説明

電子部品の製造方法、マーキング方法、およびマーキング装置

【課題】過酷な環境下に置かれる電子部品にも適用することが可能なマーキングを提供する。
【解決手段】電子部品の製造方法は、光硬化性を有しN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上20質量%以下の範囲で含有するインク45を、電子部品である半導体チップ12へ塗布してマーキングを行なう塗布ステップ(ステップS4、S9)と、塗布されたインク45へ、積算光量200mJ/cm2以上の光を照射する照射ステップ(S3〜S6、S8〜S11)と、照射ステップの後、インク45を150℃以上200℃以下の温度で加熱する加熱ステップ(ステップS15)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品へマーキングをするための電子部品の製造方法、電子部品等の被加工体へのマーキング方法、および、これら電子部品の製造方法とマーキング方法とに用いられるマーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集積回路(IC)等をパッケージ化してなる電子部品は、様々な機器に使用されており、そのような電子部品には、文字、記号、ロゴマーク等を印刷したマーキングが施されている。このようなマーキングをする方法として、例えば、インクジェット方式が知られていて、このインクジェット方式は、電子部品のマーキングをする箇所にのみインクを吐出する形態であり、インクを効率良く使用できる特徴を有している。
【0003】
このインクジェット方式によるマーキング例として、特許文献1には、二酸化チタンを含むインクが最大インク膜厚10〜30μmで硬化するように、照射する紫外光の積算光量および照度を特定範囲に設定したことを特徴とする、プリント配線板製造におけるインクジェット記録方法が開示されている。また、特許文献2には、インクジェットプリンターから、着色剤、光重合開始剤、およびエポキシ試薬を含有する紫外線硬化性インクを、プリント回路基板上に噴射してマーキングを提供する工程と、当該マーキングを少なくとも2秒間後に紫外光に暴露する工程と、を含むことを特徴とする、インクジェット印刷方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−21479号公報
【特許文献2】特表2007−327459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および2に開示された記録(印刷)方法では、マーキングにおける耐擦性、密着性、およびアルコール耐性のうち少なくともいずれか一つが劣っているか、または品質安定等の面で改善が望まれる、という課題を有していた。即ち、温度等の面で過酷な環境下に置かれる電子部品には、適用することが難しい場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例または形態として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例に係る電子部品の製造方法は、光硬化性を有しN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上含有する液状体を、電子部品へ塗布してマーキングを行なう塗布ステップと、塗布された前記液状体へ、積算光量200mJ/cm2以上の光を照射する照射ステップと、前記照射ステップの後、前記液状体を加熱する加熱ステップと、を有することを特徴とする。
【0008】
この電子部品の製造方法によれば、電子部品へのマーキングには、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体を用いている。この液状体は、塗布ステップにおいて、電子部品へのマーキングに供され、マーキング後、照射ステップでの光の照射および加熱ステップでの加熱によって固体状に硬化する。この場合、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体は、照射ステップにおいて、積算光量200mJ/cm2以上の光の照射によって、好ましい硬化状態となる。さらに、加熱ステップにおいて、すでに硬化状態を呈している液状体に加熱を行なうことにより、液状体は、より均一で安定した硬化状態となる。このように、電子部品へのマーキングは、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体を用い、塗布ステップおよび照射ステップに加え、さらに加熱ステップを経ることにより、電子部品に対する密着性や、マーキングとしての耐擦性およびアルコール耐性にも優れた特性を有することが可能である。
【0009】
[適用例2]上記適用例に係る電子部品の製造方法において、前記加熱ステップでは、前記液状体を150℃以上200℃以下の温度で加熱すること、が好ましい。
【0010】
この方法によれば、加熱ステップにおける加熱温度を150℃以上200℃以下に設定する。この温度範囲に設定することにより、硬化状態を呈している液状体をより均一で安定した硬化状態にすると共に、電子部品への熱影響を回避して、電子部品の性能維持を確実に図ることが可能である。
【0011】
[適用例3]上記適用例に係る電子部品の製造方法において、前記液状体は、N−ビニルカプロラクタムを5質量%以上20質量%以下の範囲で含有すること、が好ましい。
【0012】
この方法によれば、液状体が含有するN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上20質量%以下に設定し、照射ステップおよび加熱ステップにおける硬化状態のばらつき等を抑制する。つまり、液状体は、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有すれば、好ましい硬化状態となるが、一方、20質量%を超えると、保存時における品質の安定性低下や、粘性の増加する傾向があり、20質量%以下に含有する場合に比べて、塗布ステップにおける作業性等の面で、若干劣る傾向である。従って、液状体は、これら若干でも劣っている特性となる範囲を避けて、N−ビニルカプロラクタムを含有、即ち5質量%以上20質量%以下の範囲で含有、する設定により、ばらつきのない安定した硬化状態を呈することが可能である。
【0013】
[適用例4]上記適用例に係る電子部品の製造方法において、前記塗布ステップの前に、前記電子部品の表面を活性化する表面処理ステップをさらに有すること、が好ましい。
【0014】
この方法によれば、表面処理ステップをさらに有することにより、電子部品の表面は、活性化されており、液状体との密着性が改善された状態となっている。この状態の電子部品を塗布ステップへ送ることにより、液状体の電子部品への密着性をより良好にすることが可能である。
【0015】
[適用例5]本適用例に係るマーキング方法は、光硬化性を有しN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上含有する液状体を、被加工体へ塗布してマーキングを行なう塗布ステップと、塗布された前記液状体へ、積算光量200mJ/cm2以上の光を照射する照射ステップと、前記照射ステップの後、前記液状体を加熱する加熱ステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
このマーキング方法によれば、被加工体へのマーキングには、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体を用いている。この液状体は、塗布ステップにおいて、望ましくは表面処理等で液状体との密着性が改善された、被加工体へのマーキングに供され、照射ステップでの光の照射および加熱ステップでの加熱によって固体状に硬化する。この場合、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体は、照射ステップにおいて、積算光量200mJ/cm2以上の光の照射によって、好ましい硬化状態となる。さらに、加熱ステップにおいて、すでに硬化状態を呈している液状体に加熱を行なうことにより、液状体は、より均一で安定した硬化状態となる。このように、被加工体へのマーキングは、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体を用い、塗布ステップおよび照射ステップに加え、さらに加熱ステップを経ることにより、被加工体に対する密着性や、マーキングとしての耐擦性およびアルコール耐性にも優れた特性を有することが可能である。
【0017】
[適用例6]本適用例に係るマーキング装置は、光硬化性を有しN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上含有する液状体を、被加工体へ吐出する吐出部と、塗布された前記液状体へ、積算光量200mJ/cm2以上の光を照射する照射部と、を備えていること、を特徴とする。
【0018】
このマーキング装置によれば、被加工体へのマーキングには、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体を用い、この液状体を吐出部によって被加工体へ吐出してマーキングしている。マーキングされた液状体は、照射部による光の照射によって固体状に硬化する。この場合、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体は、照射部による積算光量200mJ/cm2以上の光の照射で、好ましい硬化状態となる。このように、マーキング装置によるマーキングは、N−ビニルカプロラクタムを5重量%以上含有する液状体を用いることにより、被加工体に対する密着性や、マーキングとしての耐擦性およびアルコール耐性を有することが可能である。
【0019】
[適用例7]上記適用例に係るマーキング装置は、前記照射がなされた前記液状体を加熱する加熱部を、さらに備えていることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、マーキング装置は、照射部による光の照射後に、加熱を付与する加熱部をさらに備えている。これにより、液状体は、照射部による光の照射による硬化に加え、加熱部により加熱されることにより、さらに均一で安定した硬化状態となる。このマーキングを用いれば、加熱の工程も連続して行なうことができ、作業効率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電子部品のマーキングを示す平面図。
【図2】マーキング装置の概略の構成を示す斜視図。
【図3】(a)キャリッジおよびワークを示す正面図、(b)ノズルユニットのノズル配置を示す平面図。
【図4】マーキングの手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の電子部品の製造方法、マーキング方法、およびマーキング装置について、添付図面を参照して説明する。ここでは、電子部品である半導体チップへ、インクジェット方式のマーキング装置によって、マーキングを施す方法を例にして説明する。
(実施形態)
【0023】
図1は、電子部品のマーキングを示す平面図である。図1に示すように、被加工体としてのワーク10は、載置台11と、載置台11に載置されている電子部品である半導体チップ12と、を有している。そして、半導体チップ12の表面には、ロゴマーク12a、製品コード12b、製造番号12c等のマーキングがなされている。この場合、半導体チップ12は、エポキシ樹脂で集積回路(IC)等をパッケージしていて、エポキシ樹脂の表面部に、インク(液状体)によって、マーキングが描画されている。
【0024】
なお、パッケージの材料としては、半導体チップ12の内部へのインクの浸透を防ぐため、非吸収性材が好ましく、エポキシ樹脂のほかに、シリコン、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリメチルメタアクリレート、窒化珪素等の窒化物、ホウ化物等が挙げられる。この中でも、インクとの密着性に優れるため、エポキシ樹脂やシリコンが好適である。
【0025】
次に、半導体チップ12へインクでマーキングするためのマーキング装置について説明する。図2は、マーキング装置の概略の構成を示す斜視図である。また、図3(a)は、キャリッジおよびワークを示す正面図であり、図3(b)は、ノズルユニットのノズル配置を示す平面図である。
【0026】
まず、図2に示すように、マーキング装置1は、インクジェット方式の装置であって、ワーク10を搬送するためのワーク搬送装置2と、キャリッジ3と、キャリッジ搬送装置4と、メンテナンス装置5と、を有している。キャリッジ3には、ヘッドユニット(吐出部)13と、2個の照射装置(照射部)15と、が設けられている。マーキング装置1では、ヘッドユニット13とワーク10との平面視での相対位置を変化させつつ、ヘッドユニット13からインクを液滴として吐出する。これにより、ワーク10には、インクで所望パターンのマーキングを描画することができる。図中において、Y方向はワーク10の移動方向を示し、X方向は平面視でY方向とは直交する方向を示している。また、X方向およびY方向によって規定されるXY平面と直交する方向は、Z方向として規定される。
【0027】
マーキング装置1において、ワーク搬送装置2は、定盤21と、ガイドレール23a,23bと、ワークテーブル25と、テーブル位置検出装置27と、を有している。定盤21は、例えば石などの熱膨張係数が小さい材料で構成されており、ガイドレール23a,23bと共にY方向に沿って延びるように据えられている。ワークテーブル25は、ガイドレール23a,23bを挟んで定盤21の上面21aに対向した状態で設けられていて、ワーク10が載置される面25aを有している。また、テーブル位置検出装置27は、定盤21の上面21aに設けられており、ワークテーブル25のY方向における位置を検出する。そして、ワークテーブル25は、図示しない移動機構及び動力源によって、Y方向に往復動可能に構成されている。移動機構としては、例えば、ボールねじとボールナットとを組み合わせた機構や、リニアガイド機構などがあり、マーキング装置1では、リニアガイド機構を用いている。
【0028】
キャリッジ搬送装置4は、架台61と、ガイドレール63と、キャリッジ位置検出装置65と、を有し、支柱67aと支柱67bとによって支持されている。架台61は、X方向に延在しており、ワーク搬送装置2およびメンテナンス装置5をX方向に跨いでいる。ガイドレール63は、架台61の定盤21側に設けられ、キャリッジ3をX方向に往復動可能な状態で支持している。このキャリッジ3は、図示しない移動機構及び動力源によって、X方向に往復動可能に構成されていて、移動機構としては、ワークテーブル25と同様リニアガイド機構が用いられている。また、キャリッジ位置検出装置65は、架台61とキャリッジ3との間に、X方向に延在して設けられており、キャリッジ3のX方向における位置を検出する。そして、キャリッジ搬送装置4は、往路開始位置3aおよび復路開始位置3bを有し、往路開始位置3aは、キャリッジ3を往復移動させるときの往路の開始位置であり、復路開始位置3bは、キャリッジ3の復路の開始位置である。なお、ワーク搬送装置2では、キャリッジ搬送装置4に対してY方向の一方の側が、図4を参照して後述する、載置位置であり、他方の側が加熱位置である。図2では、ワークテーブル25が加熱位置にある状態を示している。
【0029】
メンテナンス装置5は、定盤71と、ガイドレール73a,73bと、保守テーブル75と、キャッピングユニット76と、フラッシングユニット77と、ワイピングユニット79と、を有している。定盤71は、例えば石などの熱膨張係数が小さい材料で構成されており、X方向に支柱67aを挟んで定盤21と対峙する位置に設けられている。保守テーブル75は、ガイドレール73a,73bを挟んで定盤71の上面71aに対向した状態で設けられ、保守テーブル75には、キャッピングユニット76や、フラッシングユニット77、ワイピングユニット79などの保守ユニットが載置されている。また、保守テーブル75は、ガイドレール73a,73bによってY方向に沿って案内され、定盤71上をY方向に沿って往復移動可能に構成されている。
【0030】
キャッピングユニット76は、ヘッドユニット13に蓋をする装置である。ヘッドユニット13から吐出されるインクは、液体成分が蒸発するため粘度が高くなり、液滴として吐出する性能が低下することがある。これを防止するために、ヘッドユニット13に蓋をする動作をキャッピングという。
【0031】
フラッシングユニット77は、フラッシング動作のときに、ヘッドユニット13から吐出されるインクを受ける装置である。ここで、フラッシング動作とは、ワーク10へのマーキングの描画とは無関係に、ヘッドユニット13からインクを吐出させる動作のことで、ヘッドユニット13内に滞留するインクが固化して吐出が困難になってしまうことを予防する等の効果がある。
【0032】
ワイピングユニット79は、ヘッドユニット13を拭く装置である。ヘッドユニット13には、インクが付着して、液滴として吐出する性能が低下することがある。ワイピングユニット79は、ヘッドユニット13を拭くことによって、該性能を低下させているインクを払拭し、吐出性能を維持することができる。このワイピングユニット79でヘッドユニット13を拭く動作を、ワイピングという。
【0033】
また、保守テーブル75は、図示しないリニアガイド機構によって、Y方向に往復動可能に構成されている。これにより、メンテナンス装置5は、キャッピングユニット76、フラッシングユニット77、およびワイピングユニット79を、Y方向に沿って往復移動させることができ、平面視でヘッドユニット13がメンテナンス装置5に重なっている状態において、ヘッドユニット13をキャッピングユニット76、フラッシングユニット77およびワイピングユニット79のそれぞれに対向させることができる。
【0034】
キャリッジ3は、図3(a)および図3(b)に示すように、ヘッドプレート31と、ヘッドプレート31に設けられた2個の吐出ヘッド33a,33bと、を有している。これら2個の吐出ヘッド33は、X方向に並んで配置されている。そして、吐出ヘッド33は、複数のノズル37が形成されたノズル面35を有し、このノズル面35は、Z方向においてワークテーブル25の側、即ちワーク10の側に向いている。各吐出ヘッド33において、複数のノズル37は、Y方向に沿って配列する2本のノズル列39を構成している。2本のノズル列39は、X方向に互いに隙間をあけた状態で並んでいる。各ノズル列39において、複数のノズル37は、Y方向に沿って所定のノズル間隔Pで形成され、2本のノズル列39は、互いにY方向にP/2の距離だけずれている。ヘッドユニット13では、2個の吐出ヘッド33のうちの一方におけるノズル列39と、他方の吐出ヘッド33におけるノズル列39とが、互いにY方向にP/4の距離だけずれているため、Y方向におけるノズル37の密度が高められている。
【0035】
また、2個の照射装置15a,15bは、それぞれ、X方向にヘッドユニット13を挟んで互いに対峙する位置に設けられている。照射装置15aは、X方向において、吐出ヘッド33aの吐出ヘッド33b側とは反対側に位置している。そして、照射装置15bは、X方向において、吐出ヘッド33bの吐出ヘッド33a側とは反対側に位置している。マーキング装置1においては、照射装置15a,15bは、それぞれ紫外光41を発する光源43を有している。光源43からの紫外光41は、吐出ヘッド33から吐出された液状体であるインク45の硬化を促進させることができる。つまり、インク45は、光硬化性を有するが、この場合の光は、その一例としての紫外光41である。紫外光41を用いれば、インク45をほぼ瞬間的に硬化させることができ、さらに、半導体チップ12への熱影響を抑制することもできる。照射装置15の光源43としては、紫外線発光ダイオード(UV−LED)を用いているが、紫外線レーザーダイオード(UV−LD)、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等を用いても良い。なお、インク45の硬化については、図4を参照して詳細に後述する。
【0036】
そして、マーキング装置1は、上記の各構成の動作を制御するための制御部6を有している。制御部6は、図示していない、CPU(Central Processing Unit)や、駆動制御部、メモリー部等を有している。CPUは、プロセッサーとして各種の演算処理を行い、駆動制御部は、各構成の駆動を制御する。また、メモリー部は、RAM(Random Access Memory)や、ROM(Read Only Memory)などを含んでいて、マーキング装置1における動作の制御手順が記述されたプログラムソフトを記憶する領域や、各種のデータを一時的に展開するデータ展開領域等が設定されている。データ展開領域のデータとしては、例えば、半導体チップ12へ描画するマーキングのパターンが示されるマーキングデータや、描画処理等のプログラムデータ等がある。
【0037】
ここで、マーキング装置1で用いられるインク45について説明する。本実施形態におけるインク45は、光硬化性を有しN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上含有する液状体である。インク45において、N−ビニルカプロラクタムは、インク組成物として加えることにより、インク45の半導体チップ12との密着性、耐擦性、およびアルコール耐性をより良好にするために、最適な重合性化合物として選択されたものである。このN−ビニルカプロラクタムは、インク45に5重量%以上含有されていれば、照射装置15により照射されることにより重合され、インク45を好ましい硬化状態とするが、一方、20質量%を超えて含有されると、インク45の保存時における品質の安定性低下や粘性の増加等の傾向があり、20質量%以下の含有時に比べて、マーキング等における作業性等の面で、若干ではあるが劣ることになる。従って、インク45では、N−ビニルカプロラクタムを、5質量%以上含有すれば効果的であり、さらには、5質量%以上20質量%以下の範囲で含有することが好ましい。
【0038】
なお、一般的なインクに組成物として含まれる重合性化合物としては、分子中にビニル基および(メタ)アクリル基を共に有する化合物が挙げられ、具体例として、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸5−ビニロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル等がある。これを踏まえ、インク45は、低粘度で、引火点が高く、反応性および密着性に優れる、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA)を20質量%含有し、さらに密着性、耐擦性、およびアルコール耐性等をより一層良好なものとするために、必須の重合性化合物としてN−ビニルカプロラクタムを15質量%含有する組成である。
【0039】
また、インク45は、組成物として、色材を含んでおり、ホワイト、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの色でマーキングが可能である。色材は、顔料および染料の少なくとも一方を用いることができ、顔料は、無機顔料および有機顔料のいずれも使用することができる。無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック類、酸化鉄、酸化チタンが挙げられる。そして、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。インク45の場合には、半導体チップ12の濃色の表面にマーキングをするため、色材としてホワイトの顔料を用いている。
【0040】
次に、マーキング装置1におけるマーキングの処理方法について説明する。図4は、マーキングの手順を示すフローチャートである。マーキング装置1では、制御部6の指示により、マーキングデータに基づいて描画が開始されるため、フローチャートは、制御部6が実行する手順を示している。
【0041】
ここでは、マーキング装置1によるフローチャートに準拠した描画の前に、表面処理ステップが行なわれる。表面処理ステップでは、ワーク10の半導体チップ12に対して、低圧水銀ランプによる照射が行なわれる。この場合、表面処理ステップにおける処理条件は、酸素を含む雰囲気、即ち酸素濃度20〜100体積%で温度160〜190℃の処理雰囲気中で、185nmと254nmに強い線スペクトルがある低圧水銀ランプの光を、0.01〜60mW/cm2の強度で5秒以上10分以内の時間、ワーク10へ照射する。この条件であれば、エポキシ樹脂でパッケージされた半導体チップ12であっても、半導体チップ12の表面から内部深くまでの酸化や破損等が回避できる。このような表面処理がなされた半導体チップ12は、その表面が活性化されインク45との密着性が良好となるように改善されている。なお、表面処理ステップは、この場合、マーキング装置1では行なわないが、当該表面処理を行なうための雰囲気下での加熱等が可能な活性化部を、マーキング装置1が備えることにより、制御部6の制御によって行なわれる構成であっても良い。そして、半導体チップ12への表面処理が行なわれたワーク10は、載置位置にて、ワークテーブル25に載置される。
【0042】
マーキング装置1によるマーキングは、まず、フローチャートにおけるステップS1において、キャリッジ3を往路開始位置3aへ移動させる。往路開始位置3aは、キャリッジ3を往復移動させるときの往路の開始位置であって、X方向において、メンテナンス装置5とワークテーブル25との間に位置し、平面視で、ワークテーブル25の外側にある。この時、表面処理ステップによる処理がなされたワーク10は、ワークテーブル25にセットされている。キャリッジ3の移動後、ステップS2へ進む。
【0043】
ステップS2において、ワークテーブル25をマーキングエリアへ移動させる。ここで、マーキングエリアとは、吐出ヘッド33が往路開始位置3aと復路開始位置3bとの間をX方向に沿って移動する軌跡と、ワークテーブル25がY方向に沿って移動する軌跡と、の重なり合う領域であって、半導体チップ12へのマーキングが行なわれるエリアである。ワークテーブル25の移動後、ステップS3、そしてステップS4へ進む。
【0044】
ステップS3において、照射装置15aを点灯させ、ステップS4において、往路における描画を行なう。往路における描画は、照射装置15aを点灯させた状態で、吐出ヘッド33の駆動を制御して、マーキングデータに基づき各ノズル37からインク45を吐出させておこなわれる。半導体チップ12の表面への描画は、ロゴマーク12a、製品コード12b、製造番号12c等のマーキング(図1)である。この時、照射装置15aは、半導体チップ12の表面に吐出されたインク45を、紫外光41によって硬化させる。照射装置15aの光源43は、既述した紫外線発光ダイオード(UV−LED)であって、この場合、365nmのピーク波長を有していて、半導体チップ12に吐出されたインク45へ、積算光量200mJ/cm2以上の紫外光41を照射する構成となっている。これにより、インク45は、半導体チップ12の表面に、密着性の良好な状態で硬化する。このステップS4は、塗布ステップに該当する。往路での描画が行われると、ステップS5へ進む。
【0045】
ステップS5において、往路の描画が終了したか否かを判断する。この判断は、制御部6のCPUが行う。描画が終了していれば、ステップS6へ進み、一方、描画が終了していなければ、ステップS5において描画の終了までループする。
【0046】
そして、描画が終了していれば、ステップS6において、照射装置15aを消灯させる。これらステップS3からステップS6までは、照射ステップに該当する。照射装置15aの消灯後、ステップS7へ進む。
【0047】
ステップS7において、ワークテーブル25を移動させる。ステップS7では、制御部6が指示してワークテーブル25を移動させることによって、半導体チップ12へ新たなマーキングをするためのいわゆる改行を行なう。改行後、ステップS8、そしてステップS9へ進む。
【0048】
ステップS8において、照射装置15bを点灯させ、ステップS9において、復路における描画を行なう。復路における描画は、照射装置15bを点灯させた状態で、吐出ヘッド33の駆動を制御して、マーキングデータに基づき各ノズル37からインク45を吐出させておこなわれる。この時、照射装置15bは、照射装置15aと同様に、半導体チップ12の表面に吐出されたインク45を、紫外光41によって硬化させる。このステップS9は、塗布ステップに該当する。復路での描画が行われると、ステップS10へ進む。
【0049】
ステップS10において、復路の描画が終了したか否かを判断する。この判断は、制御部6のCPUが行う。描画が終了していれば、ステップS11へ進み、一方、描画が終了していなければ、ステップS10において描画の終了までループする。
【0050】
そして、描画が終了していれば、ステップS11において、照射装置15bを消灯させる。これらステップS8からステップS11までは、照射ステップに該当する。照射装置15bの消灯後、ステップS12へ進む。
【0051】
ステップS12において、全描画が終了したか否かを判断する。この判断は、制御部6のCPUが行う。描画の一部がまだ終了していなければ、ステップS13へ進み、一方、全描画が終了していれば、ステップS14へ進む。
【0052】
そして、描画がまだ終了していなければ、ステップS13において、ワークテーブル25を移動させる。ステップS13では、制御部6が指示してワークテーブル25を移動させることによって、半導体チップ12へ新たなマーキングをするためのいわゆる改行を行なう。改行後、ステップS3へ進んで描画を続行する。
【0053】
一方、全描画が終了していれば、ステップS14において、ワークテーブル25を加熱位置へ移動させる。ここで、加熱位置とは、マーキングがなされた半導体チップ12を、不図示のホットプレート(加熱部)によって加熱することが可能な位置のことである。このステップでは、マーキング装置1において、ワークテーブル25が、マーキングエリアから加熱位置へ、Y方向に沿って移動した状態となっている。ワークテーブル25の移動後、ステップS15へ進む。
【0054】
ステップS15において、ワーク10を加熱処理する。つまり、半導体チップ12を加熱することにより、半導体チップ12にインク45で描画され照射装置15で硬化されたマーキングを、さらに良好な硬化状態にする。この加熱は、マーキングが描画された半導体チップ12をホットプレート上に並べて、温度を150℃以上200℃以下である180℃で加熱をする形態である。180℃の加熱温度であれば、半導体チップ12への熱影響等を回避して、その性能を損なうことなく維持することができる。ステップS15は、加熱ステップに該当する。加熱処理の終了により、フローが終了する。
【0055】
次に、インク45を含む各種インクを用いたマーキングにおいて、それらの組成および紫外光照射条件が異なる場合の評価結果について説明する。表1は、図4に示す照射ステップ(ステップS3〜S6およびS8〜S11)において、それぞれ異なった5種の割合で組成物を有するインクへ、積算光量200mJ/cm2以上の紫外光41を照射した場合(UVのみ)と、積算光量200mJ/cm2以上の紫外光41の照射および180℃での加熱をした場合(UV+加熱)と、の比較評価をした結果である。比較評価は、インクの密着性、耐擦性およびアルコール耐性について示されている。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、実験インクは、実験例1〜実験例4および比較例1の5種を用意して評価した。本実施形態において必須の重合性化合物であるN−ビニルカプロラクタム(NVC)は、実験例1のインクでは5質量%含有し、実験例2のインクでは10質量%、実験例3のインクでは15質量%、実験例4のインクでは20質量%、比較例1のインクでは3質量%それぞれ含有している。また、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA)等の他の組成物の一部も参考に示してある。これらのインクに対しての硬化方法としては、UVのみの方法と、UV+加熱の方法と、に分けて行い、それぞれについて比較評価した。
【0058】
まず、密着性についての比較評価の結果を説明する。密着性は、JIS K−5600−5−6(ISO2409)(塗料一般試験法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法))に準じて行い、半導体チップ12の表面と、該表面に描画されたマーキングと、の密着性を評価した。上記クロスカット法では、まず、切込み工具として単一刃切り込み工具(一般に市販されているカッター)と、単一刃切り込み工具を用いて等間隔に切り込むためのガイドと、を用意し、マーキングの塗膜に対して垂直になるように切込み工具の刃を当てて、6本の切り込みを入れる。この6本の切込みを入れた後、90°方向を変え、既に入れた切り込みと直行するよう、さらに6本の切り込みを入れる。次に、約75mmの長さになるよう透明付着テープ(幅25±1mm)を取り出し、塗膜の格子状にカットされた部分にテープを貼り、塗膜が透けて見えるよう十分に指でテープを擦る。次に、テープを貼ってから5分以内に、塗膜に対し60°に近い角度で、0.5〜1.0秒で確実に引き離す。
【0059】
このようにして行なった密着性の評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。
◎:どの格子の目にも剥がれがない。
○:格子の一部に剥がれが認められる。
△:格子の50%以上に剥がれが認められる。
×:全面に剥がれが認められる。
【0060】
表1に示す評価結果から分かるように、実験例1において、密着性は、UVのみのインク硬化方法では△評価であるが、UV+加熱のインク硬化方法では○評価に向上している。同様に、実験例2において△評価から○評価に向上、実験例3において○評価から◎評価に向上、実験例4において○評価から○評価、比較例1において×評価から△評価に向上している。つまり、各実験例および比較例において、UVのみによるインク硬化方法よりも、UV+加熱によるインク硬化方法の方が密着性の向上が認められる。しかしながら、比較例1では、UV+加熱によるインク硬化方法であっても、実用上許容できないという結果である。
【0061】
次に、耐擦性についての比較評価の結果を説明する。耐擦性は、荷重変動型摩擦磨耗試験システム(例えばトライボギアTYPE−HHS2000〔商品名〕、新東科学社製)を用いてマーキングの塗膜の剥がれ度合いを確認した。条件は、荷重を一定としつつΦ0.2mmのサファイア針でマーキングの塗膜を引掻き、該塗膜の剥がれた程度を確認した。
【0062】
このようにして行なった耐擦性の評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。
◎:塗膜にキズ、剥離がない。
○:塗膜の一部に傷があるが、剥離は見られない。
△:塗膜の一部に傷がつき、塗膜が剥離する。
×:塗膜の全面に傷がつき、塗膜が剥離する。
【0063】
表1に示す評価結果から分かるように、実験例1において、耐擦性は、UVのみによるインク硬化方法では△評価であるが、UV+加熱によるインク硬化方法では○評価に向上している。同様に、実験例2において○評価から◎評価に向上、実験例3において△評価から◎評価に著しく向上、実験例4において○評価から◎評価に向上、比較例1において△評価から△評価となっている。つまり、各実験例および比較例において、UVのみによるインク硬化方法よりも、UV+加熱によるインク硬化方法の方が耐擦性の向上が認められる。しかしながら、比較例1では、密着性と同様、実用上許容できないという結果である。
【0064】
次に、アルコール耐性についての比較評価の結果を説明する。アルコール耐性は、半導体チップ12のマーキングを、イソプロピルアルコール溶液に1分間浸漬させた後、該溶液から取り出し、既述した耐擦性評価と同様の条件で、マーキングの塗膜の剥がれた程度を確認する。
【0065】
このようにして行なったアルコール耐性の評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。
◎:塗膜にキズ、剥離がない。
○:塗膜の一部に傷があるが、剥離は見られない。
△:塗膜の一部に傷がつき、塗膜が剥離する。
×:塗膜の全面に傷がつき、塗膜が剥離する。
【0066】
表1に示す評価結果から分かるように、実験例1において、アルコール耐性は、UVのみによるインク硬化方法では△評価であるが、UV+加熱によるインク硬化方法では○評価に向上している。そして、実験例2において○評価から○評価、実験例3において○評価から◎評価に向上、実験例4において△評価から○評価に向上、比較例1において×評価から×評価となっている。つまり、各実験例および比較例において、UVのみによるインク硬化方法よりも、UV+加熱によるインク硬化方法の方が密着性の向上が認められる。しかしながら、比較例1では、密着性および耐擦性と同様、実用上許容できないという結果である。
【0067】
比較例1の結果は、密着性、耐擦性およびアルコール耐性ともに実用上許容できないという結果であって、これは、インクのN−ビニルカプロラクタム(NVC)含有が3質量%であることに起因していると判断できる。即ち、インクのN−ビニルカプロラクタム(NVC)の含有は、5質量%以上が好ましい。といえる。なお、マーキング装置1で用いているインク45は、実験例3で評価したインクである。この結果により、半導体チップ12のマーキングに用いられるインク45は、UV+加熱によるインク硬化方法で処理されると、密着性、耐擦性およびアルコール耐性とも◎評価であり、優れた特性を有するものである。
【0068】
次に、インク45を用いたマーキングにおいて、表1に示す組成と同様の5種のインクに対し、紫外光照射条件が異なる硬化方法を施した場合の評価結果について説明する。異なる硬化方法とは、図4に示す照射ステップ(ステップS3〜S6およびS8〜S11)において、積算光量200mJ/cm2未満の紫外光41を照射していることである。これにより、積算光量200mJ/cm2以上の紫外光41を照射した場合との相違を明らかにする。表2は、5種のインクへそれぞれ積算光量200mJ/cm2未満の紫外光41を照射した場合(UVのみ)と、積算光量200mJ/cm2未満の紫外光41の照射および180℃での加熱をした場合(UV+加熱)と、の比較評価をした結果である。比較評価は、インクの密着性、耐擦性およびアルコール耐性について示されている。なお、表2における実験例5,6,7,8および比較例2の各インクは、表1における実験例1,2,3,4および比較例1の各インクとそれぞれ同じものである。
【0069】
【表2】

【0070】
まず、密着性についての比較評価の結果を説明する。評価方法および評価基準は、表1を参照して述べた場合と同一であるため、説明を省略し、結果のみを説明する。表2に示す評価結果から分かるように、実験例5において、密着性は、UVのみによるインク硬化方法では×評価であるが、UV+加熱によるインク硬化方法では△評価に向上している。同様に、実験例6において×評価から△評価に向上、実験例7において△評価から○評価に向上、実験例8において△評価から△評価、比較例2において×評価から×評価となっている。つまり、各実験例および比較例において、UVのみによるインク硬化方法よりも、UV+加熱によるインク硬化方法の方が密着性の向上が若干認められる。しかしながら、実験例7におけるUV+加熱によるインク硬化方法の場合以外、いずれも実用上許容できないという結果である。
【0071】
次に、耐擦性についての比較評価の結果を説明する。評価方法および評価基準は、表1を参照して述べた場合と同一であるため、説明を省略し、結果のみを説明する。表2に示す評価結果から分かるように、実験例5において、耐擦性は、UVのみによるインク硬化方法では×評価であるが、UV+加熱によるインク硬化方法では△評価に向上している。そして、実験例6において△評価から△評価、実験例7において△評価から○評価に向上、実験例8において△評価から○評価に向上、比較例2において×評価から×評価となっている。つまり、各実験例および比較例において、UVのみによるインク硬化方法よりも、UV+加熱によるインク硬化方法の方が密着性の向上が若干認められる。しかしながら、実験例7および実験例8におけるUV+加熱によるインク硬化方法の場合以外、いずれも実用上許容できないという結果である。
【0072】
次に、アルコール耐性についての比較評価の結果を説明する。評価方法および評価基準は、表1を参照して述べた場合と同一であるため、説明を省略し、結果のみを説明する。表2に示す評価結果から分かるように、アルコール耐性は、実験例5において、UVのみによるインク硬化方法では×評価であり、UV+加熱によるインク硬化方法でも×評価である。そして、実験例6において×評価から△評価に向上、実験例7において△評価から○評価に向上、実験例8において△評価から△評価、比較例2において×評価から×評価となっている。つまり、各実験例および比較例において、UVのみによるインク硬化方法よりも、UV+加熱によるインク硬化方法の方が密着性の向上が若干認められる。しかしながら、実験例7におけるUV+加熱によるインク硬化方法の場合以外、いずれも実用上許容できないという結果である。
【0073】
つまり、各インクにおいて、N−ビニルカプロラクタム(NVC)を5質量%以上含有する効果と、UVに加え加熱をする硬化方法による効果とは、共に認められるが、積算光量200mJ/cm2以下の紫外光41を照射しただけでは、積算光量200mJ/cm2以上の紫外光41を照射した場合に比べ、十分な効果が得られない、という知見が得られた。そのなかで、実験例7に示すインクが、半導体チップ12のマーキングに供されているインク45であって、表2に示す条件化で、唯一、密着性、耐擦性およびアルコール耐性とも○評価、という結果である。
【0074】
このように、表1および表2において、実験例1、実験例2、実験例3、実験例4および実験例7のUV+加熱によるインク硬化方法で処理されたマーキングが、実用上十分な品質(○評価)を有し、特に実験例3の場合では、すべての評価で◎評価である。これは、インク45がN−ビニルカプロラクタム(NVC)を含有し、紫外光41の照射、および加熱によって硬化する処理が効果的であることを示している。繰り返すが、インク45は、N−ビニルカプロラクタム(NVC)を5質量%以上である15質量%含有しており、照射装置15による積算光量200mJ/cm2以上の紫外光41の照射と、ホットプレートによる150℃以上200℃以下である180℃での加熱と、で硬化するように設定されている。そのため、インク45の硬化において、エポキシ樹脂等のパッケージを含め半導体チップ12への熱影響等を回避することができ、半導体チップ12の性能を損なうことなく維持することができる。さらに、インク45は、密着性、耐擦性およびアルコール耐性のいずれの観点においても優れた特性を有しており、半導体チップ12へのマーキングに最適なものである。
【0075】
また、電子部品の製造方法、マーキング方法、およびマーキング装置は、上記の実施形態に限定されるものではなく、次に挙げる変形例のような形態であっても、実施形態と同様な効果が得られる。
【0076】
(変形例1)加熱ステップ(ステップS15)は、マーキング装置1の加熱位置において、マーキングが描画された半導体チップ12をホットプレート上に並べて加熱をする形態であるが、この形態に限定されるものではない。例えば、図2に示すように、水銀ランプやメタルハライドランプ等の加熱ランプ(加熱部)80を用いて、加熱温度を150℃以上200℃以下、好ましくは180℃、に設定して行なっても良い。また、加熱ステップは、表面処理ステップのように、マーキング装置1以外の装置で行なうことも可能である。
【0077】
(変形例2)表面処理ステップは、半導体チップ12をマーキング装置1以外の装置で行なう設定であるが、マーキング装置1が、当該表面処理を行なうための雰囲気下での加熱をするための活性化部を備え、制御部6の制御によって行なわれる構成であっても良い。
【0078】
(変形例3)被加工体としてのワーク10は、載置台11と、載置台11に載置されている電子部品である半導体チップ12と、を有しているが、載置台11を省き電子部品のみを被加工体としてワークテーブル25にセットしても良い。
【0079】
(変形例4)インク45でマーキングが施される電子部品としては、半導体チップ12だけではなく、例えば、USBメモリー、メモリーカード、SDメモリーカード、メモリースティック、スマートメディア、xDピクチャーカード等のフラッシュメモリーカードや、パッケージされた振動子等々に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…マーキング装置、2…ワーク搬送装置、3…キャリッジ、4…キャリッジ搬送装置、5…メンテナンス装置、6…制御部、10…被加工体としてのワーク、11…載置台、12…電子部品としての半導体チップ、12a…ロゴマーク、12b…製品コード、12c…製造番号、13…吐出部としてのヘッドユニット、15…照射部としての照射装置、25…ワークテーブル、33…吐出ヘッド、37…ノズル、41…紫外光、43…光源、45…液状体としてのインク、80…加熱部としての加熱ランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性を有しN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上含有する液状体を、電子部品へ塗布してマーキングを行なう塗布ステップと、
塗布された前記液状体へ、積算光量200mJ/cm2以上の光を照射する照射ステップと、
前記照射ステップの後、前記液状体を加熱する加熱ステップと、を有すること、を特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電子部品の製造方法において、
前記加熱ステップでは、前記液状体を150℃以上200℃以下の温度で加熱すること、を特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子部品の製造方法において、
前記液状体は、N−ビニルカプロラクタムを5質量%以上20質量%以下の範囲で含有すること、を特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電子部品の製造方法において、
前記塗布ステップの前に、前記電子部品の表面を活性化する表面処理ステップをさらに有すること、を特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項5】
光硬化性を有しN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上含有する液状体を、被加工体へ塗布してマーキングを行なう塗布ステップと、
塗布された前記液状体へ、積算光量200mJ/cm2以上の光を照射する照射ステップと、
前記照射ステップの後、前記液状体を加熱する加熱ステップと、を有すること、を特徴とするマーキング方法。
【請求項6】
光硬化性を有しN−ビニルカプロラクタムを5質量%以上含有する液状体を、被加工体へ吐出する吐出部と、
塗布された前記液状体へ、積算光量200mJ/cm2以上の光を照射する照射部と、を備えていること、を特徴とするマーキング装置。
【請求項7】
請求項5に記載のマーキング装置において、
前記照射がなされた前記液状体を加熱する加熱部を、さらに備えていること、を特徴とするマーキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−192356(P2012−192356A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59057(P2011−59057)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】