説明

電極用バインダー樹脂組成物、電極合剤ペースト、及び電極

【課題】水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れ、電池環境下でも膨潤度が小さく、また優れた靱性を有する、電極用バインダー樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が、前記ポリアミック酸のカルボキシル基に対して0.8倍当量以上の、置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類と共に、水溶媒中に均一に溶解してなる電極用バインダー樹脂組成物。


化学式(1)において、Aは芳香族テトラカルボン酸に基づく基であり、芳香族ジアミンに基づく基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用バインダー樹脂組成物を用いたリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタなどの電気化学素子の電極用のバインダー樹脂組成物に関する。
この電極用バインダー樹脂組成物は、有機溶媒を用いたポリイミド前駆体溶液組成物に較べて環境適応性が高いので好適である。しかも、この電極用バインダー樹脂組成物を用いて得られる芳香族ポリイミドは、高い結晶性を有し、したがって耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの優れた特性を有するため、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタなどの電気化学素子の電極用のバインダー樹脂組成物として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られる芳香族ポリイミドは、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れるために、電気電子産業分野などで広く用いられている。しかし、芳香族ポリイミドは有機溶媒への溶解性が悪いので、通常は、ポリイミド前駆体のポリアミック酸を有機溶媒に溶解した溶液組成物を、例えば基材表面上に塗布し、次いで高温で加熱して脱水閉環(イミド化)させることで芳香族ポリイミドを得ている。このように有機溶媒を用いることや高温での加熱処理が必要なことから環境面で必ずしも好適ではなく、場合によっては用途が限定されることもあった。
【0003】
このため、水溶性ポリイミド前駆体が提案されている。例えば、特許文献1には、有機溶媒中で得られたポリアミド酸を加水分解した後で水中に投入してポリアミド酸粉末を得、そのポリアミド酸粉末をさらに温水中で粉砕したり洗浄したりした後で、2−メチルアミノジエタノールなどの特定のアミン化合物と混合して水溶性ポリアミド酸塩を得ることが提案されている。しかし、この水溶性ポリアミド酸塩からなるポリイミド前駆体組成物は、高分子量化し難く、また得られるポリイミドの特性にも改良の余地があった。さらに、ここで提案された水溶性ポリイミド前駆体は、マルチチップモジュール、薄膜磁気ヘッド、半導体装置などの電子装置の絶縁層を形成するワニスとして好適に用いられるものであった。
【0004】
特許文献2には、有機溶媒中で得られたポリアミック酸と1,2−ジメチルイミダゾ−ル及び/又は1−メチル−2−エチルイミダゾ−ルとの反応混合物から分離取得した水溶性ポリイミド前駆体が提案されている。しかし、この水溶性ポリイミド前駆体は、有機溶媒中で水溶性ポリイミド前駆体を調製後、分離することによって得られる。得られた水溶性ポリイミド前駆体は水溶媒に溶解されて水溶液組成物が得られるが、有機溶媒中で調製された水溶性ポリイミド前駆体から有機溶媒を完全に除去できない(完全に除去しようとして加熱処理するとイミド化が起こり溶解性がなくなる)ために、水溶液組成物中に有機溶媒が同伴するなどの問題があった。さらに、ここで提案された水溶性ポリイミド前駆体は、得られるポリイミドが非結晶性で熱融着性を有しており、有機あるいは無機繊維製の織物あるいは不織布の結合剤として好適に用いられるものであった。
【0005】
すなわち、これらの文献には、ポリイミド前駆体水溶性組成物を用いてリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタなどの電気化学素子の電極を製造することについては記載がなかった。
【0006】
一方、非特許文献1には、電解液に対する電極用のバインダー樹脂の膨潤度が小さいほど充放電サイクルに伴う放電容量保持率が高くなるので好ましいことが示されている。
【0007】
さらに、非特許文献2では、リチウム電池内における電解液の還元分解反応が解析されており、電極表面でメトキシリチウムなどが生成することが確認されている。すなわち、電池環境下では、電解液中に強アルカリ性でバインダー樹脂に悪影響を与える可能性があるメトキシリチウムが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−59832号公報
【特許文献2】特開2002−226582公報
【0009】
【非特許文献1】日立化成テクニカルレポート第45号(2005年7月)
【非特許文献2】吉田浩明他、リチウム電池用炭酸エステル混合電解液の分解反応、第35回電池討論会 講演要旨集、日本、電気化学協会電池技術委員会、1994年11月14日、p.75−76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れ、電池環境下でも膨潤度が小さく、また優れた靱性を有する、好ましくは高分子量であって水溶媒が水以外の有機溶媒を含まない、電極用バインダー樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、特に以下の各項に関する。
【0012】
1. テトラカルボン酸成分とジアミン成分とが反応して得られる、下記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が、前記ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して1.6倍モル以上のイミダゾール類と共に、水溶媒中に溶解してなる電極用バインダー樹脂組成物。
【0013】
【化1】

化学式(1)において、Aは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、Bは25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上である芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基である。
【0014】
2. Aが、下記化学式(2)〜(7)のいずれか或いはそれらの混合物であることを特徴とする前記項1に記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
3. 置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類が、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、及び1−メチル−4−エチルイミダゾールからなる群から選択されるイミダゾール類であることを特徴とする前記項1または2に記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【0022】
4. 化学式(1)のBが、下記化学式(8)〜(9)或いはそれらの混合物であることを特徴とする前記項1〜3のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【0023】
【化8】

【0024】
【化9】

【0025】
5. 対数粘度が0.2以上であることを特徴とする前記項1〜4のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【0026】
6. 水溶媒が、水以外の有機溶媒を含まないことを特徴とする前記項1〜5のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【0027】
7. 加熱処理して得られるバインダー樹脂が、25℃で24時間ジメチルカーボネートに浸漬したときの質量増加が2.0質量%以下であることを特徴とする前記項1〜6のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【0028】
8. 電極活物質と前記項1〜7のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物とを含む電極合剤ペースト。
【0029】
9. 電極活物質が炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、またはケイ素若しくはスズを含む合金粉末であることを特徴とする前記項8に記載の電極合剤ペースト。
【0030】
10. 前記項8または9に記載の電極合剤ペーストを集電体上に塗布し、加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより得られることを特徴とする電極。
【0031】
11. 加熱処理温度が250℃以下であることを特徴とする前記項10に記載の電極。
【0032】
12. リチウムイオン二次電池用負極であることを特徴とする前記項10または11に記載の電極。
【発明の効果】
【0033】
本発明によって、水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れ、電池環境下でも膨潤度が小さく、また優れた靱性を有する、好ましくは高分子量であって水溶媒が水以外の有機溶媒を含まない、電極用バインダー樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物を構成するポリアミック酸は、前記化学式(1)で表される繰返し単位からなる。
【0035】
化学式(1)のAは、テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であって、好ましくは前記化学式(2)〜(7)或いはそれらの混合物であり、さらに好ましくは前記化学式(2)〜(4)或いはそれらの混合物であり、特に好ましくは前記化学式(2)〜(3)或いはそれらの混合物である。すなわち、本発明で用いるポリアミック酸のテトラカルボン酸成分は、2〜3個の芳香族環を有するテトラカルボン酸類(テトラカルボン酸、その二無水物或いはエステル化物など)であって、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸類、4,4’−オキシジフタル酸類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸類、p−ターフェニルテトラカルボン酸類、m−ターフェニルテトラカルボン酸類など、及びそれらの混合物を好適に例示することができる。これら以外のテトラカルボン酸成分を用いると、水溶性のポリイミド前駆体を得るのが難しくなったり、得られるポリイミドの結晶性が低下して高い特性が得られなくなったりする場合がある。
【0036】
前記化学式(1)のBは、芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であって、好ましくは1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であって、前記芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上のものである。すなわち、本発明で用いるポリアミック酸の芳香族ジアミン成分は、芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であって、好ましくは1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンあって、前記芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上のものである。
芳香族ジアミンが2個を越える芳香族環を持つ場合には、通常芳香族ジアミン分子中に複数の屈曲性が高い結合が含まれるので、その様な芳香族ジアミンから得られる芳香族ポリイミドは結晶性が低下して高い特性を得ることが難しくなる。
また、芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上であることは、電極用バインダー樹脂組成物を得るために特に必要な特性であって、水に対する溶解度が0.1g/L未満では、均一に溶解した電極用バインダー樹脂組成物を得るのが難しくなるので好ましくない。
【0037】
本発明で用いる芳香族ジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン(25℃おける水に対する溶解度は120g/L、以下同様)、m−フェニレンジアミン(77g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.19g/L)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.24g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.54g/L)、2,4−トルエンジアミン(62g/L)、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(1.3g/L)、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン(200g/L)などを例示できる。これらの芳香族ジアミンは単独でも混合物としても好適に用いることができる。なお、これらの水に対する溶解度が高い芳香族ジアミンと他の芳香族ジアミンとを組み合わせて、芳香族ジアミン成分全体として25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上になるようにして用いることもできる。
これらの芳香族ジアミンでは、水溶性が高く、得られるポリイミドの結晶性が高くて優れた特性を得ることができるので、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの混合物が好ましく、さらにp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの混合物がより好ましい。
なお、25℃おける水に対する溶解度は、当該物質が、25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクトなどのベータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994−2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0038】
本発明で用いる置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類(化合物)は、好ましくは下記化学式(7)の化合物が好適である。
【0039】
【化10】

化学式(7)において、X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、或いは炭素数が1〜5のアルキル基であって、X〜Xのうち少なくとも2個は炭素数が1〜5のアルキル基である。
【0040】
置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類は水に対する溶解性が高いので、それらを用いることによって、ポリイミド前駆体組成物を容易に製造することができる。これらのイミダゾール類としては、1,2−ジメチルイミダゾール(25℃における水に対する溶解度は239g/L、以下同様)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(1000g/L)、4−エチル−2−メチルイミダゾール(1000g/L)、及び1−メチル−4−エチルイミダゾール(54g/L)などが好適である。
なお、25℃おける水に対する溶解度は、当該物質が、25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクトなどのベータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994−2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0041】
本発明で用いる置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類の使用量は、ポリアミック酸のカルボキシル基に対して0.8倍当量以上、好ましくは1.0倍当量以上、より好ましくは1.2倍当量以上であることが好適である。イミダゾール類の使用量がポリアミック酸のカルボキシル基に対して0.8倍当量未満では、均一に溶解した電極用バインダー樹脂組成物を得るのが難しくなるので好ましくない。また、イミダゾール類の使用量の上限は特に限定されないが、通常は10倍当量未満、好ましくは5倍当量未満、より好ましくは3倍当量未満である。イミダゾール類の使用量が多過ぎると、非経済的になるし、且つ組成物の保存安定性が悪くなることがある。
本発明において、イミダゾール類の量を規定するポリアミック酸のカルボキシル基に対する倍当量とは、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基1個に対して何個(何分子)の割合でイミダゾール類を用いるかを表している。なお、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基の数は、原料のテトラカルボン酸成分1分子当たり2個のカルボキシル基が形成するものとして計算される。
【0042】
本発明で用いるイミダゾール類の特徴は、ポリアミック酸のカルボキシル基と塩を形成して水に対する溶解性を高めるだけでなく、さらにポリイミド前駆体をイミド化(脱水閉環)してポリイミドにする際に、極めて高い触媒的な作用を有することにある。この結果、本発明の電極用バインダー樹脂組成物を用いると、例えばより低温且つ短時間の加熱処理によっても、容易に極めて高い物性を有する芳香族ポリイミドを得ることが可能になる。
【0043】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物は、特許文献1,2などの方法に準じ、
(i) 有機溶媒を反応溶媒とし、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応して得られたポリアミド酸を水中に投入してポリアミド酸粉末を得、そのポリアミド酸粉末を水溶媒中でイミダゾール類(好ましくは2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類)と共に混合溶解して水溶液組成物を得る方法、
(ii) 有機溶媒を反応溶媒とし、イミダゾール類(好ましくは2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類)の存在下にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応して水溶性ポリイミド前駆体を得、それを分離後、水溶媒に溶解する方法、或いは、
(iii) 有機溶媒を反応溶媒とし、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応してポリアミック酸を得、そのポリアミック酸を、有機溶媒を反応溶媒として、イミダゾール類(好ましくは2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類)と反応して水溶性ポリイミド前駆体を得、それを分離後、水溶媒に溶解する方法
などでも得ることができる。但し、前述の通り、有機溶媒の含有量が極めて少ない、さらには有機溶媒を含まないポリイミド前駆体水溶液組成物を得るためには、ポリイミド前駆体を有機溶媒中で調製することは好ましくない。
【0044】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物は、好ましくは、水を反応溶媒として、置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを反応することによって、極めて簡便に(直接的に)製造することが可能である。
【0045】
この反応は、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分を略等モル用い、イミド化反応を抑制するために100℃以下好ましくは80℃以下の比較的低温で行なわれる。限定するものではないが、通常の反応温度は、25℃〜100℃、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは50℃〜80℃であり、反応時間は0.1〜24時間程度、好ましくは2〜12時間程度が好適である。反応温度及び反応時間を前記範囲内とすることによって、生産効率よく高分子量の電極用バインダー樹脂組成物を容易に得ることができる。なお、反応は、空気雰囲気間でも構わないが、通常は不活性ガス好ましくは窒素ガス雰囲気下で好適に行われる。
また、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分を略等モルとは、具体的にはモル比[テトラカルボン酸成分/ジアミン成分]で0.90〜1.10程度、好ましくは0.95〜1.05程度である。
【0046】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物においては、ポリイミド前駆体(実質的にポリアミック酸)に起因する固形分濃度に基づいて温度30℃、濃度0.5g/100mL(水溶解)で測定した対数粘度が0.2以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上または超の高分子量であることが好適である。対数粘度が前記範囲よりも低くい場合には、ポリイミド前駆体の分子量が低いことから、本発明の電極用バインダー樹脂組成物を用いても、高い特性の芳香族ポリイミドを得ることが難しくなることがある。
【0047】
「水を反応溶媒として」とは、溶媒の主成分として水を用いることを意味する。したがって、本発明の電極用バインダー樹脂組成物は、水溶媒を用いるが、水以外のポリアミック酸を調製する際に用いられる公知の有機溶媒を全溶媒中50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で用いてもよい。なお、ここで言う有機溶媒には、テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸成分、ジアミン成分、ポリアミック酸等のポリイミド前駆体、及びイミダゾール類は含まれない。
【0048】
前記有機溶媒とは、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m−クレゾール、フェノール、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0049】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法においては、環境適応性が高いので、反応溶媒が、有機溶媒の含有量が5%未満である溶媒であることが好ましく、水以外の有機溶媒を含まない水溶媒であることが特に好ましい。反応溶媒の組成は、製造するポリイミド前駆体水溶液組成物の所望の溶媒組成に応じて適宜選択することができ、ポリイミド前駆体水溶液組成物の所望の溶媒組成と同一であることが好ましい場合がある。
【0050】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物は、ポリイミド前駆体(実質的にポリアミック酸)に起因する固形分濃度が、限定されないが、ポリイミド前駆体と溶媒との合計量に対して、好ましくは5質量%〜45質量%、より好ましくは7質量%〜40質量%、さらに好ましくは10質量%超〜30質量%であることが好適である。固形分濃度が5質量%より低いと著しく生産性が悪くなることがあり、45質量%より高いと溶液の流動性がなくなることがある。また本発明の電極用バインダー樹脂組成物の30℃における溶液粘度は、限定されないが、好ましくは1000Pa・sec以下、より好ましくは0.5〜500Pa・sec、さらに好ましくは1〜300Pa・sec、特に好ましくは3〜200Pa・secであることが取り扱い上好適である。
溶液粘度が1000Pa・secを超えると、流動性がなくなるため集電箔などへの均一な塗布が困難となり、また、0.5Pa・secよりも低いと、集電箔などへの塗布時にたれやハジキなどが生じるので好ましくなく、また高い特性の芳香族ポリイミドを得ることが難しくなることがある。
【0051】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物は、通常は加熱処理によって水溶媒を除去するとともにイミド化(脱水閉環)することによって好適に芳香族ポリイミドを得ることができる。加熱処理条件は、特に限定されないが、概ね100℃以上、好ましくは120℃〜600℃、より好ましくは150℃〜500℃で、0.01時間〜30時間、好ましくは0.01〜10時間である。
本発明の電極用バインダー樹脂組成物を用いて得られる芳香族ポリイミドの特性は、比較的低温(例えば150℃〜300℃、好ましくは200℃〜280℃)で加熱処理しただけで、通常の有機溶媒を用いた電極用バインダー樹脂組成物に較べて遜色なく、好適には、例えば金属との接着性が高いというような優れた特性を発揮することができる。
【0052】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物は、前記のような加熱処理によって得られたポリイミド樹脂が、ジメチルカーボネートに25℃で24時間浸漬したときに、その質量増加が好ましくは3重量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下になるので、電池用バインダー樹脂組成物として好適に用いることができる。
【0053】
なお、ジメチルカーボネートは電池の電解液成分として多用される化合物であり、電池環境下ではしばしばメトキシリチウムが生成する。また、電解液中で電解液による膨潤によってバインダー樹脂の質量増加(25℃で24時間浸漬時の膨潤率)が5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であれば電極の体積変化の影響を好適に抑えることができる。本発明の電極用バインダー樹脂組成物から得られたポリイミド樹脂は、メトキシリチウムを含有した電解液中でも、質量増加(25℃で24時間浸漬時の膨潤率)が好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0054】
本発明の電極用バインダー樹脂組成物に、少なくとも電極活物質を、限定するものではないが、好ましくは10℃〜60℃の温度範囲で混合することにより、電極合剤ペーストを好適に調製することができる。電極活物質は公知のものを好適に用いることができるが、リチウム含有金属複合酸化物、炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、またはケイ素若しくはスズを含む合金粉末が好ましい。電極合剤ペースト中の電極活物質の量は、格別限定されないが、通常、ポリアミック酸に起因する固形分質量に対して、質量基準で0.1〜1000倍、好ましくは1〜1000倍、より好ましくは5〜1000倍、さらに好ましくは10〜1000倍である。活物質量が少なすぎると、集電体に形成された活物質層に不活性な部分が多くなり、電極としての機能が不十分になることがある。また、活物質量が多すぎると活物質が集電体に十分に結着されずに脱落し易くなる。なお、電極合剤ペースト中には、必要に応じて界面活性剤や粘度調整剤や導電補助剤などの添加剤を加えることができる。また、ポリアミック酸に起因する固形分がペーストの全固形分中の1〜15質量%となるよう混合することが好ましい。この範囲外では電極の性能が低下することがある。
【0055】
充放電により可逆的にリチウムイオンを挿入・放出できる例えばリチウム含有金属複合酸化物のような電極活物質を用いて得られる電極合剤ペーストを、アルミニウムなどの導電性の集電体上に流延あるいは塗布して、80〜400℃、より好ましくは120〜380℃、特に好ましくは150〜350℃の温度範囲で加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより電極を得ることができる。
加熱処理温度が前記の範囲外の場合、イミド化反応が十分に進行しなかったり、電極成形体の物性が低下したりすることがある。加熱処理は発泡や粉末化を防ぐために多段で行ってもよい。また、加熱処理時間は3分〜48時間の範囲が好ましい。48時間以上は生産性の点から好ましくなく、3分より短いとイミド化反応や溶媒の除去が不十分となることがあり好ましくない。
得られる電極はリチウムイオン二次電池の正極として特に好適に用いることができる。
【0056】
また、充放電により可逆的にリチウムイオンを挿入・放出できる例えば炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、またはケイ素若しくはスズを含む合金粉末のような電極活物質を用いて得られる電極合剤ペーストを、銅などの導電性の集電体上に流延あるいは塗布する場合、80〜300℃、より好ましくは120〜280℃、特に好ましくは150〜250℃の温度範囲で加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより電極を得ることができる。加熱処理温度が80℃よりも低い場合、イミド化反応が十分に進行せずに電極成形体の物性が低下することがある。300℃よりも高い温度で熱処理すると銅が変形などをしてしまい、電極として使用できなくなることがある。この場合も加熱処理は発泡や粉末化を防ぐために多段で行ってもよい。また、加熱処理時間は3分〜48時間の範囲が好ましい。48時間以上は生産性の点から好ましくなく、3分より短いとイミド化反応や溶媒の除去が不十分となることがあり好ましくない。
得られる電極はリチウムイオン二次電池の負極として特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0058】
以下の例で用いた特性の測定方法を以下に示す。
<固形分濃度>
試料溶液(その質量をw1とする)を、熱風乾燥機中120℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で30分間加熱処理して、加熱処理後の質量(その質量をw2とする)を測定する。固形分濃度[質量%]は、次式によって算出した。
固形分濃度[質量%]=(w2/w1)×100
【0059】
<対数粘度>
試料溶液を、固形分濃度に基づいて濃度が0.5g/dl(溶媒は水)になるように希釈した。この希釈液を、30℃にて、キャノンフェンスケNo.100を用いて流下時間(T)を測定した。対数粘度は、ブランクの水の流下時間(T)を用いて、次式から算出した。
対数粘度={ln(T/T)}/0.5
【0060】
<溶液粘度(回転粘度)>
トキメック社製E型粘度計を用いて30℃で測定した。
【0061】
<ポリイミドフィルムサンプルの作成>
得られた電極用バインダー樹脂組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、熱風乾燥器に入れて、80℃で30分間、120℃で30分間、200℃で10分間、次いで250℃で10分間加熱処理して、厚さが25μmのポリイミドフィルムを形成した。このポリイミドフィルムを用いて特性を評価した。
【0062】
<機械的特性(引張試験)>
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して引張試験を行い、引張弾性率、引張破断伸び、引張破断強度を求めた。
【0063】
<膨潤試験>
電極用バインダー樹脂組成物から得られたポリイミドフィルムを5cm角(厚さ:25μm)に切り出したものを試料として用いた。60℃で24時間真空乾燥後の質量を乾燥質量(Wd)とし、DMC溶液、或いはメトキシリチウムの10質量%メタノール溶液に、25℃で24時間浸漬後の質量を膨潤質量(Ww)とし、それぞれ次式により膨潤率Sを計算した。
S[質量%]=(Ww−Wd)/Ww×100
【0064】
<ガラス転移温度測定>
TAインスツルメンツ(株)製 固体粘弾性アナライザー RSAIII(圧縮モード 動的測定、周波数62.8rad/sec(10Hz)、歪量はサンプル高さの3%に設定)を用い、雰囲気窒素気流中、−140℃から450℃まで温度ステップ3℃で、各温度到達後30秒後に測定を行ない次の温度に昇温して測定を繰り返す方法で、損失弾性率(E'')の極大点を求め、その温度をガラス転移点(Tg)として求めた。
【0065】
以下の例で使用した化合物の略号について説明する。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
a−BPDA:2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PPD:p−フェニレンジアミン(25℃における水に対する溶解度:120g/L、以下同様)
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.19g/L)
MPD:m−フェニレンジアミン(77g/L)
BAPP:2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(0.000019g/L)
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(0.0018g/L)
1,2−DMZ:1,2−ジメチルイミダゾ−ル
2E4MZ:2−エチル−4−メチルイミダゾール
2MZ:2−メチルイミダゾ−ル
DBU:1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0066】
〔実施例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、25℃で12時間撹拌して、固形分濃度9.0質量%、溶液粘度16.3Pa・s、対数粘度0.95の電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得た。
得られた電極用バインダー樹脂組成物及び電極用バインダーポリイミドについて、その特性を表1に示した。
【0067】
また、得られた電極用バインダー樹脂組成物8.89g(イミド化後の固形分質量0.8g)と300メッシュのケイ素粉末9.2gを乳鉢中で磨り潰すように混練し、電極合剤ペーストを調製した。得られたペーストは、ガラス棒で銅箔上に薄く延ばすことが可能であった。ペーストを塗布した銅箔を基板上に固定し、窒素雰囲気下で、120℃で1時間、200℃で10分、220℃で10分、250℃で10分加熱することにより、活物質層の厚みが100μmの電極を好適に作成することができた。
【0068】
〔実施例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、50℃で8時間撹拌して、固形分濃度9.1質量%、溶液粘度35.5Pa・s、対数粘度1.25の電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得た。
得られた電極用バインダー樹脂組成物及び電極用バインダーポリイミドについて、その特性を表1に示した。
【0069】
また、得られた電極用バインダー樹脂組成物を実施例1と同様に処理して、電極を好適に作成することができた。
【0070】
〔実施例3〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.1質量%、溶液粘度63.0Pa・s、対数粘度1.86の電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得た。
得られた電極用バインダー樹脂組成物及び電極用バインダーポリイミドについて、その特性を表1に示した。
【0071】
また、得られた電極用バインダー樹脂組成物を実施例1と同様に処理して、電極を好適に作成することができた。
【0072】
〔実施例4〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、2E4MZの34.23g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.6質量%、溶液粘度10.3Pa・s、対数粘度0.64の電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得た。
得られた電極用バインダー樹脂組成物及び電極用バインダーポリイミドについて、その特性を表1に示した。
【0073】
また、得られた電極用バインダー樹脂組成物を実施例1と同様に処理して、電極を好適に作成することができた。
【0074】
〔実施例5〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの10.97g(0.055モル)及びPPDの5.92g(0.055モル)と、1,2−DMZの20.43g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの16.12g(0.055モル)及びODPAの16.99g(0.055モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.1質量%、溶液粘度6.5Pa・s、対数粘度0.50の電極用バインダー樹脂組成物水溶液組成物を得た。
得られた電極用バインダー樹脂組成物及び電極用バインダーポリイミドについて、その特性を表1に示した。
【0075】
また、得られた電極用バインダー樹脂組成物を実施例1と同様に処理して、電極を好適に作成することができた。
【0076】
〔実施例6〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの14.86g(0.074モル)及びPPDの3.44g(0.032モル)と、1,2−DMZの20.43g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの21.83g(0.074モル)及びODPAの9.87g(0.032モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.0質量%、溶液粘度5.2Pa・s、対数粘度0.46の電極用バインダー樹脂組成物水溶液組成物を得た。
得られた電極用バインダー樹脂組成物及び電極用バインダーポリイミドについて、その特性を表1に示した。
【0077】
また、得られた電極用バインダー樹脂組成物を実施例1と同様に処理して、電極を好適に作成することができた。
【0078】
〔実施例7〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの20.25g(0.101モル)と、1,2−DMZの24.31g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの29.75g(0.101モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.7質量%、溶液粘度32.0Pa・s、対数粘度0.42の電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得た。
得られた電極用バインダー樹脂組成物及び電極用バインダーポリイミドについて、その特性を表1に示した。
【0079】
また、得られた電極用バインダー樹脂組成物を実施例1と同様に処理して、電極を好適に作成することができた。
【0080】
〔実施例8〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにMPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.9質量%、溶液粘度13.5Pa・s、対数粘度0.75の電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得た。
得られた電極用バインダー樹脂組成物及び電極用バインダーポリイミドについて、その特性を表1に示した。
【0081】
また、得られた電極用バインダー樹脂組成物を実施例1と同様に処理して、電極を好適に作成することができた。
【0082】
〔比較例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの17.92g(カルボキシル基に対して0.75倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0083】
〔比較例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、2MZの25.50g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0084】
〔比較例3〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、DBUの47.29g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0085】
〔比較例4〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにBAPPの29.13g(0.071モル)と、1,2−DMZの17.05g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの20.87g(0.071モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0086】
〔比較例5〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにTPE−Rの24.92g(0.085モル)と、1,2−DMZの20.49g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にa−BPDAの25.08g(0.085モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0087】
〔比較例6〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの23.93g(0.120モル)と、1,2−DMZの28.73g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にPMDAの26.07g(0.120モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0088】
〔比較例7〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにTPE−Rの24.26g(0.083モル)と、2E4MZの22.86g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にODPAの25.74g(0.083モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0089】
〔比較例8〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの8.94g(0.083モル)と、ODAの11.03g(0.055モル)と、1,2−DMZの33.10g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にPMDAの30.03g(0.138モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、電極用バインダー樹脂組成物水溶液を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によって、水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れ、電池環境下でも膨潤度が小さく、また優れた靱性を有する、好ましくは高分子量であって水溶媒が水以外の有機溶媒を含まない、電極用バインダー樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とが反応して得られる、下記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が、前記ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して1.6倍モル以上のイミダゾール類と共に、水溶媒中に溶解してなる電極用バインダー樹脂組成物。
【化1】

化学式(1)において、Aは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、Bは25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上である芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基である。
【請求項2】
Aが、下記化学式(2)〜(7)のいずれか或いはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【請求項3】
置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類が、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、及び1−メチル−4−エチルイミダゾールからなる群から選択されるイミダゾール類であることを特徴とする請求項1または2に記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【請求項4】
化学式(1)のBが、下記化学式(8)〜(9)或いはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【化8】

【化9】

【請求項5】
対数粘度が0.2以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【請求項6】
水溶媒が、水以外の有機溶媒を含まないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【請求項7】
加熱処理して得られるバインダー樹脂が、25℃で24時間ジメチルカーボネートに浸漬したときの質量増加が2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物。
【請求項8】
電極活物質と請求項1〜7のいずれかに記載の電極用バインダー樹脂組成物とを含む電極合剤ペースト。
【請求項9】
電極活物質が炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、またはケイ素若しくはスズを含む合金粉末であることを特徴とする請求項8に記載の電極合剤ペースト。
【請求項10】
請求項8または9に記載の電極合剤ペーストを集電体上に塗布し、加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより得られることを特徴とする電極。
【請求項11】
加熱処理温度が250℃以下であることを特徴とする請求項10に記載の電極。
【請求項12】
リチウムイオン二次電池用負極であることを特徴とする請求項10または11に記載の電極。

【公開番号】特開2012−207196(P2012−207196A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154930(P2011−154930)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】