説明

電極用金属化フィルム

【課題】雨滴の吸引により、電極金属が腐食・劣化することで電極金属表面の疎水性が大きくなり電極金属が雨滴をはじくことで、2電極間に雨滴が入り込みにくくなり少量の降雨ではセンサが反応しにくくなることを防ぐことができる電極用金属化フィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも片面に金属薄膜が積層された金属化フィルムであって、前記金属薄膜表面に親水層が分散して被覆されてなり、任意に選択した1辺10mm×10mm□における前記金属薄膜表面に対する親水層の被覆率が0.1%〜10%であり、かつ、前記親水層が、円相当直径が3.56mm以下で分散して被覆されてなる電極用金属化フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルムの少なくとも片面に金属薄膜が積層された金属化フィルムであって、前記金属薄膜表面に親水層が分散して被覆されており、親水性と導電性を併せ持つことを特徴とする電極用金属化フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のワイパーなどに降雨検出センサはよく使用されている。
マイクロコンピュータの普及、発達に伴い、センサを用いた自動制御が盛んになり、信頼性が高く、多機能の高度な機能を有するセンサの要求が高くなっている。なかでも降雨に関するセンサの要望が高くなっている。その一方、現状の降雨検出センサにおいては種々の問題があり、開発が遅れているのが実態である。
【0003】
従来より、降雨検出センサとして電気抵抗式のものと圧電体式のものとが提供されている。電気抵抗式の降雨検出センサは絶縁体の基板上に基板の表面に沿って対向電極を設け、2電極間の電気抵抗の変化を測定するものであって、2電極間の電気抵抗が急激に小さくなることで、降雨によって2電極間に雨滴が付着したと判断するように構成されている。また、圧電体式の降雨センサは、圧電体に雨滴が当たる際の衝撃によって発生する電圧パルスを測定することによって降雨を検出するように構成されている。これらの降雨検出センサを用いれば雨の降り始めや雨の強さを検出することができる。
ただし、圧電体式の降雨検出センサは、外部振動を拾うことで誤作動を起こしやすいため、自動車などには電気抵抗式の降雨検出センサが好ましく用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−92943号公報
【特許文献2】特開平2−98657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気抵抗式の降雨検出センサ電極は屋外に設置することが多く、太陽光線による電極金属劣化が発生しやすい。また、降雨検出センサ電極に雨滴が直接接触するため、雨滴中の異物の付着や電極金属の腐食が発生することが多い。そのため、電極金属全体に金属めっきを施したり、導電性ペイントで電極金属を被覆したりするなどの耐候性表面処理を行ったり、ヒーターを使用し雨滴を乾燥させて雨滴による電極金属の腐食を抑制するなどの方法がとられていることが一般的である。
【0006】
しかし、電気抵抗式の降雨検出センサ電極金属全面に耐候性処理を行うことで、電極金属そのものの表面抵抗値が増加してしまい、2電極間に電流を流すための電圧値が大きくなり、センサを反応させるためのエネルギーロスが大きくなるなどの問題があった。
【0007】
そこで、降雨検出センサ電極の金属表面を剥き出しのままで、毛細管現象により雨滴を2電極間に吸引し、降雨を感知する方法もある。しかし、度重なる雨滴の吸引により、電極金属が腐食・劣化することで電極金属表面の疎水性が大きくなり電極金属が雨滴をはじくことで、2電極間に雨滴が入り込みにくくなり少量の降雨ではセンサが反応しにくくなるなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は上記の課題を解決するために、以下の構成を有する。
すなわち、
(1) 基材フィルムの少なくとも片面に金属薄膜が積層された金属化フィルムであって、
前記金属薄膜表面に親水層が分散して被覆されてなり、
任意に選択した1辺10mm×10mm□における前記金属薄膜表面に対する親水層の被覆率が0.1%〜10%であり、
かつ、前記親水層が、円相当直径が3.56mm以下で分散して被覆されてなる電極用金属化フィルム、
(2) 前記親水層側表面の水の接触角が20°以下であり、
該親水層側からJIS−C−2151に基づいて試験電圧100Vで測定した表面抵抗値が100Ω/□以下である(1)に記載の電極用金属化フィルム、
(3) 前記金属薄膜成分が金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である(1)または(2)に記載の電極用金属化フィルム、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極金属表面に親水層を分散して被覆することで、金属の表面抵抗値を維持したまま、金属に親水性を良好に付与・維持できる電極用金属化フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、基材フィルムの少なくとも片面に金属薄膜が積層された金属化フィルムであって、前記金属薄膜表面に親水層が分散して被覆されてなり、任意に選択した1辺10mm×10mm□における前記金属薄膜表面に対する親水層の被覆率が0.1%〜10%であり、かつ、前記親水層が、円相当直径が3.56mm以下で分散して存在する電極用金属化フィルムである。
以下、さらに詳しく本発明の電極用金属化フィルムについて、説明する。
【0011】
本発明で用いられる基材フィルムとしては、プラスチックフィルム、合成紙、紙または表面処理が施された複合シートが好ましく用いられるが、中でも寸法安定性や耐久性等の点からプラスチックフィルムが好ましい。プラスチックフィルムの材質としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ−ρ−フェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。また、これらの共重合体やブレンド物やさらに架橋した化合物を用いることもできる。
【0012】
さらに、上記プラスチックフィルムの中でも、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレート、ポリエチレンα,β−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどからなるフィルムが好ましく、これらの中で機械的特性、作業性などの品質、経済性などを総合的に勘案すると、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムが特に好ましく用いられる。
【0013】
基材フィルムの厚みは特に限定されないが、通常10〜500μm、好ましくは20〜300μm、より好ましくは30〜200μmであることが望ましい。
【0014】
本発明で金属化フィルムとは上記基材フィルム上に金属薄膜を積層してなる積層フィルムのことを言う。
【0015】
また、本発明の金属化フィルムは、金属層を積層する前に、基材フィルム表面に表面処理を施すことができる。例えば、このような表面処理として、エッチング処理、蒸気処理、イオンビーム処理、粗面化処理、コロナ放電処理を施すことができる。また、同様に、金属層を積層する前に、表面コーティングを施すことができる。例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエステルアクリレート系、ポリウレタンアクリレート系、ポリエポキシアクリレート系等の樹脂やチタネート系化合物等をコーティングすることができる。かかる表面処理または/および表面コーティングにより、該金属層の高分子フィルム基材に対する密着性を高めることができる。
【0016】
かかる金属層を構成する金属素材としては、酸化されにくく、かつ導電性があれば、いずれの金属でも用いることができるが、特に、化学的な安定性から、金、白金、パラジウム、銀、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属を用いることが、電気抵抗による変化を捉えるための電極用途、例えば、降雨検出センサ用電極等に好適に使用できるので好ましい。また、かかる金属層を構成する金属素材は、一種であっても二種以上併用しても良い。さらに、複数の金属層が積層されたものであっても良く、合金であっても良い。
【0017】
本発明における基材フィルム上に金属層を積層する方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。中でも、金属層の厚さの均一性、密着性等の観点から、スパッタリング法が特に好ましい。
【0018】
本発明における親水層は、例えば降雨検出センサの場合、雨水を電極の測定部位まで吸引する吸引性能と、金属所有の優れた導電性を保持するものである。
本発明の電極用金属化フィルムは、基材の少なくとも片面に金属層を積層されてなり、バインダーと、下記一般式(1)もしくは(2)で表されるブロック共重合体とを含有してなる液体受容層(親水層)を設けて構成されていることが好ましい。
【0019】
HO―(CHCHO)―(R−O)―(CHCHO)―H (1)
HO―(R−O)―(CHCHO)―(R−O)―H (2)
(ここで、R、R、Rは炭素数が3以上のアルキレン基を表し、l、m、n、o、p、qは整数を表す)
まず、前記親水層を構成するバインダーとしては、例えば、ポリエステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、アイオノマ−樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、エチレン−ビニルアルコ−ル共重合樹脂、ポリビニルブチラ−ル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアルキレンオキシド樹脂、ゼラチン等の有機系バインダーや、ジルコニウム、珪素、アルミニウム、チタン原子等を含む無機系バインダーなどが挙げられるが、これらの中でもポリエステル樹脂をバインダーとして使用するのが、金属化フィルムとの接着力や、液体の塗れ・展開性などの点から好ましく用いられる。
【0020】
かかるバインダーには、表面抵抗値、臨界表面張力調整剤として、各種の界面活性剤を添加してもよい。かかる界面活性剤としては、例えば「実用プラスチック事典 材料編」((株)産業調査会 1996年)や「13398の化学商品」(化学工業日報社 1998年)に記載の非イオン系、アニオン系、カチオン系、および両性系の界面活性剤が挙げられる。
【0021】
かかる界面活性剤の中でも、上記一般式(1)もしくは(2)で表されるブロック共重合体を含有するものが、液体の塗れ・展開性から好ましい。
【0022】
前記親水層を構成する好ましい成分である前記一般式(1)もしくは(2)で表されるブロック共重合体としては、アルキレン基(R、RおよびR)がプロピレンであるブロック共重合体の市販品としては、上記一般式(1)で示されるブロック単位1つ以上からなるブロック共重合体として、Pluronic(R) PE3100,PE3500,PE4300,PE6100,PE6120,PE6200,PE6400,PE6800,PE7400,PE8100,PE9200,PE9400,PE10100,PE10300,PE10400,PE10500(以上ビーエーエスエフジャパン(株)製)、アデカ(R)プルロニックL−23,L−31,L−33,L−34,L−35,F−38,L−42,L−43,L−44,L−61,L−62,L−64,P−65,F−68,L−71,L−72,P−75,P−77,L−81,P−84,P−85,F−88,L−92,P−94,F−98,L−101,P−103,P−104,P−105,F−108,L−121,L−122,P−123,F−127(以上(株)ADEKA製)、ニューポールPE−34,PE−61,PE−62,PE−64,PE−68,PE−71,PE−74,PE−75,PE−78,PE−108,PE−128(以上三洋化成工業(株)製)、プロノン(R)#124P,#188P,#407P(以上日本油脂(株)製)等が挙げられる。上記一般式(2)で示されるブロック共重合体として、市販されるものとしては、Pluronic(R) RPE1720,RPE1740,RPE2035,RPE2510,RPE2520,RPE2525,RPE3110(以上ビーエーエスエフジャパン(株)製)、アデカ(R)プルロニック17R−2,17R−3,17R−4,25R−1,25R−2(以上(株)ADEKA製)等が挙げられる。
【0023】
かかるブロック共重合体の中でも、上記一般式中で示されるアルキレン基としては、炭素数3〜5以上のアルキレン基を有するもの、なかでも特にプロピレン基を有するものが好ましく用いられる。6以上になると液体の展開性がばらつき、プロピレン基を用いたものが、液体の展開性がより良好である。
【0024】
前記親水層を構成するブロック共重合体は、好ましくは数平均分子量が500以上、より好ましくは900〜20000、特に好ましくは1500〜15000であるのがよい。すなわち、かかる分子量が500以上だと親水層による液体の展開性が良好であり、その結果、測定精度が安定し、短時間で測定が完了するので好ましい。かかる分子量が20000以下であると、ブロック共重合体をバインダーに均一に分散させやすくなるので好ましい。
【0025】
また、かかるブロック共重合体は、水酸基価が5〜200mgKOH/gであるものが好ましい。水酸基価が5mgKOH/g以上だと、バインダーとの相溶性が良く、基材フィルムとの密着性が良好であり好ましい。また水酸基価が200mgKOH/g以下であると、液体の濡れ・展開性が良く、測定精度が安定する点で好ましい。
【0026】
本発明の電極用金属化フィルムの親水層は、該親水層を構成する成分を含む塗布液を金属化フィルムに塗布し塗膜とすることで形成することができる。かかる塗布液は、例えば、上記バインダーと界面活性剤を混合して、トルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の有機溶剤や水等の溶媒で所望の濃度に希釈して得ることができる。
【0027】
該塗布液の塗布方法は特に限定されないが、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷などの方法を用いることができる。この際、基材上には塗布液を塗布する前に、必要に応じて空気中あるいはそのほかの雰囲気中でのコロナ放電処理や、プライマー処理などの表面処理を施すことによって、塗布性が良化するのみならず、親水層をより強固に基材上に形成することができる。なお、塗布液濃度、塗膜乾燥条件は特に限定されるものではないが、塗膜乾燥条件は基材の諸特性に悪影響を及ぼさない範囲で行なうことが望ましい。一般的に、塗布液濃度は塗布液に対して該親水層成分が1〜50質量%、塗膜乾燥条件は70〜160℃で10秒から5分程度とすることが好ましい。
【0028】
前記親水層の金属被覆率(面積比)は、任意に選択した1辺10mm×10mm□において、0.1%〜10%であることが好ましく、1%〜5%がより好ましい。被覆率が0.1%未満であれば金属化フィルムの親水性が低下し、水をはじいてしまうため2電極間まで水を吸入することができなくなり測定ができなくなる。また、被覆率が10%よりも大きければ、金属化フィルムの表面抵抗値が増加し過電圧によるエネルギーロスが大きくなる。
【0029】
本発明における親水層は金属薄膜上に分散して被覆されているが、その円相当直径は3.56mm以下であり、2.00mm以下がより好ましい。円相当直径が3.56mmよりも大きくなると、金属化フィルムの表面抵抗値が増加し、過電圧によるエネルギーロスが大きくなる。
【0030】
本発明において円相当直径は透過電子顕微鏡を用いて電極用金属化フィルム表面の親水層を撮影し、フロー式画像分析装置で画像解析を行い、円相当直径を求めた値である。
【0031】
本発明における金属化フィルムの表面抵抗値は、100Ω/□以下にすることが好ましく、50Ω/□以下にすることがより好ましい。表面抵抗値が100Ω/□より大きいと、降雨検出センサ用電極のような、電気抵抗による変化を検出するための電極に用いたとき、電極に流れる電流が小さくなり、精度良く検出できなくなったり、検出するために過電圧をかけることによるエネルギーロスが大きくなることがある。本発明における金属化フィルムの表面抵抗値は、JIS−C−2151に基づいて、温度25℃、相対湿度45〜55%RHの大気下で、試験電圧を100Vとして測定したときの値である。測定に用いる金属化フィルムは、100mm×100mmの大きさの正方形である。
【0032】
本発明の親水層側の水接触角は20°以下であることが好ましく、10°以下がより好ましい。接触角が20°以上になると金属化フィルムが水をはじいてしまうため、2電極間まで水を吸入することができなくなり測定ができなくなる。
【0033】
水接触角とは固体表面上に、水滴を乗せ、その雰囲気下で平衡になっているとき、下式により求めることができる値である。下式を「ヤングの式」と言い、液体表面と固体表面のなす角度を「接触角」と定義している。水接触角は、広く市販されている装置により測定することができ、例えば、Contact Angle meter(協和界面科学社製)により測定することができる。
γS=γLcosΘ+γSL
(上記式において、γSは固体の表面張力、γLは液体の表面張力、γSLは固体/液体の界面張力、Θは接触角を示す。)
表面抵抗値、水接触角は親水層の被覆量を増減させることで変更することが可能であり、被覆量を変更する方法としては、塗布面積や塗布量を増減させる。塗布方法や塗布液濃度は限定されない。本発明では、例えば、ポリエステル系樹脂と界面活性剤を固形分質量比で100/5の割合で調合し、トルエンで15%に希釈した有機物水溶液(固形分濃度15質量%)を該金属化フィルムの金属蒸着面側にグラビア印刷装置を用いて塗布することによって表面抵抗値を100Ω/□以下とし、水接触角を20°以下とすることができる。
【実施例】
【0034】
〔評価方法〕
各実施例および比較例で作成した電極用金属化フィルムについて、以下(1)〜(6)の測定を行った。
【0035】
水の接触角および表面抵抗値の測定は、各実施例および比較例の金属化フィルムを作製した直後、および大気中に60分間放置した後に行った。また、測定環境は温度25℃、相対湿度45〜55%RHの大気下で行った。
【0036】
(1)水の接触角
水の接触角はContact Angle meter(協和界面科学社製)を使用し、蒸留水1.6mgを電極用金属化フィルム表面に滴下し、滴下後の水滴の頂点部と水滴と電極用金属化フィルムの接点から接触角を算出する。前記作業を3回行い、その最大値を水の接触角とした。
【0037】
(2)表面抵抗値
表面抵抗値は、JIS−C−2151(2006)に基づいて、表面抵抗率計(日置電機(株)製デジタルハイテスタ3256)を用い、試験電圧100Vで測定を行った。100mm×100mmの大きさの正方形の形状に3枚の金属化フィルムを切り出し、金属層側の中心部の値を測定した。この異なる3ヶ所の測定位置に対する表面抵抗値の最大値を表面抵抗値とした。
【0038】
(3)親水層の被覆率
親水層の被覆率は、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)を用い測定を行った。飛行時間型二次イオン質量分析とは、資料最表層に存在する原子や分子を測定する方法であり、試料表面にガリウムなどのイオン(一次イオン)を照射し、放出される二次イオンを一定の電圧で加速すると、イオンの質量の差により検出器への到達時間(飛行時間)に差が出ることを利用して分析を行っている。TOF-SIMSでは、極微量(ppmオーダー)の無機物・有機物の同定や表面に存在する成分の分布分析が可能であり、主に金属、半導体、無機物、有機物、高分子材料の最表面の化学構造解析、元素・化学種の分布像や深さ方向の分析に用いられる。
【0039】
100mm×100mmの大きさの正方形の形状に3枚の金属化フィルムを切り出し、TOF-SIMSを用いて、金属層側の表面分析を行い表面に表れている金属領域のイオンマッピングを行った。該マッピング画像をフロー式画像分析装置FPIA-3000で解析を行い、表面における金属領域と非金属領域の面積を算出して、親水層の被覆率とした。
【0040】
(4)円相当直径
親水層の円相当直径はフロー式粒子像分析装置FPIA-3000(シスメックス株式会社製)を用いて測定を行った。100mm×100mmの大きさの正方形の形状に3枚の金属化フィルムを切り出し、透過電子顕微鏡を用いて電極用金属化フィルム表面を1枚ごとに撮影し、フロー式画像分析装置FPIA-3000で該撮影画像より親水層部分を10箇所任意に選び、該親水層の画像解析をすることで親水層それぞれの円相当直径を算出し、その平均値を測定値とした。
【0041】
(5)液体展開性
純水5μlを電極用金属化フィルムの親水層面側に注射針で滴下し、滴下30秒後の純水滴下液の拡がり状態で展開性を判定した。ここで、純水滴下液の拡がり状態とは、液の直径のことであり、液が楕円状の場合は短径のことである。純水滴下液の拡がりが5mm以上であれば、展開性は良好であると判断した。
【0042】
(6)電流特性
電流特性は100mm×100mmの大きさの正方形の形状に金属化フィルムを切り出し、該金属化フィルムの2辺(それぞれの辺は隣接していない)をワニ型クリップで挟み、その2辺間に松定プレシジョン株式会社製直流電源P4K-80を用い100Vの電圧をかけた。そのときの電流値をHIOKI社製クランプ電流計で測定を行った。電流値が1A以上であれば、電流特性は良好であると判断した。
【0043】
〔実施例1〕
フィルム基材として厚さ100μmのポリエステルフィルム(東レ(株)製ルミラー(登録商標)#100E20)を使用し、マグネトロンスパッタリング装置を用いて、厚さ10nmのパラジウム膜をフィルム基材の一方の面上に形成した。ターゲットには、純度99.9質量%のパラジウム(田中貴金属工業(株)製)を用いた。スパッタガスにはアルゴンを用いた。前記作成方法で作成した金属化フィルムを3週間、大気中に暴露した。
【0044】
次いでペスレジンS-140(ポリエステル系樹脂:バインダー、高松油脂(株)製、30%溶液、分子量)とアンステックスC-200X(界面活性剤、東邦化学工業(株)製、50%溶液、数平均分子量(Mn)2900、水酸基価40mgKOH/g)を固形分質量比で100/5の割合で調合し、トルエンで15%に希釈した有機物水溶液(固形分濃度15質量%)を調合した。その塗液を該金属化フィルムの該パラジウム面側にグラビア印刷装置を用いて塗布し、120℃で30秒間乾燥して本発明の電極用金属化フィルム(実施例1)を作成した。その際、グラビア印刷のシリンダは、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が8%に、円相当直径が3.00mmになるようにロール状の版胴を彫り作成した。
【0045】
〔実施例2〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が1%に、円相当直径が0.30mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0046】
〔実施例3〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が8%に、円相当直径が2.00mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0047】
〔実施例4〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が8%に、円相当直径が1.00mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0048】
〔実施例5〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が5%に、円相当直径が3.00mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0049】
〔実施例6〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が0.15%に、円相当直径が1.00mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0050】
〔実施例7〕
マグネトロンスパッタリング装置を用いて、厚さ10nmの金膜をフィルム基材の一方の面上に形成し、ターゲットには、純度99.9質量%の金(田中貴金属工業(株)製)を用いた以外は実施例1と同様に作成した。
【0051】
〔実施例8〕
マグネトロンスパッタリング装置を用いて、厚さ10nmの銀膜をフィルム基材の一方の面上に形成し、ターゲットには、純度99.9質量%の銀(田中貴金属工業(株)製)を用いた以外は実施例1と同様に作成した。
【0052】
〔比較例1〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が50%に、円相当直径が3.00mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0053】
〔比較例2〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が12%に、円相当直径が3.00mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0054】
〔比較例3〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が0.05%に、円相当直径が3.00mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0055】
〔比較例4〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が0.001%に、円相当直径が0.03mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0056】
〔比較例5〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が10%に、円相当直径が5.00mmになるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0057】
〔比較例6〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が100%になるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0058】
〔比較例7〕
グラビア印刷のシリンダを、該パラジウム面から任意に選択した1辺10mm×10mm□における親水層の被覆率が0%になるように設定した以外は実施例1と同様に作成した。
【0059】
各々の金属化フィルムの評価結果を、表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1〜8は、水の接触角、表面抵抗値、液体展開性及び電流特性は良好であり、金属の表面抵抗値を維持したまま、金属に親水性を良好に付与・維持できるものであった。比較例1、2、5、6は、水の接触角は良好であったものの、表面抵抗値は不良であり、電極用として用いた場合には、抵抗が高いものとなる。同様に比較例3、4、7は、表面抵抗値は良好であったものの、水の接触角は不良であり、降雨センサなどに用いた場合には少量の降雨ではセンサが反応しにくいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、電流を測定するための電極に用いる金属化フィルムとして、特に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に金属薄膜が積層された金属化フィルムであって、
前記金属薄膜表面に親水層が分散して被覆されてなり、
任意に選択した1辺10mm×10mm□における前記金属薄膜表面に対する親水層の被覆率が0.1%〜10%であり、
かつ、前記親水層が円相当直径が3.56mm以下で分散して被覆されてなる電極用金属化フィルム。
【請求項2】
前記親水層側表面の水の接触角が20°以下であり、
該親水層側からJIS−C−2151に基づいて試験電圧100Vで測定した表面抵抗値が100Ω/□以下である請求項1に記載の電極用金属化フィルム。
【請求項3】
前記金属薄膜成分が金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の電極用金属化フィルム。

【公開番号】特開2011−74472(P2011−74472A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229203(P2009−229203)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】