説明

電極活物質の製造方法

【課題】リチウムイオン二次電池等に用いられている活物質は、従来、固体状の金属化合物を高温で加熱する方法で製造されているが、得られた活物質粒子が溶着するような高温加熱が必要なため、得られた活物質粒子が相互に融着して粒径が大きくなり、二次電池の入出力特性を悪くする原因となっていた。本発明は従来法に比べ、より低温で加熱して活物質を製造することができ、従来に比して粒径が小さく、しかも得られる活物質の粒径を調整することができる電極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アルカリ金属化合物と、遷移金属化合物と、遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満である高分子物質とを含む活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱することを特徴とする電極活物質の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池の電極における活物質として使用することができる電極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、繰り返しの充放電によるメモリー効果がないことから、携帯電話や、ノート型パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の電子機器類の電源として広く利用されている。非水電解液二次電池の正極板としては、金属薄等の導電体表面に正極活物質層を形成したものが用いられ、負極板としては、銅やアルミニウム等の集電体表面に負極活物質層を形成したものが用いられている。
【0003】
正極活物質や負極活物質等の電極活物質としては、例えばマンガン、ニッケル、コバルト、鉄、チタン等の遷移金属酸化物や、遷移金属とナトリウムやリチウム等のアルカリ金属との複合酸化物等が用いられている。これらの電極活物質は、遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の混合物を焼成することにより製造されており、例えば炭酸ニッケルや硝酸ニッケル等のニッケル化合物と、硝酸リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物との混合物を、大気中もしくは酸素雰囲気下で焼成してリチウムとニッケルの複合酸化物とする方法(特許文献1)、リチウム化合物と遷移金属化合物とを水性媒体中で粉砕した固液混合物を噴霧乾燥して得た粉末固体を、酸素の存在下に焼成する方法(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−231767号公報
【特許文献2】特開2009−277667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載されている如く、従来の電極活物質の製造方法は、金属化合物の混合物を固体状態で焼成するものであるため、金属化合物相互を融合させるために高温での焼成が必要であり、高温で焼成すると粒子相互が焼結して巨大化し、粒径が5〜10μm程度の粒子しか得ることができなかった。しかしながら、二次電池の出入力特性を向上させるために、電極活物質を更に微粒化することが求められている。
【0006】
本発明者は、更に粒径の小さい電極活物質を得るべく、金属化合物を固体状態で焼成する従来方法に代えて、金属化合物の溶液を加熱して活物質を得る方法の検討を行った。この方法では、金属化合物を固体状態で加熱、焼成する従来の方法に比べ、より低い温度で加熱して活物質を得ることができるが、得られた活物質は極めて微細な粒子となってしまい、取り扱い性が極度に低下するという問題があった。本発明者は更に鋭意研究した結果、特定の高分子物質の存在下で、金属化合物の溶液を加熱すると、従来よりも微細でありながら、取り扱い易い適度な粒径の活物質を得ることができ、しかも加熱温度の違いによって粒径を調整することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、
(1)アルカリ金属化合物と、遷移金属化合物と、遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満である高分子物質とを含む活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱することを特徴とする電極活物質の製造方法、
(2)高分子物質が、遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満であるセルロース系高分子、ポリアルキレングリコール、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルより選ばれた1種又は2種以上である上記(1)の電極活物質の製造方法、
(3)活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の高温雰囲気中に噴霧して加熱する上記(1)又は(2)の電極活物質の製造方法、
(4)活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱した後、更に高い温度で加熱する上記(1)〜(3)のいずれかの電極活物質の製造方法、
(5)活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上、600℃以下の温度で加熱する上記(1)〜(4)のいずれかの電極活物質の製造方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法は、金属化合物を固体状態で加熱、焼成して電極活物質を得る従来の方法に比べ、低い加熱温度が電極活物質を得ることができるため、製造効率が良いとともに、固体状の金属化合物を高温で加熱、焼成する従来法に比べ、粒子の凝集を防止して、より小さな粒子径を有し、出入力特性に優れ、しかも粒子径が小さいにも関わらずサイクル特性に優れた電極活物質を得ることができる。更に本発明方法によれば、粒子径の制御が可能であり、加熱温度を変えることにより、粒子径の異なる電極活物質を容易に得ることができ、出入力特性を目的に応じて調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において用いるアルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等が用いられる。なかでも入手が容易な塩化物、硝酸塩、酢酸塩が好ましい。具体的なリチウム化合物としては、例えばクエン酸リチウム四水和物、過塩素酸リチウム三水和物、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、リン酸リチウム等が挙げられ、ナトリウム化合物としては、例えば硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属化合物は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0010】
遷移金属化合物としては、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、チタン、バナジウム、クロム、ランタン等の遷移金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩、錯塩等が用いられる。なかでも、入手が容易な塩化物、硝酸塩、酢酸塩が好ましい。また遷移金属化合物のなかでも、安価なコバルト化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、鉄化合物、チタンの化合物が好ましい。遷移金属化合物は1種又は2種以上を併用することができる。
【0011】
具体的な遷移金属化合物としては、例えば塩化コバルト(II)六水和物、蟻酸コバルト(II)二水和物、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート二水和物、酢酸コバルト(II)四塩、しゅう酸コバルト(II)二水和物、硝酸コバルト(II)六水和物、塩化コバルト(II)アンモニウム六水和物、亜硝酸コバルト(III)ナトリウム、硫酸コバルト(II)七水和物等のコバルト化合物、塩化ニッケル(II)六水和物、酢酸ニッケル(II)四水和物、過塩素酸ニッケル(II)六水和物、臭化ニッケル(II)三水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、次亜リン酸ニッケル(II)六水和物、硫酸ニッケル(II)六水和物等のニッケル化合物、酢酸マンガン(III)二水和物、酢酸マンガン(II)四水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、シュウ酸マンガン(II)二水和物、マンガン(III)アセチルアセトナート等のマンガン化合物、塩化鉄(II)四水和物、クエン酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、しゅう酸鉄(II)二水和物、硝酸鉄(III)九水和物、乳酸鉄(II)三水和物、リン酸鉄、硫酸鉄(II)七水和物等の鉄化合物、四塩化チタン、チタンアセチルアセトナート等のチタン化合物が挙げられる。
【0012】
遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満の高分子物質としては、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテル等のうち、使用する遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満のものを選択して用いることが好ましく、これらのなかでも特にセルロース系高分子、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0013】
本発明方法において、アルカリ金属化合物の熱分解開始温度は、遷移金属化合物の熱分解開始温度よりも高い温度であるが、遷移金属化合物が存在していることにより、アルカリ金属化合物の熱分解開始温度よりも低い温度であっても、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱しても活物質を得ることができる。また、活物質形成溶液中に、遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満の高分子物質が共存していることにより、活物質形成溶液を遷移金属化合物の熱分解開始温度以上に加熱した際に、高分子物質に活物質結晶の成長が阻害されるために微細な結晶が生成し、この微細結晶が更に加熱した際に成長することで、より大きな粒径の活物質が得られると考えられる。本発明において上記遷移金属化合物の熱分解開始温度とは、遷移金属化合物を120℃で10分保持した後、10℃/分の速度で昇温加熱した時に、5重量%の重量減少が生じた時の温度とする。熱分解開始温度は、遷移金属化合物を熱天秤により昇温加熱して測定することができる。また高分子物質の加熱重量変化率は、高分子物質を10℃/分の速度で昇温加熱して遷移金属化合物の熱分解開始温度に達した時の重量の、元の重量に対する重量変化率として求めることができる。高分子物質の加熱重量変化は、熱天秤により高分子物質を昇温加熱した際の重量変化を測定することで求めることができる。尚、複数の遷移金属化合物を併用する場合、各遷移金属化合物の熱分解開始温度のうち、最も低い温度を遷移金属化合物の熱分解開始温度として採用する。
【0014】
アルカリ金属化合物、遷移金属化合物、高分子物質を含む活物質形成溶液における溶媒としては、水や、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の総炭素数5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン等が挙げられ、これらの中からアルカリ金属化合物、遷移金属化合物、高分子物質を溶解させるに適した溶媒を選択して用いる。また、アルカリ金属化合物、遷移金属化合物、高分子物質の溶解性を高める等の目的で、2種以上の溶媒を組みあわせた混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒としては、例えば水−メチルアルコール混合溶媒、水−エチルアルコール混合溶媒、水−イソプロピルアルコール混合溶媒、等の水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0015】
本発明方法において、活物質形成溶液中の高分子物質は、溶媒重量に対して1重量%以上となるように配合することが好ましい。
【0016】
本発明方法で得られる電極活物質としては、アルカリ遷移金属複合酸化物、アルカリ遷移金属複合窒化物、アルカリ遷移金属複合硫化物、アルカリ遷移金属複合リン酸化合物等が挙げられる。アルカリ遷移金属複合酸化物は、上記活物質形成溶液を酸素ガス雰囲気下で加熱することにより得ることができ、アルカリ遷移金属複合窒化物は、上記活物質形成溶液をアンモニアガス雰囲気下で加熱することにより得ることができ、アルカリ遷移金属複合硫化物は、上記アルカリ金属化合物、遷移金属化合物、高分子物質と共に、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カルシウムなどを含む活物質形成溶液を加熱することにより得ることができる。またアルカリ遷移金属複合リン酸化合物を得る場合には、リンを含む活物質形成溶液を加熱することにより得ることができる。
【0017】
電極活物質としてアルカリ遷移金属複合リン酸化合物を得る場合、アルカリ金属化合物、遷移金属化合物中にリンが含まれない場合、活物質形成溶液に、更にリン含有化合物を添加する。リン含有化合物としては、メタリン酸、ピロリン酸、オルトリン酸、三リン酸、四リン酸や、これらの塩等のリン酸類、亜リン酸や亜リン酸塩等の亜リン酸類、次亜リン酸や次亜リン酸塩等の次亜リン酸類が挙げられる。
【0018】
活物質形成溶液を遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱する方法としては、活物質形成溶液を、るつぼ等の容器に入れて加熱炉内で加熱する方法、加熱炉内に活物質形成溶液を噴霧して加熱する方法等が挙げられるが、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度雰囲気に活物質形成溶液を噴霧して加熱する方法では、るつぼ等の容器内で活物質形成溶液を加熱する方法に比べ、より粒径が小さい活物質を得ることができる。加熱温度は遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度であれば良いが、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度に加熱して生成した活物質粒子相互が融着するのを防止する上で、加熱温度は、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上、600℃以下の温度が好ましい。本発明方法において、活物質形成溶液を遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱して活物質粒子を生成させた後、より高い温度に昇温して更に加熱を行うこともでき、このような加熱を行うことにより、活物質形成溶液を遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱して形成した活物質粒子をより大きな径の粒子とすることができ、昇温して加熱する温度を高くするほど、最終的に得られる活物質の粒径を大きくすることができる。活物質形成溶液を遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱して生成した活物質を、更に高い温度で加熱する場合、加熱温度が高すぎると生成した活物質粒子の溶着が生じてしまうため、昇温加熱する場合の温度は得られた活物質が溶着しない程度の温度以下であり、600℃以下の温度が好ましい。
【0019】
本発明において、上記活物質形成溶液中には、必要によりアセチレンブラック、カーボンファイバー等の導電剤を配合しても良く、導電剤を配合した活物質形成溶液を用いると、活物質と導電剤との複合体を得ることができる。
【0020】
本発明方法により得られる電極活物質としては、例えば、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiTi12、LiFeO、LiFePO、LiCoO、LiNi0.33Co0.33Mn0.33等が挙げられる。本発明方法によれば、通常、平均粒径が10nm〜500nm程度の粒径の電極活物質を得ることができ、活物質形成溶液をるつぼ等の容器に入れて加熱する方法では、平均粒径50〜500nm程度の活物質を得ることができ、活物質形成溶液を加熱雰囲気下に噴霧して加熱する方法では10〜200nm程度の活物質を得ることができる。
【実施例】
【0021】
実施例1
酢酸リチウム二水和物10.2g、硝酸ニッケル(II)六水和物(熱分解開始温度190℃)9.7g、硝酸マンガン(II)六水和物(熱分解開始温度200℃)9.6g、硝酸コバルト六水和物(熱分解開始温度210℃)9.7g、メチルセルロース(信越化学株式会社製、メトローズ65SH−1500:硝酸ニッケルの熱分解開始温度190℃における加熱重量減少率4重量%)3gを、水:イソプロピルアルコール(2:1)の混合溶媒70gに添加し、バイオシェーカーにより回転数200rpmで70℃にて5時間攪拌し、その後、24時間室温で保持したものを活物質形成溶液とした。この溶液をるつぼに入れ、大気雰囲気の焼成炉(光洋サーモシステム社製)中で、室温から1時間かけて200℃に昇温し、200℃で1時間保持した。次いで、500℃まで1時間かけて昇温し、500℃で30分間保持した。その後、60℃まで冷却して粉体を得た。また上記と同様の活物質形成溶液を同様にして焼成炉内で室温から1時間かけて200℃に昇温し、200℃で1時間保持した後、600℃まで1時間かけて昇温し、同温度で30分間保持して冷却し、粉体を得た。これらの粉体のX線回折測定したところ、いずれもLiNi0.33Co0.33Mn0.33で示される活物質であることが確認された。得られた活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製:MAC VIEW)により粒子20点の平均粒径を求めたところ、200℃で1時間保持した後、500℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は87nmであり、200℃で1時間保持した後、600℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は255nmであった。
【0022】
比較例1
メチルセルロースを含まない活物質形成溶液を用いた他は、実施例1と同様にして同様の組成の活物質を得た。200℃で1時間保持した後、500℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は24nmであり、200℃で1時間保持した後、600℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は26nmであった。
【0023】
実施例2
実施例1と同様の活物質形成溶液を、300℃に加熱した大気雰囲気の炉内にスプレー装置(ノードソン社製)により噴霧して粉体を得た。得られた粉体を冷却した後、大気雰囲気の焼成炉に入れ、500℃まで1時間かけて昇温して同温度で30分保持した後、冷却し、平均粒径47nmの粉体を得た。また上記と同様に、加熱炉内で活物質形成溶液を噴霧して得た粉体を、焼成炉内で600℃まで1時間かけて昇温し、同温度で30分保持した後、冷却し、平均粒径81nmの粉体を得た。これらの粉体はX線回折により、実施例1と同様の組成の活物質であることが確認された。
【0024】
比較例2
メチルセルロースを含まない活物質形成溶液を用いた他は、実施例2と同様に加熱して同様の組成の活物質を得た。300℃の炉内で噴霧して得た粉体を500℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は14nmであり、300℃の炉内で噴霧して得た粉体を、600℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は15nmであった。
【0025】
実施例3
酢酸リチウム二水和物5.1g、酢酸マンガン(II)四水和物(熱分解開始温度200℃)24.5g、ウレタン樹脂(荒川化学工業社製、ユリアーノW321):酢酸マンガンの熱分解開始温度における加熱重量減少率2重量%)2gを、水:イソプロピルアルコール(3:1)の混合溶媒220gに添加し、バイオシェーカーにより回転数200rpmで70℃にて5時間攪拌し活物質形成溶液を調製した。この溶液を、大気雰囲気下にて400℃に加熱した炉内にスプレー装置(ノードソン社製)により噴霧して粉体を得た。得られた粉体を冷却した後、大気雰囲気下で400℃まで1時間かけて昇温して同温度で2時間保持した後、冷却し、平均粒径40nmの粉体を得た。また同様に噴霧して得た粉体を、600℃まで1時間かけて昇温し、同温度で30分保持した後、冷却し、平均粒径72nmの粉体を得た。これらの粉体はX線回折測定により、LiMnで示される活物質であることが確認された。
【0026】
比較例3
ウレタン樹脂を含まない活物質形成溶液を用いた他は、実施例3と同様にして同様の組成の活物質を得た。400℃の炉内で噴霧して得た粉体を400℃で2時間保持して得た活物質の平均粒径は21nmであり、400℃の炉内で噴霧して得た粉体を、600℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は20nmであった。
【0027】
実施例4
酢酸リチウム二水和物10.2g、硝酸鉄(III)九水和物(熱分解開始温度180℃)40.4g、リン酸9.8g、ポリエチレングリコール1000(関東化学社製:硝酸鉄の熱分解開始温度における加熱重量減少率11重量%)2gを、水100g、メチルアルコール45gの混合溶媒に添加し、バイオシェーカーにより回転数200rpmで70℃にて1時間攪拌して活物質形成溶液を調製した。この溶液をるつぼに入れ、4%の水素を含んだ窒素ガスでパージした焼成炉中で、室温から1時間かけて200℃に昇温し、同温度で1時間保持した。次いで、500℃まで1時間かけて昇温し、500℃で30分間保持した。その後、60℃まで冷却して粉体を得た。上記と同様の活物質形成溶液を同様にして焼成炉内で室温から1時間かけて200℃に昇温し、200℃で1時間保持した後、600℃まで1時間かけて昇温し、同温度で30分間保持して冷却し、粉体を得た。これらの粉体をX線回折測定したところ、いずれもLiFePOで示される活物質であることが確認された。得られた活物質の粒径を測定したところ、200℃で1時間保持した後、500℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は40nmであり、200℃で1時間保持した後、600℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は70nmであった。
【0028】
比較例4
ポリエチレングリコール3000を含まない活物質形成溶液を用いた他は、実施例4と同様にして同様の組成の活物質を得た。200℃で1時間保持した後、500℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は10nmであり、200℃で1時間保持した後、600℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は12nmであった。
【0029】
実施例5
硝酸リチウム6.9g、塩化ニッケル(II)六水和物(熱分解開始温度200℃)23.8g、ポリエチレングリコール20000(関東化学社製:塩化ニッケルの熱分解開始温度における加熱重量減少率2重量%)5gを、水:エチルアルコール(2:1)の混合溶媒150gに添加し、バイオシェーカーにより回転数200rpmで70℃にて5時間攪拌し、その後、2時間室温で保持したものを活物質形成溶液とした。活物質形成溶液を、酸素99.9%ガスでパージした400℃に加熱した炉内にスプレー装置(ノードソン社製)により噴霧して粉体を得た。得られた粉体を冷却した後、酸素99.9%ガスでパージした焼成炉に入れ、600℃まで1時間かけて昇温して同温度で1時間保持した後、冷却し、平均粒径159nmの粉体を得た。また同様に噴霧して得た粉体を、450℃まで1時間かけて昇温し、同温度で30分保持した後、冷却し、平均粒径56nmの粉体を得た。これらの粉体はX線回折により、LiNiOで示される活物質であることが確認された。
【0030】
比較例5
ポリエチレングリコールを含まない活物質形成溶液を用いた他は、実施例5と同様にして同様の組成の活物質を得た。400℃の炉内で噴霧して得た粉体を600℃で1時間保持して得た活物質の平均粒径は22nmであり、400℃の炉内で噴霧して得た粉体を、450℃で1保持して得た活物質の平均粒径は26nmであった。
【0031】
実施例6
酢酸リチウム二水和物10.2g、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)(マツモト交商社製チタン錯体、商品名TC400:熱分解開始温度300℃)58.4gを、水:メチルアルコール(2:1)混合溶媒120gに添加し、更にポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製、PEO1:TC400の熱分解開始温度における加熱重量減少率91重量%)10gを加え、70℃にてバイオシェーカーにより回転数200rpmで5時間攪拌し、その後、2時間室温で保持したものを活物質形成溶液とした。活物質形成溶液を、酸素99.99%ガスでパージした400℃に加熱した炉内にスプレー装置(ノードソン社製)により噴霧して粉体を得た。得られた粉体を冷却した後、酸素99.99%ガスでパージした焼成炉に入れ、550℃まで1時間かけて昇温して同温度で30分保持した後、冷却し、平均粒径67nmの粉体を得た。また同様に活物質形成溶液を加熱炉内に噴霧して得た粉体を、600℃まで1時間かけて昇温し、同温度で30分保持した後、冷却し、平均粒径82nmの粉体を得た。これらの粉体はX線回折により、LiTi12で示される活物質であることが確認された。
【0032】
比較例6
ポリエチレンオキサイド1を含まない活物質形成溶液を用いた他は、実施例6と同様にして同様の組成の活物質を得た。400℃の炉内で噴霧して得た粉体を550℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は28nmであり、400℃の炉内で噴霧して得た粉体を、600℃で1保持して得た活物質の平均粒径は25nmであった。
【0033】
実施例7
酢酸リチウム二水和物10.2g、硝酸コバルト(II)六水和物(熱分解開始温度200℃)29gを、水100gとメチルアルコール20gを混合した混合溶媒に添加し、更にポリエチレングリコール400(関東化学社製:硝酸コバルトの熱分解開始温度における加熱重量減少率95重量%)2gを加え、バイオシェーカーにより回転数200rpmで70℃にて5時間攪拌し、その後、2時間室温で保持したものを活物質形成溶液とした。活物質形成溶液をるつぼに入れ、大気圧雰囲気の焼成炉中で、室温から1時間かけて200℃に昇温し、200℃で1時間保持した。次いで、550℃まで1時間かけて昇温し、550℃で30分間保持した。その後、60℃まで冷却して粉体を得た。上記と同様の活物質形成溶液を同様にして焼成炉内で室温から1時間かけて200℃に昇温し、200℃で1時間保持した後、600℃まで1時間かけて昇温し、同温度で30分間保持して冷却し、粉体を得た。これらの粉体をX線回折測定したところ、いずれもLiCoOで示される活物質であることが確認された。得られた活物質の粒径を測定したところ、200℃で1時間保持した後、550℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は154nmであり、200℃で1時間保持した後、600℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は223nmであった。
【0034】
比較例7
ポリエチレングリコールを含まない活物質形成溶液を用いた他は、実施例7と同様にして同様の組成の活物質を得た。200℃で1時間保持した後、550℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は33nmであり、200℃で1時間保持した後、600℃で30分保持して得た活物質の平均粒径は37nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属化合物と、遷移金属化合物と、遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満である高分子物質とを含む活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱することを特徴とする電極活物質の製造方法。
【請求項2】
高分子物質が、遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満であるセルロース系高分子、ポリアルキレングリコール、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルより選ばれた1種又は2種以上である請求項1記載の電極活物質の製造方法。
【請求項3】
活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の高温雰囲気中に噴霧して加熱する請求項1又は2記載の電極活物質の製造方法。
【請求項4】
活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱した後、更に高い温度で加熱する請求項1〜3のいずれかに記載の電極活物質の製造方法。
【請求項5】
活物質形成溶液を、遷移金属化合物の熱分解開始温度以上、600℃以下の温度で加熱する請求項1〜4のいずれかに記載の電極活物質の製造方法。

【公開番号】特開2011−210536(P2011−210536A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77110(P2010−77110)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】