説明

電子部品用Snめっき材

【課題】Ni層、Cu−Sn合金層及びSn層を有する3層構造のSnめっき材において挿入力の低減及び耐熱性の改善を図る。
【解決手段】銅又は銅合金の表面に、厚さ0.2〜1.5μmのNi又はNi合金からなる下地めっき層と、厚さ0.1〜1.5μmのCu−Sn合金からなる中間めっき層と、厚さ0.1〜1.5μmのSn又はSn合金からなる表面めっき層がこの順に形成されており、前記中間めっき層を形成するCu−Sn合金の平均結晶粒径が、該めっき層の断面を観察したときに、0.05μm以上、0.5μm未満であるSnめっき材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、特にコネクタや端子等の導電性ばね材として好適なSnめっき材に関する。
【背景技術】
【0002】
端子やコネクタ等の導電性ばね材として、Snめっきを施した銅又は銅合金条(以下、「Snめっき材」という)が用いられている。Snめっき材は、一般的に、連続めっきラインにおいて、脱脂及び酸洗の後、電気めっき法によりCu下地めっき層を形成し、次に電気めっき法によりSn層を形成し、最後にリフロー処理を施しSn層を溶融させる工程で製造される。
【0003】
近年、電子・電気部品の回路数増大により、回路に電気信号を供給するコネクタの多極化が進んでいる。Snめっき材は、その軟らかさからコネクタの接点においてオスとメスを凝着させるガスタイト(気密)構造が採られるため、金めっき等で構成されるコネクタに比べ、1極当たりのコネクタの挿入力が高い。このためコネクタの多極化によるコネクタ挿入力の増大が問題となっている。
【0004】
例えば、自動車組み立てラインでは、コネクタを嵌合させる作業は、現在ほとんど人力で行われる。コネクタの挿入力が大きくなると、組み立てラインで作業者に負担がかかり、作業効率の低下に直結する。さらに、作業者の健康を損なう可能性も指摘されている。このことから、Snめっき材の挿入力の低減が強く望まれている。
【0005】
一方、Snめっき材では、経時的に、母材や下地めっきの成分がSn層に拡散して合金相を形成することによりSn層が消失し、接触抵抗、半田付け性といった諸特性が劣化する。銅又は銅合金へのCu下地Snめっきの場合、この合金相は主としてCu6Sn5、Cu3Sn等の金属間化合物であり、特性の経時劣化は、高温ほど促進される。
【0006】
コネクタメーカーの生産拠点の海外への移転により、素材がめっきされた後、長期間放置されてから使用されるケースがある。このため、長期間保存しても、めっき材の諸特性が劣化しない材料、すなわち耐時効性が高い材料が求められてきている。めっき材の特性劣化は高温下で促進される。したがって高温下での特性劣化が少ない、すなわち耐熱性の高い材料は長期間保存しても特性が劣化しない材料と言い換えることができる。
【0007】
さらに、環境対策として、半田のPbフリー化が進んできている。半田の実装温度は従来のPb−Sn半田に比べ、高温であるため、この観点からも高い耐熱性が必要になる。
【0008】
以上のように、Snめっき材においては、挿入力の低減及び耐熱性の改善が近年の課題となっている。
【0009】
Snめっき材においては、Snめっき層を薄くすることで挿抜力が低減する。一方、Snめっき層を厚くすることで耐熱性が向上する。そこで、Snめっき材において低挿入力と高耐熱性を両立させるために、下地めっき層をNi及びCuの2層にし、表面Snめっき後にリフロー処理することで、Ni層、Cu−Sn合金層及びSn層を有する3層構造のSnめっき材とすることで、Snめっきの厚みを薄くしながら耐熱性を向上させる工夫がなされている。
【0010】
特開2002−226982号公報には、素材表面上に該表面側から順にNiまたはNi合金層、Cu層、SnまたはSn合金層を被覆した後にリフロー処理を施すことにより耐熱性皮膜を製造する方法が記載されている(請求項6)。該耐熱性皮膜は、最表面に厚さXが0.05〜2μmのSnまたはSn合金層、その内側に厚さYが0.05〜2μmのCu−Snを主体とする金属間化合物を含む合金層、更にその内側に厚さZが0.01〜1μmのNiまたはNi合金層が形成されてなる(請求項1)。該文献には素材表面の粗さを所定範囲にすべきことも記載されており、これによって素材上に被覆する各層の表面平滑度が安定し、密着性や外観が向上することなどが記載されている(段落0010)。リフロー処理条件は、300〜900℃の温度、1〜300秒間の条件が望ましいことが記載されている(段落0011)。
【0011】
特開2004−68026号公報には、Cu又はCu合金からなる母材表面に、Ni層、Cu−Sn合金層、Sn層からなる表面めっき層がこの順に形成され、かつ前記Ni層の厚さが0.1〜1.0μm、前記Cu−Sn合金層の厚さが0.1〜1.0μm、そのCu濃度が35〜75at%、前記Sn層の厚さが0.5μm以下であることを特徴とする接続部品用導電材料が記載されている(請求項2)。また、該文献ではSnめっきの均一電着性などの観点からSn層中のカーボン量を0.001〜0.1質量%に規制すべきことが記載されている(段落0013)。
また、該文献には、Cu又はCu合金からなる母材表面に、厚さ0.1〜1.0μmのNiめっき層、厚さ0.1〜0.45μmのCuめっき層及び0.001〜0.1質量%のカーボンを含有する厚さ0.4〜1.1μmのSnめっき層からなる表面めっき層をこの順に形成した後、熱処理を行ってCu−Sn合金層を形成し、前記表面めっき層をNi層、Cu−Sn合金層及びSn層とすることを特徴とする接続部品用導電材料の製造方法が記載されている(請求項10)。熱処理としてリフロー処理を行う場合、230〜600℃の温度で3〜30秒間とすることが記載されている(段落0019)。
【0012】
特許第3880877号公報には、銅または銅合金の表面上に、NiまたはNi合金層が形成され、最表面側に厚さ0.25〜1.5μmのSnまたはSn合金層が形成され、前記NiまたはNi合金層と前記SnまたはSn合金層の間にCuとSnを含む中間層が1層以上形成され、これらの中間層のうち前記SnまたはSn合金層と接している中間層のCu含有量が50重量%以下、Ni含有量が20重量%以下であり且つ平均結晶粒径が0.5〜3.0μmであることを特徴とする、めっきを施した銅または銅合金が記載されている。但し、中間層の平均結晶粒径は電解式膜厚計を使用し、Sn層を剥離した後の材料表面についてSEMにより表面観察して、JIS H0501(求積法)により求めている(段落0063)。
また、該文献には、銅または銅合金の表面上に、厚さ0.05〜1.0μmのNiまたはNi合金めっきを施し、次いで厚さ0.03〜1.0μmのCuめっきを施し、最表面に厚さ0.15〜3.0μmであるめっき厚のSnまたはSn合金めっきを施した後、少なくとも1回以上の加熱処理を行って冷却することによって、前記NiまたはNi合金めっきと前記SnまたはSn合金層の間にSnとCuを含む中間層を1層以上形成する、めっきを施した銅または銅合金の製造方法であって、400〜900℃の温度で前記加熱処理を行い且つ前記SnまたはSn合金層が溶融してから凝固するまでの時間が0.05〜60秒になるように前記冷却を行うことによって、前記中間層のうち前記SnまたはSn合金層と接している中間層の平均結晶粒径を0.5〜3.0μmにすることを特徴とする、めっきを施した銅または銅合金の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開2002−226982号公報
【特許文献2】特開2004−68026号公報
【特許文献3】特許第3880877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、Ni層、Cu−Sn合金層及びSn層を有する3層構造のSnめっき材は、各めっき層の厚みのほか、素材の粗さ、層中の特定元素の含有量、Sn層を剥離してめっき面からみたときのCu−Sn拡散層の平均結晶粒径などを制御することによって、その特性向上を図ってきた。しかしながら、Ni層、Cu−Sn合金層及びSn層を有する3層構造のSnめっき材は未だ改良の余地が残されている。
【0014】
そこで、本発明はNi層、Cu−Sn合金層及びSn層を有する3層構造のSnめっき材において、これまでとは異なる観点から挿入力の低減及び耐熱性の改善を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、該3層構造のSnめっき材の挿入力及び耐熱性に影響を与える他の因子について検討したところ、Cu−Sn合金層を断面から観察したときの平均結晶粒径が重要であることを見出した。
本発明者の実験結果によれば、Cu−Sn合金層を断面から観察したときのCu−Sn合金層の平均結晶粒径を0.05μm以上、0.5μm未満とすることにより、耐熱性が向上することが分かった。
【0016】
また、Cu−Sn合金層を形成する結晶粒径がめっき厚み方向に長くなると、1個の結晶粒がCu−Sn合金層を厚み方向に貫通するようになるが、このような粒子が形成する粒界は、Ni層がSn層へ拡散するパイプとなるため、貫通粒の割合が増加するにつれて耐熱性が低下する。本発明者の実験結果によれば、Cu−Sn合金層を貫通する結晶粒の数の割合を60%以下にすることで有意に耐熱性が向上することが分かった。
【0017】
更に、Cu−Sn合金層表面の平均粗さRaは挿入力の低減に寄与し、一定程度粗さを高くするのがよいことが分かった。これは、形成される拡散層の凹凸が大きくなると、拡散層の凸な部分が支えのような役割を果たすため、コネクタ嵌合時に必要以上にSnめっき材が削り取られることを防止し、挿入力が低下することによるものと考えられる。但し、極端に粗さが大きい場合、Sn層とCu−Sn層の接する面積が増えるため、Cu層のSn層への拡散が促進され、耐熱性が低下する。本発明者の実験結果によれば、Cu−Sn層表面の平均粗さRaは0.1〜0.5μmとするのがよい。
【0018】
特許文献3には確かにCu−Sn拡散層の平均結晶粒径について規定しているが、そこで規定されているのはSn層を剥離した後のCu−Sn拡散層表面の平均結晶粒径である。本発明ではCu−Sn拡散層を断面からみたときの平均結晶粒径を問題としている。Cu−Sn拡散層はNi又はNi合金からなる下地めっき層とSn又はSn合金からなる表面めっき層の中間に位置し、熱によるNiやSnの厚み方向の拡散を抑制する役割をするものであるから、Cu−Sn拡散層の結晶粒径を断面から観察して規定する方がより耐熱性の制御に優れていると考えられる。また、Sn−Cu層はこぶ状に成長している。そのため、Sn−Cu層の表面を観察するためにSn層を除去して観察した場合こぶがじゃまになって結晶粒の観察は困難であり、その平均径は正確に把握できない。
【0019】
以上のような構成をもつNi層、Cu−Sn合金層及びSn層の3層構造のSnめっき材を製造するには、リフロー処理の条件が重要である。具体的には、材料表面にNi層、Cu層及びSn層を形成した後のリフロー処理時に、めっき材の最高到達温度を250〜350℃とし、表面Sn層が溶融してから冷却されて凝固するまでの時間を0.5〜5秒とし、かつリフロー処理のトータルの時間を30秒以内とすることが肝要である。
【0020】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、銅又は銅合金の表面に、厚さ0.2〜1.5μmのNi又はNi合金からなる下地めっき層と、厚さ0.1〜1.5μmのCu−Sn合金からなる中間めっき層と、厚さ0.1〜1.5μmのSn又はSn合金からなる表面めっき層がこの順に形成されており、前記中間めっき層を形成するCu−Sn合金の平均結晶粒径が、該めっき層の断面を観察したときに、0.05μm以上、0.5μm未満であるSnめっき材である。
【0021】
本発明に係るSnめっき材は一実施形態において、前記中間めっき層を形成するCu−Sn合金の結晶粒のうち、該めっき層に隣接する両側の層と同時に接する結晶粒の数の割合が60%以下である。
【0022】
本発明に係るSnめっき材は別の一実施形態において、前記中間めっき層表面の平均粗さRaが0.1〜0.3μmである。
【0023】
本発明に係るSnめっき材は更に別の一実施形態において、前記下地めっき層と前記中間めっき層の間に層状又は島状にCuめっき層が厚み0.3μm以下で形成されている。
【0024】
また、本発明は別の一側面において、銅又は銅合金の表面に、厚さ0.5〜1.5μmのNi又はNi合金めっき層、厚さ0.05〜1.2μmのCu又はCu合金めっき層、及び厚さ0.3〜1.7μmのSn又はSn合金めっき層をこの順に形成する工程と、次いで、めっき材の最高到達温度を250〜350℃とし、表面Sn層が溶融してから冷却されて凝固するまでの時間を0.5〜5秒とし、かつリフロー処理のトータルの時間を30秒以内とするリフロー処理を行う工程とを含むSnめっき材の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、Ni層、Cu−Sn合金層及びSn層を有する3層構造のSnめっき材において、挿入力の低減及び耐熱性の改善を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係るSnめっき材は、銅又は銅合金母材表面にNi又はNi合金からなる下地めっき層と、Cu−Sn合金からなる中間めっき層と、Sn又はSn合金からなる表面めっき層がこの順に形成されているSnめっき材であることを基本とする。このような構成のSnめっき材の基本的な製造方法は、銅又は銅合金母材表面にNi又はNi合金めっき、Cu又はCu合金めっき、Sn又はSn合金めっきの順でめっきを行い、次いでリフロー処理を行うことである。
【0027】
銅又は銅合金母材
本発明に使用することのできる銅又は銅合金母材は、特に制限はなく、公知の任意の銅又は銅合金母材を使用することができる。例えば、銅合金としては黄銅、りん青銅、ベリリウム銅、洋白、丹銅、チタン銅及びコルソン合金などが挙げられ、端子やコネクタ等の各種電子部品の要求特性に従い、適宜選択でき、何等制限されない。
【0028】
Ni又はNi合金からなる下地めっき層
銅又は銅合金母材の表面にはNi又はNi合金からなる下地めっき層が形成される。Ni合金としては、例えばNi−Pd合金、Ni−Co合金、Ni−Sn合金が挙げられる。下地めっきの中ではめっき速度が早い、コストが低い等の理由から特にNi単独めっきが好ましい。下地めっき層は例えば電気ニッケルめっきや無電解ニッケルめっきのような湿式めっき、或いはCVDやPVDのような乾式めっきにより得ることができる。生産性、コストの観点から電気めっきが好ましい。
リフロー処理後の下地めっき層の厚みは0.2〜1.5μm、好ましくは0.3〜1.0μmとする。下地めっき層の厚みが0.2μm未満では、加熱したときの母材成分の拡散を抑制できず、接触抵抗が増大する。一方、リフロー後の下地めっき層の厚みが1.0μmを超えると曲げ加工で割れ発生の原因となる。下地めっき層はリフロー処理によってもほとんど厚みが変わらないので、リフロー処理後に下地めっき層の厚みを上記範囲とするためにはリフロー処理前に上記範囲の厚みで下地めっきを行えば足りる。
【0029】
Cu−Sn合金からなる中間めっき層
リフロー処理後のCu−Sn合金からなる中間めっき層の厚みは0.1〜1.5μm、好ましくは0.3〜1.0μmとする。Cu−Sn合金は硬質なため、中間めっき層が0.1μm以上の厚さで存在すると、挿入力の低減に寄与する。一方、中間めっき層の厚さが1.5μmを超えると、曲げ加工で割れ発生の原因となる。
このような厚みの中間めっき層を得るには、リフロー処理前のCu又はCu合金めっき層の厚さを0.05〜1.2μm、好ましくは0.1〜0.5μmとするのがよい。Cu又はCu合金めっき層の厚さが0.05μm未満だと得られるCu−Sn合金層の厚みが不充分となり、逆にCu又はCu合金めっき層の厚さが1.2μmを超えるとCu−Sn合金層が厚くなり過ぎてしまうか、リフロー処理後にもCuめっき層が残存しやすくなる。
【0030】
Cu又はCu合金めっき層は、リフロー処理時にCu−Sn合金層形成に消費され、その最大厚みが0.3μm未満となるのが好ましく、ゼロになるのがより好ましい。Cu又はCu合金めっき層が残存すると、長時間高温下に置かれることにより表面のSnめっき層を消費してCu−Sn合金層を形成し、接触抵抗や半田付け性を劣化させるからである。しかし、Cuめっき層が全て消費された後もSnめっき層が溶融状態(オーバーリフロー)であると、Niめっき層が溶融したSnめっき層に拡散してしまい、好ましくない結果をもたらすことがある。そこで、Cuめっき層を0とはしない、すなわち0を超えて0.3未満でCuめっき層を積極的に残すこともできる。Cuめっき層が残存する場合、層状に残存する場合と島状に残存する場合がある。
【0031】
リフロー処理前の「Cu又はCu合金めっき」としてはCu単独めっきのほか、例えばCu−Ni合金、Cu−Zn合金、Cu−Sn合金のような銅合金めっきが挙げられる。これらの中でもめっき浴管理がしやすく、均一な皮膜が得られ、コストが安いという理由から、特にCu単独めっきが好ましい。Cu又はCu合金のめっき層は例えば電気銅めっきや無電解銅めっきのような湿式めっき、或いはCVDやPVDのような乾式めっきにより得ることができる。生産性、コストの観点から電気めっきが好ましい。
従って、Cu又はCu合金めっきとしてCu合金めっきを採用した場合や、後述するようにSn又はSn合金めっきとしてSn合金めっきを採用した場合には、Cu−Sn合金めっきにはCu及びSn以外の元素が含まれることもあるが、本発明においては、そのような場合でも「Cu−Sn合金めっき」と呼ぶこととする。
【0032】
中間めっき層を形成するCu−Sn合金の結晶粒の平均粒径はSnめっき材の耐熱性に影響を与える。平均粒径は小さい方が好ましく、具体的には、中間めっき層を断面から観察したときのCu−Sn合金の平均結晶粒径を0.05μm以上0.5μm未満とする。Cu−Sn合金の結晶粒の平均結晶粒径は好ましくは0.4μm未満である。但し、結晶粒径が小さすぎるとCu−Sn合金層の強度が増し、曲げ加工性が悪くなるといったような不具合が生じることから、該結晶粒の平均粒径は0.05μm以上であるのが好ましい。本発明に係る中間めっき層を形成するCu−Sn合金の平均結晶粒径は典型的には0.2〜0.4μmである。
【0033】
また、中間層を形成するCu−Sn合金の結晶粒のうち、中間層を貫通する結晶粒の数の割合が増加するにつれて耐熱性が低下する。従って、そのような貫通粒子の割合は低い方が好ましく、具体的には、Cu−Sn合金層を貫通する結晶粒の数の割合を60%以下、好ましくは50%以下とする。貫通粒子の割合は典型的には30〜60%である。
【0034】
更に、Cu−Sn合金の中間めっき層表面の平均粗さRaは挿入力に影響を与え、一定程度粗さを高くするのがよい。但し、極端に粗さが大きい場合、Sn層とCu−Sn層の接する面積が増えるため、Cu層のSn層への拡散が促進され、耐熱性が低下する。そこで、中間めっき層表面の平均粗さRaは0.1〜0.5μmとする。中間めっき層表面の平均粗さRaは好ましくは0.1〜0.3μm、より好ましくは0.15〜0.25μmとする。
【0035】
Snが溶融状態である間、CuはSnへ溶解、拡散する。このとき、Cuが波状に拡散することから表面粗さの大きいCu−Sn合金層表面が形成される。Snが溶融状態である時間が長ければ、よりCuの拡散は進行し、粗さは大きくなる。溶融から凝固までの時間が5秒を超えると、Cu−Sn合金層の表面粗さは0.5μmを超えやすい。従って、溶融から凝固までの時間は5秒以下とするのが好ましい。一方、ラインでの製造を考えた場合、溶融から凝固の時間を0.5秒未満にすると、溶融しない部分が生じる可能性が高くなり、一定の厚みをもつCu−Sn合金層を得ること自体が難しい。なお、Cu−Sn合金表面粗さは光沢剤や添加剤を加えるようなことをしない限り一般に0.1μm以上である。
【0036】
リフローのトータル時間が長ければ長いほどCuのSnへの拡散は進み、形成されたCu−Sn合金粒子は成長する。トータル時間が30秒を越えるリフローではCu−Sn合金層を断面からみたときの結晶粒径は0.5μm以上となる。
【0037】
リフローの条件はできるだけ低温であることが好ましい。比較的低い温度のリフローでは、過剰なCuの溶融、拡散の進行を抑制し、純Snの消耗を抑えるだけでなく、拡散する過程で新たな結晶粒が形成されやすく、Ni層からSn層に貫通する結晶粒が形成されにくい。ただし、温度が低すぎるとリフロー不良を生じるため、めっき材の最高到達温度が250〜350℃になるようなリフロー条件がよい。
【0038】
従って、中間めっき層を形成するCu−Sn合金の平均結晶粒径、貫通粒子の割合及び平均粗さRaを制御するには、リフロー処理時に、めっき材の最高到達温度を250〜350℃、好ましくは280〜320℃とし、表面Sn層が溶融してから冷却されて凝固するまでの時間を0.5〜5秒、好ましくは0.5〜2秒とし、かつリフロー処理のトータルの時間を30秒以内、好ましくは5〜15秒とすることが肝要である。
表面Sn層が溶融してから冷却されて凝固するまでの時間は、反射濃度計で表面の光沢度を測定し、Snの溶融を確認してから、冷却を開始し、めっき材の温度がSnの融点を下回るまでの時間を測定することで与えられる。
リフロー処理のトータルの時間は、めっき材の温度が50℃に到達したときからリフロー温度に達した後再び50℃に戻るまでの時間を計測することで与えられる。
【0039】
Sn又はSn合金からなる表面めっき層
リフロー処理後のSn又はSn合金からなる表面めっき層の厚みは0.1〜1.5μm、好ましくは0.2〜1.0μmとする。厚みが0.1μm未満となると高温環境下における半田濡れ性や接触抵抗の劣化が著しく促進され、1.5μmを超えると、挿入力が顕著に増大する。リフロー処理後に表面めっき層の厚みを上記の範囲にするためには、リフロー処理前の表面めっき層の厚さを0.3〜1.7μm、好ましくは0.4〜1.2μmとするのがよい。リフロー処理前の表面めっき層の厚さが0.3μm未満だと、リフロー処理によってSn成分がCu又はCu合金めっき層へ拡散して消費されるため、リフロー処理後に必要な厚さの表面めっき層が残存しなくなる。また、厚さが1.7μmを超えるとリフロー処理後にも必要以上に厚い表面めっき層が残存することになる。
【0040】
「Sn又はSn合金」としてはSn単独めっきのほか、例えばSn−Ag合金、Sn−Bi合金、Sn−Zn合金、Sn−Pb合金のようなSn合金めっきが挙げられる。これらの中でもめっき浴の安全性、管理のしやすさ、比較的低い温度での熱処理が可能であるなどの理由から特にSn単独めっきが好ましい。Sn又はSn合金のめっき層は例えば電気Snめっきや無電解Snめっきのような湿式めっき、或いはCVDやPVDのような乾式めっきにより得ることができる。生産性、コストの観点から電気めっきが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは例示のためであって本発明が限定されることを意図するものではない。
【0042】
1.評価方法
各試験片の評価は以下のようにして行った。
【0043】
[めっき厚み]
リフロー処理前のNiめっき層の厚みは蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、型式SEA5100)で測定した。Cuめっき層の厚みは、Niめっき上にCuめっきを行った状態で電解式膜厚計(電測株式会社製、型式CT−3)によって測定した。Snめっき層の厚みは蛍光X線膜厚計(同上)によって測定した。各めっき層につき、5箇所の平均値をめっき層の厚みとした。
リフロー処理後のNiめっき層の厚みは蛍光X線膜厚計(同上)で測定した。Cuめっき層、Snめっき層の厚みは電解式膜厚計(同上)で測定した。各めっき層につき、5箇所の平均値をめっき層の厚みとした。また、TEMによる断面観察を行い、観察視野を幅方向に9等分し、幅全体を9として0、1、2、3、4、5、6、7、8、9のところのCu−Sn拡散層の厚み(計10点)を実測し、その平均値をCu−Sn拡散層の厚みとした。
【0044】
[中間めっき層を形成するCu−Sn合金の平均結晶粒径]
各試験片を日立製の集束イオンビーム加工観察装置FB−2100にて加工し、めっき断面を露出させた後、日立製の走査透過電子顕微鏡(TEM)HD−2700(加速電圧:200kv、ビームサイズ:0.2nm)でCu−Sn合金の中間めっき層の断面を観察した(倍率27800倍、観察視野1.3μm×1.3μm)。Cu−Sn合金の各結晶粒についてめっき厚み方向に引ける最も長い直線と、めっき厚み方向と垂直方向に引ける最も長い直線の長さを実測し、両者の平均から個々の結晶粒径を算出した。このようにして視野中のすべてのCu−Sn合金の結晶粒径を算出しその平均をCu−Sn合金の平均結晶粒径とした。図1にNo.3についてCu−Sn合金の中間めっき層の断面を観察したときのTEM画像を例示的に示す。
【0045】
[中間めっき層を貫通するCu−Sn合金粒子の割合]
各試験片を日立製の集束イオンビーム加工観察装置FB−2100にて加工し、めっき断面を露出させた後、日立製の走査透過電子顕微鏡(TEM)HD−2700(加速電圧:200kv、ビームサイズ:0.2nm)でCu−Sn合金の中間めっき層の断面を観察した(倍率27800倍、観察視野1.3μm×1.3μm)。隣接するめっき層(Niめっき層又はCuめっき層とSn層)両方と接している結晶粒を貫通粒とし、視野中のすべてのCu−Sn合金の結晶粒の数とそのうちの貫通粒の数をカウントし、貫通粒の割合を算出した。図1にNo.3についてCu−Sn合金の中間めっき層の断面を観察したときのTEM画像を例示的に示す。また、図2は図1にめっき層界面及び結晶粒界を書き足して、各結晶粒にアルファベットを付けたものである。19個の結晶粒A〜Sのうち、A、C、D、H、L、R及びSの7個は貫通粒であるから、この場合、貫通粒の割合は7/19=36.8%(約35%)である。
【0046】
[Cu−Sn合金めっき層表面の平均粗さ(Ra)]
各試験片の表面Sn層を化学的に研磨し、完全に除去した後、三鷹光器製の非接触型3次元形状測定装置NH−3(He−Neレーザー、波長:633nm出力:1.8mW)でCu―Sn合金層表面の粗さを測定した。
【0047】
[半田付け性]
各試験片を155℃で16時間大気加熱した後に半田付け性を測定した。レスカ社製ソルダーチェッカーSAT−5000を使用し、メニスコグラフ法で半田濡れ時間T2を測定した。試料サイズ:幅10mm×長さ20mm、フラックス:25%ロジン‐メタノール溶液、半田温度:250℃、半田組成:Sn−3.0Ag−0.5Cu(千住金属製705M)、浸漬速さ:20mm/sec、浸漬時間:10秒間、浸漬深さ:2mm。
【0048】
[接触抵抗]
各試験片を155℃で1000時間大気加熱した後に接触抵抗を測定した。山崎精機社製の電気接点シミュレータCRS−1を使い、四端子法で測定した。プローブ:金プローブ、接触荷重:50g、摺動速度:1mm/min、摺動距離:1mm。
【0049】
[挿入力]
各試験片を090型オス端子(幅:2.3mm、厚さ:0.64mm)の形状にプレス加工した後に、アイコーエンジニアリング製の卓上荷重測定器1310NRを使用して、メス端子と嵌合させたときの荷重を測定。メス端子:住友電装製090型SMTS端子、挿入速度:50mm/min、挿入距離:5mm/min
【0050】
2.試験片の作製
Zn:30質量%−残部Cu及び不可避的不純物の組成を有する銅合金条(板厚0.32mm×幅30mm×長さ100mm)を17枚用意し、それぞれに対して以下の手順でめっきを施した。
(手順1)アルカリ水溶液中で試料をカソードとして、電解脱脂を行った。
(手順2)10質量%硫酸水溶液を用いて酸洗した。
(手順3)硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸40g/Lを含有するニッケルめっき浴を用いて、温度55℃、電流密度4.0A/dm2の条件でNiめっきを施した。Niめっき層の厚みは、電着時間により調整した。この時点における各試験片のNiめっき層の厚みは表1に示した。
(手順4)硫酸銅200g/L、硫酸60g/Lを含有する銅めっき浴を用いて、温度30℃、電流密度2.3A/dm2の条件でCuめっきを施した。Cuめっき層の厚みは、電着時間により調整した。この時点における各試験片のCuめっき層の厚みは表1に示した。
(手順5)酸化第一錫40g/L、フェノールスルホン酸270g/L、界面活性剤5g/Lを含有するSnめっき浴を用いて、温度45℃、電流密度4.0A/dm2の条件でSnめっきを施した。Snめっき層の厚みは、電着時間により調整した。この時点における各試験片のSnめっき層の厚みを表1に示した。
(手順6)表1に記載の条件でリフロー処理を行った。リフロー処理後の各試験片のめっき厚みも表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
3.結果
以上の手順で得られた各試験片について、各特性を評価した結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
No.1〜No.5はリフロー後の各層のめっき厚みに加えて、Cu−Sn合金めっき層の粒径、貫通粒及び粗さがすべて好ましい範囲にあり、加熱後も良好な半田付け性と接触抵抗を示し、挿抜性も高い。
No.6はCu−Sn合金めっき層表面の粗さが小さい例である。No.2とNo.6を比較すると、これらはリフロー後の各めっき厚みが近似し、Cu−Sn合金めっき層の結晶粒の粒径及び貫通粒の割合も近似している。しかしながら、No.2の方がCu−Sn合金めっき層表面の粗さが大きく、挿入力が小さい。
No.7はCu−Sn合金めっき層表面の粗さが高い例である。このため、加熱後の接触抵抗が高い。
No.8はCu−Sn合金めっき層の貫通粒の割合が高い例である。No.1とNo.8を比較すると、これらはリフロー後の各めっき厚みが近似し、Cu−Sn合金めっき層の結晶粒の粒径及び表面粗さも近似している。しかしながら、No.8はCu−Sn合金めっき層を貫通する結晶粒の割合が大きく、加熱後の接触抵抗が高い。
No.9はCu−Sn合金めっき層の結晶粒の平均粒径が大きい例である。No.2とNo.9を比較すると、これらはリフロー後の各めっき厚みは近似し、Cu−Sn合金めっき層を貫通する結晶粒の割合も近似している。しかしながら、Cu−Sn合金めっき層を形成する結晶粒の大きさがNo.2と比べてかなり大きかったため、接触抵抗が悪化した。
No.10はCu−Sn合金めっき層の結晶粒の平均粒径が更に大きい例である。No.1とNo.10を比較すると、これらはリフロー後の各めっき厚みは近似し、Cu−Sn合金めっき層を貫通する結晶粒の割合も近似している。しかしながら、Cu−Sn合金めっき層を形成する結晶粒の大きさがNo.1と比べてかなり大きかったため、接触抵抗が悪化した。
No.11はNiめっき層の厚みが小さすぎた例であり、No.12はCuめっき層の厚みが大きすぎた例であり、No.13はCu−Sn合金めっき層の厚みが小さすぎた例であり、No.14はSnめっき層の厚みが小さすぎた例である。何れも、耐熱性が著しく低い。
No.15はSnめっき層の厚みが大きすぎた例である。挿入力が著しく高い。
No.16はCu下地めっきとSn表面めっきのみ行った例である。耐熱性が低い。
No.17はNi下地めっきとSn表面めっきのみ行った例である。半田付け性も耐熱性が低い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】No.3の試験片ついて、FIB加工し、露出させためっき断面を観察したTEM像である。
【図2】図1に各めっき層界面及び結晶粒界を書き足したものである。
【符号の説明】
【0056】
1 母材
2 Ni層
3 Cu層
4 Cu−Sn合金層
5 Sn層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金の表面に、厚さ0.2〜1.5μmのNi又はNi合金からなる下地めっき層と、厚さ0.1〜1.5μmのCu−Sn合金からなる中間めっき層と、厚さ0.1〜1.5μmのSn又はSn合金からなる表面めっき層がこの順に形成されており、前記中間めっき層を形成するCu−Sn合金の平均結晶粒径が、該めっき層の断面を観察したときに、0.05μm以上、0.5μm未満であるSnめっき材。
【請求項2】
前記中間めっき層を形成するCu−Sn合金の結晶粒のうち、該めっき層に隣接する両側の層と同時に接する結晶粒の数の割合が60%以下である請求項1記載のSnめっき材。
【請求項3】
前記中間めっき層表面の平均粗さRaが0.1〜0.5μmである請求項1又は2記載のSnめっき材。
【請求項4】
前記下地めっき層と前記中間めっき層の間に層状又は島状にCuめっき層が厚み0.3μm以下で形成されている請求項1〜3何れか一項記載のSnめっき材。
【請求項5】
銅又は銅合金の表面に、厚さ0.2〜1.5μmのNi又はNi合金めっき層、厚さ0.05〜0.8μmのCu又はCu合金めっき層、及び厚さ0.3〜1.7μmのSn又はSn合金めっき層をこの順に形成する工程と、次いで、めっき材の最高到達温度を250〜350℃とし、表面Sn層が溶融してから冷却されて凝固するまでの時間を0.5〜5秒とし、かつリフロー処理のトータルの時間を30秒以内とするリフロー処理を行う工程とを含むSnめっき材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−108389(P2009−108389A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284016(P2007−284016)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】