説明

電極触媒の製造方法

【課題】ウェットプロセスとドライプロセスを併用することにより、触媒金属の有効面積を大きくでき、しかも触媒金属の高担持を実現することのできる電極触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】溶媒Y中に、カーボン等の担体Cと、触媒物質もしくは触媒物質前駆体S1’と、を分散させ、攪拌して、担体C表面に触媒物質S1が付着してなる電極触媒の中間体T1を生成する第1の工程(ウェットプロセス)と、この中間体T1の表面に、ドライ条件下にて触媒物質S2をさらに付着させて触媒担持担体粒子T2を生成する第2の工程(ドライプロセス)と、からなる電極触媒の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池の電極触媒層を形成する電極触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、環境負荷影響等に優しい車両としてハイブリッド自動車、電気自動車が注目されており、その一層の小型化、高性能化を目指した開発が日々進められている。中でも、電気自動車等に車載される燃料電池は内燃機関と発電原理を大きく異にするもので、清浄な排ガスの排出、静粛な走行などを実現する上で極めて重要な車載機器である。しかしながら、この燃料電池は未だ開発途上といっても過言ではなく、性能向上とともに製品コストの低下が急務の課題であり、これなくしては電気自動車のより広範な普及は実現し難い。
【0003】
比較的低温で作動する高分子電界質を使用してなる燃料電池においては、正負極の電極触媒層を形成する電極触媒に比較的高価な白金が使用されており、より具体的には、カーボンからなる粉状担体表面に白金が担持されることによって電極触媒が製造されている。電極触媒層の具体的な製造方法は、たとえば、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)等の基材表面に、上記する電極触媒と、電解質、分散溶媒を含んだ触媒インクを塗工し、次いで該触媒インク表面をホットプレートで乾燥させてその内部に均一構造(均一径の多孔構造)の触媒層を形成するものである。なお、この塗工作業は、スプレーで塗布する方法やドクターブレードを使用する方法などがある。
【0004】
ところで、白金使用量を低下させながら高性能な電極触媒を得るための一方策として、たとえばカーボンからなる粉状担体表面に可及的に均一に白金を担持させる方法が挙げられる。白金を担体表面に均一に担持させるには、粉体を効果的に攪拌しながらたとえばスパッタリング処理を実施することになる。この粉体の効果的な攪拌を実現するための従来技術として、例えば特許文献1を挙げることができる。
【0005】
特許文献1に開示の技術は、多角形のバレル内に微粒子を収容し、バレルを回転させることで微粒子を攪拌しながらその表面に適宜の薄膜を形成するものである。
【0006】
【特許文献1】特開2004−250771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の装置では、バレルを多角形とすることにより、バレルの回転に応じてその隅角部に微粒子が衝突しながら攪拌されることで、円筒状バレルに比して攪拌性能の向上を期待することができる。しかし、単にバレルを多角形にしているに過ぎないことから、実際にはバレルが回転しても粉体は攪拌されることはなく、多数の粉体が一つまたは複数の大きな塊となって転がるのみであり、粉体を十分に攪拌するには程遠いものである。
【0008】
また、触媒担持法のうち、上記スパッタリングを代表とするドライプロセスではカーボン担体等に対して触媒が幾何学的に固定化され易い箇所が触媒の担持サイトとなり易く、溶媒中で触媒担持をおこなうウェットプロセスにおいては担持触媒金属の前駆体が化学的に吸着され易い担体箇所が担持サイトとなって固定される、という知見が本発明者等によって得られている。これらの担持サイトもしくは吸着サイトは担体表面に限られた箇所しか存在しないことから、触媒担持量を増加させると担持される触媒が一定箇所に集中し、これらが粗大化してしまうという問題も顕在化している。このことは、触媒金属の有効面積を小さくすることに直結し、可及的に少ない触媒金属にて発電性能に優れた燃料電池を得るという目的に逆行することとなってしまう。
【0009】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、触媒の有効面積を可及的に大きくすることができ、しかも、高担持密度で粒径の微小な電極触媒を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による電極触媒の製造方法は、溶媒中に、担体と、触媒物質もしくは触媒物質前駆体と、を分散させ、攪拌して、担体表面に触媒物質が付着してなる触媒担持担体の中間体を生成する第1の工程と、前記中間体の表面に、ドライ条件下にて触媒物質をさらに付着させて触媒担持担体を生成する第2の工程と、からなるものである。
【0011】
既述するように、ウェットプロセスとドライプロセスでは、担体への触媒の担持し易いサイトが異なっている。繰り返して説明すると、ウェットプロセスでは溶媒中の触媒物質もしくは触媒物質前駆体(触媒物質化合物)が相互作用しやすいカーボン等の担体の官能基に付着する。一方、ドライプロセスでは、担体表面上のたとえば窪み等の幾何学的に触媒金属が安定的に入り込むサイトに付着し易い。
【0012】
そこで、本発明の製造方法は、上記ウェットプロセスとドライプロセスを併用することで、各プロセスに固有の付着し易い担体表面への触媒金属の担持をおこない、担体表面への触媒金属の分散担持を実現できる製造方法に関するものである。
【0013】
本発明の製造方法では、まず、水やアルコール等の溶媒中に、カーボン等の担体と、白金や白金合金(白金コバルトなど)からなる触媒物質もしくは塩化白金酸やヘキサクロロ白金酸などの触媒物質前駆体を分散させて混合することにより、ウェットプロセスにおいて担持し易い担体表面サイトに触媒物質(触媒金属)が担持された触媒分散スラリーを生成し、次いで溶媒を蒸発等させることで触媒担持担体の中間体を生成する(第1の工程)。
【0014】
次いで、溶媒を用いないドライプロセスにて中間体である担体表面の幾何学的に安定したサイトへ触媒物質を担持させ、電極触媒用の触媒担持担体を生成する(第2の工程)。
【0015】
ここで、このドライプロセスは、従来一般の物理蒸着法である、真空蒸着、スパッタリング、イオンブレーディングなどの適宜の方法を適用できる。
【0016】
上記する本発明の電極触媒の製造方法によれば、カーボン等の担体表面に、微小径の触媒物質を凝集させることなく、分散させて担持することができ、触媒金属の有効面積を大きくしながら、担体への触媒金属の高密度担持(たとえば30重量%以上)を実現することができる。
【0017】
また、本発明による電極触媒の製造方法の好ましい実施の形態は、前記第1の工程で生成される触媒担持担体の中間体において、担体表面に付着した触媒物質の粒径が略3nm(ナノメートル)となるものである。
【0018】
本発明の製造方法は、上記する第1の工程から第2の工程への切換えのタイミングを、触媒担持担体の中間体における触媒物質の粒径から規定するものである。
【0019】
本発明者等の検証によれば、ウェットプロセスにおいて、たとえばカーボンに担持された白金もしくはその合金の粒径(平均粒径)が3nm程度の場合に、触媒金属の有効面積が最大となることが実証されている。ウェットプロセスでは、触媒物質の担持量を増加させていくと触媒物質の粒径も増加してしまい、このことは該触媒物質の有効面積を小さくしていくことに繋がる。一方、触媒物質の粒径が小さければその活性も盛んになるものの、触媒物質が小さすぎて活性がありすぎると、今度は触媒物質の粒同士が凝集してしまい、結局は触媒物質の粒径増大を齎すこととなる、という知見が本発明者等によって得られている。
【0020】
そこで、触媒物質同士の凝集もほとんどなく、触媒物質の有効面積を最大とする好ましい粒径として3nm程度を規定するものである。
【0021】
また、3nm程度の粒径の触媒物質は、ウェットプロセスにおいて担体表面に付着した触媒物質が略30重量%以下の場合に生成されることも本発明者等によって特定されている。
【0022】
したがって、中間体における触媒物質が30重量%程度となった段階、もしくはその前段階でウェットプロセスからドライプロセスへ切換えることにより、好ましい粒径の触媒物質が担持された担体が得られる。
【0023】
また、本発明による電極触媒の製造方法の好ましい実施の形態において、前記第2の工程はアークプラズマ蒸着によるものであり、前記触媒担持担体の中間体にアークプラズマを照射することにより、該中間体に前記触媒物質を担持させるものである。
【0024】
たとえば従来のスパッタリング法に比してそのピークエネルギが格段に高いアークプラズマを用いて担体に触媒金属を担持させることにより、高い担持密度で粒径が極めて小さく、しかも各粒子が独立した触媒金属が担持された担体を生成することができる。
【0025】
また、本発明による電極触媒の製造方法の一実施の形態として、前記アークプラズマ蒸着は、アークプラズマ発生装置と、該アークプラズマ発生装置に連通するとともに前記触媒担持担体の中間体をその内部に収容または載置し、その内部が減圧雰囲気に調整される減圧容器と、を少なくとも備えてなる、アークプラズマ蒸着装置を使用しておこなわれるものである。
【0026】
ここで、アークプラズマ発生装置を構成するアーク蒸着源の一実施の形態として、蒸着材からなるカソード電極と、該カソード電極の外周を包囲する絶縁ガイシと、該絶縁ガイシの外周に設けられたトリガ電極と、が一つのユニット体を形成し、該ユニット体が筒状のアノード電極内に収容され、これらを減圧容器内に収容した形態などを適用できる。ここで、蒸着材からなるカソード電極は、たとえば蒸着材が長細状に成形されたものを電極ホルダに締結し、これを筒状の絶縁ガイシ内に収容することで形成できる。なお、絶縁ガイシは、たとえばシリカ(SiO)等から成形される。
【0027】
アノード電極とカソード電極の間に電圧を印加するとともにトリガ電極に電圧を印加すると、トリガ電極と蒸着材からなるカソード電極との間に沿面放電が発生し、これにより、アノード電極と蒸着材(カソード電極)の間にアーク放電が励起される。このアーク放電によって蒸着材が蒸発し、アノード電極に向かう荷電微粒子が放出される。この荷電微粒子は、アノード電極内に生じる磁場の影響により、たとえば減圧容器内のアノード電極の開放端に対向する位置に載置または収容された被蒸着材に飛ばされ、該被蒸着材表面上で触媒金属を成長させることになる。
【0028】
たとえば減圧容器内のアノード電極の開放端に対向する位置に回転自在のチャンバーが備えてあり、このチャンバー内で被処理対象の被蒸着材を効率的に微小単位にばらばらにしながら、微小単位の被蒸着材(触媒担持担体の中間体)表面にアークプラズマを照射することで触媒金属を担持させるものである。プラズマ照射に際して被蒸着材を微小単位に粉々にすることで、被蒸着材の凝集によって触媒金属が凝集体の一部にしか形成されないといった課題は生じ得ず、触媒金属の有効面積を大きくしながら、微小な被蒸着材表面に均一に触媒金属を担持させることができる。
【0029】
既述のごとく白金は比較的高価であるが、ウェットプロセスおよびドライプロセスを併用し、かつドライプロセスではアークプラズマ蒸着法を適用する本発明の製造方法により、白金またはその合金の単位重量あたりの有効面積を大きくすることを可能とし、もって一定の発電能力に対して白金使用量を低減することができる。本発明による電極触媒の製造方法は、昨今その開発が日々進められており、その生産が拡大しつつある電気自動車用燃料電池の電極触媒層の生産に好適であるが、そのほか、ディーゼルエンジンの触媒等をはじめとする他の触媒層の生産にも適用できることは勿論のことである。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から理解できるように、本発明の電極触媒の製造方法によれば、ウェットプロセスとドライプロセスを併用することにより、触媒金属の有効面積を大きくでき、しかも触媒金属の高担持を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示する本発明の製造方法の実施例では、ドライプロセスとしてアークプラズマ蒸着法を適用しているが、これ以外の物理蒸着法(スパッタリング法、ホロカソード法など)を適用してもよい。
【0032】
図1aは本発明の電極触媒の製造方法の第1の工程(ウェットプロセス)を説明した図であり、図1bは第1の工程で生成された電極触媒の中間体粒子を示した模式図である。
【0033】
まず、ウェットプロセスでは、用意された槽70内に溜められた蒸留水やアルコール等の溶媒Y内に、担体であるカーボン粒子Cと触媒物質前駆体S1’を投入し、攪拌棒71にて攪拌しながら(X1方向)触媒分散スラリーを生成する。
【0034】
ここで、触媒物質前駆体S1’としては、塩化白金酸やヘキサクロロ白金酸などを使用できる。
【0035】
触媒物質前駆体S1’を投入しながら攪拌を継続し、溶媒Yを蒸発させると、図1bで示すごとく、カーボン粒子Cの表面に白金からなる触媒金属粒子S1が担持された触媒物質の中間体粒子T1が生成される。
【0036】
ここで、このウェットプロセスからドライプロセスへの移行のタイミング、すなわち、中間体粒子T1を形成する触媒金属粒子S1の平均粒径は、およそ3nm(ナノメートル)程度であり、この条件を満足する触媒金属粒子の重量%はおよそ30重量%かそれ以下となっている。
【0037】
次に、生成された触媒物質の中間体粒子T1の表面に、ドライプロセスを経てさらに触媒金属粒子を担持させる第2の工程に移行する。
【0038】
ここで、ドライプロセスにて使用されるアークプラズマ蒸着装置を図2,3に基づき説明する。
【0039】
図2は、本発明の製造方法の第2の工程、すなわち、ドライプロセスにて使用されるアークプラズマ蒸着装置を概略説明した図である。このアークプラズマ蒸着装置100は、アークプラズマ発生装置を構成する電源20およびアーク蒸着源10と、このアークプラズマ発生装置に取り付けられて該アーク蒸着源10を内蔵する減圧容器8と、この先端で中間体粒子T1を収容するチャンバー30と、から大略構成されている。減圧容器8の長手方向(プラズマ照射方向)は、水平面に対してθ傾斜させた姿勢で該アークプラズマ蒸着装置100が位置決め固定される。このチャンバー30はさらに先端のサーボモータ40(たとえばオリエンタルモーター株式会社製のAXU425)にて所定速度で回転自在に構成されている(X2方向)。また、アークプラズマ蒸着装置100は真空ポンプ50(たとえばターボ分子ポンプで、株式会社アルバック製のYTP150)、補助真空用のロータリーポンプ60に連通しており、これによって減圧容器8内を減圧雰囲気(場合によっては真空雰囲気)とし、放電させるようになっている。なお、上記する角度θ方向はチャンバーの自転軸とも一致しているが、このθの範囲はカーボン担体をチャンバー内壁から落下させるのを促進する等の観点から、30〜60度の範囲に設定されるのが好ましい。
【0040】
また、アークプラズマ蒸着装置100は不図示のパーソナルコンピュータに繋がっており、このコンピュータ内には、アークプラズマ蒸着装置100にパルス信号を送信しながらプラズマのパルス照射を実行できる構成となっている。また、サーボモータ40の回転速度もコンピュータにて制御できるようになっており、この回転速度とパルス信号送信のタイミングの双方が調整されるようになっている。
【0041】
たとえば、中間体粒子T1へさらに白金触媒をドライ担持させる条件として、減圧容器8内の真空度は1.0×10−4Pa、トリガ電圧を200V、温度は常温とし、アークプラズマ照射はパルス照射するものとしてその照射間隔は4パルス/秒、サーボモータ40の回転数は45rpmにて電極触媒の製造を実施することができる。
【0042】
上記する本発明のアークプラズマ蒸着装置100によれば、中間体粒子T1をチャンバー30の回転によって随時落下させながらその凝集を防止し、これにアークプラズマが照射されることで、カーボン担体表面に均一な白金触媒が担持された微小単位の触媒担持担体粒子を生成することができる。
【0043】
また、アークプラズマ蒸着装置100を形成するアーク蒸着源10のより詳細な構成を図3に示している。
【0044】
アーク蒸着源10は、蒸着材料である白金から成形され、その内部に凹溝を有するカソード電極1と、該カソード電極1の凹溝内に挿通されたボルト7を介してカソード電極1と接続される電極ホルダ5と、このカソード電極1および電極ホルダ5の外周を包囲する筒状の絶縁ガイシ4と、該絶縁ガイシ4の外周に設けられたCリング3とその外周に設けられた筒状のトリガ電極2と、が一つのユニット体を形成し、このユニット体が筒状のアノード電極6内に収容され、これらが筒状の減圧容器8内に収容されて形成される。
【0045】
カソード電極1の一端は絶縁ガイシ4の端部からたとえば1mm程度突出しており、この突出したカソード電極の側面とトリガ電極2の一端との間で沿面放電がなされる。
【0046】
図4で示すように、上記する第1の工程(ウェットプロセス)により、カーボン粒子C表面に好ましくは3nm程度の平均粒径の白金粒子S1を担持させて中間体粒子T1を生成し、次いで第2の工程(ドライプロセス)により、カーボン粒子C表面の別のサイトに別途の白金粒子S2を担持させて触媒担持担体粒子T2が生成される。この触媒金属が担持された触媒担持担体粒子T2は、ウェットプロセスとドライプロセスにてカーボン粒子Cへの触媒金属の担持サイトが異なることより、触媒金属同士が凝集することなく分散した態様で、しかも30重量%以上の高担持密度の担体粒子となっている。
【0047】
[カーボン粒子表面にドライプロセスのみで白金コバルトを担持させた場合(比較例)と、本発明の製造方法によって白金コバルトを担持させた場合(実施例)双方の有効白金面積を比較した実験とその結果]
本発明者等は、アークプラズマ蒸着法のみ(ドライプロセスのみ)によってカーボン粒子表面に40重量%の白金コバルト粒子を担持させた場合(比較例)と、本発明の製造方法、すなわち、ウェットプロセスの後にアークプラズマ蒸着(ドライプロセス)を適用してカーボン粒子表面に40重量%の白金コバルト粒子を担持させた場合(実施例)とで、双方の有効白金面積を比較する実験を試みた。
【0048】
実験の結果を図5に示しており、図中、グラフAは比較例を、グラフBは実施例をそれぞれ示している。
【0049】
図より、比較例における有効白金面積が0.1cm/μg程度であったのに対し、実施例における有効白金面積は0.42cm/μg程度と、比較例に対して4倍以上も白金の有効面積が向上することが実証された。
【0050】
このことは、ウェットプロセスのみによる場合は勿論のこと、ドライプロセスのみによって電極触媒層を製造する場合に比して、ウェットプロセスとドライプロセスを併用して電極触媒層を製造することにより、たとえば従来法による場合の1/4程度の白金使用量で同程度の発電能力を有する燃料電池が得られることになる。
【0051】
[ウェットプロセスによる触媒金属の担持量と粒径に関する実験、および、触媒金属の粒径と有効白金面積に関する実験とその結果]
本発明者等はさらに、ウェットプロセスからドライプロセスへの最適な切換えタイミングを特定するに当たり、ウェットプロセスにおける触媒金属の担持量とそれに応じた平均粒径を計測し、さらに、各平均粒径ごとの有効白金面積を計測した。
【0052】
図6は白金担持量とそれに応じた白金の平均粒径の関係をグラフ化したものであり、図7は白金の平均粒径とそれに応じた有効白金面積の関係をグラフ化したものである。
【0053】
図6より、白金担持量が増加するにつれて白金の平均粒径が増加することが分かる。これは、ウェットプロセスにおいて、カーボン粒子表面に白金が担持され易い部位に白金が集中して担持される結果、担持部位では白金の凝集がおこり、これが平均粒径の増加に繋がっているものである。
【0054】
一方、図7より、白金の平均粒径とその有効面積に関しては、平均粒径がおよそ3nm程度で最大の有効面積が得られることが分かった。
【0055】
これは、ウェットプロセス、ドライプロセスの双方に妥当する結果であり、平均粒径がこれより大きくなると粒同士の凝集によって有効面積が小さくなり、平均粒径がこれより小さくなるにつれて白金粒子の活性が高まっていき、結果として粒同士の凝集が齎されることによるものである。
【0056】
また、図6,7より、ウェットプロセスにて白金の平均粒径が3nm程度となる白金担持量は30重量%程度であることより、ウェットプロセスからドライプロセスへの切換えタイミングとして、白金もしくは白金合金の担持量が30重量%かそれ以下のタイミングで、ドライプロセスへ移行するのが好ましいことが分かった。
【0057】
また、本発明者等は、触媒金属の担持量が45重量%以上の極めて高担持密度な触媒担持担体を、上記する本発明の製造方法によって製造できるという知見に至っている。この45重量%以上の高担持密度担体は、燃料電池を構成する電極触媒層において、該燃料電池の必要性能を満足するに要する絶対金属量を充足し、さらには、低抵抗であってガス拡散性に優れた薄い電極触媒層の形成に寄与できる担持量である。
【0058】
図8は、カーボン粒子表面上に担持された白金粒子のTEM写真を示したものであり、より具体的には、図8aはドライプロセスのみによる場合の白金が担持されたカーボン粒子のTEM写真であり、図8bは本発明の製造方法による場合の白金が担持されたカーボン粒子のTEM写真である。図中、黒色の大きな箇所は凝集によって白金粒径が大きくなっている箇所である。
【0059】
図より、ドライプロセスのみによる場合は、相対的に白金の凝集箇所が多く、微小粒径の白金の分散性も悪いことが視認できる。
【0060】
一方、本発明のウェットプロセスとドライプロセスを併用した製造方法による場合は、微小粒径の白金の分散性がよく、その凝集箇所も少なく、凝集箇所の粒径はドライプロセスのみによる場合の凝集箇所の粒径に比して小さくなっていることが視認できる。
【0061】
以上の実験より、ウェットプロセスにて触媒金属を担体表面に担持させ、さらにドライプロセスにて触媒金属を担持させることにより、触媒金属の有効面積を可及的に大きくでき、しかも、触媒金属が良好に分散した高担持密度の触媒担持担体を製造することができる。この高担持密度で有効面積の大きな白金触媒等を電極触媒層に用いた燃料電池とすることにより、発電性能に優れた燃料電池、もしくは一定の発電性能に対して格段に安価な燃料電池を製造することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】(a)は本発明の電極触媒の製造方法の第1の工程(ウェットプロセス)を説明した図であり、(b)は第1の工程で生成された電極触媒の中間体粒子を示した模式図である。
【図2】本発明の電極触媒の製造方法の第2の工程(ドライプロセス)で使用されるアークプラズマ蒸着装置を示した図である。
【図3】図2のアークプラズマ蒸着装置を構成する蒸着源を拡大した縦断面図である。
【図4】第1の工程で生成される中間体粒子と、次いで第2の工程で生成される触媒担持担体粒子を示した模式図である。
【図5】カーボン粒子表面にドライプロセスのみで白金コバルトを担持させた場合(比較例)と、本発明の製造方法によって白金コバルトを担持させた場合(実施例)双方の有効白金面積を比較した実験結果を示すグラフである。
【図6】ウェットプロセスによる触媒金属の担持量と粒径に関する実験結果を示したグラフである。
【図7】触媒金属の粒径と有効白金面積に関する実験結果を示すグラフである。
【図8】(a)はドライプロセスのみによる場合の白金が担持されたカーボン粒子のTEM写真であり、(b)は本発明の製造方法による場合の白金が担持されたカーボン粒子のTEM写真である。
【符号の説明】
【0064】
1…カソード電極、2…トリガ電極、3…Cリング、4…絶縁ガイシ、5…電極ホルダ、6…アノード電極、7…ボルト、8…減圧容器、10…アーク蒸着源、20…電源、30…チャンバー、40…サーボモータ、50…真空ポンプ、60…回転ポンプ、70…槽、71…攪拌棒、100…アークプラズマ蒸着装置、C…カーボン担体粒子、T1…中間体粒子、T2…触媒担持担体粒子、S1,S2…触媒金属粒子(白金粒子)、S1’…触媒物質前駆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に、担体と、触媒物質もしくは触媒物質前駆体と、を分散させ、攪拌して、担体表面に触媒物質が付着してなる触媒担持担体の中間体を生成する第1の工程と、
前記中間体の表面に、ドライ条件下にて触媒物質をさらに付着させて触媒担持担体を生成する第2の工程と、からなる電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程で生成される触媒担持担体の中間体において、担体表面に付着した触媒物質の粒径が略3nm(ナノメートル)である、請求項1に記載の電極触媒の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程で生成される触媒担持担体の中間体において、担体表面に付着した触媒物質が略30重量%以下である、請求項1または2に記載の電極触媒の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程はアークプラズマ蒸着によるものであり、前記触媒担持担体の中間体にアークプラズマを照射することにより、該中間体に前記触媒物質を担持させる、請求項1〜3のいずれかに記載の電極触媒の製造方法。
【請求項5】
前記アークプラズマ蒸着は、アークプラズマ発生装置と、該アークプラズマ発生装置に連通するとともに前記触媒担持担体の中間体をその内部に収容または載置し、その内部が減圧雰囲気に調整される減圧容器と、を少なくとも備えてなる、アークプラズマ蒸着装置を使用しておこなわれるものである、請求項4に記載の電極触媒の製造方法。
【請求項6】
前記触媒物質もしくは触媒物質前駆体中の触媒金属が白金またはその合金からなり、前記担体がカーボン担体からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の電極触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−259417(P2009−259417A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103841(P2008−103841)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】