説明

電極デバイスの作成方法およびそれを用いるガスセンサ

【課題】 導電性変化の感度を向上させる電極デバイスを用いて、ガス成分を高感度に検知できるガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサは、基板上に少なくとも2つの電極が対向している電極デバイスから構成され、該電極デバイスは、前記基板の表面を化学処理して親水性を調整した後、前記基板を収容する溶液中で導電性ポリマーの原料となるモノマーを金属粒子の存在下で化学重合させ、前記導電性ポリマーと前記金属粒子との複合体を前記電極間に形成させる工程を含んで作成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス成分を検出するガスセンサの技術分野に属し、特に、電極デバイスを用いてガス成分を高感度に検知するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
呼気中や環境ガス中の異臭・悪臭成分の変動を測定することによって、健康状態や環境の変化や異常を検知する研究が進んでいる。異臭・悪臭の測定においては、異臭・悪臭成分を十分に検知するとともに、監視性能(モニタリング性能)が必要であり、ガス中の様々な成分の変動も同時に測定し,記録する必要がある。
【0003】
異臭・悪臭成分を十分に検知するために異なるセンシング技術を組み合わせる方法も採用されているが、それでもなお感度や応答速度において十分な性能は得られていない。このため、異臭・悪臭成分を迅速かつ十分に検知するガスセンサが求められている。
【0004】
従来のガスセンサとしては、化学種に晒される際に電気インピーダンスが変化する複数のファイバと、前記ファイバを支持し電気的に絶縁する基板と、前記複数のファイバの電気インピーダンスの測定を可能にする空間的に離隔されたポイントにおいて複数のファイバに接続された一組の電極とを備え、ファイバ中に導電性粒子を含む化学センサーがある(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−513934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のガスセンサは、重合されたファイバ(導電性ポリマー)が厚く堆積した膜になることから、基板上の導電性変化の感度が乏しく、ガス検知の感度や応答速度が低下してしまう。また、ファイバ中に含まれる導電性粒子は、ファイバとファイバをつなぐ結節点として作用するが、ファイバの内部に存するためにその導電性が活かしきれず、導電性変化の感度の向上に十分に寄与できていない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、導電性変化の感度を向上させた電極デバイスを用いて、ガス成分を高感度に検知できるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、導電性変化の感度が高い導電性ポリマーから成る電極デバイスを用いたガスセンサを新たに見出した。
【0009】
かくして、本発明に従えば、基板上に少なくとも2つの電極が対向している電極デバイスの作成方法であって、前記基板の表面を化学処理して親水性を調整した後、前記基板を収容する溶液中で導電性ポリマーの原料となるモノマーを金属粒子の存在下で化学重合させ、前記導電性ポリマーと前記金属粒子との複合体を前記電極間に形成させる工程を含むことを特徴とする電極デバイスの作成方法が提供される。
【0010】
また、本発明に従えば、上記作成方法に従って作成された電極デバイスから成るガスセ
ンサも提供される。さらに、本発明に従えば、複数種類の金属粒子に対して、各金属粒子ごとに電極デバイスを備えることを特徴とするガスセンサも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るPANI/Auナノ複合電極の模式図を示す。
【図2】本発明に係るPANI/Auナノ複合電極のSEM写真およびサイクリックボルタンメトリー結果を示す。
【図3】本発明に係るPANI/Auナノ複合電極を用いて、硫化水素とメチルメルカプタンに対してガスセンシングを行った結果、およびその感度と時間の関係図を示す。
【図4】本発明に係るPANI/Auナノ複合電極を用いて、生ニンニクを食べた後の呼気に対する呼気センシング結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、導電性ポリマーと金属粒子から成るポリマー複合体を重合させる化学重合の前段として、対向する電極間に存在する基板上に最適な親水性をもたせることによって、従来に無い高感度な導電性変化を示す薄い膜のポリマー複合体を、この対向する電極間に形成できることを見出した。さらに、この一対の電極と、電極間に存在するポリマー複合体とから成る電極デバイスは、ガスセンサを構成することができ、このガスセンサは、これまでに無い高感度なガス検知が行えることを見出した。
【0013】
本発明に係る電極デバイスは、基板上に少なくとも2つの電極が対向している電極デバイスであって、前記基板の表面を化学処理して親水性を調整した後、前記基板を収容する溶液中で導電性ポリマーの原料となるモノマーを金属粒子の存在下で化学重合させ、前記導電性ポリマーと前記金属粒子との複合体を前記電極間に形成させる工程を含んで作成される。本発明に係るガスセンサは、この作成された電極デバイスから構成される。
【0014】
本発明においては、基板には誘電体を使用することが好ましく、特にガラスを用いることが好ましい。また、対向した電極は、櫛歯電極であることが好ましい。すなわち、図2に示すように、櫛歯電極2の間にガラス3が備えられる。基板は、その表面がガラスで覆われるとともに、所望の電極形状(例えば櫛歯形状)を有する金属電極(例えば金)の一対が、このガラスによって隔てられて対向している。
【0015】
本発明では、基板が最適な親水性に調整された後、公知の化学重合(例えば、電気化学重合)を使用することにより、最適な親水性をもつ基板上に、ポリマー複合体が従来に無い薄い膜として上記金属電極の間に形成される。このように、本発明では、化学重合の前段として、基板上に最適な親水性をもたせることを特徴としている。具体的な方法としては、基板の接触角を調整することであるが、この接触角は15°〜20°であることが好ましい。接触角が15°より小さい場合には、ポリマー複合体の導電性ポリマーから成る導電性ネットワークが形成され難くなり、接触角が20°より大きい場合には、ポリマー複合体が厚く堆積した膜になりやすいためである。
【0016】
このような方法に従って得られた電極デバイスは、感度や応答速度の非常に高いものとなった。これは、導電性ポリマーが金属電極の長手方向に沿った配向性(平面配向性)を有する従来に無い電極デバイスが作製されたためと推察される。ここで、平面配向性の構造とは、導電性ポリマーが2次元的あるいは3次元的な厚みのある膜では無く、準1次元的
な薄い膜の状態でネットワーク構造を有するものを意味する。
【0017】
さらに、従来では、ファイバ(導電性ポリマー)中に含まれる導電性粒子が、ファイバとファイバをつなぐ結節点として作用し、ファイバの内部に存するためにその導電性が活かしきれず、導電性変化の感度の向上に十分に寄与できていないのに対して、本発明に係
る電極デバイスは、図1(a)の模式図に示すように、ポリマー複合体1において、導電性ポリマー11の表面が微量の金属粒子12で修飾されていることも推察される。
【0018】
本発明に係る電極デバイスは、このような優れた構造を有していると考えられることから、櫛歯電極の導電性の感度が著しく向上し、ガスセンサとして用いる際に、ガス成分の検知における感度や応答速度が大きく向上されたと推察される。
【0019】
基板表面の化学処理(表面処理)としては、従来から公知のシランカップリング剤を使用することができる。この表面処理により、市販されているガラス表面の接触角を好適に調整することができる。表面処理されたガラス表面における接触角は、シランカップリング剤の末端元素の種類によって異なるが、導電性ポリマーが最適なナノ構造を得る点からは、該接触角が15°〜20°であることが好ましい。
【0020】
このようなシランカップリング剤としては、その末端元素にNH2基やOH基を有するもの
が挙げられるが、このうち特に、該末端元素にNH2基を有するシランカップリング剤は、
ガラス表面の接触角を約20°とする点から好ましく、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(3-aminopropyltriethoxysilane;APTES)を挙げることができる。シランカップリング剤を溶解させる溶媒としては、従来から公知のものを使用することができ、例えば、ベンゼン、トルエンまたはクロロホルム等を使用することができる。
【0021】
本発明に用いられる導電性ポリマーとしては、ナノファイバまたはナノワイヤの形状を有することが好ましい。その例としては、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン(対応するモノマーとしては各々、アニリン、アセチレン、ピロール、チオフェン)などが挙げられるが、それ自体で特定のガス成分に対して特異的に導電性を変化させる特性のあるポリアニリン(PANI)が好適である。この性質は、ポリアニリンが特定のガス成分と接触する際に、ポリアニリンに含まれるプロトンのドープと脱ドープが生じることによって、その導電性が変化するためと考えられる。さらに、ポリアニリンには、エメラルディン(emeraldine)およびペルニグルアニリン(pernigraniline)の2種類があるが、導電性や安定性の点からエメラルディンを使用することが好ましい。
【0022】
本発明に従えば、複数種類の金属粒子に対して、各金属粒子ごとに電極デバイスを備えることができる。この金属粒子としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、およびモリブデン(Mo)のうちの少なくとも1つから選択することができる。金属粒子は、特定のガス成分に対して特異的に導電性ポリマーの導電性を変化させることができ、金属粒子を適宜選択することにより、検出対象となるガスに応じたガスセンサを構築することができる。
【0023】
ガスセンサの感度を向上させるために、金属粒子もナノ粒子(M−NPs)であること
が好ましい(Mは金属元素)。本発明に係る電極デバイスは、感度や応答速度が非常に高いものであるが、その理由の1つとしては、ポリマー複合体に占める金属粒子の割合が、非常に少なく、特に1%未満であることが推察される。
【0024】
金属粒子として、例えば、金または銅を使用する場合には硫化物を特異的に検知することができ、銀を使用する場合には有機酸(酢酸,アクリル酸など)を特異的に検知することができ、モリブデンを使用する場合にはアルデヒド類を特異的に検知することができる。また、金属粒子を使用しない場合にも、ポリアニリン自体の特性からアンモニア類を特異的に検知することができる。このガス検知のメカニズムとしては、例えば金属粒子が金(Au)の場合には、硫化物ガスが金属電極に吸着した際に,ポリアニリンと金属ナノ粒子(AuNPs)との間に電荷移転(charge transfer)が発生し,ポリアニリンの導電率を変
化させているものと推察される。
【0025】
このように、本発明のガスセンサは、上記の電極デバイスから構成されるものであり、呼気や環境ガスに含まれるアンモニア類,有機酸,硫化物およびアルデヒド類を検知でき、異なるガス種への特異性を高めたものである。さらに、本発明のガスセンサは、同一の装置内で特性の異なる複数の電極デバイスから構成することができることから、複合型ナノファイバセンサとも呼ぶことができ、ガスを検知する特性(センシング特性)を目的に応じて変更することができる。また、導電性ポリマーがナノファイバまたはナノワイヤの形状を有することから、導電性変化の感度が高いものとなる。
【0026】
なお、本発明に係るガスセンサに用いられる金属電極の形態としては、上記の櫛歯電極に限定されず、金属電極が対向して該金属電極間に本発明のポリマー複合体が存在する構成であればその種類や形状は問わない。また、本発明に係る電極デバイスを製造する際に、化学重合の一例として電気化学重合を用いたが、これに限定されず、例えば、熱重合等の他の化学重合も同様に用いることができる。
【0027】
本発明に係るガスセンサの適用対象としては、例えば、呼気[狭義の生体ガス(biogas
)]中や環境ガス中の異臭・悪臭成分の変動測定に使用することができ、健康状態や環境
の変化や異常を知ることができる.
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0028】
(実施例)
電極デバイスの製造
ガラス/金の櫛歯電極を用いて、以下の定電流条件でポリアリニンを電気化学重合した

まず、プラズマ洗浄した櫛歯電極の絶縁領域の表面に適当な接触角度(約20度)を調整するため、トルエン溶媒中の3%濃度の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を用いて、6時間、ガラスの表面修飾を行った。電極をトルエンで洗浄した後、空気中に24時間置いた。その後、純水に24時間浸漬した。溶液中のアリニンモノマーの濃度は0.05M(1M HCl溶液)で、重合電流1μAとして、重合時間30分で電気化学重合を行ってPANI電
極を得た。得られたPANI電極を電極処理濃度5mMHAuCl4の塩酸(1M)溶液に6時間浸漬し、電極デバイスとしてPANI/Auのナノ複合電極を作成した。
【0029】
得られたポリアニリン電極のSEM写真を図2(a)に示す。また、電気化学のサイクリ
ックボルタンメトリー(CV)を使って、ポリアニリンのAu修飾前と修飾後のCV図を比較した結果を同図(b)に示す。CV図において、得られたポリアニリン電極は、未処理のポリアニリン電極と比べて酸化ピークがシフトしていることが観察された。これらの結果から、PANIのナノファイバ上に数ナノメートルの金(Au)のナノ粒子が形成されたと考えられることから、ポリアニリンと金(Au)の複合体が形成されたと推察される。
【0030】
なお、上記では、金(Au)のナノ粒子を使用したが、これに限定されず、この他の金属ナノ粒子複合電極として、上記のHAuCl4塩酸溶液の替わりに、AgNO3/HCl(Agナノ粒子の場合)、H2PtCl6/HCl(Ptナノ粒子の場合)、PdNO3/HCl(Pdナノ粒子の場合)の各溶液を使うことで、上記と同様にして、PANI金属ナノ粒子複合電極を作成することが可能である。
【0031】
ガスセンシング結果
PANI/Auのナノ複合電極を用いて、硫化水素とメチルメルカプタンに対してガスセンシ
ングを行った結果を各々図3(a)および(b)に示す。PANI/Auのナノ複合電極を作成
した際のHAuCl4塩酸(1M)溶液の電極処理濃度を0、1、5、10mMの各場合で各々電
極を作成し、ガスセンシングを行った。金(Au)のナノ粒子を含有しないPANI電極は硫化物ガスに対し応答しなかったが、HAuCl4塩酸(1M)溶液で処理した電極は硫化物に対して、大きい応答を示した。特に、電極処理濃度が5mMの場合の電極におけるガスセンシン
グが最も高い感度を示した。
【0032】
この結果から、PANI/Auのナノ複合電極を用いることによって、硫化水素とメチルメル
カプタンに対して著しい精度の応答が得られることがわかった。また、上記のガスセンシング結果における感度と時間の関係図を図3(c)に示す。同図(c)から、時間経過後も十分な感度を保っていることがわかった。
【0033】
呼気センシング結果
作成したPANI/Auのナノ複合電極を用いて、生ニンニクを食べた後の呼気に対する呼気
センシング結果を図4に示す。上記と同様にPANI/Auのナノ複合電極を作成した際のHAuCl4塩酸(1M)溶液の電極処理濃度を0、1、5、10mMの各場合で各々電極を作成した。生ニンニク1g試食後,15分後に呼気サンプルを採取した。呼気サンプルを無水CaCl2
燥瓶に通して乾燥した。サンプリング手順としては、室内空気2000秒,ニンニク食前呼気2000秒,ニンニク食後呼気2000秒の順で測定した。図4の結果から、作製したPANI/AuNPs電極は、特に、ニンニク食後の呼気に鋭敏に反応しており、特に、電極処理濃度が5mM
の場合の電極において最も高い感度を示した。このような結果から、作製したPANI/AuNPs電極は、呼気中の硫化物ガスセンサ(口臭測定)として使えることが確認された。
上記ではPANI/Auのナノ複合電極を用いたが、この他の金属粒子から成るナノ複合電極
を併用することで、ガスに含まれる複数のガス成分を同時に検出することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 ポリマー複合体
11 導電性ポリマー
12 金属粒子
2 櫛歯電極
3 ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも2つの電極が対向している電極デバイスの作成方法であって、前記基板の表面を化学処理して親水性を調整した後、前記基板を収容する溶液中で導電性ポリマーの原料となるモノマーを金属粒子の存在下で化学重合させ、前記導電性ポリマーと前記金属粒子との複合体を前記電極間に形成させる工程を含むことを特徴とする電極デバイスの作成方法。
【請求項2】
化学重合が電気化学重合であることを特徴とする請求項1に記載の電極デバイスの作成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法に従って作成された電極デバイスから成るガスセンサ。
【請求項4】
複数種類の金属粒子に対して、各金属粒子ごとに電極デバイスを備えることを特徴とする請求項3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
対向した電極が櫛歯電極であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
導電性ポリマーがナノファイバまたはナノワイヤの形状を有することを特徴とする請求項3〜5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
導電性ポリマーがポリアニリンであることを特徴とする請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項8】
金属粒子が、金、銀、銅、およびモリブデンのうちの少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−215448(P2012−215448A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80316(P2011−80316)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月2日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/ma1023878」に発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】