説明

電子部品

【課題】ウィスカ抑制能を飛躍的に高めた電子部品を提供する。
【解決手段】電子部品としての積層セラミックコンデンサ10は、たとえば直方体状の電子部品素子12を含む。電子部品素子12の一端面および他端面には、端子電極18a、18bの外部電極20a、20bが形成される。外部電極20a、20bの表面には、Niめっきからなる第1のめっき皮膜22a、22bが形成される。第1のめっき皮膜22a、22bの表面には、最外層となるSnめっき皮膜としてSnを含む第2のめっき皮膜24a、24bが形成される。第2のめっき皮膜24a、24bは、多結晶構造を有し、Sn結晶粒界およびSn結晶粒内にフレーク状のSn−Ni合金粒子がそれぞれ形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子部品に関し、特に、Snを含むSnめっき皮膜を有するたとえば積層セラミックコンデンサなどの電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
この発明の背景となる技術として、Snを主成分とする皮膜が形成された部材、皮膜形成方法およびはんだ処理方法が、たとえば国際公開第2006/134665号に開示されている(特許文献1参照)。
近年の環境保護の観点から、コネクタ用端子、半導体集積回路用のリードフレームなどに、従来施されていたSn−Pbはんだめっきに代わって、Pbを含まないSnを主成分とする金属めっきによって皮膜を形成すると、皮膜にウィスカと呼ばれるSnのひげ状結晶が発生しやすくなる。ウィスカが発生して成長すると、隣接する電極間で電気的な短絡障害を起こすことがある。また、ウィスカが、皮膜から脱離して飛散すると、飛散したウィスカは、装置内外で短絡を引き起こす原因になる。
特許文献1に開示されている技術では、このようなウィスカの発生を抑制することができる皮膜を有する部材を提供することを目的として、特に、Snを主成分とする皮膜において、Snの結晶粒界に、SnとNiなどの第1の金属との金属間化合物層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/134665号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に開示されている皮膜では、業界の標準とされるJEDEC規格で定められている以下に示す熱衝撃試験を行った場合に、Class2の判定基準をクリアすることができない。
熱衝撃試験
・試料数(n数):3ロット×6個/ロット=18個
・試験条件:最低温度として−55℃(+0/−10)、最高温度として85℃(+10/−0)、各温度で10分間保持し、気相式で、1500サイクルの熱衝撃を与える。
・観察方法:走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の電子顕微鏡写真像で行う。
・判定基準:Class2(通信用インフラ機器、自動車用機器)を適用し、ウィスカ最大長さ(直線長さ)が45μm以下であること。
【0005】
そのため、Snを含むSnめっき皮膜を有するたとえば積層セラミックコンデンサなどの電子部品において、ウィスカ抑制能を飛躍的に高めることが望まれている。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、ウィスカ抑制能を飛躍的に高めた電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、Snめっき皮膜を有する電子部品において、Snめっき皮膜は、Sn多結晶構造を有し、Sn結晶粒界およびSn結晶粒内にSn−Ni合金粒子がそれぞれ形成されていることを特徴とする、電子部品である。
この発明にかかる電子部品では、Sn−Ni合金粒子は、フレーク状の形状をなすことが好ましい。
また、この発明にかかる電子部品では、Snめっき皮膜の内側に接するように、Niめっき皮膜が形成されていることが好ましい。この場合、Snめっき皮膜における、Niめっき皮膜と接するSn結晶粒内において、Sn−Ni合金粒子が平均して3つ以上存在することが好ましい。
【0008】
この発明にかかる電子部品では、電子部品のSnめっき皮膜において、Sn結晶粒界およびSn結晶粒内にSn−Ni合金粒子が形成されているので、ウィスカ抑制能が飛躍的に高まる。これは、このような構成とすることにより、Snめっき皮膜中の圧縮応力が緩和され、ウィスカの発生する起点が分散され、ウィスカ発生のためのエネルギーが小さくなるものと考えられるからである。
この発明にかかる電子部品のように、Snめっき皮膜中のSn結晶粒界およびSn結晶粒内にSn−Ni合金粒子を形成するためには、たとえば、Snめっき皮膜としてSnめっきを、Niを含む別の皮膜の表面に施しかつ比較的低温で長時間熱処理を行うことによって可能であり、または、Snめっき皮膜としてSn含有量がNiの含有量より多いSn−Ni合金めっきすなわちSnリッチのSn−Ni合金めっきを施しかつ比較的低温で熱処理を行うことによって可能である。このようにSnめっきを施す代わりにSn−Ni合金めっきを施せば、めっき中に予めNiが存在するので、熱処理時間を短くすることができる。なお、Snめっき皮膜の熱処理温度を高温にしすぎると、安定なNi3Sn4相が生成され、Niの拡散がストップするとともに、Snめっき皮膜中にSn−Ni合金の球状結晶しか発生しないことから、応力緩和効果が期待できず、ウィスカの抑制効果が得られない。
この発明にかかる電子部品において、ウィスカの抑制効果をさらに高めるためには、Sn−Ni合金粒子がフレーク状の形状をなすことが好ましく、さらに、Snめっき皮膜の内側に接するように、Niめっき皮膜が形成され、Snめっき皮膜における、Niめっき皮膜と接するSn結晶粒内において、Sn−Ni合金粒子が平均して3つ以上存在することが特に好ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、ウィスカ抑制能を飛躍的に高めた電子部品を得ることができる。
【0010】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明にかかる積層セラミックコンデンサの一例を示す断面図解図である。
【図2】この発明にかかる積層セラミックコンデンサの他の例を示す断面図解図である。
【図3】実施例1の積層セラミックコンデンサにおいて最外層である第2のめっき皮膜中のSnを溶解して剥離した後の第1のめっき皮膜の表面の電子顕微鏡写真像である。
【図4】実施例2の積層セラミックコンデンサにおいて最外層である第3のめっき皮膜中のSnを溶解して剥離した後の第2のめっき皮膜の表面の電子顕微鏡写真像である。
【図5】比較例1の積層セラミックコンデンサにおいて最外層である第2のめっき皮膜中のSnを溶解して剥離した後の第1のめっき皮膜の表面の電子顕微鏡写真像である。
【図6】比較例2の積層セラミックコンデンサにおいて最外層である第2のめっき皮膜中のSnを溶解して剥離した後の第1のめっき皮膜の表面の電子顕微鏡写真像である。
【図7】実施例1の積層セラミックコンデンサにおいて第1のめっき皮膜および第2のめっき皮膜の厚さ方向に切断した断面の電子顕微鏡写真像である。
【図8】実施例2の積層セラミックコンデンサにおいて第1のめっき皮膜、第2のめっき皮膜および第3のめっき皮膜の厚さ方向に切断した断面の電子顕微鏡写真像である。
【図9】比較例1の積層セラミックコンデンサにおいて第1のめっき皮膜および第2のめっき皮膜の厚さ方向に切断した断面の電子顕微鏡写真像である。
【図10】比較例2の積層セラミックコンデンサにおいて第1のめっき皮膜および第2のめっき皮膜の厚さ方向に切断した断面の電子顕微鏡写真像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、この発明にかかる積層セラミックコンデンサの一例を示す断面図解図である。図1に示す積層セラミックコンデンサ10は、直方体状のセラミック素子12を含む。セラミック素子12は、誘電体としてたとえばチタン酸バリウム系の誘電体セラミックからなる多数のセラミック層14を含む。これらのセラミック層14は積層され、セラミック層14間には、たとえばNiからなる内部電極16aおよび16bが交互に形成される。この場合、内部電極16aは、一端部がセラミック素子12の一端部に延びて形成される。また、内部電極16bは、一端部がセラミック素子12の他端部に延びて形成される。さらに、内部電極16aおよび16bは、中間部および他端部がセラミック層14を介して重なり合うように形成される。したがって、このセラミック素子12は、内部にセラミック層14を介して複数の内部電極16aおよび16bが設けられた積層構造を有する。
【0013】
セラミック素子12の一端面には、端子電極18aが内部電極16aに接続されるように形成される。同様に、セラミック素子12の他端面には、端子電極18bが内部電極16bに接続されるように形成される。
【0014】
端子電極18aは、たとえばCuからなる外部電極20aを含む。外部電極20aは、内部電極16aに接続されるように、セラミック素子12の一端面に形成される。同様に、端子電極18bは、たとえばCuからなる外部電極20bを含む。外部電極20bは、内部電極16bに接続されるように、セラミック素子12の他端面に形成される。
【0015】
また、外部電極20aおよび20bの表面には、Niめっき皮膜として、はんだ食われを防止するためにNiを含む第1のめっき皮膜22aおよび22bがそれぞれ形成される。
【0016】
さらに、第1のめっき皮膜22aおよび22bの表面には、最外層となるSnめっき皮膜として、はんだ付け性をよくするためにSnを含む第2のめっき皮膜24aおよび24bがそれぞれ形成される。これらの第2のめっき皮膜24aおよび24bは、それぞれ、Sn多結晶構造を有し、Sn結晶粒界およびSn結晶粒内にSn−Ni合金粒子がそれぞれ形成されている。この場合、Sn−Ni合金粒子は、フレーク状の形状をなしている。また、第2のめっき皮膜24aおよび24bは、それぞれ、Niを含む第1のめっき皮膜22aまたは22bと接するSn結晶粒子において、平均して1つのSn結晶粒内に3つ以上のフレーク状のSn−Ni合金粒子が存在する。このとき、本発明の効果がより顕著に奏される。
【0017】
次に、図1に示す積層セラミックコンデンサ10を製造するための積層セラミックコンデンサの製造方法の一例について説明する。
【0018】
まず、セラミックグリーンシート、内部電極用導電性ペーストおよび外部電極用導電性ペーストを準備する。セラミックグリーンシートや各種導電性ペーストには、バインダおよび溶剤が含まれるが、公知の有機バインダや有機溶剤を用いることができる。
【0019】
次に、セラミックグリーンシート上に、たとえば、スクリーン印刷などにより所定のパターンで内部電極用導電性ペーストを印刷し、内部電極パターンを形成する。
【0020】
そして、内部電極パターンが印刷されていない外層用セラミックグリーンシートを所定枚数積層し、その上に内部電極パターンが印刷されたセラミックグリーンシートを順次積層し、その上に外層用セラミックグリーンシートを所定枚数積層することによって、マザー積層体を作製する。
【0021】
それから、マザー積層体を静水圧プレスなどの手段により積層方向にプレスする。
【0022】
そして、プレスしたマザー積層体を所定のサイズにカットし、生のセラミック積層体を切り出す。なお、このとき、バレル研磨などにより生のセラミック積層体の角部や稜部に丸みをつけてもよい。
【0023】
それから、生のセラミック積層体を焼成する。この場合、焼成温度は、セラミック層14や内部電極16a、16bの材料にもよるが、900℃〜1300℃であることが好ましい。焼成後のセラミック積層体は、積層セラミックコンデンサ10のセラミック層14および内部電極16a、16bからなるセラミック素子12となる。
【0024】
そして、焼成後のセラミック積層体の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布し、焼き付けることによって、端子電極18aおよび18bの外部電極20aおよび20bを形成する。
【0025】
それから、第1の外部電極20aの表面および第2の外部電極20bの表面には、それぞれ、たとえばNiめっきを施すことによって、第1のめっき皮膜22aおよび22bを形成する。
【0026】
そして、第1のめっき皮膜22aおよび22bの表面には、それぞれ、Snを含む金属めっきを施しかつ熱処理を行うことによって、第2のめっき皮膜24aおよび24bを形成する。この場合、第1のめっき皮膜22aおよび22bの表面には、たとえば、Snめっきを施しかつ比較的低温で長時間熱処理を行うことによって、第2のめっき皮膜24aおよび24bを形成する。
【0027】
上述のようにして、図1に示す積層セラミックコンデンサ10が製造される。
【0028】
図1に示す積層セラミックコンデンサ10では、最外層としての第2のめっき皮膜24aおよび24bが、それぞれ、Sn多結晶構造を有するとともに、Sn結晶粒界だけでなくSn結晶粒内にもSn−Ni合金粒子が形成されているので、ウィスカの抑制能が飛躍的に高まる。そのため、この積層セラミックコンデンサ10では、ウィスカが原因となる短絡障害をさらに防止することができる。
【0029】
また、図1に示す積層セラミックコンデンサ10では、最外層である第2のめっき皮膜24aおよび24bがそれぞれSnを含むので、はんだ付け性がよい。
【0030】
さらに、図1に示す積層セラミックコンデンサ10では、第1のめっき皮膜22aおよび22bがそれぞれNiを含むので、はんだ食われを防止することができる。
【0031】
さらに、図1に示す積層セラミックコンデンサ10では、第1のめっき皮膜22a、24bおよび第2のめっき皮膜24a、24bなどにPbが用いられていないので、環境保護の観点においても優れている。
【0032】
図2は、この発明にかかる積層セラミックコンデンサの他の例を示す断面図解図である。図2に示す積層セラミックコンデンサ10は、図1に示す積層セラミックコンデンサ10と比べて、Niを含む第1のめっき膜22aおよび22bの表面に、中間層となるSnめっき皮膜またはNiめっき皮膜として、SnおよびNiを含む第2のめっき膜24aおよび24bがそれぞれ形成されている。さらに、第2のめっき皮膜24aおよび24bの表面には、最外層となるSnめっき皮膜として、はんだ付け性をよくするためにSnを含む第3のめっき皮膜26aおよび26bがそれぞれ形成されている。
【0033】
図2に示す積層セラミックコンデンサ10において、第2のめっき皮膜24a、24bおよび第3のめっき皮膜26a、26bは、それぞれ、Sn多結晶構造を有し、Sn結晶粒界およびSn結晶粒内にSn−Ni合金粒子がそれぞれ形成されている。この場合、Sn−Ni合金粒子は、フレーク状の形状をなしている。
【0034】
また、第2のめっき皮膜24aおよび24bは、それぞれ、Sn結晶粒子において、平均して1つのSn結晶粒内に3つ以上のフレーク状のSn−Ni合金粒子が存在する。また、第3のめっき皮膜26aおよび26bは、それぞれ、Niを含む第2のめっき皮膜24aまたは24bと接するSn結晶粒子において、平均して1つのSn結晶粒内に3つ以上のフレーク状のSn−Ni合金粒子が存在する。
【0035】
図2に示す積層セラミックコンデンサ10を製造するためには、まず、たとえば、図1に示す積層セラミックコンデンサ10を製造する上述の方法と同じ方法によって、セラミック素子12、外部電極20a、20bおよび第1のめっき皮膜22a、22bを形成する。
【0036】
そして、第1のめっき皮膜22aおよび22bの表面には、それぞれ、SnおよびNiを含む合金めっきを施しかつ熱処理を行うことによって、第2のめっき皮膜24aおよび24bを形成し、第2のめっき皮膜24aおよび24bの表面には、それぞれ、Snを含む金属めっきを施しかつ熱処理を行うことによって、第3のめっき皮膜26aおよび26bを形成する。この場合、第1のめっき皮膜22aおよび22bの表面には、たとえば、Sn−Ni合金めっきを施し、Sn−Ni合金めっきの表面にSnめっきを施し、かつ、比較的低温で熱処理を行うことによって、第2のめっき皮膜24a、24bおよび第3のめっき皮膜26a、26bを形成する。
【0037】
上述のようにして、図2に示す積層セラミックコンデンサ10が製造される。
【0038】
図2に示す積層セラミックコンデンサ10では、図1に示す積層セラミックコンデンサ10と同様に、ウィスカの抑制能が飛躍的に高まり、はんだ付け性がよく、はんだ食われを防止することができ、環境保護の観点においても優れているという効果を奏する。
【0039】
さらに、図2に示す積層セラミックコンデンサ10では、図1に示す積層セラミックコンデンサ10と比べて、第1のめっき皮膜22a、22b以外の第2のめっき皮膜24a、24bとなるめっき中に予めNiが存在するので、熱処理時間を短くすることができるという効果も奏する。
【0040】
(実験例)
実験例では、以下に示す実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の積層セラミックコンデンサを製造し、それらの積層セラミックコンデンサについてめっき皮膜中のウィスカを評価した。
【0041】
(実施例1)
実施例1では、図1に示す積層セラミックコデンサ10を製造する上述の方法によって、図1に示す積層セラミックコンデンサ10を製造した。この場合、積層セラミックコンデンサ10の外形寸法を長さ2.0mm、幅1.25mm、高さ1.25mmとした。また、セラミック層14(誘電体セラミック)として、チタン酸バリウム系誘電体セラミックを用いた。さらに、内部電極16a、16bの材料としてNiを用いた。さらに、外部電極20a、20bの材料としてCuを用いた。
【0042】
また、実施例1では、第1のめっき皮膜22a、22bおよび第2のめっき皮膜24a、24bを次の条件で形成した。
(1)めっき浴について
・第1のめっき皮膜を形成するためのめっき浴:一般にワット浴と呼ばれるNiめっき浴を用いた。
・第2のめっき皮膜を形成するためのめっき浴:金属塩として硫酸錫、錯化剤としてクエン酸、光沢剤として4級アンモニウム塩またはアルキルベタインを含む界面活性剤のいずれかまたは双方、を添加した弱酸性のSnめっき浴(クエン酸系弱酸性浴)を用いた。
(2)電流密度および通電時間について
・第1のめっき皮膜:電流密度Dk=2.0[A/dm2]によって皮膜が厚さ5μm〜10μmに形成できるように通電時間を制御した。
・第2のめっき皮膜:電流密度Dk=1.0[A/dm2]によって皮膜が厚さ5μm〜10μmに形成できるように通電時間を制御した。
(3)めっき工法について
・第1のめっき皮膜および第2のめっき皮膜を形成するためのめっき工法:容積300mlの水平回転バレルを用いて行った。
【0043】
さらに、実施例1では、第2のめっき皮膜24a、24bにおいて、Sn結晶粒界だけでなくSn結晶粒内にもSn−Ni合金粒子を形成する方法は、次のとおりである。
外部電極20a、20bの表面に第1のめっき皮膜22a、22bとしてNiめっきを施し、Niめっきの表面に第2のめっき皮膜24a、24bとしてSnめっきを施し、かつ、40℃で200日間熱処理を行った。
【0044】
(実施例2)
実施例2では、図2に示す積層セラミックコンデンサ10を製造する上述の方法によって、図2に示す積層セラミックコンデンサ10を製造した。この場合、実施例2では、まず、実施例1と同じ方法によって、セラミック素子12、外部電極20a、20bおよび第1のめっき皮膜22a、22bを形成した。
【0045】
そして、実施例2では、第1のめっき皮膜22a、22bの表面に第2のめっき皮膜24a、24bとしてSn−Ni合金めっきを施し、Sn−Ni合金めっきの表面に第3のめっき皮膜26a、26bとしてSnめっきを施し、かつ、40℃で96時間熱処理を行って、第2のめっき皮膜24a、24bおよび第2のめっき皮膜26a、26bを形成した。
ここで、Sn−Ni合金めっきを施すためのSn−Ni合金めっき浴の組成は、以下のとおりである。
・NiCl2・2H2O:0.015mol/L
・SnCl2・2H2O:0.135mol/L
・K427:0.45mol/L
・グリシン:0.15mol/L
このSn−Ni合金めっき浴は、形成されるSn−Ni合金めっき中のSn/Ni濃度が85atm%/15atm%となるよう調整されている。
第1のめっき皮膜22a、22bの表面には、このSn−Ni合金めっき浴(Sn濃度90atm%、Ni濃度10atm%)中で、電流密度Dk=0.5[A/dm2]によって厚さ4μm〜8μmのSn−Ni合金めっきを施した。
また、Sn−Ni合金めっきの表面には、上述のSnめっき浴中で厚さ2μm〜5μmのSnめっきを施した。
【0046】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様の方法によって、図1に示す積層セラミックコンデンサ10と同様の積層セラミックコンデンサを製造した。この場合、熱処理として70℃で8分間熱処理を行った。
【0047】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と同様の方法によって、図1に示す積層セラミックコンデンサ10と同様の積層セラミックコンデンサを製造した。この場合、熱処理として150℃で3時間熱処理を行った。
【0048】
次に、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の各積層セラミックコンデンサについて、以下に示すJEDEC規格に準拠してめっき皮膜中のウィスカを評価した。
・試料数(n数):3ロット×6個/ロット=18個
・試験条件:最低温度として−55℃(+0/−10)、最高温度として85℃(+10/−0)、各温度で10分間保持し、気相式で、1500サイクルの熱衝撃を与える。
・観察方法:走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の電子顕微鏡写真像で行う。
・判定基準:Class2(通信用インフラ機器、自動車用機器)を適用し、ウィスカ最大長さ(直線長さ)が45μm以下の場合を良好であると判定し、46μm以上の場合を良好でないと判定した。
【0049】
図3〜図6には、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2のそれぞれの積層セラミックコンデンサにおいて最外層であるめっき皮膜中のSnを溶解して剥離した後のめっき皮膜の表面の電子顕微鏡写真像を示し、図7〜図10には、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2のそれぞれの積層セラミックコンデンサにおいてめっき皮膜の厚さ方向に切断した断面の電子顕微鏡写真像を示した。
【0050】
その結果、実施例1では、ウィスカ最大長さが30μmと良好であり、実施例2では、ウィスカ最大長さが20μmとさらに良好であった。
一方、比較例1では、ウィスカ最大長さが70μmと良好ではなく、比較例2では、ウィスカ最大長さが100μmとさらに良好ではなかった。
【0051】
これは、実施例1および実施例2では、Snを含むSnめっき皮膜において、Sn結晶粒界だけでなくSn結晶粒内にもフレーク状のSn−Ni合金粒子が多数形成されていることによって、ウィスカの成長を大幅に抑制したからである。
【0052】
また、実施例1のようにNiめっきの表面にSnめっきを施しかつ40℃という比較的低温で200日間という長時間熱処理を行う場合および実施例2のようにSn−Ni合金めっきを施しSn−Ni合金めっきの表面にSnめっきを施しかつ40℃という比較的低温で96時間という短時間熱処理を行う場合のいずれの場合でも、ウィスカを良好に抑制する効果を確認することができた。
【0053】
一方、比較例1では、実施例1および実施例2における40℃より高い70℃ではあるが8分間という非常に短時間しか熱処理を行っていないので、最外層であるSnを含むSnめっき皮膜において、Sn結晶粒界にしかフレーク状のSn−Ni合金粒子が形成されておらず、ウィスカ抑制効果も低かった。
また、比較例2では、150℃という非常に高温で熱処理を行っているので、最外層であるSnを含むSnめっき皮膜において、Sn結晶粒界のみに、しかも、Sn−Ni合金の球状結晶しか形成されておらず、ウィスカを抑制する効果もさらに低かった。
【0054】
なお、実施例1では、第2のめっき皮膜24a、24bのそれぞれの厚さとしてウィスカが最も伸び易い5μmを選定したが、第2のめっき皮膜24a、24bのそれぞれの厚さが1μm〜10μmの範囲においてウィスカを良好に抑制することができることも確認している。
このように、実施例1および実施例2において、各めっき皮膜は、他の厚さに形成されても、ウィスカを良好に抑制することができる。
たとえば、実施例2において、第2のめっき皮膜24a、24bのそれぞれの厚さを0.5μm〜9.5μmの範囲としてもウィスカを良好に抑制することができ、第3のめっき皮膜26a、26bのそれぞれの厚さを0.5μm〜9.5μmの範囲としてもウィスカを良好に抑制することができる。
【0055】
また、上述の実施例1および実施例2では、それぞれ、特定の条件で熱処理が行われているが、他の条件で熱処理が行われても、ウィスカを良好に抑制することができる。
たとえば、実施例1において、25℃〜35℃という比較的低温でかつ240日間〜300日間という長時間熱処理が行われても、ウィスカを良好に抑制することができる。
また、実施例2においては、25℃〜35℃という比較的低温でかつ110時間〜150時間という短時間熱処理が行われても、ウィスカを良好に抑制することができる。
【0056】
また、実施例1では、Niめっきの表面にSnめっきを施しかつ比較的低温で長時間熱処理を行うことによって第2のめっき皮膜を形成しているが、Snめっきの代わりにSnリッチのSn−Ni合金めっきを施しかつ比較的低温で短時間熱処理を行うことによって最外層となるSnめっき皮膜としての第2のめっき皮膜を形成してもよい。このようにして第2のめっき皮膜を形成すれば、SnリッチのSn−Ni合金めっきを施しかつ熱処理を行うので、はんだ付け性はわずかに低減するが良好であるとともに、ウィスカを良好に抑制することができる。
【0057】
上述の実施形態、実施例1および実施例2では、誘電体としてチタン酸バリウム系の誘電体セラミックが用いられているが、その代わりにたとえばチタン酸カルシウム系、チタン酸ストロンチウム系、ジルコン酸カルシウム系の誘電体セラミックが用いられてもよい。また、セラミック層14のセラミック材料としては、たとえばMn化合物、Mg化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、希土類化合物などの副成分が添加されたものが用いられてもよい。
【0058】
また、上述の実施形態、実施例1および実施例2では、内部電極としてNiが用いられているが、その代わりにたとえばCu、Ag、Pd、Ag−Pd合金、Auなどが用いられてもよい。
【0059】
さらに、上述の実施形態、実施例1および実施例2では、外部電極としてCuが用いられているが、その代わりにたとえばAg、Ag/Pdからなる群から選ばれる1種の金属、または、当該金属を含む合金が用いられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
この発明にかかる電子部品は、特に、たとえば高密度実装される積層セラミックコンデンサなどの電子部品に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0061】
10 積層セラミックコンデンサ
12 セラミック素子
14 セラミック層
16a、16b 内部電極
18a、18b 端子電極
20a、20b 外部電極
22a、22b 第1のめっき皮膜
24a、24b 第2のめっき皮膜
26a、26b 第3のめっき皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snめっき皮膜を有する電子部品において、
前記Snめっき皮膜は、Sn多結晶構造を有し、Sn結晶粒界およびSn結晶粒内にSn−Ni合金粒子がそれぞれ形成されていることを特徴とする、電子部品。
【請求項2】
前記Sn−Ni合金粒子は、フレーク状の形状をなす、請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記Snめっき皮膜の内側に接するように、Niめっき皮膜が形成されている、請求項1または請求項2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記Snめっき皮膜における、前記Niめっき皮膜と接するSn結晶粒内において、前記Sn−Ni合金粒子が平均して3つ以上存在する、請求項3に記載の電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−237033(P2012−237033A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105932(P2011−105932)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】