説明

電極用炭素織物及びその製造方法

【課題】有機繊維から成る織物を焼成して得た炭素織物であって、医療用電極の導電層に用いることのできる電極用炭素織物を提供する。
【解決手段】人体に電気エネルギーを供給する医療用電極の導電層に用いられる電極用炭素織物において、該電極用炭素織物が、絹織物を焼成して得た炭素織物によって形成されており、前記炭素織物を構成する炭素繊維の単糸密度が330本/in2以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極用炭素織物及びその製造方法に関し、更に詳細には人体に電気エネルギーを供給する医療用電極の導電層に用いられる電極用炭素織物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓停止した際に、心臓に電気ショックを与える除細動器具には、図1に示す医療用電極10が用いられている。
この図1に示す医療用電極10では、絶縁シート14として、一面側が粘着面に形成された絶縁シート14を用い、図2に示す様に、絶縁シート14の粘着面に載置したリード線12の先端部12aを、絶縁シート14の粘着面に載置した導電層18の一面側との間に挟み込み。導電層18の他面側からハトメ20及び座金22によって固定している。このハトメ20及び座金22は、絶縁性で且つ遮水性の接着シート24によって覆われている。この導電層18は、絶縁シート14の粘着面に載置されたリング状シート26によって囲まれている。
更に、導電層18の他面側には、導電層18と略同一径の導電性のゲル層28が接着されている。このゲル層28は、自身の粘着性によって導電層18に接着している。
かかるゲル層28はカバーシート30によって覆われているが、このカバーシート30はゲル層28の保護等のために用いられており、図1及び図2に示す医療用電極10を用いるときには、ゲル層28から剥がすものである。
ところで、図1及び図2に示す医療用電極10の導電層18には、炭素織物を用いることが、下記特許文献1に提案されている。
【特許文献1】特開2004−329478号公報(特許請求の範囲、[0010])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図1及び図2に示す医療用電極10の導電層18に用いる電極用炭素織物は、従来、アクリル樹脂や石油ピッチ等から成る有機繊維を焼成して得た炭素繊維から成る炭素繊維糸を織製して形成しているが、この炭素繊維糸を織製して電極用炭素織物を形成することは、導電層18の製造工程を複雑化し、医療用電極10の製造コストも高くなる。
このため、有機繊維から成る織物を焼成して得た炭素織物を、電極用炭素織物に用いることができれば、医療用電極10の製造コストの低減を図ることが期待できる。
そこで、本発明の課題は、有機繊維から成る織物を焼成して得た炭素織物であって、医療用電極の導電層に用いることのできる電極用炭素織物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記課題を解決するには、絹織物を焼成して得た炭素織物を用いることが有利であると考え検討したところ、通常の絹織物を焼成して得た炭素織物では、電気抵抗値が充分に低くならず電極用炭素織物には使用できないことが判明した。
本発明者は、絹織物を焼成して得た炭素織物の電気抵抗値を低下させるべく検討したところ、炭素織物の単位面積当たりの単糸数(以下、単糸密度と称することがある)が、炭素織物の電気抵抗値と関係していることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、人体に電気エネルギーを供給する医療用電極の導電層に用いられる電極用炭素織物において、該電極用炭素織物が、絹織物を焼成して得た炭素織物によって形成されており、前記炭素織物を構成する炭素繊維の単糸密度が330本/in2以上であることを特徴とする電極用炭素織物にある。
かかる電極用炭素織物の電気抵抗値としては、100Ω/m以下とすることが好ましい。
【0005】
また、本発明は、人体に電気エネルギーを供給する医療用電極を形成する導電層に用いられる電極用炭素織物を製造する際に、該電極用炭素織物を、単糸密度が220本/in2以上の絹織物を焼成して形成することを特徴とする電極用炭素織物の製造方法にある。
これらの本発明において、焼成する絹織物として、3本以上の単糸が撚られた多本撚糸を用いて織製した絹織物、或いは綾織又はタッサー織の絹織物を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る電極用炭素織物は、炭素織物を構成する炭素繊維の単糸密度が所定以上となるように、炭素繊維が密に織り込まれている。このため、電極用炭素織物の電気抵抗値を低下させることができる。
更に、この炭素織物は、絹織物を焼成して得た炭素織物を用いるため、炭素繊維糸を織製して形成する場合に比較して、その製造コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る電極用炭素織物は、その炭素織物を構成する炭素繊維の単糸密度が330本/in2以上とすることが大切である。このことを、図3に示すグラフに示す。図3のグラフでは、その横軸に炭素織物の単糸密度(本/in2)を示し、縦軸には炭素織物の電気抵抗値(Ω/m)を示した。この電気抵抗値は、炭素織物の経糸方向又は緯糸方向で単糸密度が相違する場合には、単糸密度の高い方向に10mm幅の短冊状に切断して測定した値である。
図3に示すグラフから明らかな様に、単糸密度が300(本/in2)を越えた炭素織物の電気抵抗値は急激に低下し、単糸密度が330本/in2以上の炭素織物では、その電気抵抗値を100Ω/m以下とすることができる。特に、単糸密度が360本/in2以上の炭素織物では、その電気抵抗値を70Ω/m以下とすることができる。
【0008】
かかる炭素繊維は、絹織物を焼成することによって得ることができる。この絹織物でも、単糸密度が220本/in2以上の絹織物を焼成することが必要である。このことを、図4のグラフに示す。図4に示すグラフは、その横軸に絹織物の単糸密度(本/in2)を示し、縦軸には絹織物を焼成して得た炭素織物の電気抵抗値(Ω/m)を示した。この電気抵抗値も、図3の電気抵抗値の測定と同様な方法で測定した。
図4から明らかな様に、単糸密度が200(本/in2)を越えた絹織物を焼成して得た炭素織物の電気抵抗値は急激に低下し、単糸密度が210本/in2以上の絹織物を焼成して得た炭素織物では、その電気抵抗値を100Ω/m以下とすることができる。特に、単糸密度が260本/in2以上の絹織物を焼成して得た炭素織物では、その電気抵抗値を70Ω/m以下とすることができる。
【0009】
この様に、単糸密度が高密度の絹織物は、3本以上の単糸が撚られた多本撚糸を用いて織製することによって得ることができる。
ここで、2本の単糸が撚られた双糸を用いて織製した図5に示す平織の絹織物では、その単糸密度を260本/in2以上とすることは困難である。平織においては、経糸と緯糸とが略同一太さで且つ経糸と緯糸との交差点が多いため、経糸と緯糸とが固定され易く、双糸程度では絹織物の単糸密度を充分に高くすることが困難であると考えられる。
これに対し、図6に示すタッサー織では、経糸と緯糸との太さが相違するため、経糸と緯糸との交差点において、経糸と緯糸とが固定され難く、絹織物の単糸密度を充分に高くすることができる。
また、経糸と緯糸との交差点数が、図5に示す平織よりも少なくなる、図7に示す綾織及び図8に示す朱子織では、経糸及び緯糸に同一太さの双糸を用いても、平織よりも単糸密度を高くできる。
【0010】
かかる絹織物の焼成は、絹織物を耐熱容器に載置した状態で、1000〜3000℃の高温下で、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、或いは真空中で行う。この際に、急激な焼成を避け、複数段に分けて焼成を行うことが好ましい。
例えば、第1次焼成温度である500℃まで、100℃/hr以下、特に50℃/hr以下の緩やかな昇温速度で昇温し、第1次焼成温度に到達してから数時間保持して1次焼成を施す。次いで、一旦常温まで冷却した後、第2次焼成温度である700℃まで、100℃/hr以下、特に50℃/hr以下の緩やかな昇温速度で昇温し、第2次焼成温度に到達してから数時間保持して2次焼成を施す。その後、一旦常温まで冷却した後、同様にして第3次焼成温度が2000℃である第3次焼成を施す。この様にして得られた炭素織物は、黒色の艶のある柔軟なものである。
【0011】
得られた炭素織物を用いて図1に示す医療用電極10を製造する際には、得られた炭素織物を所定形状に成形して図2に示す導電層18を形成する。
次いで、一面側が粘着面に形成した絶縁シート14の粘着面に載置したリード線12の先端部12aを、絶縁シート14の粘着面に載置した導電層18の一面側との間に挟み込み、導電層18の他面側からハトメ20及び座金22によって固定した。このハトメ20及び座金22は、絶縁性で且つ遮水性の接着シート24によって覆う。更に、導電層18の側面を囲む様に、絶縁シート14の粘着面にリング状シート26を載置する。
この導電層18の他面側に、導電層18と略同一径の導電性のゲル層28を接着することによって、図1に示す医療用電極10を得ることができる。
このゲル層28は、自身の粘着性によって導電層18に接着している。かかる導電性ゲル層28としては、イオン交換水等の水、メトキシフェノール等の重合禁止剤、TBAS等の重合モノマー、モノエタノールアミン等のpH調整剤及びメチレンビスアクリルアミド等の架橋剤を混合した後、ベンゾインエチルエーテル等の重合開始剤を添加して重合反応を生じさせて製造できる。
尚、このゲル層28をカバーシート30によって覆うが、医療用電極10を用いるときには、ゲル層28から剥がす。
【実施例1】
【0012】
(1)絹織物の織製
織機を用いて下記表1の絹織物を織製した。
【表1】

(2)炭素織物の製造
表1に示す絹織物の各々を窒素ガス雰囲気中で焼成した。この焼成条件としては、第1次焼成温度である500℃まで、50℃/hrの緩やかな昇温速度で昇温し、第1次焼成温度に到達してから数時間保持して1次焼成を施し、一旦常温まで冷却した後、第2次焼成温度である700℃まで、50℃/hrの緩やかな昇温速度で昇温し、第2次焼成温度に到達してから数時間保持して2次焼成を施した。
次いで、一旦常温まで冷却した後、同様にして第3次焼成温度が2000℃である第3次焼成を施した後、常温まで冷却した。
【0013】
(3)炭素織物の電気抵抗値の測定
得られた炭素織物の各々の経糸側及び緯糸側の糸本数を、マイクロスコープを用いて数え、各炭素織物の単糸密度を測定した。測定した単糸密度の結果を下記表2に示す。
更に、炭素織物の電気抵抗値について、炭素織物の経糸方向又は緯糸方向のうち、単糸密度の高い方向に10mm幅の短冊状に切断して測定した値である。測定した電気抵抗値について表2に併せて示した。
【表2】

表1に示す絹織物の単糸密度に比較して、表2に示す炭素織物の単糸密度が高くなっている。このことは、絹織物の焼成の際に、熱収縮が発生しているものと考えられる。
また、表2から明らかな様に、単糸密度が300(本/in2)を越えた炭素織物の電気抵抗値は急激に低下し、単糸密度が332本/in2の炭素織物では、その電気抵抗値が91Ω/mとすることができる。特に、単糸密度が364本/in2の炭素織物では、その電気抵抗値を62Ω/mとすることができる。
更に、表1及び表2から明らかな様に、単糸密度が222(本/in2)の絹織物を焼成して得た炭素織物では、その電気抵抗値を91Ω/m以下とすることができる。特に、単糸密度が267.2本/in2の絹織物を焼成して得た炭素織物では、その電気抵抗値を62Ω/mとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電極用炭素織物を用いた医療用電極を説明する斜視図である。
【図2】図1に示す医療用電極の組立図である。
【図3】炭素織物の単糸密度と電気抵抗値との関係を示すグラフである。
【図4】絹織物の単糸密度と焼成して得られた炭素織物の電気抵抗値との関係を示すグラフである。
【図5】織物の織組織の一種である平織を説明する説明図である。
【図6】織物の織組織の一種であるタッサー織を説明する説明図である。
【図7】織物の織組織の一種である綾織を説明する説明図である。
【図8】織物の織組織の一種である朱子織を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0015】
10 医療用電極
12 リード線
12a リード線の先端部
14 絶縁シート
18 導電層
26 リング状シート
28 導電性ゲル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に電気エネルギーを供給する医療用電極の導電層に用いられる電極用炭素織物において、
該電極用炭素織物が、絹織物を焼成して得た炭素織物によって形成されており、前記炭素織物を構成する炭素繊維の単糸密度が330本/in2以上であることを特徴とする電極用炭素織物。
【請求項2】
電極用炭素織物の電気抵抗値が、100Ω/m以下である請求項1記載の電極用炭素織物。
【請求項3】
焼成する絹織物の単糸密度が220本/in2以上である請求項1又は請求項2記載の電極用炭素織物。
【請求項4】
焼成する絹織物が、3本以上の単糸が撚られた多本撚糸を用いて織製した絹織物である請求項1〜3のいずれか一項記載の電極用炭素織物。
【請求項5】
焼成する絹織物の織り組織が、綾織又はタッサー織である請求項1〜3のいずれか一項記載の電極用炭素織物。
【請求項6】
人体に電気エネルギーを供給する医療用電極を形成する導電層に用いられる電極用炭素織物を製造する際に、
該電極用炭素織物を、単糸密度が220本/in2以上の絹織物を焼成して形成することを特徴とする電極用炭素織物の製造方法。
【請求項7】
焼成する絹織物として、3本以上の単糸が撚られた多本撚糸を用いて織製した絹織物を用いる請求項6記載の電極用炭素織物の製造方法。
【請求項8】
焼成する絹織物として、綾織又はタッサー織の絹織物を用いる請求項6記載の電極用炭素織物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−233384(P2006−233384A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51968(P2005−51968)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】