説明

電極とセパレータとの接着結合複合材を含む電気化学素子

本発明は、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含み、前記電極は少なくともひとつの接着剤を用いて前記セパレータに貼着されている電気化学素子、および電極が接着剤を用いてセパレータに結合されることを特徴とする、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子の製造方法に関する。さらに、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子の製造のための接着剤の使用が記述される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子の製造方法、および、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子を作製するための接着剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム・ポリマー電池は多くの場合、複数の個別セルを含むセルの積層体を含む。前記積層体を構成する複数の個別セルもしくは複数の単一要素は一般的に、各々の場合に2枚の電極半体間に配置された、好適には金属製集電体である活性電極フィルム(一般的に、正電極に対してはアルミニウム集電体、特にアルミニウム・エキスパンドメタルもしくは有孔アルミニウム箔製の集電体、および、負電極に対しては銅集電体、特に固体銅箔製の集電体)と、一枚以上のセパレータとの複合材である。このような個別セルは多くの場合、負電極/セパレータ/正電極/セパレータ/負電極、または、正電極/セパレータ/負電極/セパレータ/正電極という可能的配列を有する二重セルとして作製される。
【0003】
前記各電極は一般的に、アセトンのような有機溶媒中で、活性材料と、フッ化ポリビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)のような電極結合剤と、必要であれば、導電性向上剤(一般的にはカーボンブラックもしくはグラファイト)のような添加物とを強く混合すると共に、該混合物を適切な集電体に対して塗付することで作製される。この様にして形成された集電体を備える電極箔は引き続き、好適には非常に薄いシート状セパレータ、特にフィルムセパレータに対して適用され、この様に処理されることで、上述の個別セル、特に上述の二重セルが形成される。ありうるセパレータは、たとえば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)の薄膜、または、PEおよびPPの多層配列である。
【0004】
前記電極箔は一般的にセパレータの中央に対して適用されることから、該セパレータは外周において、電極材料により覆われない自由縁部を有する。
【0005】
複数の個別セルもしくは二重セルは次に、並列に接続されると共に相互に重ねて積層されることで上述のセルの積層体を形成し、該積層体は、ハウジング内、たとえば深絞り加工されたアルミニウム複合フィルムから作製されたハウジング内へと導入され、電解質が充填され、前記ハウジングがシールされ、且つ、最終的に成型され、完成バッテリが得られる。
【0006】
上述のように集電体を備えた電極箔をセパレータに適用することは、一般的には貼り合わせ段階において実施される。ここで各電極は、たとえば特許文献1および特許文献2に記載されているように、高圧および高温下で、セパレータに対して圧着される。これらの文献によれば、先ずポリオレフィン・セパレータの両側に結合剤が配備される。この結合剤はたとえば、PVdF-HFP(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体と、多くの場合にはフタル酸ジブチル(DBP)である可塑剤とを含む。被覆された前記セパレータは、熱および圧力の付与により、前記各電極上へと積層される。特許文献1は好適な積層パラメータとして、約100℃の温度、および、20〜30ポンド/インチの範囲の圧力を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,579,643号
【特許文献2】米国特許第6,337,101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし近年、このような積層処理の実施において次第に問題が発生しており、この問題は、特にリチウム・ポリマー電池においてエネルギ密度を増大するために更に薄いセパレータが使用されつつあるという事実に由来し得る。非常に薄いセパレータが使用される場合に該セパレータは、積層の間に生ずる高圧および高温下で、電極内に存在する粒子により損傷され、または、穴があくことさえあり得る。したがって、結果的なセルは多くの場合、少なくとも、潜在的な短絡の危険がある。
【0009】
これに加え、高温の結果として積層の間にはセパレータの収縮が生ずることが多く、このこともまた、個別セルの縁部における短絡に繋がり得る。
【0010】
本発明の目的は、先行技術から知られる電気化学素子と比較して最適化された電気化学素子であって、特に短絡の確実な解消に関し、それに伴う安全性の挙動に関して最適化された電気化学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1の特徴を有する電気化学素子、請求項19の特徴を有する方法、および、請求項24の特徴を有する使用により達成される。本発明の電気化学素子および本発明の方法の好適実施態様は、請求項2乃至18および20乃至23において定義される。これにより、全ての請求項の文言は言及したことにより本記述中に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】室温における長期の循環操作の結果を示す図である。
【図2】本発明の電気化学素子に対する加熱炉試験の結果を示す図である。
【図3】従来の電気化学素子に対する加熱炉試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る電気化学素子は、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む。前記電極は、少なくとも一つの接着剤により前記セパレータに貼着される。
【0014】
この少なくとも一個の個別セルは特に、二重セルである。これは好適には、負電極/セパレータ/正電極/セパレータ/負電極、または、正電極/セパレータ/負電極/セパレータ/正電極の配列を有する。
【0015】
本発明に係る電気化学素子は好適には、セパレータと各電極との間に配置された接着剤の層を有する。該接着剤層は、好適には電気絶縁特性を有するが、慣用の電解質に対しては透過的である。前記接着剤層は各電極とセパレータとの間の領域を完全に覆うことにより各電極はそれらの面積全体にわたりセパレータに対して接着結合されることが好適であり得る。この場合、各電極とセパレータとの間に、もはや直接的接触点は無い。
更なる好適実施態様において、各電極はセパレータの部分的領域に対してのみ接着結合され得る。その場合、接着剤の無い部分的領域において、各電極はセパレータに対して直接接触され得る。
【0016】
本発明に係る電気化学素子の更なる実施態様においては、セパレータおよび各電極は複数の点にて相互に対して接着結合されることも可能である。この実施態様において接着剤は、面積の全体にわたり存在するのではなく、各電極とセパレータとの間における一個以上の点の形態でのみ存在する。
【0017】
本発明に係る電気化学素子は特に、比較できる従来の電気化学素子よりも短絡のおそれが少なく、特に好適実施態様においては等しく良好な性能を呈することが、優れている。後者の点は驚異である、と言うのも先験的には、リチウム・ポリマー電池においてセパレータ上の接着剤層の介在の影響は除外され得ないからである。
【0018】
前記の少なくとも一種類の接着剤は特に、室温において採用され得る一種類以上の接着剤である。特に好適なのは、熱により活性化される必要がなく且つ/又は室温にて硬化され得る接着剤である。前記の少なくとも一種類の接着剤は特に好適には、たとえば吹き付けにより液体形態で塗付され得る接着剤である。液体形態において前記接着剤は、容易に各電極およびセパレータの表面輪郭を呈し得る。使用される前記の少なくとも一種類の接着剤は好適には、電気化学セルの慣用の構成成分に対して、たとえば有機電解質、特に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)または四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)のような導電リチウム塩と共に有機炭酸塩で構成される電解質などの構成成分に対して、化学的に不活性である。好適実施態様において前記接着剤は、溶媒、特に有機溶媒を含まない。
【0019】
前記の少なくとも一種類の接着剤は好適には、少なくともひとつの化学硬化接着剤を含む。該化学硬化接着剤の固化は、化学結合を形成する個々の接着剤成分の化学反応により行われる。前記の少なくともひとつの化学硬化接着剤は、一成分系もしくは多成分系、特に2成分系とされ得る。多成分系の場合には、塗付の前に複数の成分が所定割合で相互に混合される。各成分間の化学反応は一般的に、混合の間においてさえも開始する。故に混合物は、混合の後の特定時間内においてのみ、処理可能もしくは塗付可能である。一成分系の場合には、使用可能状態の接着剤が塗付されると共に、該接着剤は、たとえば大気中の水分もしくは酸素の獲得による周囲条件の変化の結果として硬化する。
【0020】
更なる好適実施態様において、前記少なくとも一種類の接着剤は、少なくとも一種類の物理凝固接着剤を含む。本目的に対して物理凝固接着剤とは、当該接着剤の個々の分子間の物理的相互作用の構成により固化される接着剤である。このような接着剤は多くの場合、溶解もしくは分散された形態で塗付されると共に、溶媒もしくは分散媒の蒸発の結果として硬化する。該接着剤の個々の分子間の相互作用は、一般的に純粋な凝集力である。
【0021】
良く適した接着剤は特に有機接着剤、特にポリマーに基づく有機接着剤である。
前記少なくとも一種類の接着剤は好適には、アクリレート、シアノアクリレート、メチルメタクリレート、フェノールホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリウレタン、ポリオレフィンワックス、極性基により修飾されたポリオレフィン、ポリシロキサンおよび/またはシリコーンに基づく少なくとも一種類の接着剤を含む。前記の少なくとも一種類の接着剤は特に好適には、アクリレートおよび/またはシリコーン接着剤である。
【0022】
接着剤の層は好適には、0.1μm〜25μm、好適には3μm〜15μmの範囲、特に約5μmの厚みを有する。基本的に、接着剤の層をできるだけ薄く保つ試みが為される。
【0023】
本発明に係る電気化学素子において使用され得るセパレータは好適には、本質的に、少なくとも一種類のプラスチック、特に少なくとも一種類のポリオレフィンから成る。前記の少なくとも一種類のポリオレフィンは、たとえばポリエチレンであり得る。同様に、特に好ましいのは、たとえば種々のポリオレフィン層の配列、特にポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレンの配列で構成されたセパレータなどの、多層セパレータを使用することである。
【0024】
更なる好適実施態様において前記セパレータは特に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニル・スルフィド(PPS)またはポリエステルを含むこともできる。
【0025】
特にセパレータは、二酸化チタンまたは二酸化ケイ素のような無機充填剤を含んでいることもできる。
【0026】
本発明に係る電気化学素子において好適に使用され得るセパレータは好適には、3μm〜50μm、特に10μm〜30μm、特に好適には12μm〜18μmの厚みを有する。
好適なのは、少なくともひとつのリチウム介在電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む本発明に係る電気化学素子である。本発明の電気化学素子は特に好適には、リチウム・ポリマー電池である。
【0027】
本発明に係る電気化学素子は好適には、活性材料として酸化リチウムコバルト(LiCoO2)を含む少なくともひとつの正電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む。同様に好適なのは、活性材料としてグラファイトを含む少なくともひとつの負電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む本発明に係る電気化学素子である。
【0028】
更なる実施態様において特に好適なのは、酸化リチウムコバルトに基づく少なくともひとつの正電極およびグラファイトに基づく少なくともひとつの負電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む本発明に係る電気化学素子であり、その場合に前記個別セルは好適には、負電極/セパレータ/正電極/セパレータ/負電極、または、正電極/セパレータ/負電極/セパレータ/正電極の配列を有する。
【0029】
本発明に係る電気化学素子の各電極は好適には、集電体、特に、負電極の側にては銅に基づく集電体および正電極の側にてはアルミニウムに基づく集電体を有する。前記集電体は好適には、本発明に係る電気化学素子のハウジングから引き出されるべく配置され得る電力出力リード線に対して溶接され得る電力出力タブを備える。
【0030】
本発明に係る電気化学素子の各電極は好適には、30μm〜200μm、特に70μm〜160μmの範囲の厚みを有する。示された値は特に、“完成された”電極、すなわち集電体を備える電極に関する。
【0031】
本発明に係る電気化学素子が集電体を有するなら、該集電体は好適には、5μm〜50μm、特に7μm〜40μmの範囲の厚みで使用される。アルミニウム製の集電体および電力出力タブに対しては、10μm〜40μmの範囲の厚みが特に好適である。銅製の集電体および電力出力タブの場合には、6μm〜14μmの範囲の厚みが特に好適である。
【0032】
好適なのは、ポリマー性の電極結合剤、特に、PVDF-HFP共重合体に基づく電極結合剤を含む本発明に係る電気化学素子の電極である。
【0033】
更なる好適実施態様において、本発明に係る電気化学素子の電極は、電極結合剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(PVdF−TFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール、セルロースおよび/またはゴムを含むことも可能である。
【0034】
本発明に係る電気化学素子は一般的に、電解質、好適には、少なくとも一種類の導電性リチウム塩を含有する有機電解質、特に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)のような少なくとも一種類の導電性リチウム塩を含有する炭酸エチレン(EC)およびジエチル炭酸(DEC)の混合物を含む。
【0035】
更に、本発明に係る電気化学素子は好適実施態様において、ハウジング、好適には複合フィルム、特に少なくとも一枚の金属箔を含む複合フィルムで作製されたハウジングを含む。前記複合フィルムは特に好適には内側(すなわち電極に向かう側)上に、特にシール材料として機能するポリプロピレン(PP)のような電気絶縁材料が被覆される。
【0036】
驚くべきことに、本発明に係る電気化学素子は比較できる従来の電気化学素子と比較して短絡の更に確実な解消に関して利点を有するだけでなく、本発明に係る電気化学素子は比較できる従来の素子よりも最初の充電および放電に関して更に低い成型損失(formation loss)を有することも見出された。これに加え、該電気化学素子は驚くべきことに、長期保存時に、比較できる従来の電気化学素子よりも良好な電圧も保持する。この理由は、従来の電気化学素子の場合、積層の間にセパレータは容易に損傷され、漸進的な放電による短絡の潜在的なおそれがある箇所が形成され得るからであると想定される。このことは、本発明に係る電気化学素子の場合、穏やかな条件下でのセパレータに対する電極の接着結合により成功裏に回避される。室温における接着結合によれば、高圧および高温下での積層と対照的に、セパレータの損傷および収縮が大幅に回避される。
【0037】
本発明はまた、電気化学素子の製造方法も提供する。本発明に係る方法によれば、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子が製造され得る。特に、本発明の方法によれば、上記で詳述された電気化学素子を作製することが可能となる。上記の対応実施態様は、単に言及されると共に、反復を回避すべく言及したことにより援用される。
【0038】
本発明に係る方法は、セパレータに対して接着結合されている電極につき特に優れている。本発明に係る方法において好適に使用され得る接着剤は、上記で詳述されている。これにより、対応実施態様に対する言及が為され、且つ、言及したことにより援用される。
【0039】
本発明に係る方法は、各電極がセパレータに対して積層されるという従来の方法と比較して大きな利点を提供する。先ず、上述された穏やかな条件下でのセパレータの処理に対して特に言及が為され得る。接着結合処置においてセパレータは、軟化、溶融または収縮することはない。第2に、接着結合段階は作製プロセスへと容易に統合され得ると共に、該接着結合段階が必要とする複雑で高価なツール、処理段階および機械は、積層段階よりも少ない。
【0040】
本発明に係る方法において、少なくとも一種類の接着剤は好適にセパレータに対して塗付されると共に、適切であれば、予備乾燥される。次続的段階において、前記接着剤を備える前記セパレータに対しては、次に電極が貼着される。
【0041】
前記接着剤は、接着結合されるべき2つの表面の一方(電極もしくはセパレータ)のみに対し、または、両方の表面に対して塗付され得る。好適実施態様においては二成分式の接着剤が使用されると共に、接着結合されるべき一方の表面に対しては一方の成分が塗付され且つ他方の表面に対しては他方の成分が塗付される。2つの表面が相互に接触するとき、前記接着剤は活性化される。
【0042】
前記セパレータは好適には、電極が接着結合される前に、コロナおよび/またはプラズマ処理に付される。これにより、接着剤とセパレータとの間の接着力が向上し得る。
【0043】
代替策として又は付加的に、前記セパレータは電極が接着結合される前に、化学的な下塗剤により活性化されることもできる。
【0044】
本発明の方法の好適実施態様において、各電極およびセパレータは、接着結合の間にまたはその後に、相互に押圧される。相互に対する押圧の後、各電極とセパレータとの複合材は、一般的に直ちに機械的負荷に付され得る。押圧する圧力を適宜に選択することにより、セパレータと各電極との間の接着剤の層の厚みは、使用される接着剤の量の関数として目標限定された様式で設定され得る。
【0045】
各電極の押圧は好適には、比較的に低い温度、特に室温にて実施される。本発明によれば、接着結合および押圧の操作全体がともに、好適には室温にて実施される。選択された接着剤の種類によって、接着剤の硬化は加熱により促進され得る。但し、これはあくまで選択的な措置である。
【0046】
本発明はまた、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子を作製するための、特に各電極およびセパレータを接着結合するための接着剤の使用も提供する。好適には相互に対して接着結合される各電極およびセパレータの種類および性質は、上記において定義されている。このことは、使用され得る接着剤の種類および性質に対して当てはまる。これにより、主題に関して述べられた処が言及されると共に、言及したことにより援用される。
本発明の上述のおよび更なる利点は、従属請求項と併せた好適実施態様の以下の説明および図面から導かれ得る。本発明の個々の特徴は、単独で、または、相互に組み合わせて実現され得る。記述された実施態様は、発明の更に良好な理解を与えるべく例示のみを目的としており、限定を意味すると解釈されてはならない。
【実施例】
【0047】
I.本発明に係る電気化学素子の好適実施態様の作製
(1)負電極の作製
200mlのアセトンが、500mlのプラスチック容器内に載置される。約12重量%のHFP含有量を有する24.75gのPVDF-HFP共重合体(Arkema社からのKynar Flex[登録商標]2801-00)が導入され、該溶液は室温にて実験室用攪拌器(Eurostar社のIKA[登録商標])により攪拌される。澄んだ溶液が形成されると直ちに、導電性向上剤として7.1gのカーボンブラックが導入される。10分後、活物質として321.8gのグラファイトMCMB25-28が少量ずつ導入され;該混合物は引き続いて1700rpmにて更に1時間だけ攪拌される。
【0048】
この様に作製された被覆組成物は引き続き、12μm厚みの銅箔で作製された集電体の両側に対し、約15.4mg/cm2の単位面積当たり重量を有するフィルムとして塗付される。
【0049】
(2)正電極の作製
250mlのアセトンが、500mlのプラスチック容器内に載置される。その中に、21.70gのPVDF-HFP共重合体(Arkema社からのKynar Flex[登録商標]2801-00)が溶解される。澄んだ溶液が形成されると直ちに、導電性向上剤として3.1gの導電性カーボンブラックおよび3.1gのグラファイトが導入される。短時間後、強力に攪拌しながら、活性材料として276.2gの酸化リチウムコバルトが一度に少しずつ加えられる。
【0050】
作製された被覆組成物は、アルミニウム・エキスパンドメタルで作製された集電体に対してドクターブレードにより塗付される(集電体なしでの単位面積当たり重量:約40mg/cm2)。
【0051】
(3)アクリレート接着剤が塗付されたセパレータの作製
先ず、25μmの厚みを有するセパレータ(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンで構成された三層薄膜)が表面にて前処理される。この目的のために、このセパレータはDELO-PRE 2005により化学的に活性化される。前記膜は、活性化剤が吹き付けられ、室温にて5分間乾燥される。結果として表面張力は、28mN/mから34mN/mまで増大する。前記セパレータは引き続き両側にて、アクリレート接着剤の希釈分散水溶液(BASF社からのAcronal[登録商標]3432)が吹き付けられると共に、高温空気(〜60℃)により乾燥される。得られる接着層は、約2μmの厚みを有する。
【0052】
(4)二重セルの作製
本発明に係る電気化学素子の好適実施例に対する二重セルは、(1)に記述されたように製された負電極と、(2)に記述されたように作製された正電極と、(3)に係るセパレータとから製造される。
この目的のために、夫々の場合において、(1)からの負電極および(2)からの正電極から、細長片が打ち抜かれる。先ず、(3)に記述されたセパレータが夫々、負電極の両側に対して接着結合される。次に第2の段階において、上側および下側の正電極は各々、夫々のセパレータの自由面の中央に接着結合される。各セパレータの外周縁部は、電極材料が無いままである。
【0053】
(5)セルの積層体の製造およびハウジング内への該積層体の設置
(4)に記述されたように作製された6個の二重セルが相互に重ねて載置されてセルの積層体が形成されると共に、電力出力リード線の溶接により相互に並列に接続される。この積層体は、深絞り加工されたアルミニウム複合フィルムのハウジング内に載置される。これに続き、電解質の充填、前記ハウジングの密閉、および、最終的成型が行われる。
【0054】
作製された電気化学素子は、41mmの長さ、34mmの幅、および、2.6mmの高さを有する。
【0055】
II.本発明に従わない電気化学素子であって、従来の様式での積層により相互に接続された電極およびセパレータで構成された複数の個別セルを含む電気化学素子の作製
I.に類似する様式であるが、段階(3)は省略され、且つ、上述の手順とは異なり段階(4)において各電極はセパレータに対して接着結合されず、代わりに、高い温度および圧力にて積層されるという様式で電気化学素子が作製された。
【0056】
III.I.に記述されたように作製された電気化学素子、および、II.に記述されたように作製された電気化学素子に対し、成型試験が実施された。各々の場合において電気化学素子は、特定量のエネルギが充電されると共に、引き続いて完全に放電された。各々の場合、充電および放電の間に伝達されたエネルギの量が測定された。
【0057】
驚くべきことに、本発明に係る電気化学素子の場合におけるよりも、(II.に記述されたように作製された)従来の電気化学素子の場合の方が、大きな成型損失が測定された。従来の電気化学素子の場合に成型損失は約10%である一方、本発明に係るセルは約8%という少ない成型損失を呈した。
夫々の測定の結果は、表1に要約される:
【0058】
【表1】

表1:成型損失
【0059】
II.に記述されたように作製された電気化学素子の場合おける大きな成型損失は、おそらく、使用されたセパレータが作製の間の積層段階において個々の箇所にて容易に損傷されたという事実に起因し得る。損傷された箇所にて、電気的ポテンシャルは成型の間において漏れることがあり、これにより大きな成型損失が説明される。
【0060】
IV.I.に記述されたように且つII.に記述されたように作製された各電気化学素子は、それらの容量の約50%まで充電された。各素子は、室温にて保存された。各電気化学素子の電圧は夫々の場合、数ヶ月の期間にわたり規則的な時的間隔にて測定された。
【0061】
本発明に係る電気化学素子とは対照的に、従来の電気化学素子(II.に記述されたように作製されたセル)の場合、顕著な電圧降下が測定された(表2を参照)。
【0062】
【表2】

表2:電圧測定の結果
【0063】
これに対する理由は、上述されたように、II.に係る従来の構造を有する電気化学素子におけるセパレータの損傷箇所を介して漸進的な放電が生ずることであると想定される。
【0064】
V.対応する低い電圧において殆ど放電された電気化学素子に対し、IV.におけるのと同一の試験が実施された。(表3に要約された)結果は、比較可能なものであった。ここで、本発明に係る電気化学素子の場合には電圧降下は全く観察されなかった。
【0065】
【表3】

表3:電圧測定の結果
【0066】
VI.I.に記述されたように作製された電気化学素子およびII.に記述されたように作製された電気化学素子に対し、室温にて、1Cにおける長期の循環操作が実施された。結果を図1に示す(上側の曲線はI.に記述されたように作製された素子に対して測定され、且つ、下側の曲線はII.に記述されたように作製された素子に対して測定された)。従来の素子と比較して、本発明に係る電気化学素子に対しては改善した長期挙動が観察された。
【0067】
VII.本発明に従いI.に記述されたように作製された電気化学素子に対し、4.2Vのセル電圧にて加熱炉試験が実施された。前記電気化学素子は、150℃の温度に30分間付された。該試験は、電気化学素子が発火もしくは爆発しなければ合格と見做される。試験の結果を図2に示す。本発明に係る電気化学素子は、問題なく加熱炉試験に合格した。対照的に、同じ試験において、(図3に示された)II.に記述されたように作製された従来の電気化学素子の場合には問題が生じた。このことは、常温での接着結合により作製された本発明に係る電気化学素子の安全性の利点を例証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子であって、前記電極は少なくともひとつの接着剤により、特に室温にて硬化され得る接着剤により前記セパレータに貼着されている電気化学素子。
【請求項2】
前記セパレータと前記各電極との間に接着剤層があることを特徴とする請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項3】
前記各電極がその面積全体にわたり、またはセパレータの部分的領域に対してのみ、接着結合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学素子。
【請求項4】
前記セパレータおよび前記各電極は複数の点にて相互に対して接着結合されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項5】
前記の少なくともひとつの接着剤が少なくともひとつの化学硬化接着剤を含むことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項6】
前記の少なくともひとつの接着剤が少なくともひとつの物理凝固接着剤を含むことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項7】
前記の少なくともひとつの接着剤が少なくともひとつの有機接着剤、好適にはポリマーに基づく少なくともひとつの接着剤を含むことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項8】
前記の少なくともひとつの接着剤がアクリレート、シアノアクリレート、メチルメタクリレート、フェノールホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリウレタン、ポリオレフィンワックス、極性基により修飾されたポリオレフィン、ポリシロキサンおよび/またはシリコーンに基づく少なくともひとつの接着剤を含むことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項9】
前記接着剤層が、0.1μm〜25μm、特に約5μmの厚みを有することを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項10】
前記セパレータがプラスチックセパレータ、特に少なくとも一種類のポリオレフィンに基づくセパレータであることを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項11】
前記セパレータが3μm〜50μm、好適には10μm〜30μm、特に12μm〜18μmの厚みを有することを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項12】
少なくともひとつの電極がリチウム介在電極であることを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項13】
LiCoO2に基づく正電極が前記セパレータに適用されていることを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項14】
グラファイトに基づく負電極が前記セパレータに適用されていることを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項15】
前記各電極がポリマー性の電極結合剤、特に、PVDF-HFP共重合体に基づく電極結合剤を含むことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項16】
前記各電極が30μm〜200μm、好適には70μm〜160μmの範囲の厚みを有することを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項17】
有機電解質、特に、炭酸エチレンおよびジエチル炭酸と少なくとも一種類の導電性リチウム塩との混合物に基づく電解質を含むことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項18】
複合フィルムで作製されたハウジング、特に少なくとも一つの金属層を有する複合フィルムで作製されたハウジングを含むことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項19】
特に先行する請求項のいずれかに記載の、シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子の製造方法であって、前記電極が前記セパレータに接着結合されることを特徴とする方法。
【請求項20】
前記セパレータが、電極が接着結合される前に、コロナおよび/またはプラズマ処理に付されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記セパレータが、電極が接着結合される前に、化学的な下塗剤により活性化されることを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記各電極および前記セパレータが、接着結合の間にまたはその後に、共に押圧されることを特徴とする請求項19〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記各電極の共の押圧が比較的に低い温度、特に室温にて実施されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
シート状セパレータ上に配置された電極を有する少なくとも一個の個別セルを含む電気化学素子の製造のための接着剤の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−514112(P2010−514112A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541819(P2009−541819)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010679
【国際公開番号】WO2008/080507
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(502350250)ヴァルタ マイクロバッテリー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (15)
【Fターム(参考)】