説明

電極用白金クラスター及びその製造方法

【課題】
白金溶液を本発明は、より小さいサイズの白金微粒子、出きればサブナノメーターの白金クラスターを高分散で担持した電極用白金クラスター、及び電極用白金クラスターを製造する方法を提供する。
【解決手段】
グラフェンを含む炭素材料に担持された白金(Pt)粒子において、白金(Pt)粒子のサイズ(粒子径)が1nm以下であることを特徴とする電極用白金クラスター及び白金粒子を合成する前駆体である白金溶液と、グラフェン、もしくはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させるプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンからなる炭素材料とを混合し、次いで白金溶液中の溶媒を蒸発させ、300から500℃で1〜10時間、還元雰囲気中で熱処理を行う電極用白金クラスターの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池やキャパシタなどに用いられる電極用白金クラスターの合成方法に関するものであり、より詳細には、グラフェンと呼ばれるグラファイトから剥離される単原子層グラファイトを利用して、白金粒子はグラフェン表面に分散して担持され、その直径、または最大径が1nm 以下である1ナノメートル(1nm)以下の大きさの白金粒子を合成することができる電極用白金クラスター及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は高いエネルギー変換効率を有したデバイスであり燃料電池自動車や定置型発電装置として産業利用が期待されている。反面、電極には白金担持炭素電極を用いるため高価であり、また燃料には純粋な水素しか用いることが出来ない欠点がある。他方、炭素材料は燃料電池の電極材料として長く用いられてきたが、ナノ構造炭素材料が高活性を実現することが近年明らかになってきておりカーボンナノチューブ(CNT)やグラファイトなどが盛んに研究されている(非特許文献1〜3参照)。
さらに最近グラファイトを1枚1枚単原子層ずつ剥がしたグラフェンが合成出きるようになり、その高い機能性に注目が集まっている。これらのグラフェンを用いたリチウム二次電池材料の研究などが今年になって産総研から発表されている。
燃料電池電極はナノサイズの白金微粒子を高比表面積のカーボン材料に担持したものを用いるが、白金の使用量が多いため高価なことと改質ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)による被毒により電極性能が直ちに劣化してしまうためCO濃度が約10ppm 以下の高純度の水素しか燃料に使えない欠点があるため、より小さいサイズの白金微粒子、出きればサブナノメーターの白金クラスターを高分散で担持した電極触媒が出きれば燃料電池の低コスト化が図れる。
【非特許文献1】M.D.Stoller et al., Nano Letters 2008, on line
【非特許文献2】EunJoo Yoo et al., Nano Letters 2008, 8, 2277
【非特許文献3】S. Stankovich et al., Nature 2006, 442, 282
【非特許文献4】EunJoo Yoo et al., Nano Letters 2008, 8, 2277
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
白金溶液を本発明は、より小さいサイズの白金微粒子、出きればサブナノメーターの白金クラスターを高分散で担持した電極用白金クラスター、及び電極用白金クラスターを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、鋭意研究を続け、白金溶液とグラフェンまたはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させたプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンと混合し、溶媒を除去して、300から500℃で1〜10時間、還元雰囲気中で熱処理を行うことにより、白金(Pt)粒子のサイズ(粒子径)が1nm以下で、グラフェンを含む炭素材料に担持された白金(Pt)粒子が得られることを見出し、この白金クラスターが燃料電池や大容量キャパシター等の電極用白金クラスターとしてきわめて有用であることを見出した。

すなわち、本発明は、グラフェンを含む炭素材料に担持された白金(Pt)粒子において、白金(Pt)粒子のサイズ(粒子径)が1nm以下であることを特徴とする電極用白金クラスターである。
また、本発明においては、白金(Pt)粒子が、純粋な白金(Pt)、もしくは
一般式 PtM
(式中、M はルテニウム(Ru)、金(Au), 銀(Ag), パラジウム(Pd), ロジウム(Rh), オスミウム(Os), イリジウム(Ir) または遷移金属から選ばれる元素である)
で表される白金系粒子である電極用白金クラスターである。
さらに本発明は、グラフェンを含む炭素材料が、グラフェン、もしくはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させるプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンからなる炭素材料を含む電極用白金クラスターとすることができる。
また本発明は、前記のグラフェンを含む炭素材料において、グラフェンを含む炭素材料を酸化することにより、水溶性化したグラフェンを含む炭素材料を用いることができる。
さらに本発明は、白金クラスターが安定構造を有し、一般式 (Pt)n (式中、nは1〜1000の整数である)で表される安定構造白金クラスターを、グラフェンを含む炭素材料に担持させたことを特徴とする電極用白金クラスターである。
また本発明は、グラフェンまたはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させたプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンからなる炭素材料の表面に担持することにより、白金粒子の大きさを1ナノメートル(1nm)以下の大きさに制御することを特徴とする電極用白金クラスターにおける白金粒子の制御方法である。
さらに本発明は、白金粒子を合成する前駆体である白金溶液と、グラフェン、もしくはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させるプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンからなる炭素材料とを混合し、次いで白金溶液中の溶媒を蒸発させ、300から500℃で1〜10時間、還元雰囲気中で熱処理を行う電極用白金クラスターの製造方法である。
また、本発明の電極用白金クラスターの製造方法においては、白金溶液が、ジニトロアンミン白金エタノール溶液であり。還元雰囲気が水素を含むアルゴン気流とすることができる。

【発明の効果】
【0005】
本発明によればグラフェンと呼ばれる新しい炭素材料を用いることによりサブナノメーターの白金粒子、さらに詳しくは1nm以下のサイズの白金粒子を炭素材料の表面に安定に担持出きる電極用白金クラスターを作り出せ、以下に挙げるような様々な利点が生じる。
(1) 白金粒子はそのサイズが小さいほど比表面積が大きくなるため白金原子の利用効率が向上し使用白金量の低減が可能となる。これは燃料電池に応用すれば電極材料のコスト低減が図れる。
(2) 実施例に記載したように1nm以下の(白金粒子)白金クラスターにおいては通常のナノメーターサイズの白金粒子より高活性が得られた。例えばメタノール酸化特性は現在燃料電池電極として通常使われている白金/活性炭電極触媒よりも優れておりアノード過電圧が小さいこと、酸化電流値が大きいことなどから高活性なメタノール電極であることが判明している。
(3)さらに実施例に記載したように1nm以下の白金クラスターにおいては耐CO特性も優れていることが判明した。さらにまた、これらの非常に小さいサイズの白金粒子ではCO 被毒特性は現在燃料電池電極として通常使われている白金/活性炭電極触媒よりもはるかに優れており約40 倍の活性向上が見られた。すなわち40倍長い時間触媒特性を持続していることが判明した。
本発明においてはグラフェンを担体として用いたために、従来の合成方法では不可能であったサイズ1nm以下の白金粒子を安定的に合成でき優れた電極活性を実現できた。上記(1)〜(3)の電極触媒特性を用いれば高性能な燃料電池の開発が可能となった。すなわち使用白金量の低減が可能となり低コスト型の燃料電池電極が可能となる。またメタノール燃料電池の高出力化・高寿命化が可能となる。また耐CO 特性にも優れた電極特性を有するため改質ガス燃料を用いた燃料電池においては耐被毒特性・高寿命特性の燃料電池セルの設計が可能となり、また改質システムの簡素化と改質触媒材料の簡略化による低コスト化が図れる。また、これまで耐CO 電極としては白金ルテニウム合金触媒のような高価貴金属のルテニウムを用いた触媒材料が主流であったが、サブナノメーターの白金粒子を用いればルテニウムを用いない安価な耐CO電極触媒が開発でき、電極材料の低コスト化が図れる。
本発明の好ましい実施形態によれば、従来の白金電極に比して使用量1/10以下の極低使用量の白金電極を用いて高い耐CO 被毒特性の電極の開発が可能となる。すなわち改質ガスを燃料に用いながら低コスト型燃料電池が実現する。これを用いては、産業界に燃料電池の大きな普及効果が期待できる。また本発明における白金粒子の高いメタノール活性を利用すれば高出力型メタノール燃料電池の開発が可能となり移動体型電源としてノートパソコンや車椅子電源など様々な分野で広い普及が期待できる。
本発明の実施形態によれば、グラフェンの表面状態を制御することによって、担持される白金粒子の大きさの制御が可能である。すなわち0.2nm-2nmの範囲で粒子径の揃った白金粒子の担持が可能である。またこれらの白金粒子は白金クラスターとも言える特殊な構造を有した白金原子の集合体であり(Pt)n で記載される構造においてその構成原子数nを10-1000個程度の数で決定される所謂クラスター物質として安定的にグラフェン表面に固定化出きる。このような白金クラスター物質の安定的な合成と高い電極触媒活性は始めて見出されたものであり従来発見されてこなかった新しい触媒材料と見ることができる。これらのクラスター構造を制御することによりさらに優れた燃料電池電極を作製することも可能である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いるグラフェン、もしくはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させるプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンは、図1 (a), (b) に示したように数枚から20枚程度の単原子層グラフェンが重なったシート状の炭素材料であり、典型的には厚さ2-10nm 程度、幅1-5ミクロン程度の平面シート状のカーボンフィルムである。グラファイトとの大きな違いは一回単原子層ずつ剥がしてから再度積層化しているため膜垂直方向、すなわち積層方向に規則性が無いことが特徴である。グラファイト結晶では単原子層グラファイトがABCABCと3回ごとに同じ位置に来る六方晶構造を取り、グラフェン間の重なり具合は完全な規則性を有している。さらにグラフェン間の距離も厳密に一定(0.335nm)の面間距離を有している。他方、層状グラフェンにおいてはグラフェン単原子層シートがランダムに重なっているため面間距離は一定でなく、図1(b)から判るようにグラファイトに比べて増大していることが判明している。 産総研の研究により積層数が少なくなることにより面間隔が増加していることが判明し、最大20%もの面間距離が生じることが明らかとなっている(非特許文献4参照)。図1(c)には層状グラフェンの写真を載せてあるが柔軟なシート構造を有しているため結晶グラファイトと異なりどのような構造形態でも取ることが出きるカーボン材料である。
本発明者は、このような層状グラフェンの構造的特徴を生かして、従来にない特性を発揮する白金クラスター電極を表面に担持することができることを見出したものである。


【0007】
本発明では図1(a),(b)に示したようにサブナノメーターの白金クラスターがグラフェンシート状に担持された新規な電極材料の合成に成功した。数枚の単原子層グラフェンが積層していることが判る。グラフェンの面間距離はグラファイトと比べて増加している。
図1(c),(d)
グラフェンに担持したサブナノメーターサイズの白金粒子。1nm 以下のサイズの白金クラスターが多数観察される。
この新しく合成した白金/グラフェン電極では触媒電極の白金のサイズは1nm以下の非常に小さいサイズのクラスターでありこれまで燃料電池電極として用いられている数(2-4)nm サイズの白金粒子と比較して約1/10のサイズの非常に小さいクラスター状物質である。また、合成時に400℃の温度で焼成したにもかかわらず粒成長せずサブナノメーターサイズで安定的にグラフェンシート表面に固定されていることからグラフェン表面と強く相互作用しているものと推察される。すなわち白金原子がグラフェンと共有結合を作り表面拡散などしない程度に強く結合しているため、このような小さくても安定な白金超微粒子が固定されたものと考えられる。実際、これらの電極触媒活性を(1)現在燃料電池電極として広く使われている白金/活性炭電極(Pt/VC-X;市販のもの)、(2)高活性な白金ルテニウム合金触媒/炭素(PtRu/C)、と耐CO特性を比較した。これらの3つのサンプルの比較検討からグラフェン担持の白金触媒は通常のカーボン電極に担持した(1)のサンプルと比較して約1桁以上活性が向上した。すなわちCO被毒条件下で約40倍長い時間水素酸化活性が持続していることが判明した。すなわちグラフェンシートを用いてサブナノメーターのサイズの白金触媒を担持した電極においては通常の白金電極触媒より約40倍の活性向上が見出された。また、ルテニウムのような高価希少金属を用いないでも耐CO 特性を向上させることが出きるため燃料電池電極の低コスト化を実現することが出きる。
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
(電極用白金クラスターの作成)
本発明のグラフェンに担持されたサブナノメーター以下のサイズの白金粒子の合成を示す合成手順図を表1に示す。
【表1】

層状グラフェンの粉末状サンプルは以下の合成法にて作製した。
まずグラファイト結晶(0.2g)を用意して、これに硝酸ナトリウム(NaNO3: 0.16g)を混合する。この混合粉末を硫酸中で酸化した後、さらに過マンガン酸カリウム(KMnO4; 12.42g)で酸化させる。この溶液を冷却した後室温にて5日間攪拌する。さらに過酸化水素(H2O2)で酸化することにより酸化グラフェンシートを作製する。この段階では完全に酸化されたグラフェンが作製されており、単原子層の酸化グラフェンシートが解けたゾル溶液が作製される。薄い黄色の溶液が生成する。次にヒドラジン(Hydrazine hydrate)にて24時間室温で還元処理を行う。還元処理により酸化グラフェンはグラフェンとなり水には溶解しないため溶液の底部に沈殿物として回収される。最後にこの黒色の沈殿物を分離し洗浄、乾燥してグラフェンの粉末状試料を作製する。
白金粒子を合成する前駆体はジニトロアンミン白金エタノール溶液を用いて、この前駆体溶液を粉末状のグラフェンと混合し加熱の後、溶媒を蒸発させる。その後10%の水素を含むアルゴン気流中で400℃で2 時間熱処理を行いグラフェン上に白金粒子を担持させた。

【実施例2】
【0009】
(電極用白金クラスターの作成とその評価)
<電極の作成>
電極の作成は1mgの白金クラスターを担持したグラフェン材料をナフィオン-メタノール混合溶液500μlに混ぜ、超音波をかけ分散し、白金クラスターを担持したグラフェン材料とナフィオン膜との複合体を含んだ触媒インクを作成する。その後、触媒インク10μlをグラッシーカーボン電極上に滴下し空気中で乾燥させた。電気化学測定は通常の電気化学セルを用いてメタノール活性および耐CO特性を測定した。測定はすべて常温で行った。

<電極の評価>
次にこれらのグラフェン上に担持されたサブナノメーターのサイズ、すなわち1nm 以下のサイズの白金粒子の電極触媒活性を評価するためメタノール酸化活性とCOガスを不純物として含んだ水素酸化特性の評価を行った。また、本発明の白金粒子の電極特性の優位性を証明するため市販の燃料電池用白金/炭素電極、白金ルテニウム電極との活性比較も行った。

メタノール酸化反応の評価においては標準的仕様のガラス製の3極式電気化学セルを用いて、これに0.05M H2SO4 + 1M MeOH 溶液を用意しセル内に乾燥窒素(N2) ガスを導入して室温で測定した。ポテンシオ・ガルバノスタットを用いて酸化反応の分極特性をサイクリックボルタモグラム法にて評価し、酸化開始電位、酸化電流値、アノードスキャンとカソードスキャン時の酸化電流値の比較によりメタノール活性の比較を行った。さらに酸化電流の経時変化も測定し電極活性の持続状態の評価も行った。

次に耐CO特性の評価も行った。上記と同様に3極式電気化学セルを用いて一酸化炭素(CO)ガスのストリッピングの実験を行った。電解質として0.1MHClO4 を用いてポテンシオガルバノスタットを用いて室温で電気化学測定を行った。電気化学セル内に導入するガスとしては10 mol.% CO を含んだ水素ガス( 10mol.%CO/H2)を使用した。電気化学セルの作用極に本発明のグラフェンに担持した白金粒子電極を接着し、上記の被毒ガスとしてCOを含んだCO/H2ガスをセル内に導入し、その時間を2, 3, 10, 20, 30 秒、さらに1, 3, 5, 10, 15, 20 分と変えてガスを導入しつつ、各時間でサイクリックボルタモグラムをポテンシャル
領域0-1.2 V/ vs. RHEの範囲で測定した。白金表面に吸着したCOは約0.8V(vs.RHE)に酸化電流が現われるため、この測定により各時間における電極表面のCO吸着量が測定できる。従って吸着量の経時変化からCO被毒に対する白金電極の活性維持特性、すなわち耐CO特性を定量的に測定することが可能である。これらの耐CO特性を市販の燃料電池用白金/炭素電極、白金ルテニウム電極に対しても測定し本発明のサブナノメーター白金粒子との活性比較も行った。CO 吸着が起きると白金表面がCO分子に被覆された分、水素吸着サイトが減少するため水素酸化電流が減少する。これはサイクリックボルタモグラム測定においては約0.8V (vs.RHE)に現われるCO酸化電流ピークが増大するにつれ、0-0.3V(vs. RHE)領域に現われる水素酸化電流が次第に減少することを意味している。CO 吸着量が増大し白
金表面が完全にCO 分子に被覆されると(CO 被覆率100%)水素分子が吸着出来なくなるため水素酸化電流が完全に消失する。このときの水素酸化電流の総容量を測定すれば白金表面のCO被覆率を定量的に測定することができ、その被覆率のCOガス暴露に対する経時変化を測定すればCO被覆の反応定数が算出出きるため耐CO特性を定量的に評価できる。この耐CO特性の定量的評価を本発明のグラフェン上に担持したサブナノメーター白金粒子と市販の燃料電池用白金/炭素電極、白金ルテニウム電極との間で比較評価を行った。
尚、グラフェンに担持された白金粒子のサイズや形態、さらにはグラフェン表面上での分散状態に関しては透過型電子顕微鏡を用いて観察し、その構造的特徴を明らかにした。
【0010】
図2に示したのは本発明のグラフェンに担持された白金粒子のメタノール酸化特性、ならびに市販の燃料電池電極である白金/カーボン電極(Pt/XC, バルカンXC)、白金ルテニウム電極のメタノール酸化特性を比較したものである。サイクリックボルタモグラムで酸化電流のアノードスキャン、カソードスキャンをそれぞれ示してあるが、このときのアノードスキャンとカソードスキャンの電流比を表2に示す。
【表2】

まずこの測定結果から判ることは本発明のグラフェンに担持された白金粒子においてはこの比が市販の白金/カーボン燃料電池電極よりも大きいことである。この電流値の比はアノードスキャンにおいて酸化しきれず白金表面に残された吸着CO量を表しているので、この比の大きさは耐CO特性の指標である。従って本発明のグラフェンに担持された白金粒子が市販電極材料より高いCO 酸化特性、すなわち耐CO 特性を有していることが示された。この値の定量的な評価から本発明のグラフェンに担持された白金粒子は市販の白金/炭素電極より優れる反面、現在耐CO型電極として最も優れた白金ルテニウム(PtRu)より劣る電極触媒であることも判明した。

さらにメタノール酸化の開始電位を見てみると同様に市販の白金/炭素電極より低い電位から酸化電流が観測され、現在用いられている市販白金電極より高いメタノール活性を有していることが判明した。
【0011】
また図3はメタノール酸化の分極曲線を示しているが、図に示したように3つの電極で同一電位(0.6V, va.RHE)でのメタノール酸化電流を比較したところ市販白金/炭素電極よりグラフェンに担持した白金電極では約1桁以上酸化電流値が大きく高いメタノール活性を有していることが判明した。サブナノメーターサイズの小さい白金クラスターの存在が高いメタノール活性の原因であると推察される。しかしながら白金ルテニウムよりは低い活性を示すことも明らかとなった。
【0012】
図4に示したのはメタノール活性の経時変化を調べたものであるが電位を0.6V(vs. RHE)に保ったまま2000秒まで電流値を測定した結果、市販白金/炭素電極より大きな電流値を保ち続け、高活性を有していることが判明した。メタノール酸化を開始してから1500 秒後の電流値はグラフェンに担持された白金粒子では0.12mA/cm2 であるのに対して白金/炭素電極では 0.028mA/cm2 であるので約4倍の活性を有していることが判明した。
今回調査した3種類の白金電極の電位0.6V (vs.RHE)におけるメタノール酸化電流値の比較とメタノール酸化電流密度が0.056 mA/cm2になる電位を比較し表3に示す。
【表3】

市販の白金/炭素電極はその電流値に達する電位が0.59V (vs. RHE)であるのに対してグラフェンに担持された白金粒子では0.47V (vs. RHE)であるので市販電極に比してより低い電位からメタノールが酸化される高活性電極であることが示された。他方、いずれの場合においても白金ルテニウムよりは低い活性であることも明らかとなった。

【実施例3】
【0013】
本発明のグラフェンに担持された白金粒子の耐CO特性を評価した。
比較対象として活性炭(ケッチャンブラック)に担持した白金粒子の耐CO特性も評価した。
耐CO特性評価は電気化学セルを用いて、0.1M HClO4を電解液にCOガスを含んだ水素ガス(水素ガス中のCO 濃度は10%のものを用いた: 10%CO/H2 )を導入し白金電極の電気化学的活性をサイクリックボルタムグラムにて測定した。CO の被毒時間としてそれぞれ2, 3, 10, 20, 30秒、さらに1, 3, 5, 10, 15, 20分間CO を電気化学セルの中に導入して白金電極を被毒させた後、サイクリックボルタモグラムを測定した。これにより、もし白金表面にCO が吸着していれば約0.8V(vs. RHE)付近に吸着COの酸化ピークが観測されるが、このピーク強度により吸着CO量が評価できる。各被毒時間の吸着CO量を測定することによりCOの吸着速度定数を求めることが出きるので、本発明のグラフェンに担持された白金粒子の耐CO特性が従来の白金電極と比べて優れているかどうか比較検討できる。
代表的な白金電極触媒として活性炭に担持された試料を比較対象としたが、さらに耐CO電極として優れている白金ルテニウム合金電極(PtRu/CB)も測定し、これらの合金型電極触媒との耐CO特性の比較も行った。
【0014】
図5(a), (b), (c) に示したのは3つの電極材料のCO酸化ボルタモグラムである。図5(a)は白金電極のCO 吸着時間によるボルタモグラムの変化であるが、わずか2秒のCO被毒においても0.8V (vs. RHE)付近に明瞭なCO酸化ピークが観測され直ちに白金表面がCO に被毒されていることが判る。他方、図5(b)は本発明のグラフェンに担持された白金粒子の各CO 被毒時間におけるサイクリックボルタモグラムを示しているが10秒程度の被毒時間では明瞭なCO 酸化ピークが観測されないことが判明した。表面吸着CO量が増大し明瞭なCO酸化ピークが観測され始めるのは被毒後3分以降であり、これはグラフェンに担持された白金粒子は通常の白金触媒と比べてCOに被毒されにくくなっていることを示している。すなわち担持しているカーボンの構造により耐CO 特性が大きく変化していることが判明した。単原子層グラファイトであるグラフェンではその構造的・電子的特徴から担持されている白金粒子の耐CO特性を大きく向上させることが出きる。他方、これまで最も耐CO特性に優れている白金ルテニウム(PtRu)電極ではCO被毒時間が1分程度まで明瞭なCO 酸化ピークは観測されず本発明のグラフェンに担持された白金粒子よりやや優れた耐CO特性を有している。従って本発明のグラフェンに担持された白金粒子は現在耐CO 特性の最高性能の白金ルテニウム電極には劣るものの従来の活性炭に担持された白金電極よりは格段に優れた耐CO 特性を有していることが判明した。
【0015】
図6(a), (b), (c) には耐CO特性のデータを詳しく解析した結果を示した。図6(a)は通常の白金電極、グラフェンに担持された白金粒子と白金ルテニウム電極のそれぞれ30 秒、10 分、20 分間、CO を吸着させたときのサイクリックボルタモグラムを示す。白金ルテニウムはCO酸化の開始電位が低く約0.5V(vs.RHE)から酸化電流が観測され高いCO酸化活性が確認された。他方、グラフェンに担持された白金粒子は通常の白金電極とほぼ同じ約0.7V(vs. RHE)から 酸化電流が観測されるが約0.05Vほど低い電位から酸化が始まるのと、ピークの形状が非対称であり低電位側にショルダーピークが現われる。すなわち、このショルダー側の酸化ピークは通常の白金より高い活性を示し活性炭に担持された白金より低電位からCOを酸化が始まることを示している。またピークの形状から2種類の白金粒子が存在していることも推察される。すなわち通常の白金粒子と類似の活性を示す白金粒子とより高い活性を示す白金粒子の2種類の触媒が共存している可能性が示唆される。図6(b)には白金粒子表面のCO 被覆率の時間依存性を3種類の電極材料に対して整理したものであるが、COの被毒時間に対して白金、グラフェンに担持された白金粒子、白金ルテニウムの各電極材料のCO被覆率(Coverage)をプロットした。このデータから判るようにグラフェンに担持された白金粒子では通常の白金粒子に比べてCO 被覆されるまでの時間が長く耐CO 特性に優れていることが判明した。このデータを基に解析を行いCO の吸着速度定数を求めた。図6(c)にはCO 吸着時間に対して被覆されていない表面の割合の対数をプロットすることにより吸着速度定数を求め、3つの電極材料の耐CO特性を定量的に求めた結果を示した。このデータから判るようにグラフェンに担持された白金粒子では白金に比べて明らかに対CO 特性が優れていることが判明した。速度定数の値から40倍の耐CO特性を有していることが明らかとなった。同一組成である白金材料を用いながらも40倍もの高い電極活性を示したのは驚きである。グラフェンの構造を利用してこれまで合成されたことの無いサイズの小さなクラスター物質がグラフェン表面に担持されていることが原因と考えられる。

またこれまで最も優れている耐CO 電極である白金ルテニウムと比べても約1/2の耐CO特性を有していることが判明した。高価なルテニウムを用いずとも約1/2に迫る高い活性と耐CO 特性の白金電極が作製されていることが判明した。このような白金単体組成を用いて、このような非常に高い耐CO特性を出した例は始めてである。担体であるグラフェンの構造がこれまで 用いられてきたグラファイトや活性炭と異なるため白金粒子のサイズや形態が異なることが一因と考えられる。またグラフェンの電子状態は他のカーボン材料と異なるためこれに担持されている白金の電子状態にも影響を与える可能性がある。電子的要因で担持されている白金粒子の活性が向上したことも原因の可能性がある。

【実施例4】
【0016】
このような高い耐CO 特性を有する本発明のグラフェンに担持された白金粒子のサイズや形態はどのようなものであるか透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観測した。構造観察することにより耐CO特性の構造的要因を明らかにすることが出来るからである。
図7(a),
(b)はこれらの燃料電池白金電極において、それぞれグラフェンに担持された白金クラスターと通常の活性炭に担持された白金粒子の透過型電子顕微鏡観察像と観測された白金粒子のサイズ分布を示した。どちらも白金担持量は20wt.%である。TEM 観察像から明らかなようにグラフェンの上に担持された白金は約2nmを中心として1nm以下のサブナノメーターの白金粒子から7nmの比較的大きな白金粒子までサイズ分布している。他方、通常の白金電極は同様に2nmを中心として 1nm〜3nm までサイズ分布している。このことから2つのサンプルの間では平均粒径が約2nm程度の白金粒子からなる電極であることは類似しているがグラフェンに担持された白金電極においてはサブナノメーターの白金粒子が存在していることが大きな相違点として挙げられる。両者の間で耐CO 特性は大きく異なるためこのサブナノメーター白金粒子の存在がその高いCO酸化活性の原因ではないかと考えられる。実際、図8にはさらに高倍率で観測した本発明のグラフェンに担持された白金粒子のTEM 観察像を示した。右側のTEM写真は組成を強調したHAADF観察像を示した。このTEM像から判るように大きさ約2nm程度の白金粒子とともにサブナノメーターサイズの非常に小さい白金粒子が共存していることが判る。TEM 像からその大きさは0.4-0.6nm 程度であり白金のクラスターがグラフェン表面に固定されているような構造と推察できる。
これらのサブナノメーターサイズのクラスターはほぼ同様なサイズを有しており、特有の安定構造の白金粒子である可能性がある。従来の白金電極では、このようなサブナノメーターの白金粒子を安定的に固定化した例は無く、これらの非常に小さい白金触媒粒子の電極特性を測定した例は始めてである。グラフェンと白金特有の相互作用を利用して、従来の炭素材料では実現しなかった非常に小さい白金クラスターの合成が出来、それらは高い耐CO特性を有していることが判明した。

図9にはグラフェン上に担持された白金クラスターのX線回折パターンを示した。白金の結晶構造に由来する(111)面、(200) 面、 (220) 面、からの典型的な白金のX線反射ピークが観測され白金粒子が確かにグラフェン表面に担持されていることがこの結果からも確認される。比較のため、通常の白金電極(Pt/XC)、および白金ルテニウム電極のX線回折パターンも示した。

【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明にグラフェンに担持された白金粒子は高い耐CO 特性を有しているため高活性な燃料電池電極触媒として利用することが可能である。すなわち、従来型電極より高濃度のCOにさらされても高い電極活性を有することが期待できる。このような耐CO型電極は燃料水素中に含まれるCO濃度が高くても使用可能なため、改質器の簡素化、利用する触媒量の低減など燃料電池の低コスト化、簡素化を可能とするため燃料電池の導入を加速することが期待できる。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a) 透過型電子顕微鏡観察によるグラフェンの構造観察。柔軟な平面シート構造が観測される。 (b) 透過型電子顕微鏡観察によるグラフェンの断面構造。 (c)透過型電子顕微鏡観察による白金粒子像、(d)HAADF で白金原子を選択的に映し出した透過型電子顕微鏡観察による白金粒子像。
【図2】グラフェンに担持された白金粒子のメタノール酸化特性、ならびに市販の燃料電池電極である白金/カーボン電極(Pt/XC, バルカンXC)、白金ルテニウム電極のメタノール酸化特性の比較。
【図3】3つの異なる電極のメタノール酸化の分極曲線。
【図4】メタノール活性の経時変化。
【図5】3つの異なる電極材料のCO酸化ボルタモグラム (a) 活性炭に担持された通常の白金電極、(b) グラフェンに担持した白金クラスター電極、(c)白金ルテニウム電極
【図6(a)】図6(a)は通常の白金電極とグラフェンに担持された白金粒子さらに白金ルテニウム電極のそれぞれ30 秒、10 分、20 分間、CO を吸着させたときのサイクリックボルタモグラム。
【図6(b)】図6(b)にはCO 吸着時間に対しての白金粒子表面のCO 被覆率を3 種類の電極材料に対してプロットしたもの。
【図6(c)】図6(c)にはCO 吸着時間に対して被覆されていない表面の割合の対数をプロットすることにより吸着速度定数を求め、3つの電極材料の耐CO 特性を定量的に比較した結果を示した。
【図7】図7(a), (b)はグラフェンに担持された白金クラスターと通常の活性炭に担持された白金粒子の透過型電子顕微鏡観察像と観測された白金粒子のサイズ分布を示した。
【図8】高倍率で観測したグラフェンに担持された白金クラスターのTEM 観察像を示した。右側のTEM写真は組成を強調したHAADF観察像を示した。
【図9】グラフェンに担持された白金クラスターのX線回折パターンを示した。比較のため、通常の白金電極、および白金ルテニウム電極のX線回折パターンも示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンを含む炭素材料に担持された白金(Pt)粒子において、白金(Pt)粒子のサイズ(粒子径)が1nm以下であることを特徴とする電極用白金クラスター。
【請求項2】
前記の白金(Pt)粒子が、純粋な白金(Pt)、もしくは一般式PtM
(式中、M はルテニウム(Ru)、金(Au), 銀(Ag), パラジウム(Pd), ロジウム(Rh), オスミウム(Os), イリジウム(Ir) または遷移金属から選ばれる元素である)
で表される白金系粒子であることを特徴とする請求項1に記載した電極用白金クラスター。
【請求項3】
グラフェンを含む炭素材料が、グラフェン、もしくはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させるプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンからなる炭素材料を含む請求項1又は請求項2に記載された電極用白金クラスター。
【請求項4】
前記のグラフェンを含む炭素材料において、グラフェンを含む炭素材料を酸化することにより、水溶性化したグラフェンを含む炭素材料を用いることを特徴とする請求項1乃至3に記載された電極用白金クラスター。
【請求項5】
一般式 (Pt)n (式中、nは1〜1000の整数である)で表される安定構造白金クラスターを、グラフェンを含む炭素材料に担持させたことを特徴とする請求項1乃至4に記載された電極用白金クラスター。
【請求項6】
グラフェンまたはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させるプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンからなる炭素材料の表面に担持することにより、白金粒子の大きさを1ナノメートル(1nm)以下の大きさに制御することを特徴とする電極用白金クラスターにおける白金粒子の制御方法。
【請求項7】
白金粒子を合成する前駆体である白金溶液と、グラフェン、もしくはグラファイトから単原子層グラファイトを剥離させるプロセスにより合成されるグラフェンが複数重なった層状グラフェンからなる炭素材料とを混合し、次いで白金溶液中の溶媒を蒸発させ、300から500℃で1〜10時間、還元雰囲気中で熱処理を行う電極用白金クラスターの製造方法。
【請求項8】
白金溶液が、ジニトロアンミン白金エタノール溶液であり。還元雰囲気が水素を含むアルゴン気流であることを特徴とする請求項7に記載した電極用白金クラスターの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−129385(P2010−129385A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303041(P2008−303041)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合研究機構 個体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/高濃度CO耐性アノード触媒に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】