第一継線部152に電気的に接続して継線すると同時に巻線103の他端部103Bを第二継線部162に電気的に接続して継線することができる。このため、一のトーチに対して巻線103の一端部103Aを対向させて巻線103の一端部103Aと第一継線部152とを溶接した後に、当該一のトーチに対して巻線103の他端部103Bを対向させて巻線103の他端部103Bと第二継線部162とを溶接するといったように溶接箇所を入れ替えて2回溶接せずに済む。
【0046】
また、逆電極放電工程を行うため、相対的にマイナス側をなす電極の側で被溶接物を溶融させることができ溶接を行うことができる。
【0047】
また、電流を供給する最初の0.7msecは1A程度とすることで、アーク放電によって巻線103の一端部103Aの絶縁被覆と他端部103Bの絶縁被覆とを同時に剥離することができる。このように絶縁被覆が剥離された状態で、巻線103の一端部103Aと第一継線部152とを溶接すると同時に巻線103の他端部103Bと第二継線部162とを溶接することができる。
【0048】
このため、巻線103の一端部103A及び他端部103Bの絶縁被覆を剥離する工程を行わずに済み、また、絶縁被覆によって巻線103の一端部103A及び他端部103Bの溶融が阻害されることを防止することができる。この結果、確実に溶接することができ、絶縁被覆の一部が残って溶接の際に煤けることを防止することができる。また、アーク放電をする前に例えばかしめ片でかしめる等により溶接しようとする巻線103の一端部103Aと第一端子105とを導通させておかずに済み、同様に、溶接しようとする巻線103の他端部103Bと第二端子106とを導通させておかずに済む。以上の工程を経て、第一端子105の第一継線部152と巻線103の一端部103Aとが溶接され、第二端子106の第二継線部162と巻線103の他端部103Bとが溶接されてなる電子部品たるコイル部品が製造される。
【0049】
本発明による電子部品の製造方法、アーク溶接装置、及びアーク溶接方法は、上記した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、本実施の形態では、トーチ対向工程では、アーク溶接装置1の第1トーチ12の第1トーチ電極12Aの軸方向を巻線103の一端部103Aの軸方向と一致させた状態として巻線103の一端103Cに対向させると共に、第2トーチ17の第2トーチ電極17Aの軸方向を巻線103の他端部103Bの軸方向と一致させた状態として巻線103の他端103Dに対向させ、また、アーク放電工程では、このようにトーチ対向工程で配置された第1トーチ12から巻線103の一端103Cに対してアーク放電をすると同時に、第2トーチ17から巻線103の他端103Dに対してアーク放電をしたが、これに限定されない。
【0050】
例えば、図6に示されるように、トーチ対向工程を行う前に第1の導体部たる第一端子205と第2の導体部たる第二端子206とは非導通状態で設けられ、アーク放電工程の前に巻線103の一端部103Aと第一継線部252とを導通状態とすると共に巻線103の他端部103Bと第二継線部262とを導通状態とする端部導体導通工程を有し、トーチ対向工程では、第1トーチ電極12Aを巻線103の一端部103A近傍に近接配置された第1被溶接部たる第一継線部252に対向させると共に第2トーチ電極17Aを巻線103の他端部103B近傍に近接配置された第2被溶接部たる第二継線部262に対向させ、アーク放電工程では、第1トーチ電極12Aから第一継線部252に対してアーク放電すると同時に第2トーチ電極17Aから第二継線部262に対してアーク放電するようにしてもよい。
【0051】
より具体的には、図6(b)に示されるように、かしめ片252A、252Bを有する第一端子205及び第二端子206を用意する。そしてトーチ対向工程を行う前に、巻線103の一端部103Aと第一継線部252とを、U字に折り曲げられたかしめ片252A、252Bにより挟むようにしてかしめることにより、巻線103の一端部103Aと第一継線部252とを互いに電気的に接続すると共に、巻線103の他端部103Bと第二継線部262とを、U字に折り曲げられたかしめ片により挟むようにしてかしめ片によってかしめることにより、巻線103の他端部103Bと第二継線部262とを互いに電気的に接続する。このことにより第一継線部252と第二継線部262とは、巻線103を介して電気的に接続される。
【0052】
このよう状態となった第一端子205、第二端子206において、トーチ対向工程では第1トーチ電極12Aを第1被溶接部たる第一継線部252に対向させると共に第2トーチ電極17Aを第二継線部262に対向させ、アーク放電工程で、第1トーチ電極12Aから巻線103の一端103Cではなく第一継線部252に対してアーク放電すると同時に、第2トーチ電極17Aから巻線103の他端103Dではなく第二継線部262に対してアーク放電する。このようにすることで、予め導通している巻線103の一端部103Aと第1被溶接部たる第一継線部252と溶接を確実にすることができ、予め導通している巻線103の他端部103Bと第2被溶接部たる第二継線部262と溶接を確実にすることができる。
【0053】
また、トーチ対向工程を行う前に第1の導体部たる第一端子205と第2の導体部たる第二端子206とを導通状態とし、トーチ対向工程では、第1トーチ電極12Aを第1被溶接部たる第一継線部252に対向させると共に第2トーチ電極17Aを第二継線部262に対向させ、アーク放電工程では、第1トーチ電極12Aから第一継線部252に対してアーク放電すると同時に第2トーチ電極17Aから第二継線部262に対してアーク放電してもよい。そして、アーク放電工程の後に第1の導体部と第2の導体部とを非導通状態とする工程を有するようにする。
【0054】
より具体的には、図7に示されるように、第一端子205、第二端子206がリードフレームの一部として構成され、これら第一端子205、第二端子206は、トーチ対向工程前に、リードフレームの一部を構成するリードフレーム枠部201Cにより一体且つ互いに電気的に接続された状態となっている。
【0055】
このような状態の第一端子205、第二端子206において、トーチ対向工程では第1トーチ電極12Aを巻線103の一端部103A近傍に近接配置された第一継線部252の部分に対向させると共に第2トーチ電極17Aを巻線103の他端部103B近傍に近接配置された第二継線部262の部分に対向させ、アーク放電工程で、第1トーチ電極12Aから巻線103の一端103Cではなく第一継線部252に対してアーク放電すると同時に、第2トーチ電極17Aから巻線103の他端103Dではなく第二継線部262に対してアーク放電する。そして、アーク放電工程を完了させた後に、第一端子205、第二端子206からリードフレーム枠部201Cを切断して、第一端子205と第二端子206とを非導通状態とする。
【0056】
更にかしめ片は1つであってもよい。より具体的には、図9に示されるように、第一端子305、第二端子306がリードフレームの一部として構成され、これら第一端子305、第二端子306は、トーチ対向工程前に、リードフレームの一部を構成するリードフレーム枠部301Cにより一体且つ互いに電気的に接続された状態となっている。図9に示されるように、ドラムコア102が第一端子305、第二端子306上に載置されたときには、ドラムコア102が複数対並べられた状態となっている。かしめ片352A、352Aはそれぞれの対の互いに対向する側にそれぞれ一対ずつ設けられている。また、第一端子305、第二端子306の一部であってかしめ片352A、352Aの基部近傍部分にはそれぞれ溶融補助片352Bが設けられており、後述のように、巻線103がドラムコア102及びかしめ片352Aに巻回され掛けられることにより、溶融補助片352Bは巻線103に沿った状態となるように構成されている。
【0057】
巻線103は、図9のように載置された状態のドラムコア102及びかしめ片352Aにあたかも一筆書きをするかのようにして巻回され掛けられる。具体的には、ノズル21から引出された巻線103は、図9の一番右上の対をなすドラムコア102のうちの左側のドラムコア102が載置されている第二端子306のかしめ片352Aに掛けられ、次に、当該左側のドラムコア102の図示せぬ巻芯部に巻回され、図9の一番右上の対をなすドラムコア102のうちの左側のドラムコア102が載置されている第一端子305のかしめ片352Aに掛けられる。
【0058】
次に、同様にして、ノズル21から引出された巻線103は、図9の一番右上から一つ左下の対をなすドラムコア102のうちの左側のドラムコア102が載置されている第二端子306のかしめ片352Aに掛けられ、次に、当該左側のドラムコア102の図示せぬ巻芯部に巻回され、図9の一番右上から一つ左下の対をなすドラムコア102のうちの左側のドラムコア102が載置されている第一端子305のかしめ片352Aに掛けられる。
【0059】
この工程を同様にして図9の一番左下の対をなすドラムコア102のうちの左側のドラムコア102が載置されている第一端子305のかしめ片352Aに掛けられるまで行い、位置決め部材22に巻線103が掛けられ、次に、ノズル21から引出された巻線103は、図9の一番左下の対をなすドラムコア102のうちの右側のドラムコア102が載置されている第一端子305のかしめ片352Aに掛けられ、次に、当該右側のドラムコア102の図示せぬ巻芯部に巻回され、図9の一番左下の対をなすドラムコア102のうちの右側のドラムコア102が載置されている第二端子306のかしめ片352Aに掛けられる。
【0060】
次に、図9の一番左下から一つ右上の対をなすドラムコア102のうちの右側のドラムコア102が載置されている第一端子305のかしめ片352Aに掛けられ、当該右側のドラムコア102の図示せぬ巻芯部に巻回され、図9の一番左下から一つ右上の対をなすドラムコア102のうちの右側のドラムコア102が載置されている第二端子306のかしめ片352Aに掛けられる。この工程を同様にして図9の一番右上の対をなすドラムコア102のうちの右側のドラムコア102が載置されている第二端子306のかしめ片352Aに掛けられるまで行う。
【0061】
次に、図10に示されるように、巻線103を環装するように全てのかしめ片352Aを折曲げてかしめ片352Aで巻線103をかしめ、コイル部品301(図12)を構成する巻線103の部分以外の余分な巻線103の部分を切断し除去する。次に、図11に示されるように、トーチ対向工程では第1トーチ電極12Aを巻線103の一端部103Aに対向させると共に第2トーチ電極17Aを巻線103の他端部103Bに対向させ、アーク放電工程で、第1トーチ電極12Aから巻線103の一端103Cに対してアーク放電すると同時に、第2トーチ電極17Aから巻線103の他端103Dに対してアーク放電する。そして、アーク放電工程を完了させた後に、図12に示されるように、第一端子305、第二端子306からリードフレーム枠部301Cを切断して、第一端子305と第二端子306とを非導通状態とする。
【0062】
また、本実施の形態では第1トーチ電極12Aはマイナス電極に接続され第2トーチ電極17Aはグランド電極に接続されていたが、これに限定されない。例えば、第1トーチ電極12Aは第2トーチ電極17Aに対して相対的にマイナス寄りとなるような電位とされ第2トーチ電極17Aは第1トーチ電極12Aに対して相対的にプラス寄りとなるような電位とされればよく、例えば、第2トーチ電極17Aは0Vでなくてプラスの電位となっていてもよい。
【0063】
また、アーク放電工程では、供給する電流は最初の0.7msecは1A程度とし、その後2.0msec間8A供給したが、この時間、電流値に限定されない。アーク放電を行う時間、電流値は絶縁被覆の厚さや銅線の太さに応じて適宜最適な値を採用すればよい。
【0064】
また、本実施の形態では、アーク放電を行っている間中、第1トーチ12の図示せぬアシストガス流路及び第2トーチ17の図示せぬアシストガス流路においてアシストガス13、18としてアルゴンガスを供給し続けると共に、アシストガス供給ノズル14、19から空気を供給し続けたが、これに限定されない。例えば、第1トーチ12の図示せぬアシストガス流路及び第2トーチ17の図示せぬアシストガス流路においてアシストガス13、18としてアルゴンガスを供給するのみで、アシストガス供給ノズル14、19から何も供給しなくてもよい。
【0065】
又は、第1トーチ12の図示せぬアシストガス流路及び第2トーチ17の図示せぬアシストガス流路においてアシストガス13、18としてアルゴンガス及び空気を供給するのみで、アシストガス供給ノズル14、19から何も供給しなくてもよい。又は、第1トーチ12の図示せぬアシストガス流路及び第2トーチ17の図示せぬアシストガス流路においてアシストガス13、18としてアルゴンガスを供給し続けると共に、アシストガス供給ノズル14、19からアルゴンガス及び空気を供給し続けてもよい。又は第1トーチ12の図示せぬアシストガス流路及び第2トーチ17の図示せぬアシストガス流路においてアシストガス13、18としてアルゴンガス及び空気を供給し続けると共に、アシストガス供給ノズル14、19からアルゴンガス及び空気を供給し続けてもよい。
【0066】
また、本実施の形態では電子部品はコイル部品であったが、コイル部品に限定されない。また、巻線の本数や第一端子等の端子の数は本実施の形態の数に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の電子部品の製造方法、アーク溶接装置、及びアーク溶接方法は、端子金具と導線とがアーク溶接されてなる電子部品の分野において有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 アーク溶接装置
10 アーク電流供給装置
12 第1トーチ
13、18 アシストガス
17 第2トーチ
101、301 コイル部品
102 ドラムコア
103 巻線
104 端子金具
105、205、305 第一端子
106、206、306 第二端子
151 第一実装部
152、252 第一継線部
161 第二実装部
162、262 第二継線部
152A 第一溶融補助片
162A 第二溶融補助片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1被溶接部を有する第1の導体部と第2被溶接部を有する第2の導体部と導線とを備え該第1被溶接部と該導線の一端部とが溶接され該第2被溶接部と該導線の他端部とが溶接されてなる電子部品を製造するための電子部品の製造方法であって、
第1電極と第2電極とを有する一台のアーク電流供給装置と、該第1電極に電気的に接続された第1トーチと、該第2電極に電気的に接続された第2トーチとを備えるアーク溶接装置の該第1トーチを、該導線の一端部又は該導線の一端部近傍に近接配置された該第1被溶接部に対向させると共に、該第2トーチを、該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通する該導線の他端部に対向させるか又は該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通し該導線の他端部近傍に近接配置された該第2被溶接部に対向させるトーチ対向工程と、
該導線の一端部又は該第1被溶接部に対して該第1トーチからアーク放電すると同時に、該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通する該導線の他端部に対して該第2トーチからアーク放電するか又は該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通する該第2被溶接部に対して該第2トーチからアーク放電して、該導線の一端部と該第1被溶接部とを電気的に接続すると同時に該導線の他端部と該第2被溶接部とを電気的に接続するアーク放電工程とを有することを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
該トーチ対向工程を行う前に該第1の導体部と該第2の導体部とは非導通状態で設けられ、
該トーチ対向工程では、該第1トーチを該導線の一端に対向させると共に該第2トーチを該導線の他端に対向させ、
該アーク放電工程では、該第1トーチから該導線の一端に対してアーク放電すると同時に該第2トーチから該導線の他端に対してアーク放電することを特徴とする請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
該第1被溶接部には、該導線に沿うように該第1溶接部から突出する第1溶融補助片が設けられていることを特徴とする請求項2記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
該第2被溶接部には、該導線に沿うように該第2溶接部から突出する第2溶融補助片が設けられていることを特徴とする請求項3記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
該トーチ対向工程を行う前に該第1の導体部と該第2の導体部とは導通状態で設けられ、
該トーチ対向工程では、該第1トーチを該第1被溶接部に対向させると共に該第2トーチを該第2被溶接部に対向させ、
該アーク放電工程では、該第1トーチから該第1被溶接部に対してアーク放電すると同時に該第2トーチから該第2被溶接部に対してアーク放電し、
該アーク放電工程の後に該第1の導体部と該第2の導体部とを非導通状態とする工程を有することを特徴とする請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
該トーチ対向工程を行う前に該第1の導体部と該第2の導体部とは非導通状態で設けられ、
該アーク放電工程の前に該導線の一端部と該第1被溶接部とを導通状態とすると共に、該導線の他端部と該第2被溶接部とを導通状態とする端部導体導通工程を有し、
該トーチ対向工程では、該第1トーチを該第1被溶接部に対向させると共に該第2トーチを該第2被溶接部に対向させ、
該アーク放電工程では、該第1トーチから該第1被溶接部に対してアーク放電すると同時に該第2トーチから該第2被溶接部に対してアーク放電することを特徴とする請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
該アーク放電工程では、該第1被溶接部と該導線の一端部とが溶接される部分及びその近傍に対してアシストガスを供給するとともに、該第2被溶接部と該導線の他端部とが溶接される部分及びその近傍に対してアシストガスを供給することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一記載の電子部品の製造方法。
【請求項8】
該アーク放電工程では、該第1トーチ及び該第2トーチにおける該アシストガスの供給量を制御することにより該第1被溶接部及び該導線の一端部の溶融量と該第2被溶接部及び該導線の他端部の溶融量とを制御することを特徴とする請求項7記載の電子部品の製造方法。
【請求項9】
互いに近接配置された導線の一端部と第1の導体部の第1被溶接部とをアーク溶接により電気的に接続すると共に互いに近接配置された該導線の他端部と第2の導体部の該第2被溶接部とをアーク溶接により電気的に接続して、該第1の導体部と該導線の一端部とが溶接され該第2の導体部と該導線の他端部とが溶接されてなる電子部品を製造するためのアーク溶接装置であって、
第1電極と第2電極とを有する一台のアーク電流供給装置と、
該第1電極に電気的に接続され、該導線の一端部に対向可能であるか又は該一端部近傍に近接配置された該第1被溶接部に対向可能な第1トーチと、
該第2電極に電気的に接続され、該導線の他端部に対向可能であるか又は該他端部近傍に近接配置された該第2被溶接部に対向可能な第2トーチとを備え、
該導線の一端部又は該導線の一端部近傍に近接配置された該第1被溶接部に対して該第1トーチからアーク放電すると同時に、該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通する該導線の他端部に対して該第2トーチからアーク放電するか又は該導線の一端部若しくは該第1被溶接部に導通し該導線の他端部近傍に近接配置された該第2被溶接部に対して該第2トーチからアーク放電して、該導線の一端部と該第1被溶接部とを電気的に接続すると同時に該導線の他端部と該第2被溶接部とを電気的に接続することを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項10】
トーチを相対的にプラスの電位とし被溶接物を相対的にマイナスの電位として、該トーチから該被溶接物に対してアーク放電することにより該被溶接物を溶融させる逆電極放電工程を有することを特徴とするアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−162565(P2010−162565A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5534(P2009−5534)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】