説明

電子顕微鏡観察用試料支持部材

【課題】 FIB加工で試料からより微小な試料片を摘出し、電子顕微鏡観察用試料に加工する際に、FIBのイオンビームが微小試料片固定用の電子顕微鏡観察用試料支持部材に照射されず、試料への再付着が生じない電子顕微鏡観察用試料支持部材を提供することにある。
【解決手段】 薄片固定部5が微小試料片2よりも充分に薄いため、イオンビーム6を傾斜し微小試料片2の中央部の電子顕微鏡観察用試料部に照射しても薄片固定部5を削らないようにしての加工が可能となり、これにより薄片固定部5からの微小粉末の発生も生じないため、観察試料への再付着も起こらない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビーム(以下FIBと表記)加工により摘出された試料片の固定に用いられる電子顕微鏡観察用試料支持部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5には、従来の電子顕微鏡観察用試料片のFIB加工前の状態を示す。電子顕微鏡観察用試料支持部材1に微小試料片2を、デポジション膜3にて固定し、電子顕微鏡観察用試料支持部材1の厚さ幅と微小試料片2の試料厚さ幅が、同じ厚さ幅になっている。
【0003】
図6は、従来のFIB加工の説明図である。図6(a)は、斜視図、図6(b)は、試料片中心部の断面図である。図6(a)より、所望の厚さ500〜1000Åの厚さ幅を得るために、微小試料片2上方のFIBよりGaのイオンビーム6を集束させ微小試料片2の所望の位置に、Gaのイオンビーム6を照射して、微小試料片2の加工を進めて行く。その加工の際には、微小試料片2が固定されている電子顕微鏡用試料支持部材1にもイオンビーム6が照射され、電子顕微鏡観察用試料支持部材1そのものも削れてしまう。それにより、イオンビーム6によって削れた電子顕微鏡観察用試料支持部材1からの微小粉末7が微小試料片2へ再付着してしまう。
【0004】
また、図6(b)より、FIBによる試料加工は、Gaのイオンビーム6を微小試料片2上方から下に順次走査して行うため、微小試料片2の上部より加工し、微小試料片2と電子顕微鏡観察用試料支持部材1の界面近傍まで加工が進んだ際に、微小粉末7が発生するので、すでに加工が済んでいる微小試料片2の上部に微小粉末7が付着する。
【0005】
図7には、実際に微小粉末7が付着した試料の透過型電子顕微鏡写真を示す。図7中の白い点線内に認められる黒い斑点が、顕著な微小粉末7の付着物である。この微小粉末7を透過電子顕微鏡付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDS)で分析すると、この試料片には含まれないはずである銅元素(Cu)が検出される。これは試料支持部材が銅によって構成されたものを用いており、そこから由来した付着物である。この様に、本来試料に含まれない元素が観察面に付着し検出されることは、構造解析において多大な障害になることは改めて述べるまでも無い事である。
【0006】
従来の微小試料片は、電子顕微鏡観察用試料支持部材に固定する際、電子顕微鏡観察用試料支持部材として、シリコンウエハからへき開やダイシングソーを利用して形成したシリコン片端部に微小試料片を固定していた。
【0007】
特許文献1には、バルク試料から、所望の特定領域を含む試料片のみを摘出して、1mm×2.5mm×0.1mmのナイフエッジ形状をしたシリコン(Si)片にFIB照射によって形成されたデポジッション膜を用いて固定し、試料作成装置の試料ステージに装着する試料作成方法の例が示されている。
【0008】
また、特許文献2には、FIB加工で試料から、より微小な試料片を摘出し、電子顕微鏡観察用試料として加工する際、摘出した微小試料片を容易に固定、安全に取扱うことが可能な電子顕微鏡観察用試料支持部材の例が示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平11−108813号公報
【特許文献2】特開2001−124676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記従来技術では、試料片固定部に試料片を固定した後に加工する場合、FIBのイオンビームが微小試料片のみではなく、電子顕微鏡観察用試料支持部材にも照射され、その一部が削れてしまい、これにより、電子顕微鏡観察用試料支持材が加工されたことによって生じる微小粉末の試料への再付着が生じるという問題がある。
【0011】
この試料への再付着は、その後の電子顕微鏡観察による構造解析における重大な阻害要因となり、本来の試料の組成・構造解析とは異なる情報をもたらすもので、分析時の大きな欠点であり、問題となる。
【0012】
本発明の目的は、これら欠点を補い、FIB加工で試料からより微小な試料片を摘出し、電子顕微鏡観察用試料に加工する際に、FIBのイオンビームが試料片固定用の電子顕微鏡観察用試料支持部材に照射されず、試料への再付着が生じない電子顕微鏡観察用試料支持部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明は、集束イオンビームで、試料から摘出した微小試料片を、電子顕微鏡観察用試料片に加工する際に、摘出した微小試料片を固定するための戴置面が平坦な試料片固定部を有する電子顕微鏡観察用試料支持部材であって、電子顕微鏡で観察するために、集束イオンビームで薄片化された電子顕微鏡観察用試料片の中央部が戴置される、試料片固定部の薄片固定部の厚さが、電子顕微鏡観察用試料片の中央部の厚さよりも薄いことを特徴とする電子顕微鏡観察用試料支持部材である。
【0014】
また、集束イオンビームで、試料から摘出した微小試料片を、電子顕微鏡観察用試料片に加工する際に、摘出した微小試料片を固定するための戴置面が平坦な試料片固定部を有する電子顕微鏡観察用試料支持部材であって、電子顕微鏡で観察するために、集束イオンビームで薄片化された電子顕微鏡観察用試料片の中央部が戴置される、試料片固定部の一部が空洞となっていることを特徴とする電子顕微鏡観察用試料支持部材である。
【0015】
さらに、試料片固定部が複数設けられていることを特徴とする電子顕微鏡観察用試料支持部材である。
【0016】
さらに、電子顕微鏡観察用試料支持部材の素材がCu、Pt、Mo或いはステンレスのいずれかからなることを特徴とする電子顕微鏡観察用試料支持部材である。
【発明の効果】
【0017】
本発明による電子顕微鏡用試料支持部材を用いることにより、試料片加工時に試料支持部材からの微小粉末の再付着が発生しない構造になっており、その後の透過電子顕微鏡観察による分析や、構造解析から本来の試料状態の情報を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1に本発明の実施の形態に係わる電子顕微鏡観察用試料支持部材の概略構成図の一例を示す。図1(a)は、斜視図、図1(b)は、A−A線で切断した試料片中心部の断面図である。実施の形態1の電子顕微鏡観察用試料支持部材1は、1例として、直径3mm厚さ100μmの円形状で、内部がメッシュ状のPtを用い、FIB加工により、試料の戴置面が平坦となるように、試料片固定部4、および薄片固定部5を残した図1(a)に示す半円形状に加工したものである。微小試料片2の中央部を薄片化し、電子顕微鏡観察用試料形状に粗加工したものを、デポジション膜3により試料片固定部4により固定する。その際、中央部の薄片固定部5の形状は、最終加工された試料片固定部の薄片固定部の厚さが、電子顕微鏡観察用試料片の中央部の厚さよりも薄くなっている。微小試料片2を試料片固定部4に固定する際、デポジション用ガスを流出させつつFIBを走査させ、その走査させたFIB照射領域にデポジッション膜3を形成し微小試料片2を固定している。
【0020】
図2は本発明の実施の形態に係わるFIB加工の説明図である。図2(a)は、斜視図、図2(b)は、B−B線で切断した試料片中心部の断面図である。図1に示すように試料を固定した後、微小試料片2上方のFIBよりGaのイオンビーム6を照射して薄片化し、電子顕微鏡観察用試料厚さに加工する。通常FIBのGaのイオンビーム6は集束により所望の微小試料片2の所望の位置に照射することが可能であるが、その際Gaのイオンビーム6は集束部より上方ではややビームが広くなっており、微小試料片2に対し平行にならず試料を削ってしまう。そのため、通常、図2(b)のようにイオンビーム6の集束角度に合わせて試料を1〜2°傾斜し微小試料片2に照射する。
【0021】
本発明では薄片固定部5が薄片後の微小試料片2よりも充分に薄いため、イオンビーム6を傾斜し微小試料片2の電子顕微鏡観察用試料の中央部に照射しても薄片固定部5を削らないようにしての加工が可能である。これにより薄片固定部5からの微小粉末の発生も生じないため、観察試料への再付着も起こらない構造になっている。
【0022】
(実施の形態2)
図3に本発明の実施の形態に係わる電子顕微鏡観察用試料支持部材の概略構成図の一例を示す。実施の形態2の電子顕微鏡観察用試料支持部材1には、微小試料片2を固定するための平坦な試料片固定部4が形成されており、微小試料片2が戴置される試料片固定部4の電子顕微鏡観察のために薄片化された電子顕微鏡観察用試料の中央部の直下は空洞部8になっている。これにより微小試料片2にイオンビームを照射し加工する際に、試料片固定部4へイオンビームが照射されることが無いので、微小粉末の発生がしない構造となっている。
【0023】
(実施の形態3)
図4に本発明の実施の形態に係わる電子顕微鏡観察用試料支持部材の概略構成図の一例を示す。実施の形態3の電子顕微鏡観察用試料支持部材1は、試料片固定部4が複数設けられている構造になっている。これにより、複数の試料をひとつの電子顕微鏡観察用試料支持部材に固定することが可能となり、観察の際、試料の入れ替えをしないで、複数個の試料を観察することができ、真空引きの時間短縮や観察場所の特定の効率が図られる。
【0024】
以上、実施の形態にて用いた電子顕微鏡観察用試料支持部材1の具体的な例を示すと、直径3mmで、厚さが10〜100μmの薄い円盤状で、その内部の構造は、単孔、スリット、あるいはメッシュ状で、材質がCu、Pt、Mo或いはステンレスの種類があり、使用目的により使い分けて用いれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係わる電子顕微鏡観察用試料支持部材の概略構成図。図1(a)は、斜視図、図1(b)は、A−A線で切断した試料片中心部の断面図。
【図2】本発明の実施の形態に係わるFIB加工の説明図。図2(a)は、斜視図、図2(b)は、B−B線で切断した試料片中心部の断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係わる電子顕微鏡観察用試料支持部材の概略構成図。
【図4】本発明の実施の形態に係わる電子顕微鏡観察用試料支持部材の概略構成図。
【図5】従来の電子顕微鏡観察用試料片のFIB加工前の状態を示す図。
【図6】従来のFIB加工の説明図。図6(a)は、斜視図、図6(b)は、試料片中心部の断面図。
【図7】微小粉末が付着した試料の透過型電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0026】
1 電子顕微鏡観察用試料支持部材
2 微小試料片
3 デポジション膜
4 試料片固定部
5 薄片固定部
6 イオンビーム
7 微小粉末
8 空洞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビームで、試料から摘出した微小試料片を、電子顕微鏡観察用試料片に加工する際に、摘出した前記微小試料片を固定するための戴置面が平坦な試料片固定部を有する電子顕微鏡観察用試料支持部材であって、電子顕微鏡で観察するために、前記集束イオンビームで薄片化された前記電子顕微鏡観察用試料片の中央部が戴置される、前記試料片固定部の薄片固定部の厚さが、前記電子顕微鏡観察用試料片の中央部の厚さよりも薄いことを特徴とする電子顕微鏡観察用試料支持部材。
【請求項2】
集束イオンビームで、試料から摘出した微小試料片を、電子顕微鏡観察用試料片に加工する際に、摘出した前記微小試料片を固定するための戴置面が平坦な試料片固定部を有する電子顕微鏡観察用試料支持部材であって、電子顕微鏡で観察するために、前記集束イオンビームで薄片化された前記電子顕微鏡観察用試料片の中央部が戴置される、前記試料片固定部の一部が空洞となっていることを特徴とする電子顕微鏡観察用試料支持部材。
【請求項3】
前記試料片固定部が複数設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の電子顕微鏡観察用試料支持部材。
【請求項4】
前記電子顕微鏡観察用試料支持部材の素材がCu、Pt、Mo或いはステンレスのいずれかからなることを特徴とする請求項1、2または3記載の電子顕微鏡観察用試料支持部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−259556(P2009−259556A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106368(P2008−106368)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】